※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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カリンの魔法とパトリシア

 

 陽二は、カリンに魔法を見せてもらうため、王宮のグラウンドまで戻って来た。

 

「カリンは、どれくらいの魔法が使えるの?」

「私は、水属性魔法のレベル2まで使えるわ」

 

 レベル2までと言われても、陽二には、それがどの程度のレベルなのか検討もつかない。ゲーム感覚で考えると、初心者レベルであろうが……しかし、カリンの語気から強いものを感じるのも確か。

 

 ―――― なら、レベル2でも『普通ではない』と考えたほうがいいのかなぁ?

 

「見習いなのに? それとも、それが普通なの?」

「ふふん! 私は特別(エリート)なのよ! 甘く見ない事ね!」

 

 普通の魔法師見習い(まほうつかい)は、スキルとして『属性魔法』を覚えるまでは、魔法を使うことはできない。ただし、生まれつきスキルを持っている人や、偶然スキルを発現させた人などの例外は、当然ある。

 

 通常は『見習い』が外れるレベル10になったとき、属性かスキルとしての魔法を覚える事がある。しかしその確率はとても低く、覚えることのできなかった魔法師は、諦めて転職する人が多い。

 カリンは、生まれつきスキル(水魔法)と水属性を持っていた稀な存在。そしてレベル10になったとき、2つ目の属性かスキルを覚えるチャンスがある。

 

 ちなみに属性とは、スキルではなく『その魔法に適した性質』。威力の向上や魔力の節約などに効果があり、その属性を持っているだけで、レベル10の節目以外でも魔法(スキル)を得る可能性がある。

 魔法を覚えると、『水魔法』や『火魔法』などとスキル欄に表示され、その属性の魔法が使えるようになる。

 

 魔法を得ると、レベル1の魔法の中から攻撃・防御・支援系の詠唱と呪文を覚える。

 魔法は、使用頻度(ひんど)によって、詠唱の短縮・威力や魔力の向上、そして次のレベルの魔法修得につながる。

 

(正確には熟練度。しかし、ステータスで熟練度を確認する事ができないため、知られていない)

 

「もしかしてだけど……スキルを覚えるまで、見習いを何度も繰り返せばいいんじゃないの?」

 

 陽二はふと、覚えなかったら転職して、もう一度、魔法師見習いのレベル1からやり直せばいいんじゃない? と考えたのだ。

 

「残念ながら、そう簡単にはいかないの。一度その職業で上げたレベルは、転職を繰り返しても下がる事はないのよ」

 

 ―――― ズルみたいなやり直しは、できないって事なのか……そうだ! ついでに魔法師(まほうつかい)の事を聞いておこう

 

 

 ●魔法師《まほうつかい》

 属性魔法を覚える初級の職業。体力や力が低い代わりに、魔力(MP)が多く回復も早い。

 魔物を倒さなくても、魔法の勉強と練習によってレベルを9まで上げる事ができる。

 さまざまな場所で、収入を得る事ができる安定した職業。

 上級職は魔術師。

 複属性の魔法を扱える人は少なく、ほとんどの人はひとつの属性魔法しか扱えない。

 

「カリン、教えてくれてありがとう。それじゃあ、魔法を見せてもらってもいい?」

「いいわよ、まずはレベル1の魔法ね」

 

 そう言ったカリンは、以前見せたアクアニードルから順番に使って、陽二に披露した。

 

 ・水針の攻撃(アクアニードル)(または、水の攻撃)

 棒状の水で攻撃する魔法。基本の大きさは大人の指くらいだが、応用次第で大きさは変化し、岩をも貫通する威力が出る。

 

 ・水壁(アクアシールド)(水の壁)

 任意の場所に、水の壁を出せる。形状を自在に操る事が可能で、設置型と、術者と行動を共にする移動型がある。物理攻撃には弱いが、勢いを削ぐ効果はある。水の粘度を上げる事も可能。

 

 ・水の癒法(アクアヒール)

 小さなケガの回復。(HPで考えると、ひと桁のダメージ)

 

「次は、レベル2の魔法ね」

 

 ・水塊の攻撃(アクアボール)

 拳大の水の塊で攻撃。物理的にもダメージは大きく、魔力の力で威力は増幅されている。弱い魔物なら1撃で倒せるほど有効である。

 

 ・水塊の大攻撃(アクアカノン)

 大きなアクアボールが、小さなアクアボールをまき散らす攻撃。上手く扱えば、1ヶ所を狙った攻撃も可能。基本、範囲攻撃になるので、状況の見極めが大事な危険な魔法である。

 

「もう、魔力が厳しいわね……」

「カリンの魔力(MP)ってどれ位あるの?」

 

 肩で息をするほど疲れたカリンが、ぼちぼち限界みたいな感じで告げてきた。それを聞いた陽二は、自分とカリンの魔力量を比較してみようと口を開いた。

 

「私は、120よ」

 

 陽二のMPは2000オーバーである。もしやと思っていたが、改めてぶっ飛んだ魔力量なのだと確認した。

 

「あまり無理しないでね。少し休もうか」

 

 ――――だいたい(・・・・)予想通りだったな……

 

 映画の体験で魔法の練習をしていた陽二は、実物を見せてもらい違いを確かめていたようだ。

 その後休憩もかねて、カリンとベンチに座っていた陽二は、空を見上げていた。空は明るさを残しつつも、日が落ち始め星の光が見え始めていた。

 

 ―――― こっちの世界にも、見慣れた太陽と月がある……ここはやっぱり、地球なのかなぁ……? まあ今は、どうでもいいか。

 

 

「ごめんねカリン。だいぶ無理をさせたみたいで」

「別に構わないわ。その代わり夕食は期待してるわよ? 当然デザートもね!」

 

「もちろん好きなだけ食べていいよ。とても参考になったしね。あとは……調合とかも教わりたかったけど、店の人は調合も鍛冶もしないって言ってたしね」

「陽二は何を目指しているのかしら? パトリック様に勇者を譲ったって聞いたけど……そもそも職業って譲れるものなのかしら」

 

「まあ終わった事は良いじゃない。どうせ戦えないヘタレなんだし、パトリック王子なら立派な勇者になるよ」

「ふふ、そうね。あっ陽二! もしかしたらだけど……王宮の書館に調合や鍛冶の本が置いてあるかも」

 

「図書館があるの? そうか!本って手があったか。グッジョブカリン。王様に聞いてみよう」

「置いてあるか、わからないわよ?」

 

「可能性はあるんじゃない? それに調合だけじゃなくて、いろいろと調べ物もできるし」

 

 その時、陽二の耳に、怒りを含んだ声が聞こえた

 

「見つけた! おまえのせいで……おまえのせいだ! 死ね異世界人!火塊の攻撃(ファイボール)ダブル!」

「きゃあ!」

「カリン!? おわっ」

 

 陽二とカリンの足元に、燃えさかる火の塊が着弾して破裂した。その衝撃で、2人は吹っ飛ばされる。陽二はすぐさま体の姿勢を立て直し、地面に倒れるカリンに駆け寄った。

 

「カリン!?」

 

 カリンは気絶しているようで、グッタリとしていた。魔力を消耗していたのでなおさらだ。さらに破裂した火が素足に当たってしまったようで、大きい火傷(やけど)の様になっていた。

 

「くそ、水(ギフト)! 火の療法(ファイヒール)!」

 

 治療目的で、陽二は咄嗟に魔法を唱えるも、全く効果がないようだ! 

 

 ―――― クソッ!焦って集中できない! 

 

 そして憤る目を、火の塊が飛んできた方へ向けると……見覚えのある顔が

 

「お、おまえ……何て事しやがる!」

 

 陽二が目を向けた瞬間、パトリシアはカリンに目を見開いていたが、陽二の声で視線が合うと、鬼のような形相で睨(にら)み付けてきた

 

「おまえのせいだ! おまえのせいで!」

 

 陽二の耳にパトリシアの言葉は届かなかったが、突き刺すように向けられた指と目から、その憤怒が自分に向けられていると理解した。そして、パトリシアの口元が良からぬ気配で動いているのを察知。

 

 ―――― や、やばい。あいつ、また撃ってくる気だ。狙われているのは……俺、だよな。カリンの事は心配だけど……このままじゃ巻きこまれちまう

 

「ちっ、おい! クソガキこっちだ」

 

 陽二は立ち上がると、カリンから遠ざかる様にダッシュ

 

「火塊の大攻撃(ファイカノン)!」

 

 その陽二に向けて、パトリシアの魔法が放たれた! 巨大な火の塊が、小さな火の塊をまき散らしながら迫ってくる。

 

 ―――― マジかよ……こんな場所でなんちゅー魔法を使いやがるんだよ! 

 

 ダッシュして移動しているにも関わらず、どこまで逃げても追ってきそうな勢いだ。その時、頭が、体が、唇が、咄嗟(とっさ)に叫んだ

 

「押しつぶせー、水壁(アクアシールド)!」

 

 すると、カリンが見せた水壁(アクアシールド)の3倍はあろうかと思われる水の壁が出現して、パトリシアの火塊の大攻撃(ファイカノン)と衝突、そのまま飲み込んだ。

 

 地面には大きな水たまりができて、大量の水が一気に蒸発。周囲は、瞬く間に水蒸気で包まれた。

 

 ―――― 咄嗟(とっさ)の出来事だったけど、うまく発動してくれて良かった……まあ、大きさは想定外だったけど……カリンに感謝!

 

 さらに陽二は、ゼライェローが、映画の中で剣にまとわせた水魔法を思い浮かべ、叫んだ

 

「俺を守れ、水壁(アクアシールド)!」

 

 すると、直径2メートル・厚さ10㎝、球体形の水壁(アクアシールド)が陽二の体を包みこんだ。

 

 ダッ!

 

 そして陽二は、立ちのぼる湯気の中を、最短距離でパトリシアに走り出す。その陽二に向かってパトリシアは、何度も火の針(ファイニードル)やファイボールの魔法を唱えるが『水壁(シールド)!』と魔法を唱えて、中から水壁(アクアシールド)を補強している陽二には届かない

 

 ジュッ ジュワッジュワッ

 

 ―――― “魔力の差”なのか分からないけど……全く負ける気がしないゼ!

 

 視界のMPが100単位で減少しているので、そのお陰なのかもしれないが、そんな事を気にしている場合ではない。陽二は、パトリシアに肉薄すると、伸ばしていた腕を捕まえ中に引きずり込んだ

 

「おい、おまえ、何してんだよ!」

 

 暴れながら、陽二に捕まれた手を、振りほどこうとしているパトリシアは叫(さけ)んだ

 

「おまえのせいで、お兄様が、シアを置いて出て行った! おまえが、おまえが勇者を押し付けたから……押し付けたから出て行ったんだ!!」

 

 パトリシアはさらに暴れ、陽二を睨む瞳から、大粒の涙をまき散らしながら叫んだ

 

「おまえら異世界人は、お母様を、シアから奪った! 今度は、お兄様まで奪う気か! 返せ! お母様とお兄様を返せ!!」 

 

 そう叫んだパトリシアは『キッ』と陽二の目に力強く視線を向けた。

 

 その顔を、涙を流しながら必死に訴えるパトリシアの言葉を耳にした陽二は、一瞬、時が止まった様に感じた。

 

「おまえら異世界人は、みんな出て行けぇー!」

 

 叫(さけ)び終わったパトリシアは、そのままペタンとしゃがみこみ、大声で泣き出してしまった。

 

「出ていけぇー、っ出てけぇー」

 

 陽二は、掴んでいたパトリシアの腕を、いつの間にか離していたようだ。その小さな腕は、陽二の足や地面を、泣きながら何度も何度も打ちつけている。

 陽二の足は、ちっとも痛くない。だが、頭をハンマーで殴られたような感じと共に、心がチクチクと痛んだ。

 

 

 ―――― そう言えば、この世界に来てから自分に都合の良い事ばっかり考えて、この世界に住んでる人の事なんて、これっぽっちも考えた事なんてなかったな……

 

 

 実際、陽二にも余裕がなかった、と言うのもあったかのもしれない。そして、おとぎ話の中にでも居るような……この世界の人たちを、ゲームのキャラクターでも見ているかの様な……そんな気持ちがなかった、と言えばウソになるだろう。

 

 パトリシアは、異世界人に母親を奪われたと、パトリックを奪われたと叫ぶ。

 

 陽二が、パトリックに勇者を渡したのは間違いない事実。

 王様の思惑がどうであれ、パトリシアから見たら、陽二がパトリックに勇者を押し付けたのだ。

 そして理由は分からないが、母親も異世界人に奪われている。

 1度ならず2度までも、肉親がパトリシアの前から去って行ったのだ。

 パトリックはレベル上げに行っただけなのだが、パトリシアから見た景色は違うのだろう。もう帰ってこないと思っているのだ。

 

 陽二は、パトリシアの言葉で浮ついた気持ちが消えて、今この瞬間は、おとぎ話の中ではなく……現実だと再確認した。

 

 陽二は、暴れるパトリシアを抱きしめて、口を開いた。

 

「パトリシア。リックに勇者を押し付けてごめん。俺、自分の事しか考えてなかったよ。リックは今朝、勇者のレベル上げに行ったんだ。パトリシアを置いて出て行った訳じゃないんだ!」

「………」

 

 腕の中で逃げ出そうと暴れていたパトリシア、だんだんとおとなしくなっていく

 

「王様から聞いたんだけど、リックはみんなを守れる勇者になりたいんだって。俺だったらそんなこと考えずに、勇者の力で好き勝手にやってたと思うんだ。リックは本当にすごいと思うよ。押し付けたのは本当に悪いと思う。だけど……勇者にはリックが相応(ふさわ)しい!」

「……」

 

 陽二は黙ったままのパトリシアをのぞき込む

 

「パトリシア?」

 

 パトリシアの涙は止まっていた。そして目を見開き大声を上げた『おまえに言われなくても……分かってる!』そう言って陽二の腕の中に崩れ落ちたのだ。

 

 

 △△△

 

 

 どうやらパトリシアは、魔法の使いすぎで気絶してしまったようだ。なにはともあれ、外傷の無いパトリシアよりも心配事のある陽二は、パトリシアを抱っこしたままカリンの元へ走った。

 

「カリン、大丈夫……?」

 

 カリンの火傷(・・)は相当ひどい。陽二は、火の療法(ファイヒール)を唱えた。―――― しかし、表情は和らいで来てはいるが……火傷には全く効果がないように見える。

 

「くそ、カリン! 目を覚ましてくれ。パトリシア! 助けてくれ」

 

 しかし2人ともビクともしない。

 

 ―――― なんで回復しないんだ? 細菌とか感染症とかも心配だ……

 

「水の療法(アクアヒール)!」

 

 ―――― だめだ、回復しない……

 

「……あ」

 

 陽二の腕の中、目を開けたパトリシアの唇がわずかに動いた。『えっ何?』 陽二は唇に耳を寄せた。

 

「……あ…あいて……の…こ………ことを…あ…いするくら…か…かみ…かん…んしゃし……して」

 

 限界なのか、パトリシアは目を閉じてしまった。力を振りしぼって、何かを伝えようとしていたようだ。

 

 ―――― ああいてのことをあいするくら?

「相手のことを愛するくらい!」

 

 ―――― かかみかんんしゃして

「神に感謝して!」

 

 ―――― つまり……相手のことを愛するくらい考えて、神に感謝……お願いか! 

 

 陽二は、2人を並べて寝かせた。そして、愛くるしい顔で笑うカリンと、パトリシアを思い浮かべる。当然けがなど全くしていない。元気いっぱいだ!

 

「火の神様。水の神様。どうか私のお願いを聞いてください。ここにいる2人のけがを、悪いところ全てを元通りにしてください。一生感謝します。ですから、なにとぞお願いします。癒やしを恵(めぐみ)を祝福を!」

 

 ひと呼吸置いた陽二は、神に願うように自分の言葉で魔法を唱えた

 

「火の神(癒やし)と水の神(恵み)の祝福(ヒール)を!」

 

 するとどうだろう、後方から不思議な感覚がして、魔法を後押ししてくれた気がしたのだ。

 

 2人をドーム状の光が包み込み、だんだんと小さくなって消えていった。『明らかに今までのヒールとは違う』と、陽二にも実感できたのだった。

 カリンの火傷を確認すると、きれいさっぱり消えていた。さらに小さなすり傷等もきれいに消えて、2人の顔色もみるみる良くなっていた

 

「「う、んー、んんー」」

 

 何事もなかったかの様に、カリンとパトリシアは目を覚まして背伸びをした。まるで8時間くらい睡眠を取って、ちょうど良い頃合いに起きた感じに

 

「「おはよう!」」

 

 パトリシアまでが満面の笑みで……

 

「おい! 俺の心配と努力を返して!?」

「冗談よ。陽二……助けてくれてありがとう」

 

 とカリンが言えば

 

「シアはあのままでも平気だった。余計なお世話……でも、異世界人をちょっとだけ見直した」

 

 とお褒めの言葉をいただいた陽二は、“少しでも心を開いてくれたのならうれしい”と、2人を抱きしめた。

 

「カリン、本当に無事でよかった。あと、巻き込んでごめんな。それとシア、心細かったら俺に言え。リックが帰ってくるまで、シアの兄ちゃんになってやる」

 

 バスン

 

 パトリシアのかわいらしいパンチが陽二の鳩尾(みぞおち)にすっぽりとおさまった。

 

「うごっ!?」

「異世界人が、お兄様の代わりになれるわけがない!」

 

 鳩パンしたパトリシアは、顔を真っ赤にして怒っていたが

 

「ま、まあ? 付き人くらいにならしてあげるわ!」

「意外ね。よかったわね陽二」

 

 と、少し歩み寄ってくれたパトリシアと、カリンのやや驚き混じりの言葉に、陽二はため息をついた

 

「何でもいいよ。シアが、異世界人の事を嫌いなのも分からない事もないし。まあ、何でも言ってくれ」

「う、うん……」

 

 バン! 

 

 ―――― うっ、また鳩尾(みぞおち)に……

 

「気安くシアって呼ぶな、この駄馬!」

 

 

 この騒ぎで人が集まり大変だったが、カリンとパトリシアの演習と言う事にすると、さほど問題にならなかったのだった。

 

 

 △△△

 

 

 ここは、王宮の近くにあるファミリーレストラン。テーブルを挟んだ陽二の目の前で、2人の美少女がパフェを食べていた。

 

 左側の女の子は、カリン=レットイル 

 王子の婚約者候補で魔法師見習い(まほうつかい)

 レベル2の水魔法を使いこなすソラマン領主の娘。

 間違いなくエリートである。

 

 右側の女の子は、パトリシア=クルシュナイン 

 この国の王女さまで、同じく魔法師見習(まほうつかい)

 最低でも火魔法のレベル2まで使いこなす黒髪ツインテールの12歳。身長は、135センチと小柄。

 小さいお口で食べる姿は、小動物みたいで、とてもかわいらしい。 

 カリンと同じく、生まれながらに魔法(スキル)を所持していた才能のある女の子。

 

 そのパトリシアが、なぜか涙を流しながら食べている。陽二が訳を聞いても、どこかうわの空なのか、食べる口は動かすが言葉を発しない。

 

 ―――― 気長に待つか……

 

 

 △△△

 

 

 パトリシア襲撃事件から騒ぎが落ち着いたあと、陽二とカリンは、約束していたお店の話をしていた。その話を隣で聞いていたパトリシアは、陽二の服を引っ張った。

 

「なに?」

「異世界人、おまえ、何でも言えって……。シア、わ、私も連れていけ!」

 

「ん? いいよ。一緒に行こうか」

「え、いいの? シアも……私も言っていいの?」

 

「いいに決まってるじゃないか! あっ、今度から俺の事を異世界人じゃなくて、陽二って呼ぶならいいよ。お兄ちゃんも可な! むしろ推奨」

「わ、わかったよ。陽二……お、お兄ちゃん」

 

 ―――― うおー!? これは破壊力抜群だ! よし、もう一歩踏み込んでみよう

 

「俺もシアって呼ぶけどいいか? パトリシアは長い!」

 

 ―――― だめか? 鳩尾(みぞおち)パンチか?

 

「ま、まあ。長くて呼びにくいのであれば仕方ないわ! 特別よ。今日はしっかりエスコートすること! わかった?……お、お兄ちゃん?」

「ご褒美か!? い、いや何でもない。分かってるよ、王様にシアも連れて行くって話をして来るから、待っててよ」

 

 △△

 

 パトリシアとご飯を食べに行く事を伝えに部屋を訪れると、王ダグリオスは泣いていた。

 

「どうしたんですか? タンスの角に小指でもぶつけました?」

「いや、何でもない。シアとカリンが演習を行ったと聞いたが……本当か?」

 

 ダグリオスは興奮しているのか、陽二の肩を掴(つか)み体を前後に揺さぶってきた。

 

 ―――― まあ、ダグには本当の事を話すべきだよな

 

 と考えた陽二は、事の顛末を話した。それを聞いた王様は、済まなそうな顔のあと、驚きに喜びをプラスした表情で

 

「そうか……シアには済まないことをしたな……陽二も済まなかった」

 

 と陽二に謝罪した。どうやら、パトリックがレベル上げに出た事を、シアに伝えていなかったらしい

 

「シアが自ら王宮の外に出て、感情をあらわにして言葉を発するとは……陽二! 頼まれてくれんか?」

 

 ひと呼吸置いて、ダグリオスは陽二に告げた

 

「シアを、パトリシアを……少しの間で良い。娘のそばに居てやってくれぬか?」

 

 と言い陽二の体を揺すりまくる。

 

「わ、分かったからやめて!」

「頼んだぞ!」

 

 ダグリオスの表情は真剣そのものだ。ならば男として、陽二も応えるべきだと判断した

 

「訳が分からないけど……シアはかわいい妹になったし、逆にご褒美だ!」

 

 当然、願ったりかなったりなので、答えは決まっているのだが。その前にパトリシアとも約束しているのだ。ダグリオスが近付くなと言っても妹にするし、妹最高!

 

「シアだと!? 許さんぞ、娘はやらんぞ!」

「ダグ、勘違いだ! 妹だと言っただろう? あと、なるべくそばに居るから書館に入る許可をくれ」

 

「書館に入る許可など、初めからいらんわ!」

 

 本来王宮の書館は、簡単な受け付けで誰でも入れる場所なのだ。

 

「陽二、娘を頼むぞ。困ったことがあったら何でも言え」

「分かりました」

 

 そのあと陽二は、ダグリオスから昔の話を聞かされた。

 

 パトリシアが7歳の頃、セナドゥースとサラデインの間にある森で、大量の魔物が発生して結界路の近くでも目撃されるようになった。

 森は結界路と海に挟まれていて、数を減らさないと隣接するセナドゥースとサラデインの町に押し寄せる事になってしまう。

 

 結界路がある、とは言え、何かが起こる前に対処しなければならない。幸いにも当時の森は広かったが、森に住む魔物の多くはそこまで脅威ではなかった。

 

 対魔物の武器を多く持っている冒険者たちは、セナドゥース側から森に入り、誘い出して魔物を討伐。 

 

 近接武器の少ない王国兵士は、東の結界路の中から、近づく魔物を魔弾砲(パレット)で討伐していた。

 

 数を減らすのが目的なので、無理に森の奥まで入る必要はなく、少しでも危険を減らすため慎重に魔物討伐は行われていた。

 

 作戦は順調に進んでいる。誰もがそう思っていた。

 

 最初の異変は悲鳴(ひめい)にも似た魔物の叫(さけ)び声だった。その次は大地を揺らす程の地響き

 

「な、なんだ?」

 

 どんどん地響きも強くなり、森の木々がバサバサと木の葉をまき散らしながら王国兵士のいる森の東に向かって近づくいてきた。 

 

 ギヒャーやピギューなどの声と共に、まるで何かから逃げるように大量の魔物が飛び出してきた。

 

 その流れが魔物大行進(カオス・マーチ)を引き起こした。

 この状態になった魔物は、止まる事なく気が狂った様に走り回る。

 その魔物の群れが、体を引き裂かれても、焼かれてもお構いなしに結界路へと突っ込んで来た。

 

 一部の結界が、飛びこんだ魔物の処理に追いつかず魔力切れを起こしてしまった。

 結果、結界路内に魔物たちの進入を許してしまった。

 

 王国兵士や冒険者たちは、すぐさま結界路内の魔物を討伐し鎮圧(ちんあつ)すべく力を尽くした。

 

 結界路も修復され、一応の終息を見たかに思えた……しかし、冒険者や兵士たちが近くの村で発見したのは、応戦空(むな)しく殺されてしまった村人や女兵士。

 

 村人を守るために、逃げずに戦ったのだろう。無残な姿で発見され、誰が誰だか判別すらできなかった……

 その正体は、鎧(よろい)の王妃親衛隊の紋章から、視察に訪れる予定であった王妃(・・)たちであると判別された。

 

 その後、結界路を維持していた鉱山都市スノームの技術者に非難が集中した。技術者は異世界人だったのだ。

 

 この事件は、最悪の事態を想定して、準備を怠った全ての人に責任がある。しかし、幼かったパトリシアの中では、異世界人(・・・・)のせいで母親が奪われたと思ったのだ。

 

 王妃は、普通の人だった。

 特別に美しいとか武術や魔法に長(た)けていた訳でもなく、町中にいる普通の人。

 それでも国中の誰もが王妃を愛し、また、王妃も国中の全てを愛していた。

 その中でも特に溺愛(できあい)を捧(ささ)げたのが、ひとり娘のパトリシア。

 

 パトリシアも当然のごとく王妃を愛し、誰から見ても理想の母娘(おやこ)だった。

 

 パトリシアがとても大好きで楽しみにしていたのは、王妃と2人で行う王宮花壇の手入れ。

 季節ごとに種をまき、花を育てる。

 誰にも邪魔をさせない。たとえ、王様やパトリックでもだ。

 

 2人だけの特別な時間。忙しい王妃を独占できる至福の時間。

 パトリシアを見つめる笑顔が堪(たま)らなく大好きだった

 

 パトリシアは、とても明るく誰とでも良く話す母親似で笑顔の絶えない子供だったとダグリオスは言う。

 

 あの日パトリシアは、突然の悲報に泣けなかった……

 

 感情を見せなくなったパトリシアは、食事の量も減り、母親の面影がある兄にべったりとくっつき離れなくなった。

 自分から話しかける事もなくなり、王宮から一歩も外に出なくなった。

 

 △△

 

 感情を見せなくなったパトリシアが、鬼の様な顔をしながら何かを探してさまよい歩く……か細く呟(つぶや)きながら

「また奪うのか? 異世界人め……殺す!」

 外から声がする。見つけた! パトリシアはその声がする方に走った。

 

 パトリシアは気付いていないが、走るのも外に出るのも実に5年ぶりだった。

 

 グラウンドの向こうに花壇が(・・・)見えた……パトリシアは叫(さけ)んだ

 

「見つけた! おまえのせいで……おまえのせいだ! 死ね異世界人!」

 

 パトリシアは、5年ぶりに大声を発したのだ

 

 △△

 

「なあ、シア……本当にどうしたんだ? 泣く程においしいの?」

「お兄ちゃん……おいしいの……おいしいから涙が……」

 

 もう声にもならないパトリシア。だが、口に運ぶ手だけは止まらない

 

 これは父ダグリオスや兄パトリックでさえ知らない事だが、あの日失ったのは、母親だけではなかった。ショックのあまり、味覚さえも失っていたのだ……

 

 パトリシアは泣いた。あの日、泣けなかった分まで……味覚が戻ったのは、母親の死を受け入れ始めた瞬間だったのかもしれない。

 

 そのあと陽二は、泣き疲れて眠ってしまったパトリシアを抱っこして、カリンと王宮に戻った。今から宿を探すのもアレという事で、そのまま王宮に泊まる事になった。

 

 右側の建物が主に男性用。左側が女性や地位の高い人用になっている。この国に貴族とかはおらず、王族や大臣なども威張っている訳でもない。あくまで国民主体のフレンドリーな王政を敷いている。

 

 くだんの書館は、右側の建物の1階にあった。中の書物は建物(・・)から持ち出すことはできない。

 

 陽二は、パトリシアを部屋まで送ると、ダグリオスにあいさつをして、カリンと共に書館に移動した。

 カリンは魔法の本を見ている。陽二は、調合と錬金の本を探し始めて気がついた。

 

「字が読めねぇ……」

 

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