囚われの身となっていたハヅキの母親を含む女性たちを、洞窟から連れ出したパトリックと唯は、移住の準備を進めるゴブリン達より先に、セナドゥースへ向けて出発した。
ここから1番近いのはサラデインだが、そちらへ向かうとゴブリンの本拠地があり、余計な面倒が発生する可能性が高い。それにサラデインよりも、ハヅキの望み通り、親族の領主イノ・エスぺナインが住むセナドゥースへ向かったほうが、引き渡しもスムーズに運ぶだろう。
そのためには、夜行性の魔物が闊歩する森か、海岸線を進む必要がある。ところが、優秀な護衛となる唯が同行するとはいえ、保護すべき女性たちは体力も少なく、魔物に対抗する力もゼロに等しいので、危険な逃避行なのは言うまでもない。
そこで、パトリックのスキル『城の壁』の出番である。
洞窟の出口から堅牢に囲った通路を作り、森の木々よりも上空を、一直線でセナドゥースに進むのだ。これで、安全性は飛躍的に向上するだろう。
足の不自由な卯月は、
結界路内に到着したのは、日を
「体を休めていて下さい。すぐに、迎えを連れてきます」
「パトリック様、ありがとうございました」
女性たちは、冷たい浜風を避けた場所で、暖を囲っていた。夜の寒さは、休みなく歩き続けた彼女たちの体力を、根こそぎ奪ってしまった。
なので、唯を護衛に彼女たちはここに待機させ、パトリックが町に応援を呼びに走ったのだ。
△△
卯月たちが囚われていた洞窟の近くに、活動中のダンジョンがある。知っての通りゴブリンの本拠地だ。活動中と言うことは、
ダンジョン
ダンジョン主とは称号であり、ダンジョン内の『設定を変更する力』を持つ者の事だ。
ダンジョン主になるには、核と呼ばれる『叡知の玉』を必ずしも手にする必要はなく、核が設置してある『部屋』を占拠した者に与えられる。
とは言え、この部屋に訪れる者の9割9分が、核の入手を目的としているだろう。
魔物が手にすれば、魔王に進化できる力を与えてくれるし、
しかし、その核を取られると、ダンジョンは死ぬ。正確に説明すると『成長』と『魔物の生産』が止まるのだ。
『魔物の生産』は、ダンジョンの『生存』と密接に関係している。ダンジョンを構成する物質の中には、魔菌が存在しない。つまり、直に魔素を取り込めないダンジョンには、何らかの魔力に変換する生物が必要不可欠なのだ。
それが『魔物の生産』に繋がり、魔物が余剰分で出した魔力が、ダンジョンの成長と維持のエネルギーになっている。
なので、核を取られると魔物の生産ができなくなり、魔物の数かどんどん減り、ごはんが食べられなくなって、エネルギー不足になる。
結果、ダンジョンは餓死するのである。
しかし実は、ダンジョンの成長は止まってしまうが、死なない裏技がある。
それは、核を奪ってダンジョン主になった魔王が、核の代わりにダンジョンを操作して、魔物を産み出せばいいのだ。常に産み出す必要はなく、魔物が
しかしその裏技は、ダンジョン主が死亡したり、魔物の生産を怠ると、一気に瓦解する。
ちなみに、そのダンジョン主の魔石は、核と融合して『
その裏技の事を、ダンジョン主になったゴブリンキングは、当然の如く知識として理解していた。しかし彼は、魔王に進化できるチャンスをそのままにして、ダンジョンの成長に努めていた。
それはなぜか? ダンジョン主の称号を得た者は、自然と理解するのだ。
『成長したダンジョンの核ほど、強い魔王に進化できる』と。
『俺は魔王になる!』そんな魔物の本能を押し止めたゴブリンキングは、意外にもダンジョンの操作に長けていた。食料になる魔物以外の生産をゴブリンに限定した事で、ゴブリンナイトすら産み出せるようになっていたのだ。
もう少しダンジョンが成長すれば、更に強力なゴブリン将軍を、産み出せるようになるだろう。
その成長中のダンジョンだが、各階層毎に部隊が存在する。部隊のリーダーはゴブリン将軍で、最低でも1部隊500ゴブリンの戦力を有している。
つまり、『部屋』のある最下層を除く階層分の10部隊。ゴブリンダンジョンは、最低でも、5000ゴブリン以上の戦力がある計算になる。
パトリックが応援を呼びに走った丁度その頃、ダンジョンの最奥にある『部屋』に居たゴブリンキングの元に、連絡の取れなかった
(ちなみに、ジェームスが発明した砲台や、結界路を飛び越える装置は、彼の直属の上司であるゴブリン将軍が開発した事になっていた。ハヅキの当てずっぽう通り、手柄を横取りされていたのだった)
流石のゴブリンキングも、この情報には寝耳に水であった。しかもだ、全滅に追いやったであろう『敵の情報・痕跡』は皆無。
なので、桜たちの存在を知らないゴブリンキングは、全ての仕業を『卯月に魅了され、裏切ったゴブリンたち』と、決めつけたのだ。
ゴブリンキングはこの時、献上リストに加えてしまった己の先見のなさを反省した。そして、頓挫してしまった町への侵攻計画と、失ってしまった戦力を考える。
明らかに大打撃で、損失は計り知れなかった。
―― ならば……
将来的に不安は残るが、ゴブリンキングは、卯月に強力な子どもを産ませる決断をすると、地下1階~3階の3部隊に命令を下したのだ。
「女以外の裏切り者どもは、殺してダンジョンの贄にしてしまえ!」
その命令を受けた各隊のゴブリン将軍は、ゴブリンナイト50体を含む、総勢1500の大軍で、ゴブリンダンジョンから出発したのだった。
△△
パトリック達から、遅れること数時間後。
準備に手間取っていたハヅキ率いるゴブリンたちは、ようやく洞窟へ向けて出発した。
目的地は、トウロウやメッサーバッタが生息する草原の近くだ。
現在地を、サラデイン寄りの森の中だと予想していたハヅキは、かなりの距離があるため、夜行性の魔物と戦闘は避けられないと判断していた。
なのでハヅキは、見通しも良く、魔物との接触が少ないであろう浜辺へ出て、海沿いに北上する事をゴブリンたちに伝えた。
了承は得られた。
ダンジョンを出ると、第1の難関。防風林の役割をした木々を、魔物に気付かれないよう慎重に通り抜け海沿いに出た。
潮が満ちており砂浜の部分は少なかったが、通れない事はない。足元は踏んばりづらいが、将軍を先頭にして移動を開始したのだ。
「逃げやがった。もぬけの殻だっ!」
その少し後、ゴブリンの本拠地から粛清に出向いた部隊に、卯月たちの逃亡が発覚していた。
「探せっ!」
周囲を捜索したゴブリンたちによって、浜辺へ出た形跡は、難なく発見されてしまったのだ。
「お前たちは追えっ!」
足の早いゴブリンナイト50体に、命令を下したゴブリン将軍たちは、焦る事なく悠々と、処刑方法を談笑しながら、獲物の追跡を開始したのだった。
△△
無事、卯月含む女性たちの保護を、領主イノに引き渡したパトリックと唯は、結界路の外へ戻った。
「唯さん、困りましたね」
ところが、バタバタと急いでいた事もあって、逃亡先の位置を、ハヅキに確認するのをすっかり忘れていたのだ。
「なにか見えるやもしれん。パトリックよ、上じゃ」
パトリックの
「唯殿。何か見えますか?」
上から見渡せる景色は、月光を遮る厚い雲のイタズラもあって、パトリックには海岸線や森の境目どころか、足元さえ見えない吸い込まれそうな暗闇だった。
夜目の利く唯ですら境界線が怪しいレベルで、人ひとりを探すなど、困難を極めるだろう。
なので、勇者になってまだ数週間。力の使い方が分かっていない手探り状態の彼が
―― 私は役に立てるのだろうか?
と、気にやむ必要は全くないのだ。
彼は昼間の事もあって気負い過ぎているが、魔物のランクで例えると潜在能力はB。現時点での実力は、Dに手が届くくらいあった。
△△
「あと少しだ」
打ち寄せる波の音が響く暗闇の浜辺を、ゴブリンたち一行は歩んできた。海独特の磯臭さと防風林のお陰で、森の魔物に気づかれる事なく来られたのは、運が良かった。
それでも魔物に対する警戒と緊張は、彼らの精神と体力を、極限まで摩耗していた。
それは、いつの間にか先頭に立ち、長く長く行列が縦に延びてしまったのを、今にして気付いたハヅキも例外ではなかった。
森の先に目を向ければ、草原との境目が見える。それなら、森に入り10分も進めば、目的地に到着だ。
「後ろを待とう。私は最後尾まで戻って、彼らの尻を叩きに行って来る。貴殿たちは休んでいるがいい」
ゴブリンたちに告げたハヅキは、後続の者たちに
彼らに対してはまだ、納得をしてないし、わだかまりも残っていた。それでも同じ目的に向かって、一丸となったこの逃亡劇は、彼女の長所でもある面倒見の良さを、自然に引き出していた。
そのハヅキの表情が険しく急変すると、砂を蹴る力に強さが伴った。磯の香りと風の向き。また、波の音で足音が、かき消されていた事で気付くのが遅れた。
しかし最も大きなミスは、まだ猶予があると、追っての存在を除外していた事だろう。
「ぎゃあー!」
「逃げろ!」
「助けてー!」
なんと、最後尾のゴブリンたちが、ゴブリンナイトに襲われていたのだ。グッと、前傾姿勢で速度を増したハヅキは、風一文字の鞘に手を添え、戦闘態勢を取った。
「私が食い止める。お前たちは全力で逃げろ!」
最後尾に向かって走りながら、すれ違う者たちに叫ぶハヅキの目には、ゴブリンナイトたちの、残虐な殴る刺すの
その光景が彼女の脳裏に――
体格の差をものともせず、ハヅキに対して精一杯の、兄と姉の威厳を振りまく姿を ――映していた。
そして今でも彼女の耳は、兄姉の声を――
『ハヅキはいもーとでしょ、ちゃんとお願いを聞いて』
今でも残響するし、確かに記憶していた。
「納得できるかっ! してたまるかぁー!」
数十体を超えるゴブリンナイトを相手に、ひとりで突っ込むなど無謀でしかない。
しかしそこには、兄と姉が居るのだ――
それならば、
「
魔力を込めた居合いからの初撃は、重い砂を
そしてハヅキは、
△△
ゴブリンナイトの槍を
ハヅキを無視して一部のゴブリンナイトが、逃げたゴブリンたちの追跡に、向かう仕草を見せたので足止めを試みた。
しかし、多勢に無勢。
誘導に騙され劣勢へと転じ、追跡を許したばかりか、20体のゴブリンナイトに囲まれ、逃げ場のない状況へと追い込まれていたのだ。
「くっ、無闇に突っ込みすぎたか」
「死ね!」
ゴブリンナイトの攻撃を躱しながら、なんとか撤退の道を模索するハヅキだったが、1体でも彼女より強い相手だ。そう簡単に、包囲を抜けるのは困難だった。
「昇斬波・
風一文字を高々とかかげて叫ぶと、ハヅキの周囲に渦巻き状の風が発生して、砂塵を巻き起こした。
風と砂が合わさったそれは鋭い刃物となり、ゴブリンナイト達に襲いかかった。
それに対してゴブリンナイトは2人1組になった。前のゴブリンナイトが盾を構えて攻撃を軽減し、後ろのゴブリンナイトは力をためた。
「ナイト
力をためていたゴブリンナイトが、次々と渦巻きへ突っ込んだ。これこそが、ゴブリンナイトの完全版ショットガンフォーメーションだ。攻撃対象を、盾で逃がさないように包囲し、後ろの攻撃部隊が360度、あらゆる方向から
息の合ったこの攻撃で、お互いが傷つけあうのは皆無。
ハヅキの旋風は、鋭い刃物の様な荒れ狂うナイフだ。しかしナイト弾丸は、そのダメージをものともせず、次々と渦巻きを貫いた。
その攻撃時間は、5分程だっただろうか。とうとうハヅキの旋風が消え失せてしまった。周囲には、傷だらけになったゴブリンナイトと、渦の中心には、貫かれてボロボロになってしまった、ハヅキの無惨な死体が――――
「い、いないぞ?」
「どこに行った?」
「確かに手応えはあったぞ」
ゴブリンナイトたちは、困難していた。旋風の晴れたその場に、ハヅキの姿はなかったのだ。
とその時
「昇斬波・
ハヅキの姿がなかった事に、困惑していたゴブリンナイトの足元から、ハヅキの昇斬波が ――――盾役と攻撃役の2体を、下から上に斬り裂いた。
だが、それで限界だ。
隣にいたゴブリンナイトが、すばやく地面に槍を突き刺し、反撃してきたのだ。
手応えありだった。
すると砂が弾け飛び、地面からハヅキが飛び出す。
ハヅキは、槍を突き刺したゴブリンナイトの胸元に風一文字を突き刺し、そのまま肩口に向かって振り抜くと、乱れた包囲網を突破するため駆け出した。
「
さらに隣のゴブリンナイトに、魔法を放つ。がしかし、盾で防がれてしまった。
「ちっ」
残念ながら格上の相手に、そう何度も不意打ちは通用しないのだ。
「逃がすな、追え!」
地中から飛び出したハヅキの左腕は、真っ赤に染まっていた。
先程の攻撃で、負傷したのだ。
それでも、足にナーガの皮を巻いたハヅキの瞬発力は、衰えを見せない。ひと足で包囲網を抜け、ゴブリンナイトを置き去りにすると、次の行動を考えた。
左に逃げれば、海。
右に逃げれば、森。
普通なら森に逃げ込み、身を隠す場面だろうか。
ハヅキは逃げながら回復薬を取り出し、左腕のダメージを回復させた。全快にはほど遠いが、支障はない。
そして後ろに向かって地走りを
すぐに砂塵も晴れ、ゴブリンナイトたちは、ハヅキのいた場所に追いついた。
「森に逃げたぞ、追え!」
騙されたとも知らず、ゴブリンナイトたちは、ゾロゾロと森の中に入っていったのだ。
―― 案外、素直な連中だな
海中から顔を出したハヅキは、ふうっと、ひと息ついた。
△△
ハヅキの足止めを抜け、追跡に向かったゴブリンナイト30体は、森と草原の境目まで到着していた。
その道中で、ゴブリンナイトに捕まり殺されたゴブリンは、10を超えていた。
休憩していたゴブリンたち先頭組や、からくも追い付かれず到着した者たちは、草原と森の中に分かれて身を隠した。
草原には、人すら捕食する獰猛なトウロウがいる。しかし夜は、獲物のメッサーバッタが行動しないため、トウロウも眠っている。なので一応は安全と言えるが、流石に大きな物音を立ててしまえば、目を覚ます可能性もあるので、注意は必要だ。
森の中は、夜行性の魔物が出歩いている可能性が高く、それと同時に、眠っているメッサーバッタを捕食しようと、身を隠した草原近くの森に、近寄ってくる可能性もあった。
なのでゴブリンたちは、木によじ登って身を隠す事にしたのだ。
「おらー出て来いや!」
ゴブリンナイトの狙いは、卯月を含む女性たちだ。
パトリックと逃げたので、ここにはいない。しかしゴブリンナイトたちは、そんな事を知りようもないので、愚かにも、逃げた女性たちを
当然その声は草原の覇者、トウロウの目を覚まさせた。
流石のゴブリンナイトでも、トウロウの鎌や噛みつき攻撃を受けてしまえば、大怪我は必須である。受けた場所が悪ければ、1撃で命を失う場合だってある。
そして不幸にも、草原に来た事のないゴブリンナイトばかりだったので、トウロウという生き物を知らなかったのだ。
「――――!」
「――――!」
あっという間に草原は、大騒ぎの混沌と化した場所に変わってしまった。そしてその余波は、草原に身を隠していたゴブリンにも及んでしまった。
なんとゴブリンナイトたちは、仲間を助けるために新たな敵となった、トウロウ狩りを開始したのだ。
その
さらに、事もあろうかゴブリンナイトは、草原に火を付けた。まだまだ緑あふれる草原だったが、白煙を上げながら燃え広がった。
煙の風向きが森側に向かった事もあり、木の上に隠れていたゴブリンにも、多少の被害が出る結果となってしまったのは、災難だった。
もし、この場所に卯月や女性がいたとしたら―――― 命を落としていた可能性が非常に高い。
ゴブリンキングには『生きたままの捕獲』を命じられていたはずなのに、知能はあまり高くないようだ
△△
「唯殿あれは!?」
「うむ、急ぐぞ」
パトリックにも、燃え盛る炎と、もくもくと空に舞い上がる大量の煙が確認できた。
ただ事ではないぞと、唯はパトリックの鎧を
パトリックは、掴まれて圧迫されている首の苦しさに我慢しながらも、必死に、煙へ向かって一直線に道を作っていった。
煙の出所に到着すると、ゴブリンナイトによる
そして、森からも悲鳴が響いていた。
煙の影響で木の上から落下したゴブリンに、騒ぎを聞きつけた魔物が、襲いかかっていたのだ。
「
「分かりました。クルシュナインの名にかけて、最善を尽くします」
パトリックは、燃える草原の上に城の壁を展開して、トウロウとの接触を防ぎつつ、燃え盛る炎を押しつぶして、強引な消火に成功した。
そのまま籠城できるスペースを作り上げた。
さらに襲われている者へ、
唯は、パトリックの位置から遠く離れた反対側。浜辺に降り立つと、職業を本来のものに変更した。
それは、どういった理屈なのかは分からない。
その存在を、目にしたからなのか
虫を誘うような香りがするのか
とにかく、体内にある魔石が、その存在をキャッチして
『襲えっ! 殺せっ! 奪えっ!食えっ!』
と、魔物の本能を揺さぶった。
するとゴブリンナイトや魔物の目つきや表情が、凶悪なものに豹変し、目の前の獲物などほったらかしにして、唯ひとりに注がれたのだ。
幸いにも、卯月の影響を受けたゴブリンたちに、豹変する者は出なかったが、もし出ていたのならば……豹変した魔物たちと同じ運命を辿っただろう。
その間にパトリックは、全員を壁の中へ避難させる事に成功し、入り口を閉じると、唯の戦いを見届ける事にした。
本当なら、ザブンザブンと潮のさざ波が、心地好い音を奏でる場所なのだろう。
ところが今響いているのは、普段は出さないような、狂気の入り混じった魔物のうめき声だけだった。
今の魔物たちは、自我のない魔石に操られた人形だ。
だが、この状態の魔物は、とてつもなく強い。
無意識に抑えてあったリミッターが外れた状態であり、ランクで表すなら、間違いなく1段階は上昇しているだろう。
そんな身の毛もよだつ、魔物の視線が集中する先に『真魔王』本条・キャロル・唯は、静かに。そして、近寄りがたき
そんな唯に、熱烈なラブコールを送る魔物たちは、囲む距離をどんどん縮め――――
次の瞬間、一斉に飛びかかった。
唯は、次から次に襲って来る魔物を
華麗に、そして鮮麗に
1撃で2体3体。はたまた4体5体と、破壊した。
咲き乱れたのは、魔物だったものなのか
魔技の基本技、魔砲。
ものの、数十秒の出来事であった。
華やかに鮮やかに、唯の周囲に、死体の山が築かれた。
シュッと、付着した汚物を払い職業を戻すと、唖然とした顔のパトリックの目の前に跳び寄った。
「すまぬのう。パトリックの出番まで奪ってしまったか?」
「い、いえ……お気になさらずに」
パトリックは、やっとの事で、震える声を絞り出した。
出番を失ってショックを受けたからではない。
真魔王だった唯の姿から、言い知れない恐怖を感じていたのだ。
「ふむ。ハヅキの姿が見えぬのう」
慈愛を含むようなその声で、ハッと、気を持ち直したパトリックは、助けたゴブリンに事情を訊き始めた。
その間に唯は「ほれ」っと、回復薬を配っていた。
これは、卯月を受け渡す際に領主イノから譲られた、大量の回復薬や食料の1部で、ゴブリンたち移住先の生活を考えた、パトリックの手配だった。
それを、唯の腕輪に収納していたのだ。
「唯殿。ハヅキは、足止めのために残ったと……」
それを聞いた唯は、ひとつ間をあけると、口を開いた。
「パトリックは、ここで皆を守れ。妾がハヅキの元へ行く」
そう告げた唯は、残ったハヅキの元へ、走りだした。