※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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勇者対1号/スマイル&イェロー対2号/頂上対決

 

 

「出でよ迷宮地帯(ラビリンスフィールド)!」

 パトリシアを庇(かば)い、黒マント1号と相対していたパトリックは、勇者の力を見せるべく『迷宮地帯』を発動した。

 

 この『迷宮地帯』とは、彼の半径70mの範囲内に、記憶している70m四方の迷路を作り出す技で『王城要塞(キングキャッスル)』と同じく『城の壁(キャッスルウォール)』の応用技だ。(最大140mだが、現段階では未実装)前回とは違い、最も外周の壁は発動と同時に出現する。これは、ターゲットを逃がさないための改良点で、内壁のせり上がりと、震度5クラスの揺れは健在だ。

 

 揺れが発生して、内壁がせり上がって来た。下からの攻撃と読んだ黒マントは、それを避けつつ距離を取るため王城要塞の下まで飛び降りる。

「なっ!?」

 当然そこも『迷宮地帯』の範囲内である。

「広範囲の攻撃ですか。おっと」

 暗くなった周囲に怪訝(けげん)な表情を見せた黒マントは、足元から上がってくる内壁を避けると、揺れに耐えながら、注意深く様子見の構えを見せた。すると、周囲の景色はどんどん暗くなり、揺れが収まる頃には真っ暗闇になった。

「閉じ込められましたか……」

 見上げると、薄く光る天井が確認できた。その光景は、深い井戸の底から大空を見上げる。そんな感じだった。

 

 ゴブリンナイトたち魔物は、少しの光源があれば暗闇でも然程問題ではない。しかし黒マントの彼はどうだろうか。暗闇に対応できる『魔眼』もしくは代わりになる力がなければ、狭い迷宮空間では超絶不利な状況に陥ってしまう。

「何ですかこの壁は、意図的に狭くするのが目的のようですが……」

 問題なく視界良好の黒マントは、壁をコンコンと叩き暗黒魔術(ダークネス)で吸収。

「通用しないですか……」

 ―― まったく今日は、驚きの連続ですよ……

 暗黒魔術は今日まで、一度たりとも通じなかった事例はなかった。それなのに、通じない反射されるの散々な結果である。

 

 シュ! 

 そんな黒マントを、何かが襲う。

「暗黒魔術……!? っちぃ」

 黒マントを背後から襲ったのは、パトリックの『落壁(シューティングスター)』だった。黒マントは、咄嗟(とっさ)に暗黒魔術で防いだものの、簡単に突き破られ、左肩を貫通するほどのダメージを受けていた。その『落壁』は、肩を貫くと、そのまま壁にぶつかり吸収される。

「またですか……相性は最悪ですね」

 黒マントはそう呟くと、素早く魔法を唱えた。すると、左肩に受けた傷と貫かれたマントも、元通りに修復されたのだ。

 

 △△

 

 その頃パトリックはその場所を1歩も動かず、視界に見える通過型のマップを見ていた。黒マントの位置は、盾の力によって正確に割り出されるのだ。

 そんな彼の周囲には、ちょうど大人の人指し指ほどの、三角すい状に形を変えた『落壁』が、ドリルのように回転しながら浮かんでいた。それを驚きと戸惑いの表情で見ているのが、彼の後ろに居るピュアスターを握りしめたパトリシアだった。

「命中したのはひとつだけか……」

 『迷宮地帯』での『落壁』は、敵の姿さえ目視できれば、命令ひとつで蜂のように素早く動き回り、確実に貫ける攻撃方法である。しかしその反面で目視できない場合は、手動で攻撃する必要がある。つまり、先ほど黒マントを襲った攻撃は、彼がこの場所から遠隔操作した『落壁』のひとつだったのだ。

 

「瞬間移動(テレポート)!」

 この『瞬間移動』は『帰還魔方陣』で奪ったスキルのひとつだ。その名の通り瞬間的に移動する能力で、マモンから『コピー貸与(たいよ)』されているスキルだ。

 『落壁』で肩を貫かれた黒マントは、迷宮地帯の危険度を理解して、脱出を試みた。

「この壁もですか!」

 しかしながら『城の壁』で囲まれた時と同じく、『瞬間移動』は打ち消されたしまった。どうやらこのスキル、そこまで万能なスキルではないようだ。それとも彼の迷宮地帯が優れていると言うべきなのか

 

 シュッ!

「厄介ですね……」

 『落壁』の第2波が、黒マントを襲った。しかし『落壁』は大きく外れ、頭上30cmを通過。実はこの遠隔操作には、今回初めて浮き彫りになった弱点があった。視界に表示されるマップは、トル○コの大冒険のような2Dマップなので、高低差が分からないのだ。現在の彼と黒マントの高低差は25m。初撃のようなまぐれ当たりは、そうそう出ないだろう。

「これならどうだ」

 彼は気づいた。黒マントのX軸は正確に判別できると。ではどうするか? そう、頭上から垂直落下させればいいのだ。

 

 シュッシュッシュッ!

『落壁』の連続落下攻撃が、黒マントを狙う。それも、当たる確率が上がるように、横並びだ。

 しかし

「上からですね」

 あっさり気付かれ、避けられてしまった。

 ―― こちらの位置は特定できるようですが、何かしらの問題がありそうですね。

 黒マントは攻撃を3回受けただけで、自分の居場所が筒抜けな事を理解する。

「『暗黒魔術』で壊せない壁と、防げない攻撃を考えると、現状が不利なのは明らかですね。もしもですが……勇者と言っていたのが真実だとしたら……」

 ―― 勇者には『暗黒魔術』が通用しない?

「そんなバカなっ!」

 黒マントは自身で導きだした答えを、馬鹿げてる。と、吐き捨てた。しかし、通用しないのは事実であり、長引けば不利なのも明らか。ではどうするか?

 ―― 撤退でしょうね

 今は逃げに徹する。そして脱出に成功したら、マモンに勇者の事を報告して、『暗黒魔術』の事も訊けば良いのだ。

 

 黒マントは瓶を取り出すと、近くの壁に投げつけた。

 ジュー。

「予想通りですね」

 期待したほどではないが、 城の壁と同様に溶け始めた。

 この液体が何なのか想像できないが、アスモデウスにも投げつけようとしていた事から、人体や岩石類も簡単に溶かす液体なのだろう。しかし、濃硫酸や塩酸に見られるガスは出ていないので、その類いの薬品ではない。透明な液体なので、『城の壁』を溶かしたイグナス種の炎酸とも違う。

 

 黒マントは、狙いを定められないようにスピードを上げ、なるべく外壁へ向かって走り回った。その速度にパトリックは翻弄され、狙いがつけられない。『落壁』を落下した瞬間、そこに黒マントの姿はないのだから。

 

「くっ、勘づかれたか」

「お兄さま黒マントは?」

 次々と、彼の周囲に発生しては発射される『落壁』。それを不思議そうに見ていたパトリシアが訊ねる。

「素早く動き回っているよ。そのせいで、攻撃が当たらないのだが」

「ええっ、戦っていたの?」

 いつの間に……。そう思ったパトリシアは、彼の役に立ちたいと提案する。

「待ち伏せしようよ! あっ、あの人には魔法が効かなかったんだった……」

 ―― 目視さえできれば『落壁』を全力で叩き込めるのだが……

 待ち伏せも悪くない案だが、黒マントの移動スピードと高低差の壁が高く、あまり現実的ではない。そう考えた彼は、待たせるよりも危険は少ないだろう。と、パトリシアを引き連れ、黒マントを目で捉える策に出た。

 

 その頃黒マントは、闇雲に走っているように見せかけて、当たりを付けた壁の前を行き来していた。ジュージューと。

 そして到頭、その壁のひとつに光明が差し込んだのだ。

「ようやくですか……」

 割れた瓶は霧散するように消滅しているので、その労力を推し量る事は叶わないが、黒マントは休む事なく、その光明を集中的に溶かし始めた。そして20cm程まで穴を広げると、液体に触れないよう『暗黒魔術』で包んだ腕を外に出して呟いた。

 

 あと20mほど、まさに間一髪。そして一足遅かった。

 逃げられた事に気付いた彼は、落胆すると同時に確かな手応えを得ていた。そして、高低差という新たな課題も。

「シア、残念だけど逃げられてしまったよ」

「シアが足手まといだったから?」

「それは違うよ。では、今から迷宮地帯を解除する。急に明るくなるから目を閉じて」

「うん、分かったよ」

 パトリシアが目をつぶったのを確認すると、彼は迷宮地帯を解除した。

 

 △△

 

 少し時は戻る。

 鍔迫(つばぜ)り合いになった黒マント2号は、興味を持ったランスロットに声をかけた。

「我が黒眼(ブラックドラゴン)――――」

「私は――――」

 彼の声は低く、酒の飲み過ぎなのかハスキーな声だ。また、相当鍛えられているがっしりとした長身から出ているパワーは、少しでも気を緩めてしまうと、途端に持っていかれそうだ。

 ―― どっちでもいいわ!

「土の剣(アースブレード)!」

 土の真法剣を発動させたカリンは、ランスロットの背後から大きくジャンプ。鍔迫り合いで拮抗する黒マント(2号)の頭へ振り下ろした。

「ふっ」

 あえて力を抜いた黒マントは、ランスロットの力も利用して後方へジャンプすると、カリンの攻撃を余裕で躱(かわ)す。着地したカリンとランスロットは、遠退いて行く黒マントの姿に警戒しつつ、すぐに立ち上がり剣を構えた。

 その黒マントは、鋭い視線を向けた姿勢のまま姿を消した。そしてそのまま『王城要塞』の2段目に着地すると、首を捻っていた。

 

「カリン、奴は手強い。下がっていろ」

 弱体化(デチューン)を解除して、可能な限りの身体強化(チューン)を使っているランスロットでも、勝てるかどうか分からない相手だ。

「えっ、そんな……」

 やっと憧れのゼラニオンと肩を並べて戦える。と思っていたカリンはうなだれた。

 とは言え、これはカリンの身を案じての言葉だ。流石にランスロットでも、彼女を守りながら戦う自信はなかった。それを邪魔だ。と勘違いして落ち込んだカリンは、大きく首を振ると、認めてほしいと願いを込めて宣言した。

「超変身(スマイルアップ)を使います」

 

 『超変身』は、MP1000を消費して1分間のハートモードに突入する切り札的ものだ。ハートモードに突入すると、全ての能力が大幅に上昇する。また、ピンチの時ほど効果が上がる。

 しかし2回目の超変身で、ハートモード終了と同時に炎賜珠(サラマン)の魔力が0になることが判明している。

 ※ピンチの定義とは

 スマイルセーラーより明らかに強い相手か、炎賜珠の魔力残量が少ない場合。とあいまい(ご都合)な感じになっている。

 

 宣言した彼女は、力強くランスロットの目を見つめた。

「わかった。守りながら戦える余裕はない、自分の身は自分で守れ」

 その意志が伝わったのか、ランスロットは折れた。

 本当ならば、止めるべきなのだろう。しかし、既にカリンはスーパーヒーローの仲間である。それならばヒーローの神が、彼女の背中を押しをしてくれるはずだ。

「翔騎士変体(ゼラ・ナイトフォーム)!」

 変体したランスロットは背中にカリンを乗せると、最上段の端に立ち黒マントの姿を見下ろす。

 するとその黒マントは、カリンとランスロットの追撃に備える訳でもなく、何やら腑(ふ)に落ちない様子で、こちらを見上げていた。

 だからと言って隙があるわけではなく、2人の姿を視界に入れて……否。正確には、ランスロットの『乙女大剣《エシャロット》』を注視していた。

 

 △△

 

「とりゃーー!」

 この相手には、口上もへったくれもない。

 ギィン!

 ギイィーン!

 先手必勝。飛び下りたランスロットは、全体重+カリンの重い1撃を振り下ろした。それを何食わぬ顔で受けとめた黒マントは、下がりながら着地したランスロットに、同じくらい重い1撃をご丁寧に返した。

 

 背中に、スマイルソードとスマイルシールドを装備したカリンを乗せたまま、ランスロットは黒マントと火花を散らす。彼の剣はいつの間にか、普通の両刃剣になっていた。

「炎の攻撃(ファイヤーボール)!」

 スキを狙ってカリンも魔法を放つが、黒マントには効果がなかった。しかしその過程で、炎の防壁(ファイヤーバリアー)に囲まれても平気だった秘密が明らかになった。

 

 彼の黒マントや黒マスクに、魔法が当たると消えてしまうのだ。まるで、打ち消されるように。これは、強力な火耐性なのか。水塊の攻撃(アクアボール)で試すと、同様の結果が得られたのだ。

「魔法を打ち消す能力?」

 パトリシアの魔法を吸い取った『黒い壁』。あれとは違うようだが、魔法を無効化する能力が、付与されている防具なのは間違いない。

 

「それなら……ランスロットさん使います!」

「わかった」

「超変身(スマイルアップ)!」

 ハートモードに突入したスマイルは、魔法少女衣装(ウィッチドレス)のネクタイとスカートに、ハート模様が浮かび上がる。

「炎剣スマイルハート!」

 胸元にあったペンダントの炎賜珠が消え、柄の部分に現れた。そしてよく見ると炎剣スマイルハートの刀身には、ファイヤーパターンの模様がうっすらと見える。

「とりゃあ!」

 カリンはランスロットの背中から飛び上がり、黒マントの上空から攻める。そしてランスロットは、人の姿に戻りながら斜め下から斬り上げた。

 急造ではあるものの、見事な上下のコンビネーションアタックだった。

 

「ふっ」

 黒マントは動じなかった。

 しかし何を考えての行動なのか、彼はランスロットの斬り上げに突っ込むような形でジャンプしたのだ。

 そして……ガッ! 鈍い金属の音がした。

 なんと彼の足裏には、乙女大剣を防ぐ黒剣が現れていたのだ。その姿はまるで、スノーボードやスケートボードに乗っているかのようだ。

「なっ!」

 意表を突かれたランスロットは悔しさを漏らすが、黒マントはまんまと斬り上げる力を利用して、そのままジャンプ。

 

「てやあああ!」

 カリンは構わず急降下。この程度は想定内なのだ。

 ギギギィン!

 縦に振り下ろした炎剣スマイルハートと、黒マントの横向きの剣がぶつかりあった。ところが、体重を乗せた1撃の炎剣スマイルハートが弾かれてしまったのだ。その衝撃は凄まじく、剣を持つ手が跳ね返され胴体がガラ空きになってしまった。

 その衝撃は、黒マントにも当然あった。しかし彼はその反動を、素早く体を回転させる遠心力によって利用して、カリンの体を真っ二つに斬り裂く攻撃に変えたのだ。

 

 ビュン

「ほお」

 しかしその攻撃は、黒マントの驚きとともに空を斬った。

 カリンはウイングブーツで空中を蹴って、からくも逃げたのだ。そしてそのままカリンは、クルクルと回転しながら地面に着地を決める。

 ランスロットの追撃を意識しつつ、その姿を感心するように見送った黒マントは、追撃を開始。空中でスウッと消えると、現れたのは着地したカリンの背後だった。

「見事だった。だが、安心するのはまだ早い。暗黒魔剣(ダークネス)」

 逆境の後のピンチ。黒マントは、いつの間にか持ち替えた黒剣を振り下ろす。

 ギギィン! しかしそれは、振り下ろした直前に受け止められる。

「お前こそ、私の事を忘れているのではないか?」

「黒眼(ブラックドラゴン)!!」

「だからそんな言い方は、していない!」

 その言葉と同時に追撃だ。ランスロットは黒マントの腹に、魔砲を纏(まと)った前蹴りを炸裂させたのだ。

「ぐっ」

 一瞬、空気が詰まったような声を出し、黒マントは吹っ飛ばされた。

「ランスロットさん、ありがとう!」

「空中戦、見事だったぞ!」

 ランスロットに手を引かれ立ち上がったカリンは、全身に稲妻が走った。さらっと口に出した褒め言葉が、堪(たま)らない。

 

「その剣――」

「んっ、なんだ?」

 蹴りを食らった黒マントであるが、ダメージは少ないようだ。にも拘らず攻撃を仕掛けるどころか、蹴り飛ばされた位置から対話を求めて来た。

「あの魔王どもは別として、お前のその剣、どうして俺の黒剣(暗黒魔剣)を受ける事ができるんだ?」

「なに? そんなの、剣なのだから当たり前……く、くらっかーだ!」

「クラッカーだと!?」

 熱狂的なファンのカリンには通用するだろうが、黒マントに身内(ゼラニオン)ネタが通用するはずがないだろう。

「ははっ、この世界でそのギャグを耳にするとはな」

 通用したようだ。

「ギャグだと?」

「この世界?」

 黒マントの言葉に、ランスロットとカリンが同時に食い付いた。その漏れ出た言葉が違うのは、性格の違いなのだろう。

 

「まあいい。今から面白い見せ物が始まるそうだ。続きは、その後だ」

 最初は無口だったが、黒マントは意外とお喋りのようだ。その言葉を最後に彼は、スッと消えてしまった。

「ちょっと待て!」

「あっ!」

 その時ちょうど、ハートモードが終了して、カリンの変身が解けた。

 戦闘が続いていれば危ないところだった。なので、彼が去ってくれたタイミングは、思いがけない幸運と言えよう。ふと周囲を見渡すと、迷宮地帯も消えていた。

「見せ物とは、何の事だ?」

 首をひねったランスロットは、カリンをお姫さま抱っこすると、王城要塞の上で手を振るパトリシアの元へジャンプした。

 

 △△

 

 

 

「マモン。妾(わらわ)たちの戦いを特等席で見せてやってもよい。じゃがのう、桜にも観戦させるのが条件じゃ」

「そんな事? ふーんいいよー。まあ、僕より弱い物同士、頑張ってね」

 

 唯の言葉を簡単に了承してすぐだった。黒マントの2人が、マモンの隣に現れたのは。

「ねぇマモン。暗黒魔術(ダークネス)の効かない相手が居たんですけど。ちなみに勇者です」

「俺の暗黒魔剣(ダークネス)も、ランスロットってやつに止められたぞ。どうなってるんだ?」

 

 突然、両側に現れた2人は、来てそうそう口を開いた。それに驚くそぶりも見せないマモンは、さも当たり前のように話し出した。

 

「勇者!? 久しぶりだねぇ。そして勇者に暗黒魔術が効かなかったって? そんなはずはないけどなぁ。単純に考えたら光と闇の関係だから、お互いに効果はバツグンなはずだけど……。あっ、バツグンっていうのは、豊がやってるゲームの」

「勇者の攻撃を暗黒魔術で吸い込もうとしたら、突き破られました」

 豊やゲームの話なんてどうでもいいんだよ。んな事より、早く質問に答えやがれ。(黒マント)1号は、マモンの話の腰をへし折る。

「何だよもう。僕の眷族(けんぞく)のくせに、もっと話を訊いてくれても……」

 マモンは、少し考える仕草をみせる。

「勇者補正の可能性も微レ存だけど、断言はできない。けど、吸収できなかった原因は『じゃんけんの法則』のせいかもな。つまり、あと出し禁止って事だ」

「じゃんけん? まさか……ふざけてる?」

「これは真面目な話だ。光と闇。つまり、バツグン同士がぶつかった場合は、先手側が有利。矛盾は起こらず盾は貫かれる。まあ、相手よりも数段強ければ、その法則すら覆せる場合もある」

「つまり、あの勇者の実力は高いと……常に先手を狙い受けは禁物なんですね」

 自身の強さに相当な自信を持っている1号は、パトリックの実力が自分と同等とは思ってもいない。しかし、法則が適用されるであろう実力はある。つまり、侮れないと評価した。

 

「まあ、そんなところかな」

 話は終わったな。じゃあ、次は俺の番だ。と言わんばかりに、説明を終えたマモンの頭を鷲掴みにした(黒マント)2号は、グキッとマモンの首をひねり、自分の方へ向かせた。

「おいっ君も酷いな、下手すれば僕は死ぬところだ。もし僕が死んだら、君たちも漏れなく死ぬんだぞ?」

 ペシッ。そう憤慨しながらマモンは、2号の手を振り払った。

「それはスマン。しかし、掴(つか)み易い位置にある頭が悪い。で、どうしてだ?」

「何がだよ。あーうそうそ、その剣をしまえ!」

 2号は、普通の剣を無言で抜こうとしていた。マントに隠れて見えないが、マモンはその気配を敏感に感じ取ったようだ。なるほど、これが年期の差と言うやつか。

「それにしても、暗黒魔剣を止めちゃうなんて、あの女いいね。弱点も判明済みだし、今なら簡単に人形へ変えられるけど……どう、ひと狩り行っとく?」

 

 またもや2号は、マントの中で剣に手をかけた。

「黒眼(ランスロット)は俺の獲物だ。それに、女の仲間は裏切る(・・・)からな、必要ない。早く話せ」

「裏切る。それには僕も同意見ですね」

 2号の言葉に追従の構えを見せたのは1号。おそらく2人の黒マントは、女性に裏切られた苦い経験があるのだろう。

 ―― 全く君たちは……裏切るのは女性だからじゃなくて、そういう人間だからだよ。

 マモンはそう考えるが、彼らに言っても馬の耳に念仏なのは明らか。話を戻す事にした。

「そうだねぇ。アレが勇者って事はないから……単純に光属性を持ってるとか? でもそれだけで、暗黒魔剣を防げるのか疑問が残るね」

 カラクリは謎だが『暗黒魔剣』は、相手の武具をすり抜け肉体のみを斬り裂く事ができる。つまり普通の武器では、止める事すら叶わないのだ。

 

「ところで、妾たちを何時まで待たせる気じゃ?」

 しっかり盗み聞きしていたのは、唯とアスモデウスだ。というか、勝手に話し出したのはマモンたちなので、その言い方は人聞きが悪い。情報収集は戦いの基本というが、こうも簡単に話されてしまうと、聞く気も失せると言うかなんなのか。

 しかし分かった事があった。彼らが使う『ダークネス』の正体だ。実はダークネスは(本人は暗黒魔法(ダークネス)と言っていた)真魔王レヴィアタン・メルビレイが最も得意としていた魔法だった。その中でも『絶対的な防御(アブソリュート)』には、苦戦を強いられた苦い経験があり、魔王勇闘技(魔技)を作る切っ掛けとなったのは昔の話。

 つまり彼等は、レヴィアタンの魔法を何らかの方法で入手したのだろう。

 

「早くせい」

 いいだけ情報を仕入れた唯は、早く娘の姿を見せよ。そんな体裁をもって、盗み聞きを上手にごまかした。

「くくっ。弱いナンチャラは、よく吠(ほ)えるってね」

 黒マントたちを下がらせたマモンは、軽く唯を煽(あお)ってから指をぺチッと鳴らした。

「下手くそ。煽ってからのそれか」

 と、ハスキーな呟きが聞こえた。

 ぐぬぬぬぬ。

 鳴らさないと駄目なのか、マモンは再度指パッチンに挑戦。

 パチン

「やればできる子、元気な子」

 と少年の声が聞こえた。

 マモンは、微妙な表情をしている。力(ちから)のバランス関係が微妙におかしいトリオ。豊を含むとカルテット。

 

 するとマモンの右隣に、だ円形の黒いモヤモヤとしたモノが現れ、『ビシッ』と気をつけ(・・・・)をして、目を瞑(つぶ)っている赤い髪の女の子が、スウッと浮かび出て来た。

「桜!」

「桜ちゃん!」

 2人を牽制(けんせい)するためなのか、浮かび出た桜の後ろと右側には、黒マントたちがスタンバイOK。左側にはマモンが居るので、鉄壁のトライアングルゾーンに囲まれていた。なので、飛び出す事はできない。

 

「サラリーちゃん!」

 するとマモンを押し退け、花に誘われる蜂のように表へ出てきたのが豊だった。誰が決めたのか、勝手にサラリー親衛隊長を自負する男で、元勇者のスマホ中毒者だ。ちなみに、親衛隊長の申請は出していない。

「触れるな!」

 バシッ

 気をつけをしている桜の手を握(にぎ)ろうと、興奮気味の豊が前かがみになった時だった。パチッと目を開いた桜の裏拳が、彼の鼻っ柱に炸裂(さくれつ)。

「痛っ! くない?」

 豊の顔の前には、厳(いか)つい男の手があった。桜の背後に居た2号が、ワンハンドキャッチで裏拳を防いだのだ。

「勝手な真似をするな。俺は子供だろうと容赦はしない」

 ハスキーな声で、ゴニョゴニョと呟く。

「滑舌(かつぜつ)が悪いのぉ。わらわに触れるな!」

「駄目だよ、サラリーちゃん」

 

 桜は、裏拳を防ぐために屈んだ姿勢の2号の顎に、右踵(かかと)を蹴り上げた。だが、そんな攻撃は朝飯前。とばかりに、あっけなくキャッチされてしまった。

「リリース!」

 豊が、桜の足を放すように2号に命令するのと同時だった

「な、に、を、さらしとんじゃ!」

 唯の声が、豊の声を掻(か)き消したのだ。その声は音の刃(やいば)となって、2号の体を貫いた。かと思えば、怒号は壁に当たり乱反射を繰り返し、ダンジョン内に轟(とどろ)き渡ったのだ。至る所で壁や天井がパラパラと砂を落とし、王城要塞の上で桜たちを見ながら、状況の説明役をしていたランスロットたちの元へも届いた。

 パトリックとパトリシアは、胃が痛くなるような感覚に襲われただけで済んだが、変身が解除していたカリンはその衝撃にビクッとして、少しだけ決壊(おもらし)してしまったのであった。

 

 △△

 

「動くなっ」

 唯の怒号もなんのその。黒マントたちは、助けに飛び出そうとした2人を素早く牽制する。そして、桜の前に素早く立ち塞がる形で動いたのが豊で、その後ろに居た桜は、ビクッと驚いてしまったので、少し恥ずかしそうにうつ向いていた。

 そんな桜に2号は、手は握(にぎ)ったまま足だけ離して話しかけた。

「小娘、おまえは人質だ。下手な動きをしてみろ、こうだ!」

 左手をグーにして親指を立てると、親指で首を斬る仕草を見せつけた。それに恐怖したのか、桜は

「わっ、妾は、人質なのか!?」

 彼女の反応がおかしかった。恐怖で震えた声を出したのではなく、人質と言われて声のトーンが上がったのだ。

「な、何が望みぢゃ?」

「今から見せ物が始まる。あそこに居る女たちの戦いだ。俺は凄く見たい。だから、おとなしくしていろ」

 わくわくしながら訊ねる桜に首をひねりそうになる2号は、望みと言われて、戦いが見たい。と素直に答えた。

「最初は様子見の予定でしたが、アスモデウスがワナに踏み入ったので、急遽出るハメになったのです。望みは、アスモデウスの排除じゃないですか?」

 と、これまた素直に答えたのは、1号だ。

「なっ、なんぢゃと。ママとアスモが試合をするのか!? それは妾も見たい。うむ、人質の件は許可するのぢゃ!」

 許可もなにも既に人質なのだが、桜のペースで話は進む。

 

「桜ちゃん……」

 その会話は当然、唯たちにも筒抜けな訳で……しかし唯は、取りあえず娘が無事&いつも通りなのにほっとしていた。アスモデウスは、1号が口走った『アスモデウスの排除』に触れもせず、さらに逃げられたチャンスを棒にふるどころか、自ら進んで人質になると言いだした桜に怒っていた。無事にこの戦いが終了しても桜には『鬼の百連発式お尻叩(たた)きの刑』が待っている事だろう。

 

 △△

 

 

 

「アスモ、賭け試合でよいか?」

 お互いが本気で戦えば、両方ともに無事では済まない。本来ならば戦う必要は全くなく、桜の姿も目の前なので、うまくスキを付いて救出すれば万々歳だったのだが……自ら人質を宣言した桜のポカで、その難易度は格段に跳ね上がってしまったのだ。

 

「母様ー! アスモー! どちらもがんばれー!」

 楽しそうに2人を応援する当の本人は、プールサイドにありそうなデッキチェアの上に寛ぎ、サイドテーブルに用意された果実ジュースを飲みながら、何かを摘まんでいるではないか。テーブルを挟んだ反対側には、同じく寛いだ様子のマモンも見える。

 そして桜の左側には黒マント2号が、後ろには黒マント1号が、まるでVlPを守るシークレットサービスのように立っていた。

 ちなみにデッキチェアを含む果実ジュース類は、全て桜の要望で豊が準備したものだ。その豐は、用済みとばかりに退場を命じられショックを受ける。そのスキにマモンが入れ替わったため、ここには居ない。

 そして難易度が上がった原因は、高みの見物を決め込むためにマモンが作った、高さ5メートルの観戦席。それも、簡単に進入できない結界まで構築ずみである。

 

「こうなっては仕方がなかろう。賭け試合でよいな?」

「わかりました」

 賭け試合とは、練習試合や立会試合など、数ある試合形式のひとつで、お互いに1級分の熟練度を賭ける試合形式だ。また、身体的な強さが同条件になるようハンデが付けられ、魔力を使う(・・・・・)事は許されない。勝敗は、降参かそれに準じたダメージ量で、自動的に判定される。と同時に、受けたダメージは試合開始前の8割まで回復する。また、お互いの同意と半級分の制裁減値で、試合を終了する事もできる。

「あとの事も、ちゃんと考えているのですね」

 

 桜たちが見おろす15m程先の位置で、唯とアスモデウスは向き合い、片方の拳を合わせていた。

「どちらが上か、魔技を極めるためにも重要な事じゃ」

「そうですね」

 お互いが、目を交差させたまま叫んだ。

「桜!」

「ランスちゃん!」」

 寸分も目を離さず、しかと見て盗め。とでも言わんばかりに。

「「魔王勇闘技、賭け試合!」」

「本条流弐段。本条唯」

「立花流弐段。アスモデウス」

 合わせた拳が太陽のように発光すると、2人を中心とした正方形の大地が一瞬で、真っ白のシーツを広げたようなゴミひとつない場所に変わった。それと同時に、発光が赤色に変わり消えた。

 

 これが、試合開始の合図だ。

 お互の距離は、手を伸ばせば届く位置。その場で足を肩幅に広げると、唐突に始まったのは顎を狙った突きの応酬だった。

 突いて捌(さば)いて突いて受けて突いて捌いて……

 受けて突いて捌(さば)いて突いて受けて突いて……

 目まぐるしく入れ替わる攻守。目で追えないフェイントや崩しなども含まれるが、依然としてどちらの突きも当たっていなかった。

「もっと近くで見たい」

 既に状況説明役も警戒もほっぽり出して、観戦モードに入っていたランスロットの口から、そんな言葉が思わず漏れ出ていた。

「ランスロット殿。ここは私に任せて、行ってください」

 そう告げたパトリックは、ランスロットの背中を押すと

「城の壁(キャッスルウォール)!」

 ナーナを介抱しているパトリシアとカリンもろ共、自分たちを包み隠した。さらに内部を城の盾(キャッスルシールド)で補強する用心ぶりである。

 その壁に向かって

「すまない、ありがとう」

 と告げたランスロットは、より観戦できる近くへと走った。

 

 その頃、広場の奥にある要塞(ようさい)の後ろでは、ゴブリン将軍カクの指示で、救助した仲間たち総勢1000を超える大所帯を、ゴブリン将軍スケに任せて、地下11階へと避難させていた。

 残るのは、ゴブリン将軍カクのみ。実は彼こそが、品川大地(ジェームス)が発明した数々の功績を横取りして、序列1位にのし上がったゴブリン将軍で、ある意味強者(つわもの)だ。

 そんな彼が、どうして1人で残ったのか。それは本人に問わなければわからないが、ゴブリンキングを見限りゼラニオンの仲間に……そんな未来があるのかもしれない。

 

 △△

 

 その場立(ばだち)から突きの応酬で、互いの技量を再確認。体が温まって来たところで、状況が動き出した。

 

 拳を引くと同時に、3歩距離を取ったのはアスモデウスだ。彼女は左足前の半身に構えた。それと同時に唯も距離を取り、右足を前に半身で構えた。

 先に動いたのは唯だ。瞬時にアスモデウスへ到達すると、上段刻み突きからの左逆突きの2連打。アスモデウスは、その刻み突きを左に払い、逆突きを右手で受け止めると同時に、払った左手で唯の目を突き刺した。

 払われた右手で目突きの左手を捕まえた唯は、左腕を引きながら左膝と右肘でアスモデウスの右手首を挟みつぶした。

 アスモデウスは、すぐに左手をひねりながら引き、挟まれるのを防ぐと、唯の顎(あご)にひねりを加えた右掌打を伸ばす。

 が、その右掌打に唯の左突きが激突する。

 バチーンと音が鳴り、2人は一旦距離を取る。

「おー」

「速いな」

「フェイントいくつ?」

 と沸くのは観戦席だ。

「まあまあだね。でも、この程度じゃあねぇ」

 とマモンは、2人を2重の意味で見おろ(みくだ)しながら呟(つぶや)いた。

 

「……7ぢゃな」

 と桜は、固唾(かたず)に混ざった物を飲み込みながら呟(つぶや)いた。彼女はいつの間にか前のめりになっており、地面には、食べていた物が落ちていた。

「10だよ」

 今の攻防で、2人が入れたフェイントの数だ。動き出す前から始まっていた視線やわずかな体重移動などなど、マモンは本当に彼女たちの動きを追えているようだ。もちろん、大正解だ。

「俺は8だった」

「僕も8ですね」

「おっと妾とした事が、数え間違いをしておった。9ぢゃ」

 負けてたまるかー! サバをよんで、虚勢をはった桜ちゃんだ。ちなみにランスロットは7だ。

 

 △△

 

 桜とランスロットに見せつけるように、唯とアスモデウスの戦い方は、基本と応用が混ざっていた。そして、初段までの魔技へとバリエーションが増えていく。

 

 アスモデウスは、風車蹴(かざぐるま)を紙一重でかわされると、断頭(だんとう)に切り替え首を狙うが、逆に背中を取られて垂直落下で投げられる。それを逆立ちの要領で手を突き回避する。

 

 風車蹴とは、下段から上段を回転しながら、ランダムで8回蹴り込む技だ。素早い魔砲の切り替えによって、弱点に合わせた多属性の攻撃も可能だ。また、回数が増えるほど威力が増し、他の技にも変化しやすい。

 断頭とは風車蹴の派生技で、首を膝で挟み、回転してねじ切る技だ。投げ技にも繋げやすいが、挟む位置の関係上、他の急所も狙いやすい。

 垂直落下は、簡単に言うとバックドロッブだ。決まれば終わる大技で、殺傷能力は高い。その反面バレやすく、避ける側も下手に暴れるより、流れに任せた方が避けやすく反撃もしやすい。当然ながら、攻守どちらにも高い技術が要求される。

 

 桜とランスロットは白熱する技の応酬に興奮して、純粋な羨望の目で応援していた。あそこが、将来的にたどり着く場所のひとつだと。桜の傍(かたわ)らに居る黒マントたちは、少しの後悔と共に、嫌な冷や汗を背中に感じていた。

 彼女らは、傍目(はため)から観戦(・・)しているので、どんな技かおおよそ検討できているが、実際に目の前で対処するのは無理である。少なくとも黒マントたちは、その事の重大さを理解していた。

 だが、マモンだけは余裕の態度を崩していなかった。

 

 応援を耳にした2人は、傍目でも体の残像しか見えない速度域までスピードを上げる。骨と骨がぶつかり合う鈍い音と踏み込む振動。決着の時は近かった。

「立花流弐段。地獄闇雷光拳(ヘル・スパーク)!」

 アスモデウスは、黒い雷を拳に纏(まと)い突っ込んだ。

「本条流弐段。紅蓮(ぐれん)・魔神掌!」

 それを迎え撃つのが唯だ。彼女は半身で腰を落とし、受けの姿勢で深紅のオーラを放ちつつ、腰の捻りで必殺技を放った。

 

 アスモデウスと唯の必殺技が、真正面から激突。威力は互角なのか相殺。お互いの黒い雷と深紅のオーラが、嘘のように消え去ってしまった。 

 その時、観戦者の誰もが感じていた。まるで、写真のように止まって見えると

「からの……」

 その切り取ったような絵画の中に、動く人物が居た。

 全力で突っ込んだアスモデウスと、それを受けて尚、後ろ足に力(深紅のオーラ)をためていた唯。勝者は、余力を残していた方だ。

 

 バネが圧迫されて、その全てを解放する瞬間のように、その力は右拳に送られた。

「本条流初段。紅蓮!」

 腰の位置からアスモデウスの顎目掛けて、少し不格好なアッパーカット気味の掌打が放たれた。

 それがこの賭け試合、最後の攻撃となったのだ。

 

 

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