『アストラルを応用したバストアップも、いつかできるかもしれない』
いつだったか、式部先輩がそんなことを話していたのを、私はずっと覚えてた。その時が来るのを、今か今かと待ち続けて。
そして、それは突然やってきた。
「投薬実験……?」
「うん。アタシの所にも募集が来たんだよね。アタシはいいかなって思ったんだけど、三司さんが連絡を欲しがってたのを思い出してね。だから」
「受けます。是非受けさせてください!」
「う、うん。それは良いんだけど……、どうして三司さんが? 三司さんには必要ないと思うよ?」
「それは……その、まだ実験段階ですし、効くとも限らないですから。私なら、サイズが変わらなくても落ち込まずに済みますし」
むしろ欲しいんです、とは口が裂けても言えなかった。
「ですから、お願いしますっ」
「わ、分かった。じゃ、アタシの方から連絡しておくね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「…………あの、三司さん。なんだか怖いよ?」
「気のせいですっ」
後日、式部先輩から指示された場所に行って簡単な説明を受けた。聞いた話だと、ホルモンを操作する能力を研究して作られた薬だったみたい。
その実験では長期投薬による変化を見るから、施設に滞在する必要もなし。これなら、パッドがバレる心配はないから、安心した。
「よかった……」
「……? どうか致しましたか?」
「いっ、いえ、何でもありません」
「そうですか。では、最初の服薬は今週日曜の夜十時に。翌日から実験を開始、期間は二週間。試用期間が終わりましたら、報告書の提出をお願いします」
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
それで、実験開始日は来た。当たり前だけど、私の身体にはちっとも変化がなかった。
「まあ、そうよね。すぐに結果が出たら苦労しないわよね……」
今までだってそうだった。どんな手段を試しても、すぐに胸が大きくなるなんてことは無かった。今回も、まだ効果が出ないだけ。そう信じて、いつものようにパッドを身に付けた。
「見てなさいよ。いつかギャフンと言わせてやるんだから」
でも、その「いつか」は、意外なほど早くやってきて。
「はぁ……はぁ……」
実験初日の一時間目の授業中、私は不思議な息苦しさに襲われてた。その理由は、はっきり分かってる。
(胸が、きつい……)
朝にはなかった圧迫感。そのせいで、ノートを取るのもままならなかった。
「先生。気分が悪いので、保健室に行ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。誰か付き添いを」
「いえ、一人で大丈夫です。どうぞ続きを」
「そうですか? では続けましょうか。――」
急いで教室を出て、更衣室へ向かった。授業中とはいえ、油断できない。中に誰もいないことを確認して、恐る恐る制服を脱いで胸元を見たら、そこには――
「なっ、これって」
パッドに押し潰されながらも存在を主張する、たゆんとした膨らみが。息苦しさと圧迫感の正体はこれだったんだ、って分かって。
急いでパッドを外して両手で下から支えてみたら、ずっしりとした確かな重量感が腕に伝わってきた。
「ほぁぁぁぁっ」
テンションが上がるのを抑えられなかった。これからは私の時代、きっとそうに違いない、って確信したわ。
「ふふ、ふふふふふふふ…………」
まず最初に、さんざん貧乳を馬鹿にしたヤツの驚く顔を想像してみた。最初に思い浮かんだのが一言余計な誰かさんだった理由は、その時は分からなかったんだけどね。
それからの二週間は、毎日が楽しくて仕方なかった。パッドを付けて過ごした日々が、昔のことに思えるくらい。胸の話題が出るたびに内心で歯噛みしなくて済むし、パッドで蒸れて不快になることもない。唯一気になるのは肩凝りだけど、今はそれだって良いことだと思えちゃう。それくらい、私は幸せだった。分かりやすく言うなら、浮かれてた。
「これでよし、と。うーん……」
実験最終日の夜は、報告書を書いてた。疲れた腕を伸ばして力を抜いた時に大きく揺れた二つの山を見ると、自然と頬が緩んじゃった。
「特に副作用もなかったし、得しかないじゃない、この薬」
これは将来が期待できそう。この時の私はそう思うばかりで、気付かなきゃいけない違和感を見落としてた。
それを知るのは、翌朝だった。
「はぁ!? えっ、ちょっ、ええ!?」
目を覚まして、すぐに気付いた。私の胸が、あるはずの場所にない、って。盗まれたのかな、なんてあり得ないことまで考え始めて、ようやく思いついたの。
「まさか、薬の効果が切れた……?」
よく考えれば、すぐに豊胸効果が出る薬を毎日飲む理由はなかった。それこそ、一日で効果が切れるとかじゃない限り。
「そんな…………私のEカップの胸が…………」
どれだけ嘆いても、胸は戻ってこなかった。
「というわけなんだけど」
「……お、おう。大変だったんだな」
ある休日の昼下がり。俺達は、勝負で勝った方が相手に質問する、というあのゲームをしていた。その途中で、『今までの人生で、一番衝撃的だったことは?』と聞いてみたのだが…………とんでもない暴露をされてしまった。
「それで、その後はどうなったんだ?」
「泣く泣く報告書を提出しておしまい。その後も研究は続いてるみたいだけど……ずっと効果が続くようにはなってないみたい」
「そうか……道のりはまだ遠いな」
というか、胸のサイズはどう申告したんだ、という疑問が残っている。うまく誤魔化したんだろうか。
「はぁ……今思い出しても悲しくなるわね」
「根に持ってるんだな」
「当たり前でしょ。結局サイズは変わらないし、式部先輩には『やっぱり効かなかったんだね』なんて言われるし……」
「まあ、言えないもんな。一度大きくなって凹みました、なんて」
「あ゛? 誰の胸が凹んでるって?」
「言葉狩りだろ、それは!」
「まあ、その通りなんだけど。……はい、この話は終わり。次よ、次。アナタの恥ずかしい話でも聞いて、悲しい気持ちを忘れないと」
「ええ……」
悪魔だ。ここにひどい悪魔がいるぞ。
「さぁ、勝負よ」
ホルホルの実の能力者になりたい。
…………というのは嘘です。
実際、『RIDDLE JOKER』の世界にもそういう類の能力者はいそうな気がしますよね。身体にコンプ持ってる人達の垂涎の的になりそうですが。
そういう能力をメモリー繊維に記録したら、アンダーカバーもかなり楽にできるんじゃないでしょうか?
それでは、今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスのご指摘、感想等お待ちしております。
「希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする」って言葉、至言だと思いませんか?