あの話から一転。
ランスロットがパフェを食べ過ぎ『薔薇の観賞』と言う名の体を張った『トイレ籠城事件』をやらかしたお陰で、ふたりの間にあった少し重たい空気は
「大待ちとかありえねーし」
「ち、違う。薔薇の観賞だと言っただろう?」
「なら俺も誘ってくれよ」
「くっ! 陽二、その話は終わりだ。もう出るぞ」
そんな冗談が、するりと出るくらいのフラットな状態へ戻った2人は、手を繋ぐことなく王都より少し田舎の風景を見せる町中で、肩を並べて歩いていた。
流石に職人の町と周知されているだけあって、町を4つに分かつ大通りから脇道へ
そんな町並みを通り抜けた2人は、昨日も訪れた協会へとやって来た。協会は、大通りが交差する町の中心『土のダンジョン』に近い場所で居を構えている。
王都支部に比べると利用する冒険者の規模は桁違いである。なので、その建物も当然の如く大きく3階建てであった。
ここに用事があるのはランスロットだ。
昨日は、アスモデウスが一緒だったので、その用事を果たせなかったのである。
「別に、裏でこそこそする必要はないんだろう?」
「まあそうだが、私的な事だからな……」
建物の中に入った陽二は、周囲を見回した。
入ってすぐは広いエントランスになっていて、真正面の奥に依頼の受け付けなどをするカウンター、右手には買取専用のカウンターと依頼案内の掲示板が並んでいる。
左手はお酒もある食堂ホールになっていて、テーブルも広さも充実していた。
食堂やカウンター前、エントランスには革製のプロテクターを身に付けた冒険者らしき者たちがおおぜい居て、活気に溢れている。男女半々くらいで、性別の差はあまりないようだ。
陽二は、ある一角に集まっている集団に目を向けた。その者たちは交渉中らしく、その声は彼の耳にまで届いた。
―― へぇ。運び屋って職業もあるのか
通常、収納スペースは大きくても自分の体積ほどしかない。しかし『運び屋』として交渉している者たちは、体積の10倍以上の収納スペースを持っている。
なので『運び屋』を雇えば、より多くの獲物を一度に持ち運べる事になるため、短時間でより多く稼ぐ事に、つまり安全と経費の節減にも繋がるのだ。
そして『運び屋』と呼ばれているが、職業は立派な冒険者である。なので戦闘や魔法が一人前の運び屋は、単純に戦力の増加にも直結するので引っ張りだこだ。
そう考えると、パーティーに『運び屋枠』を作って囲い込みを画策する者も出てくる訳だが……残念ながら『運び屋』たちも、ソロで雇われた方が得だと分かっている。なので、余程いい条件でないとパーティー勧誘に乗る者はいない。
―― まあ、俺には関係ない事か
彼は大倉庫も持ってるし、ゼラガイオーを収納できるほどの腕輪には無尽蔵のスペースがある。なので『運び屋』のお世話になる事はないだろう。
そんな人垣を観察しながらランスロットの後を歩いていると、彼女は冒険者らしくない美しい容姿と服装で目立っていたのもあり、ナンパ目的の冒険者たちに群がられていた。
「どけっ、邪魔だ」
そんな彼女のひと言で、カウンターまでの道程がふたつに割れた。
―― すげーな。モーゼかよ
そして、じろじろと好奇の目が集まる中を堂々と進んだランスロットは、買取専用のカウンターに『これでもか!』という量の武器と素材を積み上げた。
これは、桜が目覚めるまでに集めていたゴブリンたちの装備品であり、カウンターに乗りきらず足元にまで溢れていた。
「良い物ばかりを厳選してきた。買取りを頼もう」
「は、はいっ! 査定いたしますので、少々お待ちくださいませ」
その量に驚き、カウンターの女性職員がドン引きしていた。
しかし流石はその道のプロである。応援を呼び、ランスロットが持ち込んだ品物を全て中に運び入れると、てきぱきと査定を始めた。
その光景を物珍しそうに見ていた陽二に、彼女は耳打ちした。
「どうだ陽二。すごいだろう? 桜が倒したゴブリンの装備品を拾ってきたのだ。まあ、魔石と一部の品は没収されてしまったがな」
所謂、火事場泥棒と言うやつである。
しかし、桜が倒した部分を隠す事もせず彼に話せるあたり……この世界では、当たり前の行為なのだろう。わざわざ落とし物として警察に届ける義務などないのだ。
それに、討伐した桜も知っているし一部は没収済み。なので、拾ってくれた分の報酬と考えればいいのだ。
「しっかし、すげー量だなぁ。買い取り額は、いくらになるんだろうな?」
彼には、この世界の物の価値はよく分からない。しかしそれでも協会に至る道中で見た、店先で見えていた武器の値段を考えると……期待が持てるのではないか? と、少しわくわくしていた。
「ふっ。私の見立てでは、金貨5枚はかたいな!」
「おっ、大きく出たな!」
と2人で話しながら査定を見守ること数十分。
「査定が終了しました! 買取りの金額ですが――」
待ってましたこの瞬間! と言わんばかりの表情をする彼は
……「銀貨、2枚です」との声に耳を疑った。
その隣では、くらっと、買取カウンターの前で彼女が膝から崩れ落ちた。
その姿を見た女性職員は申し訳なさそうな表情をしていたが、陽二たちの後ろ、盗み聞きをしていた冒険者たちから大爆笑が巻き起こった。
『どけ、邪魔だ』とか『それだけ持ち込んで、銀貨2枚って(笑)』と明らかに
誰ひとり、大量の品物を
「ぐふっ! う、内訳を聞いても構わないだろうか?」
外野の煽り声など聞こえない。
彼女は今、息も絶えだえに、それでも死地に降り立とうとしていた。
―― ランス、おまえって奴は……骨は拾ってやる! 盛大に散って納得してこい!
そこへ、詳細な査定結果を記した紙を持つ違う女性職員が現れ、お仕事♪お仕事♪。そんな感じで、明朗に説明を始めた。
「まず魔物の素材なのですが ―― 未確認魔物のため、金額をお付けする事はできません。ですが、一部を調査資料として銀貨5枚で引き取らせていただきます。そして新種と認定され、その素材が有用と判明した場合には、それに準じた金額をお支払いできるのですが………認定する前に腐っちゃいますよね!」
―― ちょっと君! ひと言多くない?
「ぐふっ。な、ならば銀貨5枚で構わない!」
「次に武器なのですが ―― どこの廃棄場から拾ってきたのか分かりませんが、状態が非常に悪いです。また、素材も粗悪で再利用するのに大きな手間がかかってしまいます。
とは言え折角持ち込み頂きましたので、査定費用は大負けに負けて無料。ただし処分費用として銀貨3枚をいただきます。なので、残りは銀貨2枚になりました。よろしいでしょうか?」
女性職員は、ニコッとスマイルを彼女へ向けた。スマイルはタダなのだ。
「わざわざ持って来たのにお金を取られるのか……」
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
コントのような仕打ちと自分の目の節穴さに、HPをごりごりと削られた彼女は、
つまり、大量に持ち込んだのがアダとなってしまったのだ。
そんな彼女に、慰めの声をかけた彼の耳に
「買取りに出して、金を取られるってぇどんな間抜けだよ!」
「どけ、邪魔だ。金を払いに来た! ってか?」
「「「ギャッハハハハ!!」」」
と聞こえてきたのだ。
これには流石の彼も黙っていられない。「あん?」と振り向けば、背後には体の作りが全く違う屈強な冒険者たちが居た。
正直なところ
―― うっ
と尻ごみ、ビビってしまった。だが、男には立たねばならない時がある。今でしょ! 自分に発破をかけるように声を張り上げた。
「おい、ゴルァ! 俺がおとなしいからって、あんまり調子にのってんじゃねーぞ! 奥歯に手ぇ突っ込んでガタガタいわしたろうか! ああん?」
しかしながら、見た目はまだ少年の域を出ない彼が
その燃料が、引火して大爆発する寸前だった。
「近頃のガキは、冗談も通じないノータリンなのか?」
と、1人の冒険者が彼の前に歩み出た。
「あれが冗談って言うなら、ヘソで茶が湧かせるんだよ!」
正直彼は怖くて仕方なかった。しかし引けない。引く訳にはいかないのだ。精一杯の強がりを言って
ギロッ!
冒険者に
それを必死に堪え、ガンを飛ばし返した。
だがそれは、5秒にも満たなかった。彼は冒険者の眼力に耐えきれず、無意識に逸らしてしまったのだ
その刹那、バシッと鼻っ柱に、強烈な痛みと抜けるにおいに鉄の味。一瞬で世界が反転した。
「ガキが、いっちょ前の口を叩いてんじゃねえ!」
この冒険者からしたら教育だった。
相手の力量も分からず突っかかっるのは、命知らずの馬鹿である。そんな奴は、すぐに死んでしまう。
それを分からせるための一発だ。
教育的指導をするため、あえて悪役を買って出たのだ。
これで丸く収まる。あとは笑い話になる日常的な光景だ、誰もがそう思った。
「私の陽二に、何をする……」
女性職員からしこたまダメージを受け、
人生初であろうそのシチュエーションに、喜び感動して酔いしれていた。
普通ならば怒り心頭。この場にいる冒険者たちを相手に、大立ち回りをするであろう場面だ。
だが、流石にゼラニオンメンバーの1人である。普通じゃない、どこかがおかしかった。
彼女の心に、一切の怒りはなかったのだ。
「陽二、立て! 私の心は、喜びで満ちあふれている。もっとだ! おまえならやれる」
「ふっふっふ言われるまでもない。俺のハートは今、猛烈に熱血してるゼェ!」
彼もまた、自分に酔っていた。
女を守るために戦う俺カッケーである。
涙と鼻血をダラダラと垂らしていたが、一発殴られた事によって、体の震えも止まり気持ちも固まった。
ザッ!
彼は素早く立ち上がると、右足を前にサウスポーの形に構えた。
―― 一発食らって分かったけど、攻撃は熊やランスほど速くない。やれる!
「たくぅガキが……根性は認めてやるが、こっちの都合も考えてくれ」
「なんの都合だよ。今の俺は、無敵だゼェ!」
有無も言わさぬ先制攻撃だ。
彼はスッと前に出ると、垂らしていた右拳をフリッカージャブのように、裏拳で冒険者の顎に叩き込んだ。
冒険者にしてみれば、死角からの攻撃。見えるはずもない。がしかし、フッと軽いスウェーでかわされた。
―― なっ?
ならばと、右に回り込みながら円を描くように、冒険者の周囲を動きながら同じ攻撃を繰り返すが、彼の攻撃はかする事もなかった。
―― な、何で当たらない!?
ならばと、回り込むステップを利用しての死角からの回し蹴りを放ったが、あっさり避けられると、そのままタックルで吹っ飛ばされた。
ガシッ!
「男を見せろよ! ほれっ」
吹っ飛ばされた彼は、地面に叩きつけられる衝撃を覚悟していた。しかしそれは訪れず、空中で柔らかく支えられたと思ったら地面に下ろされた。すぐに背中を押され冒険者の前に戻されたが。
―― えっ、なに?
いつの間にか冒険者たちは、輪のように彼と相手の冒険者を囲んでいた。それはさながら特設リングの様なスペースになっていたのだ。
その中には彼女も、ランスロットも居た。彼女は腕を組み、ウンウンと頷きながら観戦者を気取っていた。
その彼女は、悪口を言ったであろう冒険者たちに話しかけられていた。
「済まんな姉ちゃん。さっきは俺たちも言いすぎた。ここでは、いつもあんな感じで
「気になどしていない。その程度、私にだって分かっている」
―― えっ、何ですと? じゃあ俺の振り上げたこの拳は、どこに下ろせばいいんだ? まるっきり、世間知らずのピエロじゃんよ
そんな気落ちする彼に、声援が飛んだ。
「陽二がんばれ。応援しているぞ!」
「兄ちゃん。彼女が応援しているぞ、いいとこ見せろよ!」
隣の冒険者が大声で叫ぶと、それを耳にした彼女はうつむき、ニマニマとしながら何かをつぶやいていた。
「か、彼女……彼女……」
と、その声援で彼は気付いた。
先程までの殺伐とした雰囲気が、お祭り騒ぎに変わっているではないか、と。
強いて言うなら、本日のメインイベントは、陽二VS冒険者のタイトルマッチだ。
カーン!
とゴングの音が鳴り響いた。
すると、いつの間にやらレフリーをかって出た男性職員が現れ、陽二と冒険者を両コーナーに下がらせた。
―― どうしてイスが用意されている!?
そのままイスに座らされられた彼は、初対面の男に
そのまま鼻血の処理をされ、傷薬を塗りつけられると、その男は満を持して口を開いた。
「いいかジョー、ジャブだ! 冒険者のためにその1だ」
男は陽二の目の前で、シュッシュッとジャブのマネをした。
「誰がジョーだよ。俺は陽二だ!」
「陽二、基本を思い出せ! 魔技のステップだ」
すると突然後ろにランスロットが現れ、そう耳打ちしてきたのだ。
「もう止めてもいいだろ。これって戦わないと駄目なのか?」
すかさずランスロットに小声で伝えると、傷の手当てをしてくれた男にも聞こえたのか
「バカ野郎。俺は、おまえに銀貨1枚賭けてんだぜ。あと
「でっけえお世話、押し売りだよ!」
ランスロットは『こうきたら、こうだ』と熱弁をふるい。
勝手にトレーナーになった男は薬代をせがみ、彼に賭けたから、がんばれと送り出したのだ。
釈然としない彼は、しぶしぶ中央で待つ冒険者の前まで行く。両者の間に立つレフリー役の男性職員に言われるまま両拳を合わせると、その男性職員が大声で宣言した。
「ファイナルラウンドです。どちらかが倒れるまで終わりません」
―― まさかの
「なんか余計な事をしたみたいで済まねえな。だが、俺にも金がかかってるし、まぁ、手加減してやるから頃合いをみて倒れろ」
「降参か、棄権とかできませんか?」
小声で冒険者が言ってきたので、陽二は訊いてみた。だって、戦う意味はないんだもの。
「おまえ……ここまで盛り上がって降参とか、どうなるか分からんぞ? 止めておけ。それに、冒険者ってのは顔で商売してんだ。なら、これはチャンスだと思って顔を売っとけ」
―― 売っとけって……やるしかないのか。
既に、彼の気持ちはクールダウンされており、アドレナリンも尽きていた。それでも男は、戦場に立たねばならない時がある。
そう自分に言い聞かせて納得するしかなかったのだ。
カーン!
「かかってこい!」
「い、いきます!!」
・
・
・
・
カンカンカン!
△△
どれくらいの時間が経過したのだろうか。
彼は目を覚ますと、頬に伝わってくる温かくて柔らかい感触に迎えられた。
―― んっ? なんだこれ?
すりすり。
「陽二、気が付いたか?」
彼は無我夢中だったのでほとんど覚えていないが、健闘むなしく完膚なきまでにやられたのだ。しかし、冒険者たちのガス抜きに貢献した彼の役割は高く、エンターテイメントとしては大成功だった。
それと冒険者たちからのカンパで、彼の怪我は完全に治療されており、ランスロットの膝枕効果によって、体調も万全な状態になっていた。
「ああ、負けちゃったのか」
「負けてしまったが、かっこよかった。頑張ったな」
慈愛を込めて伝える労いの言葉。と同時に彼女は、その柔らかな手で彼の頭を優しく
「おっ! 目を覚ましたか。陽二、おまえなかなかやるな、皆も褒めてたぜ」
声をかけてきたのは対戦相手の冒険者で、陽二が目を覚ますまで待っててくれたのだ。
その声を切っ掛けとして周囲を目で見回すと、ランスロットを中心にして全員がエントランスに座り込んでいた。
「あのパンチはよかったなあ」
「あのかわし方もよかったぞ?」
「蹴りもなかなかのものだった!」
「あれだけ殴られて、よく何度も立ったな」
「姉ちゃん、いい彼氏をもったなぁ」
そんなわいわいと盛り上がる声が、彼の耳にも届いた。
それに混ざって、ランスロットも『私の陽二は凄いのだ!』と対応していた。
「まあ、こんな感じだ。あまり気を悪くしないでくれよ。じゃあ俺は帰るけど、おごらせてくれ。話は通してあるから、そこで好きなだけ食べて行け、な」
と奥にある食堂を
―― なんか、よく分からないけど、カッコいいな。
彼は意味が分からず、ボーと冒険者の背中を見送っていた。彼は、冒険者の仲間として認められたのだ。
「せっかくだ、甘えて食べていくとしよう」
「ああ」
食堂へ歩きながら
―― あの人の名前を聞くの忘れたな。また会えるかな
と考えていると、見覚えのある男が現れ手を出してきた。
「損しちまったが、面白かったぜ。ジョー!」
「だから誰がジョーやねん。それより、さっきの人の名前、知ってます?」
収納スペースから、軟膏代と心付けのつもりで銀貨1枚を手渡した。
「おまえ分かってるじゃねーか、ジョー。あそこの一番上の名前だ。じゃあな」
ひらひらと手を振り、去っていく男に言われた場所を見た。
そこには月間買取りベスト10と銘打ったタイトルが書かれており、一番上にパーティーの名前とリーダーの名前が書いてあった。
―― ハンサムさんか……って、買い取りポイント400!?
1ポイントは、銀貨1枚。
当然これは買い取りだけの金額であり、他の依頼料や報奨金は別にある。つまりハンサムのパーティーは、日本円に換算すると月に400万円以上も稼いでいるのだ。
これは税金を引かれた後の金額なので、年の手取りが4800万円以上である。パーティーなので、1人頭の金額は減るだろうが……
「すごい人だったんだ……」
なにげなく掲示板を見ると、常時募集の欄に『オーブタ1頭、銀貨5~10』と書いてあった。
―― 400ポイントって、オーブタ何頭狩ってんねん。
当然、オーブタだけを狩っている訳ではないのであしからず。
△△
昼食をご馳走になって協会をあとにした2人は、すぐ近くにあった脇道の服屋へ入った。
あのイザコザで、陽二の服が1着ダメになったからだ。
どうせ安物だ、別に気にすんなよ。と言っても
「私のために戦ってくれたのだ。プレゼントさせて欲しい」
とランスロットが言うので、彼女の見立てで1着だけ買ってもらう事になったのだ。プレゼントされた服は、襟が大きく胸元をはだけて着込むオシャレな青いシャツだった。
あちらに住んでいた時の陽二は、茶色や黒など、無難な色のシャツやTシャツばかりを選んで着ていた。
服のセンスは全くなく、無頓着だった。そのため、嫁と出かける際には必ずと言っていいほどダメ出しを受け、彼女が用意した服に着替えさせられていたのだ。
そんな理由もあり、派手な気がして少し恥ずかしかったものの、ランスロットから『似合うぞ』と一緒に選んでプレゼントされた服は嬉しかった。
それとは別に、Tシャツや薄いズボン。特に無地の白いTシャツが安かったので大量に購入した。
「ありがとう。大切にするよ」
プレゼントされた服に着替えて外に出た。胸元は控え目に、だ。
そのままの流れで、陽二とランスロットはスノームの町を散策していた。予定では、魔王のダンジョンの案内も含まれていたのだが、それを忘れていた2人は、ただのデートみたいに楽しんでいた。
とある雑貨屋の前。
彼女は、飾られているショーウインドウを見て立ち止まった。
―― なんか興味ある物でもあんのか?
彼女の目線を追って、確かめた。
―― 銅像か?
素材は分からないが、質感的に金属だろう。と彼は推測。それよりも、その像の姿が、ランスロットの
相違点は、おでこの部分にあるユニコーンのような角と、背中の部分にあるペガサスのような翼。それがなければ、全く同じと言っても過言ではなかった。
「私はこの像が欲しくてな、以前からお金を貯めていたのだ。しかし先日、物を壊して弁償するハメになってしまって……」
彼女は像を見つめていたが、その目はどこか、遥か遠くを見ているようだった。
「こんな物が欲しいのか?」
「この像……元々は、私の家にあったのだ。幼い頃、私の不注意で他人の物を壊してしまった事があってな、その弁償のため母はこの像を売ったのだ。銀貨5枚だったそうだ。その後、見つけた私が買い戻そうとしたのだが……金貨3枚と言われてな」
「それで、お金を貯めているのか」
「そうだ、念のため予約もしている。店主に聞いた話によると全く売れないらしくて、店を転々としていたようだがな。偶然ここで見付けた時、絶対買いに来るからと予約したのだ。そしたらどうだ、金貨4枚に値が上がってしまってな」
―― そんな事を下手に言えば、値をつり上げられる可能性もあるだろうよ。全く要領の悪いやつだよ。
「桜かアスモさんに言えば、金くらい貸してくれるんだろう?」
「この像は、私が、私の力で取り返さないと意味がないのだ」
―― 何言ってんだか、全く……まあ、分からないでもないな。
「わかった。俺も力になろう」
「いや、だからな。私1人の力で取り戻さないと、駄目なのだ」
「俺が手伝いたいんだよ。それに、儲けを折半にすれば同じ事だろう?」
「陽二……。ありがとう、力を貸してくれ」
ランスロットは陽二の手を両手で掴むと、嬉しそうにほほ笑んだのだ。
△△
手っ取り早くダンジョンで稼ごう。
と考えた2人は土のダンジョンへ向かうも、2人とも冒険者見習い中だった為、門前払いを食らってしまった。
陽二はレベル0。そしてランスロットはレベル5だった。
「魔王の『初心者/練習ダンジョン』でレベルを上げるぞ」
と言うことで早速、魔王のダンジョンへ向かうことにした。
しかしその時、唯からの通信。
「すぐに来るのじゃ!」
有無も言わせぬ、唯お姉さまからのご命令だった。逆らえるはずもなく、渋々と彼女の元へ転移。
―― 川か、どこだよここ
そこは王都の北にある川、その川縁にある大きな広場だった。
日頃は家族連れが集まり、川で遊んだりバーベキューなどを楽しむ憩いの場所である。現在は立ち入り禁止になっており、パトリックとハズキの特訓場になっていた。
「呼び出してすまぬの」
あいも変わらぬ深紅の瞳に出迎えられた陽二は、早速呼び出された事情を問いただした。
少し離れた場所に、まるで
―― リックとハヅキさんだよな……。そう言えば特訓中だったっけ? 生きてるとは思うけど、巻き込まれないようにスルーしよう。
「実は、ナーナの事じゃ。パトリシアが、王妃に甘えっぱなしになってしもうてのう。ほれ、ナーナの姿はパトリシアと王妃にしか見えぬじゃろう? じゃから退屈だと抜かしおって、
―― なるほど、そういう訳か。そう言えば、最初の出会い以降ナーナとは触れ合ってないな……
「ナーナ。俺たちダンジョンに行くんだけど、一緒に行く?」
ナーナは嬉しいのか、ピョンピョンと尻尾で跳ねだした。陽二は、出会った頃にも思ったけど、足払いで簡単にこけそうだな。としょーもない事を思った。
「ナーナ、ナーナ!」
「くっ仕方ない。せっかくのデートの邪魔をするのだ、ナーナもしっかり働くのだぞ?」
少し不満はあるが、ナーナの嬉しそうな姿を見てしまっては、ランスロットも無下にはできない。
「じゃあスノームに戻ろうか。って、ナーナはどうやって連れて行けばいいんだ?」
唯が使っているゼラピンクの腕輪は、桜と連絡を取り合わなければならず、借りる事はできないのだ。
「じゃあ走るか」
朝練のランニングコースを短時間で走れる体力を身に付けた今の陽二なら、スノームまで走るのも容易い。変身してしまえば、ものの数十分で到着できるだろう。
と、彼は思い出した事があったので、唯に訊いてみた。
「唯さん。セナが
「ふむ。今はゴブリンの件が先じゃのう。陽二、セナには済まぬと伝えておくのじゃ」
唯は、申し訳なさそうに告げるが
「今、中に入って言えばいいじゃないですか」
彼の言い分は尤もである。
がしかし、箪笥の中に入って闇の聖霊セナドゥースと会ってしまえば、お互いに話したい事が出て来て時間を取られてしまうのも明白なのだ。
―― そう言えば、あれからセナに呼ばれてないな。よし、報告ついでに今日の夜行ってみるか。
「陽二、妾も忙しいのじゃ。さっさと行け」
「じゃあ帰ります。セナには、ちゃんと伝えておきますから」
倒れている2人にも声をかけた陽二は、ランスロットとナーナとともにスノームへ向けて出発したのだ。
少し走って人目のない場所を見付けると、ゼラブラックへと変身。腕輪を調整した事によって、
当然ながら、アスモデウスは桜に相談して調整作業を依頼しているので、桜も周知の事実。と言う事で、玉の魔力を大量に消費する変身の乱発は控えよ。と伝言を受けてはいるが……今回のような場合なら、多分彼女も許してくれるだろう。
「ああっとランス。帰る前にシアの様子を見に行ってもいいか?」
大丈夫だと思っているが、数年ぶりに帰って来た事になる王妃マナリシアがどう受け入れられたのか。それにナーナを連れて行く事を伝えておかなくては、パトリシアが心配するだろう。
少しだけ遠回りになるが、行っておくべきだと彼は考えた。
この格好は目立つので、なるべく人目を避けるように王宮へ向かった。
「陽二、いたぞ」
王宮の入口近くに生えていた木の枝の上で、隠れて変身を解こうかとしている時に、ランスロットがパトリシアを見つけた。
パトリシアは、王妃と2人で花壇の前に座っていた。
彼はつい先日、パトリシアと2人で苗と種を植えたのを思い出した。そんなパトリシアは見た事もない笑顔で、身ぶり手ぶりを交えながら王妃に話しかけていた。
そこへ王ダグリオスがやって来た。どうやらダグリオスも仲間に入りたいようだ。
しかしパトリシアは両手を広げて、父であるダグリオスを通さない。右に動いても左に動いても、ことごとくパトリシアにブロックされていた。
鉄壁のディフェンスだ!
しまいには、パトリシアに何かを言われながら両手で後ろに押されいるではないか。
そんな娘を見ている王妃は、クスクスとほほ笑んでいた。
―― 何やってんのシア。ダグも仲間に入れてあげよーよ。まあ……
「邪魔しちゃ悪いな。ナーナの事はあとから唯さんに伝えてもらおうか」
陽二は、ナーナの頭を
それを見た彼は思った。
―― なるほど。ナーナは、母娘の邪魔をしないように気を使って、唯さんにまとわり付いていたのか
頭を
「よし、出発だ!」
「ああ」
「ナーナ!」
3人は、人の目を避けるように街道を外れた森を駆け抜けた。
その道中、鹿やウサギなどの動物を確認。
ただ彼は、この世界に来てから空を飛ぶ鳥を1度たりとも見ていなかった。
それをランスロットに尋ねると、地を駆ける鳥は存在するが、空を飛ぶ鳥はこの周辺に存在しない。と説明を受けた。
△△
スノームは、別名鉱山都市と呼ばれているだけあって、町の周囲には資源豊かな鉱山が多い。そのため鉱石の採掘と、武器や道具の製造が主な産業の町だ。
たどり着くまでの道も起伏が激しく、険しいのが特徴だ。街道以外の道では、たどり着くのも困難を極める。
しかし変身した陽二や、元々身体能力の高いランスロット及び、火の精霊であるナーナにかかっては、苦もない。
町の入り口付近まで到着した陽二は、変身を解いた。もう、おパンティー1枚の変態さんにはならない。私服を設定済みなのだ。
だが、今から行くのはダンジョンである。新人/練習用ダンジョンだからと言って舐める訳にもいくまい。
彼は桜から新たに支給された、魔物の素材で作られた軽くて丈夫な戦闘装備を呼び出すと『換装』した。この『換装』は、おもちゃの腕輪でもできる『変身みたいなもの』である。
この便利な『換装』のせいで、冒険者などの大人がおもちゃの腕輪を買い占め問題となったのだ。
さて話を戻して、彼が支給された武具を見てみよう。
ジェットヘルっぽい頭の防具に、胸や背中など体の胴体にあてがう防具と、肘・膝当て、グローブに
ほぼ完全装備。それでも全部合わせれば10kg以上ある。なのに彼は、ちょっと重ね着しちゃた。そんな感覚であった。
これには訳があるのだが、それを知るのは後日だ。
「おまえ、その服装のまま入るのか?」
「今日はデートだからな」
新人/練習用ダンジョンを舐めてる訳ではないが、今日と言う記念日は今日しかないのだ。
―― 言っても無駄か……
ナーナはともかく、ランスロットの実力を、言葉通り肌で知ってる彼でも心配せずにはいられなかった。
△△
魔王のダンジョンの入口は、町の正面入口から右奥の方向にある。見習いの登竜門として有名であり、連日、その前には店が立ち並び、新人の初々しい冒険者で溢れている。その反面、思い通りに事が運ばず、もがき苦しむ者の多い場所でもある。
新人/練習用ダンジョンは、魔王のダンジョンの1~19階部分になる。とは言え、その下階へ行く道はなく、本当の意味での魔王のダンジョンへ入る場所は秘匿されている。
さて、陽二は王都の協会で教わっているが、ここには各町から冒険者の見習いが集まってくる。しかし『初心者/練習用ダンジョン』と
初めて訪れた陽二は、説明を受けていた。
―――――――――――
入場料は、銅貨5枚。(見えないナーナは、当然無料)
ダンジョンの中で死亡すると、ある程度の時間経過で外の強制排出場に出される。本当に死ぬ事はないが、それ相応の痛み苦しみ、精神的ダメージは受ける。
再入場には、その都度入場料が発生する。
排出されるまでの時間なら、仲間に専用
本人が持参している場合は、自動で使用される。
ダンジョン専用回復薬は、1~5枚
専用魔力回復薬は、3~10枚
脱出用アイテムは、20枚
専用蘇生薬は、25枚
枚数は銅貨の数。金額で回復効果が異なる。
1~5階の広さは結界路内の面積の半分ほど。迷路ではなく、だだっ広い空間になる。
魔物は魔石を持たず、倒すと確率でアイテムをドロップ。
ドロップ品にはグレードがあり。N(ノーマル)、R(レア)、SR(エスレア)の3種類。
レア毎にドロップ率があり、下の階ほど高レアが出やすい。
地下5階までに出現する魔物は、スライムとオーブタの2種類。しかしスライムは、無属性と各属性の魔法を使うスライムが現れるため、実質6種類。
オーブタは50cm程度の小さな個体のみ。
地下6階以降では、各町にあるダンジョンの魔物が現れる。
魔物は1階下りる毎に2割強化され、同時に出現する数も+1される。フィールド内の魔物数は常に一定で、動き回っているため、待ち伏せも有効。
地下5階以降は、地下5階の設定が適用される。
―――――――――――
ナーナの姿は受付の人には見えない。見えなければ払う必要はない。なので陽二は2人分の入場料と、脱出用のアイテム+蘇生薬2個のお金を支払った。
そのあと、ランスロットとナーナで3人パーティーを組むと、ダンジョンに入った。
「ドロップは期待しなくていいから、ガンガン倒してレベルを上げよう。そして土のダンジョンでオーブタ狩りだ!」
「分かった!」
「ナーナ!」
地下1階は、ドロップ率も経験値も悪い。そう考えた彼は、さっさと次の階に下りる場所を探しながら魔物を討伐していた。
なにせ広大なダンジョンなので、スピード&効率重視だ。
先頭を走るツートップの片翼ナーナの攻撃方法のひとつが、ブラックウルフの頭を一撃で
ファイヤーテイルはその名の通り、火の力を尻尾に集める事によって焼き切る技だ。魔力をほぼ回復したナーナにとって、非常にコストパフォーマンスの高い技である。
また、尻尾の筋肉は強くしなやかなので、火の力に頼らずともそれ自体の威力は実は高い。
水属性以外のスライムは、ファイヤーテイルでほぼ真っぷたつだ。なので、水以外のスライムは優先的にナーナに任せ経験値を稼がせていた。
(実は戦闘に参加していれば、経験値はパーティー全員に入る。彼は理解していない)
さらにナーナは、ファイヤーテイル以外でもその才能を発揮し、陽二のお友だち『火の粒』と『レベル2の火魔法』で、火の精霊たるその実力を見せつけてくれたのだ。
そのナーナの反対側。もう片翼を務めるのはランスロットだ。彼女は
(ヒーロータイムの力がないので、見た目は普通の両手剣。具現化武器の強化は、調整した腕輪でも無理)
さて、スライム以外の魔物と言えばオーブタである。小型ではあるが、その突進力を生かした体当りと、野生オーブタとは違う肉食性は脅威である。
とは言え、見つけた瞬間には両翼の先制攻撃で脚を潰し、3人でフルボッコにしていた。
△△
陽二はナーナの後ろ姿を見ながら、以前セナドゥースに言われた事を思い返していた。
彼女いわく。ナーナは進化する可能性があるので、精霊契約を結んだ方がいいと言われていた。精霊の進化には、経験と契約者との信頼関係が必要不可欠なのだそうだ。
なのでダンジョンに入る前
「俺と契約しない?」
「ナーナ!」
そんな簡単あっさりと、契約を交わしていたのだ。
―― まあ、契約した初日に進化はないわな
当分の間ナーナの進化を考える必要はないと、ドロップ品に目を向けるため、走りながらも器用に大倉庫を『一括管理』で操作。
オーブタは、高い確率でドロップしてくれた。
銅貨1枚相当のバラ肉。銅貨5枚相当のブロック肉。
銅貨10枚相当の骨付き肉など
買取り額はそこまで高くないので、自分たちの食料にした方が吉。と考えた彼は、数を計算するのを止めた。
1階は低い草しか障害はなく、ほどなくして2階に下りる階段を発見した。1階のドロップ成果は、緑草20と緑茸が5。
陽二もランスロットもレベルは上がらなかった。ナーナにも聞いてみると、火の精霊レベル7とのこと。
2階は2メートルほどの木も現れ、視界が若干悪くなる。魔物も強くなり、同時に出現する数も2体になる。
魔物の種類もドロップ品も同じだが、ドロップ率が上がりSRの銀貨1枚をドロップするようになる。
確率は相当低いのか、銀貨のぎの字もドロップしなかった。
ナーナもランスロットもまだ一撃で倒せたが、陽二がスライムの魔法で被弾する確率が増えてきた。
ここでも下りる場所を探しながら、スピード重視。
この階で、ランスロットがレベル6へ、陽二が2に、ナーナが8に上がった。ドロップ成果は、緑草が30、緑茸が5。
3階は足元の草木が少なくなり、その代わりに高い木々が生い茂る様になった。視界は良い。
魔物がまた強くなり、同時に3体出現するようになった。
この階は、見習いパーティーだと高確率で全滅する可能性が高く、隠れた位置からの魔法攻撃も増えるため注意が必要になる。
また、天然の罠も設置される。
流石のナーナでも一撃で倒せない事が増え、被弾する可能性が出てきた。
「この階でレベル上げをしながら、階段を探そっか。余裕が出来たら下りる感じで」
「私はまだまだ余裕だぞ?」
「ナーナ!」
「俺が
陽二でも、当たりが良ければ一撃で倒せる場面があるが、それよりも被弾する割合が高くなっていたのだ。
安全第一。スローダウンした陽二たちは、索敵に力を入れ、先制攻撃を受けないように行動を始めた。
―― ドロップ品は、回復薬とMP回復薬に調合しておくか。これなら使ってもいいし、買い取りに出してもいいしな。魔茸がドロップするこの階でうまく立ち回れるなら、ソコソコの稼ぎは叩き出せそうだな。
そうこうしているうちに運良く階段を発見。相談してから4階へ。
ドロップ成果、緑草70、緑茸33、魔茸3、銀貨1
ランスロットがレベル7へ、陽二が5へ、ナーナは9に
4階。
3階へ戻る階段の近くで、待ち伏せ作戦に切り替えていた。
ランスロットとレベルアップしたナーナが素早く対応してくれるので、そこまで苦労はしていなかった。
ランスロットは相も変わらず、ナーナも高い確率で一撃必殺に戻っていた。
陽二は、3階の途中から戦闘方法を工夫していた。
まず、今まで通りナーナとランスロットに迅速で行動してもらうのは変わらないが、陽二の実戦経験を積むべく最後の1体には手を出さないようにしてもらっていた。
オーブタは突進を繰り返し直線的なので、かわす際に足を攻撃して動きが鈍ったらとどめを刺す。
無属性のスライムは、動きが遅く体当たりがメインの攻撃なので、さほど問題にはならなかった。
各属性のスライムは、ニードル系の魔法を使ってくる。魔法を使う前には、体が光る予備動作があるので助かっていた。
意識外からの魔法は避けられないのは仕方ないとして、光った後の魔法はかわせるスピードが多く、避けて接近すれば普通のスライムより簡単に倒せるようになった。
そして到頭、ランスロットのレベルが10に到達。晴れて見習いが取れた。陽二は7、ナーナは9
3階と4階をつなぐ階段の途中で休憩をとる。階段は魔物も寄り付かない安全地帯なのだ。
「経験値さえ表示されれば、もっと楽なんだけどなあ」
「それは仕方がないだろう?」
話ながらも彼は、ドロップ品を回復薬へと調合。作ったばかりのMP回復薬をナーナに渡すも、首を振られた。
「MP大丈夫なの?」
「ナーナ!」
回復量も増えて、ほとんど減っていないとナーナは答えた。レベルが上がった事で、魔法の消費量も抑えられているようだ。
―― そう言えばセナが言ってたっけ。精霊は、周囲の微精霊や精霊の力を借りる事ができるって
実は、セナドゥースの『借りる』発言は、相当濁した言葉になる。その事実を彼が知るのは、セナドゥース本体が目を覚ました後の事になる。
△△
結局そのまま、彼のレベルが10になるまで4階で狩りを続けた。ランスロットは11に、ナーナも10になった。
脱出用アイテムで外に出ると(次回も同じ場所から始める事ができる)日は落ちて、周囲はすっかり暗くなっていた。
点々と灯る頼りない光と店から漏れる光の道には、まだまだ沢山の人々が活動していた。飲み食いの店からは喧騒が活気の歌を響かせ、逆に物売りの店では、物静かに今日の感謝と明日への準備支度が始まっていた。
「げっ。もう19時じゃん。結構長く入ってたんだな」
「桜もアスモも帰ってきてるだろうな。取りあえず屋敷へ戻るぞ」
ナーナがいるので転移は使えない。『秘密の通路』から魔王のダンジョンに入って本部に移動、地下200階へ直通の転移陣に乗って屋敷に戻った。
彼が初めて魔王のダンジョンを訪れた時は、ゼラニオン本部に直接転移したので知らないが、滅多に使われる事のない住人用のエレベーターみたいな装置がある。
ちなみに、このような装置(入口)は各町に数基配備されており、特別に許可を得た者たちによって、農産物や工芸品を直接卸す事にも使われている。
「明かりが付いてるな」
「やっぱりアスモも戻っているみたいだな」
「ただいまー!」
屋敷に入るとアスモデウスと唯、それと肩まで髪が伸びて、少しだけ成長したような気がした桜が待っていた。
(表)
中山 陽二
冒険者 レベル10
HP100
MP50
スキル
冒険術
(裏)
勇闘者 レベル9
魔技9級
HP118
MP2770
時属性
スキル
箪笥 時間 黄金指
ぶっちゃけ、ステータスは飾り程度なので、そこまで重視していなかったりしています。