ネタバレがあるので、ご了承を。
七月某日。今日は午後からデートの約束をしていたのだが……。
「怪しい雲行きだな」
「早ければ、夕方には台風が上陸するんじゃったか」
咲夜の言う通り、真日羽にはもうじき台風がやってくる。そうなると……
「…………出掛けるなんて無理そうだな」
「まあ、仕方ないじゃろ。それに、どこかへ行くだけがデートではあるまい?」
「そうだけどさ。お前はそれでいいのか?」
「妾は構わんぞ? お主といられるなら、それで」
「……またそういうことを言う」
さらりとこんなことを言ってくるから、心臓に悪い。嬉しいけど、気恥ずかしくなる。
「満更でも無さそうじゃが?」
「うるさい。嬉しくないわけあるか」
「……そ、そうか。ならばよい」
視線が泳ぐ咲夜。どうやら、反撃は上手くいったようだ。
「それよりも、じゃ。これからどうする?」
「逃げたな」
「…………逃げとらん」
「嘘だな。絶対逃げたぞ」
「逃げとらんと言ったら逃げとらん! ふん、もう知らんわ。お主は一人で過ごしておれ」
「あっ、待てって。悪かったよ」
この後、宥めるのに少々の時間を要してしまった。
「で、ゲームというわけか」
「そうだな」
結局のところ、室内で楽しめることというなら、各種ゲームが一番簡単だ。
「お前、ゲーム嫌いだっけ?」
「まさか。趣味の悪いゲーム以外であれば大歓迎じゃ」
……あの神の事、まだ根に持っているんだろうか。触れると怖そうなので、ノータッチで行こう。
「どれやる?」
「ふーむ、まずはトランプでもやるか」
「わかった。二人でできるゲームというと……」
「ポーカーなんかどうじゃ?」
「ああ、いいなそれ」
ポーカーならルールも簡単だし、丁度いいか。間違っても大富豪なんてできないし、これでいい。
ルールの確認を終えた咲夜は、ケースからカードを取り出して素早く混ぜていく。ディーラーでも出来そうな巧みな手捌きに、思わず見惚れてしまった。
たちまち、俺とあいつの前にカードが五枚ずつ並ぶ。さてどんなものかと見てみると――
「……………………」
落ち着け、俺。今こそポーカーフェイスだ。例えペアも記号も揃わず、数字が何一つ並んでないとしても、まだ可能性はある。とはいえ、これは何を残せばいいんだ?
「三枚、交換だ」
数字の小さい方を三枚捨てて勝負に出てみたが、今捨てたカードと同じ数字でそれぞれ違う記号のカードを引いてしまった。これじゃ何の役も出来やしない。
「妾はノーチェンジじゃ」
対照的に、咲夜は強気の零枚交換。というか、ポーカーフェイスすらしていない。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。
「では、オープンといこうか」
二人の手札が開示される。俺は勿論ノーペアなのだが、
「は?」
「ふふん」
咲夜の手札は、スペードのロイヤルストレートフラッシュ。非常に確率が低い役を、最強の記号で決めるとは……どんな豪運だよ。
「…………次だ、次」
そこから何戦かやったのだが、結果は全て俺の負け。俺はいいとこツーペアなのに、咲夜はフルハウスだのストレートだのを連発してくるから勝てっこない。
「どうなってんだよ、お前の運」
呆れ半分、悔しさ半分でぼそりと呟く。それを聞いた咲夜は、笑いを堪えきれないといった様子で声を上げた。
「くっくっくっ。お主、運だけでこうなったと思っておるのか」
「は? どういうことだよ」
「イカサマをしてない、と。本当にそう思っておったのか?」
「えっ」
イカサマだって? 全く気付かなかった。
「とことん甘いんじゃな、ハルキは。普通こういうゲームは、プレイヤー全員でカードを混ぜるものじゃろ」
ってことは、シャッフルでイカサマを? 一回だけならともかく数戦分やるとか、神業だぞそれ。
「というか、ずるいだろ」
「何を言う。イカサマは見抜けなかった側が悪いんじゃぞ」
「…………お前、あの上役みたいになってきたな」
「…………………………」
真剣に何かを考え始めた咲夜。多分、自身の行いについて検討しているんだろう。
「……すまぬな、ハルキ。いくら親しい仲とはいえ、やり過ぎた。反省しておる」
「いや、別にいいんだけどさ。何も賭けてないし」
よほどあの神と同列視されるのが嫌らしく、驚くほど素直に謝罪してきた。このまま場の空気が重くなられても困るので、話題を転換する。
「テレビゲームでもやるか」
「うむ、そうしよう」
「あっ、それ俺のアイテムだぞ!」
「早い者勝ち、それがこのゲームのルールじゃろ」
俺達がやっているのは、一昨年発売のゲーム。ひげ面のおっさんや怪獣や恐竜がカートやバイクに乗ってレースをするという不思議な作品だ。アイテムによる波乱の展開を求めてプレイする人は多いらしい。
二人でプレイしても十分に楽しめるので俺の家でもちょくちょくやっているのだが、最近は咲夜の腕が上がってきて大ピンチだ。何がどうピンチなのか、というと――
「……ああっ! トラップボックスかよ!」
「ふふん。お主はそこを通ると思っておったわ」
俺の走りを読んだ咲夜が、絶妙にいやらしい位置に罠を設置しているのだ。そのせいでタイムロスが大きくなり、
「よっしゃ、大砲だ! これで逆転――」
「……落雷じゃな。ちなみに今のは妾ではないぞ」
NPCが執拗に邪魔をしてくる。二人でレースをするのも味気ないからと増やしたのが仇になった。その後もずるずると順位を落とし続け、
「また最下位……」
「一位じゃ。うむうむ、楽しいゲームじゃな、これは」
この体たらくである。もう累計で二十連敗はしている……というか、二十から先は数えるのを止めたので、実際はもっと負けている。
「どうすりゃ勝てるんだよ……」
「諦めないで! ハルキならきっと出来るよ!」
「本当かよ」
「本当だよ! もしかして、妾の言葉は信じられないの?」
「お前が言うから信じられないんだよ! つーか、わざとらしい口調を止めんかい!」
「まあまあ、そうカッカするな。ゲームじゃぞ?」
……その理由の半分くらいはお前が作ってるんだぞ。
「…………次だ、次」
「うむ。今度も妾が勝つぞ」
「見てろ。ギャフンと言わせてやる」
そして、新たなレースが始まる。相変わらずスタートだけは上手くいっているのだが、アイテム運は微妙だ。去年は最下位でも役立たずのアイテムしか引いていなかったことを考えれば、まだマシな方なんだけど。
これはまた最下位コースかな、なんて考えていたのだが、今回は違った。先程までとは打って変わって順調にレースが進む。妨害アイテムも綺麗に躱し、咲夜の追走も振り切り、独走状態に。
「…………行ったか!?」
ゴールは目前、妨害も間に合わない。やった、ようやく勝てる。そう確信して、画面を凝視していたのだが――
突如つんざくような轟音が鳴り響き、閃光が視界を白ませる。同時に部屋が一斉に明かりを失い、当然のようにモニターも真っ黒になった。
「…………」
「落雷、じゃな…………。念のため言っておくが、妾ではないぞ?」
「分かっとるわ!!」
こんなことってあるかよ。停電でレースが流れました、なんて。
「なんじゃ、その…………ドンマイ、ハルキ」
「慰められても嬉しくねえ……」
ようやく掴みかけた勝利を取り逃がした俺は、途方に暮れるしかなかった。俺はいつになったら、こいつに手玉に取られずに済むんだろうな。
今回、特にテーマというものを決めて書いたわけではないです。
「こんな咲夜可愛いよね」っていう自分の欲望を具現化したに過ぎないので、かなり雑な作りになってるかもです。キャラブレは多分無いと思いますが…………。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスのご指摘、感想等お待ちしております。
実は何かの前日譚だったり