事務所からの帰り道、線の細い男に襲われた森久保は意識を失ってしまい…
森久保の手が焼かれた、部屋の階層を調べるためにカーテンを横に引こうと手を伸ばした森久保の手を太陽が焼いたのだ。
森久保の綺麗な細くて白い手は火の付けられたタバコの先端みたいになってしまった。
森久保が反射的に手を引き地面に転がり落ちる、先程までの綺麗な手とは変わり血管の張った赤い肉と黄色い脂肪が見えて醜悪な印象を与える。
痛みからか、絶望からか森久保は目のふちに涙を浮かべる。
「これじゃあまるで…吸血鬼…」
森久保は日光に体を焼かれる生物に覚えがあった、そう吸血鬼だ。漫画やアニメにしか出てこない存在、人の生き血で喉を潤し自分の血で配下となる子吸血鬼を増やす、そして弱点は十字架と日光、その2つを向けられると邪悪な者である吸血鬼はひとたびに灰と化してしまうのだ。
右腕の皮膚の表面が灰になり地面に崩れ落ちる、灰となった皮膚は胸をムカムカさせる臭いを放っている。
そして空気に触れたからか、腕まで焼かれたからか先程焼かれた部分がヒシヒシと傷んでくる、ライターで焼かれるようなそんな熱を含んだ強烈な痛さ。
森久保は悶絶しそうになるのを耐え肉の露出した醜悪な右腕をバイ菌がつかないように上にあげながらまた横になり痛みを耐える。
「森久保はどうなっちゃうんでしょう…」
優柔不断でネガディブな彼女にはあまりに荷が重すぎる、酷な役回りだ。
森久保は自分をカフカの変身という作品の主人公に重ねる各々の事情で金を稼げなくなった家族を辛くも養っていた青年が朝起きたら巨大で醜悪な毒虫になっていた〜という話だ。変身でいう毒虫になった自分を皆はプロデューサーは受け入れてくれるのだろうか。それとも森久保も…
自分でも泣きたくなるくらい悲観的な憶測をする。
言葉にできない痛みからかそのあながち否定できない憶測からか森久保の涙は頬をつたり床に水溜まりを作る。「プロデューサー…森久保は化け物になっちゃったんでしょうか…」
自分の右腕を見ながらポツリと呟く。皮膚の禿げ肉の露出した腕は薄い肌色の膜を張り元に戻ろうとしていた。
その現象は自分の憶測に対する返答のように思えた、お前は化け物なのだという返答。身をもって分からせられる。
暗く閉ざされた部屋、ドアのあった方向からカチャカチャ音が聞こえる。誰か、来る。
ドアから人工的な光が差し込み森久保の涙に濡れた頬を照らす。
「あぁ、そうだ森久保は化物になってしまったんだ。」
後光で顔は影に隠されていたが、よく見たネクタイと聞き覚えのある、あの落ち着く声ですぐにその人の正体が分かる。
「プロ…デューサー…」
いつも見ていた彼の顔だが、残酷な返答を零したその口元には未だかつて見たことの無い狂気を漂わせていた。