時を戻して、生徒会室。
「理が、見えませんね」
生徒会書記の五十嵐清華は、挑戦者である俺たちに向けてそう言い放つ。
「おや、一人の強者に複数で挑むのは至極当然の理屈では?」
同僚であるはずの伊月から挑発染みた言葉を投げかけられても、清華の冷ややかな瞳は変わらない。
冷淡な視線を向けたまま、彼女は淡々と言葉を紡ぐ。
「無論、身の程知らずの挑戦を受けた経験は幾度もあります」
生徒会長の秘書を務めるだけはあり、その手の経験は豊富らしい。
清華が疑問を抱くのは、集団を形成する面子にあるのだろう。
早乙女芽亜里。
皇伊月。
夢見弖ユメミ。
濡羽綾女。
蛇喰夢子。
繋がりの見えない五人組で、しかも仲間であるはずの生徒会役員が二人。
挙句の果てに唯一混ざった男子生徒の俺は見届け人を自称しギャンブルには不参加。
役員の反逆……にしても他の面子の意味が不明。
裏事情を把握していない清華からすれば、理が見えないという主張も尤もである。
「まあ、構いません。裏切者共々、全員叩きのめすまで」
光の灯らぬ瞳を細め、清華は俺たち全員を睨みつけた。
生徒会長、桃喰綺羅莉。
権力という意味でもギャンブルの実力という意味でもこの学園最強と呼べるだろう彼女を打倒するため、俺たちは五十嵐清華へと勝負を挑みに来た。
正攻法で勝てる相手ではない。
あるいは夢子であれば可能性はあるが、あの賭博中毒者は計算不能だ。
計画の中枢に置いて何が起こるか分かったものではなかった。
正直今回の計画からも外したかったが、奴一人だけ省いてギャンブルなどしたら拗ねた夢子が暴走しかねない。
故に、綺羅莉に最も近しい人物である五十嵐清華をまずは全員で落とす。
正直、こちらも生半可な相手ではないのだが。
今回のギャンブルは、“選択双六”。
サイコロの目とマス目の指示を自分たちで選択する双六だ。
・各プレイヤーは十枚の紙にそれぞれ自由な指示を記入。
・記入した紙を裏返して並べ、全六十マスの双六を作成。
・各自が一~六の数字が書かれたカードを一枚ずつ持ってゲームスタート。
・サイコロを振る代わりに所持しているカードを一枚づつ使用し、双六を順番に進んでいく。
・一度使用したカードは使用できず、全てのカードを消費後再び再配布される。
・止まったマスの紙が裏返しの場合表にし、その指示に従う。
・指示に従えない場合は一回休みのペナルティ。
・止まったマス目の紙が既に表の場合はそのまま指示に従う。
・一番初めにゴールした人物が勝者となり、他の参加者全員を自分の家畜とすることが出来る。
・不正行為の発覚は即失格。
さらに清華によって、俺によるギャンブル中の一切の干渉を禁止するという項目が加わった。
俺は完全に傍観者として、部屋の隅で記録用のカメラを設置し見学するだけだ。
「…………」
各自が指示を記入している間も、清華はこちらへ視線を向け続けている。
俺がこの場にいる意味を思考しているのだろうが、無駄なことだ。
彼女の中には、挑戦者全員が俺の家畜であるという情報が無い。
その前提が無い限りは、誰であってもこの状況を把握することなど不可能だ。
全員の記入が終わり、シャッフルされた紙が机に並べられる。
六十マスの双六が完成し、駒代わりのチップがスタート地点に六枚置かれた。
「順番はどう決めましょうか」
「じゃんけんでもクジ引きでも、ご自由に」
夢子の問いに、清華は平坦な声で答える。
さっさと終わらせようという、倦怠感にも似た感情が僅かながら見てとれた。
そしてその感情を塗り潰すがごとき怒りが、隠しきれずに漏れ出ている。
ジャンケンの結果、順番が決定する。
芽亜里→綾女→清華→伊月→ユメミ→夢子の順番だ。
俺は最後にもう一度カメラのチェックを行うと、これから始まるギャンブルを見届けるため深く息を吐き心を落ち着ける。
作戦は用意したし、夢子以外の家畜たちは確実に指示に従うだろう。
だがそれでも、ただ待つだけというのは落ち着かないものだった。