※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

20 / 46
『天神乱漫』より、卯花之佐久夜姫と千歳春樹の身体が入れ替わる話。
 一応ED後ですけど、共通時点でも出来そう。


汝の名は?(天神乱漫/卯花之佐久夜姫)

「んっ、んー……」

 自分でも驚くほど艶やかな声を出しながら、朝の光を浴びる。ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見慣れた和室の天井だった。……和室?

「!?」

 待て。俺は何故和室で寝ていた? 昨日の晩は、確かに俺の部屋で寝たはずだ。部屋に咲夜もルリもいないのを見るに、ここで寝ているのは俺一人。……どういう事だろう。

 それ以外も何かおかしい。まず昨日までなかった肩の違和感、妙に色っぽくなっていた声。そして何より、股座の喪失感。

 確認しようと手を伸ばした、その瞬間。

「ハルキ、大変じゃ! おかしなことが――」

 それを遮るように襖が開かれ、部屋に俺が飛び込んできた。……!?

「え、えぇぇぇぇぇぇ!! な、何で俺が二人!?」

「どあほう! よく自分の姿を見んか!」

 俺らしくない口調で命令されて、反射的に自分の身体を見る。しなやかで美しい、ほっそりとした腕。健康的な腰、程よく育った胸。…………。

「え、これ」

「変態め、どこを見ておるんじゃ」

 憤慨する声と共に、鏡が投げつけられた。そこに映っていたのは、

「…………咲夜?」

「ようやく気付いたか」

 呆れ顔の俺が、首を振ってため息をつく。そういえば、目の前にいる俺の口調は、咲夜のそれと完全に同一。

「もしかして、俺達」

「ああ…………どうやら、入れ替わっておるようじゃ」

 意味が分からなかった。ただ、起きている事象が真実を如実に表していた。

「どうしてこうなった?」

 自分のものではない声が、俺の形をした咲夜に向かって放たれる。

「妾にも分からん……と言いたい所じゃが、心当たりはある」

 向こうもまた、俺の声で咲夜の言葉を届けてきた。うわ、すっごい違和感。それはともかく、こいつの心当たりというのは何だろう。

「俺の不運か?」

「それはない、お主の天罰は消えておる。じゃが、当たらずとも遠からずと言ったところか」

「というと…………まさか」

「ああ。十中八九、妾の『元』上役の仕業じゃろ」

 となると、またあいつに会いに行かなきゃいけないのか。面倒だな。

「ヒメさん、ご飯ですよ」

「あ、ああ、悪い。すぐ行く」

「……? はい、待ってますからね」

 訝しげな顔をして、佐奈は部屋を立ち去った。……俺は何か、怪しまれるようなことをしたのだろうか?

「お主なぁ、今は妾の身体に入っておるのを忘れておらんか? 口調じゃ、口調」

「…………あっ」

 完全に失念してた。見た目は完全に咲夜なんだから、口調も咲夜のものにしなければならないじゃないか。

「俺が『妾』とか言うのかよ…………」

「不満か? 妾はお主の口調を真似るのは嫌ではないぞ? んんっ…………咲夜、行くぞ。佐奈が待ってる」

「…………なんで、すぐに適応できんの?」

 でもそういえば、こいつは俺の口調を真似てはからかってたっけ。そういう経験をこんな形で活かしてくるとは、抜け目がないと言うか。

「……分かった。行くぞ」

 

「は、ハルキ。醤油を取ってくれんか」

「……ほら」

 溜め息でも付きそうな表情をした後、咲夜は醤油を俺に手渡してきた。言わんとしていることは分かる。俺の挙動がぎこちない、という事だろう。仕方ないじゃん……自分で自分を呼ぶなんて慣れてないんだから。

「すっ、済まんな、助かった」

「ああ、気にすんな」

「……今日のヒメさん、何だか変ですよ?」

 佐奈の視線がこちらへ向けられる。流石に鋭いな、妹というのは伊達じゃないらしい。どうにか誤魔化さなければ。

「そ、そんなことはないぞ?」

「……やっぱり変です。何となく、いつものヒメさんじゃない気が」

 ぎくっ。

「…………お主の、気のせいでは、ないか?」

「……怪しいです。もっ、もしかして――」

 なっ、もうバレたか!?

「ゆうべはおたのしみだったんですか!? 兄さん、一つ屋根の下だからと言ってそんな事を、しかも家族がいる中でやるなんて、兄さんはそういう性癖の持ち主なんですか!?」

「そんな訳あるか!! 何がどうしてそうなるんだ!?」

「かくなる上は妹であるわた――あれ? なんでヒメさんが答えるんですか?」

「あっ」

 つい口が滑った。しかも今、元の口調に戻ってたし。完全に自爆してしまった。

「……今日の姫姉様、雰囲気が違う。なんというか……そう、はるきみたい」

 追撃とばかりに、ルリまでもが指摘してくる。こんなのもう俺じゃ切り抜けられない、そう思って咲夜に助けを求める視線を送る。

「多分、佐奈とルリの気のせいだぞ」

「……そういえば、はるきの雰囲気も違う。姫姉様みたいな……ぶわー、だ」

「なんだそりゃ」

 咲夜は額に手を当てる。その所作は恐らく、普段の俺と比較しても遜色ないだろう。それ程までに、咲夜は「俺」に……「千歳春樹」になっていた。

「ごちそうさま。じゃ、俺は部屋に戻ってるから」

 咲夜はどうにか誤魔化し切って、リビングを後にする。

「ご馳走様。……では妾も」

 ここにいるのは危険と判断した俺も、そそくさとリビングを出た。

 

「お主……大根じゃな」

「うるさいな。分かってるよ」

 二人きりになったので元の口調に戻った俺達は、和室に集合していた。というのも理由は簡単で、

「じゃあ……頼む」

「ああ、少し待て」

 女物の服の着方が分からないのだ。服というか、主に下着が。こういうのは、咲夜にやってもらうのが一番だ。

「ほれ、終わったぞ」

「悪い、助かった」

 数分もしないうちに、作業が終わる。流石に手馴れてるな。俺一人だったら永遠に終わらなかったかもしれない。我慢の限界が来る前に終わってよかった。

「で、これを着て、化粧は――」

「それも妾がやっておこう」

 テキパキと簡素なメイクを終えて鏡を見ると、先程までとはどこか印象の違う顔がそこにあった。……そろそろ、聞いてみてもいいだろうか?

「なあ咲夜、これを尋ねるのは本当に申し訳ないと思うんだが」

「くだらん予防線など張るな。正直に言わんか」

「分かった、ならハッキリ言うよ。……トイレ行きたいんだけど」

 目の前で、あんぐりと口を開けた咲夜(in俺)。顔を真っ赤にしながら次に発した言葉は、この通りだった。

「どあほう! それを早く言わんか!!」

 いや、どう考えても俺は悪くないと思う。

「やり方が分からないんだよ」

「妾の口から言わせる気か?」

「それ、俺の口だぞ」

「おい、誰が冗談を言えと言った? ああん?」

「ごめんなさい冗談です、お願いですから教えてください」

「まったく、お主という奴は……よく聞け、一度しか言わんぞ。……ごにょごにょごにょ」

 言われた通りに用を足した。物凄く恥ずかしかったが、多分それは俺に体を間借りされている咲夜も同じ事だろう。女の子って大変なんだな。

 ……というか、咲夜はどうしてるんだろうか。想像したら怖くなったので、考えるのを止めた。

 

「神社に行かないと」

「じゃな」

 支度を終えてすぐ、俺達は家を出た。事態を解決しようにも、あいつに会わなきゃ始まらない。一刻も早く。そう考えると、俺のペースは自然に上がっていた。

「あっ、ハル、ヒメ。おはよ」

「葵か。早いな、今日はバイトか?」

 咲夜が応答する。俺はもう喋らない方がいいという判断だ。

「うん。そういうハルも朝早くから出るんだね。どこ行くの?」

「あー、ちょっと神社に用事がな」

「神社に? もしかして、虎太郎?」

「そうというか、そうじゃないというか……」

「何よ、それ。というか、あのメールは何?」

「別に何でもない、ただの気分転換だ。そういうわけで、行くぞ咲夜」

「……? ああ」

 途中気になる点が有ったが、流されてしまった。そのまま俺達は、さっさと退散して神社へ向かう。

「ヒメ、あんなに歩くの早かったかな?」

 背中越しに聞こえた声については、無かったことにした。

 

「ぷっ、あはははははははははははは!! あっはっはっはっはっはっは!! あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 神社で、虎太郎の身体を使って顕現した神は、開口一番に大笑いしてやがった。くそ、滅茶苦茶腹立つ。

「おい咲夜、こいつぶん殴っていいか」

「同感じゃな、妾もこやつを殴りたくて仕方がない」

「うーん、それは勘弁してほしいな。僕だって痛いものは痛いんだよ?」

「お前は人の痛みを知るべきだ」

「うーん、僕は興味ないから。そういうのは、別のマゾヒストな神様にお願いしてよ」

「お前、この――」

「待てハルキ、このままでは話が進まん」

 怒りながらも、咲夜は冷静だった。

「それで、これはお主の仕業で間違いないんじゃな?」

「どうして僕を疑うかな。まあ正解だけど」

「ならば話は早い、元に戻せ」

「あー、うん、いいよ。もうたっぷり面白いものは見れたから」

 そう言うと、気障ったらしい神は軽く手を振る。途端、俺の視界が白一色に包まれ、

「うわっ!?」

 次に視界が戻った時には、目の前に咲夜の姿があった。俺の顔をした咲夜じゃない、紛れもない咲夜の身体だ。

「……戻った? えらくあっさり戻してくれたな」

「うん。言ったよね、もう面白いものは見れた、って」

「どういう意味だ?」

「簡単だよ。千歳春樹、携帯の写真欄を見てごらん?」

「は?」

 訳も分からぬまま、言われた通りにフォルダを見てみる。そこにあったのは、あられもない格好をする俺の写真。しかも一枚だけじゃなく、何十枚単位で。

「はぁ!? おい、これいつ――」

 聞くまでもなく分かった。こんなことをするのは、一人だけしかいない。

「ついでじゃハルキ、メールリストも見ておけ」

 最早嫌な予感しかしなかったが、一応見てみる。

 受信:二件。一人は庵で、

『何か辛いことがあるなら相談に乗るぞ』

 という文言が。もう一人は木賊で、

『ありがとう!』

 としか書かれていない。この時点で、猛烈な寒気が俺を襲った。葵が言っていた「メール」の意味がようやく分かったが、もう手遅れ。

「終わった……………………」

「あはははははははははは。あー、やっぱり君は面白いね、千歳春樹。また君で遊ぶと思うから、その時はよろしくね」

「ふっ…………ざけんなー!!」

 俺の叫びが、閑静な神社に虚しくこだました。

 

「なあ、何でお前は俺の真似が上手いんだ?」

 全てが終わってから、気になっていたもう一つの疑問について尋ねてみたところ、

「決まっておろ、お主が好きで、お主の事ばかり見ておるからじゃよ」

 と照れくさそうに答える咲夜が見れたので、それがせめてもの救いだと思うことにした。

 




 どう考えても『君〇名は。』です。本当にありがとうございました。


 いや、実はあの映画見てないんですけどね。タイムリーなネタだったので、使わせてもらいました。
 ただ、入れ替わりを分かりやすくできなかったな、と反省してます。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。