一応ED後ですけど、共通時点でも出来そう。
「んっ、んー……」
自分でも驚くほど艶やかな声を出しながら、朝の光を浴びる。ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見慣れた和室の天井だった。……和室?
「!?」
待て。俺は何故和室で寝ていた? 昨日の晩は、確かに俺の部屋で寝たはずだ。部屋に咲夜もルリもいないのを見るに、ここで寝ているのは俺一人。……どういう事だろう。
それ以外も何かおかしい。まず昨日までなかった肩の違和感、妙に色っぽくなっていた声。そして何より、股座の喪失感。
確認しようと手を伸ばした、その瞬間。
「ハルキ、大変じゃ! おかしなことが――」
それを遮るように襖が開かれ、部屋に俺が飛び込んできた。……!?
「え、えぇぇぇぇぇぇ!! な、何で俺が二人!?」
「どあほう! よく自分の姿を見んか!」
俺らしくない口調で命令されて、反射的に自分の身体を見る。しなやかで美しい、ほっそりとした腕。健康的な腰、程よく育った胸。…………。
「え、これ」
「変態め、どこを見ておるんじゃ」
憤慨する声と共に、鏡が投げつけられた。そこに映っていたのは、
「…………咲夜?」
「ようやく気付いたか」
呆れ顔の俺が、首を振ってため息をつく。そういえば、目の前にいる俺の口調は、咲夜のそれと完全に同一。
「もしかして、俺達」
「ああ…………どうやら、入れ替わっておるようじゃ」
意味が分からなかった。ただ、起きている事象が真実を如実に表していた。
「どうしてこうなった?」
自分のものではない声が、俺の形をした咲夜に向かって放たれる。
「妾にも分からん……と言いたい所じゃが、心当たりはある」
向こうもまた、俺の声で咲夜の言葉を届けてきた。うわ、すっごい違和感。それはともかく、こいつの心当たりというのは何だろう。
「俺の不運か?」
「それはない、お主の天罰は消えておる。じゃが、当たらずとも遠からずと言ったところか」
「というと…………まさか」
「ああ。十中八九、妾の『元』上役の仕業じゃろ」
となると、またあいつに会いに行かなきゃいけないのか。面倒だな。
「ヒメさん、ご飯ですよ」
「あ、ああ、悪い。すぐ行く」
「……? はい、待ってますからね」
訝しげな顔をして、佐奈は部屋を立ち去った。……俺は何か、怪しまれるようなことをしたのだろうか?
「お主なぁ、今は妾の身体に入っておるのを忘れておらんか? 口調じゃ、口調」
「…………あっ」
完全に失念してた。見た目は完全に咲夜なんだから、口調も咲夜のものにしなければならないじゃないか。
「俺が『妾』とか言うのかよ…………」
「不満か? 妾はお主の口調を真似るのは嫌ではないぞ? んんっ…………咲夜、行くぞ。佐奈が待ってる」
「…………なんで、すぐに適応できんの?」
でもそういえば、こいつは俺の口調を真似てはからかってたっけ。そういう経験をこんな形で活かしてくるとは、抜け目がないと言うか。
「……分かった。行くぞ」
「は、ハルキ。醤油を取ってくれんか」
「……ほら」
溜め息でも付きそうな表情をした後、咲夜は醤油を俺に手渡してきた。言わんとしていることは分かる。俺の挙動がぎこちない、という事だろう。仕方ないじゃん……自分で自分を呼ぶなんて慣れてないんだから。
「すっ、済まんな、助かった」
「ああ、気にすんな」
「……今日のヒメさん、何だか変ですよ?」
佐奈の視線がこちらへ向けられる。流石に鋭いな、妹というのは伊達じゃないらしい。どうにか誤魔化さなければ。
「そ、そんなことはないぞ?」
「……やっぱり変です。何となく、いつものヒメさんじゃない気が」
ぎくっ。
「…………お主の、気のせいでは、ないか?」
「……怪しいです。もっ、もしかして――」
なっ、もうバレたか!?
「ゆうべはおたのしみだったんですか!? 兄さん、一つ屋根の下だからと言ってそんな事を、しかも家族がいる中でやるなんて、兄さんはそういう性癖の持ち主なんですか!?」
「そんな訳あるか!! 何がどうしてそうなるんだ!?」
「かくなる上は妹であるわた――あれ? なんでヒメさんが答えるんですか?」
「あっ」
つい口が滑った。しかも今、元の口調に戻ってたし。完全に自爆してしまった。
「……今日の姫姉様、雰囲気が違う。なんというか……そう、はるきみたい」
追撃とばかりに、ルリまでもが指摘してくる。こんなのもう俺じゃ切り抜けられない、そう思って咲夜に助けを求める視線を送る。
「多分、佐奈とルリの気のせいだぞ」
「……そういえば、はるきの雰囲気も違う。姫姉様みたいな……ぶわー、だ」
「なんだそりゃ」
咲夜は額に手を当てる。その所作は恐らく、普段の俺と比較しても遜色ないだろう。それ程までに、咲夜は「俺」に……「千歳春樹」になっていた。
「ごちそうさま。じゃ、俺は部屋に戻ってるから」
咲夜はどうにか誤魔化し切って、リビングを後にする。
「ご馳走様。……では妾も」
ここにいるのは危険と判断した俺も、そそくさとリビングを出た。
「お主……大根じゃな」
「うるさいな。分かってるよ」
二人きりになったので元の口調に戻った俺達は、和室に集合していた。というのも理由は簡単で、
「じゃあ……頼む」
「ああ、少し待て」
女物の服の着方が分からないのだ。服というか、主に下着が。こういうのは、咲夜にやってもらうのが一番だ。
「ほれ、終わったぞ」
「悪い、助かった」
数分もしないうちに、作業が終わる。流石に手馴れてるな。俺一人だったら永遠に終わらなかったかもしれない。我慢の限界が来る前に終わってよかった。
「で、これを着て、化粧は――」
「それも妾がやっておこう」
テキパキと簡素なメイクを終えて鏡を見ると、先程までとはどこか印象の違う顔がそこにあった。……そろそろ、聞いてみてもいいだろうか?
「なあ咲夜、これを尋ねるのは本当に申し訳ないと思うんだが」
「くだらん予防線など張るな。正直に言わんか」
「分かった、ならハッキリ言うよ。……トイレ行きたいんだけど」
目の前で、あんぐりと口を開けた咲夜(in俺)。顔を真っ赤にしながら次に発した言葉は、この通りだった。
「どあほう! それを早く言わんか!!」
いや、どう考えても俺は悪くないと思う。
「やり方が分からないんだよ」
「妾の口から言わせる気か?」
「それ、俺の口だぞ」
「おい、誰が冗談を言えと言った? ああん?」
「ごめんなさい冗談です、お願いですから教えてください」
「まったく、お主という奴は……よく聞け、一度しか言わんぞ。……ごにょごにょごにょ」
言われた通りに用を足した。物凄く恥ずかしかったが、多分それは俺に体を間借りされている咲夜も同じ事だろう。女の子って大変なんだな。
……というか、咲夜はどうしてるんだろうか。想像したら怖くなったので、考えるのを止めた。
「神社に行かないと」
「じゃな」
支度を終えてすぐ、俺達は家を出た。事態を解決しようにも、あいつに会わなきゃ始まらない。一刻も早く。そう考えると、俺のペースは自然に上がっていた。
「あっ、ハル、ヒメ。おはよ」
「葵か。早いな、今日はバイトか?」
咲夜が応答する。俺はもう喋らない方がいいという判断だ。
「うん。そういうハルも朝早くから出るんだね。どこ行くの?」
「あー、ちょっと神社に用事がな」
「神社に? もしかして、虎太郎?」
「そうというか、そうじゃないというか……」
「何よ、それ。というか、あのメールは何?」
「別に何でもない、ただの気分転換だ。そういうわけで、行くぞ咲夜」
「……? ああ」
途中気になる点が有ったが、流されてしまった。そのまま俺達は、さっさと退散して神社へ向かう。
「ヒメ、あんなに歩くの早かったかな?」
背中越しに聞こえた声については、無かったことにした。
「ぷっ、あはははははははははははは!! あっはっはっはっはっはっは!! あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
神社で、虎太郎の身体を使って顕現した神は、開口一番に大笑いしてやがった。くそ、滅茶苦茶腹立つ。
「おい咲夜、こいつぶん殴っていいか」
「同感じゃな、妾もこやつを殴りたくて仕方がない」
「うーん、それは勘弁してほしいな。僕だって痛いものは痛いんだよ?」
「お前は人の痛みを知るべきだ」
「うーん、僕は興味ないから。そういうのは、別のマゾヒストな神様にお願いしてよ」
「お前、この――」
「待てハルキ、このままでは話が進まん」
怒りながらも、咲夜は冷静だった。
「それで、これはお主の仕業で間違いないんじゃな?」
「どうして僕を疑うかな。まあ正解だけど」
「ならば話は早い、元に戻せ」
「あー、うん、いいよ。もうたっぷり面白いものは見れたから」
そう言うと、気障ったらしい神は軽く手を振る。途端、俺の視界が白一色に包まれ、
「うわっ!?」
次に視界が戻った時には、目の前に咲夜の姿があった。俺の顔をした咲夜じゃない、紛れもない咲夜の身体だ。
「……戻った? えらくあっさり戻してくれたな」
「うん。言ったよね、もう面白いものは見れた、って」
「どういう意味だ?」
「簡単だよ。千歳春樹、携帯の写真欄を見てごらん?」
「は?」
訳も分からぬまま、言われた通りにフォルダを見てみる。そこにあったのは、あられもない格好をする俺の写真。しかも一枚だけじゃなく、何十枚単位で。
「はぁ!? おい、これいつ――」
聞くまでもなく分かった。こんなことをするのは、一人だけしかいない。
「ついでじゃハルキ、メールリストも見ておけ」
最早嫌な予感しかしなかったが、一応見てみる。
受信:二件。一人は庵で、
『何か辛いことがあるなら相談に乗るぞ』
という文言が。もう一人は木賊で、
『ありがとう!』
としか書かれていない。この時点で、猛烈な寒気が俺を襲った。葵が言っていた「メール」の意味がようやく分かったが、もう手遅れ。
「終わった……………………」
「あはははははははははは。あー、やっぱり君は面白いね、千歳春樹。また君で遊ぶと思うから、その時はよろしくね」
「ふっ…………ざけんなー!!」
俺の叫びが、閑静な神社に虚しくこだました。
「なあ、何でお前は俺の真似が上手いんだ?」
全てが終わってから、気になっていたもう一つの疑問について尋ねてみたところ、
「決まっておろ、お主が好きで、お主の事ばかり見ておるからじゃよ」
と照れくさそうに答える咲夜が見れたので、それがせめてもの救いだと思うことにした。
どう考えても『君〇名は。』です。本当にありがとうございました。
いや、実はあの映画見てないんですけどね。タイムリーなネタだったので、使わせてもらいました。
ただ、入れ替わりを分かりやすくできなかったな、と反省してます。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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