※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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5章
調査&朝食/闇魔法/シェフ冥利


 

 唯と人魚姫パールの初顔合わせから数時間後。

 

「うげっ」

「陽二、居る。なんで?」

 

 鳩尾(みぞおち)に強い衝撃を受けた彼が目を覚ますと、お腹の上に、真魔王レヴィアタン=メルビレイが分裂した存在のひとり、通称レヴィが居た。

 彼女は、小学校の低学年くらいにしか見えない身長と、幼い顔立ちをしていた。彼と同じく黒い瞳と黒い髪で、肩に届くほどの髪の毛は自身で手入れできないのか、最初の頃に比べるとボサボサになっていた。

 

 ほえ? と首をかしげる彼女の肌は、日焼けをしたような健康的な褐色で、白のランニングシャツと水色の半ズボン、そして裸足姿なのが、田舎の子どもを想起させる。

 

 唯やセナドゥースの話だと、出現当初のレヴィアタンは、黒マント姿で醜い顔をしていたようだが、陽二の『曇りなき眼で――』そう指摘すると、今のような姿に見えるようになったと言う。

 

 当然ながら彼の言葉に、レヴィアタンの『醜く見える呪い』を、解除できるような力はないだろう。なので、強力な呪いのように感じるレヴィアタンの呪いとは、案外、些細な暗示程度なのかもしれない。

 

 それはさて置き。

 現在、幼い子ども姿のレヴィアタンだが、彼女本来の姿は20代前半の姿をしていると言う。なのでレヴィアタンのお願いでもある、分裂した体を集めれば、姿が変わっていくのかもしれない。

 

 

「あれ? どうしてここに、レヴィがいるの?」

 

 彼の記憶は、スマホのあーしさんと話をしていた所で途切れている。単純に考えれば寝落ちであり、セナドゥースの部屋に呼ばれたのならば、今までの経験則から考えると、起きて呼ばれるはずだ。

 ならばここは、王宮で借りた部屋になる。しかし、レヴィアタンはあの部屋から出る術はないのだ。彼は、彼女を支えながら腰を上げて、部屋を見回した。

 

「やっぱりセナの部屋だ。ねぇセナ、俺のこと呼んだ?」

 

 眠ったまま呼ばれる事もあるのか。その考えに行き着いた彼が、部屋の管理者セナドゥースに問いかけるも、彼女は眠っているのか、返事はなかった。

 ここでもう1度説明するが、闇の聖霊セナドゥースは、出会った頃から眠り続けており、1度たりとも目覚めたことはない。その原因は、唯と彼女2人分の穢れを引き受けた事だ。

 しかし摩訶不思議な事に、体は眠っていても、部屋自体に彼女の意識があり、会話をする事は可能なのだ。

 

 なのに返答がなかった。

 セナドゥースは、彼が部屋を訪れていない時は休んでいる。と説明していた。なのでおそらくだが、意識だけの彼女も眠ることが可能で、今まさに『休んでいる』状態なのだろう。

 彼も、そのように考えたようだ。

 

「まっいいか、いま何時だろう……朝の5時か。コツコツ頑張りますかっ!」

 

 桜の屋敷では、アスモデウスに起こしてもらい朝の練習をしていた。今日は王宮に泊まっているので、当然、彼女は起こしに来ないが、起こしてもらったから練習する。では、意味がない。

 

 それに、魔技は1日休むと3日後退するという。

 

 このような意味の諺(ことわざ)も多い事から考えると、言葉通りの意味ではなく、継続することに意味がある。そう捉えても問題はないだろう。つまり、継続は力なりだ。

 つらつらとその考えに行き着いた彼だが、練習用のジャージは洗濯に出しているので、所在は桜の屋敷だ。なのでTシャツと短パン姿。つまり起きたままの服装で、部屋の外へ出た。

 

 部屋の外は一面、足首くらいの低い草原だ。

 そして、この島の周囲は湖なのか海なのかに囲まれており、その地平線は、遥か彼方(かなた)まで広がっている。この島の他に陸らしきもは全く見えないので、まさに絶海の孤島と言えるだろう。

 

 彼はそのまま島の端まで進むと、下の水面を確かめた。ほぼ垂直で、その高さは足がすくむほどだ。詳しい高さは目測でも見当つかないが、吸い込まれるような錯覚を覚えるその場から落ちてしまったら、戻ってくるのは極めて困難なのは理解していた。

 

 ―― 魚いるのかな……

 それでも、水の中に居るであろう魚に、未練を覚えてしまうのも事実だ。主に、レヴィアタンの食料的に。

 そう考えた彼は、島の外周をランニングしながら、降りられる場所がないか、調査を始めた。

 

 この島の直径は大体1kmほど。丸い形をしており、セナドゥースの部屋は、ちょうど島の中心に位置する。なので、ランニングコースは3kmちょっと。

 島の外周は全て断崖絶壁になっており、残念ながら降りられる場所は、ひとつもなかった。

 

 次は、草むらに目を向けた。

 生えている植物は、見落としがなければ1種類のみのようだ。ホームセンターなどで、芝生として売られている感じの草だ。スキルのレベルが低いからなのか、『鑑定』を使って調べても『草』以外なにも分からなかった。

 とは言え、レヴィアタンが食べていた事から、食料にはなりそうだ。

 

 ―― 食べないし。しかし、虫の1匹すら居ないな……

 

 彼は、島の中心に目を向けた。

 中心にあるのは、正面からしか室内が見えないセナドゥースの部屋だ。後方や横から見ると、看板みたいな黒い板にしか見えない不思議空間。しかも正面の入り口以外から、つまり、後方や横から手を触れると、通り抜けてしまうのである。

 

 最後は、上空に広がる空だろうか。この空は、何時来ても何時間経っても変わることはなく、常に暗(あん)と明の境目が紫色に染まった『薄明』その瞬間のままだった。

 ―― 不思議な空間だな……

 彼の感想通り。ここ箪笥の中は、外の常識とは少し違う不思議な世界だった。

 

「レヴィも、走る、一緒」

 そんな嬉しい事を言いながら、元気なお子さまレヴィアタンが、トテテーと彼の元に走ってきた。

 その笑顔に比べれば、この不思議空間など、考えるだけ無駄な雑魚レベルである。

 

 彼は早速、レヴィアタンと一緒に話をしながら、のんびりとランニングを再開した。

 

「あの水平線の向こうって、何かあるのかな?」

「陽二、気になる? 行って、みたい?」

「いつかは行かないと……そんな気がするんだよね」

「死亡、フラグ?」

「そうそうって、違うけど……それ、どこで覚えたの?」

 

 △△

 

 レヴィアタンと一緒に柔軟体操を済ませた陽二は、魔技の基礎から、教わった一連の練習方法の全てをこなす。もちろん、短剣と魔法の練習も忘れはしない。

 見て、訊いて、考えて、実践する。

 アスモデウスの教えを、ひとつひとつ思い返しては繰り返す。ひと通り練習に集中していた彼は、確かな手応えを得ているだろう。

 ふうっと、心地好い汗を拭(ぬぐ)い時間を確認してみると

 

「えっまだ6時?」

 ―― 体感的には2、3時間くらい練習したはず……あっなるほどね。セナが、時間を伸ばしてくれてるんだ!

 この説明も重複するが、セナドゥースと時間(スキル)の力を使えば、この部屋がある空間と箪笥の外では、流れる時の速さが変わるのである。その差は3倍。

 ちなみに、スマホの時計や風(イガネオ)の表示は、外の時間のままである。

 

 ―― それなら、まだまだ時間に余裕もあるし……

 そう考えた彼は、自作のかまどの試運転も兼ねて、レヴィアタンに朝食を作ってあげようと思った。実は彼、見た目はあまり良ろしくないが、食べられる物を作れる自信だけはあった。味は本人好みなので、別の話になるが……

 

 早速、クッキング陽二(パパ)の出動だ。

「とお! おりゃ!」

 と、口ずさみながら肉を切る。

「くっ残念だ! オリーブオイルがあれば、秘技を披露できたのに!」

 そんな口からデマカセを言いつつ、料理を進めた結果。ちょこんと座って待っていたレヴィアタンの前に

 

「じゃじゃーん! 目玉焼き&焼いた肉、完成!」

 

 誰でも作れそうな、肉ジューと目玉ジュー3つが出された。それを見たレヴィアタンは「おお、おいしそう!」と、大袈裟に喜んでくれたので、彼も大満足だ。

 

「さあ、さあ、お客さん。食いねぇ食いねぇ」

 

 テーブルの上に直置きしたフライパンの下が、何やら焦げ臭いが、男は小さな事を気にしないのだ。

 

「はふ、はふ。おいしい。にくも、うまし!」

 

 レヴィアタンは男料理の味に理解があるのか、スプーンと箸を器用にぶっ刺し、黄身をベタベタ落としながら、おいしそうに食べた。

 

「じゃあ、そろそろ起きようかな。足りなかったら適当に焼いて食べて良いからね」

「陽二、もっと、焼く。にく、にく! 目玉、眼球!」

「目玉焼きね。言い方が怖いよ」 

 

 彼は、レヴィアタンの口の周りに付いた黄身を拭いつつ言う。

「また今度ね、そろそろ起きなきゃだし」

「むー、わかった」 

 

 自分の料理を褒められるのも、求められるのも嬉しい。しかし、王宮に泊まっている手前、惰眠(だみん)を貪(むさぼ)っていると勘違いされては困るのだ。只でさえ危なっかしい状況なのに、もしパトリシアに知られでもしたら……妹を卒業してしまうかもしれないのだ。

 

 そんな邪(よこしま)な思惑を持つ、彼の言葉に納得したレヴィアタンは、室内へ走って戻ると、大きな肉の塊を持って来て、かまどの網に乗せた。

 エンゲル係数がもの凄く高くなりそうだ……

 

 そんなレヴィアタンの頭にポスンと手を乗せた彼は、室内に戻ると、念のためセナドゥースにも声をかけた。

 

「そろそろ起きるから帰るね。まだ寝てる?」

「起きてるよ。ちょっとね、考え事をしていたんだ」

「そう言えば、時間を使ってくれてたんだね」

「うん、それでねマスター。今から闇魔法を教えたいんだけど、まだ起きなくても大丈夫だよね?」

 

 レヴィアタンの頼みを断ったばかりなのに、それはどうだろうか。チラッと時間を確認すると、6時半。7時に起きると考えれば30分の3倍、90分の余裕はある。

 取りあえず彼は、ベッドで寝ているセナドゥース本体の隣に座って、その漆黒の髪の毛を撫(な)でながら話を聞くことにした。

 

 この、人形みたいに美しい少女が、闇の聖霊セナドゥースだ。通称セナ。

 元勇者である本条司と契約した5聖霊のひとりで、漆黒の長い髪を持ち、黒いシックなドレスを身にまとっている。年齢は不詳。女性に年齢を聞くのは御法度だ。

 

 豊(マモン)の攻撃により『穢れ』と呼ばれる呪いを受けて、今現在も眠ったままのセナドゥースに、穢れを送り込む手助けをしたのがレヴィアタンだ。しかし彼女は、マモンに騙されていたのが判明しており、また、唯の鉄拳制裁を受けたことで、軟禁中ではあるものの、無罪放免となった。

 このふたりは今も穢れで繋がっており、レヴィアタンが嬉しい感情を持ったり、セナドゥースにマッサージ(刺激)を与えると、部屋の外に漆黒の魔物(穢れソルジャー)が現れるのだ。

 

 話は変わるが、セナドゥース以外の4聖霊も穢れに犯されていて、大賢者(光の聖霊)がそれを取り除くために、神殿を作って奉(たてまつ)った。

 しかし、その神殿は突如としてダンジョン化してしまい、4聖霊が奉ってあった部屋は、ダンジョンの中へ。唯一発見された部屋の扉には封印がしてあり、中に入れないようだ。

 しかし、レヴィアタンの分裂した体を取り戻すためには、ダンジョンの攻略が必須である。なので彼は今、各町にあるダンジョンを攻略するために、実力を着けているのだ。

 

 ここでふと、セナドゥースの髪を撫でていた彼は、正体が光の聖霊である大賢者について考えた。

 ―― 唯さんは会ったことがあるって言ってたけど、大賢者って何処にいるんだ? 何か事情を知ってそうだし、助けてくれてもいいんじゃないか? それに、司くんたち勇者を呼んだ張本人なんだろう? 呼んでおいて、ほったらかしかよ!

 

 彼は、まだ見ぬ大賢者への不審感が100上がった。

 

 ―― そう言えば忘れてたけど、俺も勇者だったっけ。誰かに呼ばれたのか? 

 

 本当に自分が勇者だったと忘れていた彼だが、例えば、女神が現れてチートスキルを授けてくれるなど、それっぽいアクションは何もなかったので、仕方がない。

 それとは別に、この世界に彼と同じく、違う世界の人間が訪れるのは、数年に1度。下手すれば1年に数人見つかったりするので、特別に珍しい事ではないのである。

 それは、異世界人を保護して王都に案内する決まりがあることからも、桜を姫と慕って集まっている同郷人が居ることからも、容易に推測できる。

 なので彼も、職業がたまたま勇者だっただけで、司たち勇者と同じく、この世界に召喚(呼ばれた)された可能性は低いだろう。

 

 ―― なら、この世界と繋がるワームホールみたいな物があるとか?

 

 色々な謎や疑問は当然ある。

 それでも彼は、この世界が気に入っているし、帰る気は全くなかった。しかし、司たち勇者が使っていた魔法陣のように、往来できるチャンスがあるのなら、妻である麗香との関係を清算するため、戻る気はある。どうせ、役立たずのATM呼ばわりだったのだから……それと当然、両親の事も気掛かりなのもあった。

 

 ―― 慰謝料代わりじゃないけど、家と土地を含めた全ての財産は、麗香に譲ってもいいしな……

 

 当然これは、彼の独善的な考えだ。

 夫婦の関係が破綻していたとは言え、麗香の意見も意思も無視した自分本位で身勝手な考えだと、彼も重々承知していた。

 当然ながら、麗香がどのように考えているのかは、彼には分からない。なので、戻って話をしなければならないのだ。

 

 △△

 

「マスター、マスター!」

 

 ひょんな事から考え込んでしまった陽二は、セナドゥースの呼び掛けによって、現実に引き戻された。

 

「聞いてる?」

「ごめんセナ、ちょっと考え事をしてたよ。それで、闇魔法を教えてくれるって?」

 

 彼は、後ろめたい考えをしていた事を誤魔化すように、眠っているセナドゥースの体に、謝罪の意味を込めて手を合わせた。

 

「て言うか……考えてた事、全部筒抜けだったんだけどね」

「マジか! なら今度、相談相手になってくれる?」

「ボクが!? うん、話を聞くだけならね。それじゃあ切り替えて話を進めるよ。教える魔法は、闇影(ダークシャドウ)」

「闇影? それらしい痛い名前の魔法が来たねぇ」

 

 話を訊いてから、教わるのか起床するのかを決めようとしていた彼だったが、話の流れは教わる前提で進んでいる。

 後ろめたい考えが筒抜けだった事もあり、今さら「起きるからまたね!」とは言い出せない。

 なので、茶化すような言い方をした彼の視線は、肉を焼くレヴィアタンへ自然と向いていた。

 コクンコクン。

 彼の視線に気付いたレヴィアタンは『気にするな』そんな頷きを彼に返すと、肉に視線を戻した。流石は真魔王である。器がでかい。

 

 そんな彼に、セナドゥースは言う。

「痛い名前っ!? マスターのためを思って、教えようとしてるのに……」

「ごめんセナ。さっきのは本心じゃなくて……」

「あーなるほど、わかったからもういいよ。じゃあ話の続きね。この『闇影』は平たく言うと、他人に干渉する魔法なんだ。でも今回の目的は、人に対して何かをするよりも、覚えることによって得られる『他人からの洗脳、それに対する抵抗力』を養うために覚えてもらうよ。ちなみにこの『闇影』の熟練度が上がれば、対象の影に潜ったり、収納スペースを覗いたり、転ばせたりできるよ!」

 

「転ばす?」

「もっと熟練度が上がれば、思考を読み取ったり、意のままに操ったり、影の中を移動したり、転ばせたりできるよ!」

「天丼!? 最後の転ばすってどうなんだろう。セナって、そんなに転ばすのが好きなの?」

「大事だよ!」

 

 ―― 大事なのか……

 

「転ばす利点は、おいおい納得してもらうとして。使い方は、対象の影を踏んで唱えるだけ。生物だけじゃなくて、建物とか植物とか全ての影に使えるんだ」

「そして、壁や植物を転ばすのか……」

「バカにしてる? 教えるの止めようかな……」

 

 セナドゥースが拗(す)ね始めた。

 彼も茶化してる訳ではなかったが、熱心に教えようとするセナドゥースとの間に、温度差があったのは事実だ。

 彼には理解できなかったのだ。どうしてこのタイミングで『対洗脳』を養おうとしていたのか。

 

「ごめんって。それで、闇影って唱えればいいの?」

「うん、それでいいよ。あと前にも言ったけど、闇魔法を強くする方法は、熟練度だけじゃなくて『魔法』その物を使い続けて『成長』させなきゃダメだからね!」

「了解っす!」

 

「それからデメリットじゃないんだけど……その魔法には特性があって、使った対象に『お礼』として魔力を分け与えるんだ」

「つまり―― 味方の魔力回復に使えるって事?」

「その通り。別名、魔力あげるから赤裸々な君の心を覗くよ!」

「長くない? 闇影(回復)とかで良いんじゃない?」

「採用! マスターって、天才?」

「普通に思いつくのでは?」

 

 そんな彼の呟きのあと少し間が空くと、焦るようにセナドゥースは言い出した。

 

「じゃ、じゃあ。ついでに闇魔法3大基礎、最後のひとつ。闇壁(ダークシールド)も教えとくね! この魔法は、対魔法の盾だよ。基本理念は魔力吸収! 闇影の反対で、簡単に言えば吸収魔法(ドレイン)だね」

「おおっ! 吸収っていい響きだよね。って事はもしかして……魔力の心配をしなくても済む!?」

「しかしながらだねー、明智くん」

 

 ―― 明智くんって誰だよ!?

「それが禁断の果実だとしても、マスターは食べられるのかい? 甘い言葉には裏がある。酸いも甘いもかき分けて、行ってみようぞ『なるほど、副作用があるのか!』夢――」

 

 気分良く語っているのを邪魔されると、人はどん詰まり状態になり、以外とダメージが大きい。下手すれば、戦争に発展するケースもあるとかないとか……とにかく、聖霊まで登り詰めたセナドゥースも、同じくダメージを受けていた。

 

「そうだね。そうだよ。副作用ありまくり、正解してよかったね、マスター」

「なんかごめんね……」

「とにかく! 魔力の性質は人それぞれ、あまり吸収すると、魔力にバラツキが出て、不調を感じ始めちゃうから気をつけてね。闇影も同じだよ? 同じ人に長時間使うと危険だからね」

 

「なるほどね。そう都合良くはいかないのか……」

「『闇壁』にドレイン能力が備わるのは、まだまだ先の話だと思うから、今は気にせずジャンジャン使えば良いと思うよ。でもその前に『闇影』だけは、優先して使ってね。危ない話も聞くし」

 

「危ない話も聞くし?」

「ごめんマスターそれ以上は聞かないで。ボクはマスターに対して、誤魔化す事はできても、嘘はつけないんだ」

 

 ―― 言っている意味が良く分からないけど、セナが話せる相手は、唯さんかレヴィしかいない訳だし……レヴィが隠し事をするのは考えられないから、唯さん?

 

「うん別に良いよ。話したくない事ってあるもんね」

「ありがとうマスター。でも、いずれ分かるから」

「全然気にしていないよ、覚える事が多すぎるくらいだしね。それに、セナのことは信用してるし頼りにもしてる。俺に対して黙っているって事は、今は、その時じゃないから、心配かけたくないだけだってね」

 

 彼は一時的に箪笥(スキル)を預かっているだけであって、本当の待ち主(マスター)は司である。なので、むやみに詮索(せんさく)してはならないのだ。セナドゥースが、陽二の事をどう思っているのかは別として、一定の線引きは必要だ。と彼も理解しているのだ。

 

「マスターお願いがあるんだけど……」

「なんでも言って。セナから受けた恩は、なるべく返したいし」

「そんな言い方――。うん、分かった。マスター! 早くボクを解放して!」

 

 その言葉を聞いた彼は、キョトンと呆気に取られてしまった。

 ―― そんなに『俺と一緒に居るのが嫌』だったのか……マジかよ、マジかよ、マジかよー!

 

「違うから! 穢れから、解放してって意味!!」

 彼の心の葛藤が流れ込んできたセナドゥースは、叫ぶように否定したのだ。

 それを聞いた彼は、自身の心を読まれたのも相まって、穴があったら入りたくなった。セナドゥースに信用してると言ったばかりだったのに……舌の根も乾かぬうちに疑ったのである。

 だからこそ彼は、誤魔化すために、おちゃらけてしまったのだ。

 

「ガッテン承知の助よっ!」

 彼は突然、室外へ走り出した。

 肉を焼いていたレヴィアタンが『ん?』と見送った。

 島の端まで走った彼は、水平線の彼方に向かって大声で叫んだのだ。

「漆黒の魔物出て来いや! やったろうやんけ!」

 この時彼は、心の冒険の書にクエストを受注して、刻銘に記録した。

 そのクエスト名は『セナドゥース救出作戦』だ。

 

 意気揚々と飛びしてみたものの、そう都合良く、漆黒の魔物が現れる訳もなく……

「って、出す方法あるじゃん!」

 黄金指圧(ゴールドフィンガー)を使って、セナにマッサージだ! 彼は急いで部屋にとんぼ返りするも、セナドゥースの話はまだ途中だったのだ。戻った彼はこっぴどく怒られてしまった。

 

「『闇影』を優先してって話だけど……例えば魔力操作でこうやってこうやるとね――――」

 セナドゥースは彼に、同じ魔法でも魔力の操作ひとつで、全く違う形状になるのを実践して見せた。

 

「なるほどね。やっぱりあれは、同じ魔法だったんだ……」

 彼は、エルフのエフィが使っていた『風矢(ウィンドアロー)』と『風の攻撃(ウィンドニードル)』が似ているのを思い出した。

 

「そうやって形状を変えた魔法に、名前を付けて必殺技っぽく使い続けていると、簡単に発動できて、他人からは違う魔法に見えるようになるんだよ。これが、固有魔法(オリジナル)の基礎だね」

 

 △△

 

 時刻はすでに7時。あっという間の90分だった。

 起床は7時! と考えていた彼だったが、習ったばかりの魔法が楽し過ぎた。なので、臨機応変に対応できる力も大事だよね! と言い訳がましく、起床時間を7時半にあっさり変更する、意思の弱さを見せていた。

 

「陽二、にく、食べる?」

 

 そんな魔法の練習を続ける彼に、テーブルの椅子に腰掛けたレヴィアタンが、上手に焼けた肉を包丁で切り分けながら訊(たず)ねてきた。

 ―― 買ってて正解だったな。

 包丁や皿など、あらかじめ買い揃えていた自身の行動を絶賛した彼は、レヴィアタンからの誘いの言葉が嬉しくて、彼女の隣に座り頭を撫で始めた。

 

「レヴィ、誘ってくれてありがとうね。でも、起きたら朝食もあるだろうから、今回は遠慮するよ」

 そう告げた彼は、ボサボサの髪の毛を見て思い付く。

 ―― 次は、風呂を作ってみるか!

 

 するとレヴィアタンは、軽い食べ物なら大丈夫と思ったのか

「分かった。それなら、草、食う?」

 と言い出した。

 ―― レヴィが食べていた草かぁ……

 

 そう言ったレヴィアタンの目は、せっかく焼いた肉を断られてションボリとした、まるで、売られていく子牛のような眼差しではないか。

 その時、彼の心がズキリと痛みを感じると

『陽二、かわいい女の子の優しさを無下にするのか? 肉を断ったんだ、草はいっとけ』

 そんな心の声がしたのだ。なので、その答えはひとつしかないだろう。

 

「せっかくだし、食べようかな」

 レヴィアタンが準備した皿の上。焼いた肉の横に、収穫したてほやほやの草が添えられていた。

 ―― 付け合わせの代わり? 野菜買ってあるんだけどなぁー。今度は、そっちを付け合わせに使ってよね!

 

 心の中で呟いた彼は、草をひとつまみ。ガジガジと小動物のように、先端から少しずつかじり出した。

 ―― 苦っ……くない!? むしろちょっと甘いぞ!!

 

 食べられない事はなかった。ニラっぽい草なので、調理次第でおお化けする可能性があった。それと僅かに魔力も回復するようだった。

「うん、悪くない。卵とじにすれば合うかも」

 

 レヴィアタンにお礼と感想を述べた彼は、早速草むしり。

 洗って細かく切って、卵と混ぜて適当に調味料を投入。普段はやらないが、空気を含ませる目的でガンガンかき混ぜた。

 うろ覚えだったが、空気を含ませるとフワフワの卵焼きができる。そんな噂を、風が運んできたのを彼は覚えていたのだ。

 

 彼は、それを熱したフライパンに全投入。かき混ぜながら焼きあげた。

 ―― あれ? 何か違うな……

 時すでに遅し。風が運んできた噂はオムレツだったはずだが……完成したのは、スクランブルエッグだった。コロコロとぐちゃぐちゃと、へにょっんとした卵焼きが混ざった物。彼には、正解なのか不正解なのか理解できなくて微妙だった。

 ところがレヴィアタンは『草、うまし!』と喜んで食べてくれたのだ。

 

 ―― 全くレヴィは……シェフ冥利に尽きるゼ! あっそういえば――

 

「ねぇレヴィ。今、リヴァイアサンのダンジョンに入れるんだって。頼めば会えそうだけど……会いたい?」

「会いたい。けど……ここ、出られ、ない。だから、合体、ぶっ壊す」

 ―― 壊すって、この部屋を?

 

「ここから出る方法はどうにかして探すから、ここを壊すのだけは止めてね」

 

 その時だ。彼はふと、視線を感じた。

 ―― やつか! 

 彼のスクランブルエッグなのか、リヴァイアサンの名前を出したからなのか、どちらにせよレヴィアタンの感情が、漆黒の魔物を出現させるまで、刺激されたのは間違いなさそうである。

 その証拠に、50mほど離れた場所に漆黒の魔物が現れ、こちらを見ていたのだ。

 

「ふっ、待たせたなセナ。俺のクエストが始まる!」

 意気揚々と、スマホを取り出そうとする彼だが……

 ―― あれっ、スマホがどこにもない? そう言えば、あーしさんと話をしながら眠ったから……そうか。身に着けて(それか収納)いないと持ち込めないのか!

 

 新たな発見をした彼は、レヴィアタンを連れて室内へ避難。そして

「乙女戦闘服召喚(ゼラニュームドレスアップ)!」

 ゼラ・ブラックへと変身した彼は、前回よりも早い時間で、漆黒の魔物を退治して見せたのだった。

 

 

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