※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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クエスト/人魚たちの遡上/出迎え

 

 

 風呂場から出た陽二は、風呂を沸かしてくれたアスモデウスに「いいお湯でした。ありがとうございました!」

 とお礼を伝えていた。この一言。よその家でお風呂をいただいた時に伝えると、絶大な効果を発揮する。

 彼は、それを狙った訳ではないが――

 

 そして今、彼はパールとランスロットの3人で話をしていた。

「パールは、陽ちんの事をもっと知りたいの!」

「私も訊きたいぞ!」

 

 2人からの要望で自身の話をする事になった彼だが、いざ自分の話となると、なかなか思い浮かばない。なので

「難しいなぁ。質問形式に変えない?」

 と提案。

「陽ちん質問たーいむ、なの!」

 

 彼の提案を受けて、即座に反応したのはパールだ。彼女は、用意されたマットに寝そべり、立て肘を付いて彼の顔を眺めるスタイルだ。普段、どのような姿勢で人魚たちが眠っているのかは分からないが、今夜は、そのマットの上で就寝するようだ。

 

 その彼女と目の高さを合わせるため、彼とランスロットは正面の床に座っていた。そのランスロットが慌てて口を開く。

「質問は、私と交互にだぞ!」

 

 好きな食べ物から始まり、好きな色、好きな髪形や長さ。そして、好みの目の大きさや性格などなど。彼は、好みのタイプに関する事柄をあらかた質問されるのだ。その度に2人は

「パールはねぇ――――」

「私は――――」

 と話を広げていた。

 桜と唯は、その和気あいあいとする世界を邪魔する事なく、ただ静かに見守っていた。

 

 △△

 

 本日は色々あって、流石に疲れたのだろう。いつの間にかパールが寝落ちしてしまった事で、おしゃべり会は自然とお開きの流れへ。風呂に向かう桜と唯を見送った彼も、部屋へ戻った。そのあと、眠り姫に優しく掛け布団をかけていたのは、ランスロットだったりする。

 

 ベッドに飛び込んだ彼はその数分後、箪笥(たんす)の中で魔法の練習をしていた。実は彼、遊んでいるように見えて、ことのほか勤勉だ。お喋りの最中も、時間(スキル)の併用は当然の事。空いた時間を有効活用して、闇影などの熟練度を上げているのだ。何に付けてもスキマ産業は、生き残る力なのだ。

 

 この世界に来た当初の彼は、表面上楽しんでいるように見えて、心の内では『もうどうでもいい』と投げやり気味だった。“浮気現場の目撃”と“裏切られたショック”は根強く、元の世界には居場所など無い。と思っていた。

 そんな時に、降って湧いたような別世界である。元の世界に見切りを付け、この世界で気ままに暮らす。そんな考えすら持っていた。

 ところが。

 ひょんな事からゼラニオンに引き込まれ、良い経験をさせてもらっている。正直、出来過ぎと思える程の環境だ。

 

 そして、目的ができた。

 1つ目は、セナドゥースを穢(けが)れから解放する事。2つ目が、5つのダンジョンを攻略して、レヴィアタンの分裂した体を集める事だ。

 

 そのためには、力が必要。

 

 幸いな事に、アスモデウスから魔技を教わり、その元となるステータスの改造も施してもらった。そして、戦い方を教われる人材も、桜やランスロットを筆頭に、彼の周囲にはたくさんいる。

 特に、スマホを介して戦闘の助言や話し相手をしてくれるあーしさんは、強力な味方の1人。その他にもあーしさんの言葉では、2つの人格が彼の中に存在していると言う。その人格とも、そのうち話す機会が訪れるだろう。

 

「まずは、セナの穢れを冥土の彼方(かなた)までぶっ飛ばしたるけん!」

 魔法の練習をしながら、彼は叫んだ。セナドゥースの姿を見ると、何故かふつふつとやる気が生まれてくる。

 これは、冒険の書にクエストを受注したせいなのか。

 口約束をするよりも書類にサインをした方が、形だけとはいえ、責任感に似た何かが生じる。そんな感じなのかもしれない。

 

「陽二、がんばる!」

 言葉だけ聞くと、レヴィアタン自身が頑張る事を宣言しているようにも聞こえるが、これは彼を応援してくれているのだ。

「ありがとう。レヴィから教わった『黒水』も忘れちゃいないぜ!」

 

 いまだによく分からない魔法だが、黒水とは『粘度のある黒い水を出す、水属性魔法』のようだ。彼は、それを飛ばす事もできるようになっていた。しかしそれだけで、他者にダメージを与えるほどの威力は皆無だ。なので闇魔法と同様に、この魔法も使い続けて強くなるタイプなのだろう。

 その証拠に前回、レヴィアタンが漆黒の魔物(穢れソルジャー)から彼を助けた時に使った黒水は、かの魔物を貫き大ダメージを与えていたのだから。

 

 △△

 

 練習を一通りこなした後は、クエストの時間だ。このクエストは、セナドゥースの穢れ除去と彼の実戦経験を積むのを同時にできるのでお得だ。

 今回はスマホを忘れずに持って来ている。なのであーしさんのサポートもバッチリだ。彼は前回の反省を糧として、寝る前収納を身に付けたのだ。

 

 クエストを開始する前にゼラブラックへ変身した彼は、セナドゥースに黄金指を使い、漆黒の魔物を呼び出した。もちろん弱体化(デチューン)は解除済み&全体強化(フルチューン)を行使済みだ。

 

 さて。漆黒の魔物の強さは、セナドゥースとレヴィアタン以外の人物に左右される。そんな法則を前回発見していた彼だが、今回も新たな法則を発見していた。

 

 変身の前と後では、呼び出される魔物の強さは全く異なり、後に呼び出した魔物の方が3倍ほど強くなる。これは、変身後のステータスに魔物の強さが準じている。そんな証拠になるだろう。

 ところがだ。

 魔技で身体能力を強化(・・・・・・・)している状態で呼び出しても、その強さは変わらないのだ。万全を期すなら、毎回毎回変身を解除するのが最も安全だ。しかしそれでは、変身に伴う魔力の消費が半端なくなるのは目に見えている。

 なので、わざわざ身体強化の解除なく呼び出せる。と判明したのは大きい。ベストではなく、ベターな戦法になるが、これを知っているのと知らないとでは、魔力的にも時間的にも雲泥の差が出るだろう。

 

 そんな漆黒の魔物の強さをスマホで測定すると、150~200のランクDだ。ゴブリンナイトを軽く凌駕(りょうが)する値でとても強いが、相手は常に1体のみ。あーしさんの先読み助言ありきが前提になるが、変身後90の彼はなんとか戦えていた。それに、もし危なくなっても、部屋へ逃げ込めば安全だ。

 

 彼は、イノゾミラに教わった剣術と魔技を組み合わせ、ここだけの必殺技『見えない攻撃(インビジブルアタック)』を連発して、10体もの漆黒の魔物を倒す事ができた。

 

 流石に疲れが出て動きも鈍くなってきたので、クエストは終了だ。無理は禁物である。できる範囲でコツコツと頑張っていけば、自ずと結果は付いてくるはず。明日できることは、明日やればいい。時と場合にもよるが、無理して取り返しのつかない失敗を生むよりは良い。

 チラッ

 時間を意識すると、まだ0時過ぎだった。眠った時間を覚えていないが、箪笥に入った当初から時間の流れは3倍に延ばされていたのだ。

 

 △△

 

 部屋のすぐ外には、彼が設置したテーブルセットがある。解放感もあり、そこで食べるご飯は最高だ。また、室内で響くセナドゥースの声も届く範囲とあって、コミュニケーションにも事欠かない。

 そこに座っている彼の膝の上には、手遊びに夢中のレヴィアタンがいた。彼は、そんなレヴィアタンの頭を撫でつつ、テーブルの上の野菜に立て掛けられているスマートフォンに耳を傾けていた。

 所謂、反省会である。

 彼とあーしさん。時にはセナドゥースやスーパーアドバイザーのレヴィアタンの意見を参考に、反省点や改善点、今後の戦闘方針などを話し合っているのだ。

 

 それが終わり、待っていたレヴィアタンに料理をお願いされた彼は、レヴィ草入りの卵焼きと野菜炒めに挑戦だ。

 

 ちょうどテーブルのすぐ近くには、彼の作った竃(かまど)がある。ニンジンやピーマン、タマネギなどをひと口サイズに切って軽く炒める。余った種や皮は、穴を掘ってその中へ廃棄だ。

 ―― これもガンネの材料にできるのかな?

 そんな事を考えつつ彼は、炒めた野菜を皿に一旦取り出すと、適当な大きさに切ったキャベツと肉を炒める。ある程度火が通ったら、取り出した野菜を加えて炒める。

 すると、ファイヤー! 

 

「おおー!? もえる、陽二」

 萌えるなのか、燃えるなのか。はたまた、陽二なのかフライパンの中なのか。

「ふっ、レヴィさんよぉ。これは、フランベと呼ばれる料理の技だっ!」

「ふ、腐乱、べえ!?」

 得意気に語る彼だが、もちろんフランベとは違い、ただ単に引火しただけのファイヤーだ。当然、腐乱兵衛でもあっかんべーでもない。

 

 等々。冗談を混ぜつつ会話に花を咲かせた彼は、皿に盛り付け、小さいスコップ(移植ゴテ)と箸を持ってスタンバっているレヴィアタンの前に「行くわよー!」と給仕(サーブ)だ。

 

 さあ、実食! 

 彼は、あえてスコップにはツッコまなかった。そう。レヴィアタンのノリツッコミを期待していたのだが……

 パクッとひと口。次の瞬間レヴィアタンは『!?』ひと口も噛むことなく、苦虫を噛み潰したような表情で吐き出した。

「盛ら、れた。毒、この、野菜、にがいぃぃ」

「毒じゃないから!」

 しかしレヴィアタンには、彼の言葉は届かなかった。だって、苦いんだもの。これは毒でしょ? 毒、だよね? 毒のはず! そんな感じでせかせかと、とても上手にスコップを操り、ピーマンだけを皿の端に寄せ始めたではないか。

 

 ―― めちゃくちゃスコップの使い方が上手だな……。これは、日頃からスコップで食べてるとか? いかん! このままだとレヴィは、立派なレディにはなれないぞ!

 普段レヴィ草を掘り起こしたり、遊びに使ってスコップ達者なレヴィアタンを知らない彼は、そんな思い違いをするのだ。

 ―― それとピーマンは、栄養が盛り沢山でおいしく、体に優しい野菜だ。断じて、毒などではない!

 テーブルマナーなど知らない彼だが、一応スコップにツッコんでから、こんこんと尽きる事なく、ピーマンの素晴らしさを語るのであった。

 

 アレルギーなどは別にして、苦手な食べ物をその相手に食べさせるのは、並大抵の事ではない。下手すれば、いじめのように見られる側面も孕んでいるからだ。なので結局ピーマンは、彼がおいしく頂いたのである。

 その後、箪笥の中で眠りに落ちた彼は、アスモデウスによって起こされた。

 

 そそくさと練習用ジャージに着替えた彼は、薄暗い外で準備運動。体を温めながら、メンバーが集まるのを待っていた。

 ―― 箪笥の中に入っている時って、眠っているように見えるんだなぁ

 ふと、アスモデウスに起こしてもらった場面を思い返していた。すると

 

「陽二おはよう」

 黄色いジャージ姿のランスロットが出て来た。

「おうランス。おはよう」

 そのランスロットを皮切りに、続々とメンバーも集まると、ランニングからの朝練が始まった。

 

 △△

 

 朝練も終わり食堂にメンバーが揃い出すと、マットの上で熟睡していたパールも、物音に気付いて目を覚ました。

「陽ちん、みんなちんー。おふぁようなの~」

「おはようパール。よく眠れたようだね」

 

 一応、パールの部屋も準備してあったのだが、部屋間の移動が大変! との理由で、彼女は食堂で寝起きを希望した。アスモデウスが『私がお手伝いしますので』と尋ねるも断られた。その代わりとして、就寝用のマットが準備されていた。

 おそらくパールは、気を使っているのだろう。

 食堂に居座られると、邪魔になるって? そんな事を考える者は、誰1人としてここにはいないのだ。

 

 その後みんなで朝食を食べていると、桜の腕輪に本部から緊急の連絡が入る。

『姫。ヴァイオレットさんという飛人魚(セイレーン)の方から、面会の申し出が――――』

 桜は、詳しい話を尋ねた。

 

 深夜、ヴァイオレットと名乗る美しいセイレーンが、冒険者協会を訪問した。その場に立ち会わせた者たちは、初めて見るセイレーンの美しい容姿に驚きを隠せず、特に、胸の貝殻に男性陣はメロメロだった。

 対応した職員が彼女に話を訊くと、桜(姫)と陽二に会うため、仲間の人魚と一緒にセナドゥースの河口から遡上《そじょう》してきたとの事。そして協会を訪問したのは、遡上の途中で討伐した魔物の買取と回収。その代金で、桜と面会または橋渡しの依頼だった。

 

 あいにく時間帯も悪く、買い取り魔物の査定確認は、早朝からとなった。指定された川岸へ協会職員と雇われた運び屋たちが向かうと、結界路の外(・・・・・)には山積みのグリンズリーと呼ばれる魔物が。これには、流石の協会職員や運び屋も歓喜で震えたのだ。

 

 グリンズリーとは、魚や小動物、魔物などを狩って生活している熊みたいな外見の魔物だ。そのほとんどの個体は、群れで暮らしている。生息地は、スノームからさらに上流にある湖に隣接する森で、人族にとっては、とても珍しく貴重な魔物である。実はあまり知られていないが、1頭だと臆病風を吹かす傾向が強く、その反対に群れでいる時は、かなり凶暴な性格だ。

 そんな凶暴なグリンズリーたちに、ヴァイオレット含む人魚たちは襲われた。遡上(そじょう)し過ぎて、グリンズリーのテリトリーへ踏み入ってしまったのだ。しかし結果は、川岸の光景が物語る。返り討ちになってしまった形のグリンズリーたちは、ある意味哀れである。

 

 そんなグリンズリーの全身は薄い緑の体毛で覆われており、成体は2~3m。鋭い爪と強靭(きょうじん)な力、人の頭など軽く噛み砕く顎の力は脅威。稀(まれ)に、スノームの近くにも獲物を探しにやって来る事があるらしく、結界路に進入して絶命した個体が、数年に1度入荷する事がある。

 

 結界路によって破壊されているので、魔石が得られた事は1度たりともないが、グリンズリーの体に廃棄する部位は無し! と言われるほど貴重な素材の塊である。神の両手と比喩される部位を筆頭に、ほとんどの部位は高価な薬の材料に。毛皮は肌触りが良いのに防御力も高く、防具にもおしゃれな服にも使える1級品だ。その肉も、極僅かな臭味が逆にアクセントの高級食材。なので魔石にも、特別な効果があるのでは? と、考えられていた。

 

 そんな希少素材の塊であるグリンズリーが、30頭も山積みにされていたのだ。頭を撃ち抜かれて絶命した個体が多いものの、山積みの下段には息のある個体もちらほら確認できる。そして、結界路の外で山積みになっているので、体のどこかに魔石が残っている可能性が非常に高い。

 驚かない訳がなかった。

 

 しかしである。このまま結界路内に運び込むと、魔石の破壊は免れない。そのため協会職員は、このような事態に対応出来うる者に要請を出したのだ。対応できると言う事は、ある程度『国の事情』を知る事に繋がり、それは、桜たちにも近しくなると言うこと。その要請はヴァイオレットの依頼とともに、ゼラニオン本部で働くスタッフの耳に入り、桜に繋がるホットラインによって、緊急連絡とあいなったのである。

 

「あの人魚ども……川を上って来おったのぢゃ!」

 桜は少し吹き出すと、その内容を全員に伝える。

「ここまでとはのう、あの巨乳(バカ)どもめ。よからぬ事を考えておったようじゃったが、まさか乗り込んで来るとは」

 ツボに入ったのか、唯は最後まで言い切る事なく、楽しそうに笑いだした。

 ゴックン

「姉さまたち! ……パールの事が、そんなに心配なの」

 パールは、追って来たヴァイオレットたちの行動に感動してか、高速咀嚼(そしゃく)からの高速ゴックンのあと、そんな言葉を漏らす。しかし言い終わると、自分の仕事は終わったとばかりに、口の中へご飯を放り込み始めた。

 

「人魚さんがいらっしゃったのですか?」

 言葉尻が弱く、呟くように漏らしたのはアスモデウスだ。

 明日は、ゴブリンのダンジョンに攻め込む決行日である。もしかしたら、人魚たちがやって来る事によって、決行日にズレが生じるのを心配しているのか。

 

「こんなのが増えるのか?」

 と、パールに指を差したのはランスロットだ。こんなの呼ばわりされたヴァイオレットご一行であるが、ある意味的を射ていた。

 口を出さず、そんな話の流れを見守っていた陽二は思った。

 ―― 屋敷に連れてくるのは前提なんだな。

 それもそうだろう。完全に裏をかかれたとも言えるヴァイオレットたちの行動は、面白いし賞賛に値する。そんな相手を追い返すなど、彼女らの辞書には載っていない。

 

「ふむ。魔石を回収がてら、ちと迎えに行ってくるのぢゃ」

 仲間の腕輪(ゼラ・ブレスレット)に収納すれば、例え結界路を通過しようとも、魔石が破壊される事はないのだ。

 桜の声を耳にしたランスロットは、同行があたり前のように席を立った。それを察した彼は、桜に問う。

 

「なあ、俺も一緒に行ってもいいか?」

 川もそうだが、グリンズリーなる魔物を、彼も見ておきたいと思ったのだ。

「パールも、一緒に行くの!」

 彼が行くと言い出したからなのか、はたまた姉さま達を迎えに行きたいのか。しかしながら、パールの願いは一蹴された。一緒に行っても歩けないパールでは、邪魔にしかならないからだ。

 

 △△

 

 桜とランスロット、陽二の3人は、魔王のダンジョンから派遣された魔石回収班。そんな名目で川岸までやって来た。桜だけは身バレしないように変装戦士ゼラニオン(ヒーロータイム)。彼女は、町の人たちからも姫と慕われる有名人であり、普段の彼女とは無縁な、おとなしく無口な姫キャラを演じていた。なので、イメージダウンに繋がる行動や言動が面倒なので、正体は隠す。

 

 川には橋がかけられていた。

 この川の流れは、結界路の外からスノームの結界路内を通り抜けると、再度結界路外に流れ出て、ソラマン、セナドゥースを経由して海へ流れ込んでいる。そのため、この橋も結界路の発生装置になっており、川からの魔物流入を防いでいる。そんな橋を渡った向こう岸に、グリンズリーが積まれていた。

 少し話は逸れるが、桜や唯が訪れた川とは別物である。あの川は、スノームとシノフィールの中間地点が源泉地であり、その水は、王都や周辺に広がる水田、ため池などで利用されている。

 

 その川岸では現在、ヴァイオレットたちが見守る中、解体職人の手によって魔石が取り出されていた。取り出されたグリンズリーは川に投げ入れられると、橋をくぐり抜けた結界路内の反対側に、人魚の助けを借り引っ張り上げられる。

 その場所には多くの人が集まり、熱気と活気に溢れていた。珍しく高級な素材という事もあり、誰もが手に入れようと集まっていた。

 

 ―― 川幅は10mくらいかな……あれ? あのグリンズリーは、どうして川に漬けられたまま放置されてんだ? もしかして、なんかの処理とか?

 

 川岸を一通り見渡した彼は、そんな疑問を持った。その他目に付いたのは、ズラリと並べられた解体済みの部位や、綺麗に剥ぎ取られた大きな毛皮、何かの処理を施される頭部や内臓類、そしてなんと、血液まで集められていた。

 全て、貴重な素材だ。

 その解体品の中には、犬っぽい魔物も混ざっていた。グリンズリーの死体を狙って近付く魔物を、ヴァイオレットたちが倒して回収していたのだ。行き掛けの駄賃的なものだろうか。

 

 ―― あっ、あれかー。

 目を凝らして確認すると、遠く離れた場所から虎視眈々と、魔物が狙っている様子が見えた。彼が気付かないだけで、きっと近くにも身を潜める魔物が居るのだろう。

 

 ―― ヴァイオレットたち人魚って、結構強いのな

 ヴァイオレットたちが魔物に目を向けると、怯むようにその場を離れては戻るを繰り返す。魔物たちも学習しているのだ、むやみに近付けば、素材の仲間入りだと。しかしプレッシャーを与える行為を、止める気はないようだ。

 そんな中、グリンズリーの魔石を探す解体職人は、生きた心地がせず、ハラハラしながら作業をしている事だろう。魔石の場所は千差万別。素材を痛めず探し出すのは腕の見せ所だが、こんなストレスマッハな環境では、精神の消耗がデカイ。

 

 そんな光景を見ながら彼は、桜のあとに続き橋を渡りきった。そこはもう結界路の外だ。彼らはあっさり外に出たが、度胸だめしで橋の半分も進めれば、ヒーロー的扱いだ。

 

 何はともあれ。川岸に下りた彼は、遠くに警戒の目を向けるヴァイオレットに声をかけた。

「おーい!」

「陽ちん殿!?」

「陽ち~ん!」

 今の今まで彼らに気づけなかったのは、桜みたいな幼女が橋を渡ろうとすれば、周囲が驚いて騒ぐのが道理。それを防止する『隠密戦隊(ヒーロータイム)』の力だ。

 

 魔法を解除された、彼に気付いたヴァイオレットが驚きの声を上げると、川の中の人魚たちも彼に気付き、喜びの声を上げながら飛び跳ねた。

 

「うおぉぉぉ! ヤバイ!」

 ぼよよーんと、揺れに揺れる大きなメロンと、チラリズム。人魚の姿を拝みに来ていた野郎どもは大歓声! キラリキラキラと、朝日に光る水面(みなも)と黄金の鱗が、幻想的な風景を作り出した。

「きれいねぇ」

 野郎のみならず女性までもが、目を奪われてしまったのは無理もない。その光景は、エロも鳴りを潜める芸術的なものだったのだ。

 

「久しぶりヴァイオレット。会いに行けなくてごめんね」

「何を言うけぇ。泉より帰ってきたのはつい先日、ここに来てくれただけでもドキがムネムネじゃけぇ」

 ヴァイオレットはそう言いながら、彼と再会の抱擁でご挨拶をば……ところがどっこい。鋭い女の感を発揮したランスロットは、邪魔するように立ちふさがった。

 

「それ以上近づくな! 陽二は、私のだ!」

 ヴァイオレットは2mを超える長身なので、ランスロットは見上げる形で叫んだ。ガルルルー

「……誰じゃけぇ? 陽ちん殿は、パールと結婚してワシらの人魚王となられるお方。1人に縛られる方ではないんじゃけぇ」

 鋭い眼光で見下ろすヴァイオレットは『眠いこと抜かしよると、磨り潰す!』そんな圧で言った。

「私の名はランスロット。陽二が愛する唯一無二の女だ!」

 そんな圧など、ランスロットには通用しない。アスモデウスや唯の圧に比べれば、屁のカッパである。

 

「離れて、あっち行って! 水鉄砲!」

 すると、川の中にいた人魚たちが川岸に集結して、攻撃を開始した。

 ピューピュー

 ランスロットの顔に水がかけられるが、当たった水は不思議と飛び散らない。なので、桜や陽二に被害はなかった。

 

 水鉄砲とは、遊びで掛け合う時に使う技だ。とは言え、本気でぶっ放つと岩をも砕く破壊力がある。お察しのとおり、グリンズリーを絶命させたものだ。

 

 水も滴るいいランスロット。ピクッと反撃開始! 動きだそうとした瞬間

「ランス、止めるのぢゃ!」

「止めろ!」

 間一髪。桜と彼の手によって、戦争は回避されたのだ。

 

「んんっ? こんな場所に子どもとは、危ないけぇ」

「ぬっふっふ、この姿は仮の姿。その正体は……桜(わらわ)ぢゃ! あまり騒ぐと、屋敷には招待せんぞ。よいな?」

 ニヤリ。そんな桜に、ヴァイオレットは驚愕を隠せない。即座にキリリと表情を引き締めると、膝を付いた。

「屋敷の主人様だったとは……パールがお世話になってるけぇ。じゃけんど、先に仕掛けて来たのは……」

「まあ、待て。話は屋敷に戻ってからぢゃ。さっさと済ませて帰るの―― ってやめんか!」

 

 彼に羽交い締めされて、ちょっと喜んでいるランスロットに、ピューピューと水を飛ばしている人魚の姿があった。

 呆れからのため息を落とした桜は、魔石の場所をすばやく特定してさっさと魔石の回収を済ませると、驚く解体職人からも魔石を回収。そして

 

「言うことを聞かぬ者は、屋敷には招かん!」

 そんな宣言をすると、テキパキと人魚たちに指示を出す。そして、あーらよっと! グリンズリーを次々と川に投げ入れた。その中に解体職人が混ざっていたが、気にしてはならない。それを下流で待ち構えていた人魚たちが、次々とグリンズリーに縄をかけては、集まっている人たちに手渡し始めた。一気に、作業効率がアップだ。

 川へ投げ込まれた解体職人も、無事にたどり着いたようだ

 

「なあ桜。あの魔物の素材では、何が作れるんだ?」

 彼は、人魚の仕事ぶりを見ている桜の隣へ

「毛皮は防具や服、布団や絨毯などかのう。手に肝や心臓は、万能薬用の素材が多いのう。その他の部位は、混ぜるだけで上位の薬になるのではないか?」

「へぇ。やっぱり凄いなぁ」

「ちなみにぢゃが……ダンジョンナマズは、さらに倍率ドンぢゃ」

「マジか!?」

「でっかいマジぢゃ! 他にもボッキンミミズ。ここらでは、あそこにしか生息しておらんスーパーな希少種ぢゃ!」

 

 桜は嬉しそうに、かつ自慢げに胸を張った。集めた苦労も簡単に語り尽くせるものではないが、繁殖させる環境を整えるのだって、並大抵の苦労ではなかったのだ。

 まさに、自慢の子ども達である。目に入れないし、素材になっちゃうけども。

 

「すげぇよ。その素材を使い放題とか。おまえ、マジ天使だな!」

「ぢゃろう? わーはっはっは! わーはっはっは! わーはっはっは! げほっ」

 相変わらずである。

 

 

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