※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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取引と譲渡

 

 王ダグリオスに呼ばれた陽二。話を聞くと、夕飯の招待だと言う。投獄されおなかがペッタンコだった陽二は、遠慮なく申し出を受け入れる事にした。まあ、一般ピーポーである陽二に断ると言う選択肢はなかったが……

 

 食事のあと、食事中から話しかけてくる陽二をことごとく無視したパトリシアは、いつの間にか兄パトリックに抱きつき眠りに落ちてしまった。

 

 ―――― ボールが帰ってこねぇ……とりつく島なし、とはこの事か!

 

「他人にどなられたのは久(ひさ)しいな。しかし悪い気はしなかったぞ」

「テンポが良かったので、思わずツッコンでしまいました。元の世界では『愛』と呼ばれるもので、むしろ感謝されるべきものなのです」

 

 その後『少し話でもするか』と、切り出された陽二は、楽しそうに言うダグリオスと会話を楽しんでいた。

 

「そうであったか、だから悪い気はしなかったのだな」

「その通りでございます」

 

 この世界でもツッコミが通用するかは不明だが、『愛』は通じたようで不敬に取られる心配はなかった。

 

「この世界に来るまでの経緯ですか?」

 

 当然、聞いてくる事だろう。

 陽二は、フェリーから降りたと思ったら草原にいた事や、元世界では42歳で若返ってしまった事。

 せっかくなので、まるでゲームの様なこの世界でやり直したいと考えてる事や、元世界での生活環境など、応えられる範囲で話した。

 

「ゲーム? それが何を指すのか理解に苦しむが、面白がっていて、この世界を甘く見ているのを感じるな。正直に話したと言うことは、本気と思って良いのだろう……だが」

 

 苦言と呼べるほど強い口調ではないが……ダグリオスは、一度口を止めて茶で潤す。

 

「言っておくが、この世界は簡単に命を落とす。甘くはないぞ? それでもやり直したい。と言うのであれば、好きにするが良い。若く見えるが中身は大人なのだろう? 叩(たた)き直せば、この世界でも生きて行けるかもしれん」

 

 甘く見ている陽二への、ダグリオスなりのエールなのだろう。少なくとも、陽二はそのように受け止めた。

 

「気がねなく話せる友が欲しかった。歳も近いのだし、陽二が良ければ友と呼ばせて欲しい」

 

 さすがに驚きで面食らった陽二であったが、ツッコミの効果は絶大だったようだ。ダグリオスは、陽二にデレたのだろうか?

 

「それは……くだけた話し方でいいって事でしょうか?」

 

 陽二としては右も左もわからないこの世界、悪い話ではない。

 王と言えば国のトップである。仲良くなっておけば、いろいろと利便を図ってくれる可能性も高い。

 本意ではないが、打算的な考えが頭によぎっても不思議ではない。

 

「そう接してもらうと、ありがたい。王は窮屈(きゅうくつ)でのお。陽二の迷惑にならぬようプライベートの時だけで構わん、ダグと呼んでくれ」

「私もリックでよいぞ」

 

 ――――王さまって息が詰まる仕事なのかな……そしてパトリックくん、めっちゃフレンドリー!

 

「分かりました。ありがたく、了解します」

 

 *

 

「実は……陽二が、この世界に残る方法がある」

「本当ですか?」

 

 そろそろ頃合いか。

 ダグリオスは、そんな感じで話を切り出してきた。食事に招いたのも、最初から方法を伝えるためだったのだろう。

 

「問題なのは、異世界の勇者(・・・・・・)だと言う事だ。この世界の勇者であれば、なんら問題はない……そこでだ! 陽二の持つ勇者(職業)を、この世界の者に渡してしまえば良い。

 ちなみに……勇者として戦い、どれだけ功績を残そうとも必ず帰ってもらう。決して、引き留める者はいないだろうな」

 

 ―――― つまり、俺の考えたサクセスストーリー『勇者様ステキ。是非とも国に残ってください!』作戦は最初からダメだったって事か……それにしても『異世界の勇者』が問題か……

 

「なぜ、勇者だと残れないのですか?」

「異世界人の勇者はな、諸刃の剣なのだ」

 

「諸刃の剣?」

「そうだ。遥(はる)か昔、勇者たちは人族の祖先を救ってくれた。だが、少し道が逸れていれば、逆に人族が滅ぼされていただろう」

(そして厄介なのが、勇者は魔王でも手に負えないほど強く、その成長も早い。もし、魔王を凌駕する勇者が現れれば……その力がわれわれに向かないと……誰が言える?)

 

「……勇者たち?」

「残っている記録によると、召喚された者は――――」

 

 召喚されたのは、力の勇者、技の勇者、魔の勇者、治の勇者の4人。※ステータス表記だと勇者(○○)

 

「『異世界の勇者』が残れない理由。それは、力と技の勇者が起こした事件にある」

「その2人が、何か悪さをしたのですか?」

 

「陽二ならどうする? 目的を達成しても元の世界に帰れない!? となったら……」

「俺は、帰るつもりないので別に……世界でも見て回る旅とか? 勇者たちは、どうしたのですか?」

 

「魔の勇者は、陽二と同じく世界を見て回る旅に。治の勇者は人々を癒(いや)す治療の旅に出たとあった。

 そして、残った力と技の勇者は、今の王都の北と西に、当時亜人と呼ばれていた者たちを集めて国を作った。現在のソラマンとセナドゥースのもととなった国だ」

 

「国ですか、すごいですね。えっと、亜人って何ですか?」

「エルフや獣人族、ドワーフとかだな。見た目は人に近く知性があり、お互いに協力できる者たちの事だ。現在は、人も亜人もまとめて人族と呼んでいる」

 

 記録として残っている話をダグリオスから聞いた陽二は、自分なりに纏(まと)めてみた。

 

 

 ことの始まりは約500年前、魔王同士の争いと言われている。

 魔王と言えば、悪い大ボスのイメージが強い。しかし王ダグリオスの話だと、この国に暮らす魔王は人族と協力関係にあり、さまざまな支援を受けている。

 そして、魔王はひとりではなく複数いる。

 

 その争いの余波なのか、地上ではほとんど見かける事のなかった強力で、おびただしい数の魔物がダンジョンから出てきて町を襲い始め、人や亜人問わず多くの場所が壊滅。

 その時、人びとの窮地(きゅうち)を救うべく『大賢者』が勇者をこの世界に呼び出した。

 

 この大賢者は何者だったのか? 現在でも不明のままであるが、呼ばれたのが件(くだん)の4勇者。

 

 4勇者は力を合わせ、地上に蔓延(はびこ)っていた魔物を討伐。また、この地域にあった魔物の発生源であるダンジョン。それを攻略して人々を救った。

 

 これが、大まかな流れ。

 

 そして

 この世界に『異世界の勇者』が残れない理由となった、力と技2人の勇者が関与していた。と記録に残っている事件

 

 亜人の国(町じゃね?)を作った2人の勇者は、ある日突然、旅に出て姿を消した。

 その目的は『人の国と亜人の国を、戦争に導くためだった』と言われている。

 

 姿を消した2人の勇者は、亜人に変装して人の国で諍(いさか)いを起こし、亜人に対する不信感を煽(あお)った。

 そして自分たちが作った北と西の国では、他人に化け問題を起こすことで人間不信を煽った。 

 

 その方法は、女性や子供を誘拐して魔物に襲わせたり……とにかく目も当てられない悪事を、数えきれない程行ったと記録に残っていた。

 

 そしてとうとう、人と亜人の間で戦争が起こる。

 

 2人の勇者は、戦争中にどちらかが有利になると裏で介入(かいにゅう)して実力者を誘拐。相手国で公開処刑をするなどして敵対心を煽(あお)り続け、戦争を止めようとした魔王(・・)を殺害した。

 

 そして戦争が終わったあと、2人の勇者が関与したと思われる上記の証拠がいくつも判明した。

 さらに、魔王が殺害された事件や処刑された人(亜人)たちが誘拐された事件も『勇者クラスの実力者でないと、実行が困難だった』と言う事も証拠となった。

 

 そして戦争を終わらせたのは、旅から帰って来た『魔の勇者』が尽力したからだそうだ。

 

 ちなみに

 魔物はダンジョンで産まれ、極稀に外へ追い出される弱い魔物もいるが、普通はダンジョンで一生を過ごす。

 現在、地上を闊歩している魔物は全て、取り逃がした魔物が地上で繁殖したものと考えられており、勇者たちは、全てのダンジョンを攻略して魔物の流出を防いだ訳ではない。

 

 

 *

 

 

「どうして、そんな事をしでかしたんだろう……」

 

 2人の勇者は、人族を救った英雄的人物である。そんな人物がなぜ……陽二には理解できない。

 ―――― きっとキャーキャー言われてモテモテだっただろうに……俺だったら絶対に手放す真似はしないけどなぁ

 

「どうしてか。ワシには、勇者の考えなどわからんよ……だが、首謀者が勇者でなければ、魔王の手で戦争は回避できたはずなのは事実。だからこそ、成長すれば魔王すら凌駕(りょうが)する異世界の勇者は、元の世界に送り返さねばならない」

 

 ダグリオスは陽二の呟きに、そう、明確な意思を示した。

 

「なるほど……要は、勇者は強くて魔王でも太刀打ちできない。それならさっさと送り返してしまえ! と言うことなのでしょうか?」

「数百年までは『異世界人は、力を持つ前に処刑すべし』とまで言われていた。しかし魔の勇者には、救ってもらった恩があるのも事実。そこで、この世界に残るか、帰るかを選択する権利を与える事にしたのだ」

 

 と前置きしたあとに、ダグリオスは言う

 

「しかし最近までの方針では、勇者であれば処刑すらあった。それを、わざわさ送り返してやろうと言っているのだが?」

 

 ―――― 処刑って……『送り返してしまえ!』は言い過ぎだったなぁ……よし、話を変えよう

 

「救ってもらった恩って何ですか? あと、勇者以外でも強い職業ってあるんじゃないんですか?」

「恩か、2度も救ってくれたので十分だと思うが……ギフトに帰還魔方陣、数々の魔道具など……数え切れんよ。

 それと、勇者以外の職業なら魔王で対処できる。勇者は規格外の力だが、その他の職業など問題にもならないだろう。それに……『異世界は――――』を撤回したのは、異世界人から得られる知識と技術。それが多少なりとも影響している」

 

 ―――― 魔の勇者すげえなぁ、発明家か?

 得られる知識かぁ……俺にはあまり関係なさそうだけど、頭のいい人だったら魔法と科学の融合とか思い付くのだろうか……

 それと、問題にならないか……魔王パネぇ!

 そう言えば……

 

「ちなみに、4人の勇者たちはどうなったんですか? あと、俺の他に勇者って来たことありますか?」

「4人の勇者は、元の世界に帰ったと記録にある。そして4人以外での、初めて訪れた勇者が陽二だ」

 

 初めてか……今まで現れず、処刑されなくてよかったね! でもまあ、余計な心配がなくなるのなら『勇者』渡した方がいいな。せっかくやり直せるチャンスなんだ、このまま帰ってたまるか!

 

「それで、どうやって職業を渡せばいいのですか?」

「他人に職とスキルを譲渡(じょうと)するためのアイテムがある」

 

「そんな簡単な方法があるならもっと早く言って欲しかった」

「そうだな。出し惜しみして済まなかったな。もっと早く提案していれば牢屋(ろうや)に入ることもなかったな。ワッハッハ」

 

 ――そんな簡単に渡す方法があるなら、もっと早く言えよ

 

「しかし、死ぬかも知れん。それでも使うか?」

「はいっ? 死ぬですと!?」

 

 ダグリオスが『勇者』のデメリットを並べ立て、早々にアイテムの事を切り出さなかったのは、この為だったのだろうか。

 これだけ説明されたあとでは、断りにくくなるというもの。

 がしかしダグリオスは、騙した訳ではないと口を開く

 

「実はこのアイテム、今まで誰も使えた者がいない。魔力を流した途端(とたん)に、半数は死んでしまったらしい。だが、勇者の陽二ならば……と思ったのだ」

 

 ふと思った。これって大丈夫なフラグだ! と

 

「ダグは、試した事ないんですよね? 取りあえず見せてくれませんか? なぜか、大丈夫な気がするんです(立ったし)」

「分かった。持ってこよう」

 

 ――これでも勇者。なせば大抵なんとかなる!

 

 

 *

 

 

「これがそうだ」

 

 直径10センチくらいのうす黒い透明な玉。使い方は玉に魔力を送るだけ。

 ダグリオスから受け取った瞬間、2人で魔力を送っている様な映像が頭に浮かんだ

 

「今まで失敗した人って……1人で使ってなかったですか?」

「その様な気もするがわからんな」

 

「多分ですけどこの玉、2人で使う物だと思います」

「なんと……そうか! 渡す相手が必要なのか」

 

 ―――― 不親切だな……こんな危ない代物、マニュアル付けといてくれよ

 

「では1回試してみましょう。勇者を渡しても大丈夫な人は? あ、ダグ。2人でやってみましょうか」

「ワシか? しかしもう歳『あ、ごめんパスで。リックくん頼むよ』なので……」

 

 なんとなく勇者は若い人物がいいと思った陽二。ぞんざいな扱いをしてしまったが、きっとダグリオスも同じ事を言おうとしたので気にしていないだろう。

 さすが王さま。器がでかい

 

「それじゃあリックくん。いやリック。俺と同じように手のひらをのせて、早く早く」

「本当に大丈夫なんだろうか……」

 

 使ったら死んでしまうかもしれない。そんな玉に手を乗せ『遊ぼうぜ!』くらいの軽い誘い文句をする陽二に、パトリックは不安げながら手をそえた。

 

「次に玉へ魔力を送るわけだけど。俺は、魔力がよく分からない。だから玉に向けて水(ギフト)を使う。リックも同じようにしてくれ」

「……分かった」

 

 ―――― 大丈夫なはずだ。俺の勇者がそう言っている……気がする

 

「では、水(ギフト)」

「水(イガネオ)」

 

 ブーン、ブン、ブン、ブン、ブン ピカーン

 

 手のひらから何かが吸われている感覚。光と機械的な起動音と共に魔方陣が広がり16インチ程のスクリーンが玉の上部に出てきて、そこに日本語で、文字が映し出される。

 

 》起動確認

 》ステータス読み込み中……完了

 》ステータス読み込み中……完了

 》データベース読み込み中……完了

 》登録無し。新規登録します

 》登録中……完了

 》登録中……完了

 

 》譲渡記録があります。読み込みますか?

 》ハイ/イイエ

 

 ―――― ハイ? イイエ?

 

 》ハイ、確認。読み込みします

 

 ―――― すごい高性能。思っただけなのに認識された!?

 

 》読み込み中……完了

 》本条 司→本条 キャロル 唯

 》ステータス確認中……

 》エラー確認できませんでした

 

 ―――― 本条? 日本人!? 誰?

 

 》起動確認します

 》読み込み中……完了。

 》開始します………

 

 》譲渡/交換/貸与/設定/終了

 》選んでください。

 

 まるでコンピューターの立ち上がりみたいな感じで起動した玉。その次々と出てくる文字を目で追っていた陽二は、迷いながらも素直に選んだ。

 

「じょ、譲渡」

 

 ――――あっ今、選ぶ欄に設定があったぞ。後で見てみよう

 

 》中山 陽二→パトリック=クルシュナイン

 》よろしいですか?

 》ハイ/イイエ

 

 ――――矢印から見るに、俺からリックに譲渡ってことだろう

 

「ハイ」

 

 》職業/スキル どちらですか?

 

「職業だ」

 

 》勇者、でよろしいですか?

 》ハイ/イイエ

 

「もちの、ろんよ。ハイ!」

 

 》譲渡中……完了。

 》パトリック=クルシュナイン変更中……完了

 》中山 陽二確認中……職業確認

 》中山 陽二変更中……完了

 》譲渡記録中……

 》エラー記録失敗

 

 》パトリック=クルシュナイン職業固定中……完了

 》パトリック=クルシュナイン終了

 》中山 陽二終了

 》再起動します…………

 

 》譲渡/交換/貸与/設定/終了 選んでください。

 

 ―――― もちろん設定だ。

 

 》起動条件 (現在:日本人含む2名以上魔力注入) 

 》変更しますか?

 》ハイ/イイエ

 

「ハイ、だ!」

 

 》起動条件確認中です

 》3……2……1 条件無し。

 

 ――――あれっ、条件なしってなんだ?

 

 》起動 (現在:魔力注入) 変更しますか?

 》ハイ/イイエ

 

 ―――― 魔力注入? ああ、なるほど魔力を流すだけで起動するように変更できたのね。了解、理解したよ。

 

「イイエ!」

 

 終了させると、玉の上に吸い込まれるようにスクリーンが消えた。緊張した陽二は、無事譲渡できたのか確認してみる。

 

 《中山 陽二 異世界人 LV.0》

 《スキル 愚者》

 

 ―――― スキルの異世界人が職業になってるけど……勇者は譲渡できたみたいだな。

 

「成功だ。リック、ステータス確認してみて」

 

 スキルが職業になってしまったトラブル(?)があったものの、陽二は、パトリックにステータスの確認を頼む。

 すると、驚きの表情をしたパトリックは、何かを呟いている

 

「勇者……勇者……私が勇者?」

 

 よほど嬉しいんだろうなぁ。と感じた陽二は邪魔をしても悪いと考えパトリックを放置。すぐさま、悪事を思いついた。

 

「ダグ!」

「な、なんだ陽二? 勇者は譲渡(じょうと)できたのか? 体に異常はないのか?」

 

 ダグリオスの言葉で、陽二はハッとした。王子さま相手に実験みたいなマネをしでかしたことに。もし、失敗していたらどうなっていたのか……

 

 ―――― でも、成功したからモーマンタイ。

 

「リックも俺も大丈夫なので心配はないです。この玉の使い方も理解しました。ですが……コレは大変危険な代物みたいです。少し調べたいので、僕に預からせてもらえませんか?」

「し、しかし。それは昔からある大切な物……」

 

「ダグ! コレは危険な代物なのです。俺が責任を持って調べますから、お願いします!」

 

 このチャンスを逃してはダメだ!

 陽二は、勢いでなんとかモノにしようと、ダグリオスに詰め寄った。「コレハ、アブナイヨー」

 

「まあ、今まで使えた者もおらんし……わかった。持って行くがよい」

「ありがとうございます」

 

 ―――― よし、ゲットだぜ!

 

 なんて悪者なんでしょう。しかしながら陽二は、『勇者の代金と思えばお釣りが出るよね? 少し借りるだけだから』と悪びれる様子も見せない。

 

「それよりもリックが勇者になったはずです。俺は勇者に未練なんてありませんので、好きに使ってください。あとの事はダグにお任せしますので……実は、すごい疲れちゃって……少し休みたいのですが……」

「そうだな。陽二は休んでくれ、ワシはリックと話がある」

「ありがとうございます。いろいろとあったので疲れました。近いうちに必ず返却しますので」

 

 さっさと部屋に戻って、玉を使いたい。そう考えた陽二は、コスイ口から出任せを言うと、呼び出された王国兵士の案内で部屋に戻った。

 

 

 ***

 

 

 時は、陽二がパトリックと玉を起動する少し前に戻る。

 

「これは一体、なんなのぢゃ?」

「何でしょうね」

「なんであろうな?」

 

 とある山の山頂。

 3人の女性が、こんな場所に建っているのは不自然な、わけのわからない鉄塔みたいなモノ。それを見ながら話をしていた。

 その周囲には、おびただしい数の魔物の死体(・・)。

 

「どうせロクでもない物ぢゃろう。さっさと破壊してしまうのぢゃ」

「もう。桜ちゃんたら過激ですね」

「誰が建てたのか分からないが、物を簡単に壊すのは、どうかと私は思うぞ? 相手の意見も聞かねばなるまい」

 

「わらわでは、ちと骨が折れる。アスモ、頼めるか?」

「はい! 桜ちゃん。かしこまりました」

「私の意見は無視なのか!?」

 

 薄い赤色の髪をした、桜と言う女の子。

 小学校低学年~高学年の間くらいだろうか。

 幼い顔だちのわりに過激な発言をする桜の願いに、了解の意を告げたのが、美しい黒髪の女性アスモだ。

 

 すると、メイド姿のアスモは呟(つぶや)く

 

「地獄の闇雷光(ヘル・スパーク)」

 

 その瞬間、空から黒い雷が落ち、轟音が鳴り響いた。塔は跡形もなく消え去り、周囲の死体も消え去っていた。なんと恐ろしい魔法だろうか……

 

「ついでにお掃除しました」

 

 そして、事もなげに淡々と告げる。

 

「ふむ。よくやっ……」

「桜ちゃん!」

「桜!」

 

 すると突然、桜が胸に手を当て苦しみ出した。

 ものの数秒だろうか、心配げに見る2人に『もう、大丈夫ぢゃ』と告げる。

 

「いったいどうしたんですか?」

「ほれみろ。何でもかんでも壊すからバチが当たったのだ」

 

 ―――― むむ。

 

 桜は、苦言を呈するように言う青い髪の女の子。ランスロットをひと睨(にら)みすると、先程感じた苦しみを説明する。

 

「何かが、スキルに干渉(かんしょう)してきたのぢゃ……何だったのぢゃ……ん? 感じるのぢゃ……王都、か?」

「桜ちゃん、もしかして……帰ってきたのでは……」

 

「何かは分からん、王都に向かうのぢゃ」

「「はい!」」

 

 その返事をあとに、3人の姿は音もなく消え去っていた。

 

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