来海ルート、及び乃愛ルートのネタバレを含みます。
星が照らす海(天使☆騒々/来海)
ある夜。来海とのやり取りの中で、あるメッセージを少しの覚悟と共に送信する。
『次のデートのことだけど』
『放課後、制服デートなんてどうですか』
俺たちが正式に付き合い始めてから、一ヶ月ほど経った。当然、何度もデートはしているが、それはどれも休日にしか行っていない。
理由は単純で、自由時間が短いからだ。より端的に言えば、性欲をぶつけ合う時間が。
なので平日は一緒に下校するに留め、放課後にどこかへ出掛けることはしていなかったのだが、俺の中にそういう憧れが無いかというと、無いとは言えないのも事実で。
とはいえそんな思いを正直にぶっちゃけるのは少し恥ずかしくもあり、伝えるには少しの覚悟が必要だったが――返信は即座。
『なんで急に敬語なの』
同時に、『OK!』のスタンプが。内心でガッツポーズを作りながら、こちらも返信。
『いつにする?』
『明日!』
そんなわけで、翌日の放課後。
「じゃ行こっか、リックン」
「ああ」
いつものように二人並んで歩く。「いつも」と言えるほどにこれを繰り返しているが、それでもやはりときめくものがある。
「今日はどうするの?」
「あー、実はノープランなんだ。ゲーセンとかシュタバとか、曖昧な知識しかなくてな」
「ふぁはは、何それ。可愛いなあ、リックンは」
「そんな訳で、どこに行くかは決めてないんだが、行きたい店とかあるか?」
「んー、それなら……」
来海に連れられてやってきたのは、スイーツが美味しいと評判らしい喫茶店。看板には、「CAFE STELLA」と書かれている。
「いらっしゃいませ。二名様ですね、空いている席へどうぞ」
夕方ということもあって、店内はそれなりに混雑していた。幸いにして二人席に空きがあったので、そこに腰を下ろす。
「いい雰囲気の店だな」
「でしょ? アタシのお気に入りなんだ、ここ」
シックな内装でありながら、暗さは感じない。店員さんの制服がどれも明るい色なのも、それを後押ししている。
「店の雰囲気だけじゃなくて、料理も凄く美味しいんだよ」
「へー……」
気になってメニューを開いてみると、 そこには俺の想像を上回る数字が。
「……結構高いんだな」
「そう? ファミレスのデザートよりは確かに高いけど、ちゃんとした店で食べるならこれくらいじゃないかな」
「そんなもんか」
生憎、喫茶店やスイーツには全くアンテナを向けていないので、その辺の事情はどうもよくわからない。こういったことも、長く付き合えば自然と覚えていくものだろうか。
「それで、来海のおすすめは?」
「スイーツ全般美味しいけど、初めて来たならやっぱりパンケーキだね」
「じゃあそれで。来海は?」
「んー……」
悩む素振りを見せる来海。どれも美味しいと言っていたし、迷うのも当然かと思ったのだが、どうもそういうことではなく。
「カロリーがなあ……でもアタシだけ食べないのも変だし……」
「ああ、そういうことか。そんなに気にしなくても、って言うのは違うな。大事なことだよな、女子にとっては」
「そうです、一大事なんですよこれは。テレビじゃゼロカロリー理論なんて気軽に言うけど、そんなこと言ってるだけでカロリーをゼロに出来たら苦労しないんだよ」
来海が言い終えるのと同時に、店員さんの一人がピクリと震えていたような。俺の気のせいか?
その後もうんうんと唸っていた来海だったが、最後には腹を括ったようで、
「よし決めた! イチゴのパフェにします」
「いいんだな? ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー! その代わり、摂ったカロリーは夜の運動で消費するから!」
「…………」
「……あっ」
みるみる顔が赤くなる。聞いている俺も恥ずかしいが、言った本人の恥ずかしさはその比ではないだろう。
「たはは、またやっちゃった……ダメだなー、アタシ」
「ああ、うん……頑張って治していこうな」
気恥ずかしさに耐えかねて、店員さんを呼ぶ。
注文を告げてから料理が届くまで、俺たちはずっと小声だった。
「おお……」
届いたパンケーキは、素人目にも分かるくらい質が高そうだ。これならば、ファミレスで食べるものより遥かに値段が高いことにも納得がいく。
その向かいには、パフェに向けてカメラを構える来海の姿が。
「リックンは撮らないの? 写真」
「映えって文化がないというか……撮るより先に食べたいが来る」
「ふぁはは、いかにも男子って感じ」
「けど、そうだな。せっかくだし、俺も撮っておくか」
食べたらなくなるものだからこそ、写真に撮って思い出として残す。かつての俺には縁遠い文化だったが、今ならば理解できる話だ。
映える撮り方というのも教えてもらい、初めての撮影。今後この写真を見る度に、今日のデートを思い出す、そんな一枚になった……と思う。
撮影を終えれば、いよいよお待ちかねの実食だ。
「いただきます」
「いただきまーす」
小さく切り分けた、そのたった一口で違いを思い知らされる。本格的なものは初めて食べるが、これが最初だと今後のハードルが高くなりそうだ。それくらいに美味しい。メープルシロップが必要ないかもしれないとすら思えるほどに。
「んー! やっぱりここのパフェは最高……!」
来海も顔を蕩けさせている。なんというか、
「甘い物を食べてる時の来海は、いつにも増して可愛いな」
「んぐっ!?」
盛大にむせている。思わず口に出してしまったが、もう少しタイミングを考えるべきだったか?
息を整えた来海は、嬉しそうでもあり、不満そうでもある、複雑な表情を浮かべている。
「……不意打ちとは卑怯だぞ、リックン」
「仕方ないだろ。いつも食事する時より更に嬉しそうで、それが可愛かったんだよ」
「そりゃーね。女子は甘い物が大好きですし?」
「そうか……よし。来海が食べてる姿も撮ろう」
「えー、恥ずかしいよ。ならアタシもリックンを撮っちゃお」
そう言って二人してカメラを起動するのだが、
「……お互いにスマホを構えてたら食べづらくないか?」
「それもそだね、ふぁはは」
そんな他愛もないやり取りをしながら食べ進めていく。甘くはあるが飽きが来ないので、ナイフとフォークが止まらない。半分以上食べたところで、恒例のお時間だ。
「パフェも食べてみる?」
「食べたい」
「じゃ、はい。あーん」
気恥ずかしさはあるが、それでも差し出されたパフェを口に運ぶ。来海の好意で、イチゴも一つ付けてもらった。これもまた美味しい。一つ残念なことがあるとすれば、この美味しさがパフェ本来のものなのか、はたまた来海が食べさせてくれるからなのか、それが曖昧なことか――
バカなことを考えながら、俺もパンケーキの端を切って、来海に差し出す。
「あーん…………んっ、やっぱり美味しい」
「パフェも凄く美味しかった。よくこんないい店見つけたな」
「前はチカとカエデの二人も一緒だったから。三人寄れば文殊の知恵、ってことよ」
「なるほど。確かにあの二人もいるなら、それくらい訳ないか」
「そういうこと。リックンと付き合う前は、毎日のように色んな店を二人と開拓してた時期もあったし」
「その二人からこの間、『クルミを独占するなー』って釘を刺されたよ」
「えー、そんなに付き合い悪くなってないと思うけどなー」
「それでも以前に比べれば、一緒に行動する時間は短くなってるだろ? 俺のこともいいけど、友達付き合いも大事にしてくれ」
「そうは言うけど……やっぱりアタシの一番は、リックンなわけで」
顔を赤らめながらそんなことを言われると、胸が思わず跳ねてしまう。思わず目を逸らしてからもう一度来海の方を見ると、今度はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「……さっきは不意打ちなんて卑怯だ、って言ったくせに」
「リックンが先にやったんだもん。アタシは悪くありませーん」
「むっ、そんなことを言うなら……」
「あ、イチゴはもうあげないよ」
パフェにフォークの先を伸ばそうとして、先を読まれた。もしかして、精神感応で思考を読まれたか――なんてことは当然なくて。
「分かりやすいなー、リックンは。ウーソ、はいどーぞ」
差し出されたイチゴを頬張る。顔の熱に意識が向いて、味がよく分からなくなっていた。
気付けば二人の皿は空で、追加で食後のコーヒーと紅茶を注文。それも飲み終え、店を出る。既に街には、夜の帳が降りようとしている。
今日くらいは奢ろうと思ったが、例によってきっちり割り勘にされてしまった。
「悪いな」
「いいから。奢られたりなんかしたら、こっちが申し訳ないって言ってるじゃん?」
男の甲斐性を発揮するのは、一体いつになるやら。釈然としないものを抱えつつも、二人で並んで歩けば、そんなことはついつい後回しになってしまう。
「次は、ヴェガちゃんも連れて来ようと思ってるんだ」
「いいな。ヴェガにもパンケーキを食べさせるのか?」
「……なーんか他人事みたいに言ってるけど、リックンも来るんだからね」
「俺も? 俺はいいけど、ヴェガがどう思うかな」
かつて刺客と標的という間柄だったことがあってか、あるいは俺が魔王の転生者であるという事実が未だに影響しているのか――いずれにせよ、俺に対するヴェガの振る舞いは、他の人に対するそれよりもまだぎこちない。
「だからこそでしょ。これを機会に、リックンから距離を詰めていかなきゃ」
「……そうだな。勇気、出さないとな」
かつて、来海と「お試し」で付き合うことを決めた時のように。
うじうじとしていては、手に入らないものがあるのなら。
勇気を出して、掴みに行くしかないのだ。
そんな話をしているうちに、駅に着いた。本来ならここから電車で帰る来海を送っていくのだが……。
不意に、ポケットが震える。LIENの通知だ。
『お父さんとお母さん、今日帰り遅くなるって』
『ワタシは乃愛ちゃんとゆっくり外食するから』
可及的速やかに『わかった』と返信する。天音からのメッセージを信じるなら、今、家には誰もいない。恐らくは気を利かせて、家を空けてくれたのだろう。 オトンとオカンの帰りがいつになるか分からない、という不確定要素さえ除けば、二人きりの時間が長く作れそうだ。
「どうしたの?」
怪訝そうな顔をする来海に、その事実を伝えると。
「……じゃあ、今から、お邪魔してもいいかな」
顔を真っ赤にしながらそう言われれば、断る理由はないわけで。
「やった。ああそうだ、アタシもお母さんに連絡しとかなきゃ」
それからは言葉もなく。
この後行われるであろう『夜の運動』に胸を躍らせながら、二人で俺の家を目指す――。
約3年ぶりの更新です。
なーんか久々に書いてみようかと思い筆を執りましたが、もう疲れちゃって 書くものも書けなくてェ……
天使☆騒々、久々のゆずソフト新作ということでプレイしましたがどのキャラも可愛い! 甲乙つけがたい良さでした。
元々は乃愛ルートで来海のおすすめであるカフェ・ステラにみんなで行く、というシーンがあるわけですが、これを読んで私は「それはつまり来海とデートでここに行く可能性もあるのでは!?」と考え、気付いた時にはこうなっていました。
来海の口調は難しいですね。どうすれば彼女が喋ってる「感」を出せるのか試行錯誤の繰り返しでした。もうちょっと鍛錬が必要かな。気が向いたらまた書くかもしれません。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。