※この作品はR-18です。

Venus Blood Eternal   作:ぴんころ

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第四話

「ユーフィー、それじゃそろそろ出かけようか?」

 

「うん。もう、あたしの準備はできてるよ」

 

 

 そう語るユーフィーの格好は外行きのもの。今は夏。よって彼女の服装も季節感に合わせて、白いワンピースに麦わら帽子、それと素足を見せるサンダル。

 

 そんな彼女と指を絡めて恋人繋ぎ。今日の買い物が何を買うことを目的としているのか、そのことはわからないが、彼女と出かけるのも久方ぶりな気がする。だからこそ、その事実だけで心が弾んでいることを否定できない。

 

 

「えへへ……」

 

「どうかしたのか、ユーフィー?」

 

 

 笑顔の少女。その笑みはこれまで見た中でも上位の可愛さ。……いや普段からユーフィーが可愛いのは事実だが、それでもその笑みから零れる幸せです、というオーラはとても大きかった。こちらを下から覗き込むような瞳にはわずかな茶目っ気が見えて───

 

 多少、悲しくなる。

 

 

「ユーフィー」

 

「あ、うん、ごめんね……」

 

 

 俺の言葉に彼女が笑顔を曇らせて謝ってくる。違う、そういった姿が見たかったわけではない。俺は、彼女の笑顔が好きではあるけれど、それが無理をしたもの、彼女らしからぬ笑顔であることが堪え難いだけなのだ。

 

 ユーフィーは、両親と親友、さらには仲間。つまりは大事な人を一気に同時に失っている。それは彼女自身のミスであることは疑いようがなく、だからこそ彼女は”失う”ことを忌避している。それは、誰かが死んでしまうことから始まり、誰かが自分の側から離れていってしまうことも含めて。

 

 だから今の彼女は「相手が求めるユーフォリア」の姿を演じようとしてしまう。俺はそのままのユーフォリアを望んでいるがために、彼女自身どんな姿であればいいのかわからずに、様々な姿を持ってきてしまうのだが、それを彼女が演じていると理解できる程度には彼女のことを知っているつもりだから、それを見切ることができてしまう。

 

 結果として、彼女は偽っているから捨てられてしまうのではないかと怯えてしまい、今のように抱きついて捨てないでほしいと潤んだ瞳で懇願してくる。

 

 

「大丈夫、落ち着いて。俺がユーフィーのことを捨てたりすることはないから」

 

「……本当?」

 

「ああ。むしろ、俺がユーフィーに捨てられるんじゃないかって。どっちかっていうとそっちの方が不安で」

 

「そんなことしないよ!」

 

「それなら良かった」

 

 

 それならばいい。正真正銘のデート。俺とユーフィーの間のデートは本当に久しぶりのこと。

 

 何処に行く、と問う。買い物に出かけることは聞いているが、それが何を買うことを目的としているのかは知らないので。だからこその質問だったのだが、出かけようと言ってきたユーフィーは言葉を濁す。

 

 

「えっと、今日は買い物。やっぱりやめてもいいかな?」

 

「え? 別にそれぐらいならいいけど……」

 

 

 それなら何処に向かうのか。そう問いかけると、彼女は言葉にして返事をする代わりに家のある場所よりも奥地へと俺のことを引っ張って行く。

 その場所にあったのは何か、と思い返すよりも先に、俺たちは彼女が目的とした空間にたどり着いていた。

 

 すなわち、一面の向日葵畑へと。

 

 

「えいっ!」

 

「おっと……」

 

 

 ユーフィーが真正面に回り込んで俺に突進してきた。その勢いに従うようにして二人して花畑の中に倒れこむ。そのまま彼女の顔が近くにまでやってきていて───

 

 

「ん……!」

 

 

 啄ばむように、触れ合う程度のキスを行う。繰り返し行われるキスは、彼女の知る唯一の性的な行動。舌を絡めるディープなキスも、ましてやセックスすらも彼女の知識には存在しない。彼女のことは穢してはならない存在のように思われて、そのようなことを言葉でも実技でも教えることは憚られた。

 

 

「えへへ……」

 

 

 純粋な笑み。最近はなかなか見ない、心の底からの笑みだった。

 

 要するに、彼女はこの場所で二人、長閑に時間を使ってしまうことが今日願うことらしい。彼女がそれを望むのならそれに応えない理由はない。

 

 キスをして、キスをされて。その繰り返し。たったそれだけで太陽が東から昇り、西に沈むまでの時間を全て使ってしまう。それを幸せに感じることができて、苦に思うことが一切ないという事実。それが、俺が彼女にベタ惚れなのだということを再確認させられて、ホッとしてしまう。

 

 だからだろうか。その気配に気がつくのに一瞬遅れてしまったのは。

 

 

「ッ……!」

 

 

 気がつけば戸惑うことなど何もなく。片手でユーフィーを抱えて、起き上がって後ろに下がりながら「天命」を引き抜いて横薙ぎに一閃。その一撃は空間に発生した壁のような何かに弾かれてしまうが、それでも、その気配の正体を確認することには成功した。

 

 それは永遠神剣の気配。それも、先ほどのミニオンのように脆弱な気配ではない。ユーフィー……永遠神剣第三位「悠久」の担い手、悠久のユーフォリアよりも強大な神剣。

 

 その気配を漂わせるのは、サングラスをかけた長髪の男。

 

 ただし、何よりも見た目で目を惹く部分は、額に存在する第三の目と、そして右腕、左腕、さらにもう一本存在する三本目の腕。それらを備えた大男(エターナル)の名前を、俺は知っている。出会ったことはないけれど、その名前を知っている。

 

 漂わせる永遠神剣の気配はその総身から。武器として顕現している何かが存在しない。けれどそれも当たり前。彼の永遠神剣は”半身型”なのだから。

 

 ロウ・エターナルが一人。輪廻の観測者”ボー・ボー”。それが、今目の前にいる男の名前だった。

 

 

「何しに、来やがった……!」

 

 

 別に彼は敵という訳ではない。憎む理由だってない。これまでにも何度か助けてもらったこともある。けれど、それらも過去のこと。今この場にいる。たったそれだけのことで今の俺たちは敵として見なすには十分な理由。ユーフィーは、これ以上誰かと関わって友達を増やしたりするようなことをしたくないと言っているから。失う怖さを知っているから、今以上のことを望みたくはないのだと。

 

 

「お前たちに、頼みごとがある」

 

 

 ユーフィーを戦いに参加させない。この状況でいかにしてユーフィーだけを逃すのか。そのことを考えていると、ボー・ボーが言葉を発する。その声は無駄に聞き取りやすく、そしてどこか引き込まれるような雰囲気を持っていて、逆にイラつかせられる。

 

 イラついていることを悟ったのか、ユーフィーは俺の手を握ってくる。おかげで多少落ち着いたが、それで敵意が消えるわけではない。

 

 

「うるさい、知るか。俺たちがわざわざ出ないといけない理由がない。俺たちはこれからもずっとここで暮らしていくつもりだ。お前らエターナル同士の抗争になんか巻き込むんじゃない」

 

 

 いいか。

 

 

「俺の行動基準は全部ユーフィーが根底だ。彼女が関わることを望まない以上、エターナルは全員敵なんだよ。たとえそれが、ユーフィーの昔からの知り合いだろうとなんだろうとな」

 

 

 それが、ユーフィーの望むことなら。

 それが、ユーフィーのためになることなら。

 彼女のためにならばなんだってする。それだけの気持ちでここにいる。

 たとえ誰(・)が(・)相(・)手(・)だ(・)ろ(・)う(・)と(・)、何(・)を(・)し(・)な(・)い(・)と(・)い(・)け(・)な(・)い(・)と(・)し(・)て(・)も(・)。

 

 俺は、なんだってやる。

 

 

「だから死ね。ユーフィーと俺に関わろうとしたことを後悔しながら死ね」

 

 

 ユーフィーの手をわずかに離して、ボー・ボーを殺すために駆け出そうとしたところで。

 

 

「俺の頼みごとが、お前たちの平穏を守るためだとしてもか?」

 

「……何?」

 

 

 その言葉に動きを止められた。

 

 

「ソラ……」

 

 

 話だけは聞いてみよう、とユーフィーからの無言の訴え。それがなかったとしても、もしも万が一、億が一にもボー・ボーの言葉が真実だった場合、彼女のことを守るためには聞かざるを得ない。

 

 俺たちから一時的に戦意が薄れたのが見て取れたのかボー・ボーは話を始める。

 

 

「今現在、何者かによって過去改変が行われている。それによって何人かのエターナルが存在しなかったことにされる程度にはすでに被害が甚大だ。……時遡(ときさか)の能力で干渉された次の地点が、永遠のアセリアと聖賢者ユウトがエターナルとなった時間軸。つまりは、そこにいる悠久のユーフォリアの両親の出会い」

 

「……このままだと、ユーフィーが生まれなかったことになるかもしれない、ってことか」

 

 

 そしてそれはつまり、ユーフィーによってエターナルに導かれた俺も、エターナルにはならないということで。

 

 いいや、別にそれはいい。俺がエターナルにならないのは別にいい。問題はユーフィーが生まれなかったことになるかもしれないということだけだ。

 

 

「でも、なんで俺たちなんだ?」

 

 

 だが、それを行うのがわざわざ俺たちでないといけない理由がない。

 

 これが彼の道楽か何かで俺たちを選んだというのであれば、それを許すつもりはない。そのつもりで神剣を持つ手に力を込める。

 

 

「お前の神剣の能力だ。永遠神剣第一位”天命”の担い手。”天命を奪われた者”よ」

 

「ああ……」

 

 

 納得した。してしまった。これで俺が行かざるを得ない事案なのだと理解した。

 

 だからこそ、ユーフィーの方を見る。

 

 

「ユーフィーはどうする?」

 

 

 今回の一件で必要となるのは俺だけ。ユーフィーが戦いたくないのであれば連れて行かないことだって可能。だけど、彼女が俺と一緒にいたいと言ってくれるのであれば、それは連れて行かないという選択肢を取らないことはできない。

 

 

「ついていくよ。……ソラがいないのは嫌だもん」

 

 

 その言葉に心からの嬉しさを抱いて。けれど同時に彼女を、彼女自身が厭う戦いに巻き込まないといけないことを悲しんで。

 

 その上で、ボー・ボーに対して頷いた。

 

 

「それでは、お前たちをその時代にまで送る。一応、あの時代に存在する『時詠のトキミ』には事情の説明はすでにしてある。おそらくは、手伝ってくれるだろう」

 

「敵なのに、か?」

 

「敵であっても、世界が変わってしまう、という一点を厭うのは同じ、ということだ」

 

 

 その言葉を最後に、ボー・ボーが言葉を発することはなくなる。代わりに、彼の第三の腕がマナを集中させ始める。そこから発せられる永遠神剣の気配はより強く。永遠神剣第二位「無限」の担い手としての実力の片鱗を見せていた。

 

 

「では、後のことは任せたぞ」

 

 

 その言葉とともに、俺たちの視界が揺らぐ。姿がこの時間軸から消えていく。次に目覚めた時には見知らぬ土地となる。けれど繋いでいるユーフィーの手だけは離さずに。そうして、俺たちの姿は消えていった。




次回からは永遠のアセリア。え? 何をするのかって? 永遠神剣版FGO
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