「シアにナーナ!? それと、カリンぢゃったか?」
突然、見知った顔のパトリシアたちを確認した桜は、少し驚いたものの、色づく声を出した。カリンの名前をしっかり覚えていたとは、流石だ。
「桜ちゃん!」
「ナーナ!」
「覚えててくれたんですね。サラリーちゃん、私も名前で呼んでいい?」
その言葉を訊いた桜は、脳内コンピューターをフル回転! チーン!
「うむ、許可する。シアと同じように呼ぶがよい」
街角で偶然出会った昔の友だちと、花を咲かせる。そんな風にキャピキャピな会話をしているが、現在進行形でゴブリンからの攻撃と進軍は続いているのだ。
ゴブリンたちは、突然現れた
「父上は練習通り左側の指揮を、ライブスは右側の指揮を頼む」
ガッチガチの鎧を着込んだ王ダグリオスと、ローブ姿のライブスは、左右に分かれて指示を出す。パトリックに任命された指揮者の声は、壁を伝播しダイレクトに伝わるのだ。
「弓矢隊、撃て!」
王ダグリオスの声が、左側の通路内部に響き渡る。
シュッ、シュシュッ、ビシュッ!
ゴブリンの石矢とは違い、作りの良い
とは言え矛盾するが、なるべく被害を最小限に食い止めるため、急所は狙わず、四肢を狙う指示が出されていた。
ゴブリンサイドからすると、壁を通り抜けて突然現れるこの矢は、とても厄介な攻撃だった。彼らゴブリンの矢は、ことごとく壁に阻まれるお気の毒状態なのにだ……あっという間に状況は、ワンサイドゲームに傾き始めた。
「下がれっ!」
このためゴブリンたちは、矢の届かない位置までの撤退を余儀なくされたのだ。
左側は王ダグリオス指揮のもと、少ない被害で退ける事ができた。では、右側のライブスはどうだろうか?
ゴブリンの建設した石壁は、なかなか強固で魔弾の効果は薄かった。
「パトリックさま、石壁を破壊してください」
にらみ合いは、ゴブリンの被害を考えると、決して悪い状況ではない。しかし、王国兵士の疲労や魔弾の消耗を考えれば、良くないのも事実である。そう、戦闘は始まったばかりなのだ。
痺れを切らしてしまったライブスは、正面から迫るゴブリンを『
それを受けたパトリックは、頭上に巨大な『落壁』を作り出すと、石壁に向かって放ったのだ。
ドゴーン! ガラガラガラ、グシャ!
石壁は強固だった。しかし、単に石を積み上げただけの突貫工事だったのだろうか、『落壁』で破壊された壁を起点に連鎖し、広範囲の石が崩れだしたのだ。
「ひ、引けぇ! 下がれっ!」
狭間から攻撃していたゴブリンたちは、我先にと一目散に逃げ出すものの、生き埋めになってしまったゴブリンも数知れず。
「くっ!」
「パトリックさま、この責は私に」
良心の呵責に苛まれそうになったパトリックに、そう声を掛けたライブスは叫ぶ。
「今だっ
攻撃目標は、石壁が崩れても逃げずに瓦礫となった石壁の影で、尚も応戦を続けるゴブリンのみだ。
「あの位置から近寄らせないようにするだけでいい。適度に攻撃を繰り返し注意を引きつけろ」
手持ちぶたさのランスロットは、ライブスと王国兵士のやり取りを耳にして思う。
―― 付かず離れずの攻防がしたいのならば、石壁を壊す必要はなかったのではないか?
すると
「パトリックこっちは任せておけ。血がたぎるわ!」
彼女の耳に、王ダグリオスの年甲斐もない叫び声が届く。さらに
「私たちも負けていられません!」
そんなライブスの頼もしいひと言のあと、足元から伝わってきたのは、今の攻撃で士気が高まった王国兵士たちの雄叫びだった。
「なるほどな」
とランスロットはひとりごちる。
確かにゴブリンの被害を抑える作戦も大事だが、最優先されるのは、自軍の王国兵士たちである。それが万全の状態で初めて、ゴブリンたちに配慮できるのである。王城要塞の中は安全とは言え、戦場ではどんな不測の事態が、起こり得るのかわからない。
そう言う意味でも、王国兵士たちの士気を上げ、ゴブリンの心を少しでも折り、不安材料を減らしたライブスの要請は、ベターと言えた。
王ダグリオスとライブスの言葉を訊いたパトリックは、決意新たに頷くと、次の行動に出た。
「王城要塞、進行!」
なんという事でしょう。守護の盾が光り耀いたかと思えば、ズズッ、ズズズッと、少しずつ地面を削るように、王城要塞が動き出したではありませんか!
「前方は私が対応します。後方および左右の対応はお願いします」
「了解した!」
「了解しました!」
パトリックは『落壁』で牽制しつつゴブリンを後退させ、王城要塞を前進させる。王ダグリオスやライブスも指示をだし、巧みな牽制攻撃で距離を保ち、ゴブリンたちを近寄らせない。
「ふむ、なかなか見事じゃ。
そんな褒め言葉を漏らす唯の隣で、アスモデウスは少しもどかしそうな顔をしていた。
ランスロットは手持ちぶたさを解消するため、借りた弓で矢を放っていた。彼女の
先ほどランスロットは、石壁の破壊に疑問を持っていたが、あれは、パトリックたちの話を訊いて思っただけであり、彼女たちチームゼラニオンが情けをかける道理はないのだ。
「弓もいいな。この調子で、陽二のハートも撃ち抜けないだろうか……」
「撃ち抜くのは簡単ぢゃろう。死んでしまうがな」
ランスロットは、思いのほか楽に破壊できる足場や石壁を見て、そんな思いの丈を漏らす。それを訊いた桜は、茶化すような横やりを入れるのだ。
ドゴーン!!
そんな時だった。轟音と同時に、王城要塞がストップしたのは。
「パトリックさま大丈夫ですか!? ……あっちです。右奥からの遠距離攻撃です」
ドゴーン! ドゴーン!
ライブスが指し示す右奥。そこにある高台の上から、続けざまに攻撃が届いた。
「うわぁ!」
「ぐわぁ」
その攻撃は、王城要塞の壁を破壊する威力をもっていた。そしてその爆発によって、王国兵士に被害が出てしまった。
「ほう。あの筒とは形状が異なるのう」
目視で確認した唯は呟く。彼女の目には、押収した筒とは異なる設置型の兵器と、それを操るゴブリン将軍の姿がハッキリと見えていたのだ。
ドゴーン! ドゴーン!
今度は反対側だ。またしても王城要塞の壁が破壊され、少なくない被害が出たようだ。慌ただしくなる王城要塞の内部をよそに
「右に2、左に2―― そして、後方に1体じゃ!」
指鉄砲を後方に向けた唯は、魔法を放つ。それと同時に、アスモデウスも魔法を放っていた。
後方からもゴブリン将軍の撃った弾が迫ってきていたのだ。着弾する前に指鉄砲で破壊! と思いきや指鉄砲は外れてしまった。そのまま弾は、すさまじいスピードで王城要塞の後部に激突!?
ドゴーン!
しかしそれは、アスモデウスが結界で防いでいた。
「唯殿!」
この遠距離攻撃には、王城要塞では分が悪い。それを悟ったパトリックは、指示を求めて唯の名を呼んだ。
「任せておれ。アスモは左じゃ」
「お任せ下さい」
彼女たちの出番である。唯とアスモデウスの2人は、あうんの呼吸で飛び出したのだ。
遠距離武器を見て興奮していた桜は、同じく出遅れたランスロットに叫ぶ。
「妾たちは後ろぢゃ! 急げっ! あっ!」
しかしながら桜たちより早く、後方へと飛び立つ3つの影があった。スマイルセーラーとピュアセーラー、それとナーナだった。
またしても出遅れて、出番を奪われてしまった。カリンたちと共に戦う? それは出来ないのだ。スーパーヒーローは、出遅れたら終わり。合流するチャンスは、カリンたちがピンチになった場合のみ。なので桜は言う。
「むむ、仕方があるまい。別れて、母さまとアスモの援護に出る」
唯とアスモデウスは大勢のゴブリンを飛び越え、遠距離攻撃しているゴブリン将軍へ向かった。つまり、ボス怪人との対決であり、それを邪魔させる訳にはいかない。
なので桜は、雑魚のへータイズ・ゴブリンを引き付ける役目を、買って出るのだ。
「桜、私はそれでいいのだが、ここの護衛はどうするのだ?」
本陣を守るのも、また大切な役目だ。意気揚々と出陣したのはいいが、帰る場所がなくなっては本末転倒。母艦のSOSを無視して、工場に爆弾を落とし続けるバン○リングベイではないか。
出遅れても動じない。そんな心を堂々とした腕組みの仁王立ちで表現していたランスロットは、桜に問うた。
「行って下さい。ここは死守します」
その会話に割って入ったのは、パトリックだ。それを訊いた桜は、大きく頷く。彼自身は、まだまだ未熟者と考えているかもしれないが、これまでの戦いを見ても立派に勇者である。そんな男の決意を訊かされる熱い展開を、利用しない桜ではない。実はバッチリ撮影済みである。
「ランス行くぞ! ヒーローターイム!」
変身は、改造された仲間の腕輪と青鉱石のおかげで問題はない。しかし、ヒーロータイムに頼らないと、ランスロットの具現化武器が弱いままなのだ。
「「
ゴブリン将軍の出現で、新たな局面を迎えたゴブリンダンジョン。パトリックは王城要塞の壁を修復すると、王宮へ戻る出撃扉を開き、けが人を戻す指示を出した。
そして彼は、左右に別れて飛んで行く、変身の光りを見送ったのだった。
△△
後方に飛び出したカリンとパトリシアは、冷や汗をかきながら撃たれた砲弾を避けつつ、ゴブリン将軍へ走る。
カリンの武器はいつも通りのスマイルソードで、パトリシアが、クルクルと回転する正十二面体が特徴のピュアスターだ。色違いだが、お
「とおおりりゃあ!」
カリンは力強く地面を蹴り、ゴブリン将軍に飛びかかる。
「ピュアスター!」
パトリシアはそれにあわせて、ピュアスターを振った。
ゴブリン将軍の隣には、発射装置が設置してあった。これは、1人でも扱えるように改造された、持ち手不要の筒だ。その反面、狙いを定めたら変更が難しくなるので、動く敵には弱い。
「馬鹿め! わざわざ捕まりにやって来るとは!」
ガキンッ! バキバキ!
ゴブリン将軍は、上段から振り下ろされたカリンの剣を、ハンマーの柄で難なく受け止める。ところがその間に、パトリシアが飛ばした正十二面体が、発射装置を貫いた。発射装置はあっさりバラバラになり、仕事を終えた正十二面体は、パトリシアの元へと戻っていく。狙い通りである。
「し、しまった。おまえらよくも……ジェネジャンピング!」
カリンの攻撃に気を取られ、あっという間に発射装置を破壊された間抜けなゴブリン将軍は、カリンの剣を巻き込むようにカチ上げながらジャンプ。
カリンはその勢いで弾き飛ばされてしまうが、パトリシアが見事にキャッチしてフォロー。
「カリン大丈夫?」
「ええ、ありがとうシア」
だがそこに、カチ上げジャンプしたゴブリン将軍が、勢いよく急降下して来た。
「死にさらせっ! ジェネインパクト!」
高々と振り上げた大きなハンマーと、ゴブリン将軍の落下速度が合わさった攻撃は、華奢な女の子など、グチャグチャのペッチャンコにする威力がある。例え魔法少女衣装に守られているとはいえ、無事では済まないだろう。
「
そんな事は百も承知だ。ゴブリン将軍の攻撃を読んでいたパトリシアは、リンメルのお店で覚えたばかりの氷魔法と、風魔法を組み合わせた『暴風氷礫』で迎撃だ。その直径は1mと小さいが、発生させた暴風の竜巻は、急降下するゴブリン将軍を空中に押し留めた。
「いてっ! いてててて」
竜巻の中には、米粒ほどの
「チャンスだわ!」
これを好機と見たカリンは、スマイルソードを横向きに変えると大地を蹴る。
「
スマイルソードの刀身が、緑の膜に包まれる。これは、俊敏性が向上する
そしてカリンが装備しているブーツは、ウイングブーツ。空を飛べる訳ではなく、1度のジャンプで3回、空中を地面のように蹴る事ができる。このブーツは、カリンの母親である
「ガ、チ、ム、チ、横凪っ!」
ガチムチとは楓に教わった言葉で、筋肉質の相手を攻撃するとき口にすると、何かしらの特殊効果がある。と教わっていた。カリンは素直なのだ。
暴風氷礫の勢いをプラスさせたカリンは、ゴブリン将軍を一刀両断。
だがしかし、ゴブリン将軍は馬鹿ではないし、やられてばかりの無能ではない。今まで手にしていた発破用のハンマーを頭上に投げると、どこからか自分専用の将軍ハンマーを体の前に取り出した。
ガキンッ!
「防がれた!?」
「甘いわぁ!」
将軍ハンマーの頭部でパトリシアの魔法から顔を守りつつ、柄の部分でカリンの剣を防いだゴブリン将軍は、将軍ハンマーを足場にジャンプすると、頭上の発破用ハンマーをキャッチ。そのすぐ真下には、攻撃を防がれた無防備のカリンがっ!
「まずは、おまえからだっ! 死ねぇ!」
発破用のハンマーが、カリンの頭部に振り下ろされた。
「シア」
しかしカリンは特に慌てる様子もなく、パトリシアの名前を口ずさむ。すると、カリンの姿は一瞬のうちに消え去り、ゴブリン将軍の攻撃は空を切ったのだ。
△△
その頃、王ダグリオスとライブスは、的確に状況を把握する。崩れた瓦礫を乗り越え、カリンたちを後方から襲う動きを見せるゴブリンの注意を引くべく、王国兵士に指示を出していた。
「弓矢隊牽制、撃て!」
「引きつけてから刺せ、近づく者には容赦するな!」
王ダグリオスは牽制攻撃で誘導。ライブスは、壁の内部から槍で攻撃する戦法に切り替える。それが功を奏しゴブリンの流れそのほとんどは、王城要塞へと向いていた。
その要であり、パトリシアとカリンの後方を守っていたのは、火の精霊ナーナだ。精霊の加護がないとナーナの姿は認識できないが、ゴブリンたち魔物には通用しないようだ。それを理解していたナーナは、最初からカリンたちの邪魔をさせない方向で動き、ファイヤーテールや魔法を駆使して、近付くゴブリンたちを
前方を死守していたパトリックは、周囲の状況を見回す。王城要塞で進んだ距離は、おおよそ150m。後ろの地面にできた痕跡が、その距離を物語っていた。
前方には、進軍を続けようとするゴブリンたち。
これには『
だが、王城要塞の進行には邪魔だった。
押し返しながらの進行も考えたが、彼は
『落壁』は次の『落壁』を作ると、その前の『落壁』は消えてしまう特性があるため、前方に壁を作りゴブリンの進軍を止める手は使えない。そして残念ながら、王城要塞の『
右側を見ると、ゴブリン将軍の砲撃は止んでいた。パトリックでは唯の姿を確認できないが、砲撃を阻止する事に成功したのだろう。
そして石壁が崩れた瓦礫の向こう側では、ゼラレッドに変身した桜が戦っているようだ。桜の身長は低いので、その姿は確認できないが、その周囲のゴブリンたちが、ある1点に集まるような流れが見える。そこに、桜がいるのだろう。
アスモデウスが担当する左側を見ると、同じくゴブリン将軍の砲撃は止んでいるので、無力化に成功したのだろう。ゴブリン将軍が居たであろう場所には、10m以上の火柱がうねりを上げていた。そして崩れた足場の向こう側では、ゼライェローへと変身したランスロットが、大きな剣を振りまわし、近づくゴブリンを弾き飛ばしているのが確認できた。
左右の戦況を確認すると、砲撃を仕掛けてきたゴブリン将軍との戦闘は、まだ続いているのだろう。何はともあれ、敵の数が多くて大変そうなのは、明らかに桜とランスロットの2人のようだ。
後方に目を向ける。
王城要塞の周囲にはゴブリンが群がり、壁にハシゴをかけようとしていた。だが、壁の中から飛び出す王国兵士の槍や矢の餌食となっていて、戦況は有利そうだ。ここは、王ダグリオスとライブスに任せておけば、問題はなさそうだ。
その少し先。崩れた通路入口付近では、パトリシアとカリンが戦っていた。その戦っている場所と王城要塞の間にある通路の近くに、崩れた石壁や足場を乗り越えたゴブリンやゴブリンナイトが集まりつつあった。
王ダグリオスの牽制で王城要塞に注意を引き付けているが、いつパトリシアたちに目を向けるか分からない状況だ。
昨日『可憐ウィッチ』の力を見せられ、唯の後押しもあり隊に加えたが、パトリシアは実の妹である。
それを戦場に持ち込むのは間違いだと理解しているが、心配で堪らなかった。
△△
崩れて
―― !?
左右を確認すると、増援であるゴブリンやゴブリンナイトが、瓦礫の山を越えようとしているところだった。流石にこれは、まずい状況だ。
「ナーナ。王城要塞に戻って、退路の確保をお願い」
転移を使っての撤退を思いついたカリンは、万が一を考え、ナーナへ王城要塞の撤退を指示した。
ゴブリン将軍の近くにある、バラバラになった発射装置。あれを完全に破壊したのか不明なので、いま撤退する訳にはいかないのだ。
「ナーナ……」
心配な顔を見せるナーナに、パトリシアもお願いする
「大丈夫だよ。危ないと思ったら、すぐに逃げるから」
そして、逆にナーナが危ないと判断したときは『転移して助けに来てくれればいいんだよ』とパトリシアは付け足した。
実際の所。この3人の中で誰が1番強いのか分からないが、気配を悟られているとはいえ、姿の見えないナーナが、王城要塞へ戻り退路を確保するのが1番の適役だろう。
ナーナはパトリシアに
「シア、発射装置を完全に破壊するわよ」
ナーナを送り出したカリンは、パトリシアにそう告げると
「あの筒だけ奪って、転移で逃げればよさそうじゃない?」
パトリシアの意見は最もである。
「どっちでもいいわ。でも、これだけ数が多いと、
超変身を使うと1分間大幅にパワーアップできるが、ハートモードが終了した時点で、スマイルセーラーのエネルギー源である
「でも、真法剣があるわ!」
イノゾミラに剣を教わり、わずかながら上達した剣の技。そして、冒険者のレベルも上がり見習いを卒業しているカリンは、あの頃とは、ひと味もふた味も違うのだ。
そしてパトリシアも、あれからずっと魔法の鍛錬を怠ってはいない。貪欲に新しい魔法にチャレンジして、新たな魔法も修得していた。
「行くわよ、シア! スマイルロッド」
スマイルソードがスウッと消えると、先端がハートの形になっている杖が現れた。
「うん。行くよ、カリン! ピュアスター」
お互いが、そうすると理解していたように、ゴブリンの侵入を防ぐ壁を作り出した。
「
「
応援に駆け付けるべく、瓦礫を乗り越えたゴブリンたちの前に、2つの防壁が出現して侵入を防ぐ。防壁は、これから始まる戦いの邪魔はさせないとばかりに、カリンとパトリシア、ゴブリン将軍の3者を包み込んだ。
「将軍!」
だが無謀にも、その嵐の防壁に突入するゴブリンたち
「ぎゃあ!」
触れた部分は切り刻まれ、肉片や
「ひい、熱い! 熱い!」
その反対側では、ゴブリンたちが火だるまになっていた。カリンの作り出した炎の防壁は、不思議と熱を発生させず熱くない。しかし、防壁の間合いに入ってしまえば、瞬く間に火だるまへと変える牙を剥く。
「近づけねえぞ!」
2つの防壁の高さは5m以上あるので、上からの侵入もできない。だが、この防壁もいつまで持つかは分からないので、早めに決着をつける必要がある。
杖を剣に変えたカリンは、走り出した。
「真法剣!」
刀身がうす茶の膜に包まれた。
「てぇぇい!」
カリンは、走りながら軽くジャンプ。さらに空中を蹴ると、上段からの重い1撃を振り下ろした。
ガキンッ!
それをゴブリン将軍は、難なくハンマーの柄で受け止めた。
「ぐうっ! い、いでぇぇ!」
思いの外、その1撃は重かった。それに驚いたゴブリン将軍の
「このまま押し切るわ! 攻め斬り!」
ゴブリン将軍は、剣を受け止めながら片膝を着いてしまった。カリンは、そのチャンスを生かすべく、剣を柄に押し当てたまま空中を蹴ってクルッと1回転。もう1度空中を蹴り方向転換すると、ゴブリン将軍の首に剣を薙ぎ払う。
「甘いわ!」
しかしゴブリン将軍は、すっと後ろに倒れ込み躱《かわ》してみせた。
「惜しい、外したわ!」
カリンの剣が空を切った次の瞬間、目の前にはハンマーが迫っていた。ゴブリン将軍は、倒れ込むのと同時に、ハンマーを振り上げていたのだ。
すでに3回空中を蹴っていたカリンは、躱す手立てがなかった。これが戦闘経験の差なのか、完全に手の内を読まれていたのだ。
「スマイルシールド!」
それなら受け止めればいいんでしょ! 瞬時にその考えを導きだしたカリンは、ハンマーが当たる寸前に盾を呼び出して防いだ。
ガギンッ!
そのまま弾き飛ばされてしまったカリンは、通路側の壁に激突してしまった。
「カリン!?
パトリシアは、ゴブリン将軍を牽制すると、カリンの元へすぐさま転移。
「大丈夫?」
普通なら全身がバラバラになっていてもおかしくないが、壁に激突して、地面に叩きつけられてしまったカリンは
「意外と、平気みたいね……」
カリン自身も驚く。『土の剣』で上昇していた防御力のお陰か、スリ傷程度で大したダメージを受けなかったのだ。
それを訊いたパトリシアは、安堵のため息を吐く。
ガガッガキンッ!
後方で音がした。パトリシアが放った火土の攻撃を、ゴブリン将軍がハンマーで防いだのだ。
ゴブリン将軍は消えたパトリシアに驚くも、すぐにその存在をキャッチ。そして、脛の激痛に耐えながら体勢を整えハンマーを構えると、ゴルフのスイングで地面を
「
その声と共に、大量の土と石が2人に襲いかかった。
「嵐の防壁!」
目の前に現れたのは、幅3mほどの防壁。咄嗟の事だったので、この規模の防壁しか作れなかったのだ。何とか防いだものの嵐の防壁の範囲外は、地面も壁も酷い惨状である。その光景は、将軍散弾の恐ろしく凄まじい威力を、如実に物語っていた。
「将軍強襲プレス!」
将軍散弾を放ったゴブリン将軍は、防がれる事などお見通し! とばかりに、すぐさま2人の上空にジャンプし、次の攻撃に備えていた。
「舐めないでよね。真法剣!」
その攻撃を返り討ちにすべく、カリンはジャンプ。刀身は緑色の膜に包まれていた。そして、さらに加速するように空中を蹴る。
その結果。
ゴブリン将軍が頂点に達するよりも先に、さらにその上空に到着し、制空権を支配したのだ。
「
ゴブリン将軍に、カリンが放った炎の塊が直撃した。
「ぐおおおっ! これしきのことでぇー」
頂点まで到着して、空中に止まったかのように見えるゴブリン将軍は、尚も
「よくもやってくれたな!」
吠えながら上空を見上げるも、そこにカリンの姿はなかったのだ。
「ありがとうカリン。時間を稼いでくれて―― そして、最高のチャンスを!」
「大した事ないわ!」
ピュアスターを掲げて準備を済ませたパトリシアの視線は、上空のゴブリン将軍をしっかりと見据えていた。そしてその隣には、転移で戻ったカリンが居たのだ。
「
その言葉が発せられると、掲げた杖の正十二面体が光輝く。するとそこから1本の緑の光線が発射された。
「うっ」
その光線は、上空に居るゴブリン将軍の魔石を、的確に貫通して破壊したのだ。
これは、ピュアセーラーの必殺技のひとつだ。
いい
ちなみに『死刑』という言葉を楓に教えてもらい、桜が気に入って作った必殺技になる。派手であるが物足りなさを感じたため、数回しか使われなかった過去を持つ。あと、桜が放つときは『死刑ぢゃ!』が決め台詞だった。
ゴブリン将軍が絶命したのを確認した2人は、筒を回収するとナーナの元へ転移したのだった。