既に日も沈んだ夜闇に包まれた森の中を、ビキニアーマーのような鎧に身を包んだ金髪の女が歩いている。
これだけならただの冒険者にも見えるだろうが、女は抜き身のスティレットを片手で弄びながら
鼻歌を歌いながら一人の村娘の少女を追いかけていた。
「誰か……!誰か助けてーーーーー!!!」
まだ幼さの残る少女の声がむなしく夜の森に響き渡るが、それに返す言葉は楽し気な嘲笑のみ。
追いかけている女はズーラーノーン12高弟の1人、クレマンティーヌ。
元漆黒聖典第九席次でもある彼女は人類最強剣士の一角だ。
クレマンティーヌはその力を己が欲望のために振るう。
人間を殺すこと、弱者を甚振ることを好むクレマンティーヌは
無力な一般市民の少女を虐げることに躊躇いはない。
あえてすぐには捕まえず、恐怖を煽るようにゆっくりと獲物を追い詰めていく。
「やめて……来ないでっ……来ないでよ……!!あっ……!!?」
必死にクレマンティーヌから逃げていた少女は、ついに足をもつれさせそのまま転倒する。
すぐに立ち上がろうとバタバタと少女は両手両足を動かすが、ガクガクと四肢が震えて思うように立ち上がれない。
「なーに?鬼ごっこはもうおしまいかにゃー」
いつの間にか少女のすぐ目の前まで近づいていたクレマンティーヌは、
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら馬鹿にするように少女を見下ろしている。
「あっ……あぁ……」
腰が抜けてしまったのか、少女はズルズルと地べたを這うように後退する。
「……いや……っ!やめて!やめてよ!!こっちに来ないでえええぇぇぇぇ!!!!」
「恐怖の叫び声は嫌いじゃないけど。さすがにちょっと煩いなー」
「っっっ!!?」
クレマンティーヌは少女の首を片手で締め上げ、無理やり黙らせると、そのまま少女を片手で持ち上げる。
突然呼吸を止められた少女は苦悶に顔を歪ませる。
「あららー。可愛い顔が台無しだよ?……そそるわぁ」
少女は必死に首を絞めるクレマンティーヌの手を両手で引き剥がそうとするが、
無力な村娘の握力では何の抵抗にもならず、宙に浮いた両足をバタバタ揺らし悶絶していた。
「いいよいいよ!とってもいいよ!貴女もそう思うでしょう?」
問いかけられた少女は当然ながら苦痛に顔を歪ませるだけで、返事を返すことなどできない。
せめてもの抵抗に宙に浮いた足で何度もクレマンティーヌを蹴りつけるが、
非力な少女の脚力ではびくともしない。
「あぁ……粋がいいねー。久々の獲物に私もゾクゾクしてきた」
クレマンティーヌはペロリと舌なめずりし、これから始まる拷問を考えていた。
「せっかくだからゆっくり楽しみたいところだけどー。残念ながら次の仕事の時間が差し迫ってるから、あんまり構ってあげられないんだよねー。
だからサクッと終わらせてあげるね!」
クレマンティーヌはもう片方の手でスティレットを握りしめると、少女の顔目掛けて思いっきり突き出した。
ガキィンと、硬質な音が響き渡った。
「………はっ?………ええっ!?」
クレマンティーヌの口から思わず驚愕の声が漏れた。
今の音は明らかに人体を貫く音ではなかった。
降りぬいたスティレットの感触も、明らかに人を貫いた時のものではなかった。
全力ではないとはいえ、人間の人体を貫くには充分な威力を持っていたはずのスティレットは、
少女の薄皮一つ貫くこともできず、その肌に阻まれていた。
魔法?いや、目の前の少女は何かした様子はないし、並大抵の武技ではクレマンティーヌの刺突は防げない。
ならば何者かが介入してきたのかと思ったが、この場には目の前の少女以外の第三者の気配は感じられない。
一体どういうことなのか。
「だから言っただろう。やめておけと」
声の源はクレマンティーヌが首を締め上げ、呼吸すらできなくなっていたはずの少女。
だが発せられた声は明らかに少女のものではなかった。
その声を聴いた瞬間、今度はクレマンティーヌの方が喉奥が冷えあがった気がした。
先ほどまで恐怖で歪んでいた少女の顔は、今度は嘲笑の形となってグニャリと歪む。
何故?どうして?クレマンティーヌの思考が混乱で一杯になる。
(いや……今の声、どこかで聞いたことがあるような?)
理由のわからない恐怖が全身を震わせる。
まるで思い出すことを本能が拒否しているかのような。
だが無情にもその答えは目の前に現れた。
「答え合わせといこうか」
いつか、どこかで聞いた言葉に同じ声。
それが一体どこで聞いた言葉なのか記憶が呼び起されているところに、少女の顔がゆっくり剥がれ落ちていく。
歪んだ笑みを浮かべた少女の肌の下から現れたのは、エルダーリッチと酷似した骸骨の姿。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
先ほどまでの嗜虐的な姿はどこえやら。
無意識に記憶の奥底に押し込めていた最悪のトラウマを前に、クレマンティーヌは恐怖の叫び声を上げ、意識が闇に飲み込まれた。
「う………あ……あ、夢……か……」
深い眠りからクレマンティーヌは目を覚ます。
悪夢にうなされたせいか、汗がびっしょり肌にまとわりつき気持ち悪い。
顔を拭おうと腕を動かそうとするが、腕がピクリとも動かないことに気づく。
腕だけではない。両足も麻痺しているかのように動かない。
意識を自分の身体に向けると、どうやら両腕も両足も地面に埋まっているようだ。
いや、この生暖かい感触は地面じゃない。
「ひっっ!!」
ぬるりとした感触に怖気が走った。
辺り全体薄暗いが、クレマンティーヌが意識を集中し部屋を見渡すと、
床に天井に壁、周囲全てが肉の壁に包まれた胃袋のような部屋だった。
「なによ……これ!?」
今のクレマンティーヌは衣服を一切身に着けておらず、
大きく広げられた両手両足が左右の肉壁に埋まり拘束されていた。
どうしてこんな状況になっているのか、クレマンティーヌは記憶を辿ろうとする。
自分が眠っている間に何かモンスターにでも捕食されてしまったのか?
酷い悪夢を見ていた気がしたが、あれは本当に夢だったのか?
そもそも私は一度死んだはずではなかったか?
誰かに一度蘇らせて貰った気もするが、意識が朦朧とし、記憶が曖昧になりよく思い出せない。
今も夢の中にいると思いたいが、クレマンティーヌの本能が現実逃避を許さないほど警鐘を鳴らしている。
「くそっ!全く動かない!あの化け物が関わってるとしたら、何としてでも抜け出さないと!」
アインズには何がどうあっても勝てないと、クレマンティーヌは身をもって思い知らされた。
もしこの肉部屋があの化け物の用意した部屋だとすれば、クレマンティーヌの力では抜け出せないかもしれないが、
だからといってこのままではろくでもない未来しか想像できない。
「逃げなきゃ……早くっ……!」
あの化け物が来る前に何としてもここから抜け出さなくては。
「あっ。目が覚めたー?」
「っっ!!?」
突然響いた声に、クレマンティーヌの全身が硬直する。
突如目の前の肉壁が左右に裂けていき、奥から現れたのは和風のメイド服を着た少女だった。
一見すると小柄な愛らしい少女にも見えるが、その顔には仮面のように一切の表情を浮かべておらず、
こんな場にいる時点で無害な人間ということは考えづらい。
どうやらあの化け物はいないようで僅かに安堵の息を吐くが、状況が極めて悪いことには変わらない。
「……あんたは?」
「私?私はナザリック
短い間だと思うけどよろしくねー」
ナザリックという言葉には聞き覚えがある。あの化け物が言っていた『ナザリックが威を示せ』という言葉。
となるとこの少女もあの化け物の仲間なのだろう。
「それで、私は一体どうなるわけ?拷問でもされるのかな?」
「違うよー。男性器の代わりとなる蟲を作りたいからガチャをしようと思ってねー」
「………………はっ???」
精一杯の虚勢から帰ってきた返事は、あまりに予想外で理解不能なものだった。
「アインズ様は男性器をご所望なのー。だから私が是非とも相応しい蟲を作って差し上げようと思ってねー」
アインズが完全なる狂騒(欲)によって性欲を持て余していることは、最早ナザリック女性勢の間では公然の秘密だ。
エントマは蟲を武器として戦う
そして、人間の声を出せる口唇蟲のように人間の機能を代替わりする一部の蟲はアインズも装備することができることは確認済みだ。
ならば男性器の代わりとなる機能を持った蟲を作って差し上げようとエントマは思った。
「至高の恩方々がいつも楽しそうにガチャっていうのをやってたし、私も一度やってみたかったんだー!」
エントマはどこからか巨大な箱を取り出し、開けると、その中には拳大の球体がたくさん入っていた。
「これは私が作った蟲の卵だよー。母体に入れると孵化するのー。
でもどんな姿でどんな能力を持ってるかは生まれるまで分からないけどねー」
「っっっ!!?」
ガチャという言葉の意味はクレマンティーヌには分からないが、エントマが行おうとすることはなんとなく察せられた。
つまりエントマの作った疑似的なガチャを、蟲の卵をクレマンティーヌを母体として使い行うということだ。
「形状としては男性器の代わりとなるならやっぱりワーム系がいいかなー♪楽しみだなー♪
男性器になる蟲が生まれなくても、戦力強化の手段として有用そうならアインズ様に相談してみようかなー」
蟲の仮面を付けたエントマの表情は一切変わらず無表情だが、声はとても楽しげだった。
エントマの性格的には嗜虐性があるわけではないが、それでも至高の主に贈り物を送れるのはとても楽しいことだろう。
エントマはまるで好きな人の贈り物を買い選ぶような純粋さで最悪の拷問を行うのだった。
次回は蟲姦描写など今まで以上に回覧注意になる予定