※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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ナーナと桜とネックレス

 

 超常現象なのか、この世界では当たり前の事なのか。桜の髪の毛先が、肩に着くくらい伸びていた。

 

「なんだその頭は、カツラか?」

「今朝起きたらのう、伸びとったのぢゃ」

「一晩でそんなに髪が伸びるかよ。おまえはお菊人形か!?」

「お菊人形? そんな事より、他に気付かぬのか?」

 

 髪が伸びた事など、桜にとっては些細な出来事のようだ。お菊人形呼ばわりを、そんな事扱いで片付けた桜は『ほれ、もっと良く見てみよ』と、両腰に手を当てると背筋を伸ばすように胸を張った。

 

 ―― 何言ってんだこいつ? 髪が一番の変化だろうに……んん?

 

「もしかしてだけど……身長、少しおっきくなったか?」

 

 間違いなく目の錯覚だと思われるが、髪の毛が伸びた事で少し成長したように感じた陽二は、当てずっぽうだがそんな答えを導き出した。

 

 ニヤリ。

 その言葉に、桜はご満悦の様子だ。

 

「ぬっふっふ流石は陽二、気付いたかっ! このまま成長すれば、わらわがバインバインになるのも時間の問題ぢゃて。わーはっは、わーはっは!」

 

 実は今まで彼女は、真相は不明なものの、それ以外の要因が見当たらなく『箪笥』の影響で『成長速度が著しく遅くなっている』と考えられていた。そのため中身は大人、見た目は幼女と言うアンバランスな状態になっていたのだ。

 

 ―― そうだったのか。しかし残念ながら、それは望み薄だと思うぞ? 隣を見ろ、それがおまえの将来だ!

 

 ギロッ。

「なんじゃ?」

 唯は彼の不躾(ぶしつけ)な視線に気付き、軽い威嚇を向けた。

「な、何でもありません。娘さんの成長が麗(うるわ)しくて、なによりですねっ!」

「……まあ、よいじゃろう」

 

 ―― あっぶねー

 

 陽二、危機一髪!

 

 その横でアスモデウスは、ナーナの目線に腰を下ろして、話しかけようとしていた。ナーナの体長は1m程だが、尻尾を使って立っているので、実質の身長は60cmほどである。

 

「ナーナちゃん、いらっしゃい。話は聞いていますので、ゆっくりしていってくださいね」

「そうぢゃぞ、自分の家だと思って寛げばよい。ナーナの面倒は、陽二が見るのぢゃろう?」

「ナーナ!」

 

 言われたナーナは、桜たちにビシッと敬礼した。

 その敬礼が、彼女らに敬意を示したものなのか、陽二に面倒を任せた事に対してのお礼なのかは不明だが、ナーナの可愛らしい姿に庇護(ひご)欲を掻き立てられたのは、当然の摂理と言えよう。

 

「まあ、俺が連れてきたんだし当然だな」

「それでは、ランスちゃんと陽二くんも帰って来ましたので、お食事にしましょうか」

 

 リビングに入った彼は、目に映ったその光景に涙腺が崩壊寸前まで追いやられてしまった。

 瞬間的に脳裏(のうり)へ映し出された映像は、暗く冷たく寂しい、ひとりっきりの自分。会社帰りに購入したカップラーメンとお惣菜を、テレビを見ながら黙々と食べている姿だった。

 

 ―― あの頃はバラエティー番組の笑い声や、学生のはしゃぐ声が耳に残って苦手だったけど……

 

 パートナーの麗香(れいか)とふたりで1度は手にしたモノ。しかし、彼の人生では失われてしまったソレ。渇望(かつぼう)して止まなかったモノが、目の前にあった。

 

 ―― 今ならきっと、残ることはないだろうな……

 

「どうしたのだ?」

「ナーナ?」

「―― いや、なんでもない」

 

 ランスロットの問いかけにかぶりを振った彼は、ズピッと鼻を鳴らすと、テーブルの上に並べられた料理を見ながら

 ―― 誰かが帰りを待っててくれるって、いいな……

 と感慨深く思った。

 

 △△

 

 アスモデウスは、全員が席に着くのを待って

「では、いただきましょう」

 と声をかけた。

 

 ナーナは、彼の隣の席だ。

 立っても座ってもテーブルの高さが合わず、食べずらそうにしていたので、自分の膝の上に招いた。

「ナーナ!」

 訳すと『ちょうどいい、ありがとう』そんな感じだろうか。

 

 そんなナーナの頭をくしくしっと撫でた彼は、首もとに光るネックレスに目を移した。

 

 ナーナは、火の精霊だ。それと同時に、ナーガという種族でもある。つまりナーナは、ナーガの器を持った火の精霊だ。

 それとは別に、パトリックとハヅキが出会ったダンジョン。その中に出現したナーガは、人を襲う魔物に分類されている。

 しかし、あまり知られていないが、両者は基本的に同じである。

 それとは別に王都の北、カリンの出身地ソラマンにある火のダンジョンに現れるナーガは、ダンジョンが産み出す正真正銘の魔物であり、種族や姿・形は似ているものの、全く別の生き物になる。

 

 それはさておき。

 

 では、ナーナとナーガの両者で何が違うのか? と言う話に戻る訳だが……要は魔物化しているか、していないか、である。

 原因は、火の聖霊ソラマンの穢れ。詳しいメカニズムは不明だが、聖霊の穢れが同属性の精霊にも悪影響を及ぼしているのではないか。と考えられている。

 

 その解決策を考えついたのが、桜だ。

 王妃マナリシアの救助へ向かう道中、彼女はナーナを注意深く観察して、魔物に至る過程を予想した。

 その解決策として桜が用意したのが、今、彼が見ているネックレスだ。これが結界路と同じ役割を果たし、頭に集まろうとする魔石の欠片(仮定)を破壊する仕組みだ。

 

 ネックレスは、茶色の大きい宝石を挟むように青い玉が数珠のように連なり、ナーナに似合うかわいらしいデザインだ。

 リビングに入る前に桜から渡されたナーナは、キラキラした目で喜びその場で着けてもらったのである。

 

 彼は、視線を桜へと向けた。

 しかしその意味はネックレスとは全く関係はなく、背の低い幼女もテーブルの高さに、ナーナ同様に困っているのではないか? と考えての視線だったのだ。

 

 ―― なるほど。専用(小児用)のイスがあるんだ……

 

 △△

 

 ―― 楽しい団欒(だんらん)は、料理をおいしくする最高のスパイスだな。

 

 そんな事を考えていた陽二に、唯は告げる。

 

「そう言えば、パトリシアがナーナを探しておったのでのう、うぬが預かっておると説明はしておいた。―― じゃが心配するといかんのでな、今一度ナーナを連れて伝えに行くがよい」

 

 ―― さすが唯さん。できる女や!

「ありがとうございました。早速、明日行ってきます」

 

 そう返答した彼の脳裏に、屍(かばね)となったふたりの姿か浮かんだ

 

「リックたちは大丈夫なんですか?」

 

 あんな姿を見てしまった彼だ。ふたりの体を気遣い、それを唯に訊ねた。それなのに……

 

「パトリックは流石に勇者、期日までには問題なく仕上がるじゃろう。ハヅキもスジが良い。それに、母を救う明確な目的もあってか必死。あの頑張りには好感しかなく、ついつい力も入ってしまう。うむ、ふたりとも大丈夫じゃろう」

「そ、そうですか……」

 

 と、彼の意図とは違う唯の言葉に、曖昧な相槌しか打てなかった。また同時に、唯に認められたふたりを羨(うらや)ましく思ってしまった。

 彼はそんな気持ちを誤魔化すように、アスモデウスに目を向けた。

 

「アスモさん達はどうだったんですか? うまく行きました?」

「ええ、無事に終わりました。見分けられるジェームスくんの手を借りたのは正解でしたね」

 

 アスモデウスと桜は、ゴブリンの命令『人拐い』を受けてサラデインに来ていた『ハーフ』を捕まえに出向いていたのだ。

 先に現地入りしていたジェームスが張り切ってくれたお陰で、全ての『ハーフ』を捕縛したと考えても過言ではない。

 その数は7名にのぼり、先に保護された子どもを丁重に匿っている施設へ送置済みだ。兵士たちによって、詳しい情報が引き出されている頃だろう。

 

「じゃあ、ジェームスくんも王都に?」

「あやつは、サラデインの宿屋に泊まっておる。理由があるんぢゃろうが、宿屋の女子を見るなり泣き出して大変ぢゃったのう―― そのあと、ゴブリンとの事が終わるまで、サラデイン周辺の監視を続けると言い出したのでのう、許可したのぢゃ。ついでにキャロラインの面倒も、な」

 

 ―― 泣き出したって、一体何があった!?

 

 すると今度は「うーん」と考えていた彼に、アスモデウスが訊ねた。

 

「陽二くん。デートは楽しかったですか?」

「むむ? なんの事ぢゃ?」

 

 聞き慣れない単語に反応した桜は、口に放り込もうとしていた肉を、手首のスナップを使って『ピシュッ』と彼に放り投げた。

 

「あぶねぇ!」

 とっさに空皿で受け止めた彼は、そのままナーナの前に置く。それをナーナはパクッとひと口。ごっつぁんです!

「おまえなぁ、食べ物で遊ぶなよ」

 

 ―― まったく躾のなってない幼女だ。親の顔が見てみたいぜ!

 

 その親にバレないように、一瞬だけ目を動かした彼は

「デートじゃなくて、町を案内してもらっただけだよ。ダンジョンに入ってレベル上げもやったし、別に遊んでいた訳じゃないぞ」

 と弁明。すると、間髪いれずアスモデウスは訊ねた。

 

「昇級しました?」

「はい。いつの間にか9級になっていました」

「それはおめでとうございます。その調子で頑張ってくださいね」

 

 直弟子の昇級は、存外に嬉しいものだ。それはアスモデウスも例外ではなく、花のような笑みを見せた。

 

「はい。ありがとうございます!」 

「私も冒険者のレベルが上がったぞ、明日から土のダンジョンに入るのだ」

「そうだな。ガンガン稼ごうぜ!」

 

 ふたりは、パチンとハイタッチ。

「ナーナ!」

 それを見たナーナも、ホークをかかげてやる気まんまんだ。

 

「稼ぐとは? 何か欲しい物でもあるのか?」

 ちょっと置き去り気味にされた桜ちゃん、興味ありげに話へ参戦だ。

 

「ああ。ランスのなんだけど、むかし売却しちゃった像をな、買い戻すのさ」

「陽二、そこまで言わなくても」

「その像はいくらなのぢゃ? おっ。そう言えば、ランスにはハヅキに譲った刀の代金を渡さねばならぬのぢゃったな、ほれ」

 

 そう言った桜は、収納スペースから小袋を取り出すと、ランスロットへ投げ渡した。

 彼女の手の中に着地した小袋は『ジャラッジャラッ』と、金属音を弾けさせた。おもむろに中を確認した彼女は、驚きすぎて開いた口が塞がらないような顔をしながら彼にも見せた。

 

 ―― 金貨だと!? ひい、ふう、みい……

 

「そ、それも10枚!? おい、楽勝で買えるぞ」

 

 彼は、自分の事のように喜んだ。しかしその反面、ランスロットの表情は固い。

 

「気持ちは嬉しい。だが私は、自分の力で稼いだお金で……」

 

 袋を握りしめたその手は桜に返そうとしているのか、その姿には、心の葛藤が見てとれた。

 

 ―― ふむ。

 

「刀を拾ってきたのは、ランス、おまえぢゃ。そのまま売っておれば、金貨10枚はランスの手元に渡るはずぢゃったもの……少し寄り道して正しい道へ戻った。ただそれだけぢゃ」

 

 ―― 仕舞え(・・・)

 これ以上の言葉は不要である。強引に話の片をつけるのも優しさなのだ。桜は、身ぶりで最後のひと押し。

 そのやり取りを黙って見ていたアスモデウスも、向けられたランスロットの目に頷き、唯は満足そうに桜の頭を撫(な)でていた。

 

「貰っとけよ。どうせ魔石は取られてんだろう? だったら気にする必要はないって」

「そうだな……」

 

 ランスロットは、握りしめていた力を緩めると、自分の太ももの上に小袋を置き、そして

「助かる。ありがとう」

 と心からの感謝を述べたのだ。

 

 その後も夕食の時間は続いた。

 桜と唯が、ランスロットと彼を弄(いじ)って騒ぐと、その光景をアスモデウスがほほ笑みながら見守る。ナーナもそれを楽しみながら笑顔で食べまくる。

 そんな家族の団欒(だんらん)みたいな空間に、彼はほっこりしたのだった。

 

 △△

 

「ナーナ逃げないで。大丈夫、痛くしないから」

「ナーナ、ナーナ……」

 

 陽二とナーナは、ふたりっきりで気密性の高い部屋の中にいた。彼はぬるっとした液体を手に付けると、ナーナの首筋に手を這(は)わせた。

 

「ナーナ……」

 

 ナーナは身をよじり気持ち良さそうな声を出しながらも、頭の中ではどうやって逃げ出そうかと考えていた。

 

「駄目だよナーナ。我慢して」

 

 それを察した彼は、努めて優しく囁(ささやい)いた。

 その間にも彼の手は首筋から肩へ、ぬるっとした液で肩を蹂躙(じゅうりん)し終えると、脇の下に滑り込ませた手でナーナの脇を撫(な)で回した。

 

「ナーナ!!?」

 

 ビビッゾワゾワッと、初めての感覚に襲われ激しく抵抗するナーナであったが、腕をがっちり掴んだ彼は逃がしてくれそうもなかった。脇の下から侵略を続ける手は、あらわになっていた小高い丘に攻め入った。

 

「!? ナ、ナ……」

 

 ナーナは、小刻みに震えておとなしくならざるを得なかった。

 

「そうそう。おとなしくしていれば、痛くないからね」

 

 そう言う彼の手は、遠慮なく脇腹からヘソ周りへの侵略を果たし、舐め回すように蹂躙していった。そして、下半身に手が伸びようとしたその時

 

「声だけ聞いていると、ちょっとアレだな」

 

 カラカラと風呂場の戸を開けたランスロットが、呟(つぶや)いた。

 

「開けんなよ、馬鹿ンス。ナーナが逃げる」

 

 キラーン!

 扉の番人を仰せつかっていた彼女のミスを、泡怪人と化していたナーナは見逃さなかった。

 処女の如くチャンスを狙い、脱兎の如く脱出! 孫子の兵法を炸裂させたのだ。

 

「ば、馬鹿ンス!? 陽二、それが愛する者へ捧(ささ)げる言葉なのか……」

 

 少なからずショックを受けているような彼女であったが、その手には、しかと脱走犯がホールディングされていた。

 

「捧げないし、まだ愛してもいないから!」

 

 売り言葉に買い言葉とは少し違うが、彼はつい、ポロッと反論してしまった。建前上は、ただの仲間として接しているが、実際の気持ちは友だち以上恋人未満。もし独身だったら、あっけなく攻略されていただろう。

 

「まだ? そうかそうか。まだ愛してはいないけど、いずれ愛すると。そして、甘く愛に満ちた言葉を私に捧げるのだな? このツンデレめ。だが、男のツンデレの需要はないぞ? 面倒なだけだからな。だいたい難聴系主人公も無自覚主人公も、アレはもはや病気だ。さっさと診療所へ行った方が良いだろう。それでいつだ? いつ捧げてくれるのだ? 私は今でも……いや、むしろ今欲しい! さあ陽二よ! 青春の果実のような、そんな甘じょっぱい愛の言葉を私に捧げるのだ!」

 

 口早でまくし立てた彼女は、両手を広げ天井を見上げると目を閉じた。その隙に逃げだそうとしたナーナだったが、ひと足遅く彼に捕まり風呂場へと引き戻されてしまった。脱出失敗!

 

「久しぶりに出たな! どうせ、しょーもない事を言ってたんだろうけど、俺、まともに聞いてなかったから。あーそうそう、青春の果実? おまえの頭を医者に見てもらえっ!」

 

 彼はピシャリと戸を閉めながら、捨てゼリフを吐いた。

 

「ふむ、デレはまだまだか……」

 見当違いの事を呟くランスロットは、そのまま脱衣所を出て行ったのだった。

 

 戸をピシャリと締め切った彼は、スポンジ代わりの植物でナーナの尻尾を洗い出した。尻尾の鱗は人魚姫パールの鱗みたいに捲(めく)る事はできず、手触りはざらざらとしていた。また、うにうにと力強く動く筋肉の、固いのに柔らかいという不思議な感触に生物の神秘を感じていた。

 

 風呂場には、ボディーソープやシャンプー、リンスが数種類ずつ置いてあり、その日の気分や体調に合わせる事もできる。

 これらは全てアスモデウスが開発した物であり、ここ以外では流通していない。その効果は素晴らしく、お肌をすべすべに変えると同時に吸い付くようなしっとり感を与えるのだ。また、シャンプーなども驚くべき効果を誇っている。

 

 尻尾を洗い終えた彼は、ナーナの髪の毛を洗っていた。頭皮のマッサージは『黄金指』で至れり尽くせりと、高級セレブ御用達のサロンにも負けない極上級であった。

 

 気持ちいいのか諦めたのか、ナーナはされるがままになってしまった。洗い終わったナーナは、ぽけーとした顔で湯船の上をプカプカと漂流中である。

 それを横目に彼は、手早く頭と体を洗うと湯船へダイビング! 湯船は広く、大人が10人入って足を伸ばしても、余裕綽々で抱き締められるだけの懐の広さがあった。

 

「ナーナ……」

「うん、もう出よっか」

 

 ぐったりしたナーナをお姫さま抱っこして、脱衣所へ出た彼は、敷いたタオルの上に寝かせると頭から尻尾先までを拭いた。

 のぼせたのだろう。

 サッと体を拭いて着替えた彼は、桜から借りた丸首シャツをナーナに着せてリビングへ戻った。

 

 彼女たちは風呂に入る前と同様に、まだ話をしていた。

 女3人寄れば姦(かしま)しいと言われるが、女子が4人もいるものだからか姦しいを超えていた。

 なぜ近くで話しているのに、ボリュームが上がっていくのか? 女子の脳内では、おしゃべりを重ねると気持ちがよくなる物質が出るという……

 

 彼は、ナーナを横向きに抱っこしたままイスに座ると、その口にコップをあてがった。そして、コクコクと喉を潤したナーナの髪を乾かしながら、話に聞き耳を立てた。

 

 焼却された宿場町の宿屋、その再建。

 寄生虫が飼育されていた穴の再調査及び駆除。

 トパン跡地の慰霊碑。

 リヴァイアサンのダンジョンへの勝手口が誕生。

 

 ―― リヴァイアサンか

 

 レヴィアタンにも関係のある話題なので、彼は詳しく聞いた。

 かのダンジョンには、通常とは違う方法で入るらしく、すでに調査と話し合いは終えたようだ。明日にも第一陣が送り込まれ、作業が開始される。レヴィアタンが箪笥の外に出られるようになったら、面会は可能だろう。

 

 ―― 富士山に行くのか

 

 明日から桜とアスモデウス、そしてランスロットの3人は、フジヤマへ行く事が決まった。豊に約束した塔の修理である。3人は、資材の運搬や山頂周辺の魔物退治などを請け負うようだ。

 その他にも、簡易結界路の構築やライフラインの整備も請け負う。

 

 唯は、引き続きパトリックとハヅキの特訓だ。

 しかし、本日サラデインで捕まえた『ハーフ』から得られる情報次第では、森での調査・討伐・人族の保護が優先されるだろう。

 

 そして陽二は、アスモデウスから居残りを言い渡された。また、期限はないものの練習用ダンジョン地下5階の踏破を宿題として出され、銀の短剣を2本譲り受けた。

 この短剣は、リヴァイアサンのダンジョンで発見された物で、魔力との相性がとても良く『手動修復機能』も付いていたため、魔鋼鉄と魔銀を加えて修復したのだ。

 

 手動修復機能とは、材料と魔力を与えると修復する機能である。これで刃こぼれも怖くない。材料から考えても、優れた武器であると想像できる。

 

「ありがとうございます!」

「もし明日練習用ダンジョンに行くのでしたら、魔技とその短剣だけで頑張ってみてください。魔法は回復のみで、攻撃魔法は禁止です。変身は……本当に危ない場合のみにしましょう」

「はい!」

 

「それと、級が上がったので身体能力は0.8に落としましょう。あとは……異世界人(・・・・)の理解を進めてください」

「分かりました頑張ります。あっそうだ! なぁ桜」

 

「なんぢゃ? 風呂場で、ナーナにイタズラしていた陽二くん」

「んな事するかっ! 言っちゃなんだけど、俺から見たナーナはかわいい自分の子ども? みたいな感じだからな。完全に親目線。イタズラなんかしねーよ」

 

 その被害者疑惑を持たれたナーナは、彼の腕の中でうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。おねむ(・・・)の時間なのだろう。その姿を客観的に見れば、彼の言うとおり彼が父親に見えてくるから不思議なものだ。

 しかしながら、万が一があっては困るので、しっかりと釘は刺す。

 

「陽二、面倒を任されたからとゆうて、手を出すでないぞ? 妾にも一応、責任があるのでな」

 

 彼は納得のいかないような、信用していないの? そんな顔で渋々と頷いて見せた。

 

「それで陽二。用件はなんぢゃ?」

「ゼラ・シルバーの腕輪が余ってるんだろう? 色々と不便でさあ、ナーナに貸してくれない?」

 

「なんぢゃそんな事か。ふむ、陽二よ。ナーナに渡したそのネックレスぢゃが……魔石を破壊するだけの安っぽい代物に見えるのか?」

「その言い方―― おまえは、こうなると分かっていたのか……?」

 

「あた(↑)り前田のクラッカーぢゃ! さすがに仲間の腕輪と同等の機能は難しかったが、その小さい玉が青鉱石を加工して作った簡易結界路。真ん中の宝石が、通信と転移を可能とする地賜珠(グランド)ぢゃ。さらに地賜珠に改良を加え、魔石を吸い込み魔力を補充する力まで組み込んだSP品。ざっと金貨20枚相当の一点物ぢゃ!」

「なっ!? あの刀よりも価値が高いだと……」

 

 落ち込んだランスロットを見て彼は少しだけ同情するも、ナーナのネックレスは魔物化を防ぐ緊急性の高いものである。なので

「ど、どんまい」

 そう言うのが精一杯だった。

 

 △△

 

 風呂で疲れたのか、電池の切れたおもちゃのように、ナーナはいつの間にか彼の腕の中で眠っていた。

 協議するまでもなく、なんとあの唯までもが彼のベッドで一緒に寝ればいいと言った。

 これぞ信頼の証。―― 釘を刺したのはポーズだったのか! と確信した彼は、ふたつ返事でナーナの安眠を添い寝で見守る決意を固めたのだ。

 

 雑談が続くリビングを後にした彼は、部屋に戻るとベッドにナーナを優しく寝かせて、その横に寝転んだ。

 ―― ナーナは精霊だし、一緒に寝ても問題はないよな? うん、大丈夫だ。

 無邪気に眠るナーナの顔を見て、今さらながらの自問自答であった。

 

「ナーナ……」

 寝言だろう。コロンと、彼の胸に埋もれるようにくっついてきたナーナの頭を撫でながら「今日は大活躍だったね。おやすみ」と、労いの言葉を呟いた。

 

 ―― そうだ! 今日がんばったご褒美に服を買ってあげよう。

 

 ナーナの服は胸に巻いてるサラシっぽい布だけで、着替えすら持っていない。今は桜のシャツを借りているが、王宮ではどうしていたのだろうか? と考えた上でのご褒美だ。

 足に巻き付くナーナの尻尾を優しく外した彼は、ナーナに掛け布団をかけるとベッドに腰掛けた。そして収納スペースからスマホを取り出したのだ。

 

 アスモデウスに言われた通り『異世界人』の理解を進めるためだ。

 とりあえず最大MPを調べる目的で、複製元と複製品の桜印MP回復薬を全て飲み干すと、MPに目を向けた。

 

 2180

 

 そのまま箪笥に吸われる量を確めるべく見ていると、今朝の減少スピードと比べるまでもなく、明らかに減少しなかった。10分ほど経過すると、やっと1減少するレベルだ。これなら箪笥に吸われる魔力量は、ほぼ0と断定してもいいだろう。

 

 ―― 朝と違う点は……冒険者のレベル?

 

 冒険者のレベルが10になり見習いが取れた程度で、このような劇的な変化があるだろうか?

 

 ―― あるはずがない。あとは……ナーナとの契約?

 

 しかしながら、闇の聖霊セナドゥースとの契約を考えると、精霊と契約して減少なら理解できるが、増加の要素は考えられない。

 

 ―― 違うな。もっと別に原因があるはずだ

 

 とりあえず表のステータスを開く。

 

 中山 陽二

 冒険者 レベル10

 スキル

 冒険術

 

 職業を異世界人に変更して、同じように確めた。ちなみに『時属性』や『黄金指』など、彼が隠蔽したいスキルは裏に表示される。

 

 中山 陽二

 異世界人 レベル9(止)

 スキル

 

 冒険術が消え、HPが100から817と異様に多くなった。法則がわからないので、取りあえず放置する事に決めた彼は、レベルの横に(止)とあるのに気づいた。

 ―― もしかして……

 レベルの文字を指で触ると

 

 《ランクアップ10? はい/いいえ》

 

 と出てきた。

『勇闘者』もレベル10に上げるには承認が必要になるため、もしかしたら『異世界人』にも改造の影響が出たのか? と彼は予想したのだ。予想的中である。

 

 ―― 女は度胸。男も度胸!

 彼は、迷わず《はい》を選択。

 

 その瞬間、職業の変更に使ったスマホの画面が点滅を繰り返し始めた。

 ―― んん? 

 彼は不思議に思いながらも、画面を見ると

 

 《冒険者を統合します。承認してください》

 

 と画面が点滅していた。

 何に統合? と思った彼だが、それ以外に選択肢はないので、画面をタッチした。

 すると、《完了》と《項目追加》の文字が出て、いつもの画面に戻った。

 

 そこで彼は、思い出した。『異世界人』は任意の名前に変更できるのを

 

 つまり『異世界人』の名前を『冒険者』に変更すれば、わざわざ冒険者のレベルを10まで上げる必要はなかったのだ……ともあれ、遅かった訳でもない。

 名前を変更すれば、HPが桁違いに高い冒険者で、土のダンジョンに入れるようになる。という寸法だ。安全性が飛躍的に高まるのは間違いない。

 

 早速、名前を変更した彼はステータスを開いた。

 

 中山 陽二

 冒険者 レベル10

 スキル

 

 HPとMPを確認すると、新たにPTの項目が増えており、冒険術のスキルは現れなかった。

 

 HP817

 MP3504

 PT180

 

 ―― ポイントとMPが増えてるけど……どうして増えたのか、法則が全くわからん。

 

 考えても無駄と結論を出した彼は、スマホの画面に『統合』『ポイント』『SP』の3つが追加されていると気づいた。

 

 試しに統合を押すと

 

 冒険者10

 魔法術師11

 錬金調合術師11

 鍛冶師15

 王国騎士15

 

 と出てきた。今まで貸与可能だった職業だ。

 ―― 何だこれ。意味が分からん。

 どの職業を押しても変化が見られないので、前に戻ってポイントを押した。

 

 時間

 黄金指 

 箪笥 

 魔技

 

 と出てきた。これは、裏ステータスにあるスキルだ。

 彼は、試しに『魔技』を押してみた。

 ―― こ、これは!?

 

 ポイントを消費して、熟練度を上げられるようになっていた。しかしながら、1から2に上げるにはポイントが1000も必要だった。『黄金指』は500で『時間』はなんと2000。『箪笥』は反応せず。

 

 ―― ぼったくバーなみのポイント数だな。こんなのポ○コじゃないけど、尻の○まで抜かれて鼻血もでねえって。だいたい漫画とかだったら、ここらでガンガン上げる事ができて、俺Tueeee! ってなる場面じゃないか?

 

「期待させやがって……」彼は、スマホを収納スペースに投げ入れると「千里の道も一歩からか……」と呟いた。

 甘い話には裏がある。それを痛感した彼は、コツコツ進む偉大なる亀の話を思い出した。

 ―― やるか!

 ナーナを起こさない様に、忍び足で部屋を出た。

 

 リビングに戻ると、アスモデウスはあと片づけを、ランスロットは柔軟体操をしていた。桜と唯は一緒にお風呂だ。

 

「俺は今、猛烈に熱血している。という訳で汗を流したいんだけど、付き合ってくれないか?」

 世間の厳しさを知った彼は、ランスロットに甘える気だ。

「もちろんだ! 朝まででも付き合うぞ!」

 男前は即答なのだ!

「おまえ、明日は山登りだろう? 1時間くらい付き合ってくれればいいよ」

 

 屋敷のプレイルームに移動したふたりは、結構ガチな組み手で汗を流した。

 彼は鞘(さや)付きの短剣を両手に持ち、正拳突きの要領で刺すように攻撃を確めた。

 

 ―― これは、受けるのも流すのもやりやすいなぁ。短剣は軽くて小回りがいいし、うん、いい感じだ。

 

 お礼に、普通のマッサージでランスロットの疲れをほぐした彼は、彼女の後にお風呂で汗を流した。そのままベッドに潜り込むと、すぐに寝入ってしまったのだった。

 

「マスター!」

「陽二!」

 

 寝入ってすぐの事だった。

 呼ばれた彼に、レヴィアタンが飛び込んできたのは

 

「大変だった、来なかった、どうして? 変だったセナ、様子が」

「??」

 

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