◆ ◆ ◆
絶望に打ちひしがれ、忘我の状態となるスバル。そんな彼を置いて、エミリアは
「大罪司教様、こちらに。
私に、祝福をお与えくださいな」
目を三日月のように細めて笑うエミリアの表情を"女神のようだ"と形容するのならば、さぞかし邪悪な女神だと言えるだろう。その美しさの下には、卑しい愛欲が蠢いている。
対するペテルギウスは、眼を見開き、歯を剥き出しにしてニンマリと微笑むと。スバルの背から離れて立ち上がり、着込んだ漆黒の神官衣を脱ぎ出す。興奮に震えているようで、指の動きがおぼつかなく、モタついているように見える。
やがてスバルは、見たくもないペテルギウスの背中や尻を見る。病的に色白で小太り、そして毛の薄い裸体は、疫病にかかったブタのようにも見える。
「良いでしょう、良いでしょう!
私が貴女に祝福を授けましょう!
そして貴女は、我らが魔女として、真なる二度目の生を受けるのです!」
ペテルギウスは小走りに、エミリアの眼前へ迫る。そして彼女――男根は有するものの、女性的な印象が強いので"彼女"と称する――の元に
こうして、スバルの目の前で、異形と化したエミリアによる穢らわしい行為が始まる。
ジュポッジュポッ! ペテルギウスは盛大に唾液の粘水音を上げながら、大きな動きで首を前後に振り、エミリアの男根を口で愛撫する。
エミリアは恍惚の表情を浮かべて上気しながら、ペテルギウスの頭を撫で回しつつ語る。
「竿だけじゃなく、玉も舐めなさい。飴玉を味わうように、優しく…ね」
「ええ、ええ!」
ペテルギウスはチュポン、と音を立てて竿から口を離すと、エミリアの睾丸を舐め始める。黒々とした陰嚢を吸い、堅い丸みを舌で絡め回し、ムワリと匂いを放つ塩気を味わいつくす。
やがて、エミリアの先端からはタラタラとカウパーが流れ出す。それは肉棒を伝ってペテルギウスの顔にかかり、彼の顔を粘液で汚す。一方でペテルギウスは気に掛けるどころか、口元に滴るカウパーを睾丸ごと舐めとって見せる。
レロレロ…グチュグチュ…。舌の粘膜による穢らわしい愛撫の音が暫く続いた後…。
「あはぁぅ…ッ!」
エミリアがウットリとした声を漏らしたかと思うと、ビュシュ! と勢いよく白濁が宙に一直線に飛び出す。
エミリアが男根を有してから、初めての射精だ。
「んふふ…。
男の絶頂って、面白いのね…! こみ上げてくる切なさと、噴き出す時の暴力的な快感…! 身が震えるわ…!」
女性的な感想を述べるエミリアに、スバルはハッとして聞き返す。
「エミリア…? エミリア、なんだよな…? そう言う言い方をするってことは、やっぱりエミリアなんだよ…な?」
「ええ、半分はそう。でももう半分は、ハリトと言う男。
とは言うけれど、私はハリトって人格は好きじゃないわ。エミリアで居る方が楽しいもの」
「エミリア、もうやめてくれ…!
こんな事、おかしい…! どう考えても異常じゃないか…!
魔法の力で、元に戻れるんだろう!? 戻るんだよ! 元の君だからこそ、素敵なんだよ!」
スバルは必死に説得する。エミリアは射精した先端をペテルギウスに舐めて掃除させながら、桜色の唇に指を置いて少し考え込むと。
急に、ニッコリと微笑む。その少し子供じみたような笑みは、スバルのよく知るエミリアの笑顔そのものだ。
それを見てスバルは希望を灯すが――それも直後に、無情にも消え去ることになる。
「スバル、ごめんなさい。
私、この体はやめられない。
だって、本当に素晴らしいもの。
男と女、両方の悦びが味わえるんだもの。あなたもこの体になれば、理解できるわ」
「そんな…エミリア!」
「黙れ」
エミリアの声と表情が一転、急に低く、刺すような激情の眼差しをこちらに向けてくる。その表情はスバルの知らぬ、男性的な表情。
「私は、"嫉妬"の魔女様を降臨させる、神聖なる器なのよ。
あなたの下世話な言葉に耳を傾ける暇なんてない」
それからエミリアは、なおも必死にしゃぶりつくペテルギウスの額を手で押してペニスから遠ざける。キョトンとした表情で見上げるペテルギウスに対し、エミリアはニッコリと微笑むと、仰向けに寝ころぶ。そして、黒々とした男根を睾丸ごと持ち上げ――その裏側に隠れた女性の秘裂を見せつける。
「大罪司教様。お与えくださいな、貴女様の神聖なる精を」
するとペテルギウスは、ギラリと口角を上げて歯を剥き出しにして嗤い、踊るような足取りでエミリアの元に小走りにかけよる。
そして、いきり立ち、先端からカウパーの滴を噴き出すペニスを掴むと、エミリアの秘裂目掛けて腰を落とし、挿入を試みる。
「んく…ッ!
司教様…ッ! そこは、違います…!」
ペテルギウスは邪教の司教でありながら、意外にも聖職者らしく性交渉の経験がないようだ。ぬめる亀頭の先端を胎内へと挿入しようとするが、エミリアの男根の根元――元は陰核の在った辺りに執拗に先端をなすりつける。
「お…? おお…? おお…?」
声を上げながら奮闘するも、ペテルギウスはもどかしい程に挿入できない。じれたエミリア困ったような顔をしながら手をペテルギウスの先端に伸ばすと、膣口の上にピタリと押し当てる。
「司教様、ここですよ。このまま、挿入れてくださいね…。
あまり変な所をいじられちゃいますと…私、敏感なので、独りでイッちゃいます…」
「おお、おお、ここですか!
この吸い込まれるような感じ! これが女性の胎内への入り口ですか!
本当に、男を誘うために出来たような器官ですな!」
ペテルギウスは感激しつつ喚きながら、ズニュゥリ、といきり立ったイチモツをエミリアの膣へと差し込む。
「おおおおッ!
こ、これが…! これが女性…ッ!
何たる快楽! 何たる温かみ! 何たる締め付け!
絡みつくような襞の感覚が…たまらないッ!」
ペテルギウスは初めて男根に直で感じた膣の感覚に感激の声を漏らし、たどたどしい動きで腰を振り始める。女性は初めて経験した童貞少年のように、猿の如く快楽を貪ろうと必死になる。
「はぁう…そうです、その調子です、司教様ぁ…!」
エミリアは頬を紅潮させながら瞳を閉じて、熱い吐息と共に
それでも膣を掻き回される快楽は無視できない程度ではある。だからエミリアは喘ぎながら、足りない快楽は自らで補おうと、自分からも腰を振り始める。
パンパンパン! ズチュズチュズチュッ! 臀部と臀部がぶつかり合い、粘膜が立てる粘水音が響く。脈打つように動く両者の腰の間では、ハリト由来のエミリアの男根がブルンブルンと震え、先端からカウパーをビチャビチャと垂れ流している。
「ハァッ、ハァッ、魔女様…"嫉妬"の魔女様…ッ!」
ペテルギウスが喘ぎながら体を伸ばし、エミリアの唇を貪る。エミリアは薄目を開いてそれを受け入れると、自ら舌を伸ばして絡め、淫らなキスをジュルジュルと行う。
ペテルギウスの色白の指が、エミリアの琥珀色の肌をまさぐる。スベスベとした手触りのよい皮膚を撫で回し、特に乳房の辺りを揉み回す。
ハリトとの交合の時は、蜘蛛糸の繭の中に隠されていた部分が、スバルの目の前に露わになっている。隠されていた方が、彼にとっては幸いであったかもしれない。恋い焦がれた少女が、憎き不気味な男と交合する様子を眺めなければならないのだから。
スバルは汚物の混合物を直視した時のような胃のムカつきを覚えながらも…体は確実に興奮し、ズボンにシミを作るほどにカウパーをもらし、隆々とペニスを勃起させている。
(なんで…! なんで…!
こんなにムカつくのに…! 気持ち悪いのに…!
なんで勃起してんだよ、興奮してんだよ、オレッ!)
両手さえ自由ならば、スバルは自らの頭を拳骨でタコ殴りにしたい衝動に駆られる。
だが、地べたに落ちたミノムシのように転がるしかないスバルは、ひたすら眼を見開いて、まぐわいの有様に視線を注ぐのだ。
やがて――ペテルギウスが「ハァッ!」と声を上げる。それは、彼の欲望の堰が瓦解した証である。
マグマのように尿道を沸き上がる白濁が――ビュシュルルルルッ! 一気に噴き出し、エミリアの膣内に
初めて女性の胎内を味わったペテルギウスの射精は、その初めて興奮がそのまま勢いに現れているかのように、膣内を暴れ回る。一気に肉襞の隅々にまで染み渡り、子宮口の壁にブチ当たっては泡立って渦巻き、膣道を押し広げてゴボゴボと接合部分から溢れ出す。
その全てを受け止めるエミリアは、「んはぁ…っ」と恍惚の声を上げる。しかし、アダルトコンテンツで見られるような絶叫に近い絶頂の叫びがなかったのは、先にハリトとの交合での悦楽の方が勝っていたということだろうか。
「おう、おう、おうっ!」
ペテルギウスは尿道に残った精を全て絞り出すように、腰をブルンブルンと震わせる。その度に接合部からゴボリと泡だった白濁が沸き上がり、エミリアの臀部を伝って垂れ落ちる。
ペテルギウスの腰の動きによって、ようやくエミリアの女性が絶頂を迎える。
「んくっ…あああぁぁぁんっ!」
ようやく絶叫を上げたかと思うと…ドビュルルルッ! ペテルギウスとの交合部のすぐ真上、ガチガチに勃起した男性器の先端から、勢いよく白濁を吹き上げる。それはペテルギウスのだらしない腹部に盛大に付着した後、ポタリポタリ、と長く糸を引く滴を零す。
ハァ、ハァ、ハァ…エミリアとペテルギウスは高まった悦楽に思考が焼き切れたように、暫し荒い呼吸を繰り返した後。膣内で萎んでゆく男根をそのままに、ペテルギウスはエミリアと唇を重ね合わせる。
こうして、邪教に相応しいまぐわいは、幕を閉じる。
◆ ◆ ◆
エミリアとペテルギウスの接吻は、たっぷりと5分ほど続く。
ようやくペテルギウスがエミリアから腰を離し、ドロリと粘液が糸を引く陰茎を引き抜いて立ち上がると。エミリアもまた、艶やかな笑みを浮かべて立ち上がる。
そして汗で湿りを帯びた銀髪を掻き上げると、ペテルギウスを迂回してスバルの前に進み出る。
スバルの光が失われた哀れな瞳には、汗と体液に濡れる琥珀色の肌が映える。中でも――含んだ精をポタポタと零す、ピンク色の肉がめくれあがった女性器が、一層スバルの眼に焼き付く。
その視線を
「スバル、残念だったね。
欲しかったんでしょう、私の初めて?
でも私、大罪司教様に捧げちゃった。
あ…その前にハリトとヤっちゃってるから、もう2度目か」
クスクス、とエミリアが笑う。耳元をくすぐるような、妖艶な笑み。
スバルは、何も答えを返せない。こんなエミリアに何を語るべきか、言葉が見つかるワケがない。
「でもね、スバル。あなたは用済みなんかじゃないわ。
あなたには、大事な仕事があるのよ。だからペテルギウス様は、あなたをここに連れて来たの。
でなければ、とっくに殺してるわ」
今更何の用があるのか? という疑問すら湧かない。湧くだけの余裕がない。
ただ、何も出来ずに恋い焦がれた少女が寝取られた事実を噛みしめて、ひたすら悲しみに浸るばかりだ。
彫刻のようになってしまったスバルに、エミリアは呆れたようなため息を一つ吐く。そして、こちらを振り向いたペテルギウスに目配せをする。
ペテルギウスはニンマリと笑うと、彼の大罪司教としての能力である"見えざる手"を発動。常人には見えぬ複数の漆黒の腕が、疾風の速度でスバルの体に襲いかかる。
スバルは"死に戻り"の能力の影響からか、"見えざる手"を視認することが出来る。だが、手を回避するような気力などない。人形のように無抵抗に、腕に捕らわれる。
「んぐっ!」
スバルがようやく声を発したのは、"絵見ざる手"によって暴力的に体勢を変えられた時だ。芋虫のように寝転んだ体勢から、弓なりに背を反らされた状態で、不安定な姿勢で立たされる。
"見えざる手"が、スバルの両足を縛る荒縄を破き捨てる。そして、足を大の字になるように大きく開かせて膝を付かせると、今度はズボンを下着ごとズリ下ろす。
露わになる、スバルの男性の中心。黒い陰毛はカウパーに濡れてテラテラと輝き、半ば包皮を被った竿が中途半端に勃起している。
エミリアはその粗末なモノを見ると、クスクスと嘲笑する。
「あら、なんか残念な感じのおちんちん。子供みたいだったら、それはそれで可愛かったのに。中途半端な感じが、ホントに残念。
でも…」
エミリアは嘲笑したまま、ペタペタと裸足で洞穴の床をゆっくりと歩き、スバルに寄る。
「何を…するつもりなんだよ…」
スバルがようやく訊き返すと。エミリアの代わりにペテルギウスが答えを返す。
「惨め極まりないあなたですが、どういうワケか魔女様の福音を濃厚に漂わせていますからな!
その福音を、このエミリアの体に移すのですよ!
そして、エミリアという少女は、我らが"嫉妬"の魔女として目覚められるはず!」
どういう理屈、どういう根拠があって、その行為が彼らの宿願を達成すると確信できているのか、スバルには分からない。だが、そんな事はどうでも良い。
スバルは、間近に近寄ったエミリアがしゃがみ込み、顔を己の先端に近づける様に――ピクン、と股間を震わせて興奮する。
"そんな事はやめてくれ!"と叫ぶ理性の一方で、"オレにもそれくらいの事をやってもらう権利はある"と叫ぶ下卑た本能がある。そして、心臓の高鳴りを感じる限り、スバルの意識は本能の方に傾こうとしている。
「くっさい匂い…。ちゃんと剥いて洗ってるの?」
エミリアは最後まで嘲りながら語り、そして四つん這いの体勢を取ると。
桜色の唇を一舐めしてから、接吻するように唇をすぼめ、そのままスバルの先端に口付ける。
「んあっ!」
ビクンッ! スバルの体が震える。
スバルもまた、童貞の身の上だ。自慰行為の経験は何度もあるものの、それはたかが仮想の存在だ。生身の女性の粘膜で性器を
そして、この初めての感覚の生み出す電撃的な衝撃が、スバルの理性を爆発的に吹き飛ばす。後に残るのは、恋い焦がれる少女によって性的に奉仕される事実への昂揚だけだ。
(なんて…温かいんだ…ッ!)
敏感な先端に唇を触れられただけで、スバルは尿道に切なさがグイグイとこみ上げてくるのを感じる。中途半端だった勃起は完全に硬度を増してビキビキと血管を浮き上がらせ、天を
クチュリ…エミリアの唇が、亀頭を加え込んでゆく。途中、唇は勃起してもなお
エミリアは異臭を間近で吸い込みながらも、眉を
「んくぅ…んっ!」
スバルが眼を見開いて、恍惚の声を上げる。自慰では決して得られない粘膜接触による刺激が、スバルの全身に電撃となって駆け巡る。
(なんて…柔らかい唇なんだ…ッ!)
エミリアは亀頭をスッカリと口に含んだ時点で動きを止めると、唇をムニュムニュと動かし、アンモニア臭漂う塩気を呈するカリを飴玉のように味わう。
ヌルヌルと動く唇の粘膜が敏感なカリを刺激するだけで、スバルの尿道の切なさは爆発的に高まってゆく。固くなった海綿体は更に膨張しようと血流をため込んで熱くなり、カウパーの流出は留めない。その一々をエミリアは口内の舌でチロチロと舐めとって嚥下する。
やがて――執拗なエミリアのカリ攻めに、スバルの切なさは頂点に達する。
「あ…くっ! イクッ!」
ドピュルルルッ! スバルの人生において、初めて他人に体内に射精した瞬間だ。スバルは自らの噴出を目に出来ないので、どれほどの勢いなのか正確には理解できない。だが、ため込んだ尿を一気に解放した時のような爽快感が、スバルの体の中心をブルブルと震わせる。
「ハァ…ハァ…ハァ…エミリア…」
トロンと蕩けるような眼差しで、しゃぶりつくエミリアを見つめるスバル。エミリアは咥えたまま、チラリとスバルに視線を向ける。その眼差しは汚らしい乞食に向けるような、情けなさを蔑む視線だ。
その視線は、若い人生の大半を引きこもりで過ごしたスバルには痛々しいはずのものだが。股間を咥えられた今は、被虐的な悦楽すら覚えてしまう。
ング…ング…ング…。エミリアが口内の精を丁寧に飲み下す。そして更に、唇を陰茎の方へと滑らせ、亀頭の咽喉の奥へと誘い込む。
「んぐっ!」
スバルはたまらず声を上げる。肉棒をさする柔らかなで温かな唇の感触は、どんな自慰行為でも得られない快感だ。射精したばかりの海綿体がガチガチに勃起を初め、睾丸がフルに稼働し尿道へ切なさを送り込み始める。
チュプ…チュプ…チュプ…。エミリアは唇の音を立てながら首を前後させ、スバルの肉棒を咥えたままストロークする。根本まで咥えこんだ時は、ニュムニュムと唇を動かして、陰嚢の付け根も優しく愛撫してくる。
エミリアの技巧は、まさに一流の娼婦のそれだ。
「え、エミリア…!
凄く…気持ちいい…ッ!
んぐっ! もう…出そう…!」
女性との交合に慣れていないスバルは、すぐに肉の生み出す快楽によって絶頂に導かれる。もはや亀頭の先端まで、マグマのような精がせり上がっているのだ。
チュポン…エミリアが深く、深くスバルの男根を咥えた、その直後。
「ああッ!」
スバルは叫んだかと思うと、ビュルビュルビュルビュルルルッ! 以前にもました勢いを感じる、粘液の放出をエミリアの口内に解き放つ。
それで済むのならば、例えエミリアが異形の姿に堕ちたとしても、スバルは彼女に愛を捧げ続けることが出来たであろう。
だがエミリアは…スバルに残酷な仕打ちを行う。
メキリ。
そんな音が、体を伝わってスバルの鼓膜に届いた気がする。
そして、あれだけ張りつめていた股間の切なさが、ポッカリと抜け落ちたように、消失する。
「…え?」
スバルが眼下に視線を向けて、ぱちくりと瞬きすると。そこには、股間から顔を離し、座り込んだエミリアの姿がある。彼女の頬がモグモグとゆっくり動いているが、何かを咀嚼しているらしい。
何か食べるようなものがあっただろうか、とスバルが疑問符を浮かべたのと、ほぼ同時。スバルは恐るべき事実を認識する。
己の股間が、真っ赤に染まっている。いや、真紅をピューピューと噴き出している。
そして、そそり立っていたはずの自身の性器が、見当たらない。
いや、正確には性器"だった"ものは見える。陰嚢がプラプラと下がっているのは、鮮紅越しによく見える。だが――陰茎が、根本の数ミリの肉を残して、千切れてしまっている。
スバルは再びエミリアを眺める。すると、エミリアは艶やかに、しかし
そこにあるのは、無惨な歯形が幾つもついて赤く染まった――スバルの、陰茎。
転瞬、スバルは全身から冷たい汗が噴き出すと共に、股間を襲う烈火の如き激痛を覚えて叫ぶ。
「うぎゃあああああぁぁぁぁっ!」
エミリアは、スバルのペニスを齧り取ったのだった。
◆ ◆ ◆
「どうです、"傲慢"の席を埋める者よ?」
エミリアの隣に立ったペテルギウスが声を掛けてくる。しかし、すぐに手を振って前言を撤回すると、言い直す。
「いや、"傲慢"である必要はないですね。あなたはただの、怠惰な賤民だ」
スバルは何も言い返せない。言い返す余裕などない、激痛と戦うので精一杯だ。
そんな彼の様子を眺めるペテルギウスは、ニヤニヤと笑いながら口上を述べる。
「何の努力もせず、あるがままに身を委ねるだけのあなたが、この少女の心を射止められると思っていたのですか?
なんとも怠惰! 怠惰ですねぇ、あなた」
スバルは言い返せない。ただひたすら、
「そんな怠惰なあなたでも、一時の私服が訪れたのです。本望でしょう?
そしてあなたの激痛は、これから我々の悲願を達成する糧となります。
何の取り柄もないあなたの身から発する、芳醇なほどの魔女様の香り。それを取り込むことによって、ハリト…いや、失礼、エミリアは魔女様自身と成るのですよ。その素晴らしい肉体と共に、ね」
ペテルギウスが言う
だが、そんな事はどうでもいい。スバルは悶えることも出来ぬ体で、激痛に抗うだけで精一杯に過ぎるのだから。
「あああああああッ!」
裂ける程に口を大きく開いて叫び続ける、スバル。そんな彼に対してペテルギウスは"見えざる手"を伸ばし、その首に添える。
「さぁ、怠惰な少年よ。
あなたの仕事は、もう終わりです。もはや我らの悲願は達成されます。
褒美として、永劫の怠惰が許される地へと、司教である私が
ペテルギウスが、スバルの首に添えた"手"に力を込める。途端にスバルの絶叫がくぐもり、口角からは
この時、スバルの意識は
だから、いつものように致死を前にして、恐怖に怯えることもなかった。
それは考えようによっては、彼にとって幸せなことだったかも知れない。最期の瞬間になって、花火のように大きく炸裂する絶望を感じずに済むのだから。
ボキン…洞穴に響いた乾いた音は、スバルの頸椎が折れた事を意味する。
ペテルギウスの"見えざる手"は、少し力を込めるだけで、大して鍛えられてもいないスバルの首をへし折るなど造作もないことだった。
ビクン…スバルの体は大きく震えたかと思うと、一気に脱力する。全身の穴という穴がだらしなく広がり、汗やら唾液やら汚物やらが漏れ出してジャージを濡らす。
――こうしてスバルの意識は、速やかに暗黒へと閉ざされる――。
◆ ◆ ◆
――光。
突如視界が晴れやかな輝きに満ちたかと思えば…気が付くとスバルは、王都の果物屋の前に突っ立っている。
「あぁん? どうしたんだ? いきなりぼーっとして?」
何度も周回をこなす度に直視しては、すっかり見慣れてしまった主人の無愛想な顔が、視界に飛び込む。
その光景にスバルが第一に感じたのは――安堵である。
(戻って…これたんだ…!)
"死に戻り"は何度も経験したが、慣れると云うことはない。だから直前の死に様を引きずって、心が砕けそうになることも多々ある。
だが、こんなに安堵を感じるのは、これが初めてだ。
「? おい、ホントに大丈夫か?」
主人がのぞき込みながら問い掛けるのに対し、スバルは慌ててひきつった笑いを浮かべると、両手をパタパタと動かす。
「大丈夫、大丈夫。
何でもないんだ、急にぼーっとしちまっただけさ」
それからスバルは主人と他愛のない二、三言を交わすと、果物屋を後にする。
それからスバルは街を当てもなく彷徨いながら――ぼんやりと、今回の死について考える。
そして、安堵は次第に焦燥に変わってゆく。
(エミリアが…あんな事になっちまうなんて…!)
思い出される、エミリアのあられもない様々な姿。
蜘蛛糸にピッチリとくるまった、エミリア。
全身を拘束された上で、口や股間を犯された、エミリア。
汚らわしい男に抱かれながら、共に蜘蛛糸の眉の中に入り、まぐわうエミリア。
そして――琥珀色の肌に変わり、隆々とした男性器を見せつけて妖艶に笑う、エミリア。
(…止めなきゃッ!)
スバルは人混みの中で急に足を止め、拳を固めて強く念ずる。眼前の通行人がスバルにぶつかりそうになり、罵声を浴びせてくるが、そんな事など気にならない。
スバルの心にあるのは、今回の最悪に過ぎる事態を如何に回避するか、という問題だけだ。
しかし、その一方で――。
噛み千切られた身だというのに、その直前にされた唇による性器の愛撫が思い出されてしまう。
あの柔らかで、温かく、湿った粘膜による、素晴らしい愛撫――。
(考えるなッ!)
スバルは瞼をギュッと閉じ、顔を左右に振って思考を振り払う。
だが――素直な彼の股間は、ムクムクと勃起して、膨らみを作ってしまうのだ。
(考えるなよッ!)
スバルは己を叱咤する。だが、股間の膨張は止まらない。それどころか、亀頭が唇の感触を思い出し、トロリとカウパーを漏らしてしまう。
そんな情けない己の身に憤りを感じるスバルが、この残酷な運命を克服するには――まだまだ、時間がかかることであろう。
― 了 ―