聖グロリアーナ女学院からの呼び声~英国風淑女たちの秘かな愉しみ 作:ねこぴよ
目が覚めた時にはすでに四肢をベッドに固縛されていた。
ここはどこかと見回せば、目に入るのは四隅で真鍮の柱輝く豪華極まる大きなベッド、瀟洒なつくりのカーテン揺らめくこれまた大きな窓、きっちり磨かれたマホガニーの家具類。そして隣には、高価そうなティーカップを掲げるように持った金髪の少女がいた。
「あら、目が覚めたようね。御機嫌はいかがかしら」
わけがわからなかった。ここはどこだ。彼女は誰だ。なぜ俺は手足を縛られているんだ。尋ねようにも、タオルで猿轡をされた口ではそれもあたわない。
俺は不可解なこの状況に混乱した。動かぬ手足をそれでも無理に動かそうとして、じたばた暴れる。しかもこのベッド、見た目より居心地の悪いベッドでたぶんクッションが壊れている。動くたびにぐねぐね動いて今にも分解しそうだった。不快のことだらけだ。
「ふふ。落ち着いてくださいな。取って喰うようなことはしませんよ。たぶん。まず、ここはとある学園艦にある寮の中。わたくしは……そうですね、ダージリンと呼んでくださいな。この学園の学園生ですわ。あなたは『招待』されたのです」
声を発せない俺の疑問にどういうわけか答えてくれる。学園艦……俺は学園艦に乗せられているのか。緋色の制服。どこかでみたような……
「ここに滞在する間、あなたのことは『チャーリー』と呼ぶことにしますわ。よろしくって? チャーリー」
なにを勝手なことを……不自由を強制されているこの状況とも合わせて、抗議のジェスチャーをする。つまり、首をはっきりと横に振った。
「あらあら。ちょっと難しい子なのね、チャーリー。……いいわペコ、いつものように」
「はいダージリン様」
もう一人いたのか。まったく気配をさせずに部屋の片隅にいたもう一人の少女が歩みでる。栗色の髪をきっちり編み上げた少女がベッドに固縛されたままの俺の横に立った。おもむろにかかっていた毛布を取り去る。驚いたことに俺は全裸だった。
「チャーリー? わたしは甘くないですからね。まず犬と御主人様の関係とはどういうものかを教えてさしあげますわ」
バシィッ!
熱い痛みが胸を襲う。目にもとまらぬ勢いで少女の腕が振り下ろされ、俺を打ったのだ。その華奢そうな手には鞭がしっかりと握られている。
「んむーっ!」
耐えきれず悲鳴が出てしまった。だが猿轡の中で、くぐもった声が隠されてしまう。
「御主人様の言葉は絶対なのです。御主人様が空を飛べ、といったらおまえは空を飛ぶのです。わかりましたか?」
かわいらしい笑顔で恐ろしいことをいう。この娘、気が違っている。
再び激痛。また鞭だ。
「返事がないということは、まだまだ鞭が欲しいということですね。いいでしょう、剥かれたアバラが陽光に晒されるまで打ってあげますわ」
「んひーっ!」
我ながら情けない悲鳴を漏らす。この娘、本気だ。
「それにしても」
鞭を握った少女の視線が俺の下半身に移る。
「浅ましいこと。やはりオス犬ですね、ダージリン様。鞭で罰を与えられているというのに、ココは生意気にもそっくり返っています」
「そこは元気でいないといけないわね。そのために招待した犬ですもの」
そうなのだ。恥ずかしながら、美しい少女に無情に鞭打たれて、俺の下半身はなぜかすっかり元気になっていたのだ。ぴくん、ぴくんと律動する肉筒を、少女が鞭を持ったまま楽しそうに眺めている。――まさか。
「んんー! むむー!」
俺は死に物狂いで首を横に振り、続いて縦に振った。ソコを鞭で打たれたら、たぶんとんでもなく不幸なことになる。そんな悲劇的結末だけは迎えたくなかった。
「ほう、従うつもりはないと。では仕方がないですね、ダージリン様、九尾の鞭に変えてもよろしいですか?このわからずやのボローニャソーセージをスライスしてご覧に入れますわ」
「むふーっ!! むふん! むふんんーっ!!」
俺の下半身を見つめる瞳に妖しい炎が灯っている。だめだ。こんな娘に凶器を持たせちゃだめだ。
「まあまあ、お待ちなさいペコ。よく考えたら猿轡を外さないと口も聞けませんわ。せめて外しておあげなさい。チャーリー? よく考えて御返事するのよ? スライスされたあなたのボローニャソーセージなんて見たくないものだわ」
狂気だった。この部屋を狂気が支配している。こいつらはきっと、薄笑いを浮かべながら俺の生殖器を破壊するだろう。とにかく今は表面だけでも従うほかない。
猿轡がようやく外された。もうなりふり構っていられない。
「な、なりますっ! 犬のチャーリーになります! 助けてください御主人様っ!」
「ふふ、そうよ。いい子ねチャーリー。いい子」
ダージリンと名乗った少女は、そういうと持っていたティーカップに口をつけた。笑顔ではあるが、視線は鋭い。それは支配者の目だった。
「チャーリー。こんな格言を知ってる?『良い猟犬は綺麗な尻をしている』……あなたのお尻も綺麗なままでいて欲しいものね。多くの場合、犬の主人は鞭を振るうことに逡巡がないものよ」
なにをいっているのかわからなかったが、とりあえずうなずいておく。
「ああ……まったく……恥ずかしいこと。……あん。大の男が……小娘であるわたしの鞭に怯えて……なにがチャーリーよ……はああ……」
ペコと呼ばれた少女は何か異様な雰囲気に包まれている。二の腕で自分を抱きしめ、恍惚の表情を浮かべていた。小柄な体を左右に揺らし、もどかしそうに短いプリーツスカートの下の腿をすり合わせている姿は煽情的ですらあった。
「ペコ。しばらくあなたとアッサムに預けるわ。夜までに調教を済ませておいてね。……なるべく優しくおやりなさい? 後味の悪いことになったら面白くないですもの」
「はぁああああ……あ? あっ、はい、ダージリン様! たとえボローニャソーセージ一本だけの存在になっても今夜にはきっちりお届けしますっ!」
「大丈夫かしら。じゃあよろしくね」
重い音を響かせて、部屋の扉が閉まる。残されたのは、全裸でベッドの支柱に大の字に手足を縛られた俺と、どうやら破壊的方向に向きやすい性衝動を昂らせている少女。こんな部屋に閉じ込められて、俺はいったいどうなってしまうのか。
「ああ……おちんちん……おちんちん……切ったら汚いオスの血がたくさんたくさん出るのでしょうね。ふふふ。精液。血しぶき。ぱっくり割れる海綿体。うふふふふ……」
震えあがった。不吉な言葉を歌うように口ずさみながら、ゆらゆら揺れている。怖い。本気で怖かった。あの眼は、もう何人も男を食った獣の目ではないのか。
「ペコ。そろそろあたしも始めましょうか。チャーリーの綱を外しておあげなさいな」
くぐもった声がシーツの下から湧き上がる。
ダージリンと名乗る少女はもう退室したはずだ。いったい誰が。
その時、背中のさらに下、いびつな感触だったクッションがもぞもぞ動き始めた。
「わっ! うわ、うわああああ!」
「ふう。なかなか良い重みだったわ。私好みの犬ね、体は合格よ、チャーリー」
質の悪いクッションが人間に化けた。ベッドの中、クッションの間から現れ出た謎の人物。長い金髪を大きな黒いリボンで後ろにまとめ、今までずっとベッドの構造の中に潜んでいたとは思えない涼し気な目が俺を見つめる。
「私はアッサム。暗い所とか狭い所が好きなの。そういう性分なのね。あなたの縛めは解いてあげたけど、逆らおうとか逃げようとかはしないほうが賢明よ」
ようやく解かれた拘束。痺れかけた手足を揉みながら、この奇態な少女の言葉を聞く。大きいベッドとはいえ、どうやってあの中に入っていたのか。どういう理由で入っていたのか。狭い所が好きだからという理由は、潜んでいた理由としてははなはだ不可解だった。どうりで背中の下がぐねぐねするはずだ。
「ここは本当に恐ろしい所なの。特にこの子、ペコは、あまりためらわずに致命的な力を行使してしまう暴れん坊なのよ。困ったものよね。でも」
ベッドに座って一息ついていた俺の睾丸が何か大きな力でひねりあげられる。
「ぎゃああああっ!」
涼し気な表情を変えずにアッサムが俺を見つめたまま、片手で俺の股間を掴んでいた。痛い。ものすごく痛い。握られたタマがピンチだった。
「私もときどきそういう気持ちになるの。だから、逆らったり逃げたりしては駄目よ。おとなしくしていれば、御褒美をあげる。たぶんあなたは素質がある。楽しんだほうが得よ」
「わ、わかった。わかりました。逃げませんから」
こくこくとうなずく。そこでようやくタマが解放される。
横ではこのやりとりを見ていたペコが、すりすりと互いに擦りあう腿の結合点へ片手を強く押し当て感極まっていた。
「ふぁああああ。睾丸。圧搾。破裂。飛び散る精液。血。……血! ああ……!」
「あ、ペコはああいう子なの。怖がらないで……というのも無理でしょうけど、理由もなく襲い掛かったりはしないわ。たぶん」
「たぶんですか……」
「それより、あなた童貞よね? 本土に恋人はいないの?」
「えっ」
ベッドに座る俺の隣にアッサムがそっと腰を下ろす。香水だろうか、上品な香りが鼻腔を優しくくすぐった。
「い、いません。俺はただのしがない高校生ですから……」
「そう。じゃあそういうところの遠慮はいらないわね」
下半身に刺激を感じた。見れば、アッサムの白い指が勃起したままだった俺を優しく包んでいる。その部分の硬さを確かめるようにきゅっと締められ、さらに堅くなった海綿体の周囲をゆるゆる上下させ始める。
「う……うあ……」
「ほら、どう? 気持ちいい? おとなしくいうことを聞いているなら気持ちいいことしてあげるわ。ね、私たちの体に興味あるかしら? それも自由にできるのよ? 私も、ペコも、ダージリンも。すべてはあなたの、チャーリーの選択次第……」
語っている間にも、アッサムの意外に大きな柔らかい胸が
彼女たちを自由にできる。つまり俺は性のおもちゃとして誘拐されたということだろうか。俺は彼女たちに自由に使われ、同時に彼女たちを自由にできる。性的に。
悪くないのではないか。
通っていた学校なんかつまらないものだったし、幸い今は春休みだ。地方から出てきて下宿生活の俺なら、時間はまだ自由に使える。それに彼女たちもいつかは解放してくれるだろう。この暗青色の制服、確か聖グロリアーナといっただろうか。確かとんでもない御嬢様学園だったはずだ。その学園の娘たちとねんんごろになれる……悪いことではないはずだ。
ちょっとイカれた娘たちだが、一丁つきあってみるか。もしかしたら彼女たちが、いや俺の冒険的選択が、この味気ない人生を大きく変えてくれるかもしれない。その行き先がどうなるのか、まあ一抹の不安もあるが。
腹を決めて、気持ちの良い方向めざして走り出すのだ。
「アッサム……さん。その……咥えてもらってもいいかな?」
「あら。うふふ、かわいいこというのね。いいわ、じゃあ私のキスがどういうものか、このいたずらっ子のソーセージちゃんに教えてあげるとしましょうか。でも、もちろん今夜咥えるのはお口だけじゃないわよ?
淫猥な笑みが俺を捉える。背中を何かが、ぞおっと駆け上がった。
さて、果たしてこの先に待っているのは天国か、はたまた地獄か。
この淑女たちのひそやかな楽しみにつきあってやるとしよう。