※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天神乱漫』から、咲夜が神に戻される話。
 ネタバレあります。


引き裂かれる永劫(天神乱漫/卯花之佐久夜姫)

「……………………はぁ」

 また、溜息が漏れる。数えることすら億劫なほど息を吐いたところで、目の前の現実は変わらんというのに……それでも、止められん。

「しかし、なにゆえ今更……」

 妾を悩ませる、一通の手紙。ここ数日、ずっとそれが頭から離れなかった。

 

 

「『神の座に戻れ』…………か」

 

 

 かつての上役が寄越した手紙には、あやつが出雲に戻ること、そのせいで真日羽の土地神の座が空白になること、故に妾が土地神に戻らねばならんことが書かれておった。勿論、妾に拒否権は無いことも。……そんなことは分かりきっておるというのに。

『僕も悪魔じゃないからね。君たち二人にはお別れのための時間を用意してあげたから、有難く使うといいよ』

 などという最後の一文が、余計に腹立たしい。そしてその刻限が迫っているという事実が、胸をきつく締め付ける。もう数時間しか残ってないというのに、未だにハルキには何も言い出せておらんし……どうしたものか。

 

 

 ここ数日、咲夜の様子がおかしいのは誰の目にも明らかだった。俺ですら気付くほど、態度が変だった。しかも、話を聞こうにもはぐらかされるし、今日も露骨に避けられていた。何か重大な事を隠している……そんな気がした。

「何だろう…………浮気? 浮気なのか!?」

 もしそうなら、一刻も早く問いたださねば――

「バカか、はるきは。姫姉様がそんなことするわけないだろ」

 呆れるようなルリの声。俺がいないときはずっと一緒にいるルリが言うならそうなんだろうが、だとしたら何だ?

 それを確かめる方法は、一つしかない。

「ちゃんと、腰を据えて話をするしかないか」

 

 

「なぁ、何を隠してる? 正直に話してくれよ」

「…………」

 咲夜の部屋で、俺達は向き合っていた。とはいえ、咲夜は視線を虚空に泳がせて目を合わせようとしない。

「もしかして、俺には話せないことなのか。そんなに、俺は信用が無いのか」

「そんなことはない! 妾がハルキを信じておらんなんて、ことは…………」

「なら、話してくれよ。俺達は……恋人、なんだから」

「…………そう、じゃな。妾とハルキは、恋人じゃ」

 観念したように、咲夜は一枚の紙を差し出した。受け取って広げてみる。そこに書かれていたのは、目を疑いたくなるようなことばかりだった。

「今日の、0時まで? なんだよ、これ」

「……………………」

「なんで、黙ってたんだ」

「それは……」

「どうして、もっと早く教えてくれなかったんだ。せめて、読んですぐに話してくれれば、まだ心の準備ができたかもしれなかったのに」

「妾だって、話をしたかった。じゃが、今の幸せな日々に冷や水をかけるような真似は、妾には…………」

「…………」

 気まずい沈黙が、狭い部屋に満ちる。こうしている間にも期限は迫っているのに、何と言えばいいのか分からない。

 結局俺が捻り出せたのは、答えの分かりきった問いだけだった。

「何とか、できないのか」

「無理じゃな。こればかりは、どうしようも……」

 知ってた。知ってたのに、悔しくて歯噛みしてしまう。このまま咲夜が俺から離れるのを、指を咥えて見ているしかできないのか?

「嫌だ」

「…………ハルキ」

「嫌だ。お前と離れるなんて、絶対に嫌だ。ずっと俺の傍にいるんだろ、ならその約束を果たしてくれよ」

「……………………妾も」

 ぽつりと漏らした声を、俺は聞き逃さなかった。ふっと顔を俯けると、胸に飛び込んでくる。

「妾も、お主と離れたくない。お主がいなければ、嫌なんじゃ……っ!」

 肩を震わせて、ぼろぼろと思いを零す咲夜。たまらず俺も、咲夜の背中に手を回す。

 考えてみれば、こんな姿は初めて見たかもしれない。それほどまでに思い詰めていたんだ。

 せめて俺の気持ちも伝わるよう、きつく抱き締める。応じる様に、咲夜も俺の体に腕を絡めた。

 

 

 そうして、どれだけの時間が経ったのか。結局どうするとも言えないまま、ただ時間が過ぎ去っていき。

 ふと、咲夜が呟いた。

「……そろそろ、じゃな」

「行くなよ。ずっと、俺の隣にいろ」

「妾も、そうしたかったんじゃがな……」

「咲夜」

「どうやら、お別れのようじゃ」

「咲夜っ!」

「元気でな、ハルキ。ルリをよろしく」

 腕の中の温度が、急速に遠ざかる。やがて姿も見えなくなり、声すら消えて。

 部屋の中には、俺だけが残された。

「こんな、こんなことって、あるかよ……………………」

 何も、こんな別れ方をしなくてもいいはずだ。長生きして、どちらかを看取る……そんな結末がくるんだとばかり信じていた俺には、今の現実が受け入れられない。

「咲夜…………咲夜!」

 どれだけ呼び掛けたところで、答える声は無い。あの時と違って。

 奇跡は、二度も起こらない。

 

 

 神の座に戻って二日。決められた通りの仕事をこなしながら、人々を見守る日々。じゃが、妾の目はどうしても一人の人間を追いかけてしまう。

「ハルキ……」

 姿は見える。見えるのに、触れられない。声も聴けない。薄皮一枚隔てて、無限に距離が開いている。そのことを認識する度、胸が痛む。

 莫大な寂寥感に押し潰されて、心が死にかけておるのが分かった。凍り付くどころではない、完全な無。ハルキと過ごした日々を思い返してどうにか繋ぎ止めるのも、もう限界が近かった。

 そうして何度目かの回想に入ろうとしたとき――

「ただいまー」

「…………は?」

 声に驚き振り返ると、そこにおったのは間違いなく妾の上役じゃった。

「やあやあ、仕事はちゃんとやってるみたいだねえ。もし戻ればいい神様になるという、僕の見立ては間違ってなかった。やはり僕はパーフェクツだ」

「ちょっと待て、お主は出雲に戻ったんじゃろ。なにゆえここにおる」

「え? 僕はずっと出雲にいる、なんて言った覚えはないんだけど?」

「は? 意味が分からん」

「だからー、僕が出雲に戻ったのはこの街の土地神の後任が決まったから、その顔合わせの為なんだよ。で、連れて帰って来たってワケ」

 見れば確かに、あやつの後ろには別の神が。

「この子が土地神の後任なんだ。……そういうわけだから帰っていいよ、卯花之佐久夜姫」

「…………」

「というか、帰ってもらわなきゃ困るから」

 そう言うと、あやつは気障ったらしく指を鳴らした。たちまち、目の前の景色が遠ざかる。

「待て! これはどういう――」

「ああ、この二日間御苦労様。報酬は払うから、楽しみにしてなよ」

 その言葉と共に、視界は光に包まれ――

 

 

 …………これは、どういうことだろう。

 突然目の前が光ったかと思えば、そこには咲夜がいる。つい二日前に離別したはずの、咲夜が。

「あー……その、じゃな…………帰ったぞ」

「……帰ったぞ、じゃないだろ」

 今度は、俺の方から歩み寄る。気まずそうなのも構わず、強引に抱き寄せた。二度と感じることが出来ないとばかり思った温もりを、決して手放さないために。

「よかった。本当によかった」

「ああ」

「もう、絶対に離さない。何があってもだ」

「ああ……」

「……おかえり、咲夜」

「ただいま、じゃ。ハルキ」

 




 咲夜はただいまなんて言わないよ!

「今帰ったぞ」とは言いますけど、「ただいま」って言わないですよね。だけど最後の台詞はただいまじゃないとしっくりこないので、不自然にならないよう気を遣いつつ言ってもらいました。

 ちなみに、今回はお題箱で頂いたお題で、一時間ちょっとで書いたものです。疑似ワンライ、みたいな感じですかね。なかなか楽しかったですが、咲夜はこんなこと言うのかなという疑問との戦いでした。彼女自身そこまでメンタルが強いわけではなさそうなので、これでもいいかなと思ってますが。
 オチは天神乱漫らしいかなって思ってますが、どうなんでしょうね?

 タイトルはMTGの「引き裂かれし永劫、エムラクール」から付けました。あんま内容とは合ってないかも?

 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスのご指摘、感想等お待ちしております。




 解釈違いで刺されそう…………。
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