※この作品はR-18です。

パワポケアブノーマルss集   作:艶 紫苑

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レナと武美が一人の男をめぐって戦う話です


エロなし
真夏の夜の…


レナVS武美

風来坊と武美は旅を続けていた。

今いるのは森の中。

野宿の準備中。

 

………

 

「武美もやってみるか?」

「うん!」

鉈を手にした。

「大丈夫か?」

やってみるかと言っておいて心配しはじめる。

ひょっとして鉈の扱い方が危なっかしかったのだろうか。

「ふふん。舐めてもらっちゃ困るよ」

武美が鉈を薪にちょっとめりこませ、振り下ろす。

「ありゃ……」

鉈が薪のなかば辺りまで食い込んだが割れなかった。

「代わろうか?」

「ううん。大丈夫。風来坊さんは疲れてるでしょ? あたしが頑張らなきゃ……えいっ!」

薪がくっついた鉈を持ち上げ、打ち付ける。ぱかんと薪がまっぷたつになった。

「すごいな」

「でしょー?」

どやぁ……

武美はそんな効果音が聞こえてきそうな表情で胸を張った。

「この調子でいくよー」

「無理はするなよ」

「わかってるって! てやあああっ!」

ぱこんぱこんと軽快に薪を割っていく。

それからしばらくして。

「ふう……ちょっと休憩……」

武美は鉈を置き、切り株の上に腰をおろした。

「よし、あとは俺がやろう」

日が落ちかけていた。急がなければならない。

風来坊が立ち上がり、鉈を拾いに行こうとする。

 

 

 

それは突然だった。気配も感じなかった。

風来坊の前に髪の長い女性が現れた。夕日を背にしているため顔は見えない。女性は鉈を拾い上げた。

「君は……」

顔がようやく見えるようになる。風来坊は呆然と立ち尽くした。

「お久しぶりです」

レッド様♥ そう言って女性は青い瞳を細めた。夕日に溶け込んだかのようなオレンジ色の髪が風に揺れる。

武美はむっと眉をひそめた。

「知り合い?」

風来坊に近寄り袖をこっそりと引く。まるで親の陰に隠れる人見知りの子のような仕草。

風来坊は女性の姿を見て、なぜか硬直していた。

 

女が近づいてくる。手に鉈を持ったまま。

武美は恐怖を感じた。ちらりと風来坊を見る。彼は動けそうになかった。

(風来坊さんを護らないと!)

武美はそばにあったノコギリを掴んだ。

「うわああああああっ!」

勇気を出して女に切りかかる。

 

ガキィンッ!

甲高い音が響いた。

鉈とノコギリがぶつかり火花が散った。

「武美!?」

風来坊は目を丸くする。

「なんですか、あなたは。いきなりノコギリで襲いかかってくるなんて冗談の域を超えてますよ」

女は武美とギチギチと押し合いながら、交差する武器越しに睨み付ける。

「それはこっちの台詞! 風来坊さんになにするつもりだったの!?」

武美も鋭い視線を返した。

ノコギリを握る両手、両肩、背、地面を踏みしめる両足に力をこめ、女を押し返す。

女は飛び退いた。長い髪がふわりと舞う。鉈は手にしたまま。臨戦態勢。女は笑った。

「レッド様に鉈を手渡そうとしただけなのに。ひどいですね」

「そんなの信用できない!」

武美の体が金色の光に包まれた。

「風来坊さんはあたしが護る! ハアアアアアアアアアッ!」

大切な人のピンチに覚醒したのだろう。

武美の背から白い大翼が顕現した。

翼をはためかせ、女との間合いをつめる。

ノコギリが地面をえぐった。えぐった土を巻き上げるようにして振り上げた。

 

ガキィィィンッ!

再びノコギリと鉈とがぶつかり合う。

ギチギチと押し合い。

斬撃は止めたものの、天使と化した武美の突進で女の体が宙に持ち上げられた。

「くっ……」

「どうする? 大人しく引き下がるならゆるしてあげてもいいよ?」

武美は意地悪く笑いながら女を上空へと押し上げる。

「んー、それはありえないかな。レッド様のとなりにいるべきなのは私。引き下がるのはあなた」

女は力尽くで鍔迫り合いを振りほどいた。弾き飛ばされ隙だらけになった武美めがけ鉈を振り抜いた。

「ひゃあああああああっ!?」

武美は吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた。

衝撃が走り、大地が陥没しヒビ割れ、大量の土埃が巻き上げられる。

 

「自分だけが特別な存在だと思ってるんですね? 甘いですよ」

「うぅっ……」

地面に叩きつけられた武美が視線をあげると、そこにはぴっちりとしたスーツをまとった女の姿があった。

「それ……まさか、ヒーロー!?」

女の肉付きのいい体に貼りつき、ラインをもろに浮かすスーツは夕日を浴びてオレンジ色に輝いていた。

「ええ、そうですよ。私がヒーローであるレッド様の眷属である証です」

「どういうことだ!?」

風来坊が頓狂な声をあげた。

武美は怪訝な顔。

「さっきからレッド様、レッド様って……。まさかそれって風来坊さんのことじゃないよね?」

女は呆然と立ち尽くしている風来坊へ視線を向けた。

「風来坊さんというのが、あそこにおられる方のことを指しているのなら、そのまさか♪」

女はにこりと微笑む。

「待て……俺はなんのことだか、さっぱり」

「あら? よろしいんですか、レッド様? ヒーローが嘘をつくなんて」

女に見下ろされた風来坊は再び硬直する。

「お姿が変わられたみたいですけど私にはわかります」

「なにを根拠に……」

「匂いです♥ この匂いは間違いなくレッド様です♥」

「匂い、だって……?」

風来坊は呆然と立ち尽くすしかなかった。

武美は険しい表情を女に向ける。

「なにわけわかんないことを……」

「あなたは知らないんですね。レッド様の過去を。教えてあげましょうか? その代わり誰にも言わないでくださいね」

「か、過去だって……」

「風来坊さんの過去かぁ……」

「武美……」

微妙な表情の風来坊を見て、武美は優しい微笑を浮かべた。

地面を蹴る。ヒーロースーツをまとった女との間合いを一気につめた。

「興味ないよ!」

「なっ……」

ノコギリが振り下ろされた。

女は鉈で受け止める。

三度武器が交錯した。ノコギリとナタがギチギチと噛み合い悲鳴を上げる。

「ちょっと気になるけどね。でも、風来坊さんが暗い顔してるから聞かない! 大事なのは今と未来! 過去なんてどうでもいいよ!」

武美は総身に力を込めた。白き翼もはためかせ女を押し切ろうとする。

「その点に関しては同感ですね。そしてレッド様と一緒に未来を歩むのはこの私です」

女も渾身の力で押し返す。二人の力が拮抗する。

「風来坊さんと一緒に歩むのはあたし!」

「いいえ、私です!」

互いの武器が軋みを上げる。

二人の体からオーラがあふれだし、ぶつかりあい、炸裂した。

 

天使の翼を顕現させた武美とヒーロースーツをまとった女が空を舞う。

ノコギリとナタが幾度も閃く。

耳をつんざく金属音と衝撃が何度も何度も虚空を震わせ、鮮烈な火花がいくつも散り咲いた。

「ハアアアアアアアアアッ!」

ブンブンと風を切る音。

女は視線を向ける。

武美が投じたスパナが回転しながら迫っていた。

「こんなもの!」

鉈で薙ぎ払った。ガキィッと鈍い音が響く。

「隙あり!」

「なっ!?」

スパナに気をとられた刹那の隙に武美が一気に間合いをつめていた。

ノコギリが振り下ろされる。

女は鉈をかざしたが、渾身の一撃に上空から叩き落とされた。

どごぉっ!!

高校の屋上を破壊し、瓦礫と土埃とともに校舎の廊下にまで落下した。

「やーい、ひっかかった♪」

ノコギリをさげた天使が舞い降りてくる。

「姑息な真似をしますね……」

落ちかかってくる瓦礫と土埃をはねあげ、女が立ち上がった。

にらみあい、火花を散らす。

女は赤いオーラに、武美は白いオーラに包まれた。

真夜中の校舎で鉈とノコギリがぶつかりあう。

女の戦いだ。

ギョアアアアアアアアッ

ガキィッ

ドゴオッ

校舎が崩壊していく。

風来坊は呆然とそれを見守る。

 

「やりますねぇ!」

「そっちこそ!」

 

武美はスパナを投じた。

 

「二度同じ手は食らいませんよ」

 

ブンブンと唸りをあげて迫るスパナに対し、女は腕を引いた。

 

(何度同じ場面に直面したってどうしようもないことだってあるよ! 打ち落とす? それとも回避? どっちも想定内! スパナに気を取られてる隙にあたしは――)

 

武美は白い翼をはためかせ、女に肉薄する。

ノコギリが銀色の軌跡を描いた。

 

「こんなもの!」

 

女は左腕を振るった。

素手でスパナを叩き落とす。

左腕を振った勢いそのままに右手の鉈を振るう。

 

「んなぁ!?」

 

想定外の動きに武美は目を見開いた。

女が片手で振るった鉈にふっとばされる。

部室の屋根を突き破った。

 

「いてて……もうめちゃくちゃだよ……」

 

(でも、あんなことしたら左手はかなりのダメージを受けてるはず!)

 

瓦礫を押し退け、武美は立ち上がった。

あたりを見回す。

野球ボールにバット、スコアボードえとせとら

 

(野球部の部室かあ……いいなぁ、あたしも風来坊さんと一緒に……ん?)

 

物思いに耽っていると物音が聞こえた。

女が追いかけてきたのだろう。

武美は身構える。

 

(あれ……?)

 

ノコギリがなかった。

視線をめぐらせる。

少し遠い場所に柄だけ見える、瓦礫の中に埋まっていた。

 

ひゅん!

風を切る音。

ノコギリは取りに行けない。

手近にあったバットを手にしてフルスイングした。

かぁんとやかましい音が響く。

なにかを打ち返した。

ばしゃあああっと水音。

 

「きゃああああああっ!?」

 

女の悲鳴。

打ち返したのはどうやらヤカンらしかった。

中に入っていた熱々のお茶がヒーロースーツの女にぶっかけられた。

 

「ごめんね。でも因果応報だよ。大丈夫?」

 

武美はノコギリを拾い上げ、声のした方へ歩み、のぞきこむ。

 

「あれ……」

 

女がいると思っていたのに、ヘルメットらしきものと、漆黒の口――武美にはヒーロースーツの襟に見える、それしか見えなかった。

 

「からっぽ……そんな、まさか……」

武美は顔をひきつらせ、あとずさった。

その背中に何かが触れる。

ひぃっ!? と悲鳴をあげてしまう。

「どこを見てるんですか?」

「へ? うぶぅぅぅぅぅっ!?」

何かが顔にへばりついた。

球を磨くための布。

布越しに強い衝撃が走り、武美はふきとばされた。

 

武美は尻餅をついた。

顔をあげるとびしょ濡れの女。

なぜかJKらしき制服姿になっていた。

あとずさりさると手に何か触れた。

やかん。

武美が女だと思ってのぞきこんでいたのは空のやかんと脱ぎ捨てられたヒーロースーツだったのだ。

 

 

 

女が神速で斬りかかる。

武美は立ち上がり、ノコギリで受け止めた。

制服の赤いリボンと武美の茶色い髪のサイドに結ばれたこれまた赤いリボンが揺れる。

 

「しぶといですね……いい加減あきらめたらどうですか? レッドさまの隣にいるべきはこの私です」

「いいや。風来坊さんと一緒に歩くのは、あたし!」

 

何度も何度も切り結ぶ。

ノコギリと鉈が風を切りまくり、あるときは苛烈にぶつかりあう。

 

「ノコギリ無双!」

「くっ!?」

 

目にもとまらぬ速さで繰り出された無数の斬撃に女はふきとばされた。

ある商店街のあるカレー店にぶちこまれた。

衝撃で手離してしまった鉈が店の前に転がった。

 

「もらった!」

 

武美が突っ込んでいく。

ノコギリを振りかぶった。

女は丸腰、それに彼女がつっこんだ場所は勝手知ったる知り合いの店、勝機とみて一気に攻勢をかける。

 

「甘いですよ!」

「なっ!?」

 

翼をはためかせて突進した先に女がいた。

台所から拝借したらしいフライパンを振りかぶっている。

乙女の祈りをこめた一撃。

野球のバッティングのような格好で弾き飛ばされた武美は店外に打ち出される。

何度もバウンドしながら商店街を転がっていく。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

痛みにのたうち回る。

「油断しましたね。」

フライパンを置き、鉈を拾い上げた。

武美を追いかける。

 

「ようやく質問ができそうですね。」

「質問っ……?」

「もしも、レッドさまが過ちを犯したとき、あなたはどうしますか?」

 

武美は激痛に耐えつつ眉をひそめた。

 

「『誰もあなたみたいに正しくは生きられないんだ』なんて狂信しているレッド様が過ちなんて犯すはずがない、そう思っていますね?」

「そんな……」

「なぜそれを……」

 

風来坊も驚いている。

女は微笑した。

武美ははっと目を見開いた。

 

「盗み聞き……? まさか、盗聴してたの?」

「聞こえてきたんですよ。洗脳されて眷属となった私にレッド様の悲痛な想いが届いたのかもしれません」

「なにを言ってるの……?」

 

武美は愕然とする。

女は鉈を振り上げた。

 

「レッド様だって間違うことはありますよ。過度な期待はヒーローをも狂わせる。あなたにはそれがわからない」

「どういう意味?」

「一度離れればわかるかもしれませんね」

 

言葉とともに刃が振り下ろされた。

武美はそれをノコギリで受け止めた。

再度打ち合い。

 

「ハアアアアアアアアアアッ!」

「やああああああああああっ!」

 

武器が何度も何度も交差する。

 

天使と化した武美とヒーローのけん属である女がそれぞれの得物を手に夜空を駆け回る。

衝撃波と炎の華がいくつも開く。

 

二人は高速で飛び回り、いつしか海上へと戦いの場を移していた。

 

「うっ!?」

 

強烈な一撃。

ノコギリがくるくると空を舞った。

 

「しまった……」

「これで――」

「なーんて、ね♪」

 

くるくるとスパナが舞う。

 

「しまっ――うぅっ!?」

 

虚をつかれた女はスパナを手首に食らってしまう。

鉈がぼちゃっと海に沈んでいく。

 

「はあっ!」

 

何か円盤のようなものが武美めがけて飛んできた。

 

「ひゃあ!? ま、前が見えないっ、息が苦しいっ!……なにこれぇ!」

 

顔になにかはりついていた。

ヒーローのお面。

正しく装着すれば前が見えるが、無理やり貼り付けられた今は武美の視界を塞いでいる。

 

「ふげぇっ!?」

 

武美は打撃を食らった。

海上に流星のごとく、まっすぐ落ちていく。

とまっていた船に激突した。

 

甲板がめくり返る。

土埃がもうもうと立ち込めた。

武美はげほげほと咳き込む。

 

女が降りてくる。

武美は立ち上がった。

 

「はあああああっ!」

 

もうお互い武器はない。

月下の船上で決闘。

体と体をぶつけあう。

バキッ、ドゴオッと鈍い音が響いた。

汗がしぶく。

左手と右手、右手と左手を掴み、正面から組み合った。

額をくっつけ、至近距離でにらみあう。

 

「さっきのっ、質問だけどさぁ!」

「なんですかっ」

「もしっ、風来坊さんが間違うことがあったらっ、ひっぱたいてでもとめるっ! それがあたしの答えっ!」

 

じりじりと押し合いながら解答する。

 

「できますか? あなたに……信奉するレッド様をっ、ひっぱたくなんて!」

「そう言うあなたはっ、どうなのっ」

「できますよっ!」

 

月明かりに負けないほど強く、女の瞳がぎらりと煌めいた。

力をこめ、武美を押す。

 

「くうぅっ」

「答えてくれたお礼にっ、私もっ、答えてあげますよっ。私は、一度っ、レッド様に見捨てられたおかげでっ、冷静に見られるようになりました……レッド様が間違えば容赦なく叱りますっ、洗脳されてっ、見捨てられてっ、でもっ、信奉が愛情に変わったんですっ」

「あははっ、なんだかよくわかんないけどっ――」

「レッド様は――」

「風来坊さんは――」

 

最高ってこと!

最高ってことです!

 

二人の言葉と力が交錯する。

 

女が武美に頭突きを食らわせる。

手を離し後退する武美を突き飛ばした。

よろめいた武美の腹に拳を打ち込む。

 

「うええぇぇぇっ!?」

 

武美は体をくの字に曲げた。

膝をつき、へたりこみ、への字に。

げほげほと咳き込みながら地面に手をつき、なんとか立ち上がろうとする。

 

「げぽっ!?」

 

しかし、立ち上がれず、さらには胃の中のものを吐き出してしまう。

 

「ふふ♪ 戻しちゃいましたねぇ。大丈夫ですか?」

女が歩み寄った瞬間じゅうううっと不審な音が聞こえた。

煙が立ち上る。

女の足元、まるで酸で溶かされたかのように甲板が崩れた。

「なっ!? あああああっ!?」

「さあっ、祭りのはじまりだよ!」

船体を突き破って無数の触手がうねうねと姿を現す。

押し潰さんとぬめる触手たちが女めがけて収束していく。

ドカッ

バキッ

ボコォッ

船がめちゃくちゃになる。

 

「あなた、何者なんですか……」

触手の猛攻をなんとか防いだ女がつぶやいた。

「粋でクールなナイスガイ――の、相棒だよ!」

ぶんと拳を振るう。

 

「こんな物騒な女の子まで惹きつけてしまうなんて……ヒーローの業は私が思っているよりもずっと深いみたいですね……」

「いやぁ、それほどでも――!」

 

風来坊ではなく武美が答えた。

その横っ面に女の拳が命中する。

痛みをこらえて反撃。

 

「ぐぎっ!? ……しつこいですね……いい加減、あきらめたらどうですか!」

「あぎぃっ!? ……それはこっちの台詞だよ! いつまでもレッド様、レッド様ってつきまとってないで、過去から卒業したら?」

 

武美の拳が女の横っ面に命中する。

 

「風来坊さんも迷惑してるよっ!」

「……本当ですか、レッド様?」

 

二人は殴り合いを中断して風来坊の方をうかがう。

 

「えっと、それはぁ……」

「えー……はっきりしてよ、風来坊さん!」

「しかし……」

「レッド様はお優しいですから罪悪感があるんですよ」

「あたしと、この人と、どっちを選ぶの?」

「それはもちろん――」

「私の大切な時間をめちゃくちゃにしておいて見捨てるなんてひどいこと、レッド様はなさらないですよね?」

「うぐっ、それはぁ……」

「風来坊さん!?」

「こんな人ですけど、いいんですか?」

「そうだね。そういうとこもあるからそばにいてあげたいんだよね。それに、いつもは格好いいんだよ?」

「知っています。……あなたが知っているのは表の顔だけでしょう? 私は彼の裏の顔まで知っていますよ」

「それがなに!? そんなの関係ないよ!」

 

ドカッ、バキッ、ボコォッ

お互いノーガードで殴り合う。

 

「風来坊さんは、あんなだから、あたしたちで決めるしかないね!」

「ええ。負けませんよ! はああっ!」

 

彼への想いで命すら燃やし、反撃する。

武美も闘気をみなぎらせ、応戦する。

 

「どんなに言われたってゆずらない! 風来坊さんとこれからもずっとずっと! 旅を続けるのはあたし!」

「いいえ! レッド様とこれから旅をするのはこの私です! レッド様をこの手にもう一度取り戻す!」

「なに言ってんのさあ! 取り戻すなんてセリフは風来坊さんを一度でも手に入れた人じゃないと言う権利はないよ!」

「ありますよ! レッド様が私を洗脳されたのは、私のことが好きだったから。私と彼に嫉妬して……え? 違うんですか? ふふっ、レッド様は照れ屋さんですね❤ 小学生の男の子レベルです❤ もっと赤ちゃんみたいに甘えてくれてもいいんですよ? あのとき部室でそうしたみたいに……❤」

「なっ!? くぅぅ! よそ見してる場合!?」

 

バキィ!

強烈な一撃が女を襲う。

パァンッ!

畳みかけようと接近してきた武美に女も負けじと反撃した。

乙女のビンタが武美に直撃する。

一人の男をめぐって二人の女がなりふり構わず殴り合う。

 

拳と拳、魂と魂をぶつけあう。

互いにボロボロ、ぜぇぜぇと息を乱していた。

 

ボロボロの体に鞭打って、拳を振り上げる。

彼と一緒に歩みたい。

その思いが二人を動かしていた。

 

「レッド様とともに歩むのは……」

「風来坊さんと一緒に歩くのは……」

 

私!

あたし!

 

二人の声と拳が交錯した。

思いのこもった絶叫と拳打の衝撃が月夜のみなもを震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武美はぱちっと目を覚ました。

 

(夢、かぁ……あれ、内容が思い出せないや……)

バイオレンスな夢を見ていた気がする。

 

 

たくましい背中が見える。

しまった。

疲れてとろとろと眠っていたのだ。

 

「おはよう」

 

風来坊さんが声をかけてくれた。

 

「武美もやってみるか?」

「うん!」

焦る思いを察した風来坊が提案してくる。

武美はえいやと鉈を手にした。

 

長い髪が風に揺れる。

少し離れた木陰から女が二人を見守っていた。

微笑、しかし獣のような獰猛な視線で

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