※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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黒マントVS可憐ウィッチ

 

 あれよあれよという間に話が進み、カリンとパトリシアの2人は桜を取り返すため、黒マントと対決(ゲーム)をする事になった。

 

 桜を人質にしている黒ローブや、ランスロットたちが居る王城要塞最上段から見える斜め下前方。その右側に書かれた円の中に、威風堂々と立っているのが黒マント2号で、対戦相手はスマイルセーラーのカリン。

 左側の円の中に悠然と立つのが黒マント1号で、対戦相手はピュアセーラーのパトリシア。

 勝利条件は『1度でも彼ら黒マントに攻撃を当てる』か『立っている円の中から外へ出す』のどちらかだ。

 

 ひっくり返して言えば黒マントの2人は、わずか1mの狭い場所を1歩もはみ出す事なく、攻撃を避けなければならない。その決められた時間は10分と結構長く、普通に考えれば無理難題。達成は、極めて困難だろう。

 しかも、一切の攻撃は禁止である。これでは牽制の類いもままならず、サンドバッグに近い状態だ。逆に言えば、カリンやパトリシアにとっては、またとない好条件になるだろうが。

 

「風の剣(ウィンドブレード)!」

 カリンは真法剣で俊敏性を向上させると、その瞬発力を持って連続攻撃を仕掛けた。

 シュッ、シュッ、シュッ、シュッシュッシュッ。

 その剣筋は、あらゆる角度を網羅する如く。もし、その剣筋の範囲に木の葉が舞い落ちれば、瞬く間に粉微塵へと変貌してしまうだろう。そんな妄想を容易く抱く、鋭い攻撃だった。

「!?」

 しかしながら、その手応えは皆無。剣筋は、彼女の驚愕と共に空を切った。彼女の剣は、完全に見切られていたのだ。

 

「よ、余裕ねっ!」

「……」

「何か言いなさいよ!」

 彼女は黒マントを褒めた訳ではなく、極わずかの尊敬。驚愕の中にそれを感じてしまったため、つい声をかけてしまった。

 しかし―― 無言。

 彼の表情を包み隠す黒マスクは、羽虫など相手にするだけ無駄。とでも思わせるような無表情。つまり、ガン無視。

 それを高度な挑発行為と受け取ったカリンは、スピードを維持しつつ空中を蹴り、立体的な攻撃に出た。

 しかし、それでも届かない。

 時間は残り5分。

 全く通用しない自身の剣技。それを認めざるを得ない彼女は

「そこから出られない相手に卑怯だけど、使うわよ。炎の防壁(ファイヤーバリアー)!」

 黒マント2号が動ける唯一の領地。その外周をなぞるように、魔法を発動させたのだ。

 

 近付いただけで、ゴブリンを火ダルマにする防壁。それが、全周囲を包んでいるのだ。まぎれもなくその中は、灼熱(しゃくねつ)の地獄だろう。それだけではなく、防壁は黒マント2号を飲み込むべく、ジリジリと距離を詰めていた。

「早く逃げなさいよ。あなた、死にたいの?」

 しかし、彼女が防壁の中に問いかけるも、全く逃げ出す気配はなかった。このままでは間違いなく、ゴブリンと同様に黒マント2号も、黒焦げが末路だ。

 彼女はその結果、たとえ人殺しになったとしても、手を緩める気はこれっぽっちもなかった。何故ならこの戦いは、桜を取り戻す勝負なのだ。お友だちを助けるためなら、その手を血に染める覚悟もなんのその。

「忠告はしたわ」

 その言葉と同時に、炎の防壁はひとつの炎柱に姿を変え、黒マント2号を飲み込んだ。

 

「うそ!?」

 炎の中に、飲み込まれた黒マント2号の姿が見え隠れする。その姿は相も変わらず威風堂々と、微動だにしていなかった。まるで『この程度の炎では、脅威にもならない』そう体現するように。しかし、この炎がアスモデウスの作り出した煉獄灼熱(ヘルフレイム)であれば、話は別だっただろう。

 呆然と立ち尽くす彼女の視線を受けながら、黒マント2号は時間切れまで悠々と、その場を動かなかった。まるで、焚き火で暖を取るが如く。

 これでは攻撃が当たったなどと、口が裂けても言えなかった。防壁に包まれても微動だにしなかった姿を目にした瞬間、彼女の負けは確定していたのだ。

 

 カリンの負けが決定したその時、左側の黒マント1号とパトリシアの戦いも勝敗が決していた。

 

 △△

 

 それは、開始直後だった。

「暗黒魔術(ダークネス)」

 黒マント1号は魔法を使い、自身を包むように黒い壁を出現させたのだ。それは、陽二の使う闇魔法『闇壁(ダークシールド)』に酷似していたが、性能は段違いだった。

 

 まず

「ピュアスター!」

 杖の先にある正体不明の正十二面体は、ピュアセーラーの基本攻撃であると同時に、遠近両立と利便性が高く、かなり高威力の物理攻撃だ。

『闇壁』は対魔法の盾なので、ピュアスターの敵ではない。ところが黒マント1号の『黒い壁』は、パトリシア渾身の1撃である正十二面体を、あっさり弾き返した。

 

 そして

「火土の攻撃(ファースドリル)!」

「嵐の攻撃(ストーム)!」

「風氷の攻撃(ブリザード)!」

 彼女が放った全ての魔法は『黒い壁』に吸い込まれるように消えてしまったのだ。

 つまり『闇壁』とは異なり物理攻撃にも強く、魔法攻撃にも強かった。この性能は、アスモデウスや唯が使う『結界』に近く

「あの黒い壁って、魔法を吸収するの?」

 彼女の予想通り、魔法吸収(ドレイン)能力すら備えていたのだ。

 

「どうしよう……」

 絶対などと考えたくもない。『黒い壁』にも必ず弱点が存在し、吸収できない魔法属性や、貫通しうる物理攻撃が必ず存在するはず。彼女もそう考えたが、時間は有限である。なので彼女は取りあえず『1撃――』は諦めて、もうひとつの勝利条件『円から出す』を目指す事にした。

 

「土の壁(アースシールド)!」

 『黒い壁』に魔法が吸収されるなら、足元の土を盛り上がらせて円の外に出せばいい。ところが『黒い壁』の下にある地面は、魔法が発動せず微動だにしなかった。ならばと、周囲に『土の壁』を作り出して、押し潰そうとした。しかしながら、その壁も魔法と見なされたのか、あっさり吸収される始末である。

「もうっ!」

 こうなれば、やぶれかぶれである。彼女は制限時間まで、手当たり次第に試す作戦に出たのだ。

 

 ピュアスターで「えいっ」と力いっぱい叩いた。

 吸い込まれる事なく、あっさり弾かれた。しかし不思議な事に、当たった衝撃を感じる事はなかった。

 次は、落ちていた石を「えいっ」と投げてみた。すると、逆再生するように跳ね返って、おでこに当たった。その結果、涙目になった。

 跳ね返りは危ない。と恐怖を覚えた彼女は、きっと通用する属性があるはず。と、使える属性魔法の『水』『火』『土』『風』『氷』『嵐』を試した。案の定すべて吸収されてしまったが……

 とにかく、色々試しているうちに約束の時間になってしまい、彼女の負けも決定したのだ。

 

 △△

 

「まったく話にならないよ、弱すぎ」

 黒ローブは、もう少し楽しませてもらえると考えていたのか、力なくうなだれたカリンとパトリシアを見ながら、彼女たちを体たらくと評価。そして、吐き捨てた。

「次は私の番だな!」

「私も妹の敵は、取らせて頂きたい」

 黒ローブの言葉に『なにっ!?』と脊髄(せきずい)反射したランスロットとパトリックは、すぐさま再戦を申し出た。あの2人は負けこそしたが、決して恥じるような戦いではなかったのだから。そのためには、少しでも早く仲間の汚名を雪(すす)いで、黒ローブの鼻を明かさなければならない。

 しかしながらそれは、今ではないようだ。

 

「時間切れかな」

 黒ローブが、呟(つぶや)いたのと同時だった。

「本条流二段。紅蓮・魔神昇!」

「立花流二段。地獄闇雷光拳(ヘルスパーク)!」

 そんな唯とアスモデウスの声が、確かに聞こえてきたのは。

 

 すると、唯とアスモデウスを閉じ込めた2つの黒い半球に、大きなヒビがピシッと入った。と思ったら、見る見るうちにヒビは半球全体に走り回り、ガラスが割れるような音と共に崩れ落ち始めると、その中からそれぞれ影が飛び出してきた。

 

「くだらぬ罠なぞ仕掛けおって!」

 アッパーカットみたいな姿勢で飛び出して来たのは、唯だった。それは天井まで届く勢いで、その上昇中に周囲の状況を素早く確認。天井の手前で水泳のターンのようにくるっと回転、天井を足場に蹴りつけその反動を利用すると、黒ローブの元へ急降下!

「己(うぬ)は、誰に手をかけておるんじゃあ!」

 その形相は、まさに鬼。その表情をたまたま目にしたカリンは、チビリそうになった。とのちに語る。

 

「この魔法陣は知っています。あなたはマモンですね!」

 拳を突き出したままの体勢で、半球の側面から飛び出して来たのは、アスモデウスだ。彼女はフジヤマで、ランスロットが倒れていた周囲を入念に調査しており、『闇の牢獄』の魔法陣跡を発見していたのだ。

 その彼女も、瞬時に周辺の状況を理解すると、目の色が変わった。

「誰に、刃物を向けているのですかぁ!」

 地面を蹴り、マモンと同じ高さまでジャンプすると、くるっと回転して、ライダーキックみたいな姿勢で突っ込んだ。

 両雄ともに、脱出から攻撃体勢まで、わずか数秒の出来事だ。

 

 それもそのはずで、2人の大切な宝物が、傷つけられようとしていたのだ。唯は産みの親として、アスモデウスは育ての親として、その行為を絶対に、許す訳にはいかないのだ。

 

「同志時間(クロックアップ)!」

 だが、アスモデウスに正体を見破られた黒ローブ。マモンもしたたかである。彼は、素早くスキルを発動させる。

 この『同志時間』は、使用者と仲間の時間を、数秒間だけ引き伸ばす効果がある。さらに詳しく説明すると、一切の負荷なく高速で行動できるようになるのだ。

 そして念のため、人質である桜の身を『瞬間移動』で隠したのだ。

 

 その間にも両雄の距離は、マモンへと猛烈な速度で近づいていた。そして、攻撃の間合いに入った。

 その時、信じられない現象が起こる。

 攻撃の間合いに入った瞬間、2人の体が嘘のようにピタッと停止したのだ。ただし、この現象を理解しているのは本人のみで、他人に理解できる代物ではない。

 

 これは、マモンの攻撃なのだろうか? いいや違う。

 実は、ピタッと停止したと思われる2人だが、攻撃に関する部位だけは、今までよりも力強く迅速に動いていた。

 これぞ魔技の真骨頂とも呼べる普通ではありえないモノで、マモンへ向かうのに使っていた全身のエネルギーを、最低限だけ残し攻撃する力に加算しているのだ。これにはニュートン先生も運動の法則さんも、全力でツッコミを入れるだろう。

 

 残念ながらこの方法は、『真の入り口と言われる初段』にすら届いていない桜やランスロットでは、使う事はできない。

 

「本条流初段。紅蓮!」

 唯の鋭い手刀が、マモンの頭部を貫いた。

「立花流弐段。地獄闇雷光蹴(ヘルスパーク)!」

 アスモデウスの黒い雷を纏(まと)った蹴りが、マモンの脇腹に突き刺さった。

 ところがマモンは、2人の攻撃を受けたのにもかかわらず、嘲(あざ)笑うように消え去ってしまった。これは『同志時間』で構築された、幻影だったのだ。

「!?」

「!?」

 一瞬2人は驚いたものの、すぐにカラクリだと気づいた。と、その時『同志時間』で接近していた黒マントたちが、不意打ちを仕掛けてきたのだ。

 

「死ねえ。暗黒魔剣(ダークネス)!」

 唯の背中を、黒マント2号の黒剣が強襲する。

「甘いのう。迷迭香(ローズマリー)!」

 左肘を後ろに振り抜く力を利用して、体を反転させた唯は、両腕に巻き付くように出現させた『迷迭香』で、黒マント2号の黒剣を受け止めた。

 この迷迭香(ローズマリー)は、唯の具現化武器だ。本来は鞭(ムチ)だが、腕に巻けば『女帝魔甲(エンプレスナックル)』と命名した手甲になるのだ。

「からの蹴りじゃ!」

 ズシュ!

 反転させた反動を回し蹴りにつなげていた唯は、黒マント2号の脇腹に、ピンヒールの先端を突き刺したのだ。

「ぐはっ。ま、まじかよ。こっちは『同志時間』を使っているのに」

 その言葉を残すと、黒マント2号の姿はスウッと消えてしまった。

 

 そして、もう片方の黒マント1号は

「あなたが、1番の危険人物だそうです」

 アスモデウスを真上から襲った彼は、左手に瓶を持っていた。

「暗黒魔術(ダークネス)!」

 超至近距離の彼の手の平から、パトリシアを完封した『黒い壁』が現れた。壁と呼ぶよりも闇と説明すべきか。もし、その闇に飲み込まれてしまえば、身体にどのような影響があるのか。当然、ただでは済まされないだろう。

 なので、彼女は遠慮するのだ。

「勇鏡(מראה אמיצה)」

 この『勇鏡(リフレクション)』は、初段で覚える魔技であり、様々な効果を発揮する盾である。今回は『反射』だ。

 

 アスモデウスは、超至近距離からの攻撃に焦(あせ)る事なく、手の平から出した『勇鏡』で、見事に反射させた。ところが黒マント1号に跳ね返した暗黒魔術は、ダメージを与えるどころか、同化するように消えてしまった。

 

「同志時間に対応できるのですか?」

 暗黒魔術が反射された!? その驚きを隠すように黒マント1号は、問い掛けに乗じて瓶を投げつけようとするも

「闇雷光(ヘルスパ)!」

 それよりも先に放たれた黒い雷により、瓶ごと手を貫かれてしまった。

「こ、このっ化け物めっ!」

 破壊された瓶ごと暗黒魔術で包んだ黒マント1号は、そんな捨てゼリフを残し姿を消したのだ。

 この2人の攻防も、わずか1秒の出来事だった。

 

 △△

 

 突然、目の前からマモンが消え去ると、変わるように姿を現わしたのは、唯とアスモデウスだった。

 それに驚いたランスロットとパトリックは、今、何が起こったのか半分も理解できていなかった。

 とは言え『闇の牢獄』からの脱出と再会を喜んだり、今の戦闘云々を、ランスロットたちに説明している余裕はない。唯は具現化武器を解除しつつ、消え去ったマモンの行方を慎重に探り始めた。

 

「ランスちゃん、黒ローブの正体はマモンです。カリンさんもパトリシアさんも、すぐにこちらへ戻ってください!」

 見事な役割分担である。桜の捜索を取りあえず唯に任せたアスモデウスは、テキパキと指示を飛ばす。その声を耳にしたカリンとパトリシアは、急いで戻り出した。

 ―― あいつがマモンなのか……でもなぜ、私の事を知っているのだ?

 黒ローブの正体を知ったランスロットが、疑問を抱いてしまうのは自然の事だろう。だが今は、そんな悠長に考え事をしている場合ではない。

 その姿に気づいたアスモデウスは、尻を叩くように声をかける。

 

「ランスちゃん、桜ちゃんが捕まっているのですよ。それと、マモンや黒マントの実力は未知数なので、弱体化は解除。そして、できる限りの強化です」

「わ、分かった」

「おったぞ」

 唯が、崩落した通路の前にマモンの姿を発見した。しかし、黒マントたちや桜の姿はなかった。

「桜は、どこじゃあぁ!」

 唯はそう叫びながら、王城要塞が陥没する勢いで飛び出した。少し遅れて、アスモデウスも後を追う。

 

「ま、待てアスモ!」

 呼び掛けるも、飛び出したアスモデウスを、止める事はできなかった。ランスロットもマモンの姿は確認しているし、黒マントたちの姿が見えない事も確認済みだ。なので尚更、アスモデウスを止めたかったのだが、戦力的に。

 しかし、戻れと呼び掛ける最中に、スキを突かれては身も蓋もなくなる。

 ランスロットは、アスモデウスが戻ってくるのを期待しつつ、ナーナを下ろし最大の警戒体制を持って、カリンとパトリシアの到着を待つ

 

 △△

 

「そこで止まれ。あの女の子が、どうなってもいいのかい?」

 マモンは怒り迫って来る唯へ、そんな言葉を投げかけた。当然アスモデウスにも聞こえており、2人はその場で緊急停止。

 桜の行方は不明なので、マモンの言葉を無視する訳にはいかないのだ。

 

 そんなマモンの言葉と同時だった。カリンとパトリシアが最上段まで戻ったのは。そしてその直後、背後に黒マントが現れたのは。

「暗黒魔術!」

「暗黒魔剣!」

 弱い者から先に狙う方策なのか、黒マントたちの凶刃(きょうじん)が可憐ウィッチの2人を襲う。

 だが、ランスロットも警戒を怠ってはいなかった。

 乙女大剣を、地面すれすれの下向きに構えたまま飛び出し

 ギィィーン!

 カリンと黒マント2号の間に乙女大剣を振り上げ、暗黒魔剣を見事に防いでみせたのだ。

 

「私の名はランスロット。私の目が黒いうちは、好きにはさせん!」

 黒マント2号は、内心で驚愕を覚えたものの、弾かれた黒剣の勢いを利用してそのまま後ろに回転。捻(ひね)りを入れながら、横薙ぎ斬りを繰り出してきた。

 青い瞳のランスロットも負けてはいない。柄を持ち上げ、乙女大剣を縦に構えて足でおさえると、剣腹で受け止めた。

 ギィィーン! 先ほどより鈍い金属音がした。

 そして黒マント2号は、またもや驚愕する。それもそのはずで、彼の思惑では、ランスロットは黒剣の餌食になる(・・・・・)はずなのだ。

 ギギッ、ギギギッ

 そのまま鍔迫(つばぜ)り合いみたいな形になると、黒マント2号は話しかける。

 

「我が黒眼(ブラックドラゴン)が黒いうちは、好きにさせないだと?」

「私は、そのような言い方をしていない!」

 体勢を整えスマイルソードを構えたカリンは、心の中で『どっちでもいいわ!』とツッコンでいた。

 

 △△

 

「城の壁(キャッスルウォール)!」

 その反対側のパトリシアを守ったのは、正真正銘お兄様のパトリックだ。咄嗟(とっさ)の判断で、黒マント1号を『城の壁』で囲んだのだ。

 その間に無事、パトリシアはパトリックの隣に辿り着いた。

「落壁(シューティングスター)!」

 さらに、囲った『城の壁』で挟み潰す。

 しかし挟まれるその前に、囲まれた『城の壁』に暗黒魔術が通用しないと理解した黒マント1号は、瓶を投げつけ穴を開けると『瞬間移動(テレポート)』で、見事に脱出していたのだ。

 

 しかし、無傷で脱出したはずの黒マント1号は、腑(ふ)に落ちない表情で呟く。

「なぜ、暗黒魔術が通用しない(・・・・・)? あの化け物(アスモデウス)なら理解できますが。あなたは何者ですか?」

 パトリシアを背中に庇(かば)いながらパトリックは言う。

「私の名はパトリック。勇者だ!」

「勇者ですって? ふっバカバカしい」

 パトリックを鼻で笑った黒マント1号は、手に持った瓶を見つめながら呟く。

 論より証拠。

「ならば、勇者の力をお見せしよう。出(い)でよ迷宮地帯(ラビリンスフィールド)!」

 

 △△

 

 ―― 飛び出したのは失敗でした……

 後悔後先に立たず。アスモデウスは少しずつ後ずさりしながら、王城要塞へ戻るチャンスを狙っていたが、その動きを見抜いたマモンに

「あちらの戦いに、手出しをしては駄目だよ?」

 と、その場で動けない状態の唯の隣へ呼び戻された。

 ―― 困りましたね……

「マモン。桜をどこにやったのじゃ? うぬはタダで済むと思うでないぞ」

 唯は、今にも噛みつきそうだ。

 ともあれ、2人ともマモンと直接向かい合うのは、これが初めてだ。しかしながら、豊の中に居たマモンは、この2人の事をよく知っているのだ。

 

 なので唯に対しても、見下した態度が取れる。

「魔王ユリシーズ如(ごと)きが、吠(ほ)えないでくれるかな?」

 マモンにとっての唯とは、かつて簡単に1撃を浴びせた事のある相手なので、格下も格下。負ける気など微塵もなかった。あの日逃げ延びた先で、とっくの昔に朽ち果てたと思っていて、彼女の姿を見るまで、忘れていた程度の存在なのだ。

 長い年月を経て再び目の前に現れた事に、少しの疑問を感じない事もないが、それだけの事だ。

 なので、勝てない相手はアスモデウスだけ。と考えて警戒していたが、先程の攻撃で実力の底は見えた。

 限界突破でレベルを上げまくった自分と比べると――

『この程度の強さに、何を怯えていたのか』と笑えてしまう。いつの間にか、追い越して突き放してしまったようだ。

「くっくっく。僕は、強くなりすぎたようだ!」

 ゼラゴールドの姿が一瞬だけ頭に過るが、あの時は不覚を取っただけで、たまたまだ。次戦えば、確実に勝てる。

 そう思っていた。

 

 そんな彼の目の前に居る唯は、昔の名前を気安く呼ばれた挙げ句、モゴモゴ呟くマモンにイラッとしていた。

「桜と司はどこじゃ? 司が生きておるのは分かっておるんじゃ。キリキリ吐(は)かんか!」

 今にも掴(つか)み掛かりそうな唯の手をおさえながら、アスモデウスも時間(スキル)や未知なる能力を警戒しつつ、問い詰める。

「桜ちゃんはどこですか? 早く返すのが身のためです」

 マモンは、そんな格下2人の必死さに、笑いが込み上げる。

 

 ―― でも、なぜだ? 豊じゃあるまいし、どうしてあの少女ひとりに、ここまで必死になれる? 何かあるな……

 実はマモン(豊)は、桜が唯の実娘という事を知らないのだ。司と唯の結婚は知っていたが、司は、唯の妊娠を誰にも話していなかったのだ。また唯も、アスモデウスと常に身近に居た五聖霊にしか打ち明けていなかったのだ。

 ―― 少し、揺さぶってみるか

「確かにユリシーズの言う通り、司くんは、生きてるかもしれない。教えて欲しいかい?」

「あたり前じゃ」

 マモンには、他にも訊ねるべき事がてんこ盛りなのだが、やっぱり1番知りたいのは、愛する司の事一択である。唯は、前のめりになりそうな自分を抑えながら、あくまで淡々と、マモンに言葉を返した。

「それじゃあ教える代わりに、君たち2人で戦ってみてよ」

 バカにしているのか、マモンは笑いながら言う。

「そんな、できません」

 アスモデウスはそう呟くが、唯は違うようだ。

「ふむ、確かに。本条と立花の魔技、どちらが上なのかハッキリさせておくのは悪くない。まあ、本条流じゃがのぉ」

 唯は、あえてアスモデウスを煽(あお)るのだ。

「唯。こんな時に何を言っているのですか。桜ちゃんが捕まっているのですよ……ですが、立花が上に決まっています」

 

 コクッと唯は頷(うなず)いた。

「マモン。妾(わらわ)たちの戦いを特等席で見せてやってもよい。じゃがのう、桜にも観戦させるのが条件じゃ」

「そんな事? ふーんいいよー。まあ、僕より弱い物同士、頑張ってね」

 ひょんな事から始まってしまった流派の争い。

 果たして、勝つのはどっちなのか

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