※この作品はR-18です。

軍神お迎えできなかった無念   作:餅屋

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昨日忘れ去られていたテキストが発掘されたので。
随分と遅くなって申し訳ない……


炎狼府で夢の名残を

「暑いですね……」

 

 ある騎空団を率いる青年──グランは、半ば放心したように共をする小さな姿──ザルハメリナへそう漏らした。

 

「ふう……ふぅ……ええ。私もこう暑いのは苦手なので、その、『交火(まじりび)の炉』? が早めに見つかると良いんですけれど……」

「炎狼府も広いですからね……」

 

 大気はじりじりとした熱を孕み、汗はぷつぷつと噴いて球を作り出している。ただ歩くにも難儀する地──狼炎府の調査を依頼されたのは数日前の事だった──。

 

 ◯◯

 

「──あなた方へ、炎狼府の調査を願いたいのだが……」

 

 スヴァルの中でも頭脳労働に優れた者──ガイルと呼ばれる彼は、ミックスパイにかぶりついている部下──ギンタをじろりと見やりつつそう答えた。

 

「それは、僕たちである理由ってあるんでしょうか?」

 

 グランが問い返せば、ガイルはうむ、と頷いてギンタを小突き、その理由を答えさせた。

 

「むぐ……氷晶宮の【こうしんの間】については知ってるか?」

「名前だけなら、案内はされましたけど……」

「その【こうしんの間】と同じ機能を持つ場所が此処にもあったらしくてよ? でも場所がわからなくなってんだ。ヤリーラ様も消えちまったからもう機能は喪失してるだろうって話なんだが、それでもよ……えー、象徴? として知っておきたいって声が多くてな。で、お前らに調査を頼むのはその機能が理由なんだ」

「機能? ですか?」

 

 青年のといへギンタはこりこりとこめかみの辺りを掻き、彼としては珍しく言いづらそうに答えた。

 

「あー……はっきり言うと異種間での繁殖だ」

「はぁ…………繁殖?」

「スヴァルは男しか居ねえのさ。同様にクリスタリアも女しか居ねえ。でもずっと昔にはそうじゃなかったそうだ。今までは精霊様が俺たちを産み出してくれたが、これからはそうはいかねえ」

 

 赤くなった青年の顔を気にすることもなく続いた、普段に比べればぶっきらぼうなギンタの言葉を、ガイルが引き継いだ。

 

「君達が居なかった時期、ゲルラ様がリリィ殿に精霊との交信で何を見たのか訊ねた事があります。彼女の記憶も断片的なものでしたが、スヴァルとクリスタリアでお互いに考察を重ねた結果、過去を見たようだと考えられました。この島が三つに分かれる前の」

「争う前の?」

「人と亜人ではなく、人がいた時代のです。誰もがつがいになりえた時代の記憶を見たらしく。炎狼府と氷晶宮の崩れた場所には、我々の未来への手がかりがある可能性が高い。ひとまずあなた方には、【こうしんの間】と同じ機能を持っていた【交火の炉】の探索を依頼したいのです」

 

 こちらでも探索は続けているが助力を頼む、と締め、ガイルは頭を下げた。

 

 ◯◯

 

 ──そして、今に至る。

 しばらく滞在するのでどうせなら、という事で氷晶宮にも人手は割いているが、今彼らが探索している辺りはグランとザルハメリナの二人だけである。

 

「──そろそろお昼ですし、一旦切り上げきゃぁっ!?」

「ザルハメリナさん!? うわっ!」

 

 ザルハメリナが踏み入れた地面が崩れ、態勢を崩した。その箇所を呼び水として、青年の足元までも一気に亀裂が走り、一帯の地盤が不安定さを増す。

 咄嗟に青年が取った行動は、ザルハメリナを守る事だった。彼女の手を取るとほぼ同じくして、限界を迎えた地盤がぼこりと崩落した。

 

「団長さん!?」

「いいから僕にしがみ付いてて下さい!」

 

 彼女の声を遮るように抱き締めて、二人、下へと転がり落ちていった。

 

 青年は一際大きい衝撃に目を開いた。心なしか先程より大気が熱くなっている気がした。

 ぎゅうと握られた服を見れば、守った相手の──ザルハメリナの手がぶるぶると震えている。

 何事か、と思い視線を彼女の顔に移すと、

 

「──っ! なんであんな事したんですかっ!」

 

 目尻に涙を浮かべて彼女は激昂していた。

 

「私に構わずに助けを呼ぶべきだったでしょうっ……! なのにどうして……」

「気付いたら体が動いていたんです。ごめんなさいザルハメリナさん」

 

 小さな手が段々と力を強めるのに反して、紡がれる言葉は弱々しく萎んでいく。

 暫しの間、鼻をすする音が響いていた。

 

 彼女が落ち着くまでの間、青年は辺りを見回していた。

 崩落した箇所はかなり高い位置にあり、登れそうにない。ここはかなり広い空間であるようだった。

 床は何らかの手が加えられたようで、自然にできたものとは考えにくく、何より、熱い。

 気が落ち着くに連れてはっきりと感じた。なぜかはわからないが、じっとりと湛えられた暗がりの向こうにその源があるように思えた。

 

「ザルハメリナさん、あの……」

「──すん、ご、ごめんなさい。自分でもわからないのですけど、なんだか気が高ぶってしまって……あら?」

「ここ、何か気になるんですけど」

「これは……もしかしたら此処が探していた場所かも……? あら? 何か、呼んで……?」

「ザルハメリナさん……?」

 

 立ち上がり、ふらふらと奥へ向かっていこうとする彼女に青年はおっかなびっくり、着いていこうとする。

 

「この感覚は……? お天道様とは違うけれど……」

 

 しかし彼女の足取りは驚くほどしっかりとして、体力に優る青年がよろよろと後を追う形となる。

 

「近くて、違って……私達に、見せたい物がある……?」

「──何があるのか、教えてくれたって、いいんじゃないですか……?」

 

 やっと追いついた頃に、少しの恨み交じりに嘯けば、小さな火を見つめていた彼女はひらりと身を翻し。

 

「彼が見せたいそうですよ……? あるべき姿? を……」

 

 そう応え、青年は答えを返す間も無くゆらりと震えた火に目を奪われて。

 

 意識が途絶えた。

 

 ◇

 

 青年が目を開けると、いつの間にか煌々と燃え盛る炎の前の祭壇に立たされていた。

 傍にはザルハメリナが同じ様に立っている。目の前の光景に目を白黒とさせる様を見るに彼女もこうなるとは思っていなかったのか、赤らむ頬に驚きが窺える。

 

「団長さんあの……まさかこうなるなんて思っていなくてですね……? その……申し訳ありません」

 

 現実ではないのだろう、という確信にも似た感覚が二人にはあった。というのも眼前にある様に起因する。

 

 祭壇の下で、男と女が睦み合っている様が、見えた。

 

 青年が赤らんだ顔で漏らした。

 

「あの……これ、は……」

「彼が言うには……昔の……光景らしいんですけど……その……交火の炉で行われていた繁殖だそうです……」

 

 辺りは熱狂に包まれている。

 

「えっ、えっ? あの……えっとですね……」

 

 顔を赤らめた彼に、がしっと肩を掴まれた彼女は青年の男をいやでも感じて、自分と致す事が満更でもないらしい青年と、何よりも自分に混乱し、消え入るような声で口にした。

 

「こ、これは……緊急事態、ですものね……それで、その……脱出の為に、お、お勤めさせていただきます……」

 

 覚束ない呂律の彼女は青年の目にも、見た目相応の怯える子に見えたとか。

 

 ○

 

 揺らぐ灯火が、茫と二人を妖しく照らした。

 祭壇の中心に備えられている寝床へ、あられもない姿の矮躯がたふ、と沈み込む。随分質の良い寝床だ、とザルハメリナは考えていた。

 たっぷりと敷かれた細かな粒に、立派な布を被せて包んである。温い水の中にいるような心地があった。

 彼女は影を映す天井を見た。これから自分達の交わる様が、影の輪郭となってかつての誰かに伝わるのだ。神事の一種と考えれば耐えられそうではあったが、それでも恐ろしさが残っている。

 

 しゃらりと拡がった、上等な絹を思わせる触り心地を持つ白銀の髪は、柔らかな温もりを湛えていた。

 互いに身を隠すものを陰のみとして、しかし秘める熱は充分に暖かで。

 怯えかどうかも判別のつかなくなった、震えるちいちゃな手を、そっと青年の手が覆った。

 

「ぁ……」

 

 ザルハメリナは、静かに、ゆっくりと、自らの震えが治まっていくのを感じた。また同時に、彼に対して多大な安心感を抱いている事にも気がついた。

 そっと瞬きの間に自らの気持ちを自覚して、裡に秘めた言葉がするりと紡がれた。この光景を体験させるなにものかが愛を証明させるのなら、きっとこうするのが一番いいと直感が囁いている。

 

「その……団長さん。ええと、あの、顔を下げてくださいますか……?」

「あ、はい……?」

「ありがとうございます。ん……」

 

 そっと柔らかに、互いの唇が触れた。

 青年が感じたのは彼女の温かさであった。彼女は児のような体温の高さをしている事が、途端に現実味を帯びて理解させられる。

 

「んむ……」

 

 小さな舌が懸命に彼の口腔をまさぐる。形は子供であるのに、動きは大人のそれで、アンバランスな感覚が背徳感に似た、昏い快感を呼び起こす。

 長さの足りない腕が青年の頭を抱える。

 高い体温が青年に分けられる。

 彼女を支える手が、赤子のように柔らかな髪の感触を伝える。

 触れる肌が、恐ろしくなるくらいにしっとりとしている。

 なのに、肉付きはちゃんと大人のそれ。

 なのに、身体の稜線は大人の女(ひと)。

 少し力を加えるだけで壊れそうな、砕けそうな、繊細な女(ひと)を、自分は今抱こうとしている。

 そんな仄暗い悦びが、青年の肉にはしっかりと反映されていた。

 

「ん、ぅ……あら……ごめんなさいね」

 

 たっぷり五分ばかりの口付けを終えて、ザルハメリナもその存在に気づいた。とくとくと欲を脈動させる雄が、期待を匂わせて熱り立っている。

 

「実際の経験は無いので、違ったらどうしましょうか……?」

 

 彼女はそう口にしつつ、自分の腕ほどの太さを持つ雄肉に手を伸ばした。眉がハの字を描いて困り顔を描き出す。指先が蚯蚓のような隆起をなぞり、指の腹が生温い熱を亀頭へ与えた。

 彼女とて夜伽の手管は聴いた経験はあれど、片方の指で足りる程のことである。雄肉を愛おしむ指の動きは、どうすればと彼女なりに考えた結果だった。

 

「うん、うん……ねえ、団長さん?」

「は、はい……?」

「私は今この時、あなたに尽くしますから、驚かないでくださいね?」

「はい……わっ!? 汚いですよ!?」

 

 言葉を交わした後、青年の陰嚢に舌を伸ばした彼女はその驚きように怪訝な顔になって、応えた。

 

「あら、愛おしい人の身体に、汚い場所なんて無いと思いますよ?」

「僕の気分の問題なんですよぅ! さっきからされてばっかりですし……」

「あら、あらあら……では、私に、して、下さいますか?」

「はい。……とは言っても、何をすれば良いのかわからないんですけども……」

「あら、それなら簡単ですね……」

 

 青年の言葉にザルハメリナは微笑んで、彼の手を自らの秘所へ導いていく。既に潤いを湛えつつある秘所が、青年の掌にべっとりと水気を分ける。

 青年には彼女の形を整えられた柔らかい叢が、光を湛えているように見えた。

 

「……指を伸ばして、そう、そのまま、挿れてくださいな……ぅん……今挿れている場所が……ふ、ぅ……膣、です……。間違えたら、その、怒り、ます、からね……?」

「ザルハメリナさんの中、温くて……柔らかくて……でも……この中に、僕のは入るんでしょうか……?」

「ああ、ちょっと指を、抜いて、貰えますか……? んっ♡ ……ええと、私のようなハーヴィンの女性は、多少の個人差はありますが非常に柔らかな、というより伸縮する膣口と膣を持つそうです。出産時の負担を軽減する為にそう適応したらしいのですが、も、勿論体格上の限度はあるので、きっと……私は団長さんの、おちんちんをですね……ね、根元まで挿れるのは多分出来ないと思いますけど……その……せ、セックスは可能な筈ですね……?」

 

 そう彼女は青年の疑問に答えた。

 正確に言うと、女性ハーヴィンは体全体の筋肉が非常に伸縮性に富む。受け容れるだけであれば男性ドラフ相手でも一応可能であったりする。流石に男性ドラフ相手では、相応に女性側にも負担が掛かるので滅多にない事だが。

 

「そ、それじゃあ、続きを、しましょうか……先程のように……んぅ♡ そうですよ……♡ ゆっくり、優しく、膣内をなぞってみてください……そう、そうです……♡ うん、ちゃんとできましたね……♡ さ……今度は掻き混ぜるように……♡」

 

 ひとつひとつ、丁寧に、ザルハメリナは青年へ、実践を通して女(ひと)の扱いを教えた。どうすれば快感が与えられるのか、どうすれば傷付けずに済むのかを、少ない知識と、膨大な愛情を持って伝えていく。

 女性の口腔をどう扱うのか、青年の指と舌を借りて。

 ハーヴィンの中ではかなりある方だという乳房を触らせて、舐めさせて、吸わせて。

 青年の希望で、同族の多くが持つ、肉付きの良い太腿を触らせて、舐めさせて、吸わせた。

 多くを伝え、多くを識った。自らの耳、髪、首、腋。

 男はちいさなひとの、赤子にも似た小さな腕を、柔らかな脚を、指先を、匂いを、味を、形を、熱を、覚えた。

 多くを識り、多くを伝えた。自らの耳、首、背、叢。

 女はおおきなひとの、指先を、滾る肉を、硬い骨を、匂いを、味を、形を、熱を、覚えた。

 

 ひとときの中に覚えるべきことが星のように多くあり、しかし風のように疾く記憶に焼きついていく。

 

 腕はこんな大きさだった。

 背中はこんな硬さだった。

 髪はこんな感触だった。

 首はこんな太さだった。

 腋はこんな味だった。

 叢はこんな匂いだった。

 

 けれども──身の裡に滾る血肉だけは、ずっと熱く。

 

 ふっとどちらともなく、凝る熱を散らすべく誘った。腰を降ろし、あるいは持ち上げて、汁に塗れた肉同士はやっと繋がり合い、その悦びをそれぞれへと伝えた。

 艶のある深い吐息が青年の胸にかかる。

 焦りのある浅い吐息が女の髪にかかる。

 

「ふ、ぅ……♡ 根元、ま、で……♡ 挿入っちゃい、ました……ね♡」

 

 ザルハメリナの慈しみに満ちた声は、ずっと甘やかに青年の耳へ沈んでいく。しかしそれとは裏腹に、彼女の膣道は決して離さないとでも言いたげに雄肉を激しく、貪欲に食んでいた。

 愛おしさを顕すように細かな襞が優しく青年の幹を舐り、鈴口へはぴったりと最奥の入口が吸い付いた。

 大きく開いた傘の裏を、彼女の肉がそっとなぞるこそばゆさに腰が抜けそうになる。どぷりと一層濃い先走りを漏らし、瞬く間に舐め取られて情けない声を上げた。

 互いの荒い息遣いが官能を否応無しに高めるのが判った。

 

 今や見たことがないほどにおんなの耳は紅く、柔らかくなって雄の盛える劣情を煽っている。

 今や見たことがないほどに雄の身体は熱く、強張っておんなのささやかな嗜虐心を煽っている。

 

 指で耳に触れば、掌で身体に触れれば、それだけで快い感覚が背筋を通り抜けた。思考がまっさらに漂白されていき、本能の囁きに従ってどちらともなく舌を伸ばした。

 熱の籠った肉が絡み合い、官能の味わいを得て限界まで伸ばされ、唾液を分け合った。官能が湛える仄かな甘さに雄肉は一層硬くなり、雌肉が密着感を増す。

 

 ザルハメリナの捉えた天井に映る影は、青年に覆われるのみ。女が矮躯である事はとうに知られ、組み臥される様子もまた同じくして。

 また影が動き、柔らかくなった長耳が食まれて嬌声を上げた。

 原始の睦み合いが影絵となって詳らかにされる。その背徳感が快楽の段階を否応なく引き上げる。

 抽送はいつしか静まって、手が届く限りにつがいを撫ぜる様が続く。

 息を分け、指を食み、胸を愛で、髪を撫ぜ、あらゆる手管を使ってつがいへ心を伝えようとした。

 

「ぁ……♡」

 

 そのうちに青年の限界がやってきて、ふつふつと煮詰められた精が堰を切られ、女の子宮を染めていった。

 とく、とくと放精を続けながら、朧になった思考で青年は漏らした。

 

「──好きです。ザルハメリナさん、あなたが好きなんです」

 

 言葉を紡ぐ事さえ億劫に思えた。何が理由なのかは分からなかったが、それでもこれだけは伝えるべきだと感じていた。かくん、と力が抜けるに連れ立ち、彼女の声が沁みていった。

 

「──ええ、ええ。でも、これは、夢まぼろしの事なのです。……ですから……」

 

 青年の意識が薄れ、最後まで聞けずに暗闇に呑まれる。最後に覚えた泪の味が、舌先に薫っている……。

 

 ○

 

「──い! ……おい! 起きろ!」

「あ……れ……?」

 

 誰かに呼ばれて、グランの意識が呼び戻された。聞き覚えのある声だ。声の主人の方を向けば、ガイルが焦ったような表情をして此方を揺すっている。ザルハメリナも同様に、ギンタと思しき人物に揺すられている。

 二人はいつの間にやら、最初に落ちた地点へ戻って来ていたようだった。はっと後ろを振り返ると、瓦礫に崩れた通路が灯りに照らされてぼんやりと見える。

 

「あれ、は……?」

 

 グランの疑問を孕んだ言葉にガイルは答えた。

 

「私たちが助けに来た時にはもうああなっていました。軽く検分した限りでは随分前に崩れている」

「そんな筈は……」

「おそらく、ここが交火の炉だった場所だと思われます。ゲルラ様に確認を取らねば確証は出来ませんが。もう少し人員を増やすべきでした。申し訳ない」

「いえ……ザルハメリナさんは?」

「お二人とも大した怪我では無いようですが、確か、脱水症状……と言いましたか。それが表れているようですから早めに処置を。さ、私の背に乗って下さい。登っている最中に落ちられると流石にどうしようもないので」

「はい……」

 

 グランは言われるままに背負われて、徐々に近づく陽光へ目を細める。

 まぼろしの如く掴めない陽炎の夢は、どうにも頭から離れなかった。

 

 ○

 

 数日の休養を経て、出立の時が訪れていた。

 グランとザルハメリナは先に街で待機している仲間たちの元へ向かうべく、ギンタが御者をする馬車に乗り込んでいた。

 

「──それでは、お世話になりました」

 

 青年の別れの言葉を聞き、ガイルがふと言い忘れていたように、スイと座席に近づいて言った。

 

「いえ、此方こそあなた方に大変な思いをさせてしまいました。いずれあの場所の調査が終わった頃には、手紙を出しましょう。お手すきであれば是非来て頂きたい」

「はい! 喜んで!」

「では、またいつの日か──」

「そろそろ向かうぞ……?」

 

 ギンタがそう言い、馬を駆らせた。彼の機嫌よさそうな鼻歌が聞こえてくる。

 カタ、コト、馬車に揺られて。

 二人は並んで座りながら、春風の吹く風景を眺めて仲間の元へ向かう。

 青年は隣に座る女の事を想い、無意識のうちに独りごちた。

 

「あれは、僕の本心だった」

「……ぇっ?」

 

 上がった声の方を向くと、彼女は耳元まで紅く染めながら囁くような声で答えていた。

 

「──で、でしたら……あの……今度……もう一度……やってみます、か……?」

「……聴こえて、まし、た?」

「はい……」

 

 彼女にそう頷かれ、青年の顔もまた紅く染まっていく。

 

 道行く三人の人々を照らす太陽は、祝福のように光を注いでいた。

 




冬が来たので多少投稿間隔がマシになるかもしれません。多少……
というかそろそろファータグランデ各所から苦情が来そうですね?
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