※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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魔車で観光ゼラニオン

 

 

 

「桜ちん。もっと、陽ちんの事が知りたいの!」

 ランスロットに対抗意識を燃やしたのか、桜がまだ『陽二を撮影した玉』を所持している。と当たりをつけたのか、人魚姫パールは『ふんっ!』と鼻息荒く、ねだるように詰め寄った。

 

「う、うむ」

 その気勢に押された訳ではないが、瞬時に頭の中で秤(はかり)にかけた桜は、渡した方が面白くなるのでは? と答えを出した。先ほど、ランスロットの応援団長に就任したばかりだが、それとこれとは別問題である。

 

「ほれっ」

 数個の玉を受け取ったパールは、見たい場面を、早送りと巻き戻しを慣れた手付きで駆使して、何度も何度も繰り返し始めた。その集中力は、周囲を完全に無視して、自分の世界に没頭させていた。

 

 ―― 真剣ぢゃのう……

 その姿に、魔車の調整を終えた桜が気づいた。

 陽二の何が、パールをここまで夢中にさせるのか。それとも、ランスロットの存在が引き金になったのか。

 

 とは言え、何かに没頭する姿をバカにするような桜ではない。その姿に感心を示すと、パールをズルズルと引きずり、安全な結界路の内側へ運ぶ。そして、仲間の腕輪に入れっぱなしだった簡易結界路で、パールを守るように囲むと

「ちと、セナドゥースへ行って来るのでな、この中から出てはならぬぞ」

 と声かけた。

 

 ゴブリンに同行した唯が戻ってくるには、もうしばらく時間がかかるだろう。そう踏んだ桜は、馬車を返却しに行く事にしたのだ。それに、これだけ映像に集中していれば、フリに応える気など起きないだろう。

「桜ちん。パールも行きたいの!」

 集中していたようだが、しっかりと声は届いていたようだ。

「ふむ……」

 パールを連れて行くのに問題はない、帰りに時間がかかるだけなので。しかし、母親である唯がここに戻ってきた時、誰も居なかったら要らぬ心配を掛けてしまうだろう。パールが、フリに応える一抹の不安は残ってしまうが……

 ―― だ、大丈夫ぢゃ。妾(わらわ)は、妾が撮影した映像の底力を信じる!

 

「母さまと、入れ違いになっても困る。パールには悪いのぢゃが、この場で留守番を頼む」 

「嫌なの!」

 即答である。

 ―― ちっ、このわがまま姫めが、親の顔が見てみたいわ。少しは妾を見習えっ!

 

 陽二がその言葉を聞いていたら、猛烈にツッコンでいただろう。

 

「ふむ……では、留守番のご褒美として、何か土産を買ってこよう。それでどうぢゃ?」

「わかったの! パールは1歩も動かず、ここで待つの」

 ご褒美があるなら……パールの決断は早かった。

「ふむ……」

 それを受けた桜は、先ほどアスモデウスと交わしたやり取りを思い返し、どうせならパールの食べたい物を、お土産にしてあげようと考えた。

 

「お腹は空いておらぬか? 欲しい食べ物があれば、それを買ってくるのぢゃが」

「本当!? パールねぇ、ポテイトが食べたいの!」

「ほう、人魚はそんな物を食べるのぢゃな」

 

 ポテイトとは、洗って芽を取ったじゃがいもを、1cm角の網に縦から通して切断。それを、油で揚げて塩をまぶした食べ物だ。網は鋭い刃になっていて、同じ細さの物を簡単に作れる道具である。その形状から分かる通り、ファストフード店で見られるアレに似た食べ物で、先輩異世界人から伝わったものだ。

 ポテイトは、精霊の泉に居たパールに、ヴァイオレットたちが、たまに持って来てくれた差し入れのひとつ。他にも色々とあったが、単純にポテイトしか名前を覚えていなかったのだ。

 

 それを訊いた桜は、馬車に乗ってセナドゥースへと出発。

 

 領主邸で馬車を返却しつつ、ハヅキの容態を尋ねると、屋敷へ療養術を持つ者を招き、治療が始まっているとの事。また、当分の間ハヅキは、普通の生活に復帰するのも困難のようだ。

 

 ―― まあ、仕方がないのう……

 

 命が助かっただけでも儲けものだ。領主邸を後にした桜は、ポテイトを含む食べ物を適当に購入すると、急いで浜辺にとんぼ返り。桜1人なら、森の中を直線距離で突っ切れるため早いのだ。

 

 程なくすると、何やらぶつくさと、そこそこ大きい声でひとり喋っているパールを見付けた。

 ピーンと、桜のアンテナが何かをキャッチ。彼女は、パールに気付かれないように、忍び足で近付くと聞き耳を立てた。

 

「よ、陽ちゃん待ったぁ? 待ったの? 待ってたの?」

「そこは、今来たとこなの! なのでしょ! でしょなの?」

「……いいなぁ。パールもデートしてみたいの……」

 

 ―― なるほどのう……

 陽二とランスロットの映像を見たパールは、自身もデートがしたくなったのか、待ち合わせの練習をしていた。

 その姿はとても健気で、桜の目にもかわいらしく見えた。と同時に、手助けをしてやりたい衝動に駆られてしまうが――――

 桜は一応、ランスロットの応援団長なのだ。

 ―― 見なかった事にするかのう……

 そう決めた桜は、声をかけた。

 

「パール、待たせたのぢゃ」

 ビクッ!

 パールは突然の呼び掛けに驚き、大きく体を振るわせた。

 しかし桜は、何も見ていないし聴いてもいないのだ。パールの頭に軽く『ポスンッ』と手を置くと、買ってきた土産物を差し出した。

 パールは少し恥ずかしそうに『聴かれちゃったの?』そんなバツの悪そうな表情で、手を伸ばした。しかし桜が、素知らぬ顔を貫き通していたので『聴かれていなかったの?』と思い直せた。

 

「ありがとう、なの」

「うむ」

 

 △△

 

「おいしいー。このお肉も、温かくておいしいの!」

 パールは桜が買ってきた土産物を、小動物のように夢中で頬張っていた。実はヴァイオレットたちが持って来る差し入れは、おいしいけど、全て冷めた物ばかりだった。昔は、人と人魚の交流も盛んで、簡単に手に入ったソレ。初めて食べたであろう『温かい』に、パールがトリコリコになってしまったのは、当然の事と言えた。

 

 桜は、その食べる姿を頬笑ましく見つめながら

 ―― いい仕事をしたのう! 

 自画自賛すると、魔車に目を移した。

 

 魔車

 馬など牽引動物の代わりに、魔力を動力源とする自走装置によって、荷車を運ぶ乗り物。荷車を含めた全長は5m。通常での運行は、特急扱いで10km~だが、路面の荒れに弱く振動が激しいため、エチケット袋が必須。休みなく自走可能だが、魔力の消費量に課題が残っているため、その数は少ない。荷車は専用のものだが、分離は可能。また、運行速度を落とせば、普通の荷車も接続が可能になっている。

 今回、桜が用意してもらった魔車の荷車部分には、縦3m横2m高さ2mの水槽が取り付けられている。仮に水を満タンまで入れれば、総重量は12tを超えてしまう。しかし広さは十分なので、見映えを考えれば半分で十分だろう。それでも総重量は、6tを超えてしまうが。

 

「パールを運ぶのに、この水槽を使うのぢゃが、入れる水は、淡水と海水のどちらでもよいのか?」

 

 浸透圧を気にしている桜は、パールに尋ねた。

 パールたち人魚は、精霊の泉と海を行き来しているで、実はどちらにでも対応可能である。ちなみに人魚が暮らしている、入り江周辺の塩分濃度は3.3%で、精霊の泉は当然ながら0%だ。

 

「ほひらへも」

 パールの頬っぺたは、食べ物を口いっぱいに詰め込んだ、小動物のようになっていた。

「待っておる。ゆっくり食べてから答えればよい」

 もぐもぐもぐ

「どっちでも、大丈夫なの!」

 

 入水した人魚の体表面には、薄い膜ができる。その膜は、無意識かつ自動的に体を覆う無意識自動発動型のスキルであり、水を通さない。また、外膜と内膜の間では、水中に溶け込んでいる酸素や他の空気の交換をしている。そして稀だが、漁師や海人などの職業には、このスキルを得られるチャンスがある。

 

「ふむ、そうか」

 問題なしとの回答を得た桜は、水魔法で水を貯め始めた。水槽の半分なので、約6000Lだ。この作業は、箪笥を陽二に渡し、最大MPが回復傾向にあるとはいえ、自身のMPだけでは到底無理な話である。

 それもそのはず。桜の最大MPは、過去に飲みまくった薬の副作用で、現在も100以下と心もとない。そのため桜は、ほとんどの魔力を、外部に頼らざるを得ない体なのだ。

「水(アクア)!」

 という訳で、腕輪の魔力さえ借りれば、ちょちょいのちょいだ。

 

 △△

 

 帰ってきた唯と合流した桜は、魔車に乗り込みセナドゥースへ向けて出発した。

 桜が運転手で、唯は助手席だ。そして、荷台の水槽でたゆたうのが、人魚姫パールだ。3人を乗せた魔車は、観光を楽しみながら、町の中をゆっくりと進む。

 運転席の中は、外から全く見えないので、プライベートはしっかりと守られている。今頃その中では、親子で仲良く話をしながら、町なみを楽しんでいる事だろう。

 

 さて、桜がわざわざセナドゥースを訪れたのには、当然の如く訳がある。唯との観光デートが1番の目的だが、そのついでとばかりに、映画の宣伝も兼ねていた。

 パールが優雅にたゆたう、水槽がそれだ。

 水槽には、後ろ左右どの方向からでも見えるように、同じ宣伝文句が書いてあった。

 

『人魚姫パール出演決定! さらに、あの可憐ウィッチが復活!?』

 見せ物パンダならぬ、見せ物人魚姫を使いまくって大衆の目を集めると、映画の宣伝をしまくったのだ。

 

 若く美しい人魚。

 その姿を初めて見た者たちは、水槽の中のパールに大興奮。まるで、アメに集まるアリのようではないか。見せ物となったパールは、たくさんの人に囲まれて萎縮するどころか、明るい性格に愛嬌(あいきょう)も相まって大喜び。大輪の花を連想させるような笑顔で、大衆の声に手を振り返していた。それと同時にパールは、目に映る町並みを、楽しむ余裕すら見せていた。

 

 そこへ電撃的に告知されたのが、人魚姫の映画出演サプライズと可憐ウィッチの復活だ。その告知は、ゼラニオンのファンのみならず、可憐ウィッチのファンだった、年代層をも興奮させたのだ。

 その結果、この日のセナドゥースは、お祭りと勘違いするほど活気に満ちあふれた1日となり、町全体の売上高も爆上がりとなった。桜の行動は、経済効果に貢献するベストパフォーマンスになったのだ。

 

 

 

 セナドゥースを出て、王都に向かう道中での出来事。

 運転席の中では、桜と唯が話に花を咲かせており、水槽のパールは、すれ違う馬車や、徒歩で行き交う人々に手を振ったり、風景を楽しんでいた。

 

 王都からセナドゥースへ向かう馬車とすれ違った。パールは、今回も馬車の客たちに向かって手を振った。

 パールの姿を目にした客や御者は、初めて見る人魚の姿に大興奮。手を振り返す者や、神様と勘違いして、パールに拝む人も出る始末。

 その客の中に、偶然居合わせた兄妹がいた。そう、ラルドルフ兄妹だ。

 

「お、お兄ちゃんっ。人魚さん、人魚さんだぁ!」

 パールを指差し、必死に兄の肩を叩く妹の姿があった。

「!? すっごいかわいいなぁ……いい土産話ができたよ」

 

 時間にしたら、数秒程度の出来事だった。

 2人は水槽に書いてあった宣伝文字を見て、一緒に映画を見に行く約束を交わしたのだが、その時に出演していたスマイルセーラーとピュアセーラーの2人が、自分とパーティーを組んだカリンとパトリシアの服装と同じだった。と気付いたのかは分からない。

 

 △△

 

 王都が見え始めた。

 運転席の中では、今も話に大盛り上がり。パールの存在など、すっかり忘れ去られていた。

 

「どうするママ? 王都の中も見てまわる?」

 唯は王都に滞在中、パトリックの案内で、少しだけ見て回っていた。

「人混みはもうよい。それよりも、川に行ってみたいのじゃが――――」

 唯の脳裏に、とある光景が過っていた。

 

 パトリックたちの特訓を、始める初日の事だった。唯は、特訓に適した広い場所を探して、川の近くまでやって来ていた。

 そこで目に止まったのは、川で遊ぶ親子だった。

 父親が子どもに向かって川の水をかけると、その子どもはキャッキャッとはしゃぎながら逃げる。そして川岸には、その父と子に、笑顔で声をかける母親の姿があった。

 知らず知らずのうちに、ギュッと拳を握りしめていた唯は、その光景を棒立ちのまま静観していたのだ。

 

 

 唯の提案に、諸手を上げて賛成した桜は、王都に入らず手前で右折し、川へやって来た。

 魔車を川のすぐ近くに停めて、運転席から降りると

「パールは、もう飽きたの!」

 いい加減、手を振るだけの生活にも飽きていたパールは、王都が見えてきて新たな刺激! と楽しみにしていた。ところがその矢先、魔車は王都に向かわず、人気の少ない場所へ向かい始めたではないか。パールは、水槽に寄りかかるように肩を落としてしまった―――― しかし、着いた場所は川だった。それを見たパールは、人魚の血が騒いだ。

 

「パールも、広いところに、出ーたーいーのー!」

「そう言えば、すっかり忘れておったのう」

 客人として、それ相応の対応をするつもりが、客寄せパンダに使われ、最終的には放置プレイというぞんざいな扱い。

 仕方がないだろう。

 母娘の時間というものは、それほど貴重で大切な時間なのだ。

 

 パールを外に出すため水槽の上にジャンプした桜は、器用に蓋のない水槽の縁に着地した。

「ほれっ」

「もうっ! パールの扱いに不満っなの!」

 その桜の胸元に向かって、パールは不満を言いつつ水面を跳ねた。

 

 幼女が、2mを超える人魚をお姫さま抱っこ。当然ながら、そのまま歩けば、尾びれは地面に擦り減らされる大惨事になる。

 なので

「忘れていたのは謝罪する。ぢゃからそう怒るでない。それと、少しここで遊ぶのでな、おぬしも羽を伸ばすがよい」

 そうパールに告げた桜は、お姫さま抱っこのまま、川へ向かってジャンピング。

 

 ドッボーン!

 抱き着かれた時点でびしょ濡ぬれ同然だった。なので、今さら服がどれだけ濡れようが、気にする必要はない。

 桜はそう考えて、ちょっと調子に乗って飛び込んだ。ところが、飛び込んだ事で計算外の事態が起きてしまった。そう。まだ無事だった、桜のおパンティまでが、びしょびしょになってしまったのだ。

 ―― しまった! 替えを持ってきておらんかったのに……

 

 後悔しても、もう遅い。

 しかし、桜が飛び込んだ事によって発生した、激しく飛び散る水面は、唯の心を踊らせた。唯は、ピンヒールをピン、ピンと投げ捨てると、スカートの裾をまくし上げ、愛する娘の後を追ったのだ。

 

 唯と桜は、何の変哲もない水のかけ合いをし、親子で遊ぶその楽しさを知った。次第にその勢いは激しくなり、遊び泳いでいたパールが参戦した事で、ただの水の掛け合いは、更に激しさを増していく事になる。

 その日、その場所を通りかかった人たちは、とても驚いたと言う。大きな水の塊が、水面から飛び出したかと思えば、5mを超える水柱が渦を巻きながら、川の中を縦横無尽に走り回っていたり――――

 

 その後、存分に遊び倒したジャージ姿の彼女たちは、とても満足顔でその場を去って行った。

 そして遊び疲れたパールは、水面に浮かびながら振り返っていた

 ―― 唯ちんと桜ちんの笑顔、とっても良かったの!

 と

 

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