※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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ゼラニオンの戦いはこれからだ!

 

 

 あれから2日後。

 冒険者の協力を得られた王国兵士たちによって、大規模な救出作戦が始まった。その範囲は、セナドゥースとサラデインに挟まれた広大なエリアで、蟻の子1匹も見逃さないほど丁寧に行われた。その結果、数多くの人族が救助されたのだ。

 当然よいニュースばかりではなく白骨化や無残な死体など、そんな悲しいニュースも数多く報告されていた。

 

 ゴブリンの脅威が薄くなったとは言え、数多くの魔物が蔓延(はびこ)るこのエリアで、大規模な作戦が最小限の被害と短い期間で大成功の幕を下ろしたのには訳がある。

 それは、準備期間に当てていた作戦の前日。

 チームゼラニオンや可憐(かれん)ウィッチの2人、それにパトリックとナーナやキャロラインイグナスを操るジェームスとイノゾミラで、魔物の掃討作戦があったからだ。

「もっと早くやっていれば……」

 誰が口走ったのかは分からないが、遅くもなかったのだ。たられば(・・・・)を言ってはならない。

 

 大規模な作戦から10日ほど過ぎた現在。

 陽二を除いたチームゼラニオンとパトリシアたち7名は、ゴブリンからの情報を元に、大森林シノフィール周辺の森へ残党ゴブリンの捜索&退治に出かけていた。それと同時に、各町の周辺や結界路沿いの調査や見回りも行われていた。この発案者はアスモデウスで、桜やパトリックたちへの修練や経験も兼ねていた。『魔技強化合宿中(アスモキャンプ)』ほどではないが、朝から晩までその内容は濃い。なので彼らと再会するその時には、ひと皮もふた皮も剥けているだろう。

 

 では、残された陽二は何をしていたのか?

 彼はベテラン探索者イノゾミラの手を借り、セナドゥースとサラデインの間に、結界路を設置する仕事を任されていた。さらに彼は人魚姫パールたちを助っ人に呼び、海の中にも結界路を設置する案を出した。そのお陰で当初の予定より短期間で、広範囲を囲むことに成功していた。そんな予定外の案を支えたのは、大量の資材を滞りなく運搬した、ジェームスとキャロライン・イグナスのお陰でもある。

 それと

「今回の結界路は、繋ぐだけが目的なので5倍は早く作れますよ」

 イノゾミラの言葉通り、おおよそ20kmの距離をたった8日で完成にこぎつけた。今回設置した結界路は、魔石の破壊も結界の発生もない形だけのモノだが、依頼者の意図的にはそれで十分なのだ。

 

「よっしゃー、終わったぁ!」

「陽ちん! ごほうびのチューをして、なの!」

 ザッバーンと彼に飛び付いたのは人魚姫パールで、その周囲では金色の人魚たちが、設置完了の喜びと彼からのご褒美に期待しつつジャンプしていた。

「だからチューとかは駄目だって!」

「陽ちん殿! ワシは切ないけぇ」

「ヴァイオレットは、おとなしくしてなきゃ駄目!」

 彼らが居る場所は、セナドゥースとサラデインのちょうど中間地点にある浜辺である。砂浜もそこそこ広く海も遠浅で、遊ぶにはもってこいの場所だ。また、休憩に適した日陰も多く、目の前の海を眺めながら、のんびり寛ぐのにも最適なロケーションである。

 

 そんな日陰に喉を潤しながら座っているのは、現場監督のイノゾミラと運搬係のジェームスだ。相棒のキャロラインは、木の葉をモシャモシャとリラックスモードで、恐怖を感じさせないように配慮し、人を運ぶインド像みたいな装飾が施されている。その頭上でクルクル遊んでいるタンポポの綿毛みたいな光は、イノゾミラの契約精霊のシンクだ。

「イノゾミラ殿、お疲れさまでござる」

「ジェームス君こそお疲れさま。キャロラインちゃんもねっ! 最初見たときは驚きましたけど、慣れてしまうとかわいいですね。シンクもあんなに懐いちゃって」

「そうでござろう。まあ、僕にシンク殿は見えませんが」

「うーん。私は仕事の関係で、ファイヤーイグナスと戦闘になる事もあるんですけど、これは戦いづらくなりますね……」

 

 そう呟いたイノゾミラは、前を見る

「くらえーバックドロップだぁ!」

「キャー!」

「マゼンタ姉様!!」

「ぷはっ。びっくりした! でも、面白かった!」

「陽ちん、陽ちん。パールにもやって、なの」

「後悔するなよパール。テーズ式バックドロップをお見舞いしてやるぜ」

 海の中では、彼と人魚たちが楽しそうに遊んでいた。今日で設置が完了すると分かっていたので、設置に携わった人魚全員にも集まってもらっていたのだ。

 

「しかし陽二くんには、びっくりされっぱなしですね」

 誰に向かって口を開いたのか、彼を目で追うイノゾミラは、ふと、ランスロットが地下31階まで迎えに来た場面を思い返す。あの時彼女は、1人で迎えに来たのだと今なら分かる。そして彼は、そんな実力者たちと親しい間柄だと驚いた。と思えば、海中に結界路を設置するのに呼んだ助っ人が、人魚姫たちだった。

 これまたイノゾミラは、度肝を抜かれたのだ。

 

 そしてあの日、イノゾミラはとある場所に居た。

 

 △△

 

 ―― ここは、どこなのでしょうか? 

 気付けば彼女は、見覚えがあるようなないような、そんな岸壁の近くに立っていた。先まで行けば、海面に延ばした煌めく光とともに地平線の彼方へ沈みゆく、真っ赤な太陽が見えるだろう。そして、岸壁の真下ではさざ波が優しく岩を包み、吹き上げて来る潮風は心地よいはずだ。

 何故か彼女は、そう、理解できた。そして気付く。その風景に、岸壁の先端で佇む2人の男女に。

 聞こえるはずがないのに。だけどその2人の声は、彼女の元へクリアに響いたのだ。

 

「俺の一生を、君に捧(ささ)げる」

「私の全てを、あなたに捧げます」

 ―― プ、プロポーズですか? 

「愛してる」

「私も愛してます」

 彼女の目は、キスをする2人にくぎ付けだ。

 ―― ううう、うらやましいです。バリソンさんとお付き合い出来ていたら、今頃きっと私も彼らと同じだったのに。

 そんな妄想を抱く彼女の真横を、肩を寄せあった2人が通り過ぎていったのだ。

 ―― いつの間に……えっ!? ど、どういう事ですか?

 通り過ぎて行ったのは、少年の顔を残しながらも精悍(せいかん)な顔つきをした陽二と、全ての幸せを手に入れたような表情を浮かべるイノゾミラだった。

 そして、その2人を祝福するかのように後を追うのが、精霊のシンクだった。

 

 △△

 

 あの日、留守番の陽二と監視役のイノゾミラは、探索者の施設を掃除していたのだが、いつの間にか眠っていた。

 夢にびっくりして目を覚ました彼女は、彼の腕まくらに包まれていた。そして、彼に抱きついていた自身に気づき、あわてて跳び起きたのだ。

 それでも彼は、ぐぅーぐぅーとイビキをかいて眠っていた。取り急ぎ自身の衣服を確認したものの、そういう事(・・・・・)の心配は、なかったみたいなのでひと安心する。

 

「こ、この状況は、何なのでしょうか……」

 全く記憶にない。覚えているのは、掃除の途中休憩に彼と談笑をしているところまでで、ぶっつり途切れたようにしっくりしなかった。そして目覚めてからずっとなのだが、溢れ落ちる涙と胸を突く痛みが止まらなかった。

「これは、なに?」

 そこへ『バンッ!』と扉を開けて登場したのが、ランスロットだ。その後ろに、この施設へ行くと事前に伝えていた唯が居たので、彼女はすぐ、迎えに来たのだと察したのだが……

「唯さん?」

 眠っていたせいで時間感覚にズレを生じていた彼女は、まだ寝惚けているのか、疑問系になってしまった。

「泣いておるのか?」

 そのひと言で彼女は、ハッと我に返ったのだ。この状況は、誤解されてしまうと

「違うんです。誤解です」

 彼女のあわてふためく姿に、要領を得ないランスロットは

「なんだ、目にゴミでも入ったのか? ふふ。陽二がさぞ私に会いたがっていただろうからな、迎えに来たのだ」

 と、さも当たり前のように流れる動きで、彼の腕まくらポジションへ添い寝を狙う。

「そ、そうでした。目にゴミが」

 その行動に救われた形となった彼女は、パンッと頬を叩きあふれ出る感情を静める。ゴシゴシ。そして、脳内で素早く状況を整理。自身の事は、当然後回しである。

 ―― どれくらい眠っていたのか分かりませんが……

「終わったのですか?」

「うむ無事終わった。監視ご苦労じゃったのう」

「はい」

「ランス何をしておる! さっさと起こすのじゃ」

 

 あの日からイノゾミラは眠りから覚めると、決まって涙が溢れ出し、胸が苦しくなっていた。その事を陽二に尋ねようと魔物の掃討作戦にも参加したのだが……結局言えずじまいで今に至っていた。

「夢の話をされても困りますよね……」

「夢? 僕の夢は、いつかキャロラインと、この世界を旅したいでござるよ」

 ―― 声に出ていたのですか?

「ええっと、元の世界には帰らないのですか?」

「キャロラインを残して帰れないでござる」

 ジェームスこと品川大地は、桜ひきいる研究チームの一員になった。主にゼラガイオーの武器開発を手伝っている。火薬みたいな石、その製造方法を発見した彼だが、現代兵器っぽいものは世界のバランスを大きく崩す要因となりうるらしく、桜と相談して開発していく構えだ。

 そう言えば話は変わるが、彼はサラデインの宿屋務めの女性に告白するも、見事に玉砕した。残念ならがその女性は既婚者で、お子さんも居たのだ。だが彼は、落ち込んだ様子を見せるどころか晴れたような笑顔で

「その笑窪は幸せの証、どうかお幸せに。それが、僕とジェームスの願いです」と、言ったのだ。

 だがしかし、女性には伝えていない。

 

 △△

 

「陽二さーん!」

 浜辺に元気な声が響く。その声の主は、馬車から身をのり出して手を振る『黒狼の星屑』の看板娘リンメルだ。陽二は彼女に、本日行う打ち上げバーベキュー大会の食材を頼んでいたのだ。

 その馬車に同席しているのが、なんとか支え付きで歩ける程度にまで回復できた、ハヅキとその家族。

「「せーの、ミラおねいちゃーん!」」

「フミちゃん! ナガちゃん!」

 フミちゃんとは、ハヅキの兄のフミツキ。ナガちゃんが、妹のナガツキだ。

 先日セナドゥースの実家に里帰りしたイノゾミラは、その場でハヅキたち家族と初対面していた。そして兄姉を亡くして落ち込んでいた2人は、新しいお姉ちゃんができた事をとても喜び、イノゾミラに懐いていた。それはイノゾミラも同じ気持ちであり、実の弟妹のように、ハヅキともども可愛がっている。

 

 そして最後の同席者が、セナドゥースの領主であり、イノゾミラの父親であるイノ・エスペナインだ。彼には今回の結界路設置でも色々とお世話になっており、その手腕は、現在ハヅキたち家族が住んでいた洞窟、その周囲に開発中のゴブリンの村でも振るわれている。そしてその手助けをしているのが、ハヅキの両親だ。

 魔物が現れるので危険?

 それは大丈夫だ。救出作戦前日に行われたゼラニオンたちの掃討活動と、その後の王国兵士や冒険者の捜索と細かな巡回のお陰で、トウロウとメッサーバッタの生息する草原以外の魔物は徹底的に討伐されており、保全活動も行われている。

 ではなぜ、草原は除外されたのか? 草原は、正確にはヨシ原っぽい場所だが、あそこは資源の宝庫なのだ。それと、固有種であるトウロウの保護目的もそのひとつだ。

 そのトウロウたちだが、魔王のダンジョンへ引っ越しが決定している。棲み分けと保護が目的であり、捕食対象のメッサーバッタはセットとして、草原に生息する全ての生物種が対象だ。ちなみにそれが可能になったのは、今回の結界路が設置されたからだ。

 とは言えトウロウ以外は株分けの意図が強く、草原に生えるヨシっぽい植物と肉に近い食感を持つメッサーバッタの脚は、ゴブリン村の特産品になると期待されている。また、近くの森では魔茸などの資源が豊富に採取できる。なので当分の間、ゴブリンたちが生活に困る事はないだろう。

 そして、セナドゥース近くまで続く荒野には、緑化計画が出されている。将来的には緑豊かな場所に変わっていくだろう。

 

「ミラ姉、お疲れさまでした」

「ありがとうハヅキちゃん。だいぶ元気になってきましたね」

 そしてハヅキは、完治したらイノゾミラの所属する『青紫軍』に入る事が決まっている。今回の出来事を重く見たイノゾミラが、彼女を鍛えるため強引に勧誘したのだ。なので、断りきれない彼女は悩んでおり、その事を慕う唯に相談したいと思っていた。

 そしてイノゾミラだが、彼女はあと数日でセンダイへ帰る事になっており、カリンも一緒だ。これはカリンの希望で、探索者の仕事を手伝いたいと、イノゾミラに直訴したのだ。

 

 △△

 

「陽二さん。遊んでないで手伝うっす!」

「なんだい子猫ちゃん。耳を触ってほしいのかい?」

「やっぱり私の体目当てっすか!?」

 陽二とリンメルは、そんな冗談を交わしながら荷物をおろしていた。

「ガナット君とガナシャは来られないって?」

「仕事もありますし、突然呼ばれても無理っすよ。まあ私は、儲かって観光もできましたからラッキーっすけど」

「じゃあ昨日は、セナドゥースに泊まったの?」

「はい! 領主さまのお屋敷っす。ご飯はおいしいしベッドはふかふかで、埋もれて窒息するかと思ったっす。市場は新鮮な魚介類が豊富で、とっても楽しかったっすよ。あっ! そう言えば本当に魚とかは必要なかったんすか? スノームやシノフィール産の野菜しか用意してないっすけど」

「リンメルの仕事は、それで十分だよ」

「陽ちーん! 獲ってきたよ!」

 そしてタイミング良く、浜辺から声が届く。

「ほらっリンメル。アレを見てよ」

「げっ、納得っす」

 人魚たちの手には、ピチピチと活きの良いお魚や甲殻類が。そして彼は、取り出して見せる。

「まだグリンズリーの肉が、山ほど残ってるから」

「まだあるんすか? ヤバイっす、思い出したら口の中におつゆが……」

 

 先日おすそ分けとして、リンメルにもグリンズリーの肉を渡していた。それでも大倉庫の中には、売れるほど残っているのだ。

「そうだ! 遊びに行くついでに、ガナシャやガナットにもお土産として持って行こう」

「太っ腹っすね。売れば大金持ちっすよ?」

「それは気が引けるし……。あっ、リンメルもまた持っていく?」

 流石の彼でも、人魚の厚意で頂戴した肉を、転売するほど愚かではないようだ。

「そんな陽二さんにシビれるっすよ! それはそれで陽二さん、アレは何っすか?」

 目線の先には、キャロラインが居た。リンメル以外の人たちは何度も会っているので害のないことを知っているが、装飾を施して外見の恐怖を誤魔化しているとはいえ、流石に巨大なイグナス種である。初めて見た彼女が、驚くのは当然だろう。

「今頃? キャロラインはおとなしいから大丈夫だよ。あそこに座っているのがジェームス(大地)くんで、彼の相棒だよ」

 

 ついでなので彼は、リンメルを連れてイノゾミラの周囲に集まって談笑してる輪の中へ。ちなみにリンメルは、一応仕事(・・・・)で来ているのであって、決してハブられていたのではない。

「初めましてリンメルさん。ミラって呼んでくださいね」

「ジェームスでござる。こっちは、キャロラインでござるよ」

「キャロラインちゃん……かっこいいっすねっ!」

 リンメルは少しも怖がっていなかった。むしろ、キャロラインに興味津々の様子。

「キャロは女の子でござるよ?」

「愛らしさもあるっすね!」

 ―― えっ!? キャロラインって女の子だったのかよ……

 

 △△

 

 バーベキューの下準備も終わり、そろそろ約束の時間だ。

 パールたち人魚は、人魚の休息場(マーメイドエリア)の上で日なたぼっこ中。

 イノゾミラは、子どもたちとキャロラインのすべり台で遊んでいた。それを見ながら話をしているのは、ハヅキと両親と領主イノだ。

 ジェームスとリンメルは、キャロラインの話で盛り上がっており、なかなかの雰囲気である。

 そして陽二は、浜辺に1人座っているヴァイオレットの元へ

「海に入っちゃ駄目だからね?」

「陽ちん殿。分かっておるけぇ」

 ヴァイオレットは、ハラマキを着けていた。隣に座った彼は、その上に手を当てて会話を続ける。

「調子はどう? 気持ち悪いとか、ない?」

「大丈夫じゃ。久しぶりで、少し怖いだけじゃけぇ」

 彼女は、少しぽっこりしていた。

 何が? お腹である。 

 

 実はセイレーンに進化しているヴァイオレットだけが、着床10日程でこのようなお腹になっていた。人魚姫パールや仲間たちでも未知になるセイレーンの妊娠。なので彼は取りあえず、お腹だけは冷やさないように、注意させていたのだ。

 それを訊いた人魚のお姉さまたちは『大丈夫だってぇ!』と全く心配する素振りを見せておらず、彼1人だけが空回りしているような感じであるが……

「陽ちん殿がチューしてくれたら、勇気百倍じゃけぇ」

 チラッ

「ヴァイオレットずるい! それなら私たちだって」

 チラッチラッ

 ―― やぶ蛇だったな……

「無事に出産できたら、ご褒美に何かしら考えておくよ。じゃあ俺は、ちょっと用事を済ませてくるから」

 

 大魔人がこの場に居ないとは言え、下手な約束事は死を意味するに近い。そそくさと茶を濁すように逃げ出した彼は、馬車のうしろに隠れて仲間の腕輪(ゼラ・ブレスレット)で通信だ。

 形だけだが結界路の設置が完了したここは『結界路の中』になる。なので、大森林シノフィール近くの結界路内で待機している桜たちと、やり取りが可能なのだ。

「こちら陽二。作戦完了しました! どうぞ」

 ―― あれ? 全く応答がないけど。設置ミスったか?

「陽二!」

「ん?」 

 振り向くとそこには、ランスロットとアスモデウスが居た。

「転移してきたんですか? 応答がないので、ミスったかと思って焦りましたよ」

 

「私は、早く陽二に会いたかったのだ!」

 そう言うのは、ランスロットだ。彼とチームゼラニオンは別行動だったため、彼女と話すのは実に数日ぶりだった。

「久しぶりだな。みんなが待ってるから、今日は頼むな」

 本日のバーベキュー将軍を、桜を通して2人に要請していたのだ。

「ああ、胃も心もガッチリ私のものにしてやろう」

 

「陽二くんお久しぶりですね。練習はどうですか?」

 と声をかけたのはアスモデウスだ。別行動が決まった時点で彼女は、特別練習メニューを彼に課していたのである。それは『魔技強化合宿(アスモキャンプ)』に向けての練習メニューで、合宿に着いていけるだけの体力作りがメインだ。

「アスモさん、今日はよろしくお願いします」

「任せてください。ガッチリ掴(つか)んで見せます!」

 彼女は両拳をグッと、体の前で握る仕草と共に宣誓。その姿はがっちりアスモーだ。

「いえ、別に勝負とかじゃないので、力まないでください」

 以前までは、ランスロットに手だし(・・・)させなかったアスモデウスだが、最近は2人で作ることが多いとか。

 

「アーちんとランちん、キター!」

 2人の姿に気付いた人魚たちも、大手をふって出迎える。そして人魚界を代表して、挨拶に来たのがヴァイオレットだ。

「ずいぶん大きくなったな。その、なんだ……大丈夫か?」

「ランちん殿、心配ご無用じゃけぇ」

「大きくなられましたねぇ。ふふ。これは待ち遠しいですね」

 ランスロットには少し、複雑な感情が入り交じっているとはいえ、アスモデウスと同じく新しい命の誕生を心待ちにしていた。

「それではランスちゃん。始めましょうか」

「ああ」

 

 △△

 

 そして

「ナーナ!」

 と現れたのは、火の精霊ナーナだ。

「お兄ちゃん来たよ」

「あら陽二。冴(さ)えない顔は相変わらずね」

 一緒に転移してきたのは、妹のパトリシアと口の悪いカリンだ。

「愛しの妹よ。会いたかったぞ!」

 彼は、目に入れる勢いでパトリシアに飛びつく。しかしながら避けられてしまった。

「えっ!? どうして避けるの?」

 勢い余って砂浜にダイビングを披露した彼は、ペッペッと砂を吐きながら言う。

「だってぇ恥ずかしいし。あと、ちょっと気持ち悪かった? みたいな」

「な、なんですと?」

 

 パトリシアの言葉は、彼のハートをヤリのように貫いたのだ。ショックを受けた彼は、その矛先をカリンに向けた。その姿はまるで、犯人を推理した名探偵だ。

「カリンが! 余計な事を! 吹きこんだんだ!」

「ええっ私!? って変な言い掛かりはやめてよね。大方シアは、自分で気づいたんじゃないの? なら、それは褒めるべきであって、負け犬の遠吠えは見苦しいわよ?」

「な、なんだとコラッ!」

「あっ、ミラさーん。お久しぶりです」

「あっ逃げんなよ!」

 彼の制止を『話すだけ無駄だわ』とガン無視を決め込んだカリンは、イノゾミラのもとへ駆けだした。それを苦虫を噛み潰したような表情で見送った彼は、ぐうの音もでなかった。

 

「ナーナ!」

 そんな彼に、ビシッとした敬礼で帰還報告を済ませたのが、火の精霊ナーナだ。その姿に彼は、後光の光を見たのだ。まさに最後の良心と言っても過言ではない。パトリシアが離れつつある今、ナーナに魔の手が忍び寄る。

 ―― 癒されるよ、その笑顔に。もしかして、ナーナが妹だったのか!?

「ナーナもお疲れさま」

 冗談はさて置き。

 パトリシアとカリンも桜たちに同行していたので、会うのは久しぶりだった。なので、パトリシアも恥ずかしかったのだろう。彼は、そう解釈した。ちなみにそのパトリシアは、ナーナと精霊契約を交わしたようだ。彼との契約が破棄かれた訳ではないが、今後ナーナは、パトリシアと行動する機会が多くなる。

 

「じゃあシアは、ランスさんのお手伝いに行くね」

「ナーナ」

 同行の際に何かあったのか、変態(ノーパン)の誤解や偏見が溶けたパトリシアは、ランスロットとだいぶ仲良くなっていた。最近は、料理を教わっているとか。そしてランスロットの姿を見付けたリンメルも、パトリシアと共に手伝いを始めていた。モテ期到来の予感か?

 そして残ったナーナは、リンメルの持って来た食材の中に、シノフィール産のグリーングローブを発見したのか、おいしそうに頬張っていた。

 

 そして真打ちの登場だ。

「ご苦労ぢゃったな」

「1人だけ遅かったな。それで、そっちは終わったのか?」

 あれから桜は、また成長していた。それは、ひとつに結んだ赤い髪の毛が物語る。しかしながら身長は誤差、おっぱいは予想通り。つまり、髪の毛以外はそのままの幼女である。

「うむ。今回の件に関与したゴブリンは、もうおらんぢゃろう。そのついでに相当な数の魔物も退治したし、地形もおおよそ調査済みぢゃ。まあ、ソラマンとセンダイを探索者どもが繋げた後の話になるが、1年以内にはケリがつくぢゃろうて」

 現在の結界路は、上から見るとペンタグラム。つまり5芒星(ぼうせい)に似た☆(星マーク)の形になっている。

 イノゾミラも所属する探索者たちが、センダイとソラマンを繋いだあと、次の段階として☆の角と角を結界路で繋ぎ、ペンタゴン(5角形)を目指す。その結果、人族が安全に暮らせる面積は、2倍ほどに広がるだろう。

「別に待たなくても、始めちゃえばいいんじゃないか?」

 以前、そう陽二が尋ねたところ『人と亜人の間で結ばれた約束事』なので、そういう訳にもいかないようだ。

 

「そう言えばリックは?」

「あやつは人を転移させる能力はあっても、自身を転移させる事はできぬらしい。その前に、王宮へ報告に戻ると言うておったのでな、もとから不参加ぢゃ。忙(せわ)しい奴ぢゃ」

「まあ、王子で勇者だし、仕方ないか……。って事は、とうとう合宿が始まるんだな?」

「まあそうぢゃな。陽二にはまだキツかろう。断るなら今のうちぢゃぞ?」

「まあ、やれるだけ頑張ってみるよ。それで唯さんは?」

 桜は、力なく首を振る。

 陽二を迎えに来た唯はその翌朝には姿を消してしまい、1度も戻って来ていなかった。ただし行方不明という訳ではなく、会おうと思えば会うことは可能だ。

 サラデインとフジヤマの間に聳え立つ山脈、そのどこかに司と共に唯が居る。当然、桜やアスモデウスは場所を特定している。

 

 司は発見したのだが、彼は結界の中に眠っており、現状では触れる事すら叶わない。あらゆる方法を唯は試したが、結界を解除するには至らず八方塞がり状態。そのため唯は、そこにとどまり策を考えているのだ。

『魔技強化合宿』の前半は、唯と司の場所に出向き、そこで行う事になっている。それと同時にスノームの研究者たちを引き連れ、結界の調査も予定している。

 桜としばらくそんな話をしていると、みんなの騒ぐ声とともに、香ばしいにおいが彼の元に届いた。

 

「ランちん最高! おいしい!」

 と、ヴァイオレットの周囲に集まる人魚たちが、ランスロットを褒めれば

「アスモさんの料理は心に染みるっす。ぜひ、作り方を教えてほしいっす」

 食堂にはアスモデウスの料理が合うのか、リンメルは彼女の料理に舌鼓を打っていた。

「リンメル殿が作ったこの海鮮スープも、温まるでござるよ!」

「そ、そうですか……お口にあってなによりっす」

 チラッ、チラッと何やら熱い目差しで、リンメルはジェームスを見つめていた。恋の予感か!?

 その横で、はふはふと肉を頬張るフミちゃんとナガちゃんを、愛おしい目で見守っているのが、イノゾミラとカリンで

 ハヅキは母である卯月に寄りそい、父親と領主イノと話している。

 パトリシアは、ランスロットとアスモデウスの手際を、後ろから観察しており、ナーナはその隣でモグモグ。

 もう始まっているようだ。

 

「陽二、桜!」

「桜ちゃん、陽二くん」

 ランスロットとアスモデウスが呼んでいる。

「行くか、陽二」

「ああ、行こう。とりあえず今日は、楽しもうぜ」

 

 

 ―― 第1部 完 ――

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