※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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謁見

 

 

 カリンにアドバイスを受け、時間より早く会議室へ到着した陽二。中へ通され、世話係のカリンと並んで座り王が来るのを待っていたのだが……今現在、部屋の中には重苦しい空気が漂っている。

 陽二は、頻繁(ひんぱん)にイガネオ(風)で時間を確認しているが、現在17時。予定の時間からすでに1時間経過。

 

 ―――― ううっ……早く来てくれ!

 

 陽二は我慢できなくなってきた。

 入室した当初はそうでもなかったが、暇だったのでカリンと話をしていた。それも壁際に立っていた王国兵士に気を使い、小声で話すという紳士ぶりを発揮。

 しかしなぜか、徐々に空気が重苦しくなってきた。それは……

 

「おい、近いぞ離れろ!」

「俺なんて話したこともないのに……」

「ああ、今日もお美しい……誰だあいつ?」

「別に世話係なんてメイドでいいだろう……離れろ」

 

 と、仕事中であるはずの兵士が、それも、誰もいない方へ向かって呟(つぶや)いているのだ。さすがの陽二も自分が言われていると気がついて、同時に恐怖も感じる。

 

「カリンって、やっぱりモテるのね」

「そ、そんなこと……あるわね」

 

 小声で、カリンに耳打ちするように話しかける。その行為が、重苦しい空気に拍車をかけるのだが……

 これだけ美しい女の子なのだ、目立つのも当然だろう、まさにアイドル。陽二は嫉妬による身の危険を感じたが、優越感がたまらないのもまた事実。

 煽(あお)っているわけではないが、これくらいの軽い意趣返しをしても問題ないだろう。

 

 ―――― ちょっとやり過ぎかな……なるべく1人で行動するのは避けよう

 

 すると、とうとう待ち人来る。ガチャっと扉が開いた。

 

 ―――― やっと来てくれた!? どんだけ待たすねん生きた心地せんかったわ。訴えるぞ!?

 

 天の助けか地の助けか、やっとこの空気を変えてくれる場面が訪れたというのに、立ち上がるカリンに続いた陽二は、真面目な顔をして心の中で悪態をついた。

 

「待たせたの」

 

 数名のオジサン軍団と、胸に豪華なマークの付いた鎧(よろい)を身につけた若い兵士が順番に入室してくる。そして立ったままのカリンと陽二に手で座れと合図を送ると、各々が対面のイスに腰を下ろした。

 

「陽二くん、待たせて済まなかったね」

 

 ヨーシンから陽二の事は知らされているのだろう。大臣だという男は陽二の自己紹介は省き、自分たちの紹介を始めた。

 

 ちょうど陽二の正面に座っているのが、この国の王。ダグリオス=クルシュナイン。威風堂々とした佇まいを感じるものの、気さくな感じもする。歳は40~50といったところか。

 王の左右にもう少し歳上っぽい温和そうな大臣たち。その両隣に鎧を着た若い兵士とマツサの副領主ヨーシン。

 

 一緒に来た若い兵士は、王様の息子。パトリックとの説明を受ける。鍛えているのだろう、身長180以上でガタイがいい。さらにナイスイケメンであった。

 

 陽二は大臣の説明にあわせ、その人物の顔を確認しながら軽く会釈をしていたが、パトリックのときは思わず目があってしまい、無意識にそらしてしまった。乙女か!

 補足情報として、パトリックには妹が1人居ることが判明。

 

 ―――― パトリシアちゃんか……

 陽二は、妹の名前だけ頭にインプットした。

 

 *

 

「陽二殿、わが国へようこそ。貴殿の境遇は理解していますので、安心して滞在するが良いでしょう。わが国の威信にかけて、丁重にもてなしましょう」

「ありがとうございます」

 

 全員の自己紹介を担当した大臣は、続いて陽二に声をかけ、形式ばった決まり文句だろうあいさつをする。それに礼をもって応える陽二。

 

「それでですが……陽二殿は、元の世界にすぐにでも帰りたいと,推察しますが、1つ頼みがあります。聞いてくれませんか?」

「お世話になるのですから、僕に出来ることなら」

 

 唐突とはこの事だろうか。

 大臣の言葉に陽二も少し驚きを見せるが、自分のような人間にできる事はたかが知れてる。そう大した頼みでもないだろうと、軽い気持ちで応える。

 

「実はですが……この世界には、ステータスと言う物があるのは知っていますか?」

「はい。王都に来るまえ、見る方法を教えてもらいました」

 

 陽二の言葉を聞いた王様は、間髪いれずに、身を乗り出すかの勢いで口を開いた。

 

「見たか?」

「はい。見ましたけど……なにかおかしな点でもありました?」

「実はな、今この国は厄介ごとを抱えていてな――――」

 

 王様と大臣のふたりは、この国の厄介ごとについて説明を始めた。

 

 この王都がある島の中央には、高い山脈が北から南に連なっていて、東と西を完全に分断している。こちら側にも魔物は住んでいるのだが、山脈を挟んだ反対側は、より強力な魔物の巣窟になっていると言われている。

 だが山脈のおかげで、強力な魔物がこちら側に来ることはできないが、2カ所だけ強力な魔物が通って来られる可能性のある場所がある。

 

 それは山脈の南北にある、東西をつなぐ低い土地。

 

 南側は谷間と言うこともあり狭く、建設してある砦も堅牢で容易に撃退が可能。しかも強力な魔物もめったに現れないためそこまで問題ではないが、今まさに厄介ごとと考えているのが北側。

 

 北側にも当然、塞き止める目的で砦が建設してある。がしかし北側は海に面した拓(ひら)けた土地になっていて、魔物も動きやすく迎撃しづらい。それに最近、砦の近くに魔物が集まりつつあると言う不穏な情報もあり、実際、散発的ながら砦に寄りつく魔物も出始め、戦闘に発展する場面もあると言う。

 

 そこで2カ月後をメドに、討伐作戦を決行する事が決まったばかり。

 

 ―――― なるほど読めたぞ! 俺の職業は勇者だ。決行日までに俺を鍛えて、定番である魔王を倒す勇者になれってことだな。

 

 そう考えた陽二は、まだ説明が続いている途中だったが口を開いた。

 

「それで? もしかして僕が勇者だから魔王と戦えと?」

 

 陽二がそう言葉を発した瞬間、沈黙が訪れた。驚愕、困惑とさまざまな感情が、王様を始め各々の表情に現れていた。その沈黙を破って声をあげたのはカリン。

 

「ええっ? 陽二って勇者なの!? て言うか魔王様と戦うの?」

「陽二殿!」

 

 カリンに続いて、すぐさま大臣も声をあげた。その語尾は強く、非難の色を含んでいた。

 

「は、はいぃ?」

 

 すっとんきょうな声を出してしまった陽二。その姿に悪意はなかったと感じた大臣は、努めて優しく諭すように続けた

 

「魔王は人族の味方なのです。それも、多大な恩がある。現在進行形でな……戦うなどあり得ません」

 

「済みませんでした!」

 

 陽二は自分の勘違いに気付き、机にデコをこすり付けると、すぐに謝罪を入れた。その肩に軽く訪れる感触があった。『ドンマイ』という事だろう。顔をあげた陽二にカリンは、励ます言葉をかける

 

「陽二は、この世界の常識に疎(うと)いんだから気にしないの。ほら、話の続きを聞きましょう?」

 

 なんて優しい娘なのでしょうか。陽二は感謝感激で落ち着きを取り戻すと、ふと、視線に気づいた。

 すると、王国兵士の皆さまが、怖い顔で陽二を睨んでいた。『しばくぞ?』と言わんばかりに

 

 ――――今は弱っているので勘弁(かんべん)して欲しい。精神的な意味で。

 

「魔王の事は置いといてだな、陽二!」

 

 王国兵士の視線に戦慄を覚えていた陽二に、王様が声をかける。

 

 ―――― えっ魔王ですよ? 置いちゃうの?

 

「その前に……大臣とパトリック、陽二を残して他の者は退室するように」

「私もですか?」

「もちろんだ、大事な話がある」

 

 陽二が失礼なことを考えている間に、カリンを含め退室を求められた者が部屋を出ていく。すると目の前にいる王様から温和な表情は抜け落ち、気高き王の顔になっていた。

 

「さて、そうだな……話をする前に、聞きたいことがあるのだが」

「何でしょうか?」

 

 人払いをしてまでの話。陽二の中に緊張が走った。

 

「陽二は勇者だな」

「そうで……みたいです」

 

「陽二は……魔物と戦う気はあるか?」

「すみません、全くないです。恐いし……」

 

「……そうか、元の世界に戻りたいか?」

「いえ、それは全く」

「……ふむ」

 

「人払いの必要はなかったな……」

 

 簡単な質疑応答を済ませると、王ダグリオスは考え込む。

 ―――― 魔物と戦い帰る気があれば、事が済みしだい褒美を与えて、騙(だま)してでも帰したが……戦いたくない。この世界に残りたいと言うのであれば、予定どおりアレを試してみるか……

 

「……? あのぉー」

 

 あの質問は何だったのか? 陽二の中に不安が広がる。ペースは、完全に王様が握っていた。

 

「陽二は、この国がどうなっても良いと言うのか? 勇者がおらねば、北での戦いは厳しいものになるだろう。へたをすれば人族は滅びる」 

 

  (さすがに滅ぶまではないが、北の砦は駄目だろうな)

 

「それでも残りたいのか? しかし残念ながら、勇者はこの国に滞在する事は許されない」

 

 ―――― えっ? 勇者は滞在できない? じゃあ結局帰れって事じゃないの? それとも魔物と戦えば滞在できるとか?

 

「残りたいですけど、魔物と戦うのはちょっと……ちなみに、魔物と戦わないで、元の世界に戻るって言ったら?」

「そうだな――。間に合えば、人族が滅ぶ前に帰れるかもしれんな。だが、有事が優先。帰還転移門に魔力をそそぐ余裕はない!」

「ぐはっ」

 

 

 ――――な、なんだと……とどめをさされた。

 王様、いやこのオッサンは結局『死にたくなければ魔物と戦え』と言ってるようなもんじゃないか!

 しかし、作戦決行までの2カ月で強くなれるのか? レベル0で全くの素人。下手をすれば一撃で死んじゃう可能性も――

 くそ! せっかく第二の人生を楽しめると思ったら暗礁(あんしょう)に乗り上げて沈んじゃうのかよ……

 

 仕方がない、腹を決めるか。

 サクセスストーリーを決めて『勇者様ステキ。是非とも国に残ってください!』って言わせてやる!

 

 

「王様、俺やります。魔物と戦います!」

「いや、もうよい」

 

 ―――― はっ? な、何ですと……せっかく腹を決めたのに。舐めてんのか?

 

「おいコラ、ジジイ! ちょっと便所こいや!!」

 

 いろいろ考えて出した結論を、まさか断られるとは……陽二は、王様に向かって思わず口が大滑りしてしまった。

 

 

 *

 

 

 牢屋の中で、一人暮らしを満喫している男がいた。

 

 王様は、陽二に怒鳴(どな)られても笑っていたが、罵声に驚いた大臣のひと声で、部屋の中に王国兵士が雪崩れ込んできた。通常なら取り押さえられるだけで済みそうなものだったが、王国兵士数人が、陽二を小突(こづ)いた。(主にカリンの件で軽くだが)

 そのあと、ポイッとマンガのように牢屋へ放り込まれたわけだが……そのポイッとされた陽二は、ステータスを開いて見ていた。

 

 《スキル 異世界人 愚者(ぐしゃ)》

 

 どのような理由でかは分からないが、変なスキル『愚者』が増えていた。まあ、しゃーないか。と考えた陽二は、流れに任せる事で考るのを放棄した。

 

 水(イガネオ)でのどを潤し

 風(ギフト)で時間を確認する。

 

 《20:15》

 

 暇だったので、いろいろと試していたら水(ギフト)や風(ギフト)でも、魔法が発動するのを発見した。投獄から2時間ちょっと、まだ小突かれた場所が痛い。

 すると王国兵士がやって来て、ガチャガチャと『外に出ろ』と言いながら牢屋の鍵を開けてくれた。

 

「さっきは済まなかったな、頭は冷えたか? 王がお呼びだ、来い」

 

 さすがにやり過ぎだと思ったのか、陽二は一応の謝罪を受けた。

 

「ちょっとは手加減してくださいよ、て言うか小突く必要ありました?」

 

 さんざん小突いてくれた兵士に連れられ、王様の待つ部屋に案内される。

 

 招かれたのは、簡素な8畳程の小さな部屋。

 部屋の中には、王ダグリオスとパトリック。それと10歳くらいの女の子が待っていて、中に通されると王国兵士はそのまま部屋の外で待機。

 

「陽二、先ほどは面白かったな、久々に笑ったぞ」

「僕は痛かったです。でも失言でした、すみません」

 

 陽二が謝罪をするも、王ダグリオスは失言を全く気にしていなかった。むしろ楽しんでいた様子さえ見え隠れする。そして、どうでもいいとばかりに一緒に居る女の子を紹介する

 

「娘のパトリシア=クルシュナインだ」

 

 陽二は、紹介された女の子に目を向ける。

 パトリシアは、黒髪を首上から2つに分けているツインテール。瞳も黒。まつげは長くてちょっとだんごっ鼻。かわいく小さな唇の色白顔。

 スカートは、フリルのついたお嬢さまっぽいのを着ているのに、上はTシャツにカーディガンみたいなのを羽織(はお)っているだけ

 

「初めまして王女様、愚者の陽二です。かわいいですね」

 

 陽二は頭を下げつつ、ついつい余計なことを口走ってしまった。しかしパトリシアは無表情のまま。陽二のあいさつにも無反応。

 

「……」

 

 あいさつが馴れ馴れしかったのか、どうやら怒らせてしまったみたいだ。しかし、王ダグリオスがすぐさまフォローにまわる。

 

「陽二。シアは今、ちょっと元気がなくてな……まあ気にしないでくれ」

「は、はい」

 

 良かった。嫌われているわけでも、あいさつに失敗したわけではないと、陽二は安堵する。

 ―― 何があったか知らないけれど、元気がないのか……

 

 そんなパトリシアに向かって、王は笑みを送ると

 

「シア、陽二の治療を頼めるか?」

「………」

 

 と訪ねる。パトリシアは無言のまま小さくうなずくと、わずかに聞き取れる声で魔法を唱えた

 

「火の療法(ファイヒール)」

 

 えっ魔法? と驚きを見せる陽二の体を温かい光が包み込む。と言っても実際は見えていないのだが、そう感じたのだ。

 すると、体中から痛みとともに小突かれた跡が消えた。

 

 ―――― おおっ、回復魔法か!?

 と不思議体験ビックリ仰天の陽二だったが『あ、ありがとう、パトリシア様』と、礼で返す。

 

「……」

 

 にもかかわらず、やっぱり反応はなかった。

 陽二は(たぶん)ロリコンではないが、かわいい女の子は年齢関係なく好きである。性的な意味ではないので、誤解のないように。あと、言葉のキャッチボールができればもっといいのだが……残念ながら、パトリシアサイドに歩み寄る気はないようだ。

 

 

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