「ふっ……!」
森の中を駆ける。自分たちが住んでいる場所は森の奥。ゆえにこそ周囲は木々に囲まれていて、この世界では戦争が起きていないために、わざわざこんなところに来るような輩は最初から俺たちの平穏を崩しにきた連中のみだと断言できる。
人類にはありえぬ速さの疾走。それを支えるのはマナと呼ばれる、
見た目は人間のままだが、決して人間とは同じではない。肉体を構成するのがマナに変わっていたり、と様々な変化がある中でも、そのことが最も分かりやすいのがこの身体能力である。
ただ、だからと言ってそれがいいことばかりかと言われると首を横に振らざるをえない。マナ嵐をはじめとした明確な弱点などが発生している。それは『マナ存在』というものになったから。だが、それがどういったものなのか、未だにそれはよくわかっていない。
とにかく、永遠神剣の担い手……神剣使いと呼ばれる、永遠神剣の契約者はこの身体能力などの要因で、同じ神剣使いでないと勝負はできない。殺すことなど決して不可能。あるいは、神剣使いでなくとも刃を届かせることは可能なのかもしれないが、そんな傑物にはお目にかかったことはない。
そして、その身体強化率は位階によって差が出る。永遠神剣は十位から一位まで存在し、”剣”と称しているにも関わらず剣の形をしていないことなどざらにある。それでも、基本的には永遠神剣の能力とは十位が最弱で、一位が最も能力的には強い。相性や神剣とのシンクロ率などもあったりするので一概には言えないが、身体強化率もそれに準じている。
俺の「天命」は第一位。その身体強化は、それこそ音速を超えることだって容易である。
「見つけた……! 行くぞ、アリス!」
『はい! パパッと終わらせてしまいましょう!』
数十秒走っていた中で瞳が捉えたのは、二十五人からなる、女性だけで構成された
赤属性は炎。相手に対して破壊をもたらす、攻撃性に特化した性能。
青属性は氷。相手の魔法を凍てつかせ全てを封じる、ジャミングに特化した性能。
緑属性は風、あるいは大地。生命の息吹を以って仲間を回復させる、大地の頑丈さで攻撃を受け止める、命を守ることに特化した性能。
黒属性は闇。相手に本能による原初の恐怖を与え、その肉体の動きを阻害する性能。
白属性は光。自らの仲間を鼓舞し、その能力値を上昇させる性能。
そんな程度でしか判別できない少女たちに個別の名前なんてものはない。あるのはただ、ミニオンという種族名のみ。それは高密度のマナを利用して生み出された存在。何故かそのすべてが女性の姿をとっている。下位の神剣を携えており、通常の人間では歯が立たないところは普通の神剣使いと同様で、個体の能力は神剣使いにとっては然程脅威にはならない程度だが、条件さえ整えば際限なく生み出すことが可能であるため、数の多さが脅威となる。そんな存在。
問題は、どこの誰がこのミニオンを生み出した存在なのか、という話になるのだが。少なくとも誰が生み出したのかはわからないまま。けれどミニオンがやってくるような場所はこの近くにはない。───俺たちの家を除いては。指示がなければミニオンがこんなところにまでやってくる理由なんてないだろうからこれはつまりそういうことで。だからこそ、毎回家の近くにやってくる前にその殺戮を行っている。
「ふっ……!」
マナを肉の内に納め、極限まで隠密性能を高める。周囲に漏れ出すマナの量を減らすことで極限まで感知をされづらくする。
飛び出したと同時、俺が振るった神剣が真一文字を描き、敵対者の首を狩る。同時に狩ることに成功した数は合わせて五。数にして全体の五分の一。そこでようやく残りのミニオンたちが俺の存在に気がついたようだが、今となってはもう遅い。ミニオンたちに陣形など取らせはしない。
当たり前の陣形であれば、緑属性のミニオンが物理攻撃を防いで、赤属性のミニオンが魔法攻撃を防ぐ。その間に白属性のミニオンが自軍の能力値を上昇させて、黒属性のミニオンが敵軍の能力値を下降させる。青属性が重たい攻撃を仕掛けて防戦に回させることで、自分たちのペースに持ち込む。そこから、赤属性が後方に下がって神剣魔法を放ち続けるのが基本なのだが───。
「そんなこと……」
『させません!』
位階差による能力値の絶対の差を以って、その緑属性のミニオンを防御の上から両断する。放たれた赤属性の魔法を理力防御に比重を置いた防壁を張ることで、一切の熱すらも通さずに防ぎきる。
赤属性の魔法を展開すると青属性のミニオンの神剣魔法、アイスバニッシャーが魔法陣を凍てつかせるが、それは己の魔法陣を凍らせるには足らない威力でしかなかったので、氷は内側から溶けて消えて魔法陣の稼働が開始し、奥にいた赤属性のミニオンも焼き尽くす。
青属性の魔法によって奥に下がった緑属性のミニオンの回復魔法を阻害して、黒属性の魔法が纏わり付いた肉体を白属性の魔法で強化することで普段通りにまで戻し、逆に黒属性の魔法で敵の動きを鈍くする。青属性の高威力の攻撃を、緑属性の魔法で肉体を強化することで右腕で受け止めて、そのまま左手に持った神剣で串刺しにした。
俺の「天命」は、本当に珍しく五属性全てを扱える。だからこそすべての敵に対して対応できるし、だからこそ戦いになるとどの魔法を扱うのか、という正解を見極めるのが大変な神剣でもある。
今回のように普通のミニオンであれば、ある程度はミスをしても何も問題なく倒しきれるのだが、俺たちと同じエターナルが生み出したミニオンの場合は、とてもわかりやすくエターナルミニオンと呼称される。このレベルになると、さすがに何度ミスをしても問題はない、なんてことは言えない。なので、普段からユーフィーに訓練に付き合ってもらっている。これが、最近のユーフィーが己の永遠神剣である、永遠神剣第三位「悠久」を使用する唯一と言ってもいい機会。
そんなことを考えながらも残り五体。
槍型の永遠神剣を持つ緑属性のミニオンの突きを最低限の動きで避けて、その胴体を真っ二つに割る。赤属性のダブルセイバー型の永遠神剣を持つミニオンの神剣魔法は、同属性ながらもより高火力の神剣魔法で押し流し、そのまま焼き払う。その爆炎の中から飛び出してきた片手直剣型の永遠神剣を持つ青属性のミニオンの剣戟には真正面から打ち合い、神剣の位階差によってそのまま神剣ごと両断する。白属性の、杖型の永遠神剣を持ったミニオンによる
これで終了。気配は周囲には存在しない。一応の索敵をアリスに頼んで、けれど多少は気を抜いて。
「とっとと帰るか」
『はい、そうですね』
マナの霧となったミニオンたち。それを吸収しながら、もう一度神剣の力を解放。来た時と同じように音速を超えて駆け出す。速度そのものは音速を超えていようとも、それを操る俺自身がその身体能力を活かしきれていないために、戦闘時は常に音速、なんてことができないのが残念なのだが、それでも今はこれで十分。
戦闘によるものとはまるで違う熱を体に帯びながら、全力疾走で家へと帰った。