パワポケアブノーマルss集 作:艶 紫苑
――数時間後。
???「賛同者は、いませんでした…」
レッドvs少年 if
レッド×キリちゃんな部分もありますので苦手な方はご注意くださいませ
マネージャーがおかしくなってしまった。
「レッド様♡今日もお疲れ様です」
「どうした、やけに甘えてくるな」
「そういう気分なんです♡あ、ご迷惑ですか?」
「そんなことはないよ。…おいで」
「レッドさまぁ♡」
ぎしっぎしっと何が軋む音。椅子か床か。
軋む音とマネージャーの甘える声が何度も聞こえた。
ひとつの椅子に二人が抱き合っている姿を想像して、中に入ることも、様子をのぞきみることもできず、その場をあとにした。
そんなことがしばらく続いて、頭がおかしくなっていた。
「――もう戦争しかなくない?」
「戦争?いきなりなに言ってるでやんすか?そんな物騒な言葉使っちゃダメでやんすよ」
「毒をもって毒を制する。正しくない方法で奪われたものは正しくない方法で奪い返しても問題はないよね」
「…?もしかしてキリちゃんのことでやんすか?」
「湯田くんはヒーローと戦うことに賛成?反対?」
「ふえ?」
「ヒーローたちが混乱している間に取り返すのはオッケーかな?」
不思議そうにしているチームメイトに微笑し秋波を送った。しかし、
「オイラは、反対でやんす…」
「そっか。わかった。俺一人で行くよ」
「だっ、ダメでやんす!暴力でどうにかしようなんて間違ってるでやんす」
「だったら湯田くんが連れ戻してきてよ」
「え…?」
「でも、暴力がダメとなると、どうするのかな?平和的に話し合いでもするの?それで返してくれるかなぁ?」
「それは…」
「こうしてる間だってヒーローたちに何をされてるかわからないよ?行動に移るのが遅すぎたぐらいだ。悠長なことは言ってられない」
少年はバットを手に走り出した。
「野球の道具をそんなことに使っちゃダメでやんす!…そうだ!野球でやんす!ヒーローとは野球で勝負するべきでやんす!――君!」
叫び声がむなしく響く。
戦いの前に少年はあるものを身にまとう。
洗脳された少女からプレゼントされたもの。
おうど色の衣装。
これで少年も見てくれはヒーローの一員。
複雑な気分。
ヒーローたちを見つけた。
作戦会議をやっているようだった。
潜入し、頃合いを見て大暴れという算段。
ヒーローの数が増えすぎたのを逆手にとる。
おうど色の存在など把握していないだろう
仲間が反乱を起こしたと思い混乱するはずだ。
だが、大暴れに移る前に見破られてしまった。
「お前は何者だ?」
頼れるリーダー、レッドが前に出てくる。
少年はどうすべきか少し迷っていた。
レッドの姿を見て、その迷いは消えた。
――さすがレッドさま。ちょうどいい。その仏頂面をぶっ壊してやる。
バイザーの向こうの顔を想像しながら、布をかぶせ隠したバットを握りしめる。
不用意に近づいてきた彼に居合い抜きのように振り抜いた。
金属バットが風を切り弧を描く。
刹那、驚愕の色が見えたような気がした。
まわりのヒーローたちも色めきたつ。
しかしバットは空を切った。
後退したレッドに一歩踏み込む。
切り返し、もう一度バットを振り抜いた。
――なに!?
レッドの姿が消えた。
消えたように見えた。
素早く身を沈めたのだ。
――嘘だろ。普段は、こんな…
サブマリン投法のような軌道で突き上げられた拳が少年をとらえた。
「がはっ…」
吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられる。
マスクが外れ、やかましい音を立てて転がっていく。
「やっぱりそうだったか。少年、キミはもっと賢明な男かと思っていたのに」
「大切なものを壊されていくのを黙って見てるのが賢明か?だったらオレは…」
「大切なもの?野球部のことか?それとも…マネージャーのことか?」
他のものたちが動こうとする気配があった。
「待て。この少年とは一対一でやる。手出しはするな。彼は自分が何をしているか客観的に見ることができなくなっているようだ。しでかしたことの大きさをオレが分からせてやる」
ヒーローとただの人間。
さしでやっても絶望的だろう。
それでも少年は迷わず踏み出した。
フルスイングしたバットが空を切る。
攻撃をかわしたレッドの強烈な攻撃が腹部を襲った。
思わず膝をつく。
「どうした、こんなものか?」
「…まだまだ」
遊ばれているのか、見せしめのためか。
手加減しているのだろう。
本来なら一撃で意識も吹き飛ばされていたはずだ。
少年は滅多うちにされ、ふらふらになっていた。
痛みに耐えて前に出る。
レッドが身を投げ出した。
普通の人間だったらなすすべもなくやられる超スピード。
少年は野球で培った動体視力と反射神経で咄嗟に反応した。
弾き返してやろうとバットを振る。
ヒーローの超スピードに何とか反応したのはいいものの、その軌道まではつかめていなかった。
万全の状態ならつかめていたかもしれないが、少年はすでにぼこぼこにされ鈍くなっていた。
レッドの体は想定していたよりもずっと低い軌道を描いた。
ベースに滑り込むときのような姿勢。
スライディングキック――もしくは超低空のヒーローキック。
足をとらえられ、あえて地面に身を投げ出す。
下手に踏ん張っていたら足の骨を砕かれていたかもしれない。
「くそっ…」
額かどこか切ってしまったらしい。
派手に出血する。
それでも戦闘を続行する。
「もう諦めろ、少年」
出血がどんどんひどくなる。
おうど色のヒーロースーツに赤が染み込んでいく。
「…フッ、なるほど、それで黄土色か。よかったな、お揃いだ」
「そんなわけないだろ」
朱に染まった衣を確認して苦笑いする。
血まみれになって、ようやくお揃いだなんて悪趣味すぎる。
少年は果敢に向かっていった。
ヒーローたちに囲まれ逃げることはできないのだ。
攻めるしかない。
だが、ことごとく空振り。隙だらけになった体にカウンターを叩き込まれる。
完全に遊ばれていた。渾身のスイングがかすりもしない。切り裂くのは虚空だけ。
ヒーローが大きく振りかぶった。
ストレートがくる。
まるわかり。
――こっちがボロボロだと思って油断したな。
残った力を振り絞り、レッドのストレートに合わせてバットを振り抜こうとする。
「がはっ…」
しかし、バットは途中で手から離れてしまった。
ストレートが少年に叩き込まれた。
予想以上の速さ。
間近でぐんと伸びた。
ストレートを食らった少年は仰向けに倒れ、大の字のまましばらく動けなかった。
洗脳された少女を救いだすためヒーローに戦いを挑んだ少年。
王道を征く、おうど色マスク。完封負けを喫した。
ようやく意識を取り戻し、あげようとした顔に陰がかかる。
レッドが見下ろしていた。
「マネージャーから最近キミの様子がおかしいと報告を受けていた。何をしでかすかわからないほど追い詰められている、と。だから情報を集めていた。彼女の先を見通す目は確かだったようだ」
「なに…?」
「彼女はキミのクセまで教えてくれたよ。戦いのときにもそのクセが出るなんてな。」
駆け寄るものがあった。
「レッド様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
洗脳された少女。
ぼろぼろの少年には目もくれず、レッドの心配をしている。
レッドがちらりと少年を見下ろした。
「少年の癖を事前に知っていたから勝つことができた」
「そんな…♡私は何も…。」
「マネージャー、キミのおかげだよ」
少女の頬が赤に染まった。
仲を深めるための踏み台にされた少年は呆然とする。
少女が少年を見下ろす。
「まさか、こんなことをするなんて思わなかったな」
レッドに向けていたものとは違う、冷たい視線。
失望の色が浮かんでいた。
「見損なったよ」
そう吐き捨てて踵を返す。
長い髪がふわりと舞った。
少女は甘えるようにレッドに寄り添った。
「さ、こんな人放っておいて行きましょう、レッド様」
「待ってくれ!」
思わず呼び止める。
けれど彼女は行ってしまった。
少年は呆然としていた。
見損なった、そう言った時の彼女の目の色は冷たく、そして毅然としていた。
まるで一瞬だけ洗脳が解けたかのように。
レッド様、レッド様。
彼女がそう連呼するのを聞くのはつらかったが失望される痛みに比べたらどうということはなかった。
「うあああああああああっ!」
選択を間違えてしまった。
なぜこの道を選んでしまったのか?
一刻も早く彼女を元に戻したかったから。
ヒーローたちの魔手から救い出したかったから。
焦りすぎていた。
彼女を失望させてしまった。
野球に対しては真摯だったヒーローたちならきっと勝負を受諾してくれただろう。
時間はかかったかもしれない。
けれど野球で決着をつけるべきだったのだ。
過ちに気づいた少年は絶叫と絶望とともに崩れ落ちた。
かつての少年はある能力を身につけた。
きっと強い後悔の念が能力を発現させたのだろう。
絶望の未来を避けるためにパワポケ7の世界に飛んだ。
「ここか…おや?」
平行世界の自分を発見する。
挨拶もそこそこに、さっそく説明をする。
「異なる世界のオレよ。いくら大切な人を洗脳されたからといって暴力に訴えるのはダメだ。ヒーローとは野球で…」
「言われなくてもそのつもりだけど」
「そ、そそそ、そうか。ならいいんだ」
その後も世界を飛び回る。
だが、レッドに暴力で挑もうとする自分には出会わない。
皆まずは野球で勝負を挑んでいる。
――どういうことだ?まさか、レッドに暴力で挑んだのはオレだけ?いやいや、そんなはずはない。なんならレッドと喧嘩して勝利したオレなんてのもどこかにいるはず…いる、よな?…いない?まさか…