※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天色*アイルノーツ』の三刀屋実里と酒の席で……という話です。
 ネタバレはないです。


一線を越えて(天色*アイルノーツ/実里)

 すっかり日が暮れて、町が静けさに包まれる頃。

 仕事を終えて帰路に就くボクの下に、一本の電話がかかってきた。

「はい、もしも――」

「透ぅ。今すぐいつものおでん屋台に来るさね」

「は? いきなりどういう――」

「いいから、さっさと来る」

 有無を言わさぬまま、ブツッ、という音と共に通話が終了してしまう。どうやら、ボクに拒否権は無いようだ。放っておいてもいいが、そんな事をすれば後でどんな目に遭うか分かったものじゃないし。

「はぁ……長い夜になりそうだ」

 

 言われた通り屋台に着くと、見慣れた背中をそこに見つけた。のれんをくぐって隣に座ると、怒声が飛んでくる。

「遅い」

「無茶言わないでくれ。これでも急いで来たんだぞ」

「呼んだ瞬間に来なきゃダメさね」

 とんでもない無茶振りをしてくる三刀屋の顔は既に赤い。電話での口調といい、既に出来上がってたな。

「ぷはぁ……。大将、おかわり」

「あいよ」

 寡黙な大将も、止めることなく酒を注いでいく。このまま放置したら酔いつぶれるな、コイツ。早いところ本題に入ろう。

「……で、ボクは何をすればいいんだ」

「そうそう。聞いてよ透、今日――」

 

「セクハラ、か」

「ったく、腹立たしい話さね」

 その言葉通り、見るからにご立腹な様子の三刀屋。刺々しく語られた内容を聞く限り、相当堪えたのは間違いなさそうだ。

「次からはもう契約しない、でいいんじゃない?」

「勿論そうするつもりさね。でも、それじゃ後手に回ってる。未然に防ぐ策が必要でしょ」

「それもそうだけど……じゃあどうするんだよ」

「それを考えるのが透の役目さね」

「どれだけボクの役割を増やせば気が済むんだ」

 皿に置かれた卵を箸で割りながら、少しぼやいてみる。話を聞くだけかと思えば、難しい課題を与えられてしまった。

 実際、セクハラを未然に防ぐとしてどうすればいいんだろう。そう思って三刀屋の方を暫く見ていると、不満そうに口を尖らせてきた。

「何さね、透。人のカラダをジロジロ見てきて」

「いや、別に。三刀屋は美人だから、事前に避けるのも難しいんじゃないかなって。……別に、セクハラを擁護するわけじゃないけど」

「……は? それ、どういう意味?」

 三刀屋は呆気に取られていた。……何か変な事を言ったかな?

「いやだから、美人が来たら興奮するのが男の性なんじゃないか、ってことだよ」

「ふーん。じゃあ、アンタもアタシに興奮するの?」

「え? はは、まさか」

 だって三刀屋だよ? 少なくとも、ボクは彼女に「女」を感じたことなどないわけで――

「本当に? こうしてみても?」

「なっ――」

 不意に、こちらへと寄りかかってくる三刀屋。そのままボクの腕に絡みつかせて、体を密着させてくる。

「ほらほら、これでもか」

「ちょっ、なな、何をしてるんだよ!」

「何って、見て分からない?」

「いや、その……当たってるんだけど」

 こうしている今も、腕にふにふにと柔らかい感触が。未体験の感覚に、鼓動が急激に早まる。

「当ててるんさね。……しっかしその反応を見ると、興奮しないってことはなさそうだ。そっかー、アンタもアタシで興奮するんだね」

「ぐっ」

 悔しいが反論できない。あろうことか三刀屋相手に余裕を失うとは。って、そうじゃなくて!

「待て待て! 話はセクハラの対策じゃなかったっけ!?」

「そういえばそうだった」

「忘れるなよ……」

 しかし、話を戻しても三刀屋の身体が離れることは無い。それどころか、むしろ接近している気がする。

「……おーい、離れてくれないかな」

「嫌だね。いいことを思いついた」

 ボクの頼みに耳を貸してくれないまま、三刀屋は妖しく口を動かす。

「アタシとアンタが付き合っちゃえばいいんだ。うん、それで万事解決さね」

「は? ちょっと待て、今何て?」

「だから、透がアタシの彼氏になればいいんさね。彼氏がいるってだけでも、抑止力はあるでしょ」

「それはそうかもしれないけど……」

 だからと言って、ボクが彼氏? いくらなんでも急すぎる気がするんだけど……。

「うん、決まりさね。それじゃ早速」

 そう言うと、三刀屋は顔を近付けてきた。ボクは思わず顔を仰け反らせたが、逃がさないとばかりに彼女は追随してくる。

「え、ちょっと、本気か?」

「んー……」

 今更のように、正面から目が合う。蠱惑的な輝きを湛えた瞳を直視できず、大将の方へと助けを求めて視線を飛ばすが――

「…………」

 当の本人は、明後日の方を向いていた。妙に空気の読める所が、今回ばかりは悪い方に作用しているらしい。

「ほら、こっちを見る」

 顔を掴まれ、再び正面から向き合う。最早言葉を発する時間すらないまま、

「ん、ちゅっ……んふぅ」

 ついに、唇同士が触れ合った。柔らかな感触、仄かなアルコールの香り、それら全てが、ボクの理性を奪いつくそうとする。しかも、そこに止まらない。

「ちゅく……れる、くちゅっ、ちゅく……あむっ、ちゅるっ」

「んむっ、んぐっ!?」

 三刀屋の舌がボクの口内に侵入し、余す所無く蹂躙する。舌と舌が濃厚に絡み合い、淫靡な水音を立てる。

 たっぷり三十秒近く絡み合って、ようやく唇が離れた。しかし、彼女の顔は未だ触れ合いそうなほどに近くにあった。

「お前、何でこんなこと」

「何でって、決まってるさね。アタシは、透のことが…………」

「……ボクのことが?」

「透の、ことが……………………ううっ、吐きそう」

「え? いやちょっと待てここで吐くなよ!? ほら、あっちに!」

「ううぅぅぅぅぅ…………」

 どうにか、最悪の事態だけは避けることが出来た。

 

 微妙な雰囲気になってしまったので、その場はお開きとなった。一度切れた話をもう一度やり直せる空気ではなかったので、結局あの言葉の続きは聞けずじまいだった。

 それにしても……。

「どうしてボクは、無理にでも拒否しなかったのかな」

 その気になれば、三刀屋を振りほどくくらいは出来たはずだ。でも、ボクはそうしなかった。なぜ?

 少なくとも、嫌ではなかった。むしろ、もっと欲しいとさえ思った気がする。三刀屋が相手なのに、どうして?

「うーん、何でだろう………………」

 自分の気持ちを自分でも理解できないまま、とぼとぼと下宿先へと向かうことしか、ボクには出来なかった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

「ああぁぁぁ」

 やってしまった。よりにもよって、あんな場所で、あんなシチュエーションで。

「アタシ、なんてことを」

 気付けば、体が勝手に動いてた。自然に透に近づいて、そのまま――

「~~~~!?」

 思い返すだけでも、顔が熱くなる。酒のせいじゃないと断言できる程。

 ただの友達。透はアタシをそう捉えているはず。なのにこんなことをしたら、どんな顔をして会えばいいか分からない。

「これからどうすれば」

 途方に暮れるアタシの声に応えてくれる人は、誰もいなかった。

 




 このヒロインどうして攻略できねえんだよ!!

 という訳で、ワンライのお題だった三刀屋実里で一つ書いてみました。
 攻略不可ヒロインなので非常に悩みましたが、最終的には妄想で進めることになりました。多分こんな感じだよ、この二人。

 実は筆者が『天色*アイルノーツ』で一番好きなキャラクターなので、いつか書きたいと思っていましたが……ようやくできました。できればこれの続きも書きたいな、なんて思ってたりします。

 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの指摘、感想等お待ちしております。
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