※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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お土産と頭痛。

 

 

 駆けるその顔、鬼神の如(ごと)く

 舞い散るその砂、風神の如く

 過ぎし砂浜、凄惨の如く

 

 ハヅキの元へ向かっていた唯は、伝令を受けた多勢のゴブリンと鉢合わせた。取るに足らない問題であるが、得た情報は大きかった。

『女』と『催し物』

 その情報を得た唯は、ギアを最大限に上げ、猛スピードで走り出した。その後方には、地獄絵図のような光景が広がっていた。

 

 スピードをアップしてから僅か数十秒で、彼女は、視界に標的を捉えた。すると彼女は、スピードを保ったまま2段蹴りの要領で軽くジャンプすると

 シュッシュッ!

 履いていたピンヒールを蹴り飛ばした。

 その2つのピンヒールはスピードを落とすことなく、群れる標的の最後尾までを貫く事になり、その結果、最低でも500ゴブリン以上の命が、あっさり絶たれる事となった。

 

 軽くジャンプした彼女は、そのスピードのまま、捕らえた人魚に意識を奪われ、襲撃を受けたと、まだ気付いていない(・・・・・・・)標的の群がりまで、到達していた。

 彼女は、ライダーキックのような姿勢で、群がりの手前に着地。

 ドッシャャャア!

 その着地の勢いは、地面に着いても衰えることはなく、砂や地面、その上にいた標的のゴブリンたちもろとも、弾き飛ばしてしまった。

 地形の変わったその場に残ったのは、地形を変えた張本人と、狙い通り垂直に舞い上げて、救助した人魚だけだった。

 

 場所は変わって、その天変地異にも似た着地の余波は、別の人物も巻き込んでいた。

 セイレーンのヴァイオレットだ。

 彼女が決死の覚悟で『いざ、行かん』と、仲間の人魚を助けるため飛び込もうとした矢先だった。空中の彼女に向かって、砂やら土やら、ゴブリンが、もの凄い勢いで飛んできたのである。

 その余波に巻き込まれた彼女も哀れ、犠牲者の1人になってしまった――――

 

「そんな間抜けじゃないけぇ! 黄金鱗翼(ゴールドスケール)」

 

 この黄金鱗翼とは、翼の強度が格段に上昇するスキルであり、攻守の両面で役立つ。それを使った彼女は、翼で三角の形を作り頂点を前に向ける事によって、体を守りつつ衝撃を両側に逃がそうと考えた。

 しかし、健闘むなしく勢いに負け、さらに上空へ押し上げられてしまった。

「じゃゃゃゃゃけぇぇぇぇ!」

 ところが、踏ん張りの効かない空中に居たのが良かったのだろう。結果的に見れば、かすり傷程度のダメージを受け困惑しただけで済んだのだ。

 気を取り直したヴァイオレットは、翼を広げると様子を確かめるように、浜辺へ降り立った。

 

 △△

 

 その頃、穴の中に居る地形を変形させた唯は、少し戸惑った表情で、救出した人魚を見つめていた。

 ハヅキが襲われていると思って、勢いよく飛び込んできたのに、これいかに――――

 

「ハヅキはどこじゃ?」

「――あ……」

 

 唯の問いかけに対して、救出された人魚は、まず礼を言おうと考えるも、全身に回った毒のせいで、体を動かすことも、喋ることもできなかった。

 

 ―― 取りあえず、海に投げ込んでみるかのう……

 

 人魚と言えば、水じゃろう。

 人魚の様子に不自然を感じ取った唯は、皿の乾いた河童と同じく、人魚も水を与えれば体調を取り戻すだろう。と、珍しく精彩を欠く、ズレた考えを導きだした。

 なので、海に向かってジャンプ。

 まさに時だった、穴の上に降り立ったヴァイオレットに、声をかけられたのは

 

「もしかして……唯殿か?」

 

 ヴァイオレットに気づいた唯は、人魚をお姫さま抱っこしたまま、ヴァイオレットの前へジャンプした。

 ―― ん??

 名前を呼ばれたと言うことは、知り合いの可能性が高い。そう考えヴァイオレットの姿を確認するも、全く見覚えがなかった。

 ジー。

 しかし、目に留まったブツを見て、ピーンと閃いた。

 唯は、腕の中にいる人魚と、目の前のヴァイオレットを見比べると納得したのか『ほれっ』と、人魚を手渡しながら口を開いた。

 

「500年も経っておるのに、まだ生きておったか。それで、その姿はなんじゃ? 進化か? 相も変わらず下劣(げれつ)な体を晒(さら)しおって……巨乳(デブ)が!」

 そう言いはなった唯は、少し目線の上にあるヴァイオレットと人魚の胸をキッと睨(にら)んだ。

 

 唯とヴァイオレットは、顔見知りである。その昔、水の聖霊サラデインが、人魚たちに卵を授けに行った時、2人は顔を合わせていたのだ。

 顔見知り程度ではあるものの、唯は個性豊かな同行者たちの中でも特に印象深く、ある程度やり取りした事もあって、ヴァイオレットはハッキリと覚えていたのだ。

 唯の方はというと、巨乳(ちち)は敵。

 とんでもない記憶力は、顔よりも乳で覚えていたのだ。

 

「久しぶりじゃけぇのう。しかし、会うなりデブとは……辛辣(しんらつ)じゃ。そんなに、この豊満な胸がうらやましいのけぇ?」

 

 デブと刺激されたヴァイオレットは、あえて体を揺らし、ぷるんぷるんのおっぱいで唯を挑発した。すると、抱かれている人魚のおっぱいも、ぷるんぷるんと、まるでプリンのように揺れているではないか。

 

「ふんっ。デブのくせに戯言(ざれごと)を……そんな事よりもハヅキを、人族の女性を見ておらぬか?」

 

 それを聞いたヴァイオレットは、取り乱しているように見える様子から、あの助けた女性は、唯と相当近しい間柄なのだと理解した。

 

「あの女性と知り合いだったのけぇ。それなら無事とは言えんが、保護しとるけぇ。しかしありゃあ相当ダメージが深かった……パールの魔法でも治せるかどうか――」

 

 取りあえず唯は、保護されたと聞いて安心した。しかし、状況はすこぶる悪く、余談も許されない状態だ。

「今すぐに案内せい。と言いたい所じゃが……」

 口を閉じた唯が、周囲を鋭い目で見回すと、その後をヴァイオレットが引き継いだ

「こいつらの始末が、先けぇ?」

 

 唯とヴァイオレットは、ゴブリンたちに囲まれていた。その後ろには、恐るべし兵器である『筒』を構えたゴブリン将軍も控えていた。

 当然、唯とヴァイオレットも大分前から気付いていて、知らんぷりをしていたのだが……準備を終えたゴブリンたちは、ぼちぼちしびれを切らしそうだった。そう言う訳だ。

 

 とそこへ、海面の上を2つの物体が飛んできた。

 そう、数多の血を吸ったであろう唯のピンヒールだった。

 ゴブリンたちは不思議そうに、そのピンヒールが、彼らの仲間を襲った攻撃の正体とは気づかずに、唯の目の前に綺麗に並んで着陸するまでを眺めていたのだ。

 その注目が集める中、唯はピンヒールに足を通した。

 ズボッ

 その瞬間、ヒール部分が砂に埋まってしまった。これでは、本来の役割を果たせないではないか。

「ふんっ」

 その声とともに、ズポッとヒール部分が砂中から現れたが、見えない何かで支えられているのか、地面に触れていない。

 まあ、別にいいだろう。これで足も綺麗に見えて、身長も高くなった。

 さあ、戦闘準備OKだ。

 

「背伸びけぇ? 脱げばいいじゃろうが」

「デブには分からん。様式美というやつじゃ」

「それを様式美と言うかは置いといて、ワシは怪我人を抱えておる。1人で大丈夫けぇ?」

 

 それを聞いた唯は、ビシッと、ヴァイオレットの下乳に指を差し込むと、親の敵を抉(えぐ)るかの勢いでグリグリ。

 

「妾(わらわ)は、細かい事は気にせぬ寛容で、寛仁で寛大な心を持ち合わせておるが、先程から少しだけ、ほんの少しだけ、妾に対する口の利き方が、おかしいのではないか? 妾を誰だと思おておる!」

 

 ―― あーそうそう。面倒な人じゃったけぇ……

 遠い記憶を思い出したヴァイオレットは、呆れ顔だ。

「変わらんのぉ。はいはい唯姉さま、唯姉さま。じゃあ、あとは頼みますけぇ」

「おぬしに、その呼び方を許可した覚えは……」

「歳けぇ? ボケるのはっ……」

 

 その瞬間ヴァイオレットは、殺気を感じて口を閉ざした。

 少し調子に乗りすぎたようだ。唯の目が、ヤバイ方向でヤバかった。

「尊敬する唯姉さま。よろしく頼みますけぇ」

 なので、すぐにヨイショして誤魔化した。

「まあ良い。ちゃっちゃっと済ますのでな、妾の華麗な後ろ姿でも眺めながら、砂粒でも数えておればよい」

「……」

 ―― 眺めながら? それは高度じゃけぇ……

 ヴァイオレットは思った。

 

 △△

 

「長らく待たせたのぉ。ハヅキに何をしたのか知らんが―――― 死ね(こい)」

 その言葉を皮切りにして、律儀(りちぎ)にも待っていてくれたらしいゴブリンたちが、動き出した。

 その瞬間ヴァイオレットは『砂粒でも――――』などと言われたが、なんの冗談じゃけぇと誰よりも早く動き、砂浜と宙を蹴って、海上に飛び立った。

 

 棍棒片手に唯を攻撃するゴブリンたちの後ろから、筒持ちのゴブリン将軍は、照準を合わせていた。

 その射線は訓練でもされているのか、うまいこと狙えるように空けられていた。そのゴブリンたちの間を縫うように、弾が飛ぶ。

 ―― ふむ。

 唯は躊躇(ちゅうちょ)なく受け止めた。

 両手でガチッと掴(つか)むも、勢いに負けて、ズサーと数m程押されてしまったが、当然ダメージは全くない。

 回転する弾を押さえ込むのに、手の平にかすり傷を負ったくらいだろうか。

 

 そこでふと、ゴブリンを蹴り飛ばしながら唯は思い出した。桜は、ジェームス隊の砲撃に熱心だったと。ならばあの筒は、いい土産になると。

 

 その間にも、ゴブリンたちの棍棒は、唯を狙って振り回されている。前後左右、あらゆる角度から攻撃するさまは、よく訓練された、統率の良さを見せていた。

 砲弾を収納した唯は、両手に指鉄砲を作ると、素早く全面発射でゴブリンを撃ち抜き、後方にジャンプ。

 

 しかし、しつこく数も多いのですぐに囲まれてしまう。それでもゴブリンたちは、射線だけは維持していた。

 辟易するほどのゴブリン棍棒と、間を抜けて来る弾のコンビネーション。

 棍棒でダメージを受ける事はないだろうが、もし、弾が当たってしまったら……ダメージを受けるかもしれない。

 そう考えた唯は、ゴブリンの動きに合わせて、筒が使えない位置取りを心掛けて動きだした。

 その時だった。

 

「ショットガン・フォーメーション!」

 その声と同時に、唯の蹴りを受けたゴブリンが爆(は)ぜた。それを合図に、ゴブリンたちは決死の覚悟で唯の足や服に掴みかかった。

 近づくゴブリンに攻撃すれば爆ぜて、その隙をつき特攻を決めるゴブリン。流石は数の暴力である。1ゴブリン、2ゴブリンと、足枷重りの如く、次々と唯の動きを阻害するのに成功していた。

 もう唯の体は、まとわりつくゴブリンや、その体液や肉片でべっとりだった。

 

「たわけどもがっ! 妾に触れるでない!」

 全身から魔力を放ち、周囲のゴブリン全てを、吹き飛ばそうと力を込めた。しかしその前に、周囲にいたゴブリンが連続して爆ぜた。

 その隙を付かれてしまった。 

 

 ゴブリンにショットガン・フォーメーションを指示したゴブリン将軍は

 ハンマー係。

 素早い筒交換役のゴブリン将軍。

 筒持ち&照準係。

 弾を込めるゴブリン。

 に分かれて、連続で撃つフォーメーションを敷いていた。

 

 唯は、ゴブリンの自爆特攻&抱きつかれたショックで油断していた。その唯に、とうとう弾がヒット! またヒット! さらにヒット!

 

「よし、ドンドン撃てー!」

 相手は、天変地異を起こし、ゴブリンたちを1撃で一蹴した相手だ。そんな相手を捕まえるとか、催し物の獲物にするとか考えられない。そんな危険な相手は、殺せるときに殺すのが鉄則だ。

 

「オラ! そりゃ」

 被害は大きかったが、所詮は量産型の部下である。時間さえあれば補充は可能だし、自分たちが生き残るのが、最重要課題なのだ。

 作戦が上手く運んだ事で、ゴブリン将軍たちは俄然楽しくなってきた。結局、女を殺すのも凌辱するのも、得られる愉悦と爽快感は同じなのだ。

 

「そりゃ! そりゃ!」

 ハンマーで叩く、叩く、叩く!

 筒を、セット、セット、セット!

 弾を、込める、込める、込める!

 照準を合わせて、持つ、持つ、持つ!

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 ぐちゃ! ぶぢゃ! 

 

「ん? ぶちゃ?」

「どうした、手を休めるな。はよう打たぬか」

「えっ………?」

 

 ハンマー係だったゴブリン将軍は、調子に乗ってリズミカルにハンマーを振るっていたので、今頃気づいて己の目と耳を疑った、

 筒かと思っていたのに……

 今しがた打った感触と音は……

 ―― あそこに転がっている物は何だ?

 仲間のゴブリン将軍の陥没した頭だった。その前のゴブリン将軍の頭は破裂したのか、存在を確認できなかった。

 

 当然その犯人は唯だった。

 素早くあの場を抜け出した彼女は、ここに来て弾係のゴブリンを瞬殺すると、筒の代わりに筒交換役ゴブリン将軍の頭をセット、2回目は、筒の置く場所に筒持ち係のゴブリン将軍の頭を押したのだ。

 

 つまり、ハンマー係のゴブリン将軍を残して、全てのゴブリンが殺されていた。

 ゴキッ、ベキッ

 唯は、ハンマーを持つゴブリン将軍の腕をへし折ると、膝を正面から蹴り込んだ。

 腕と膝が、ありえない方向に曲がっていた。これは痛い

 

「ぐぎゃぁぁぁぁー」

 もがき苦しむゴブリン将軍をよそに、唯は3本の筒を見事に回収したのだ。

「ふむ。いい土産ができたのう」

 そんな呟きを漏らす彼女の周囲には、首チョンパされたゴブリン将軍の死体を筆頭に、ゴブリンたちのバラバラになった、凄まじいスプラッターな光景が広がっていた。

 

 その唯の全身にも、肉片やら訳の分からない物がベットリと付着していたのだ。

 

「まったく迷惑な奴らじゃ」

「ワシが、綺麗にしちゃるけぇ」

 パールのところへ戻らず、どこかで唯の戦いを見ていたのだろう。人魚を抱いたままのヴァイオレットが、唯の元に降りてきて言った。

 

「ふむ、任せた」

「頑固な汚れには、泡が1番じゃけぇ」

 むにゅむにゅっと、なにやらヴァイオレットが魔法を唱えると、唯の体を泡が包み込んだ。

 

 △△

 

 髪を乾かし終えた唯は、仲間の腕輪(ゼラ・ブレスレット)でワインレッドのドレスに着替えを済ませた。

 捕まえたゴブリン将軍は、ヴァイオレットの手によって、ゴブリン特製の網で拘束済みだ。なので後始末は、浜辺に散らばる死体から腕輪の機能で魔石を回収して終わりだ。

 

 ゴブリンの死体は、そのままでも大丈夫だろう。

 脅威となる唯が居るので、出て来ることはないが、騒ぎを聞き付けた飢えた魔物が、森のあちらこちらから、ゴブリンの死体を狙っているのだから……

 数日もしないうちに、死体ひとつない綺麗な浜辺に戻っているだろう。1カ所、深い池みたいになっているが、自然と砂が流れ込み、数日で元に戻るはずだ。

 

「ヴァイオレット!」

 そこへ、様子を見に来た人魚が現れ、声をかけてきた。最悪を想定していただけに、その表情には嬉しさが溢れていた。

 

 唯たちは、その人魚の案内で沖の岩陰へ場所を移した。そこに、パールたちが隠れていたのだ。

 当然、拘束したゴブリン将軍も強制連行だ。彼からは、ゴブリンダンジョンの情報を引き出す必要があって、そのまま放置しておけば、魔物の餌になってしまうからだ。

 なので現在は、近くの岩場に縛り付けてある。

 

 ハヅキは人魚の休憩所の上に横たわっており、シャボン玉みたいな泡は解除されていた。どうやら起き上がるのは無理そうだが、なんとか会話ができる程度には回復していた。

 その姿を見て、唯は胸を撫で下ろした。

 

 その横では、唯が助けた人魚の治療が始まっていた。先に毒にやられた人魚もそうだが、毒の程度は低いらしく、あっさり治療は終了した。

 それを見届けた唯は、パトリックが待っているので、ハヅキの運搬を依頼した。当然、パールたちは快く了承したのだ。

 

 人魚の休憩所をもう2つ作って、その上に唯と、捕虜にしたゴブリン将軍を乗せて進む事になったのだが、唯はヴァイオレットに頼んだ。

「すまぬが、この娘と2人で話がしたい。妾を乗せる人魚の休憩所を操縦するのは、この娘1人で頼む」

 

 という訳で、唯を乗せた人魚の休憩所は、1番最後。操縦するのはパールだ。

「おぬしがサラデインの娘。人魚姫じゃな?」

 唯は、ハヅキを治療してくれたパールに、心からの感謝を伝えると、そう問いただした。

「そうなの。パールなの!」

 

 なぜか唯は、カクッと力が抜けてしまった。

「そ、そうか、妾は唯じゃ。ハヅキを治療してくれた礼じゃ、妾の事は、唯姉さまと呼ぶがいい」

「分かった。唯ちんなの」

「な、なにを聞いておった。3枚におろされたいのか?」

 

 キッと睨みを利(き)かせる唯だが、初対面の人に対して彼女の態度もどうだろうか……唯だから問題ないのだ。

 そんな彼女の態度に、臆することなくパールは呟いた。

「きれいな髪。瞳も綺麗なの……」

 パールは、睨みを利かす彼女の髪の毛や瞳の色に魅入っていた。完全に顔を出した月。その光が反射するパールの髪も、負けず劣らず美しいのだ。

 

「くっ、やはり胸に栄養を取られた人魚(バカ)どもじゃ。話が全く通じん。自由かっ!」

 とは言え、自慢の髪や瞳を綺麗と言われて、唯もまんざらでもなかった。

 

 唯は、パールの頬を、ペシペシと軽く叩いた。

「パールよ、妾の話を良く聞くのじゃ」

 パールは、はっと我に返った。

「唯ちんの?」

 

「妾、唯姉さま」

 唯は、自分を親指で指した。それを見たパールは、コクッと頷いた。

「唯ちん、ダメッ!」

 ダメのところで腕をクロスして、バツ印を作り強調。

 それを見たパールは、ウンウンと頷いた。

 ちゃんと理解してくれたようだ。そう感じた唯は話を続ける。

 

「言うことを聞かない、3枚におろす。パール、食べられる」

 パールを指差すと、手刀でシュッシュッと2回切る真似をした。次に、指をお箸に見立てて、刺身を掴み口に放り込むジェスチャー。それも自分の舌を、まるで、本当の刺身みたいに挟む細かい芸まで披露した。

 

「食べないで、なの」

 それを見たパールは、涙ぐみそうになるが

 ピーン!

 陽二とのやり取りを思い出した。

「パールが、かわいい(・・・・)からなの?」

「なんでやねん!」

 バシッ

 陽二が苦し紛れに出した言い訳

『かわいいから意地悪を言った』

 を知るはずもなく、パールの言葉の意味が全く分からなかった唯は、思わずパールの頭に、切れのよい良い音を響かせる平手打ちを、してしまったのだった。

 

 △△

 

 その後、泣き出したパールを優しく宥(なぐさ)めた唯は、

 叩いてしまった後ろめたさも合わさり、色々と根負けして諦めた結果、話を続けた。

 

 人魚姫パールは、この世界に初めて誕生した『水の聖霊』サラデインの卵から産まれた子どもだ。

 ナーナの事もハッキリしていない今、司に繋がる可能性があるのなら、どんなに細くても情報収集すべきなのだ。 

 と言っても、契約者の本条司と聖霊サラデインが、チョメチョメしてできた卵ではなく、信頼関係の賜物だと、唯はサラデインから説明を受けていた。

 聖霊の卵を簡単に言えば、サラデインの力が詰まった物だ。なので、例えばサラデインの現状とか、他の聖霊の事とか、何か知ってる、もしくは感じるのではないか?

 唯は、司に繋がる情報があれば……そんな期待をもって、パールに問いただしたのだ。

 

 ところが、人魚姫パールから得られた情報は、何ひとつ司や聖霊に関係する物はなかった。

 要するに、パールはポンコツだった。

 ただし、パールの口から意外な人物の名前が出た。陽ちんこと、陽二だ。

 陽二がパールに何をしたのか、人魚たちと何をしたのか、出るわ出るわ。

 

 唯は、怒りも呆れも通り越して、殺してしまおうかと本気で考えた。そして、ランスロットが陽二に向ける気持ちを考え、頭が痛くなった。

 

 それは、パールがこう説明したからだ

 人魚姫に種を授けること=人魚姫と結婚。

 そして、その話を聞く前に『妾は、陽二の居場所を知っとる』とパールに教えており『会いたいの、唯姉さま!』その言葉に、思わず2つ返事で了承していたのだ。

 なので、今さら約束事を覆す事はできない。

 

 ―― ふう……

 心の中でため息を吐いた唯は、自身も巻き込まれた経験から、ハーレムと呼ばれる物は大の嫌いである。できれば、ランスロットには同じ目にあって欲しくはないが、すでにゾッコン。いくら言っても手遅れランデブーなのだ。

 

「ハヅキ!」

 

 パトリックの待つ浜辺に到着したようだ。唯は、駆けつけるパトリックの姿を見ながら

 ―― 本人同士で、ケリを付けさせるしかないのう……

 と、3人が会する場を設ける決意をして、深いため息をついた。

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