※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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タカヤマ ハヅキ/救出&脱出作戦

 

 

 洞窟でパトリックと出会い、現在行動を共にしているハヅキは、セナドゥースとサラデインの2つの町に挟まれた、西の森で生まれ西の森で育った。

 父親は、コボルトと人のハーフ

 母親は、異世界人の鷹山卯月(たかやまうずき)。

 兄が2人居て、姉と妹が1人づつの7人家族だった。

 

 母親の卯月は、由緒正しき神社の娘で巫女であり、神楽を舞ったり神職の補佐をしていた。

 22歳の誕生日、母親に『そろそろ結婚でもどうですか?』と、お見合いの話をすすめられていた。

 翌日、神社の庭を掃除しながら

 ―― それでも良いかなぁ

 と思い耽(ふけ)っていると、いつの間にか、見た事もない場所に居ると、気が付いた。

 

 怪訝(けげん)に思い彷徨(さまよ)っていると、見た事もない化け物に遭遇した。そして、その化け物に襲われている所を、見ず知らずの男に助けられた。

 しかし、命は助かったものの右足を失った。また、その怪我に細菌が入り込んで、両目の視力まで失ってしまったのだ。

 これが、両親の出会いになる。

 

 視力と右足を失った卯月は、人生の終わりだと、絶望した。しかし、後に夫となる彼女を助けた男は、彼女の身の回りの世話や怪我の回復、心のケアなどに尽力した。

 それは、自然の流れだったのだろう。2人は愛し合うようになり、5人の子ども(五つ子)を授る事になる。

 

 その子ども達の中に、1人だけ、見た目は他の兄妹と全く同じなのに、異常に活発かつ食欲旺盛で、成長の早い子が居た。それが、ハヅキだった。

 ハヅキは、60日で走れるまでに成長すると、その120日後には、流暢(りゅうちょう)な、まるで大人のような会話を、するまでに成長していた。

 ハヅキの肉体的成長速度もそうだが、母親である卯月は、特に、理解力の高さに驚いていた。

 

 しかし、コボルトのハーフだった父親に驚きはなかった。彼もハヅキと同じく、コボルト式の『天寿』を受け継いだ子どもだったからだ。

 

 通常コボルトの寿命は、平均10年である。

 その代わり、生まれ落ちてから3年間は、人の7倍の速度で、成熟するまで成長し寿命の年まで衰える事はない。

 とは言え、コボルト式の成長速度や寿命諸々を含めた『天寿』が、優性遺伝子を持つ人の血と交ざった場合、コボルトのハーフやクォーターに受け継がれるのは、極めて稀な事であった。

 

 △△

 

 ハヅキたち家族は、西の森にある洞窟の中で仲良く暮らしていた。当時のハヅキは、近くに人が住んでいるとは思ってもいなかったので、この生活が当たり前だと思っていた。

 それに洞窟の中は常に明るく風も吹き、家のある下の階に降りれば、食べられる動植物や生活必需品の材料も潤沢で、洞窟の外の人に頼る必要性が全くなく、自給自足に事足りていたのも大きかった。

 

 産まれて1年後。

 ハヅキは、父親と行動を共にするようになり、狩猟の方法や植物の見分け方など、色々な事を学んで家族を助け始めた。

 

 産まれて2年後。

 ハヅキは、運良く風魔法に目覚めると、父親が舌を巻くほどの働きぶりを見せるようになった。この頃から食料の調達などは、ハヅキが一手に引き受けるようになり、父親に家族の世話を任せるようになった。

 

 それは、父の『天寿』を考えたハヅキの、少しでも家族と一緒に過ごしてほしい。という願いでもあった。

 

 産まれて3年後。

 初めて父親の口から、人が住む町の存在を聞かされた。

「老化が始まりつつある。俺はもう長くないだろう。だから今のうちに、移住の準備をしなさい。そのためにもお前は、セナドゥースの領主に会って、コレを見せなさい」

 1枚のメダルを手渡された。

 メダルの表には、領主の印。裏には夫婦の名前と、その子どもだと証明する印があった。このメダルは身分を証明するもので、録音機能もついており、万一の時に遺言などを残せる。

 

 父親の頼みを聞き入れたハヅキは、詳しい道筋や危険な場所を教わり、何度も予行練習を重ねてから出発した。

 それもあってハヅキは、セナドゥースへ何事もなく無事、到着できたのだ。

 

 人が多く住む町は、ハヅキをとても高揚させた。

 初めて見る、人の波や立ち並ぶ建造物。

 初めて鼻孔をくすぐる、口一杯に唾液が溢れる匂い。

 初めて感じる、体が勝手に動きだしそうな音楽。

 町で、体全体に伝わる情報。その全てが刺激的だった。

 

 そんなハヅキはうしろ髪をひかれつつも、父親に教わった冒険者協会を探し出し、親切な職員の手助もあって、持って来た素材を換金するのに成功した。

 服屋の場所を訊ねると、ハヅキが田舎者にでも見えたのか、わざわざ道案内までしてくれる紳士っぷり。

 

 服屋に入ったハヅキは

「領主に会うため、失礼のない服を頼む」

 と服を選んでもらうも、その服の着衣方法がわからなかった。

 

 素直に質問すると

「お姉さんに任せて!」

 と、笑顔で店の奥に通され、風呂に入れられた。

 当然ハヅキは、訳も分からず困惑していた。がしかし、綺麗なお姉さんの笑顔と良い香りのする石鹸を前にすると、きっと町では、これが普通なのだろう。と身を任せる事にした。

 ハヅキは『郷に入っては郷に従え』を実践したのだ。

 

 そしてハヅキはお姉さんから、この町の事や他の町に王様という偉い人が住んでいる事。セナドゥースの領主と、その2人の娘の事を聞き出した。

 若くして奥方を亡くした領主は、2人の娘を立派に育てたらしく、民の声にも誠実に向き合う人柄のようだ。

 娘のうち1人は、残念ながら何年も前に他界しており、もう1人は冒険者になったようだが、詳しい事は知らないようだった。

 その他にもハヅキは、一方的に男の子の捕まえ方や、男性好みの下着や化粧水を教わったが、石鹸は食べてもおいしくない事だけは、自発的に学んだのだった。

 

 △△

 

 ハヅキは、お姉さんに太鼓判を押された服装で、領主の屋敷を訪れた。入り口で、父親に言われていた通りメダルを提示すると「父親に頼まれ会いに来た」と端的に告げた。

 

 すると、あっさり屋敷の中に通された。

 領主を待つ室内。ハヅキは、出された飲み物の味に驚嘆を覚えると、一緒に出されたおかし(・・・)に、手を伸ばし、口に運んだ。

 ―― なっ! 何だこれは……

 ハヅキは、口に広がる甘味に、今日1番の衝撃を受けたのだ。その瞬間―――― 家族にも食べさせたい。と、残りのおかしを収納スペースに入れてしまったのは、ご愛嬌。

 

 するとそこに、焦った表情の男性が駆け込んできた。

 名前はイノ・エスペナイン。この町の領主で、父親に頼まれ会いに来た人物だった。

「メダルを見せて欲しい」

 開口一番に言われた。

 領主は、受け取ったメダルを確めるように見つめると、懐から取り出したメダルと一緒にテーブルへ置き、手を翳(かざ)した。

「風(イガネオ)!」

 

 すると、メダルが父親の声を喋り始めた。

 その声は、領主への謝罪から始まった。

 そして、セナドゥースを飛び出した後、卯月と出会って子どもが誕生した事。

 目の前のハヅキは、コボルトの血を色濃く受け継ぎ、見た目は大人の女性だが、人の年齢では3歳で自分の娘という事。

 そして最後に、自身の寿命が近い事と家族の保護を頼んだのである。

 

 それを聴き終わったハヅキは、領主から父親の話を聞いた。

 実はハヅキの父親は、セナドゥース領主の、亡くなった娘の子どもであった。つまり領主は、見た目は40歳程で若いが、ハヅキのひいお爺さんだったのだ。

 

 孫の肉声を受けた、領主の決断は早かった。

 フットワークも軽く、冒険者協会に緊急の人集めを依頼すると、ハヅキに根掘り葉掘り話を聞き、必要な準備を整えた。

 その翌朝。30人をこえる冒険者を護衛に連れ、ハヅキの道案内で西の森へ出発したのだ。

 

 しかし――――

 到着した領主とハヅキが目にしたのは、洞窟の外で倒れていた父親と、家の外で冷たくなっていた兄と姉だった。

 兄姉の悲鳴で危険を察知した卯月が、隠れるように指示を出していた、もうひとりの兄と妹は無事だったが……

 

 実はハズキが出発したあと、普段は隠蔽してある洞窟の入り口だが、ハズキが見失わないように、軽めの隠蔽にしていた。そのため魔物に発見され、侵入を許してしまったのだ。

 たまたま家を離れていた父親は、兄姉の悲鳴を聞きつけ急いで駆け付けるも、一足遅かった。

 乱雑に食いちぎられた、我が子の無残な姿に涙するも、隠れていた子どもから、卯月が攫(さら)われた事を聞いた。

 急いで後を追うも、洞窟の外でやられてしまったのだ。

 

 30人を超える冒険者が一緒とは言え、この場にとどまるのも、連れ去られた卯月の捜索も、極めて困難で2次被害の可能性が非常に高い。

 そう判断した領主イノは、迅速な父親の収容ならびに治療、2人の亡骸の回収、家族の保護と速やかな撤退と、苦渋の決断を見せた。

 その晩ハヅキは家族を領主に託すと、彼が止めるのを振り切り、母親を探し出すため、西の森へ舞い戻ったのだ。

 

 

 △△

 

 

 陽二と王宮の前で別れた唯は、王国兵士の案内で、グラウンドへ向かった。

 そこには、準備万端。今すぐにでも出発できる状態の、パトリックとハヅキが待っていた。

 

「唯殿、おはようございます。実は――――」

 

 パトリックは、桜たちが捕まえてきたゴブリンから得た情報を、唯に説明した。その情報とは、ゴブリンたちの塒(ねぐら)で、4カ所もの場所が判明した。というもの。

 そしてその4カ所全てに、特訓を中止にする案件が含まれていたのだ。

 それを踏まえたパトリックは、先日の野営地に、王国兵士を100名規模で派遣済みだ。彼らには、諸々のケアを含む受け入れ体制、運搬などを指示済みである。

 

「と言うことは」

「人族の女性が、捕まっています」

 

 これこそが、特訓を中止にしてでも優先させるべき案件。女性たちの救助だ。

 それを聞いた唯を先頭に、3人は話もそこそこに出発した。

 

 この3人なら回り道をしなくても、森の中をショートカット出来るので早い。ものの30分で、王国兵士が作業を続ける野営地に到着した。

 その野営地で、捕まえたゴブリンから詳しい場所や、目印などを聞きながら救出作戦を練っていると、陽二から連絡が入った。

 唯は同行の打診を受けるが、邪魔なので断った。

 

 作戦がまとまる。

 念のため案内役のゴブリンも同行させ、遠い洞窟から順番に救助することになった。

 塒に向かう道中も、帰路の安全を考え積極的に魔物は討伐だ。

 といっても先頭は唯だったので、襲ってくる魔物は瞬殺され、視界を邪魔する木々も、魔法1つで消し飛ばされていた。

 

 全く出番のないパトリックは、呆気(あっけ)にとられるばかりだった。

 殿(しんがり)は、ハヅキだ。

 しかし、唯が通った後の道に、魔物が現れる事はなかった。

 

 ゴブリンの塒を次々に攻略して、女性と子どもを救助していった。幸いなことに、ハヅキと出会った広大な塒は1つもなく、全てが1本道の小さな洞窟ばかりだった。

 魔物やゴブリンは、容赦なく始末した。

 唯が先頭に立っているとは言え、彼女は1人しかいない。なので、他の場所では流石に無傷とはいかず、それなりの被害を出してしまったが、死亡者はゼロだった。

 救助できたのは、女性7人と子どもが10人。

 倒したゴブリンや魔物は、その10倍以上だ。

 

 △△

 

 救助した女性たちと、王国兵士を運ぶ馬車を見送り続けて、気が付けば日も落ち始めていた。

 作戦が無事に終了したことに、安堵(あんど)の表情を浮かべたパトリックがひと息入れると、ライブス率いる最後の馬車が、王都に向けて出発したところだ。

 

 唯とハヅキは、作戦が終了した後も、森の捜索を続けていた。

 

 野営地で2人の帰りを待つパトリックは、作戦の要だった唯の活躍を思い返し

 ―― あの実力なら、森の全ての魔物を狩り尽くせるのでは?

 と、改めて驚愕と感謝を感じていた。

 その考えは間違っておらず、実際、唯なら比喩表現抜きで狩り尽くせるだろう。

 

 パトリックはそれを考えると、本日の作戦は自身とハヅキの我が儘で、唯と行動を共にしたが、間違いなく足枷(あしかせ)になっていたのだろう。とも感じていた。

 その実力の差を、目の当たりで体験した今、特訓の結果次第ではあるものの、ゴブリンの本拠地への同行は、本当に正解なのか……分からなくなっていた。

 

「リック!」

 

 思考の深みに居たパトリックは、ハヅキの呼ぶ声で我に帰った。周囲の暗はだいぶ強くなっており、森の中は闇夜と遜色ないはずだ。ならば、これで終わりにして帰るのだろう。

 

 そう考えたパトリックが声の方に振り返ると、唯とその後ろに男性を背負ったハヅキが、結界路の外に立っていた。

 ―― 男性も捕まっていたのか?

 パトリックが歩み寄ると、ハヅキが背負っていた男性を、立っていた場所。すなわち、結界路の外に降ろしたタイミングで

 

「どうやらゴブリンどもは、一枚岩ではないようじゃ」

 

 と、降ろした男性に目を向けた唯が、呟(つぶや)いた。すると、ハヅキも続いた。

「リック、母の居場所が判明した。私は、これから助けに行く。なので済まないが、今日は一緒に戻れない。その事を伝えに来た」

「ハヅキ! 同じく特訓を受ける者同士、なにを水臭い事を言う。私も一緒に行くぞ。その前に唯殿。ゴブリンが一枚岩ではない? どういう事なのでしょうか」

 

 △△

 

 それは、少し前の出来事だ。

 唯とハヅキで、森を捜索しながら魔物を討伐していると、魔物に襲われている男性を発見した。

 なぜ、こんな森の中で? 

 襲われていた男性は、肌が緑色。顔の形というか、見た目は普通の人間だが、耳の形が明らかに違った。

 唯とハヅキは間に割って入り、その男性を助けた。

 男性は「ありがとうございます」と感謝を述べると、気を失って倒れてしまったのだ。

 

 保護する目的と詳しい話を聞くため、野営地に向かっていたその途中で、男性の意識が戻った。そしてハヅキの背中で男性は、ゴブリンは2つの勢力に分裂したと語ったのである。

 

 片方は、今まで通り人族と敵対する、ゴブリンキングが率いるグループで、もう片方が、人族と仲良くしたいグループだ。

 

 なぜ分裂したのか? その原因は、ハヅキの母、卯月だった。

 当初、卯月は子を孕ませる苗床として、拐われてきた。しかしゴブリンたちは、卯月を苗床にしなかった。正確にいうと、卯月に手を出す事ができなかったのだ。

 

 それは、ゴブリンのダンジョンに、彼女を連れて来た直後から始まった。

 

 ゴブリンキングや、ゴブリン将軍くらいの強い個体なら大丈夫だが、それより下位の個体が、卯月の1m以内に近付くと、力が抜けて立っていられないのだ。

 しばらくすれば、その状態は回復する。

 しかし、1度でもその状態に陥ったゴブリンたちは、一切の例外なく『温和な性格』になり、言葉通り『人族臭く(・・・・)』なり、卯月に害をなさなくなったのである。

 

 さらに時間が経過すると、卯月に近づけない範囲が広がりをみせ始めた。この時ゴブリンキングは、卯月を危険に感じて始末も視野に入れた。

 しかしながら、ひと目見ただけで理解していたのだ。卯月は、エルフにも勝る、最高級品質の苗床だと。

 

 ゴブリンキングは、自身の子を孕ませても良かったが、血の繋がった卯月の子は、自身の地位を脅かす強敵にもなり得る。これは野生の動物と同じで、我が子であったとしても、群れのボスを虎視眈々と狙ってくるのは当然である。

 ならばと、ゴブリンエンペラーの元へ、品質の良い女性を献上する事になっていたので、卯月は、献上リストに加えることを、即座に決めたのだった。

 

 卯月の世話は、ゴブリンダンジョンから少し離れた、洞窟に囚われている献上用の女性たちに任された。見張り番は、影響を受けていないゴブリン将軍に指揮官を任せた。その部下には、温和な性格に変貌してしまった、ゴブリン30体。

 

 それからは、ゴブリン将軍の指揮で、卯月を含む献上用の女性たちは、丁重に扱われていた。

 しかしその集まりは、ゴブリンキングの知らないうちに、卯月を中心として、次第に大きくなっていたのだ。

 

 ゴブリンキングには知らされていなかったが、卯月の影響を受けたハーフのゴブリンたちが、魔石は残っているものの人に戻り始めていたのだ。

 そして指揮官のゴブリン将軍すら、長い間、卯月の影響下に居たため、だんだんと温和な性格に変わってしまったのだ。今では彼も、卯月の良き理解者となり、人族と友好を結ぶチャンスを待つほどだ。

 そんな考えをひた隠し、表向きはゴブリンキングに従(したが)うフリを装い、着々と賛同する仲間を増やしていたのだが……

 つい先日、彼らの異変と行動が、ゴブリンキングにバレてしまったのである。

 

「とゆうわけじゃ」

 

 そこに、元ハーフのゴブリンだった男性が、補足を入れた。

 

「キングは今、ダンジョンの外に出る事はないと思います。なぜか他のゴブリン部隊と連絡が取れず、あっちのダンジョン内も混乱しているようです。それで、今のうちに隠れ場所を探そうと出てきたのですが、魔物に襲われてしまって……」

 

 この男性みたいに、卯月の影響を受けた者は、産まれなど関係なく弱くなってしまった。

 ただ、男性を襲った魔物のランクはGなので、影響を受けていなくても、ランクHの頂点であるゴブリンには、危険な相手なのは間違いない。

 ちなみに、新人/練習用ダンジョンの地下1階に出現するスライムが、ランクHの最底辺だが、ランクがHまでしかないだけで、スライムより弱い魔物は存在する。

 

 △△

 

「私は、母の元へ急ぐ。危険が近付いているのなら、なおさらだ!」

「ハヅキの意見には同意するが、唯殿、ハヅキの母上の能力、どうお考えですか?」

「妾(わらわ)にも分からぬが、人の姿に戻すか――――」

 

 ハヅキから見た2人の会話は、悠長に見えたのだろうか、急かすように口を出した。

 

「その話は、向かいながらにしてください。おい、お前。道案内を頼めるか?」

「もちろんです」

 

 手の届く距離に、母親が居る。

 その募るような、はやる気持ちは、母親と娘を最近取り戻したばかりの2人には、己の事のように理解できたはずだ。

 速やかに、男性とハヅキを先頭に、卯月が居る洞窟へ向けて出発した。

 

 森に入ると、完全に日も落ちたからなのか、夜行性の魔物がわらわらと現れた。

 この魔物たちは、今までどこに隠れていたというのか? とは言え、それでも唯の障害には成り得えない役不足だ。

 しかしながら先程とは違い、今は、件(くだん)の洞窟へ向かう目的があるため、なるべく戦闘は避けて、気付かれずに行動すべきである。

 そこで一行は木のてっぺんまで上ると、パトリックの城の壁(スキル)を使い移動する事にしたのだ。

 

 △△

 

「なるほど。これでは、いくら探しても発見できなかったはずだ」

 卯月のいる洞窟は、存在を知らないと『まず見つけることは不可能』それほど入念に、隠蔽されていたのだ。

 とは言えそれは、案内役が居なければの話である。早速、男性の案内で洞窟の中に入った。

 

 ざわざわ。ざわざわ。じー。じー。

 洞窟の中にいたゴブリン達は、突然の訪問者に戸惑い怪しみ始めた。ところが、ハヅキの『お母さん。卯月お母さん!』と、溢れんばかりの渇望に胸を打たれ、その態度は一変したのだ。

 

 この洞窟は、地下3階まであった。

 ゴブリンの話では、核(叡知の玉)もなく、主(ボス)もおらず、魔物の発生も止まった、死んだダンジョンのようだ。

 

「どうりで、中は明るいのか」とパトリックは呟いた。

 洞窟の中は、ダンジョン時代に作られた光る苔のお陰で、豆電球程の明るさが残っていた。それでパトリックは、前回入ったゴブリンの洞窟を思い出し、あそこも元はダンジョンだったのだと納得した。

 

 ハズキは、地下2階へ降りる階段の下にある、隠し部屋に案内された。その隠し部屋の中に、卯月を含む女性たちが、匿(かくま)われていたのだ。

「お母さんっ!」

「ハヅキ!?」

 その他にも、人に戻ってしまったゴブリンが、10人ほど一緒に隠れていた。

 ―― ほう……

 と、唯は少しだけ驚いた。

 彼らは見れば見るほど、顔の表情も含め、ゴブリンと違う生物に見えた。それは、元々はゴブリンです。と言われなければ、見抜けないレベルだった。

 

「卯月じゃったか? これが、ぬしの力(スキル)なのか?」

 

 ハヅキと再会の喜びを分かち合う卯月に、邪魔を承知で、唯は問いかけた。

 ハヅキからは、母親の目は見えない。と聞いていたが、卯月は問いかけた唯に対して、真っ直ぐ顔を向けた。それ以前に、先程から卯月は、まるで周囲の状況が見えているかの様に振る舞っていたのだ。

 

「最初は良く分からなかったのですが、今は分かります。私の力です」

「どういった能力なのじゃ?」

「説明しづらいのですが、私は目が見えません。ですが、どこに誰が居るのか、手に取るように分かります。連れ去られている途中から見える様になりました。それは少し離れてしまうと、見えなくなるのですが、人なら青色。人以外だと赤色。という感じでしょうか。それで、力と言いましたが……実は私は、何もやっていないのです。ただ、見える範囲にいると、赤色の中に青色がどんどん増えていくのは見えます」

「範囲内に居る者の、色が見えるじゃと?」

 

 卯月のスキルは、範囲内に居る者の魔力の回復を手助けする能力だ。ただし、作り出される魔力はCの魔力で、色が見えるのはスキルの影響だ。

 そのため、範囲内に入った魔物の魔石が影響を受けてしまい、一時的に行動不能になってしまった。

 そして、ゴブリンの狂暴性を抑えたり、人の姿に戻った原因として考えられるのは、魔菌。

 魔物の体内には、魔物のA魔菌の他に、BとCの魔力を作り出す魔菌も、わずかながら存在する。そして、卯月の能力でC魔菌の数が、第一勢力の魔菌になったため、ゴブリンに変化が起きた、と推測される。

 

 逆に、人族の体内にもAやBの魔菌が存在している。その侵入経路は、魔物の肉や野菜、MP回復薬などである。ただし、魔物も人も、食べ物として摂取した場合は、消化するので問題はない。

 ただし、MP回復薬や一部の薬は、原材料の魔菌が濃縮され、消化に強く吸収されやすいので、摂取量に制限が設けられている側面もある。

 

「父も、フミもナガも、セナドゥースの領主邸で待ってます。ねぇお母さん、早く皆にも顔を見せに行こう?」

 唯と卯月の会話を遮(さえぎ)り、ハヅキが口を挟むも

「でもね、ハヅキちゃん。ゴブリンさんたちは、結界路を通れないのよ? お母さんはね、皆を置いては行けないの」

 

 ―― なっ……

 ハヅキは絶句した。

 彼女の気持ちを代弁するのなら

『兄や姉を殺したゴブリンにっ! 心を砕くのか!』

 そんなところだろうか……

 それを聞いていたゴブリン将軍は、全員に聞こえるよう、卯月に話しかけた。

 

「俺たちは魔物なんで、どうにでもなる。それに、いつキングに踏み込まれるかも分からねぇし、今の俺の力だけでは、ゴブリンナイトにすら勝てるか分からねぇ。だから! 卯月さん頼むよ。俺たちの事は気にせず逃げてくれぇ!」

「お母さん!」

 

 思いもよらぬ援護射撃に、ハヅキの語気も強まった。それを受けた卯月は

 

「ではゴブリンさんたちは、私達が暮らしていた洞窟へ避難するのはどうですか?」

「そうか! 家のあった下の階なら、隠れる場所も多いし食料に困ることもない」

 

 ハヅキにとっては、長年暮らした洞窟なので、内情に詳しい。卯月が一緒に逃げてくれるのなら、あの場所を提供するのもやぶさかではなく、良い案だと頷(うなず)いた。

 ゴブリンに発見された洞窟ではあるが、本来ならば、簡単に見つからない隠蔽処理を施せる洞窟だ。セナドゥースから森に戻ったハヅキは、洞窟の入り口を隠蔽して、母親を探す拠点にしていた訳だが、今まで1度足りとも、外敵の侵入はなかった。

 つまり、安全は実証済みだ!

 

「ならば、私が案内しよう」

 

 今までは、家族の仇である彼らを、許さないし、根絶やしにすべきだと考えていた。しかし、母親である卯月との信頼関係を、目の当たりにした今―――― 正直なところ、激しい葛藤が心の中に渦巻いていた。

 それならば――――

 ハヅキは、洞窟へ案内する道中、彼女自身の目で見極める。と案内を買って出た。

 それは、許すとか許さないではなく、納得できるか出来ないか、である。

 

 その申し出を受けた唯とパトリックは、卯月を含む女性たち全員を、必ず安全に、セナドゥースの領主の元へ送り届けると、約束したのだ。

 

 

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