※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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ラルドルフ兄妹/話が進まないので、ダンジョンへ行こうよ /カリン合流

 「前回のゼラニオン!」

 

 桜ちゃんたちがお兄さまを探しに行ったあと、シアたちは野営地でお留守番をしていました。

 そこに、砂ぼこりを巻き上げてやって来たのは……

 な、なんと、ファイヤーイグナスでした!

 

 結局敵じゃなかったんだけどね! てへ

 キャロラインちゃんて言う名前で、お兄さまとハヅキさんを送ってきたの。

 そのあと、お兄さまの力で森をすいすいと抜けて王都に帰りました。ジェームスさんも一緒に。

 

 お母さまが生還した騒ぎが大きくて、色々な事があったんだけど、とにかくカットするね。ご想像にお任せするよ。

 そして困った事がありました。お父さまが、ナーナちゃんに取り次いでってしつこい。ホントにしつこい!

 そのせいでナーナちゃんは、王宮の外にばっかり遊びに行くようになりました。

 お父さまのあほ!

 今度は、シアとお母さまの邪魔ばかりしてきます! もお! あっちに行って! お父さまは、夜になったらお話できるんでしょ!

 

 お兄ちゃんが王宮にやって来ました。

 ナーナちゃんの姿が変わっていたのにはびっくりしましたが、お兄ちゃんと無事再会できてよかったよ。

 

 お兄ちゃんがお父さまと面会したんだけど、そこでまた騒動が!?

『陽二感謝させろ!』

『俺は何もしていない』

『この感謝をどこへ向ければいいのだ!』

『ゼラニオンを呼べばいいだろう。ブラック抜きで!』

 

 感謝を伝えたいお父さまと、感謝を受ける資格はないと言い張るお兄ちゃん。年甲斐もなくお兄ちゃんにタックルするし、テーブルの上に登っちゃうし……

 シアは、見てるだけだったから面白かったよ。ナーナちゃんは、うんざり顔だったけどね。

 

 最後は、お母さまの『お礼をかねて、夜の食事をご一緒しましょう』のひと言で終わったよ。

 そしてシアは今日1日、お兄ちゃんと一緒に行くことになりました。ナーナちゃんの服を買いに行ったあと、練習ダンジョンに入るんだって。

 

 スノームの町に転移したシアたち。ナーナちゃんの服を買ったり、婦女暴行の犯人と戦ったりと大冒険! お友だちもできたよ、名前はリンメルちゃん。その子の案内で、市場に行ったんだあ。

 すっごい楽しかった!

 そしてお兄ちゃん、そんなにたくさんの食べ物を収納できるなんてびっくりだけど、それ、どうするの?

 

 リンメルちゃんのお店で、お料理に挑戦! お兄ちゃんは、おいしいって言ってくれたよ。変態さんのお弁当のおいしさには驚いたけどね!

 そんなこんなで、楽しい時間を過ごしていたシアたち。するとリンメルちゃんから依頼が!

 わくわくするね。シアに任せといて!

 

 

☆☆☆

 

 

「しばらく待っててほしいっす!」

 

 そう言って、お店を飛び出したリンメルを持つこと10分。リンメルは、件(くだん)の兄妹を連れて戻った。

 

「シアさん、陽二さん、お待たせっす! こちらがラルドルフ兄妹で、兄がガナット。妹がガナシャっす」

 

 兄は、見るからに見習いの冒険者という雰囲気で、妹はどこかおどおどしており、頭からすっぽりフードを被っていた。

 

「初めましてガナット・ラルドルフです。本日はよろしくお願いします。リンメルさんに言われて来たんですが……本当にお金を払わなくてもいいのでしょうか?」

「うん、要らないよ。シアたちもダンジョンに入る予定だったんだし、皆で行けば楽しいよ」

 

 返ってきた、パトリシアのあどけない言葉を耳にしたガナットは

「ははは、楽しい(・・・)ですか……」

 乾いた笑いを吐き出し、どこか疲れたような表情で呟(つぶや)いた。

 

 △△

 

 ラルドルフ兄妹の出身地は、セナドゥースから西に5kmほど進んだ、結界路沿いにある小さな村『アバンヴィレジ』。昔は調合の聖地とまで呼ばれ繁栄していた時期もあったが、結界路設置の際に村は分断され、消滅しそうになった過去がある。

 人口は200名ほど。獣人の特色を持つ人が多く暮らしていて、主に柑橘(かんきつ)類やバラ科の果物を栽培して生計を立てている。また、目立った観光はなく行商人の他に訪れる人は少ない。

 

 この村で育った妹のガナシャは極度の人見知りで、他人に対して引っ込み思案な女の子だった。兄のガナットが、セナドゥースへ住み込みで働きに出るまでは、外出する彼女の隣には兄の姿がしばしば見られた。

 

 そんな彼女に転機が訪れたのは、兄に会うためセナドゥースへ遊びに行った時だ。

 各町に派遣されている魔法学校のスカウト、その目に彼女の使ったイガネオ(ギフト)が、属性魔法と見間違えそうな、魔力に溢れたイガネオが止まったのだ。実は彼女、土の加護(精霊の加護)を持っていたのだ。

 

 スカウトは、彼女に魔法学校への入学を打診した。

 加護持ちで、魔法が発動する1歩手前のイガネオ。これほどの好材料が揃(そろ)っているなら、『魔法師見習い』になり勉強(レベルアップ)すれば、魔法(スキル)を得るのは確実だと。

 

 ガナシャは断った。

 当然だろう。極度の人見知りに、内向的な性格。不安の塊しかないのだから。

 しかし、自身の昇給や出世もあるが、能力のある人材を自分の手で世に送り出す使命感を持つスカウトは、諦めない不屈の精神で、彼女を説得した。

 

 口説き文句は数あれど、その中でも

『魔法師になれば、お兄ちゃんの助けになる』

 が、最も彼女の心を動かしたのである。

 

 彼女の兄、ガナットには夢があった。それは、自分が育った村に店を持つ事である。もし彼女が魔法師になれれば、お抱えの魔法師として『入法』で兄の手助けになれるのだ。

(『入法』とは、属性魔法を各種道具に籠める事。一般的には魔弾が有名だが、耐性を持たせる為の道具など数は多い)

 

 ―― お兄ちゃんの役に立てる

 彼女の決心は固く、両親も賛成してくれた。しかしながら、人の性分はそう簡単には変わらない。

 ではどうするか? スカウトの出番だ。

 彼女は、特待生での入学が決まったのだ。

 

 特待生は寮制で、授業料だけでなく寮費と食費なども国から支給される。また、一般の生徒と必ずしも授業を受ける必要はないので、彼女には打って付けだと言えた。

(カリンは、さらに上の特別特待生であるのと同時に、パトリックの婚約候補であったため王宮に住んでいた)

 

 特待生として寮暮らしを始めた彼女は、勤勉に努めメキメキとレベルを上げた。それは誰もが目を見張る驚異的なスピードで、講師の間でも話題になると、ある特徴と共に噂が瞬く間に生徒にも広がり、特別特待生のカリンに次ぐ有名人になってしまった。

 

 彼女には、噂になるほど人を虜(とりこ)にする、身体的特徴が2つもあった。

 それは、狐人(フォクシー)特有のペタンと倒れた大きな耳と、ふわっとした太い尻尾。

 耳は、触れればピンと伸びてピコピコと動き、尻尾は、ふわっふわで触っているだけで顔がにやけてしまう。持たざるものからすれば堪らないのだろう。

 

 (通常、耳に獣人の特徴が出る確率は10%と言われているが、尻尾が出る確率は1%未満である。ちなみに魔王のダンジョンに住んでいる純粋な獣人でも、尻尾を持っている数は半数以下である。2本足で歩き出した者にとって、尻尾は弱点であり、清潔に保たなければならない面倒な部位である。そのため必要性が薄れており、退化したとも赤ちゃんの頃に切断してるとも言われている)

 

 それだけでも倍率ドンの状態なのに、さらに倍率ドンの美しい稀有(けう)色、銀灰色(ぎんかいしょく)だったのだ。

 

 そんな彼女を一目見ようと生徒が集まるようになり、無口で小さくてかわいい彼女に、とうとう触れようとする輩が現れ始めた。

 耳や尻尾は敏感な部分である。内向的な彼女は何も言えず、真っ赤な顔で我慢していた。

 翌日から尻尾を背中に縛って隠し、黒いフード付きマントを羽織って生活するようになったが、抵抗むなしく部屋まで押し掛ける生徒や、わざわざ入浴の時間を狙ってくる女生徒まで現れ始めた。

 

 この騒動で対人恐怖症になってしまった彼女は、魔法(スキル)を得ることもできず、以前の魔力に溢れていた『イガネオ』もなりを潜めてしまい、落ち込んだまま退寮に追い込まれた。

 

 実家へ逃げるように帰った彼女は、そのまま魔法学校を止めてしまうかに思われた。

 でも、兄の力になりたい。

 そんな諦めきれない彼女の背中を、両親が後押しした。とは言え、通学に切り替えた彼女の食費や交通費は、裕福とは言えない彼女の家には大きな負担だった。

 なので彼女は、往復20kmの距離を走る事にしたのだ。

 

 通学に切り替えた彼女は他の生徒と接触が減り、肉体的には辛かったが精神的に楽になれた。それと、嬉しい出来事が増えた。なんと、憧れのカリンがたまに学校の前に居て、飲み物を投げ渡しながら声をかけてくれるようになったのだ。

 

 彼女から見れば、魔法も使えて大人で綺麗なお姉さま。雲の上の存在と言ってもいいほどの人物だ。

 たとえ対人恐怖症だとしても、そんな超有名人から声をかけられてしまえば、舞い上がってしまうのも当たり前だ。お礼を言うのも忘れて、毎回去って行く姿を目で追うだけになっていた。

 

 そんなこんなでレベル9になった彼女に、魔物討伐の壁が迫っていた。しかし対人恐怖症の彼女は、学校行事の魔物討伐に参加できずに困っていた。怖いのだ。

 そこで彼女は、またもや決意した。

 

「魔法師になってくる」

 

 両親にそう告げた彼女は、貯めたお小遣いを片手にスノームまで走った。彼女のステータスは、普通の魔法師に比べると

 HP80/MP50

 と高かったので、1人でも魔物討伐を果たせると考えたのだ。

 

 しかし、結果は散々だった。歯を食いしばり頑張ったが、下手に増えたHPが仇(あだ)となり、苦しみが増えただけだった。死の苦しみを何度も体験した心は

 ―― もう、無理

 と、バキバキに折られ、とある店の前で絶望に押し潰されたまま蹲(うずくま)っていた。

 

 そんな彼女に優しく声をかけ、温かいスープをご馳走してくれたのが、赤い耳をピコピコと動かすリンメルだった。

 彼女は、リンメルに今まで我慢していた気持ちを爆発させた。

 声を荒げて、怒鳴る様に愚痴ったのだ。

 何を言ったのか覚えていないが、止めどなく溢れる涙を、リンメルは優しく包み込んでくれた。

 

 家に帰る気にもなれず、お店の手伝いをしながら過ごしていると、密かに知らせを受けた兄ガナットが、調合師見習いから冒険者見習いにジョブチェンジして訪ねてきた。

 

「話は、全てリンメルさんに聞いた。どうして相談しなかった。俺は、ガナシャの兄でヒーローだ!」

 

 村でいじめられたとき、危ない獣に襲われたとき、困った事があったとき、いつも助けてくれたのはガナットだった。

 彼女にとって、ガナットはヒーロー(ゼラニオン)なのだ。

 

 しかし、だからこそ黙っていた妹心。言えば絶対に駆け付けてくれると分かっていた。自分の夢を(・・・・・)中断してでも(・・・・・・)

 だからこそ、兄の足を引っ張るようなまねはしたくなかったのだ。

 

 だが兄ガナットは、妹ガナシャのために、冒険者見習いになってやって来た。

 俺が、お前を魔法師にしてやる! と言わんばかりに。

 ガナットは調合師見習いで貯めたお金で、リンメルの助力のもと武器と防具を揃(そろ)えた。

 そして練習ダンジョンに、兄妹2人でアタックを開始したのだ。

 

 それから1週間後、借りた部屋に背中合わせで座る兄妹がいた。その表情は、絶望の闇に囚われていた。

 

 ガナットは魔物を舐めてはいなかったが、想像以上だった。

 冒険者見習いなり立てのガナットなど、スライムにワンパン。1人残されたガナシャは、またしても死の驚怖の時間(痛み)を味わう事になってしまった。

 

 それからも色々な方法を試した。

 ガナットが戦い、その後ろで回復薬や蘇生薬を使いまくるゾンビアタックなど……だが、1匹も倒す事はできなかった。

 ただただ、お金を浪費していくだけで、さすがのガナットも死の痛みで、心がバラバラに折れた。

 

 と、そんな感じの説明を受けた陽二は、不器用な兄妹だなぁと、もっと簡単な方法があっただろうにと思っていた。

 だが、病という物は患(わずら)った当人にしか絶対に理解できない世界。外野が簡単に口を出していい問題ではない、ということは理解していた。

 

「とりあえず、これでも食べてよ」

 

 彼は、王様と王妃に食べてもらおうと思っていた包み(おにぎり)をガナットに投げ渡した。レヴィアタンの分は確保してあるので問題はない。

 

「気落ちしている時は飯だ。とにかく食べて元気になろうぜ!」

 

 △△

 

 彼が投げ渡したおにぎりをキャッチしたガナットは、訝(いぶか)しむ様子であったが、ゴクッと唾を飲み込むと、2つとも妹の手に握らせた。

 

 兄のガナットは身長170cmでやや細い体をしており、黒髪で黒い瞳。頭以外に革の防具を装備していて、短剣と小さな盾を持っていた。

 妹のガナシャは、黒いフード付のマントで体全体を隠していて、顔を隠すようにずっと下を向いている。身長はパトリシアより若干大きく、頭の部分が、おかしな感じて盛り上がっていた。

 

「俺の名前は陽二。このかわいい子が俺の妹のパトリシアで、その隣が精霊のナーナです」

 

 彼は自己紹介しつつ、それとなく妹の部分を強調した。

 

「取りあえず、おなか空いてない? ダンジョンに入る前に腹ごしらえと、どの様にサポートすればいいか相談しようよ。ねえリンメル、これで何か作ってよ」

 

 銀貨を1枚渡そうとする彼、しかしリンメルは首を振った。

 

「ガンネの種がたくさんあるので、座って待ってるっすよ」

 

 彼の男気に女を見せたリンメルは、早速、料理を開始だ。その姿にヒューっと心の中で口笛を吹いた彼は、やかんとコップを借り、やかん一杯に冷たい水を作った。

 それをテーブルの真ん中に置いて全員に水を配ると、のどを潤してから話を始めようとすると

 

「これ冷たいけど、どうやったの?」

 と、パトリシアが驚きの声をあげた

 

「水魔法の応用。魔力を操作して温度を変えるんだよ」

「ふーん。ちょっと練習してみるね。お兄ちゃんはどんなイメージでやってるの?」

 

 ―― どんなイメージか……

 

 彼は『分子の動きが遅くなれば冷える』みたいな考えで冷たくしていた。

 

「水の中には小さな精霊さんがいっぱい住んでいて、常に走り回っているんだけど……温度を下げたいときは精霊さんに『止まって』ってお願いするイメージかな? 逆に『動き回って』ってお願いすると熱くなるよ」

「お兄ちゃん。すっごくわかり易いよ」

 

 それを聞いたパトリシアは、イスを飛び降りると兄妹の話はそっちのけで、練習を始めに隅っこへ移動。好奇心が高いのか、魔法の面白さに目覚めたのか、とにかく見習うべき姿勢だろう。

 

「まほう?」

 

 するとその時、かろうじて聞き取れる程のか細い声で、ガナシャが呟いた。顔をあげたガナシャの顔が見えたが、つぶらな瞳はおどおどしているようだった。

 

 ―― そうだ!

 

 彼はナーナを後から抱っこして、ガナシャの隣に近づいた。するとガナシャはビクッとして、逃げるように兄へ抱きついた。

 

 ―― めっちゃビビられてるし……しかし!

 

「ガナシャちゃん見えるでしょ? 精霊のナーナですよー」

 

 捕まっているナーナは、訳も分からずキョトンとしていた。

 

 ―― だがしかし、その態度がいいのだよ。見せ物パンダならぬ、見せ物ナーナ。ガナシャちゃんの心を鷲掴みにするのだ!

 

 するとガナシャは、おそるおそるチラ見を始めた。

 

 ―― そうそう。こんなかわいいナーナを目の前にしたら我慢できないよねー

 

 もう一息。そんな彼の考えが通じたのか「ナーナ?」とナーナがガナシャに呼び掛けた。すると、小さく「ナーナちゃん?」と返答あり。

 

 ここだ! 彼は、抱き着かせる感じでナーナを押しだした。

 その拍子に頭のフードをナーナが掴(つか)み下ろすと、銀灰色の髪の毛の中に、驚いた拍子で大きな耳がピンと立った。

 

 ―― かわいい!

 

 リンメルと同様に人のように髪の毛があって、その中から耳が飛び出し側頭部にかけて生えていた。よく観察しようと彼が目を凝らすも、ガナットが慌ててフードを戻し声を上げた

 

「何をしたんだ!」

 

 ナーナの姿が見えていないガナットには、何が起きたのか分からなかったのだ。

 

「お兄ちゃん、精霊さんかわいい」

「えっ?」

 

 呆ける兄の前で、ガナシャはナーナの頭を撫(な)でたり、頬っぺたをツンツンしたり、においを嗅いだりギュッとしたりと、とにかくナーナを構いだした。

 ナーナも負けじと反撃だ! 頬っぺたを抓(つね)ったり、耳をツンツンしたり頭を撫(な)でたりしだした。

 

 ―― 緊張ほぐし作戦成功したけど、それってグルーミング? 俺も混ぜて欲しいなぁ

 

 彼はその光景を見て、アホな考えを巡らせていた。

 

 △△

 

 ナーナのおかげで、ガナシャが少し心を開いた。

 

「ガナシャ・ラルドルフです。本日は、よろしくお願いいたします」

 

 ―― しっかりとした子だなぁ……

 礼儀正しいガナシャの言葉は、陽二の心をがっちり掴んだ。

 

「レベル上げだよね、がっちり任せといて。それでガナット君はどうする? そのまま冒険者になるわけ?」

「ガナシャの見習いが取れれば、調合師に戻ろうと思っています」

「そっか、夢だったんだよね」

「はい。俺の村は、調合の聖地とまで呼ばれていました。なんとか盛り上げたくて……素材だって良いのがたくさんありますし、何か名産品になる物が作れればと、小さい頃から思っていたんです」

 

「私は魔法を覚えたら、お金をいっぱい稼いで両親におっきな家を建ててあげたい」

「ステキな夢だね。なら今日中にレベルアップを目指してがんばろう! もしあれなら、明日も手伝うしね」

「「ありがとうございます」」

 

 そんな話をしていると

「陽二さん。ありがとうっす」

 と言いながら、リンメルが料理を運んできた。

 

「二人とも食べるっすよー。今日は奢(おご)り」

「リンメルさん。いつもすみません」

「リンメルさん。ありがとう」

 

 ラルドルフ兄妹が食事をしているのを待ちながら、彼は隣に座ったリンメルと話を始めた。ナーナはガナシャに捕まっていて動く事ができない、どうやら気に入ったようだ。

 

「陽二さん。本当にありがとうっす」

「礼はまだ早いよ。それに、見習いの卒業よりも魔法を覚えなきゃ意味がないしねぇ」

 

「よ、陽二さんは、魔法を使えるのですか?」

「まあね」

 

 完全に打ち解けたのか、モグモグしながらガナシャも話に参加してきた。いい傾向である。

 と彼が思ったその瞬間、ナーナは魔法の練習をしているパトリシアの方へ脱走。

「あっ」少し残念そうに声を漏らしたガナシャは、パトリシアに目を向けると

 

「あの子も私より小さいのに魔法を使っています」

「すごいっすよね……」

 とリンメルも追従の声を上げた。

 

 2人は、ときおり見える魔法の『残光』とでも言えばいいのか、それを発生させているパトリシアを見て、落胆の表情を浮かべていた。

 

「あの子は天才だからね。自分と比べちゃダメだよ」

 

 今から自信を失っては困ると、彼はそれとなくフォローだ。

 

「そう言えば陽二さんって冒険者ですよね。以前は魔法師だったんすか?」

 

 リンメルとガナシャの耳がピーンと立った。聞く気満々らしい。

 

「違うけど」

「なら、どうして魔法を使えるっすか? 生まれつき?」

 

 またまた耳がピコピコしていた。

 どうやら、興味のあることや警戒していると、耳が存在をアピールする仕組みのようだ。

 

 ―― しまったな……

 

 彼は、またやってしまったと反省していた。軽く『違うけど』と答えたが、魔法を使える人材は少ないのだ。それなのに、冒険者で魔法も使えるなどど……探せばそんな冒険者もいるだろうが、稀(まれ)だろう。

 

 ―― さて、どう説明するべきか

 

 呼称発動の事を言ってしまえば、魔法を使える事は説明できる。しかし、そのスキルを持つ『魔法術師』は、間違いなく魔術師よりも上の職業なのだ。

 

 ―― 元は魔法師だったって言えば良かったか? まあいっか、適当に誤魔化そう。

 

「突然、体の中に眠っていた才能が開花した。みたいな?」

「あーなるほど、極稀にいるらしいっすね……」

 

 リンメルとガナシャは、ジーと疑いの目で彼の目を見つめた。別に悪い事をしているわけでもないのに、彼は、冷や汗が出る思いだ。

 

「陽二さん。教えてくれたら、ガナシャの耳を触らせてあげるっすよ」

「そ、そうです。教えてくれたら私の耳を……えっ! な、なにを言うんですか、なんで私の耳を……」

 

 妹の危機を感じ取ったガナットが、すかさず声を上げた。

 

「リンメルさん止めてください。どうしてガナシャなんですか? 自分の耳を触らせてあげればいいじゃないですか」

「冗談、冗談」

 

 ―― 耳を触るのってエッチな事じゃなかったっけ? おかしいなぁ聞き間違いかなぁ

 

「それで、本当はどうして使えるようになったのですか?」

 

 ―― 必死か! って当然か……。まあ、適当に言っても見破られるだろうし、桜から聞いた話を混ぜつつ説明してみるか

 

「実はね、魔法ってのは誰でも使えるんだ。ただね、固定観念が深層心理に深く『使えない』と突き刺さっていると、ダメ。俺は、桜に教わったお陰で『使えない』を『使える』ように変えられたから魔法を使えるんだ」

 

 ――こんな感じでどうだろうか? あっしまったな、生まれつき魔法が使えるってのに、のっかれば楽だったな……

 

「さ、桜!? 私は1人しか知らないっすけど、もしかして……姫の事っすか?」

「違うと思うけど……姫って?」

「姫を知らないんですか?」

 

 有名人らしく、リンメルもガナシャもガナットも、信じられないと顔を見合わせた。しかし、姫のお陰で話がそれた。彼は、この波に乗るべくパドリングを始めた。

 

「俺の知ってる桜は『ぢゃ』て口癖で、赤毛でチビでロリで生意気で……」

 

 と、そこまで口にした彼は、頭の中に『盗撮』の2文字が浮かんだ。

 

 ―― ヤツは油断ならねえ。もしかしてって事もあるし、念のため軌道修正だ!

 

「てのはジョークで、艶々(つやつや)な赤毛で、小さいけど大人の考えを持った、気品のある素晴らしい女性かな。誰にでも優しいしね」

 

「お~間違いないです」

「間違いないっす」

「間違いないです」

 

 3人が、間違いないと口を揃えた。

 ―― 間違いなく他人の空似(そらに)だな

 

「まあ、その女性に教わったんだよ」

「できた!」

 

 突然、流れを断ち切るようにパトリシアが叫んだ。

「シア、どうしたの?」と声をかけると、お店の容器を持ってタタタッとやって来た。

「お兄ちゃん。見て見てっ!」

 

 ―― なっ!?

 

 容器の中を確認した彼は、驚愕(きょうがく)した。なんとパトリシアは、魔法で氷を作っていたのだ。

 

「シ、シアさん。やるじゃないですか……まさか氷を作ってしまうとは……」

 

 触ってみると、拳大の氷。まさに氷。紛れもなく氷だった

 

「水魔法でね、冷たくするのはすぐに出来たんだけど、凍らせるのが難しくて……。でね、火魔法を組み合わせてみたら氷ができたよ!」

「へ、へぇ~」

 

 ―― どうして火魔法を組み合わせると凍るの? 普通ならお湯になるんじゃない?

 

 パトリシアの言っていることが、全く理解できない彼であった。ちなみに氷を作るのは水+風でも可能で、氷になるプロセスさえイメージ出来れば、他の組み合わせでも問題ないだろう。

 

「あ、あの、冷やすとか凍らせるとか、全く理解できないんですが……。そもそも2属性の魔法を使うとか、凍らせるって、氷魔法?」

 

 ガナットの言葉に、ガナシャもリンメルも信じられない様子で頷いていた。その姿は間違いなく混乱のるつぼ。そして陽二もその1人だった。

 

「氷魔法か分からないけど、基本の4属性なら全て使えるよ。シアも、桜ちゃんに教わったんだぁ」

 

 パトリシアのひと言で大騒ぎになったが、固定観念と深層心理。その話を裏付ける出来事になっていた。

 

 △△

 

 陽二たちは、リンメルの店を出て新人/練習ダンジョンの前まで来ていた。魔法や桜の事で質問攻めが始まり、このままでは時間がなくなると考えた彼が、ダンジョンの中に入ってレベル上げをしながら話をしよう。と提案したのだ。

 

「ガナットくん。蘇生薬だけは買っといて」

 

 全員でパーティーを組んで、ナーナを先頭にラルドルフ兄妹、パトリシアと順番に入る。そして彼が入ろうとしたまさにその時、声をかけられた。

 

「陽二、待って!」

 

 振り向くと、黒いローブ姿で艶々の長い黒髪を靡(なび)かせたカリンが、剣を片手に息を切らせながら走ってきた。

 

「私も、陽二のパーティーに入れて!」

「カリン?」

 

 パトリシア達が先に入っているので、取りあえずパーティーだけ組んで「中で待ってるから」と伝えて中に入った。

 そしてカリンは、受付を手早く済ませるのだった。

 

 △△

 

 新人/練習ダンジョンの地下1階は、見晴らしのいい原っぱだ。しかし、草の中にスライムが隠れている場合があるので、注意が必要になる。

 また、所々に木が生えている場所が設けられてあるが、その周囲10mは、草が生えておらず見通しが良いので、休息する場所に最適だ。

 

 そしてこの階に出現する魔物は、各属性の魔法を使うスライムとノーマルのスライム、そして小型のオーブタの3種類のみ。

 ノーマルのスライムは体当たりがメインで、直線で突っ込んでくるオーブタと対処法は同じで、攻撃を避けたあとにできるスキを狙う。

 魔法を使うスライムは、放つ前に体が光るので、魔法を撃たせてから反撃するのが安全だ。

 

 陽二たちは、入口付近の木の下でカリンが来るのを待っていた。

 

「来た来た。カリンこっちー」

「突然ごめんね陽二。お待たせって……シア! それとあなたは……ガナシャ・ラルドルフよね」

 

 同じ可憐ウィッチの仲間と言うことで、カリンは『シア』と呼ぶようになっていた。

 

「カリンはどうしてここに? ハイキング?」

「そんな訳ないでしょ!」

 

 カリンは、パトリシアのフリにボケなかった。どうやら腕が鈍ってしまったようだ。

 

「ノリ悪ぅ。そこは、ボケて突っ込むとこだろう?」

「陽二と一緒にしないでくれる?」

 

 そんなボケないカリンの前に、先ほど名前を呼ばれたガナシャが、飛び出てフードを取った。

 

「あ、あの。ガナシャ・ラルドルフです。飲み物ありがとうございました。きょ、今日はお日柄もよろしく、ハイキングにはびっくりの日でしゅ」

 

 カリンは、脳内で「陽二が感染してるわね」と呆れていた。そして、ジト目を彼に向けた。

 

「びっくりしてどうするんだよ、ぴったり! そしてかむな」

「しゅ、しゅみましぇん」

 

 憧れのカリンを前に舞い上がり、ガナシャはどこか彼方(かなた)に飛んで行ってしまったようだ。

 

「この子も仲間なの? 陽二って、本当に守備範囲が広いわね」

「まあ事情があってね――」

 

 とまあ、いらぬ誤解を受けた彼は、リンメルのお店で紹介されて、レベル上げを頼まれた事を説明。

 

「ならちょうど良かったわ。私のレベル上げも手伝ってくれないかしら?」

「レベル上げ? カリンの?」

「お、お姉さまも、魔法師のレベル上げでしゅか?」

「誰がお姉さまよ、カリンでいいわよ。仲間なんだから気にしちゃダメよ。それと、魔法師はやめて冒険者になってきたの。ふふ、目指すは魔法剣士よ!」

 

 魔法剣士とは、その名の通り魔法も使えて剣の腕も立つ職業の事だ。冒険者の数ある上級職のひとつ。

 スキルに剣術と魔法があれば、レベルアップの際に職業として得られる可能性があり、その場で転職も可能だ。

 魔法師と同じく魔法の威力が向上し、魔法を覚える事もある。

 HPとMPも高く力もある強い職業だが、魔法師(・・・)からわざわざなろうとする人は、まずいない。

 

「冒険者になったの? おめでとう、で良かった?」

「本当にやめたんだぁ……おめでとう」

 

 パトリシアは、魔法師をやめるという話を聞いていたようだ。

 それを聞いたガナシャは、唖然としていて、ガナットは空気に、ナーナは周囲の警戒をしていた。

 

「お姉さま。どうして魔法師をやめたのでしゅか?」

「カリンって呼びなさいって言ったでしょう? それと、おどおどしないでシャキッとしなさい!」

 

 カリンは、ガナシャの背中をバンッと叩き気合を入れる

 

「す、すみません。ガナシャ・ラルドルフがんばり、ます!」

 

 そのやり取りを見ながら彼は考える。

 ―― 冒険者になった経緯は次の機会に聞けばいいとして、レベル上げを始めなきゃな。王宮には19時くらいに着けばいいから、レベル上げできる時間は6時間程度か……

 

「よし、ちゅうもーく!」

 

 彼の呼び掛けで、話を止めた女子たちが目を向けた。

 

 ―― あれ? ナーナとガナットくんは……

 

 彼はナーナとガナットの姿を探した。

「マジか!?」

 

 草むらの近くで、スライムに取り憑かれているガナットを発見した。それを必死に外そうとしているナーナの姿も見えた。

 ファイヤーテールで倒すにしても、ガナットまで巻き添えになってしまうので、困っている様子だった。

 

「ガナットくん!」

 

 彼は大慌てで駆けより、剣を差し込んでスライムを倒したものの、ガナットは瀕死(ひんし)の重症だった。

 

 ―― えっマジで? ガナットくんクソよえー 

 

 と心の中で思ったが、決して口には出さなかった。

 彼から見れば、ゆっくりと動いているように見えるスライムだが、ガナットから見れば素早いのだ。草むらから飛び出してきた、と思った瞬間には取り憑かれていたのだから。

 

 ―― でも、どうして1人で草むらに近づいたんだ?

 そんな疑問はあったが、取りあえずガナットの傷を、買っていたダンジョン専用回復薬で癒やした。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「体は何ともない。だが、この痛みには耐えられそうもない……」

 

 ガナットは、遠まわしなギブアップ宣言をした。実はガナットは、弱い自分は重荷にしかならない。と考え、邪魔にならないように早めのリタイアを―― そう考えていたのだ。

 カリンが仲間になった事によって、対人恐怖症のはずのガナシャが、お喋りっ子に一変したのを目にしたのも大きい。それに陽二やパトリシアとも、普通に会話ができている。

 それを見たガナットは、任せられる。と思ってリタイヤを画策(かくさく)していたのだ。

 

「俺は邪魔にしかならない。外に出て待ってるので、ガナシャをよろしくお願いします」

 

 ガナットは妹の事を思って判断しているので、無理強いはできない。それに、ガナットの目指すべき道は調合師だ。その姿を、ガナシャですら仕方がない事だと、見守っていた。

 

 ガナットの言葉を聞いた陽二は思った。ガナットくんがいなくなれば、女の中に男が1人。最高だぜ! 

 と。しかし、彼はガナットに問いかけた。

 

「ガナットくん、君は兄なのだろう? 兄が妹を残して、逃げ出してもいいのか? 妹とは至高。守るべき、愛すべきこの世の全てだ。ある人はこう言った――『妹の上に妹を作らず』と。また、ある人はこう言った――『千里の道も妹から』と。ガナットぉぉ! 君になら分かるはずだ!! 目に入れたら痛いけど、妹に目を潰されるなら本能と! もとい、本望と!」

 

 彼はガナットの前に立ち、ビシッと指差すと

「そんな妹を置いて―― 君は、この部屋を出て行くのか?」

 とキザっぽいポーズでキメた。

 

 その後ろでは、妹’Sが顔に両手を当てて照れていた。

 彼女たちは今、妹という存在が如何に素晴らしいものなのか、自分たちがどれほど愛されているのかを、理解している事だろう。

 

「さあ、ガナット君。答えたま『ボキッ』―――痛(い)ってぇぇぇぇー!」

 

 すっごい良い場面だったのに。突然襲いかかった痛みに耐えきれず、彼は叫びながら蹲った。

 何が起こったのか?

 ツッコミどころ満載の彼に、カリンの我慢が噴火した! 鞘(さや)で彼の指にツッコンだのだ!

 

 ぐおおおお! と叫ぶ彼を無視して、カリンはガナットに告げた。

 

「ガナットくん事情は理解したわ。ガナシャの事は私に任せて、外に出てるといいわ」

「は、はい。カリンさん、皆さん。ガナシャをよろしくお願いします」

 

 そう早口で言ったガナットは、見てはダメなものを見たかのように、脱兎のごとく入口へ向かって走って行った。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ナーナ!」

 

 カリンは、パトリシアが魔法で回復するのを止めた。

 

「魔力がもったいないわ。そんなの、舐めておけばそのうち治るわよ」

 

 ―― ざけんなよ。治るわけないだろうが! 

 

 とツッコミたかった彼だが、激痛で諦めた。指先ピンポイントは、どれだけ強くなろうがクリティカルなのだ。

 

 彼は回復薬を取り出し、一気に飲み干した。

 

「カリンってさぁ、俺の扱い酷くない?」

「そんなこと―― ないわ」

「私の知ってるカリンさんじゃない……」

 

 ガナシャは、見た事もないカリンの本性に動揺していたのだった。

 

 △△

 

 陽二の前以外では、猫をかぶって素を隠していたカリンは、スマイルの力を獲得したあと、実家に戻ると母である楓(かえで)に詰め寄った。

 

 ゼラニオンと知り合いだった事を、なぜ黙っていたのか。と

 

 カリンは、ゼラニオンの熱狂的なファンだ。

 もっと早く母親が知り合いだと分かっていれば、コネでも何でも使って、自分もゼラニオンのメンバーになるチャンスが、あったのかもしれないのに。と

 

 それを聞いた楓は、カリンがゼラニオンに入れるはずはないと断言した。

 

「だってあなたは、2代目スマイルにするって、生まれたときから決めてたのよ」

「決まってたの?」

 

 結局、楓に口で勝てるはずもなく、カリンは言いくるめられてしまった。

 その代わり、パトリックの婚約者候補の解消と冒険者になる許しを得たのだ。

 その時、母親の前職業と冒険者の話を聞いて驚いたが、カリンの新たなる道が見えた瞬間でもあった。

 

 練習ダンジョンは、普通の剣でも通用するので問題はないが、冒険者になるなら対魔物用の武器を準備する必要がある。

 しかし、魔鉄製の武器は品薄のうえ高価だ。

 

 カリンが今まで使っていた剣は、鉄製だが魔法師でも扱える付与が付いている業物だった。だが、ゴブリンには通用しなかった。

 その事を母に告げ、資金目的で魔鉄製の必要性を語るも一蹴されてしまった。

 

「魔鉄と同じ。いいえ、それ以上にすれば問題はないのよ?」

 

 そしてカリンは、楓が桜と出会う前に所属していたチームリーダーのスキルを参考にして、開発した技を伝授された。

 

 技の名は『真法剣(まほうけん)』である。

 

 

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