※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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調合/王都の外へ/邂逅

 

 文字を理解できなければ、本の内容が全く分からず話にならない。という訳で陽二は、なるべく挿絵が多い本をカリンと探して貸りると、そのまま解散して部屋へ戻った。

 

 ―――― 挿絵を見れば、少しでも理解できないかなぁと思ったけど……全くわからんな。これは、文字を覚えた方が早いか?

 

 ベッドの上で寝そべり、ペラペラと本をめくっていた陽二は、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 コンコン、コンコン……

 

 ドンドン、ドンドン……

 

 バーン!!

 

 翌朝。

 本の内容がいまいち理解できず、なくなく白旗を上げて降参した陽二は

『お兄ちゃん。おはよう!』

 の声で目を覚ました。

 パトリシアが、わざわざ部屋まで起こしに来てくれたのだ。

 

 ―――― そう言えば……

 

 と、起こしに来てくれたのを嬉しく思いながら、『シアの事を頼む』と王ダグリオスに言われたのが頭を過った。

 

 ―――― それにしても……妹が起こしに来るなんて、最高じゃないか!

 

 陽二は、もそもそとベッドから起き上がった。

 

 △△

 

「シアってさぁ、文字の読み書きできる?」

「できるよ!」

 

 と言うわけで、パトリシアに調合の本を読んでもらうためにイスを2つ並べ始めた陽二だが

 

 どうしてこうなった!?

 

 イスではなく陽二のひざの上に座り、本を読み始めたパトリシア。楽しいらしく、足をぶらぶら揺らしている。その度、履き物の踵(かかと)が、陽二の脛(すね)に当たって痛いのだが

 

 ――――痛いけど、心地いい痛みや!

 

 陽二はついでに、この国の学習事情を尋ねてみた。

 

 

 この国では、文字の読み書きと四足計算を子供たちに教えている。早い子供で5歳、遅い子でも15歳までに学習塾や小さな学校に通って習える。

 

 まちまちなのは、家庭の事情があるから。

 

 そのため15歳までに暇を見つけて、自由に登校して習えるシステムとなっている。“義務教育”ではないが、授業料は無料だし、必要な用具も国が全て負担してくれるので、学ばなければ損なのだ。

 

 パトリシアは立場上、先生を王宮に招き教わっていたのだが、習い始めた矢先、あの事件が起きてしまった。そのため、パトリシアの心身状態を考慮して中断されていた。

 しかしパトリシアは、部屋に閉じ込もって居るあいだ、魔法と文字の勉強を独自でしていたのだ。

 そのおかげで、特殊な文字以外は難なく読み書きできる。

 そして驚く事に、魔法師見習い(まほうつかい)レベル5で、火魔法はレベル3まで使える。レベル3で覚える魔法は『ダブル』。

 

 ●ダブル

 同じ魔法を2回連続で行使するプロセス(詠唱+呪文+発動×2)を(1回+ダブル)に短縮できる。ただし、連続で行使するよりも魔力を多く消費する。

 

 パトリシアは母親が亡くなってから、あまり眠れなくなった。そこで、倒れるまで魔法を使って強引に眠っていたと言う。

 その結果『いつの間にかレベルが上がっていた』と陽二に語った。

 しかし、この行為はとても危険であり、下手をすれば死んでいた可能性もあった。パトリシアは、たまたま運が良かっただけなのだ。

 

 そして昨晩は、久しぶりにゆっくりと眠る事ができ、スッキリと目覚めた事がうれしくなって、部屋を訪れたと話した。

 

 ―――― 良かったな、シア!

 

 間違いなく昨日の出来事が、パトリシアに良い影響を与えたのは明白である。

 この話を聞いていた陽二は心から喜び、パトリシアの頭を無意識に撫で回していた。

 

 △△

 

「その学習塾って、俺も通うことができる?」

「うん、大丈夫だよ。じゃあ、シアも一緒に行く!」

 

 風(通訳)があるとは言え、文字が理解できなければ生活に困る。当然、誰でも考える事であり、陽二たち異世界人にも教わる権利があるのだ。

 と教えてくれたパトリシアだが、実は彼女、計算が全くできない。なので、陽二が行くと言うなら一緒に通いたいと考えての言葉だ。

 

 パトリシアの立場上、陽二と通えるのか心配だったが、ダグリオスに相談すると光の速さでOKが出た。

 そのとき笑顔で話す父娘の、本当にうれしそうな表情や空気が、陽二の心を温めたのだった。

 

 △△

 

 王宮から歩いて10分くらいの距離。商店街の中にある学習塾に通うことにした陽二。幸いな事に、初日でだいたい理解できてしまった。と言うのも、一般に使われる文字体系が平仮名に似ていて、ある程度数の文字を覚えてしまえば、読むことはできた。

 なので今は、必要な単語を頭に叩き込んでいる最中だ。

 

 

「お兄ちゃ~ん! いっくよ~」

「おはようシア。今日も頑張りますか」

 

 朝食のあと、パトリシアが陽二を迎えに来て一緒に出発する。今日で、通うのも7日目。この光景も日課となっていたが、陽二は正直、登校する意味は薄れていた。

 文字は書けないけど、ある程度の文字は読めて、意味を理解できるようになっていたのだ。

 なので陽二は、パトリシアが勉強をしている隣で、特別に借りてきた調合の本を読んでいる。

 

 ―――― だいたい理解できたから、そろそろ実際に試してみるか

 

 昼食の時間。

 王宮に戻って食べるのも可能だが、2日目からはパトリシアの要望で、商店街を食べ歩いていた。

 

「今日は、お兄ちゃんが何を食べるか決めて」

「どうしようかなぁ」

 

 この商店街にある食べ物は、ラーメンやカレーなど、元世界の食べ物が溢(あふ)れている。先に訪れた異世界人により広められた料理だ。この国独特の食べ物も当然ある。しかし、異世界人の広めた料理が衝撃的だったのか、地元の料理の店よりも多い状況なのだ。―――― 当然、そのままではなく独自の進化もしているだろうが

 

 

「ちょっと用事があるから、今日は協会の食堂で食べようか」

「うん! お兄ちゃんとならどこでも大丈夫だよ!」

 

 すっかり慣れた商店街を出て少し歩くと、協会の建物が見える。陽二たちは中へ入ると、まずは併設してある食堂で注文を済ませる。

 

「すみませーん! オーブタ定食2人前お願いします」

「はいよ、銅貨10枚だ」

 

 そして陽二は、パトリシアを席に待たせて協会の受付へ。

 

「モガさん、こんにちは」

「こんにちは。陽二君だったよね、見習いの依頼を受けに来たのかな?」

 

「いえ、違います。今ちょっと語学の勉強中でして……終わったら受けに来ます」

「そうかそうか。語学も大事だしな、暇なときに来ればいい」

 

「今日は素材を買いに来たんですけど……なければ依頼を出したいと思います」

「何が欲しいのかね?」

 

「薬草と緑茸(みどりたけ)。それと魔茸(またけ)が欲しいのですが」

 

 これは、本に書いてあった基本的な回復薬とMP回復薬の材料だ。調合のやり方(レシピ)は色々あって、味や色、液体にするか団子にするかで、材料が変わる。

 この材料だと、効果の低い回復薬やMP回復薬が作れる。

 

「薬草と緑茸は、古い物ならたくさんあるね。魔茸は、取り寄せになるかな。明日には届くよ」

「いくらですか?」

 

「薬草と緑茸は古いし、まとめて買ってくれるなら半値でいいよ。魔茸は1つ銅貨50枚。薬草と緑茸は、セットで銅貨1枚になるね」

 

 ―――― 魔茸高いな! 薬草と緑茸は、通常銅貨1枚ってことか。この前、薬屋で見た回復薬が銅貨5枚だったから……調合料が銅貨3枚ってことか……

 

「それじゃあ、薬草セットを20。魔茸を10個お願いします」

「そんなに買ってくれるのならオマケしようかね。 在庫の25セット全部持っていきなさい」

「マジすか!? ありがとうございまーす!」

 

 お礼を伝えた陽二は、銀貨5枚と銀札2枚を支払い、素材を収納スペースへ入れた。

 

「魔茸は、明日の朝には届いてるからね。それ以降ならいつで取りに来ていいよ」

「わかりました。では明日」

 

 馬車や人を使っての運送業者もあるが、王都周辺の町は転移門でつながっていて、朝になると大量の品物が行き交う。そのため、注文からほぼ1日で各町に届ける事が可能になっている。

 

「お兄ちゃ~ん、できたって! 運んでよ~」

 

 おろおろしながら、陽二を呼ぶパトリシアの姿。それがかわいくて、つい笑みがこぼれた。

 

「何を買ったの?」

「薬草と緑茸をね。調合と錬金の練習をしようと思ってさ」

 

「お兄ちゃんって調合師なの? 魔法師かと思ってたけど……」

「違うけど、練習するのは自由じゃない?」

「そうだね。ご飯おいしいね。お兄ちゃん!」

 

 パトリシアは、あまり気にしない女の子のようだ。十分に食事を堪能した陽二たちは、午後の授業を受けるため協会を後にした。

 

 △△

 

「ちょっと、外に行ってくるね」

 

 午後の授業が始まる前、パトリシアを学習塾に送った陽二は、手に入れた素材で調合を試したいと考え、人の目の少ない王都の外へ出る。

 外と言っても外壁がある訳ではなく、だんだんと民家が少なくなり、結界路を跨(また)ぐと“一応町の外”となるのだが、結界路の形状を知らない陽二にとっては、境界線など有って無いようなものであった。

 がしかし、町の外まで出るのは初めての経験なので、その顔には緊張の色が見えた。

 

 ―――― 田んぼの向こう側が見えない。本当にすごい景色だなぁ

 

 町の外には、広大な水田や畑が、地平線の向こうまで広がっている。所々に、竹林や小さな林も確認できるが、こんな景色生まれて初めてだ。

 陽二は、少なからず感動した。

 そして目線を近くに向けると、田植えが始まるのか、その準備をしている人たちも確認できた。

 

 ―――― どっか座る所ないかな……

 

 作業をしている人の邪魔にならないような場所を首尾よく発見した陽二は、腰を下ろすと、職業をスマホで錬金調合術師に変更。

 素材を手に取ると、調合の勉強をある程度したからなのか、頭の中に調合後の結果として、完成品の姿が浮かぶ。

 

 ―――― 取りあえず、1回試してみようか

 

 調合セット(混ぜる器、すりつぶす棒、水)を使って、混ぜ合わせてから瓶にぶち込む。

 本来は、この作業が調合にあたる。

 調合(スキル)が使えるのならば、素材を混ぜ合わせることなく、瓶に直接ぶち込んでも良い。ただし調合師見習いは、この基本手順を省くことは許されない。

 あとは瓶を放置しておけば勝手になじんで完成するのだが……これでできるのなら調合師はいらない。見習いは、たいてい失敗するようだ。

 成功すると、調合師の経験値を得ることができる。

 レベルが10まで上がると、見習いから卒業して『調合』のスキルを覚える。品質は最低レベルなものの、これで、成功率はグンと跳ね上がるのだ。

 ちなみに、素材の勉強や品物の販売、道具の手入れなどでも経験値を得ることができる。

 

「調合!」

 

 陽二は一応、本の説明どおりにやってみたが『調合』は発動しなかった。錬金調合術師のMPは『ー』になっているので、職業を“異世界人”に変更してみる。すると、さっきまで頭に浮かんでいた完成品の姿は消えてしまった。

 

「調合!」

 

 今度は、瓶の中に入れていた素材が、きれいに溶けあい薄緑の液体に変化した。回復薬の完成だ。

 ちなみに、瓶と水を用意しなかったら団子状のモノになる。

 

 これが“錬金”だと、ガラス瓶の素材と水を用意するのが必要になるが、入れ物も同時に作ることができる。

 それならば錬金の方が優秀じゃないか? と思えるが、品質や味、その後の再利用できる幅などに差があるため、どちらがどうとは言えない。

 

 ―――― よし、完成。やっぱり、職業は関係なかったな

 

 MPを確認すると、異世界人のMPは『最大値の6』のまま減っていない。

 

 ―――― て事は、本に書いてあったのは間違い? でもなぁ……

 

 本には『調合とは、魔力を使う一種の魔法(・・)である』と書いてあったのだ。しかし、異世界人のMPは減らなかったので、それは間違いだったと言うことになるのだが……

 

 ―――― 錬金調合術師は『-』だったからな……念のため

 

 そう考えた陽二は、職業を魔法術師に変更して、もう一度調合を試した。すると、MPは10減少。

 

 ―――― 減ったな……と言うことはやっぱり魔法だ。呼称発動も使えたし確定だと思うけど……どうして異世界人のMPは減らなかったんだろうか?

 

 陽二は本を読んだとき、魔法(・・)なら、違う職業でも呼称発動(・・・・)のスキルで、調合できるのではないか?と予想していた。

 確かにMPは減ったし、調合も使えた。なので、調合も魔法であると確認できたのだが、職業が異世界人の時は減らなかった。この矛盾を説明する事ができない

 

 ―――― 異世界人は、MPの減らないチート職業?

 

 と仮定して、町の中へ戻った。

 

 △△

 

 翌日。

 パトリシアを学習塾へ送り届けた陽二は、魔茸を受けとるためそのまま協会へ向かった。

 

「陽二君。レッドグローブもついでに取り寄せたんだけど……買わないかい?」

 

 ⚫レッドグローブ

 原産地シノフィール。ブドウみたいな姿をした深紅の果物。

 ひと房(ふさ)に30粒程の実をつける。

 1粒食べるだけで、高い魔力の回復効果がある。栽培物は、緑色でグリーングローブと呼ばれる。

 

「あっ、本に載ってました。確か……とても貴重な素材だって」

「知り合いが見つけたんだがの……高値で買い手が見つからなくてねぇ……どうだい?」

 

「値段にもよりますが……」

「そうだねぇ……数えたら32粒あったんだよ。それで、2粒オマケの銀貨30枚でどうだい?」

 

「た、高い……でもたしか、房から取らなければ、何年も鮮度が落ちないんですよね?」

「その通り。このままでも回復に使えるし、調合すれば、最低でも倍以上になるよ」

「買った!」

 

 タヌキの皮算用ではないが、調合(つかいみち)のある自分なら、損にはならないだろうと考えた。

 

 △△

 

 そのまま町の外に出て、薬草・緑茸・魔茸の3つで調合の実験。

 

「調合!」

 

 この素材の組み合わせの場合、低品質のMP回復薬が作れる。人により品質は上下するが、だいたい10~100回復する。

 ちなみに、調合(スキル)は獲得できていない。もしかしたら……と言う気持ちがあった陽二だが、調合師見習いになってレベルを上げるのは必須なのだろう。

 陽二は、調合の練習で作った回復薬を協会で売却して小金を稼いだ。

 

 △△

 

 パトリシアの元へ戻り、午前の勉強が終わったので商店街に出る。

 

「お兄ちゃん。お昼を食べたら道具屋さんに行こうよ」

「何か買いたい物でもあるの?」

「ないしょ」

 

 今日はラーメンにした。オーブタの出汁(だし)がおいしい豚骨ラーメンだ

 

「これもおいしいな!」

「おいしいね。お兄ちゃん」

 

 オーブタのチャーシューがぶ厚くて、ステーキと勘違いしてしまうほどで、野菜も豊富。良質な背油が、これでもかと食欲を掻き立てる。

 パンと麺があると言うことは、どこかで小麦も栽培されているのだろう。

 

 満足した陽二たちは、道具屋に向かった。

 

 

「シア。何を買うの?」

「えっとね……これ!」

 

「花の種か……そうだ、一緒に植えようか」

「本当!? シア、お兄ちゃんと一緒に植えたい!」

 

「ほほー。この陽二様と植えたいと? ならば、我が48の必殺技の一つをお披露目しよう!」

「すごいお兄ちゃん! 48こもあるの?」

 

 

 疑うことの知らない無垢な少女に、冗談を言っていた陽二。その時『はいはい』の呆れ声と手をたたく音に振り向くと……

 カリンが現れた! カリンはいきなり襲いかかってきた!

 

「陽二あんたねぇ……何をくっだらない事ばかり言ってるのよ。パトリシア様を騙(だま)さないの!」

 

 カリンの言葉にはトゲが含まれていた! 陽二は3のダメージを受けた!

 

 

「あたりキツくない? それと、場を和ませるためのジョークよ? イッツジョーク」

「シアは騙(だま)されてなんかない! お兄ちゃんとシアの、あまあまトークの邪魔をするな!」

 

 パトリシアの回復魔法! 陽二は3回復した!

 

 カリンは、呆れたように『懐かれたものねぇ……』と呟くと

『まぁ、いい傾向ね。そんな陽二に、話があるんだけど』と話をふってきた

 

「んっ、何?」

「話? シアも一緒に聞く!」

 

 パトリシアに聞かれるとまずい話なのか、ちょっとだけカリンは考える仕草を見せると『あっ、私急いでるんだった! 今夜、陽二の部屋に行くからその時に話すわ。じゃあ!』と逃げ出してしまった。

 

「あ、ちょっと待ってよカリン」

「そうだ、陽二!」

 

 ピタッと急停止したカリンは、振り向くと遠くから叫んだ『苗を買った方が早いわよ!』

 

 ―――― おっおう。そりゃあ苗を買った方が早いね……

 

 そう叫ぶと、カリンは一目散に行ってしまったので、パトリシアと一緒に花の苗(厳密には咲いている)をたくさん買って、王宮の花壇に運んでもらうように依頼、ついでに種も買った。

 

 学習塾に戻ると、パトリシアの勉強を見る。

 

「わり算やってるんだね」

「うん、もうすぐ終わりだよ」

 

 パトリシアの学力は、かなり向上していた。あとは、計算を解く数の問題だろうか。それなら自習という形で、通う必要もあまりないのではないか? 通学を止めようと考えていた陽二は、パトリシアに尋ねる。

 

「俺はもう止めようと思うけど、シアはどうする?」

「お兄ちゃんと一緒に居たい。最近はどっか行っちゃうし……」

 

「そうか、ごめんね。じゃあ今日までにして、明日からは王宮で勉強しよっか?」

「うん。わかった!」

 

 お礼を伝え学習塾を出た陽二とパトリシアは、王ダグリオスに報告。それから花壇へ足を向けた。

 

「俺は詳しくないからさぁ、教えてくれる?」

「簡単だよ、まずは草を抜いてね……」

 

 48の必殺技はどこへやら。2人で雑草を抜いて肥料を足してかき混ぜて――――そして苗や種を植えた。

 

 パトリシアは、とびっきりの笑顔で、とても楽しそうにしていた。しかし、最後にじょうろで水をまき終えた頃、パトリシアは涙を流していた。

 

「お兄ちゃん……」

「ど、どうしたんだ? 涙なんか流して」

「明日、行きたい場所があるの……。一緒に行ってくれる?」

 

 陽二に抱きつき、泥だらけのパトリシアは、そんな事を呟いた。

 

「断るはずないだろ? どこでにでも一緒に行くよ」

 

 心の中でも、陽二はそう思った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 花壇の手入れも終わり、パトリシアと別れた陽二は、銭湯なみに大きい王宮のお風呂に入っていた。

 お湯をためるのは、動物の顔をした魔道具のお仕事。温度調節機能と追いだき、自動のたし湯も完備だ。

 

「ふうー。極楽、極楽。本当に異世界人(先輩)のおかけだ」

 

 この世界を、元世界の文化に染めるのはどうかと思うが、快適すぎて、陽二は文句も何も言えない。むしろ恩恵しかないまであるのだ。

 

「さてと……」

 

 今、この男湯(・・)に入っているのは陽二だけ。つまり……女湯(・・)もあるのだ。

 実は陽二、初めてこの風呂場に入ったとき、1人だったのを良いことに、すみずみ(・・・・)まで調べた。

 あったのだ、のぞき穴が! そしてこの数日間、メイドさんの御神体にも何回かお世話になっていたのだ。

 さらにダグリオスから、のぞきのスポットまで教わっていた。つまり、穴は複数あるのだ。

 

 ―――― あのおっさん……スケベすぎるだろう。王妃が亡くなって、欲求不満なのか? まあ、人のことは言えないけどさ。 

 

 女湯を確認しても誰もいなかったので、陽二は『ここに用はねえぜっ』とばかりに風呂を出て、図書館へ向かった。

 

 △△

 

 調合と錬金の高見を目指すべく日々勉強中で、陽二はコツコツと調合リストの素材などを調べて、纏(まと)めていた。

 この男、ただのんびりと遊んでいる訳ではなかった。

 

 ―――― さて、今日も調べますかね……んっ?

 

 本棚の下にある引き出しが開いていて、動物の皮みたいな紙が入っているのに気がついた。1枚手に取る。

 

 ―――― こ、これは!? 

 

 その紙には、日本語が書かれていた。

 陽二は、他にも紙が引き出し一杯に詰まっていたので、適当にひと掴(つか)みしてテーブルに置いた。

 それは古い物らしく、字が薄くて見えにくい物や、紙の反対側に転写した物などさまざまだった。

 

 なるべく読みやすい物を探して読む

 

『俺たちは、固有のスキルを持っていた』

 

 ―――― 俺たち?

 

『俺は箪笥(たんす)。隆弘が金剛力(こんごう)。純が技巧力(ぎこう)。豊が時間。スキルの説明は省くが、俺の使えそうにないスキルから、隆弘の聞いただけで強そうなスキルなどさまざまだ』

 

 ―――― 俺は持っていなかったんですけど……

 

『はじめ俺たちは弱かった。だが、スキルのおかげで何とか戦えた。主に隆弘と純が戦ってくれたんだが、俺は精霊達と……』

 

 ―――― 終わりだ。続きは……探すのが面倒だな。取りあえず、適当に読みながら探してみるか

 

『魔力について』

 

 ―――― お、これは良さそうだな

 

『この世界には魔力がある。魔力を使って、さまざまな事象を引き起こす事ができた。

 今は魔力を使わなくてもいろいろできるが、なぜ使わなくても良いのかは分からない。

 俺は精霊の力を借りているので、参考にはならないが、ここで注意点がある。

 俺たちは当初、ほとんど魔力がなかった。徐々に増えていったのだが、なぜ増えるのか分かるだろうか?』

 

 ―――― 職業とレベル……だよね?

 

『職業やレベルも、1つの答えだ。しかし、本質的な答えは魔菌と名付けたが、菌の力だ』

 

 ―――― 菌だと?

 

『こちらの世界には、魔素を吸収して体に蓄える菌が存在する。おそらくどこにでもいると思う。魔物や植物、水の中。たぶん空中には居ない……話が逸れた。

 この菌は、魔法を使うと必ずではないが分裂する。つまり、使えば使うほど、菌が増える事になる』

 

 ―――― と言うことは、使い続ければ、魔力の最大値が増えるって事か?

 

『ここで話は変わる。窒素って分かるだろう? 大気中の大部分を占める成分だ。

 人は、窒素を取り込み保管する器官が存在しないらしい。これは俺の推測だが……魔素とは窒素なのではないだろうか? そして、魔菌は窒素を取り込み、体に蓄える。それが魔力になると考えている』

 

 ―――― 理科の話? たしか酸素、二酸化炭素、窒素、その他だったか?

 

『この世界の人には無害みたいだけど、俺たちは魔力を蓄え過ぎると支障があるかもしれない。検証中』

 

 ―――― 終わりだ。次

 

『勇者は……』

 

 ―――― 勇者キター!! こいつ勇者か?

 

『勇者は成長が早い。レベル10までは時間が必要だったが、その後はとんとん拍子でレベル100になった。そして、俺たち勇者は歳も取らない。状態異常もほとんどないし体力、魔力の回復も桁違いだ。

 ちなみに、レベル10で初めてその職業が始まるとも言える。それまでは、制限があるお試し期間みたいなものだ』

 

 ―――― 見習い期間って事だよね?

 

『俺は勇者をやめて、いろいろな職業を持ったが、勇者は桁違いに強い事がよく分かった。正直、魔王でも子供扱いだった。聖霊の方が強いんじゃないか?』

 

 ―――― 勇者は規格外の化け物って事か。魔王に聖霊とか……会いたくないな。しかし、ものすごく優秀じゃないかこの人。いろいろな職業って……ん? まてよ……じゃあリックって、とんでもない化け物になるんじゃないか? 

 ちょっと雑に接しすぎたかも……菓子折を持って行って仲良くしなければ。それにしても、突拍子のない話ばかりで飽きてきた……

 

「興味はあるけど、何だかなぁ」

 

 呟きながら紙をペラペラめくると、透視の文字が

 

「なにぃ、透視だと!? 服を透視して裸を見放題のアレか!」

 

 陽二は大興奮! 光の早さで紙を手に取る。それは、道具の効果リスト的な物で、作り方は別紙参照と書かれていた。陽二は血走った目で、くまなく紙を調べる。

 

 ―――― 俺は、俺は、神の領域に到達するのだあ!

 

 しかし!

 

「ない、ないぞぉ! そりゃないぜ、おやじ!」

 

 ―――― 引き出しへレッツラゴーだ。全てをひっくり返してでも見つけてやるぜ!

 

「あれ?」

 

 しかしながら、さっきまで所狭しと詰まっていた引き出しの中、大量に入っていた紙が、跡形もなく消えていた。

 

「な、何で? 神は俺を見捨てたのか? くそー、紙よ出でよ! 現れよ!」

 

 ―――― 出て来るはず、ないか……

 

 カサッ

 

 ひと掴(つか)みの紙を置いてあるテーブルから音がしたので、振り返った。すると何処から現れたのか、メイド姿の青髪ポニーテールの女性が、両腕を広げて目をつぶり、神の教えを書いた紙を手に持って立っていた。

 

「おい! おまえ何者だ! その神を、基(もとい)、その紙束をテーブルに戻せ!」

 

 陽二の声を聞いたメイド姿の女性は、涼しい顔をして口元に笑みを浮かべた。その笑みに、バカにされたと感じた陽二は、声を荒げた。

 

「おい! ポニ子! 聞こえてないのか? おまえが手にしているのは男の夢! 浪漫だ! 早く離せ! 返してください、お願いします」

 

 なぜか陽二は涙声だ。

 

「ふっ、男の夢? 浪漫だと? この変態破廉恥(はれんち)が!」

 

 なかなか良い声だ。普通に話せばかわいい声。メイドの女性は、凛々しいながらも、かわいさも併せ持つ美しい顔をしていた。

 

「変態破廉恥だと? 初対面のポニ子に、そこまで言われるゆわれ(・・・)はない!」

「誰がポニ子だ! 私の名前はランスロット。誇り高き孤高の騎士! さあ私は名乗ったのだ! 名乗るが良い!」

 

 ランスロットは、そう言うと赤面して呟(つぶや)いた「た、確かにおまえ(・・・)は初対面なのかもしれないが……」

 

 

 △△

 

 

「え~と、俺は、神の使いによりあまたの試練をくぐり抜け、天空より世界の下々に祝福を与えるために舞い降りた至高の存在! その名も中」

「もう良い。貴様、陽二だろ?」

 

「おい! 最後まで言わせろよ、恥ずかしいだろ!」

「ん、んん、おまえの名前は山中 陽二」

 

「中山だ!」

「身長175㎝、体重55㎏。好きな食べ物は、オーブタ……この豚野郎が!」

 

「最後の要らないよね? オーブタはうまいんだぞ。謝れ! オーブタに謝れ」

「異世界人で元勇者。水と火属性の魔法を使い」

 

 ―――― なっ!?

 

「調合も使えるなぁ?」

 

 ―――― にっ!

 

「さらに、のぞき魔で変態野郎のエロ男爵だ」

 

 ―――― な、何だと……

 

「また、幼女趣味のロリロリロリータだ」

「それは違うぞ!」

 

 それだけは受け入れられないと、陽二は、はっきり否定した。

 

「こんなのもあるぞ……」

 

 しかしランスロットは、全スルー。顔を真っ赤にしてモジモジしはじめた

 

「ん、んん。よ、夜な夜なベッドの中や、お風呂場で、きょきょ、局部を……そ、そして、わ、私に」

「おおーい! ちょっとまった! 止めろ!」

 

 ――――――――

 遠い過去。忘れ去っていたハルマゲドン

 

「はあ、はあ、はあ、」

「陽ちゃ~ん! お風呂が沸いたよ~お母さんが入れってさ~」

 

 ガチャ

 

「「あ!」」

「ご、ごめんね。あのね……お母さんがお風呂に入れって……それだけだから! じゃあね!」

 

 バタン!

 

「おかあさ~ん! 陽ちゃんがね……」

 

 その日の夕食はとても……とてもしょっぱかった。

 ――――――――

 

 ―――― くそ、オラ涙が出て来たぞ!

 

 陽二は、これ以上何も言えないように、ランスロットの口をふさいだ

 

「な、な、な、何をしゅる。しゃ、しゃわりゅな」

「あ、噛(か)んだ!」

 

「か、噛(か)んでにゃいわ! 離せ、この変態破廉恥め!」

「うっせーんだよこの噛(か)みポニ子。人のプライベートを覗(のぞ)いてんじゃねーよ。変態はおまえだ! 神の裁きを受けよ!」

 

 そう言った陽二は、小学生のように、スカートをおもいっきりめくった。前から。おそらく軽いノリで、お返しにパンツの1つでも拝んでやろうと思ったのだ。

 がしかし、スカートが捲(めく)り上げられた、そこには……

 

「ノ、ノーパン・ティーだとぉ!?」

 

 陽二は見てしまった。

 ――――桃源郷! ああ、神様ありがとう! 

 と罪悪感よりも、感謝を神に捧げるほど興奮して

 

 そして、見られてしまったランスロットは、すぐさまスカートを押さえると、下をうつむきプルプルと震えていた。

 それもそうだろう。痴漢は現行犯で死罪。案件である。

 

「わ、悪かった……すまん。まさか、穿いてないなんて思わなかったんだよ、不可抗力だ! 冤罪(えんざい)だ、無罪だ! でも下(しも)の毛も蒼いのな、ポニ子! きれいだったぜ!」

 

 陽二は、勢いでごまかすしかない! と開き直った。

 

 プルプルプルプル……ゴゴゴゴォゴ……ゴォゴォゴォゴォ!

 大地(ガイア)が、大地が怒ってらっしゃる。

 

「私に対して数々の変態行為……おまえを殺して私も死ぬ! 怒りの乙女大剣(エシャロット)!」

 

 ランスロットが涙目で叫(さけ)ぶと、身長の倍はありそうな巨大な剣が現れた!

 

「死んでわびろ!」

「や、やめろー」

 

 乙女大剣が振り下ろされる。それを見た陽二は、恐怖のあまり気絶してしまったのだ。

 

「ストップです」

 

 しかし! ランスロット渾身(こんしん)の一撃を、片手で、それも素手で受け止めた人物がいた。

 

「ランスちゃん! め!」

「アスモか、し、しかしだな……わ、わたしは乙女のじゅんけつゅを汚しゃれたのだ! えぐっえぐっ」

 

「ランスちゃん。その程度で泣かないでください。ランスちゃんは誇り高き騎士ですよね? それに陽二君は、あの事(・・・)を知らないのですからノーカウントです」

 

 アスモと呼ばれた黒髪の女性は、ランスロットの頭を優しくなでながら宥めるが、ランスロットの怒りはおさまらない。

 

「騎士だからこそ、この戯(たわ)け者を殺して私も自害するしかあるまい!」

「ランスちゃん、怒りますよ? それに、アレはランスちゃんの自業自得……」

 

「ま、まて。それ以上は言うな。アスモの言う通りだ、誇り高き騎士がこの程度で……」

「良い子! 良い子ですね」

 

「アスモよお願いがあるのだが……この変態の記憶を! 私の記憶を消してくれ! スカートの件とアレを特に重点的に……」

「ふふ、ランスちゃんかわいい!」

 

 ランスロットの恥じらう姿に、アスモは抱きついた

 

「だ、抱きつくな!」

「さっきも言いましたけど……アレは陽二君も知りませんから、どうしようもないです」

 

 アスモは、陽二の頭を膝にのせ頭に手を添える。そして陽二に小さな声で耳打ちをした

 

「陽二君。オイタしちゃダメですよ!」

 

 意識を取り戻した陽二にそう言い残すと、アスモとランスロットは、溶けるように姿を消した。

 

「何だったんだ? あいつら」

 

 陽二の耳には、アスモの甘くて蕩(とろ)けそうな声だけが残っていた。

 

「あっ、神の書を全部持って行きやがった! しかーし、俺には桃源郷が……桃源郷? 何だったっけ? あれ、思い出せない? くそー!」

 

 

 陽二は神の書と記憶を奪われ、ランスロットは恥ずかしい姿を見られ、陽二とチームゼラニオンの初邂逅(かいこう)? は引き分けに終わったのだ。

 

 負けるなゼライェロー!! うらやましいぞ陽二!!

 明日はどこゆくゼラニオン! 頑張れゼライェロー!

 

 チャーン チャーン チャーン!

 

「どうぢゃ? 次回作はこれで決まりぢゃな!」

「やめろー!」

 

「当然これもあれもある! 見てみろランス、腰が抜けとるのぢゃ」

「いやー死にたい!」

 

 ランスロットの見本の様な土下座! と3カ月間の『ノーパンティー・ノンノンライフ』の刑で、この回の放送はお蔵入りになったのであった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 トントン

 

「陽二起きてる?」

「開いてるから入って来て」

 

 ドアが開き、カリンが部屋の中に入ってきた。夜も遅いし男の部屋だ。当然、寝間着ではない。

 

「お、お邪魔します」

「どうぞ、どうぞ」

 

 カリンは頭に『?』を浮かべながら椅子に座った。

 

「どうしてベッドから出て来ないのかしら?」

「あ、え~とね……寒いから?」

 

「寒くないわよ! 失礼じゃない? 早く出て来なさいよ」

「あの……事情がありましてですね……このままじゃダメ?」

「別にいいけど……」

 

 と言った瞬間。明らかに様子がおかしいと感じたカリンは、ダッシュして布団を剥ぎ取った。と同時に固まった。

 

「あ、えとですねぇ……これには、海よりも深い事情がありましてですね。何と言えばいいか……」

 

 カリンは、顔を真っ赤にして詠唱を始めた

 

「わーまて、まて! 誤解だ! 説明するから撃つな!」

 

 △△

 

 カリンが部屋に来る1時間前。陽二は、調合の本を読んでいた。

 

 コンコン

 

「カリン? 開いてるよ」

 

 ドアを開け入ってきたのはパトリシアで、上からピンクの布を上半身にかけていた。

 

「シア? どうしたのこんな夜遅くに。子供は寝る時間じゃない?」

「お兄ちゃん。んとね……えとね……怖くて眠れないの……少しだけお話してもいい?」

 

 母親の事を思い出したのかもしれない。そう感じた陽二は、優しくパトリシアを誘(いざな)う声をかけた。

 

「仕方ないなぁ、ベッドに座ってお話しする?」

「うん……」

 

 とパトリシアが頷(うなず)いた瞬間、ピンクの布がバサッと落ちた。

 シアはネグリジェ姿だった。それも薄ピンクの透け透けのやつで、下着が丸見え。と言うかブラジャーをつけていない。

 この世界に存在するのかは分からないが……未発達の山脈が、ピンクの山頂が……

 

「ちょっと待った! マッターホルン」

 

 陽二は光速で! そう、光の速さでピンクの布を拾い上げ、ピンクの山頂が隠れるようにかけた。

 

 ―――― 危ねぇ。このお子様は、何を考えてるんだ?

 

「ちょっとお兄ちゃん。苦しいよ」

 

 陽二は、布をかけた拍子に、パトリシア強く抱きしめていた。

 

「おっと。ごめんごめん! 苦しかった?」

「ん~ん大丈夫。お兄ちゃん、良いにおい!」

 

 ―――― ちょっとこの子は何をおっしゃっているのでしょうか……誘ってるの? いや、陽二よ良く考えろ。相手は12歳、犯罪だ。この世界の成人が何歳か知らないけど……これは駄目だ。

 紳士だ。紳士で行け俺! ジェントルメンだ!

 

「んっ。んっ。シアさん?」

「な~にお兄ちゃん。話し方がへんだよ?」

 

「まだ早いんじゃないかな? 階段を登るのは、もうちょっと大人になってからでも……た、例えば……そ、そう好きな人ができてですねぇ……」

「シアね……お兄ちゃん大好き!」

 

「お、おう、ありがとうございました……じゃない! 何しに来たの」

「えっ? だ、だから……花壇のお手入れをしたらね、お母様の事ばかり頭に浮かんで来ちゃってね。それでね……それでね……怖くなってきちゃって……お兄ちゃんまでいなくなったら、どうしようって思って……それで……」

 

 ―――― 俺はなんて馬鹿なんだ。今さっきの自分を絞め殺したい! 何が大人になってからだよ! この馬鹿野郎! おまえが階段落ちてしまえ!

 

「シアは優しいなぁ。本当にできた妹だ!」

 

 陽二は、感極まりパトリシアを抱きしめた。

 

「く、苦しいよ」

「ごめん、ごめん。楽しい話をしようか」

 

 で、そのまま話をしていたら、パトリシアは眠ってしまったのである。良くある話だ。そう鉄板事項ってやつだ。

 そのまま横にパトリシアを寝かせて本を読んでいたら、抱きつかれて……ついでにお約束通りピンクの布がどこかに行方不明になって、ピンクのサクランボが『こんばんわ!』となった。

 ちなみに、カリンが来る少し前の出来事であり、決してやましいマネも目も一切向けていない。陽二は、ジェントルマンだ。

 

 

「カリンさん。理解(わかって)いただけたでしょうか?」

「分かるか! と言いたいところだけど、お約束通り動くのも癪(しゃく)なのよね」

 

「さすがカリンさん、良い腕をお持ちで」

「まぁいいわ! それじゃあ私の部屋に来る?」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「て、言う訳ないでしょ!」

「師匠!!」

 

 △△

 

「それでね、昼間の話なんだけど」

「何だよ。もう終わりかよ!」

「もう疲れたわ。どうせ起きてるんでしょ? パトリシア様」

 

 本当に起きていたようで、パトリシアは、パチっと目を開けた。

 

「お兄ちゃんバレちゃってたよ! てへ」

「起きてたのかよ……」

「パトリシア様。見えてるからね。本当に襲われても知らないから」

「え、えー!」

 

 パトリシアは、布団にもぐり込んで顔だけ出した。

 

「お兄ちゃんのエッチ!」

 

 ―――― もうご褒美だらけだ。何? ボーナスステージなの? 確変? お兄ちゃん疲れちゃうよ!?

 

「シア、最後に一言だけ言っておく。ありがとうございました」

「まあお兄ちゃんだし、見られても問題ないか……この際ゴニョゴニョ」

 

 パトリシアの顔は真っ赤だ。

 

「話を戻すわよ」

 

 おふざけもここまでだ。陽二は頷いた。

 

「パトリシア様も居るけど、もう話しちゃうわ」

「脱線事故も疲れるしね、もう良いんじゃない? その話し方だと、シアにも関係あるみたいだし」

 

 その声で、パトリシアはシーツにくるまりベッドに座り直す。話に興味があるようだ。

 

「実は、パトリシア様が元気になった事もあって、5年前の事件現場。あそこにね、村を救おうと力を尽くした王妃と、親衛隊の慰霊碑を建設するんですって。それでね? 先行して調査隊を組むことになったんだけど……陽二も行ってみない?」

 

 それを聞いたパトリシアは、ガバッと立ち上がり「私も行く!」と宣言した。

 

「パトリシア様、見えてるわよ」

「シア……もうワザとだろ? なぁカリン。もうゴールしていい?」

 

「いい訳ないでしょ!」

 

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