ED後のつもりなので、未プレイの人はブラウザバック推奨。
籐矢のもとを離れて、多くの月日が流れた。実験の後始末が終わっても、アタシのやるべきことは終わらない。ただ、前を見て進み続ける。ずっと、そんな日々を送っていた。
そんな折、協会から沙耶を通じて一つの依頼が舞い込んできた。その内容は、と言うと……。
「岬市で多発する、強盗の退治……か」
受け取ったメールには、そう記されている。詳細を見ると、事件の起きているエリア、主な犯行時刻、犯人の狙い、使用する魔術などが詳らかにされていた。しかし、これを見る限りではアタシの力が必要とは思えない。
「籠と沙耶だけでも十分そうだけど」
二人とも手練れなんだから、協力すれば容易く制圧できる。ここにアタシが参加しても、過剰戦力のはず。そうなると、これには裏がある。
「分かりやすいね、沙耶は。……今回は乗ってあげようかな」
わざわざ岬市の案件で呼びつけたのだから、一回くらいは顔を出せって事でしょ。あんまりいいことだとは思えないけど、こうして任務という形を取られた以上、拒否も出来ないからね。
指定された場所――慰霊碑のある丘で、作戦の参加者は待っているらしい。月が昇りきる頃にそこに向かうと、いたのは沙耶一人だけだった。
「久しぶりですね、未緒ちゃん」
「うん。久しぶり、沙耶。まさか、こんな手段でアタシを呼び出すとはね」
「こうでもしないと、会いに来てくれない未緒ちゃんが悪いんです」
「あはは、ゴメンゴメン。……それで、もしかしてアタシは遅刻しちゃったのかな?」
「そんなことは無いですよ。もともと、ここに来ていたのは私一人なんです。他の方は、最初から犯人の尾行をしてます」
「……? じゃあ、どうしてアタシを呼んだのかな」
「未緒ちゃんに見せたいものがあるからですよ。さ、行きましょうか」
そう言うと、沙耶は丘を降りて街中へ進んでいく。疑問が解決しないまま、アタシは沙耶の後を追った。
犯人を尾行している魔術師、それは思いも寄らない人物だった。
「…………籐矢」
「はい。籐矢さんですよ」
「なんで、籐矢が?」
あの子は確かに首を突っ込みたがる所はあるが、のべつ幕無しという訳じゃない。そもそも、沙耶は籐矢を巻き込むことを良しとしないのに、なぜ?
「籐矢さんの希望です。彼、協会に入ったんですよ」
「……そうだったんだ」
知らなかった。人事には関与してこなかったし、ずっと一人で活動してたから、いつの間にかそういうことになってたらしい。
「よく入れたね。こういうの、沙耶は絶対反対するでしょ」
「当たり前です。勿論反対しました。けれど」
「それで素直に諦める籐矢じゃない、か」
「困ったものですよね」
沙耶の表情を見る限り、困っているのは本当らしい。その気持ちはよくわかる。籐矢と出会ったばかりの頃のアタシも、同じ思いをしたから。どれだけ正論で説き伏せて、力でねじ伏せたところで、籐矢は決して自分を曲げなかった。たとえその選択が、自身を危険に晒すと分かっていても。
だから、アタシは折れた。そして、沙耶も同じく。……強いね、籐矢は。
「……始まるみたいですよ」
灯りの消えたビルの中間階で、籐矢たちは強盗集団と対峙する。アタシらはそれを向かいのビルから見ていた。沙耶が見せたいものと言うのは、きっと籐矢の活躍のこと。いつ助太刀に向かおうかな、なんて気軽に考えてたけど、想像以上にあの子は成長していた。弓矢と体術を巧みに使いこなして、敵を追い込んでいる。
「へぇ、凄いじゃない」
「そうでしょう? 籐矢さん、ここしばらく大活躍なんですよ」
前……少なくとも、あの人と戦った時とは動きが段違いだ。明らかに洗練されている。一日やそこらで身に付く動きじゃないのは、一目で分かる。
「あの子、一人であんなに強くなったの?」
「いいえ。籠さんと私で、徹底的に鍛えましたよ」
「……それはちょっと、籐矢に同情するかな」
同時に、悔しくもあった。あの子の隣に別の誰かが立っていて、あの子を強くしたのも別の誰か。アタシの役割をむざむざ誰かに明け渡してるのが、悔しくて仕方ない。
そんな考えが顔に出ていたみたいで、沙耶が頬を緩めながら質問してきた。
「もしかして、未緒ちゃん……妬いてるんですか?」
「うるさい。仕方ないでしょ」
同じ立場になれば、多分誰だって嫉妬する。うん、そうに決まってる。でも、籐矢が強く、格好よくなってることは、素直に嬉しい。
こうして話している間に、犯人グループの制圧はほとんど終わっていた。
「ほんと、強くなったんだね。…………でも、詰めが甘いかな」
「あっ、未緒ちゃん!?」
沙耶が声を上げてたけど、聞こえなかったことにした。窓を開け放って、一跳びで屋上に移り、虚空へ向かって蹴りを放つ。
「ぐげっ!?」
否、そこは虚空じゃない。姿を隠す魔術を使った、犯人の一人がいた。アタシの蹴りは、そいつの鳩尾に深く突き刺さる。
「あ……がっ」
ロクな抵抗もなく、犯人の一人は床に倒れ伏す。意識が無いのを確認すると、そいつを担ぎ上げて屋上を出ようとした。
そこで、見つかってしまった。飛び移る瞬間を見られてたのか、それとも誰かが入れ知恵したのかは知らない。けど、何はともあれ見つかった。
相手は驚いたような表情を浮かべると、徐に口を開く。
「未緒……?」
「やっ。久しぶりだね、籐矢」
「来てたなら教えてくれよ」
「いやー、悪いね。沙耶が秘密にしたがってたからさ」
実際、アタシが飛び出すのを止めようとしてたのも、籐矢には内緒だったからじゃないかな。それに、アタシも顔を合わせるつもりは無かったし。
「というか、成長したね、籐矢。見違えたよ」
「そうでもないだろ。未緒がいなきゃ、一人逃がしてた」
「むっ。アタシの言葉は信用できないかな?」
「いや、そういう訳じゃないけど。……未緒がそう言うなら、そうなのかもな」
「うん、そうなんだよ。だから胸を張りなって」
「でも、まだ約束は果たせそうにないな」
そう言って籐矢は、刀身が無くなった柄だけの刀を取り出す。
「まだまだ、お前には追い付けてないから。これを返すのは、もう少し先のことになりそうだ」
「そっか」
この場で受け取りたい、という気持ちがないと言えば嘘になる。でも、それは籐矢が望む結末じゃない。なら、アタシは受け入れる。それが、この子の為になると信じて。
「いいよ。期待しないで待ってる、そう言ったでしょ」
「悪かったな、ダラダラと待たせて」
「拗ねないでよ。まだ続きがあるんだから」
「続き?」
「……今の籐矢なら、期待してもいいかな。だから、せいぜい頑張りなさい。お姉さんをがっかりさせないでよ?」
「分かってる。すぐ行くから」
「うん。それじゃ、お姉さんはもう行くね」
「…………またな」
「またね」
そうして、アタシらの距離はまた開いた。いつかこの距離が縮まる、と。そう信じて、アタシは籐矢に背を向けた。
「もう行くんですか」
「まあね。仕事は終わったんだし」
「少しくらい、この街でゆっくりしてもいいんですよ」
「それでアタシが頷く人間じゃないことは、もう知ってるでしょ」
「……そうでしたね。未緒ちゃんは、そういう人でしたね」
「そういうこと」
あの子の前で、格好悪い姿は見せられない。追い着く、と言われたんだから、アタシもきちんと待ってないとね。
「じゃあね、沙耶」
「たまには、ご飯を食べに来てください。約束ですよ」
「うん、約束だ」
そこで言葉を切って、アタシはその場を離れた。ここから、またアタシの終わらない旅路は伸びていく。いずれその道中で、籐矢や沙耶のそれともまた交わるはずだ。だから、今はこれでいい。
「しかし、約束が増えちゃったね」
全部守るのは少し大変かな、これは。
このお姉さん書くの難しくないですか?
上のはかなりくだらない前置きなんですけど、実際かなり難しかったです。ゲーム内では一日刻みで話が進むせいで介入の余地はなく、エピローグで籐矢のもとを離れてしまうのでED後でも書けない。つまり、シチュエーションが想像しにくすぎるんですよね。筆者の想像力の貧しさもあると思いますが。
あとは全体的な理解度が足りないので、リベンジするべきヒロインですね。一周はしたんですが、それでも正しくキャラを描写できているかどうかは自信がないので。
それでは、今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスのご指摘、感想等お待ちしております。
籐矢の「籐」ってこれで合ってますよね…………?