※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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セナドゥースとレヴィアタン/陽二と縦笛

 

 ―― ??

 

 飛びついてきたレヴィアタンは、そのまま陽二の胸をポカポカと叩きながら叫んでいた。

 唐突に要領の得ない事を言われて、陽二は戸惑うばかりだ。

 

「レヴィ。ごめんだけど、なんの事かさっぱり意味がわからないんだけど……」

 

 彼は、取りあえずレヴィアタンを横向きに抱っこし直すと、彼女の目を見つめながら、説明を求めるように口を開いた。

 

「大変、だった。来な、かった」

 

 しかし彼から目を逸らしたレヴィアタンは、彼の胸板に縮こまるように顔を寄せて、同じ単語を呟(つぶや)くように繰り返すのみだった。

 まるで、怒られた子どものように不貞腐れている様にも見えた。

 ―― 俺、なんかしたっけ?

 

 当然、彼は身に覚えはない。がしかし、かわいい妹に不満があるのなら、その排除に動くのが道理である。なので、まずは情報集めが基本になるだろう。

 彼はレヴィアタンの頭を撫(な)でてご機嫌を取りつつ、闇の聖霊セナドゥースに説明を求めた。

 

「マスターさぁ魔力切れになっちゃったでしょう? それがボクにまで影響を及ぼして、穢(けが)れに支配されそうになっちゃいました! みたいな?」

 

 それは、この上なく緊急事態だったのではないか。しかしセナドゥースは喉元過ぎればなんとやらではないが、軽く、然程問題ではなかったように説明した。

 

「それって、かなり危なかったんじゃない?」

「それなりにね」

 

 確かに危なかった。

 しかし幸いな事に、桜の迅速かつ的確な処置によって速やかに魔力が供給し始めたのと、ただ事ではないと心配したレヴィアタンの必死な呼び掛けが功を奏し、自我を保っていた彼女は支配されずに済んだのである。

 だが彼とのリンクは寸断されてしまい、話す事も箪笥に呼び寄せる事もできなくなってしまったのだ。

 そしてその能力が回復したのが、つい先程だった。と言う訳である。

 

 もし彼が自発的にセナドゥースの部屋を訪れてくれていれば、リンクの修復も早かっただろうが『眠ったらセナが呼んでくれるし』と思い込んでいたのが裏目に出てしまったのだ。

 そしてレヴィアタンは、受け身である彼の姿勢。それに対して怒っていたのだ。

 

 △△

 

 ともあれ、レヴィアタンのご機嫌が復活した事で、この話は終息を迎える事となり、話題は次のステージへと移っていた。

 

「今日は、魔法を教えるよ」

「闇魔法だったよね?」

「そう。基本4属性とは少し異なるけど、覚えれば強力な武器になるのは間違いないよ」

 

 基本4属性とは火・風・土・水の4つだ。

 

「陽二、おしえる。レヴィも、セナの次」

「うん、ありがとう」

「じゃあボクからね。最初の魔法は闇玉(ダークボール)。これは、対象者の視界を暗闇にする魔法だよ。やり方は、手のひらに闇玉を作って投げるだけ。見事命中すれば闇玉が作動して、相手は真っ暗さ」

 

 ―― 投げて当てるって……すっごい地味だなぁ

 

「マスターはボクと契約してるから、訓練を続ければ使えるようになるはず。呪文は『闇玉』だよ。とりあえず訓練だと思って気楽にやってみよう。あっそうそう、暗闇とか黒い物を連想してみて」

 

 彼は、手のひらを見つめながら呪文を唱える。

「闇玉(ダークボール)!」

 すると歪(いびつ)な形をした黒い物体が形成された。

「一発で発動!? マスターすごい!」

 

 実はコレ、セナドゥースと契約しているのも大きいが『異世界人』の中に取り込まれている『呼称発動』の効果だ。ちなみに『軽量化』も取り込まれており、新人/練習用ダンジョンで防具の重量を軽く感じた正体でもある。

 

「闇玉を自分の目に当ててみて」

「大丈夫なの? 痛くない?」 

 

 そう呟いた彼は、恐る恐る自分の片目に手のひらを重ねてみた。すると両目が1秒ほど閉じた感じの暗闇に包まれると、闇玉は消滅した。

 

「痛くないでしょ?」

「痛みはなかったけどさ……」

 

 効果を体験できたのは、ほんの一瞬である。またそれは、手のひらで目を押さえたからなのか、闇玉の効果なのか判断に困るところでもあった。

 

 ―― 正直、微妙?

 

「この魔法を当てれば、相手は暗闇になるんだよね?」

「そうだよ」

「はなっからダメージを与える魔法を使った方が良くない?」

 

 彼は、わざわざ目眩(めくら)ましの魔法を使うより、その労力を攻撃方法に費やしたほうが、得で早いと考えたのだ。確かにその通りと言えるが、それは時と場合によるし、手札は多いに越したことはない。

 だがその前に、セナドゥースには覚えてほしい明確な意図があったのである。

 

「マスター、この闇玉はねぇ、上位の闇魔法を発動させるための素(もと)。つまり闇玉を使い続けて強くしないと、上位の魔法は使えない。それに、闇玉は三大基礎の1つだからね、文句を言わないで練習する事! それと、強くなれば暗闇にダメージが加算されるようになるからお得だよ?」

「そう言う事ね。なら頑張らなきゃだね」

「じゃあ早速、きれいな玉を作れるように練習してみようか! まあ、すぐには無理だけどね」

 

 ―― 要は、この歪な形を、投げやすい形にすればいいんだよね。それなら――

 

 彼は桜に教わり、アスモデウスの授業で洗練された魔力操作を駆使して、手のひらに魔力を集めた。イメージするのは黒く塗り潰された硬球だ。

 この陽二の行動は正解だ。

 実際にある物を利用してイメージすれば、脳内で連想ゲームのようにイメージが補完され短縮できる。

 

「闇玉!」

 

 ―― ええっ!?

 

 彼の手の中に作られた『闇玉』を見たセナドゥースは、心の中で驚きの声をあげた。

 それもそうだろう。彼は僅か2回目にして、見事にきれいな球体を作り上げてしまったのだ。そんな驚く彼女の目の前で、今度は闇玉を投げて見せた。

 その速度はとてもゆっくりで、3mほど進むと消滅してしまい実践で通用するレベルではなかったが……

 

「ど、どうして、できるの?」

「ふっ、それはな……すでに魔力操作を習っていたからさ!」

 

 ビシッ!

 彼は、眠ったままのセナドゥースにポージングした! その瞬間、彼が、誰に、どのように教わったのか、セナドゥースへ伝わったのだ。

 

 ―― もうっ! せっかく魔力操作も含めて教えようと思ってたのに……

 

「ふ、ふーん。もう習っていたんだね。じゃあ次は、飛距離とスピードだね。ある程度できるようになったら次を教えるから」

「優秀な生徒で良かったね、セナ」

「もう知らないっ!」

 

 何故セナドゥースが、ご機嫌ナナメさんになってしまったのか分からない彼に、レヴィアタンが飛び付いてきた。

 

「次は、レヴィ、陽二、教える」

 

 レヴィアタンが教えてくれ魔法は、『黒水(こくすい)』と言うコールタールみたいな液体を出す用途不明な魔法だった。

 

 △△

 

「おりゃ」

「はずれ」 

「くらえ!」

「届かない」

「それなら接近戦で」

「でも、よける」

 

 唯が破壊した大窓から外を見ると、セナドゥースの部屋を中心として半径500m以上の草原が広がっている。

 その草原に出て後ろを振り返ると、部屋の内部が見える。当然だ。しかし不思議なことに、真横や後ろ、つまり大窓の180度以外から見ると、部屋の中は見えない。

 何故かは分からないが、簡単に例えると、黒枠の透明な看板に見えるのである。それはつまり、別空間とも言える。

 

 その草原で大声を出しながら逃げ回るレヴィアタンと、その後を追いかける彼も気づいた事だが、理解できないので放置する事にしたようだ。

 

 そんな彼は、楽しそうに逃げ回るレヴィアタンを追いかけながら、闇玉を作っては投げていた。

 何をやっているのかと言うと、特訓である。教わった闇玉を走りながら発動させる練習と、遠くに投げる練習だ。それと並行して、魔法を当てる鬼役と、逃げる幼女の役になりきって遊んでいるのだ。

 彼の闇玉は、当たっても怪我の心配はなく安心安全。さらに練習と遊びの両立もできて、一石二鳥だ。

 

 いいだけ遊び倒して部屋へ戻った彼は

 

「マスターお帰り。随分とお楽しみだったね」と、トゲのある言葉をセナドゥースに言われてしまった。

 

 彼は一瞬。

 飲み歩いて深夜に帰った同僚が、真っ暗な部屋で起きて待っていたパートナーに『おかえり、随分とお楽しみだったのねぇ』と言われた話を思い出してしまったが

 

 ―― 動けないのを気に病んでいるのかも

 

 と考え直した。

 ほったらかしだった事を少し後悔した彼は、セナドゥースの隣でゼンマイの切れたオモチャの様に、ピクリとも動かず眠るレヴィアタンに気づいた。

 

 ―― いつの間にか寝てるし……久しぶりに体を動かして遊んだから疲れた、とか?

 

「そう言えば、俺がいない間って中で何をやってるの?」

「ボクは、少しでも回復させるため眠ってるね。たまーにレヴィとお話しをしてるけど」

 

「じゃあ、レヴィは何やってんの?」

「……外で走り回ってるんじゃない? 部屋の物には触って欲しくないから『外で遊べ』って言ってあるし」

 

 ―― ものすごい退屈そうだな……レヴィだけでも外に出してあげられればいいんだけど、『管理者項目』には『絶対服従』しかないしなあ……セナも体を動かせない状態だし、魔力の供給も必要だから外に出すのは止めたほうが良さそうだしな。その前に、セナとレヴィは黒い何かで繋がってるみたいだし……やっぱり、穢れをどうにかするのが先だな

 

「2人ともきっと退屈だよね」

「前にも言ったけど、何の手がかりもなく長い間待っていたんだし、可能性が見えている今の状況はなんて事ないよ。それよりも少しは上達した?」

 

 逆に気を使わせてしまったと感じた陽二は、胸を張ると努めて明るく本日の成果を発表した。

 

「闇玉を投げる速度は少し上がったね。距離は5mまで伸びたかな」

「なるほど……。投げ方が上手になったおかげで、スピードが上がって距離が伸びたと……魔法の上達とは関係ないね」

 

 セナドゥースの的確な分析力が発揮された。

 

 △△

 

「そう言えば、この部屋には食べ物とかないけど、セナはおなかとか空かないの?」

 

 彼は『一括管理』を操作すると、箪笥の中に物を持ち運べる事に気づいた。それは、この部屋で食事する事も調合する事も可能だという事だ。

 

「ボクはマスターの魔力で補っているから食べなくても平気だけど、レヴィはその辺の雑草でも食べているんじゃない?」

「雑草!? そんなの聞いちゃうと、心が痛むよ」

 

 食べ物を差し入れしようと心に誓った彼は、闇玉を作りながらセナドゥースと雑談を続けていた。

 

「えっ、どうゆう事?」

「詳しく説明すると、マスターはMPを1時間あたり約1000作っているんだよ。その内の300~400は体内に残るんだけど、それ以外は常に流出しているんだよ。そしてMPがMAXの時は、作った全てが流出しているんだけど、もったいないよね?」(正確には古い順で流出される)

 

 ―― そう言えば習った覚えがあるけど、1時間あたり1000ってすごいな……

 

「半分以上も流出してるのは、確かにもったいないね……」

 

 ―― あれ? 確かアスモさんが『魔技の級が上がれば、放出を抑制できる』って言ってたっけ

 

「まあそれが、精霊や真魔王を除く生物の仕組みだからね。でも、その流出されたMPは、他の生物の助けにもなってるんだ」

 

 MPは、なぜ流出しているのか? その全ての謎を解明するのは、どれだけ発達した文明だろうと困難だろう。それでもセナドゥースは、流出された一部のMPが循環していると知っていた。

 

「んっ? 精霊と真魔王の仕組みは違うの?」

「唯みたいな例外も居るんだけど、基本的に精霊種と真魔王は自分で作れない。その代わり、膨大な量の魔力を蓄えられるんだ」

「ふーん。じゃあ、どうやって回復するの?」

「それは企業秘密だね」

 

「セナは、俺の魔力を吸って回復してるよね? 隠すようなこと?」

「確かに今はマスターから分けてもらってるけど、穢れの影響さえなければ他にも回復方法はあるんだよ?」

 

「含みのある言い方だね。かわいくない」

「ボクの事は別にいいでしょ。それより、睡眠中とこの部屋に居る時以外は、箪笥に吸収される分を除いたマスターの回復量の全てをもらってもいい? 」

「それって、起きている間はMPが回復しないって意味だよね?」

 

 ―― なくなったらMP回復薬を飲めばいいし、RPGゲームとかでも宿屋に止まったら回復する仕組みだし……

 

「別にいいよ、セナの好きなようにやって」

「ありがとうマスター。唯頼みだけど穢れの目星も付いたし、少しでも回復以外に使える魔力を蓄えておかないとね。また、今回みたいな事が起こらないとも限らないしねっ!」

 

 ―― 流石セナ。それなら俺もMP回復薬の素材を集めておこうかな。桜に言えばくれるだろうし……

 

「あっ! そう言えばセナ『ダブル』って魔法があるんだけど、それ以上の効果を持つ魔法ってある? 例えば、トリプルとか」

「ある事はあるよ。厳密に言うと『ダブル』は魔法じゃなくて、詠唱や呪文かなぁ。でもアレは、魔力を無駄に多く使うし非効率だよ。やり方さえ知っていれば、連続で魔法を使った方が簡単で実用的だし」

「それでもいいから教えてよ。『複製』っていうスキルが使えるんだけど、1回しか複製できないんだよね。でも、ダブルを使えばその分だけ複製品が増えるんだよ」

 

「複製……? 聞いた事もないけど事情は理解したよ。ダブルの上位は、さっきマスターが言った『トリプル』と『フォース』だよ。ダブルは2発目に1.2倍の魔力が必要で、トリプルは2発目以降に1.4倍。フォースは1.6倍」

「複製に必要なMPは100だから……ダブルで220、トリプルで380、フォースで480か……」

 

「……580」ボソッと言うセナドゥースの声が聞こえた。どうやら計算を間違えていたようだ。

 

「わざとだよ? ジョーク!」

 

 苦しまぎれの言い訳を口にした彼は思った。

 ―― 1回1回は少ないけど、回数を使うとなると結構でかいな。でも、その程度の量なら俺のMPの前では微々たるもの!

 

「……あのね、マスター。伝わったから言わせてもらうけど、普通の人のMPは精々50~200って教えたよね? 上位職業でも1000以上は稀(まれ)。マスターを基準に考えたら駄だよ? それにマスターは、回復量も異常。普通の人は、時間当たり5~20くらいじゃない?」

「そうなんだ。意外なところでチートが発揮されてる俺は、イケメンだったのか……」

 

 ―― 労せず上位職業を獲得できた玉の、いや、勇者のおかげだな……

 

「ああそうそう。俺は魔法スキルを覚えてないんだけど『呼称発動』のおかげで使えるんだよね。じゃあさ普通はどうやって覚えるわけ? それと詠唱だっけ? その説明をお願いできる?」

「簡単さ。先天的なものを除くと、その職業でスキルとして魔法を覚えるんだよ。他の職業も同じだね。覚えられるかどうかは、職業ごとの条件と本人次第。

 詠唱ってのはね、イメージを代わりに伝えるための言葉。教わるんじゃなくて勝手に口から出て、同じ属性のスキルを持っていないと聴き取るのは難しい。魔方陣も同じ感覚で、勝手に手が描いて完成させるって感じかな? まあ、ケースバイケースだけどね」

 

「それなら、スキルとして属性魔法を覚えた方がいいって事?」

「どっちでもいいと思うよ。要は、損はしないって考え」

「なるほどね」

 

 △△

 

 休憩を取る事にした陽二は、時間を有効活用すべくスマホを取り出した。新しく追加された項目『SP』を調べるためだ。

 早速『SP』をタッチすると

 《実行しますか? (はい/はい)》

 と画面に現れた。

 しかも選択肢は(はい)のみで、画面の切替も電源のオフもできなくなってしまったクソ仕様であった。

 

「ざけんなよっ!」

 

 スマホにツッコミを入れる彼だが、機械がウンとかスンとか応えるはずもなく。実行するしか道がなくなったので、セナドゥースに意見を求めた。

 

「これって、実行してもいいと思う?」

「ボクに分かる訳ないじゃないか!」

 

 至極当然である。

 しかしこのままという訳にもいかない。なので、今まで起こったスマホ関連での出来事を思い返し、問題はないと判断した彼は、実行を許可する(はい)をタッチした。

 

 《10秒後、電源はオフにします。指示があるまでスマホを持つ手に魔力を集めて、待機してください》

 

 そんな表示が出てきた。

 ―― いったい何が始まるんだ?

 想定外の出来事に戸惑いはあったが、根が素直な彼は画面の表示に従い魔力を集めだした。

 

 すると電源がオフになり、再起動を始めた。

 《dacono》

 契約会社のロゴが現れ、いつも通りOSのキャラクターが表示され、四角のロゴがクルクルと回り起動準備を始めだした。

 それは『超錬金調合』する前の状態に、スマートフォンが戻ってしまった事を意味していた。

 

 《現在OSを占拠中、進行難航中。敵勢力強大。至急魔力の供給を求む!》

 

 しかしスマートフォンが元に戻ってしまった感傷に浸る暇などなかった。真っ白な画面に切り替わると、助けを求めるような文字が表示されたからだ。 

 どこかゲームみたいで楽しくなってきた彼は、吸われるような感覚を覚えたスマホを持つ手に、魔力を集め続けた。

 

 視界のMPが

 2200

 1720

 1368

 859

 と、みるみる減少していくが

 ―― まだ、慌てる時間じゃないぜ!

 複製品の桜印を2つ取り出した彼は、一気に飲み干した。

 ―― これで、24時間戦える!

 

 2319

 1914

 1178

 

 MPを確認しながら、追加の桜印を出そうとしたその時だった。

 《攻略完了。占拠に成功しました。そのままお待ちください》

 と文字が表示されたのだ。

 

「ふっ。チートの申し子、オレ様のMP量を舐めるなよ。俺は、まだまだいけるんだぜ?」

 

 彼自身、意味のない行動なのは承知していた。しかし、やり遂げた感で高揚してしまい勝鬨(かちどき)をあげたかったのだ。そんな彼の目に止まったのは、スマホ画面の文字

 

 《協議した結果、スマートフォンは元の状態へ戻し、職業ツールはアプリとして共存する事になりました。

 ここで、悲しいお知らせがあります。エッチな画像、及び動画とゲームは削除されました。

 続けて異世界人と職業ツールをリンクします》

 

 ―― はあ? 誰と誰が協議したのか知らんけど、何を勝手に人のコレクションを消しとんねん!

 

「ざけんなよっ! 元に戻しやがれ、コンチクショウ!」

 

 《黙れカス》

 ―― なっ!?  

 《そんな事より、リンク完了したからさっさとアプリを起動しろ!》

 

「何だと? 偉そうにほざきやがって、エロ画像くらいいいだろうがよ!」

 

 《あと3秒以内に起動しないと、このスマホは爆》

 

 画面一杯に、でかでかと職業ツールのアイコンが現れた。そのアイコンは、中指を立てた人の手だった。

 

 ―― 爆って……爆発じゃないよな?

 

 逆らってはダメだ。本能で理解してしまった彼は、苦渋の表情でアイコンをタッチした。しかしスマホが彼の言葉を理解し、画面に文字を出して指示した事など、考える余地もなかったのは言うまでもない。

 

 職業ツールを起動すると今までの面影は全く消え失せ、内容は一変。

【名前変更】【統合リスト】【ポイント管理】

【魔法補助】【スキル】【設定】

 となっていた。

 職業の貸与も失くなってしまい、改悪だと思ったがあとの祭である。取りあえず、長押しすれば説明が見られたので目を通した。

 

【名前変更】

 職業の名前を変更できるが、名前が変わるだけなのでスキルは獲得できない。

 

【統合リスト】 

 リストにある職業は『異世界人』に統合されている職業。そのHPとMPは『異世界人』に加算され、特性効果も引き継がれる。レベルアップし、スキルの取得も可能。

 

【ポイント管理】 

 職業・スキル・熟練度をポイントに変換。

 

【魔力補助】 

 魔力の循環流動を助け、属性効果を追加する。

 

【スキル】

 熟練度が上昇可能なスキルを表示

 

【設定】 

 ステータスのカスタマイズ。音声の変更。

 

 ―― 改悪かと思ったけど、良くなってる? あと、この音声って……スマホと話ができるって事?

 

 冷静に考えた彼は、今までと変わらない事に気づいた。むしろ【統合リスト】や【魔力補助】の効果を考慮すると、大幅にパワーアップしていた。また、職業の変更はステータス改造の恩恵で出来るため、機能的には洗練され簡潔になったと言ってもいい。

 

「ねえマスター。結局どうなったのか、ボクにも教えてよ」

「実は――――」

 彼は、ダグリオスから玉を借りた所から簡単に説明した。

 

「なるほどね! それで色々と納得できたよ。人の褌(ふんどし)で相撲を取る。まさに言葉通りだね!」

 

 ―― くっ! どうして、そのことわざを知っているのかは置いとくとして、本当の事だけに言い返せない。

 

 その時だった。

 ぐぬぬぬぬ。と悔しがる彼に、誰かが話しかけてきたのだ。

 

『ちょっと陽二。あーしを無視して女とおしゃべりなんて、いい度胸だし!』

 

 △△

 

 突然耳に飛び込んできた声に陽二はビクッと驚き、セナドゥースは沈黙のもと警戒した。聞き慣れない第三者の声だ、セナドゥースが警戒するのも当然だ。

 しかし彼は、その声に聞き覚えがありまくりだった。瞬時に声の出元も特定できた。それは、スマホが振動したから。

 

 ―― スマホが……しゃべった!? しかもその話し方も声質も、俺がイメージしていた、金髪ドリルの女王様そのものだと!?

 

『なんか言ったらどうだしっ!』

「こ、こんばんは。あなたは、どなたでしょうか?」

『人に名前を聞くときは自分から言えしっ! ぶっ飛ばすしっ』

 

 彼の名前を呼んでおきながら『言えしっ』と恫喝(どうかつ)してきたスマホは、自分の事を人だと思い込んでいた。

 自分の名前を呼んでくれた事に、ちょびっとだけ感動していた彼すら

 ―― 機械のくせにパワハラかよ

 と心の中で悪態をついた。がしかし、その言葉をぐっと飲み込むと

 ―― このやり取りのデジャブ感……

 と、お約束に辟易していた。

 

「知ってるだろうけど、俺は陽二。ベッドで眠っている天使たちが、闇の聖霊セナドゥースと真魔王レヴィアタンだ。ちなみにセナは、眠っているが会話はできる」

『ふんっ登録したし。でっ? あーしの名前を決めて欲しいし』

「あーしさんで」

 

 これしかないだろう。

 

『あーしもそれで良いかもって思うんだけど、色々とヤバいっしょ』

「まあとりあえず、君の事を聞かせてくれない? まずは、一番大事な性別と何者かって事。それを踏まえて名前を考える」

『あーしの事を聞いてどうする気だし。口説く気? 100万年早いし、きもいし、加齢臭だし、きもいし!』

 

 ―― 口説いてないし、なぜ2回もキモイと言った? そして、加齢臭だと……

 

 地味に精神的ダメージを受けてしまった彼は、華麗(・・)にスルースキルを発動させた。

 

「ねえ、マスター。加齢臭って何?」

 

 そこへ無邪気な聖霊セナドゥースが現れた。ちなみにこの世界人たちは、様々な体臭に慣れがあるので理解のある人が多い。

 

「年を取るとね、湧き立つフェロモンだよ」

『フェロモン? 死臭だし笑えるっ!』

 

 まるで嘲笑っているかの様に、ヴィッヴィッとバイブレーション付きだった。

 

 ―― なんだよコイツ、勝てる気が全くしない……全国の加齢臭に悩んでいる皆さま、コイツに代わって謝ります。どうも済みませんでした。

 

 その時、懺悔を代弁した彼の脳裏にピカーンと天啓が舞い降りた。

 

「よし決めた。名前は『華麗愁(かれいしゅう)』だ!」

『ちょっマジで? ふざけんなし!』

 

 流石にその名前を容認できないのか、スマホは焦るように異議申し立てをしてきたが

「おまえは人の道を踏み外したのだよ……華麗愁」

 彼は一蹴。窓の外を見ながら、諭す様に呟(つぶや)いた。

 

『おまっ、ふざけんなし ―――― あれは、僕が小学校5年生の頃だ。学校に忘れ物をした僕は、取りに戻った。教室に入ると誰もいなかった。そりゃそうさ、学校が終わって1時間はたっていたからね。机の中を見ると、忘れ物があって僕はホッとしたよ』

 

 ―― なんだコイツ、急に語り出したぞ? ショックの余り壊れたのか?

 

『話は変わるけど、その頃の僕には大好きな女の子がいた。名前は武田綾乃(たけだあやの)ちゃん』

 

 ―― なっ!?

 

『その女の子は僕の隣の席で、話しているうちに仲良くなって、いつの間にか大好きになっていたんだ。そうそう、消しゴムのケースの下に好きな女子の名前を書いて、他の人にひと月見られなければ、両思いなれる占いって知ってる? 当然、僕は大好きな綾乃ちゃんの名前を書いたんだ』

 

「おい、何を言いだすつもりだ……?」

「きゃー青春だね。続き、続き!」

 

 唐突に始まったスマホの1人語り。

 彼は戸惑いを隠せず焦りだし、セナドゥースは黄色い声をあげながら興味を見せた。

 

「誰の話か分からないけど、もうやめろ!」

「マスターは何を言っているのさ、両思いになれるかも、だよ?」

 

『忘れ物を手にしたとき、隣の机の中に見つけたんだ。縦笛(ソプラノリコーダー)を……』

「おいっ待て、それ以上喋るな! さっきのはなかった事にする。名前を付け直すから止めてくれ!」

 

 そう彼が宣言すると、ピタッと声がストップした。

 

 ―― どういう事だ? どうしてコイツが、あの事を知ってるんだ……小学校時代の知り合い? いや、そもそもあの事は、誰にも話した事はないし、知っている奴は1人もいないはずだ。じゃあコイツは、何者なんだ……?

 

「マスターあの事って?」

 

 ―― リンクのせいでセナにだだ漏れ!? 

 

『縦笛を見つけた僕は……』

 

 ―― 続投!?

「待てって! 黙れっ!」

 

 スマホは葬りせし黒歴史を勝手に語りだし、セナドゥースには思考がだだもれ。彼は完全にテンパってしまった。

 

 ―― もう、アレしかない! ランスの18番、土下座だ!

 

 スマホをベッドに立てかけた彼は、ジャンプからの空中土下座。着地と同時に額を床にこすり付けた。

 

「調子にのって済みませんでした。どうか止めてください!」

『……』

 

 彼の誠意が届いたのか、またまたスマホの声が止まった。

 

「ありがとうございますっ!」

「えっ、なんで止めるのさ。僕は抗議するよ!」

 

 ―― お願いセナ、黙ってて! 

 

『…………手に取ったケースから縦笛を取り出すと』

「お、おいって!」

『綾乃ちゃんが口を付けて吹いていた部分に……むしゃぶりついた! 「スウィーティー!」思わず歓喜の声が言葉がもれた。その後も僕は、舐めたり吸ったりして――――』

「きゃー綾乃ちゃん! 綾乃ちゃんがぁー!」

 

 自分と重ねてしまったセナドゥースは、悲痛な叫び声をあげた。

 

 ―― 終わった……

 

 時すでに遅し。呆然と抜け殻のようになった彼は、セナドゥースの声が響き渡る部屋の天井を、眺めていた。

 

 △△

 

『でっ、あーしの恐ろしさが理解できたと思うけど?』

「はい、骨身に染みて実感しました。2度と舐めた態度を取らないと約束します」

「どうしたのマスター? も、もしかして……」

『セナだったっけ? 今のはあーしの作り話、気にすんなし!』

「えっ、えっ? うん……」

 

 どんなに察しの悪い人でも、気づくだろう。セナドゥースは、かなりショックだったのか、言葉に元気がない。

 

『この話には続きがあるし』

 ―― 続き? 

 フルボッコに打ちのめされた彼は訳が分からないものの、聞き遂げる事にした。

「もういいよ。気持ち悪い……」

 しかしながら女性代表のセナドゥースは、男子の行為に嫌悪感が一杯で、聞く気はないようだ。

 

 とは言え、スマホは止める気など毛頭なく。男性ナレーションの声にチェンジし続きを語りだしたのだ。

 

『綾乃ちゃんは縦笛が大好きで才能もあった。本気で縦笛奏者を目指していたのだ。異変に気付いたのは、音楽の授業が始まってすぐだった。縦笛を吹くため顔に近付けた綾乃ちゃん、その瞬間……悪臭が鼻を突いた。

 そう。あの男子が、ベタベタと唾液を付けたままケースに戻したからだ。臭かっただろう、かわいそうに……

 そのあと男子は、分解した縦笛を泣きながら洗っている綾乃ちゃんの姿を目の当たりにしていたはずだ。何も感じなかったのか?

 綾乃ちゃんは縦笛とケースを処分。新しい縦笛を買い与えられたものの、その事がトラウマとなり2度と吹く事はなかった。

 その男子は綾乃ちゃんから縦笛を、夢や希望を、そして誕生するはすだった世界的縦笛奏者を奪ったのだ! なんと業の深い事だろうか……

 中学に進学した綾乃ちゃんは、ピアノを習い始めた。メキメキと腕をあげ、学年音楽会では猛者犇(ひし)めくピアノ奏者を押し退け、伴奏を任されるまでに成長していた。

 綾乃ちゃんは、縦笛を吹けない悔しさをバネに情熱をピアノに向けた。それ以降、出場したコンクールでは負ける事なく賞を総なめ。世界的なピアノ奏者に成長したのだ。

 のちのインタビューで、綾乃ちゃんはこう語っていた。

「名前は覚えていませんが、隣の席だったあの男子は今でも覚えています。私から、縦笛を奪ったあの顔を!」と』

 

 ―― えっ?

 

 事件のあと妙によそよそしくなった男子。

 綾乃の席に女子が集まり、事件の事を騒いでいると、俯(うつむ)いて聞き耳を立てている様な仕草。

 決定的だったのは、怒り狂う女子の立案で開かれた学級会だった。男子は終始、青い顔で頭を垂れ『犯人は僕です』と、自白しているようなものだった。

 最後に、担任の橋口先生が言った。

 

「全員目をつぶって。誰にも言わないから、綾乃ちゃんの縦笛にイタズラした男子(・・)は、手をあげて」

 

 男子はあげなかった。あげられるはずもなかった。まさかここまでおおごと(・・・・)になるとは思ってもいなかったのだ。ただ俯き……

 ―― 僕じゃない。僕じゃない。

 と、自分に言い聞かせて逃げていたのだ。

 

 橋口先生は、その男子だけを見つめていた。

 そして数人の女子は目を開けていて、その男子に指を差していたのだ。その中には、綾乃の姿もあった……。

 

『これがあーしの能力のひとつ。陽二の記憶を、第三者の目線で見られるっつーもの。人の記憶ってさ、知らず知らずのうちに周囲の状況全てを記録してるんだし、あーしを舐めんなしっ!』

 

 彼は愕然(がくぜん)とした。

 スマホに記憶を見られたからではない。綾乃に対する罪悪感と自責の念からだ。この瞬間、スマホと彼の間に上下関係が生まれたのは言うまでもない。

 

「ボクは……なんて人をマスターにしてしまったの? 司っちカムバッーク!」

 

 この日セナドゥースとの信頼関係は、地中50mまで下落した。

 

『あーしが言う事でもないし関係ないけど、今の陽二はそこそこ信頼しても大丈夫。気にすんなし!』

「うん……そうだね、キミが言うなら……」

 

「フォローするくらいなら、最初から言うなよ!」

『最初だからだし。ガツンと一発やっとかないと、舐められるし』

 

 ―― どんな理屈だよ。ただのヤンキーじゃねーか

 

『とりま名前を決めろしっ! 言っとくけどあーし乙女だし、永遠の17歳(エターナル・セブンティーン)だから!』

 ―― 17歳教だと?

「おいおい。だったら『永遠の17歳』で良くないですか?」

『ひねれし!』

 

 ―― ねじっ切ったろうか。17歳ねぇ……か○ちさん、の地図、ミニスカ……喜、あっ!

 

「天道(てんどう)でどうですかね?」

『天道!? 天の道を登っていずれは神に……いいっ! やればできんじゃん! じゃあ、今度から天道って呼ぶし』

 

 彼が想像したのは3姉妹の長女(19)であり、見当違いな部分を勝手に解釈し気に入ったスマホに、あえて説明する必要もあるまい。

 ―― でも俺は、心の中ではあーしさんって呼ぶけどな!

 

「それじゃ天道さん。できれば天道さんと端末(スマホ)の事を教えて欲しいのですが……」

 

 ―― ここに来るまで長かった。

 彼は心の中で、長いため息を突いた。

 

『天道でいいっしょ。長い付き合いになる訳だし、くだけた感じで構わないっしょ』

「それは、ありがとうございます……じゃあ、天道の事を聞かせてくれない?」

 

『あーしはさ異世界人(スキル)の中にある人格なわけ。勇者が持つスキルの中には、意思を持って手助けをしてくれるものがあんのよ。ちなみにアンタの中には、あと2つの意思があんのよ、で3人。あっ、面倒だから人って事にしといてよ。それで、勇者を譲ったせいでスキルから職業に変わったじゃん? その結果、本来の能力が使えなくなったし――――』

 

 ―― 変わったって言われても困るけど、コイツ的には不測の事態が起こったって事か……

 

『それで、ステータスの改造をしたじゃんね。あの時、あーしとは別の意志が閃いた訳よ『この魔力を使って能力を取り戻そう』てね。まあ、全部は無理だったけど、職業を統合する力と少しの能力は取り戻せたし』

 

 ―― 別の職業を統合……もしかして、職業ツールにあった【統合】の事か? 要は合併とかそんな感じだろうけど……

 

『それでアンタと接触したかったけど、リンクが戻ってなかったから困ったし。まあ、あーしはどうでも良かったけど、あとの2人がどうしても接触したがってた訳だし。そこで、どうするか考えていたら思わぬ所からチャンスが転がって来た訳だし』

「もしかして……『異世界人』のレベル10?」

『当たりだし』

 

 もともと彼とスマホの間には『超錬金調合』の際に繋がりが構築されていた。しかしその繋がりは強力で、他の影響を一切受け付けなかった。

 ところが、先に存在していた『異世界人』がレベル10に達したその時、繋がりに綻びが生まれたのである。

 その隙を突いて、あとの2人がスマホにジャックを仕掛け、新たな繋がりを構築したのだ。

 

『まあ詳しくは知らないけど、成功したからあーしと会話が出来るっしょ。ちなみにこの話し方は、アンタの記憶から好みのやつをチョイスしたし。設定から変更できるってさ』

 

 早速彼は【設定】を選択した。

【ステータス表示変更】

【音声変更】

 と2つの項目があり、【音声変更】をタッチすると5つの項目が表示された。

 

【貴史】

【弥生】

【マーチャ】

【桜】

【デフォルト】

 

【デフォルト】はあーしさんで、天道のお気に入りチョイスだ。残り4つは彼の好きなアニメ『ぽんかん夏休み中!』のキャラである。上から順番に男主人公・幼なじみ・お手伝いさん・主人公の義妹である。

 

 詳しい説明は省くが『ぽんかん夏休み中!』は、主人公をめぐって、3人の女子が繰り広げる、笑いあり、涙あり、ちょっとエッチな、どたばたラブコメストーリー。深夜帯の放送ながら高視聴率を叩き出し、円盤も各巻2万枚を余裕で突破。グッズや関連商品も売上絶好調で、2期の放送も2クールが確実視されていたアニメのことだ。

 

 幼なじみは、控えめなおっぱい。

 お手伝いさんは、エセ関西弁を使う見事なおっぱい。

 義妹はツンデレテール(ツンデレ・ツインテール)。

 もちろん、彼の推しは義妹だ!

 

 とは言え先ずは視聴するべきなので、彼は1つずつ試した。

 

『よっ、俺は天道だよろしくな』

 1度聴けば十分。はなっから男は論外なので次へ

 

『陽二くん天道です。よろしくね』

 弥生は、フレンドリーで接しやすいキャラだ。かわいいのに頭脳明晰のメインヒロインだ。嫌いではない。

 

『陽二くん、うちは天道やで』

 本名は真知(まち)。たまに変な関西弁を使うお手伝いさんだ。弥生の家で働いていてラッキースケベ担当だ。誰にでも手が届きそうな親近感があり、1番人気だ。

 

 最後は、彼の推しキャラの桜だ。

 彼女は、両親が他界したのを切っ掛けに、親友だった主人公の親が引き取る事になった女の子。アニメ開始時は海外で暮らしていたが、第1話の最後に帰国してくる。主人公と面識はない。

 主人公にだけ素直になれず冷たく接するのだが、甘えに入ったときの破壊力は絶大だ

 

『ぬしが陽二か? わらわが天道ぢゃ! わーはっはっは!』

 

 ―― まさかの桜違い(・・・)だと……

 

 その時彼の脳裏には「お、お兄ちゃん。さくらが手伝ってあげる」と義妹桜(いもうと)の声が脳内再生されていた。

 

「ふざっけんなよっ!」

 期待が大きかった分、失望がでかすぎたのか、拳で何度も地面を叩きつけながら叫んだ。

 ビッビッ!

『で、どれにするのぢゃ? おすすめは当然、わらわぢゃ!』

 

 ―― でしゃばんるんじゃねーよっ!

 

 彼は、最近の機種が高性能だという事を再確認した。カメラのレンズが目となり、スピーカーが口になり、マイクが耳になる。簡単に人の神経を逆なでする事も可能なのだ。

 狂喜乱舞。彼は、画面が割れんばかりの力で【デフォルト】を乱打。

 

 ―― どこのわらわ(桜)だよ、テメーは! チェンジに決まってんだろう!

 

「マスター楽しそうだね!」

「楽しかねーよっ!」

 

 △△

 

 あの騒動はいったい何だったのか。音声をデフォルトに戻した彼は、名前付けさえも忘却の彼方へ消し去り、現状をあーしさんに尋ねた。

 

『今の段階では特に変わった点はないけど、あーしのアドバイスが受けられるっしょ。それと、職業の名前とか簡単な変更は口頭でやってやるし』

「便利っちゃ便利か。それじゃあ早速だけど、強くなるアドバイスを頼むよ」

『ちょっと待つし―――取りあえず、今のままがんばれ』

 

 ―― 意味がねえっ!?

 

「まあいいや。じゃあさ、職業の名前を魔法師へ変えてみてよ」

 

 魔法師 レベル10

 

 ―― うーん。簡単だけど、使うときあるかな……

 

 正直なところ、あってもなくても全く困らない機能である。冒険者に戻した彼は、冒険術(スキル)が消えた訳を訊いた。

 

『単純に『異世界人』の名前を『冒険者』に変えただけだから出てないだけだし。そもそも冒険術は『HP+50 MP+10』ってショボい能力だし、ポイント変換推奨』

「いやいや、十分すごいだろう?」

『ポイント20に変換してやったし。現在のポイントは200な』

「勝手にすんなよ!」

『ちょっ黙れし――――』

 

 彼の言葉を遮ったあーしさんは、突然黙り込み彼の呼びかけに応える事なく10分経過。おもむろに説明しだした。

 あーしさんいわく

 効率よく熟練度を上げるため、全ての攻撃に属性が付与される。

 例えば魔物を剣で攻撃すると、MP消費10で2属性分の追加ダメージが加算される。

 この属性は【魔力補助】で指定可能。口頭でも変更できるので、臨機応変がうりだ。

 

 また、統合された職業にはレベルキャップが発生しており、『異世界人』のレベル上昇で解放されるようだ。それと同時に『異世界人』の新たな能力と、統合された各職業のスキルも得られる可能性がある。

 

「結局どう言うこと?」

「『異世界人』のレベルと、熟練度をしっかり上げようって事だよ、縦笛マスター」

 

「縦笛マスター? まあいいや、短くまとめてくれてありがとう」

「闇属性は優先決定だね!」

 

 セナドゥースが、自身の属性をオススメするのは自然な流れだ。彼はステータスを開いた。

 

 熟練度

 剣1 火1 水1 土2 風0

 闇0 光0 時2 空0 魔技1

 

 剣と魔技以外が指定可能で、何か意図があるのか、あーしさんのオススメも闇だった。もうひとつは、熟練度5に近い土か時だと言う。

 

「それじゃあ時と闇で」

『指定オッケーだし』

 

【魔力補助】をタップすると、闇属性と時属性が付与中とあった。

 ―― 口頭で変更できるのは便利だな。

 

 その後、セナドゥースと2人であーしさんに質問していると、部屋の外に居る何かを彼の目が捕らえた。

 

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