※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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玉とスマートフォン

 

 陽二は部屋に案内してくれた兵士にお礼をして中に入ると、念のため誰もいないか確認してから一息つく。

 すかさず『ニヤリ』と口元が緩んでしまうのを我慢しながら、手に入れた玉に魔力を送った。

 

「水(ギフト)!」

 

 玉を起動させると、まず貸与(たいよ)の項目を選ぶ

 

 》どの職業にしますか?

 》鍛冶(かじ)師/錬金(れんきん)調合術師

 》魔法術師/愚者(ぐしゃ)/王国騎士

 

 選べる職業は5つ。

 

 ―――― 初めて起動したときにステータスのスキャンがあったのを考えると、手持ちの職業が玉に登録されるシステムなのかな? でも……勇者はないし、スキル欄にあった愚者が職業になってるし……意味がわからん…………まあいいか、試してみよう。

 

 そう考えた陽二は、適当に職業名を口にする

 

 》鍛冶師貸与中……

 》完了

 

 『完了』と同時に、頭の中でピッというビープ音とともに『強化付与を取得』と聞こえた気がした。

 すぐさまステータスを確認すると、異世界人が鍛冶師に変わりスキル欄に新たなスキル『強化付与』があった。

 

 ―――― おおっ? すげぇ……

 

 どのような職業とスキルなのか? そんなのは後回しとばかりに、他の職業も貸与してみる

 

 》錬金調合術師……『錬金調合術を取得』

 》魔法術師……『呼称発動を取得』

 》王国騎士……『軽量化を取得』

 》愚者……『自由を取得』

 

 愚者を貸与したら、スキルが手に入ってしまったのには笑ってしまったが、先ほどまで職業だった『異世界人』がスキル欄に移動している事に気がついた。

 念のため確認してみたが『異世界人』以外の職業が、スキル欄に移動する事はなかった。

 

 ―――― 『異世界人』は、最初から持っていたスキルだったから? よく分からない部分もあるけど、ラッキーだったな。

 

 一度取得した『強化付与』などのスキルは、職業を変更しても陽二のステータスに残ったままであった。つまり、棚ぼたでスキルを複数手に入れた事になる。

 

「よし実験だ使ってみよう――――だめだ。使い方が分からん」

 

 陽二はステータス画面を眺めながら、どうすればいいのか考えてみた。

 

 ―――― はっ? もしや!

 

 ボタンを押す気持ちで、ステータス画面の錬金調合術を見つめてみるが……当然、何も起こらない。

 

 ―――― なにか『錬金調合』するための素材がないと、使えないのかも……

 

「あっ!」

 

 陽二は手元になかったのですっかり忘れていたが、収納スペース(闇(ギフト))にスマホを入れっぱなしだったのを思いだし『素材に使えるかなぁ』と、取り出した。

 

 なにげに画面を確認すると電波が来ていないのに気付き、片手で上にやると画面を見ながら電波を探し部屋中を歩き回る。するとテーブルに体が当たってしまい、上に置いていた玉が転がってしまった。

 

「危ない!」

 

 思わず両手で抱え込んだその瞬間、閃(ひらめ)いた。そう、あの方を

 

 ベッドに座り、左手に玉を右手にスマホを握る

 

「アイハバたま~アイハバスマホ~錬金調合術!」

 

 ゴッ

 

「痛っ!」

 

 玉にぶつけたスマホは、スルッと滑(すべ)って飛んでいって液晶が割れてしまった。玉の方は欠けてしまいヒビが入っている。

 

「ぐぐうぁあ、あー! なにをやってるんだ。俺は……」

 

 陽二はバカな事をしたと、床にへたり込んでしまった。

 

 ―――― もう死にたい……俺は、なんて駄目なやつなんだぁ!

 

 *

 

 10分ほど自分に対して汚い言葉を浴(あ)びせ続けた結果、ようやく気持ちが落ち着いてきた陽二は、ステータスを確認する。職業は最後に貸与した愚者で、いつの間にかスキルの『自由』が『軽率』に変わっていた。

 

 ―――― これは、愚者のせい、なのか……?

 

 己の引き起こした愚かな行動を棚にあげ『愚者』のせいでやってしまったのだと確信した陽二は、すぐさまヒビ割れた玉を祈る気持ちで起動した。

 

 ブブーンシュン ブブン、ブンブン、ブブーンシュン

 

 玉からスクリーンが出ようとするも、途中で止まりしまいには消えてなくなってしまった。おそらく壊れたのだろう……陽二は絶望で号泣である。

 

 だがしかし、陽二は諦めの悪い男である。何度も何度も、起動と強制終了を執拗に続けていると……

 

 》起動*認

 》ステー*****み中……

 》完了

 》ステータス読み込さ中……

 》**

 》デーやはース読み込さ中……

 》エリー

 

 諦めない陽二の願いが届いたのか、文字化(もじば)けはしているものの、なんとか起動に成功した。

 

 ――― 良かった、本当に良かったよ。ありがとうママン!

 

 心の中で安堵(あんど)するも、ここからが本番である。文字化けで見辛いものの試行錯誤を繰り返し、なんとか『愚者』から『錬金調合術師』に職業を変更することに成功した。

 

 ―――― よし。これで

 

 手には、ヒビ割れた玉と画面の割れたスマホがある。

 

 ―――― 割れた画面など最早どうでもいい。錬金調合術師の俺には関係ないからだ!

 

 2つを手に持つと、頭の中に『あるビジョン』と『それを可能にする言葉』が浮かんできた。視界の隅には、注意を促(うなが)す言葉が見えていたのだが、陽二は気付いていなかった。

 

「ふっふっふ、はーっはっはっ。勝ったなガハハ!」

 

 ―――― はっ、いかん。調子にのって烏丸○歳になってしまったではないか! 大人になれ陽二。落ち着け、行くぞ!!

 

 気合を入れ直した陽二は、スマホと玉を持つ手に力を込めて頭に浮かんだ言葉(・・・・・・・・)『超錬金調合(スーパーアルケミ)』と叫んだ。

 

 すると猛烈な倦怠感(けんたいかん)に襲われる中、両手の間に光の玉が現れ、スマホと玉が吸い込まれたと思ったら混じりあい融合していく。

 

 ―――― 頼むぜ!

 

 倦怠感と脱力感で意識が朦朧(もうろう)とする中、スマホと玉を吸い込んだ光の中に、陽二がイメージしている2つの物質が、生まれてくるように全力を尽くして意識を集中する。

 

「ゲホッ」

 

 突然の吐血。相当無理な『超錬金調合』なのだろうか。陽二の体中に激痛が広がる。

 

 ―――― まだだ、まだ終わってない。もう少し……

 

 あと少しの辛抱だ。陽二は、歯を食いしばり意識を集中し続けた

 

 ――――お、終わった……

 

 果たして『超錬金調合』は成功したのだろうか? 確かな感触を感じ取った陽二は、そのまま倒れ込むように気を失ってしまったのだった。

 

 

 ―――― 陽二が気絶している頃 ――――

 

「リックよ、本当に体は大丈夫なのか?」

「はい。驚きましたが……」

 

「で、勇者とはどんな感じなのだ?」

「HPは若干減りましたが、魔力は大幅に増えました。そして……何と言えば良いのでしょうか……体が軽くて、今以上に強くなれる予感がします」

 

 パトリックのステータス

 王国騎士 レベル17

 スキル 鉄騎乗馬 軽量化 剣術 槍術

 ⬇

 勇者 レベル0

 スキル 同上

 (HP150/MP100)

 ・HP(生命力)とMP(魔力)はステータスに表示されず、意識すれば視界の隅に表示される。生命力とは、体力や生命を維持する体の機能、治癒能力などを合わせた『生きる力』

 

「父上、お願いがあります。早速、明日から勇者を鍛えたいと思います。皆を守れる勇者になるため精進します。城を離れる許可を!」

「わかった。勇者の件は、ワシから魔王へ報告しよう。この世界の勇者ならば問題なかろう。リックよ、あまり過信して道を誤るでないぞ」

「分かっております。人族を守るために力を使います」

 

 

 *

 

 

 翌朝

 

 目を覚ました陽二の手中には、画面の割れていないスマホと、ヒビ割れのない玉があった。

 超錬金調合したあと、気を失ってそのまま寝むってしまった陽二。辺りには、少なくない血のあとが残っていた。ダルい体もなんのその。早速スマホの電源ボタンを押してみる。

 

 陽二がイメージしたもの、それは

 玉の機能をスマホに取り込み、タッチパネル式にすること。

 収納スペースに入れると、充電できること。

 だいたいで良いので、ヘルプ機能をつけること。

 

 ―――― 頼むぜ! 

 

 しかし電源は入るが、電池の残量が心もとない。途中で切れて面倒な事態に陥っては困る。と考え収納スペースに入れて、充電できるか試してみる。

 

 その間に部屋を出て、メイドさんに桶(おけ)とタオルを借りる。着替えはないが、幸いにして服は汚れていなかったのでセーフ。水《ギフト》で桶に水をためて顔を洗い、ついでに全身を絞ったタオルで拭く。さらに床を掃除して終わり。

 

 桶とタオルを返却後、ベッドに座ってスマホを確認。

 

 ―――― おおっ、ちゃんと充電できてる! 満タンまで、約15分か……この急速充電、まさにご都合主義だな……ありがたいけど。

 

 電源を入れると先程とは異なり、一瞬初期設定みたいな画面に切り替わったと思ったら、玉を起動したときのスクリーンと同じような画面に変わって、画面の真ん中に『職業』のアイコンだけが残った。何度電源を入れ直しても、その画面から変わらなくなってしまった。

 

 ――――専用端末になってしまったな……結局、どうして電波が届いていたのか謎が残ったままだけど……とりあえず、スマホの機能を確認するか

 

 陽二は『職業』のアイコンをタッチ

 

 》鍛冶師/錬金調合術師/魔法術師 

 》愚者/王国騎士/無職

 

 すると、画面に職業名が並んだ。その名前を押すと、ワンタッチで簡単に職業を変更できるように仕様が変わった。他の機能もいろいろと付けたかった陽二だが、ヘルプ機能を付けるのが精一杯だったようだ。

 

 ちなみに、無職は異世界人。どうやら勝手に追加されたようである。陽二は、タッチを繰り返して自分のステータスを確認した。

 

 ―――― よし、問題なく変更できる。次は説明を見てみるか

 

 まずは鍛冶師を長押し(長押しで説明が表示)

 

 ・鍛冶師。錬金、鍛冶を極めた者。強化付与を取得。

 ・錬金調合術師。錬金、調合を極めた者。錬金調合術を取得。

 魔力+1000。錬金調合術と全魔力を代償にして『超錬金調合(スーパーアルケミ)』が一度だけ使える

 

 ―――― 代償? あっ、確かに『錬金調合術』が失くなってる……まあいい。とりあえず、全部の説明を見よう

 

 ・魔法術師。4属性以上を極めた者。呼称発動取得。MP+1000。呼称発動と全魔力を代償にして『完全固有魔法(オンリーワン)』を一度だけ作成

 

 ―――― え? でも、魔力は代償で……次だ

 

 ・愚者。愚か者に相応しい行動や言動をしてしまう。

 発想力は高いが、実力が伴わないので実現できない事が多い。

 愚者のスキルは、自動で変化する。

 

 ―――― 意味ねえ……自動で変化? もしかして『軽率』か!? なんて迷惑なスキルなんだ……なんで俺は、愚者を貸与しちまったんだ?

 

 ・王国騎士。中級戦士、王国の守りをつかさどる。

 

 ―――― 多分この職業は、リックのをスキャンしたんだろうな。そう考えると『勇者』は譲渡のみ可能で貸与はできないと……おおよそ理解できたけど、説明文を見る限り先にスキルか職業を極めてないと取得できない上位職って事か……得したのは間違いないけど、愚者のスキルが厄介だな……重要な場面で、なにか大きなポカをやりそうだ……

 ―――― しまった、フラグを立ててしまったのか? ……まあいい。次は、スキルの説明でも読んでみるか

 

 ・強化付与。在(あ)る無生物に、効果を最大限付け与え必ず成功する。

 

 ―――― 在る無生物って何よ? もっと簡単に説明してくれない? 必ず成功で最大効果って……なにげに凄いなあ

 

 ・呼称発動。存在する魔法を、名前と想像力(イメージ)で発動させる。ただし固有魔法や高度な魔法は、属性の熟練度に応じて可能になる。

 

 ―――― いまいち意味がわからんけど……簡単な魔法なら覚えなくても使えるってこと?

 

 ・軽量化。装備品の軽量化

 

 ―――― これいいね。剣とか鎧って、見た目以上に重たいはずだしね。

 

 ・軽率(変化スキル)。軽率な行動をしやすい

 

 ―――― くっ。忌(い)ま忌ましい奴め! 変化ってことは……他に何が出てくるのか不安だ。これって捨てられないのかなぁ? 

 

 当然、陽二にスキルを捨てる方法などわかるはずもなく、もう一度復習を込めて説明を見直す。

 

 ―――― 強化付与を使うには、多分、素材が必要だろうなぁ……錬金調合術かぁーちょっともったいなかったな……呼称発動ねぇ……試してみようかな

 

 陽二は壁に人差し指を向けて、昨日カリンが使った水の攻撃(アクアニードル)をイメージする。

 

 ―――― 水が針のようになって指先から真っすぐ飛んでいく。大きさは、太さ直径1センチ円柱、長さ10センチくらい。

 

「水の攻撃(アクアニードル)!!」

 

 しかし、ウンともスンとも。

 

 ―――― あれ? やり方が違うのかな……

 

 とりあえず陽二は、ステータス画面を確認してみる事にした

 

 中山 陽二

 錬金調合術師 レベル0

 スキル

 異世界人 強化付与 呼称発動 軽量化 

 軽率

 

 んーわからんなぁ。

『あっ!』意識すると、視界の隅に数字が見えた

 

 HP10 MP-

 

 MPが『ー』になっているのに陽二は気付いた。おそらく、代償で取られたからなのだろう。ならばと、陽二は職業を『魔法術師』に変更。

 

 HP10 MP2000

 

 ―――― MP出たぁ! しっかし2000って、魔法術師ぶっ飛んでるなぁ。

 

 そこで、説明にMP+1000と書いてあったのを思い出しだ。

 

 ―――― って事は、素(す)のMPが1000ってこと? いや、もしかしたら錬金調合術師のMP+1000も加味(かみ)されているのかも。

 

「良くやった魔法術師さん。グッジョブ!」

 

 そこで陽二は、錬金調合術師の説明文を思い出した。

 

 ―――― スマホと玉を超錬金調合したから、代償としてMPと『錬金調合術(スキル)』がなくなった。だとしたら……もう一度、錬金調合術師を貸与したらスキルとMPが復活するんじゃないか? 

 

 試してみると、残念ながらスキルとMPは復活しなかった。

 

 ―――― そりゃそうだ。世の中そんなに甘くない! だが、スマホを錬金した方が確実に俺のためになるはずだ。そもそも、棚からぼた餅なのだ。得はあっても損はない!

 それよりも魔法だ!

 

 先程と同じように想像(イメージ)しながら唱える

 

「水の攻撃(アクアニードル)!」

 

 指先から、想像した通りのモノが飛びだした。カリンと比べるとスピードは遅いが、うまく発動することができた。

 

 次はパトリシアが使った回復魔法、火の療法(ファイヒール)。今度はあえて、魔法の名前を陽二流に変えて実行してみる。

 

 ――想像中――

 体中がポカポカして、全身の傷が癒えていく感じ……違うな。暖かい女性に包まれて、傷を優しく撫(な)でられ体中から元気が出る感じ……よし。このイメージでやってみよう。

 

「ヒール!」

 

 ―――― ああー暖かかくてすごく気持ちが良い。なんか、眠たくなってきたな……

 

 はっ! と目を開ける陽二。

 

 ―――― 何か違うなぁ。でも、眠たくはなったけど元気にはなった気がするなぁ。消費魔力はどれくらいだ?

 

 確認すると、ふたつ合わせて35

 

 ―――― めちゃくちゃ使えるやん!

 

 ついでに、他の職業に変えてステータスを確かめてみた。

 

 魔法術師   10/1965

 鍛治師    10/1965

 王国騎士   10/1965

 愚者     10/1965

 錬金調合術師 10/ー

 異世界人(無職)  10/6

 

 ―――― 錬金調合術師のMPは代償で『ー』なのだろう。他の職業はボーナスの+2000が反映してるとして、異世界人の『6』って、どうしてだろうな……

 まあ、分からないのを悩んでも仕方がないから、取りあえず放置しとこう。さて、次は何をしようかな……

 

 とりあえず職業を調べるのは止めにした陽二は、今後の事を考える。

 まずは、調合と錬金。このふたつがあれば、お金の工面はなんとかなるだろう。それと、できれば鍛冶も覚えた方がいろいろと幅が広がるな。

 魔法は、見せてもらえればイメージを掴(つか)んで真似(呼称発動)できる可能性が高いし。実際、成功しているしね。それに異世界と言えば、冒険者。冒険者になって、後ろから魔法で攻撃すれば安全だし、貢献もできる。

 んんー夢が広がるね! ならば町に出て、情報収集だろうか。

 

 これからの行動。その方向性をまとめたところで時間を確認すると、8時。おなかがすいたなぁと思っていると

 

(コンコン)

 

「陽二様?」

「はい」

 

 返事をして扉を開けると、タオルを借りたメイドさんが立っていた。

 この王宮では、常時100人近くの人が働いている。8割は住み込みで、その中の1割が『家族枠』と呼ばれる18歳未満で未婚の女性だ。

『家族枠』とは、弱い立場の女性を守る法律があって『家族と同じ様に接しなければならない』と言うモノだ。

 つまり、王宮で働いている限り『家族枠』の女性は王様の娘という扱いになるわけだ。目の前のメイドさんもそのひとり。

 

「おはようございます。今よろしいでしょうか? 王様から朝食のお誘いです」

「はい。ちょうど、おなかの虫が騒いでいました」

「まあ、それは大変ですね。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 

 *

 

「それで陽二、疲れは取れたか?」

「バッチリです」

 

 陽二は、ダグリオスと2人で朝食を食べていた。パトリックの姿はなく、聞くと朝早く勇者のレベル上げのため王宮を出たと教えられ(さすが王子)と感心していた。

 

 メニューは、ご飯とお味噌汁(みそしる)に目玉焼きとハム。ご飯は、元の世界と同じくらいおいしく、味噌汁はちょっと濃い目。なんの玉子か目玉焼きも普通においしい。

 

「このハム! すごいおいしいです」

 

 そう絶品なのだ。ダグリオスに話を聞けば『オーブタ』という魔物の肉。魔物と聞いて驚いた陽二だったが、そんな事は些細な事と思える、ほどよい塩っけと甘味が絶妙なおいしさ、抜群です!

 

 米や味噌の事を話題に出すと、異世界人から伝わったとの事。

 

「味噌は、だいぶ作れるようになったが……米は難しいな」

 

 ―――― 確かに。俺の実家でも味噌や米を作っていたっけ。味噌は材料さえあれば1日で仕込めるけど、米はねぇ……ほぼ毎日面倒を見なきゃダメだし大変だよね。味噌で思い出したけど、作りたての若(わか)い白みそもうまいんだよね。1年も寝かせれば色も味も変化してうまいけど、その過程もたまらないんだよ。

 

「実は、謝らなければならないことがある」

 

 陽二が味噌に思いを馳(は)せていると、ダグリオスが唐突(とうとつ)に告げた。

 

「何をですか? 俺は、何かをされた覚えは全くありません。むしろ、こんなにいい待遇をしてもらって感謝しかないです(職業やスキルも手に入れたし)」

 

「玉を使って死人が出たと言ったな? あれはウソだ。せいぜい魔力を吸われて気絶する程度だったが、使い方は本当に知らなかった。そして『異世界の勇者は、この世界に残ることはできない』と言ったのは本当なのだが……それを利用して『勇者』を手に入れようと計画した。われわれには、力が必要だったのだ……本当に申し訳ない」

 

 王ダグリオスが、陽二に向かって頭を下げた。

 

「ちょっダグ。頭を上げてください。むしろ、俺は面白くなって来ましたので、勇者を引き取ってもらえて感謝しかないです」

「さすが元勇者。器がでかいわ! 褒美だ。何でも言って良いぞ?」

 

 ダグリオスは、そう告げると勢いよく飯を食らい味噌汁を飲み始めた。騙した事を気にするあまり、食事がのどを通らなかったようだ。

 

「ダグ。いえ、王様。褒美とは違うのですが、俺からも謝らなければならない事があります」

「謝らなければならないこと?」

「あの玉ですが……いろいろと調べていたら手違いで壊してしまいました。申し訳ありません」

 

 陽二も深々と頭を下げ、玉を取り出しダグリオスに渡す。

 

「見た目では分からぬが……まあこれでお相子様(あいこさま)だな。どちらにせよ、人族に勇者が生まれたのだ! その事を考えれば些細(ささい)な事よ」

「かるぅ! でも、そう言ってもらえると正直ありがたいです。あと、できれば王宮を出て町で暮らしてみたいのですが……」

 

「そうか……昨晩の話からすると、陽二からは役に立つ話も聞けないだろうしの……良かろう。好きなときに出て行くが良い」

「ありがとうございます!」

 

「『勇者』の礼ではないが、身分証明カードと1年分の生活費も出そう。1年たっても生活に慣れなければ,元の世界に帰るのも良いだろう」

「ご配慮ありがとうございます。早速、今日の昼にでも町に出てみます。宿が取れたら、そのまま町で暮らしてみたいと思います」

 

「そうか。いつでも訪ねてきてくれ、遠慮はいらんぞ」

「分かりました」

 

 陽二は部屋に戻り、ワクワクしながら準備をしていた。荷物もないので、準備も何もないが……

 

 寛(くつろ)ぎながら何を見て回ろうかと考えていると、陽二が王宮を出て行く事が伝わったのだろう。たくさんの人物が訪れ、何か役に立つ情報はないか質問攻めにあったので、面倒に感じた陽二は、予定を早め逃げるように部屋を飛び出した。

 

 *

 

 外に出ると振り返り、王宮を見る。

 

 中心に5階ほどある円柱状の建物。その左右に3階建てほどのアパートが合体しているような形だった。

 入口は、左右の建物と中心の建物の1階部に1つずつ。陽二の泊まった部屋は、出てきた建物の方なので右側。

 中心の建物の4階の窓に、陽二を見送るダグリオスの姿が見えた。

 

 内部からは当然分からないが、どう見ても城には見えない。よく漫画とかである、王様の前にひざまずき謁見(えっけん)する様な部屋は確認していないが、建物から感じた印象だと存在しない可能性も高い。

 

 振り返り花壇や植木の道を抜け、門まで歩く。建物から門までは100メートルほど。

 花壇の向こう側はグラウンドで、王国兵士が集まり訓練をしている。

 門まで到着すると、死角で見えなかった場所にカリンが待っていた。

 

「おはようカリン。もしかして、見送りに来てくれた?」

 

 カリンは昨日と同じ様なデザインの服を着ていた。色が黒と白2色になっていて、マントを羽織(はお)っている。とても落ちついた感じだ。

 

「何を言っているのかしら、町に出るなら私も一緒に行くに決まっているじゃない。常識のないアナタを1人で行かせる訳にはいかないでしょう?」

 

 そう陽二に返答したカリンは、ふう、やれやれねって感じでジェスチャーした。

 

「もう王宮に戻って来る気はないんだけど、それでもいい?」

「王様にお願いされたから一緒に行くの。だから、その話は聞いているわ。そうねぇ……2、3日は一緒に行動してあげるわ」

 

「貞操(ていそう)観念(かんねん)が低い!?」

「はぁ……アンタ馬鹿じゃない? 私は魔法が使えるし、剣の腕もそれなりに自信があるわ。もし、私に手を出そうものなら……理解できるわね? それに私、夜は王宮へ戻るわよ」

 

 当然そうだろう。陽二は、宿へ一緒に泊まれると勘違いしてエロい妄想を膨らませていたようだ。それはそうとして、カリンのキャラクターが昨日までと様変わりしていたのに気づいた。

 ―――― もう少しお嬢様っぽかった気がするけど

 

「これでもね、パトリック王子の婚約者候補なのよ。つまり、それなりに(・・・・・)行動しないと親の事もあってまずいのよ ―――― そう、王宮の中では猫を被っているの。これが、私の地よ」

 

 ―――― 婚約者候補だと? リックめ、こんなにかわいい女の子と……うらやましい。しかしまあ、なるほどね。猫被りならキャラも違って見えるか。でもそう考えると、良いように見られたいから猫を被ってるって事だよね? ……て事は、カリンはリックのことを――――

 

「何か勘違いしているみたいだから言っておくけど、私は別に、パトリック王子と結婚したい訳じゃないわ。親に言われて、しかたなく来ているだけなのよ? そのお陰で、とても良い環境で色々な勉強ができる事は感謝しているわ。でもね……私の夢が叶(かな)うのなら、結婚相手は、王子でも異世界人でも誰でも構わないの」

 

「誰でもって……投げやりだな」

「言い方が悪かったわ。私はね、冒険者になりたいのよ。でも領主の娘だし……いろいろとあるのよ。だから冒険者になれないなら、結婚相手は誰でも一緒かなって……」

 

「パトリック王子と結婚したら、いずれ王女様じゃんね?」

「興味ないわ」

 

 そう言うカリンは、もう話は終わりとばかりにカードと袋を投げ渡す。受け取って見ると、読めない文字が書いてある。おそらくコレが、身分証明書なのだろう。袋の中には、金貨2枚と銀貨が40枚も入っていた。

 

 陽二が自分の感覚で判断したレートに照らし合わせた場合、日本円にして約240万円。

 

「1年分の生活費よ。でも多いわね。陽二……あなた、何かしたの?」

「するわけ、ないだろう?」

 

 ―――― 税を抜いた手取りで考えると、240万円はかなりの金額だ。ダグが奮発してくれたんだろうけど『勇者』のお金が含まれているんだろうな。

 

「まあいいわ、取りあえず行きましょうか。そう言えば……お昼はまだなのよね。あら? 小金虫さんが居るじゃない。良いお店を教えてあげるから行きましょう。当然、陽二のおごりでね」

 

 そう言うカリンは、渋(しぶ)る陽二の手をひっぱって歩き始めた。そのやり取りを見ていた何人もの王国兵士が、何かを叫んでいたが陽二の耳に届くことはなかった。

 

 *

 

 王宮の敷地は、高さ2メートルの壁でぐるっと囲まれている。正面に、横幅3メートルの門扉(もんぴ)が2つ。昼間は開放されていて、誰でも中に入る事ができる。

 裏門もあり。そちらは正面より小さいが、荷馬車が通れるくらいの大きさはある。

 

 王都は王宮を中心として東西南北に大きな道が町の外まで続いている。そのまま道なりに進むと、他の町へ行くことができる。

 

 北に行けば、北の砦(とりで)ソラマンへ

 南に行けば、港町サラデインと大森林シノフィールへ

 東に行けば、鉱山都市スノームへ

 西に行けば、セナドゥースへ繋がっている。

 

 ダグリオスの話でも出た、魔物が集まる砦(とりで)と言うのはソラマンの事ではなく、王都から1000キロ以上も離れた場所にある砦(とりで)の事になり、紛(まぎ)らわしいので普段は砦をつけず、単にソラマンと呼んでいる。

 

 マツサもそうだが、北の砦(とりで)も勇者が呼ばれた時代に滅んだ町の跡で、現在はそこを拠点として開拓を進めているのだ。そして北の砦(とりで)からソラマンまでの間にも小さな町センダイがある。しかし王都周辺に比べると魔物も多く危険な場所に変わりはなく、そのマツサやセンダイの存在を知っている人は少ない。

 

 魔物と言えば、魔獣と呼ばれている獣もいる。違いは魔石を持っているか持っていないか。ただ、同じ獣がダンジョンにも出現して魔石を持っているため、一括(ひとくく)りにして魔物と呼ぶ人も多い。

 一番身近な魔獣が、オーブタ。

 王都周辺の人族が暮らす場所やマツサ、北の砦付近でも見られるオーブタは、魔石(・・)を持っていないので結界路を自由に行き来するが、ダンジョンで出現するオーブタは魔石を持っている。

 

 話を王都に戻すと

 その大通りには王都にしか存在しないお店や、娯楽施設が集中している。王都の基本産業は農業と観光。最大の目玉が娯楽になる。そして、陽二とカリンが向かったお店も大通にある。カリンおすすめの店の経営者は、異世界人。店は、元世界のファミレスに作りが似ていた。値段も手頃で店員の対応も良く、とてもおいしいと評判の店だ。

 

 ただ、店に入る時に店員が大量の塩をまいていた。嫌な客でも来たのだろうか? と陽二はその姿を見て思った。

 

 *

 

「いらっしゃいませ、2名様ですね。こちらへどうぞ」

 

 フロアスタッフに案内され席に着く。フロアスタッフの制服もカリンの服装に似ている気がした。

 

 王都は、セーラー服がブームなのだろうか?

 

 文字が読めないので、カリンに教えてもらいながらから揚げ定食(・・・・・・)みたいな物を注文した。

 

 メニューには粗いながらも写真が付いていた。

 

 かわいいフロアスタッフに運ばれて注文したメニューが届く。

 中には見たこともない野菜も入っているが鳥肉のから揚げにキャベツの千切り、レタスにトマトやマッシュポテト、ご飯にお味噌汁……違和感が全くない。

 

 ―――― 味も醤油(しょうゆ)ベースにニンニクがきいてサクサクジューシーでおいしい……けど、何か納得できない。そう、異世界っぽさが、全く感じられないのだ。そして量が多い! 2人前くらい平気でありそうだ。

 カリンは単品で頼んだため1つ1つの量は少ないが、全部の量を合わせれば、間違いなく俺よりも量が多いだろう。こちらの人はエネルギー消費が多いのかもしれないな。周囲の人も結構な量を食べているし……

 

「あ~幸せ。ふっふっふっふ~ん」

 

 陽二があっけに取られている目の前で、鼻唄混じりのカリンは、いつの間に注文したのかパフェみたいなデザートに舌鼓を打っている。

 

 ―――― オムレツが乗ったスパゲッティと照り焼きに……他にも何か食べてたよね……

 

「カリンって、結構食べる人?」

「失礼ね、私は小食って言われているのよ? このくらい常識(つねしき)よ!」

 

 ―――― つねしき? 常識(じょうしき)の事だろうか。ツッコンだ方がいいのかな…… 

 

「ねえ陽二!」

 

 ―――― それにしてもちょっと食べ過ぎた。そして、周りの人たちの食いっぷりを見ていると……リバースリサイタルしそうだ。 

 

 カリンの呼びかけに、陽二は吐(は)き気を我慢してこたえる

 

「うぷ。な、なに?」

「今から映画を見に行かない?」

 

 今まで大人びた態度だったカリンが、突如として無邪気な子供みたいに、キラキラとした表情に変わった。

 

 

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