聖グロリアーナ女学院からの呼び声~英国風淑女たちの秘かな愉しみ 作:ねこぴよ
足音が近づいてくる。もう下の踊り場まで来たようだ。
四つん這いでその時を待つ俺とペコ。ダージリンは腰に手を当てて悠然と立っている。
さらに登ってくる。ためらいなくこちらへ向かっている。
すぐそこの踊り場に影がさし、そして。
登ってきていた誰かが息をのむのが聞こえた。
「ダ……! ダージリン様っ!?」
「ごきげんようルクリリ。少し遅かったわね」
青色の制服を真面目そうにきっちりと着込んだ少女がひとり立ち尽くしていた。
ペコの顔が下を向く。犬たる今の自分、その姿を見られる恥辱に耐えられないのだろう。
「いったい何を! ああっ、あ、ペ、ペコまで! 何をしているんですか、裸で! それにそこの裸の男は!」
「いいかしらルクリリ、淑女たるもの常に冷静であれ。この程度のことで動揺してはいけませんよ」
ルクリリは踊り場で止まったまま、それ以上近づこうとしない。
それはそうだろう、こちらの三人は明らかに異常な状態なのだから。俺に至っては明らかに見知らぬ侵入者である。
「この程度って……! おかしいですよこんなの!」
「ルクリリ。いいかしら? これは訓練なの。聖グロリアーナで戦車道を嗜むものなら誰でもこなさなければいけない当然の通過儀礼なのよ」
「ふざけないでください! こんなの、どこが訓練ですか!」
ルクリリと呼ばれた少女は顔を真っ赤にして抗議している。
視線がちらちらと揺れるのは俺の裸体のせいだろうか。無理もない。股間では、ペコの後門で埒をあけられなかった怒れる攻城槌が揺れている。普通の少女であれば凝視するのもためらわれるのだろう。
「残念ね。あたくし命令は好みではないのだけれど」
「命令ですか。そこまでおっしゃるならあたしだって……」
「知っているのよルクリリ」
楽しそうに言葉を放つダージリン。アクセサリーと革紐を身に付けただけのほぼ全裸という姿であるのに、きっちり制服を着こんだ少女に対してまったく引け目を感じていないようだった。いったいどこからその余裕が生まれてくるのか。
「あなた、昨晩は零時十二分から自涜をしていましたね。二十八分後、零時四十分に絶頂。そして今朝は六時零五分に自涜開始。絶頂に至ることなく六時十五分に起床。すべてわかっているのよ」
「な……なんのことですか……? あ、あたしそんな、じ、自涜だなんて」
動揺している。ということはこのつらつらと諳んじられた情報は真実なのだろうか。だとすればダージリン、恐るべき情報力だ。
「責めるつもりはないわ。それどころかあなたの体が健康である証拠でもあるもの。でも、それを学園中に公表したらみんなは……どう思うかしらね?」
「あたし、じ、自涜だなんて、そんなはしたないこと絶対しません! しょ、証拠! そう明確な証拠もないのに不名誉な言いがかりはやめてください!」
ふふふ、と静かに笑うダージリン。
「証拠はあるのよ。ふふ、でも恥ずかしがるのは当然の反応ね。そうでなくてはつまらないものね」
「ペコ! あなたもどういうつもりなの! 獣のように這いつくばって、いつまでそんな恥知らずな格好を続けているのよ!」
なじられ、ペコの顔が耳まで真っ赤になる。しかし、その姿勢を変えることはなかった。
「証拠を見せましょうか。ルクリリ、部屋に行きましょう。ペコ、チャーリー戻るわよ」
驚いたことにルクリリと呼ばれた少女は警戒の表情こそあからさまに浮かべていたが、素直についてくるようだ。ここで逃げ出すという選択もあるだろうに、なるほど先の自涜……つまりオナニー情報は正しいのに違いない。
「帰ったわよ、アッサム」
「あら、おかえりなさい」
部屋に戻ると、アッサム体の汚れをすっかり落としてのんびり紅茶を飲んでいた。
「あ、アッサム様! ひ、ひどいんですよ! 聞いてください!」
部屋にアッサムの姿を見つけたルクリリは教師にいいつける子供のように駆けよる。ダージリン以下二名によるこの狂った痴態をとがめてもらおうというのだろう。
「なあに、ルクリリ」
「ダージリン様が……」
優しく答えるアッサムは数枚の写真を手にしていた。
それはベッドの上でパジャマ姿のまま股間に両手を挟み込んでいるルクリリの写真だ。
半開きの口、焦点の定まらぬ目、恍惚とした表情までもが鮮明に映し出されている。
これがこの少女のオナニー姿……謹厳そうな印象の彼女も数時間前はこのように劣情を持て余し、なにがしかの性的対象を想いながらおのれの性器を慰めていたのだ。
「あ……ああっ……そ……それは……」
「よく撮れているでしょう?」
微笑みながらひらり、とその写真を見せつける。ルクリリの手がわなわなと震えているのが見えた。
「いったい、誰が、どうやって」
「あら、やっぱり気づかなかった? この時あたし、あなたの部屋の中にいたんですけどね」
さらりと答える。
「朝は最後までイけなかったのね、ルクリリ。それでイライラしているのでしょう?」
「な……な……アッサム様? アッサム様が? これはいったい……!」
絶望の色がルクリリの顔を覆う。そう、アッサムにダージリンの破廉恥を伝えたとて意味はない。この部屋にいる誰にもそもそも良識などというものはないのだ。
「状況は分かりましたかルクリリ」
勝ち誇ったようにダージリンが追い詰める。
「あたしに何をしろっていうんですか……」
かわいそうな少女は敗北を認めた。視線を床に落としながら、狂人たちから自分の身体を守るようにぎゅっと抱きしめる。