灯里√ED後です。ネタバレありますので、ご注意を。
俺が屋敷に来てから、もう長くなる。最初は影武者として来たというのに、今では使用人として働いている……などと当初の俺に言ったところで、聞く耳は持って貰えないだろう。
その間に紆余曲折あって、俺は灯里と付き合うことになった。長い間暮らす内に、猫舌とか朝に弱いとか色々な一面を見ることが出来たわけだが、その中でも俺が警戒している特徴がある。
告白の日以来見えていなかったので油断していたのだが、今日は久々に出てしまった。
晩餐の席で一人食事をする灯里。その顔はうっすらと赤らんでいた。
「うぅー……ひっく」
「お嬢様? お嬢様―?」
「お嬢様じゃないでしょ。名前で呼びなさいよ、名前で」
「いや、でも仕事中だし」
「なーにー? 主人の命令が聞けないって言うの?」
五秒も経たないうちに矛盾するんじゃない。……とまあ、灯里のかなり危険な一面というのはこれの事だ。アルコールが入ると、途端に酔っ払う。その上絡み酒と来たものだから、一番タチが悪い酒飲みだ。
「あの、酔ってる?」
「酔ってない、酔ってなーい!! 酔ってないからぁ……おかわりぃ」
酔っ払いは皆そう言うんだ。自覚もないのがまたタチが悪い所か……。
しかし、これを仕込んだのは誰だ? 少なくとも俺が準備したわけじゃない。となると……。
「あの、月山さん?」
「はい、何でしょう?」
「……酒、出しました?」
「はい、それがどうかしましたか?」
月山さんは悪びれる様子もなく答える。そういえば、この人は灯里が酒に弱すぎることを知っていたか。でも、どうして? 告白の時は、素直にならない灯里のタガを外すためのきっかけだったはず。今回は特にそういう事もないはずなのだが。
「藤島さん、最近、灯里様と二人きりの時間が減っていますよね? そのことが、灯里様にとってはご不満だったのでは、と」
俺の内心を見透かしていたらしい月山さんが、聞かずとも説明してくれた。なるほど、それでヤケ酒か。確かに最近は仕事ばかりで殆どそういう時間は無かった。とはいえ、それで酒とは……なんだか将来が心配になってきたぞ。
「という訳で藤島さん、お相手して差し上げてください」
「…………」
気が乗らないなぁ……酔っ払いはあんまり好きになれないからな。
まあ、俺に責任の一端があるのは事実だし、喜んでお相手しようか。二人きりになれなくて辛かったのは、俺も同じだし。
そう決意し、グラスにワインを注いで戻る。このワイン、ウン百万する代物だったはずだが、何も考えないことにした。これで飲み干されたって俺は悪くない。……はずだ。
「お待たせしました」
差し出したグラスを、灯里はふんだくるように受け取って、グイグイ呷る。
「んくっ、んくっ…………ぷはーっ!! やっぱ美味しーわね、これ。ひっく」
「お嬢様、お行儀が悪いですよ」
「うーるーさーいー。いーじゃない、たまにはこれくらい。匠も付き合いなさいよ」
「俺もか?」
「そーよ。最近ちっとも相手にしてくれないじゃない。ひっく、だから今日はとことん付き合って貰うわよ」
月山さんの予想通りだな。となると、これは長くなるな。
「分かったよ。それで、俺は何を――」
「その前に。ほら、座んなさいって」
促されるままに椅子を一つ持ってきて、灯里の席の横に置く。流れるように腰かけると、途端に灯里が抱き着いてくる。そのまま、手で俺の体を撫で始めた。
「ふふふー、すりすりー」
酒の匂いが凄い。普通なら距離を置きたくなるほどだが、灯里が相手だとそうは思わないのが不思議だ。好きな人が相手だと、許容範囲は広がるのかもな。
空っぽになったグラスに、俺は再びワインを注ぐ。
「ごくっ……ねぇ、次はいつデートできるの?」
「次か。どうかな……忙しい時期を抜けたら、と言いたい所なんだが」
年がら年中忙しいので、あまり余裕を作ることは出来ない。楽な時期というものが存在しないので、デートするのも一苦労だ。
「なーによー、仕事仕事って。少しは私の相手もしなさいよ」
「そうもいかないって。俺は使用人なんだし、あの人の目もあるんだから」
「茅明には私から言っておくから」
「源さんだけじゃないんだよ」
兼元伊角。灯里の父親という最大の壁が立ちはだかっている。元々、この屋敷で働いているのだってあの人の手引きがあってのこと。そこを疎かにするわけにはいかないのだ。
「うーっ……私、寂しいのよ」
「それは本当に申し訳ない。でも――」
「それに」
俺の言葉を遮って、灯里は静かに語りかけてくる。
「暫く、エッチなことしてないでしょ? だから……」
俺の胸元を指でなぞりながら、もじもじと身体を揺らす彼女の姿は、とても扇情的だった。こうなると、俺だって滾るものが――
「だからぁ……………………すぅー」
肝心なところを言い終わらぬまま、灯里は俺の肩に頭を預け、スヤスヤと寝息を立て始める。狸寝入りではなく、本当に寝てしまったらしい。パーティーで酔った時も、一瞬で寝てたか。
というか、これでは生殺しなんだが。誘うだけ誘っておいて寝るのかよ。
「まあ、いいか」
束の間とはいえ、久々に灯里と二人の時間を貰えたのだ。その事に感謝しなくては。そう思って、俺は灯里の頭を撫でてみた。目が覚めるまで。もう少しだけ、こうしていたい。そんなことすら考えながら。
その後、目を覚ました灯里に事情を説明したところ、彼女は完全にポカンとしていた。そもそも俺に何を言ったのかすら覚えていなかったようで、てっきり夜のお誘いだと思っていた俺は軽く凹む羽目に。
追い打ちをかける様に、高級ワインを勝手にドバドバ使った罰として仕事の量を鬼のように増やされて更に余裕がなくなってしまい、業を煮やした灯里の機嫌を直すのに大変苦労したのだが……。
それは、また別の話。
ワンライのお題でした。久々にやりましたね。
酔った灯里が印象的だったので、付き合った後にはどうなるんだろう、みたいな想像で書きました。ちょっと在り来りだったかな?
今回から、タイトルに作品名とキャラ名入れてみました。過去上げた短編のタイトルにも入れようかと考えてます。
今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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