特にネタバレもないです。
「はいこれ、うみゃい棒」
「わーい! ありがと!」
手渡されたそれを高々と掲げ、店外へと駆け出す子供たち。一方の渉さんは、
「店の中は走っちゃダメよー」
などと注意しつつも、楽しそうに笑っていた。この店におけるある種の風物詩とも言える光景を傍目に見ていると、そちらへ近づく人影があった。
「わたる。ルリにもくれ」
「あっ、ルリちゃん。はい」
白い髪の居候は目を見開いてパッケージを眺めていたが、不意にそれを破り捨て、中身を口へと運ぶ。途端、満面の笑みを浮かべるルリ。こうして見ていると、先程の子供たちと精神年齢は大差ないんじゃないかとさえ思えてくるが、そこで思考を中断した。どうも俺は考えていることが顔に出やすいらしいので、今回もそれを察したルリに噛みつかれる可能性は大いにあったからだ。
という訳で、別方向へ意識を向ける。
「今日は何味なんですか?」
「えーっと……広島風お好み焼き味」
「広島風……それ、広島の人が聞いたら怒りそうですね」
「そうなの?」
「らしいですよ。広島風って言われるのが嫌だとか……詳しくは知らないですけど」
夜中にテレビを付けたらたまたまやっていた話題だったので、記憶に引っかかっていたのだろう。とはいえ半端にしか覚えてなかったせいで、歯切れの悪い解答になってしまったが。
「へー、ハル君は物知りねえ」
「そんなことないですよ。前にテレビで見たのを思い出したってだけで」
「そうなんだ。でも、ちゃんと覚えてたんだよね?」
「うろ覚えですけど」
「いいのよ。それだけでも話のタネになるんだから」
「そういうものですか?」
「そういうものよ。という訳で、ご褒美のうみゃい棒をあげる」
どういう訳でそうなるのかは分からなかったが、丁度小腹も空いていたし口実にはちょうどいい、と自分を納得させて一本受け取る。変な髭のおっさんが偉そうに踏ん反り返っているこれは……納豆味。これまた妙なチョイスだな。正直、あまり美味くなさそうだ。
袋を破いて、一口噛みついてみる。……微妙な味だ。納豆だと言われればそんな気がしなくもないが、事前情報なしで食べると粘り気のある駄菓子でしかないだろうな。けど、それがどうしてかクセになる。決して不味くはないし、納豆を再現しようという努力が伝わってくる。結局、首を傾げながらも完食してしまった。駄菓子には不思議な魅力があるものだ、とこの歳になって再発見できるとは。
しかし気になるのは、渉さんの謎についてだ。
「渉さんって、どうしてこれをやってるんですか?」
「んー? これ、っていうのは?」
「駄菓子配りですよ」
「ああ、そのこと。気になる?」
「まあ、気にならないと言ったら嘘になるかと」
「そうなんだー。うふふ」
意味ありげな笑みを浮かべる、年上の女性。そう考えると、思わずドキリとしてしまう。いくら話してる内容があまりに下らな過ぎるとはいっても、ときめくものはあるのかもしれない。
「うーん…………ヒミツ」
「えー。いいじゃないですか」
「良くないの。ハル君、女の子はヒミツを沢山持ってるものよ。それを詮索するのは野暮じゃないかな?」
そう言われれば、男である俺としては引き下がらざるを得ない。やはりやり手だな、渉さんは。となると、向けるべき矛先は渉さんではなく――
「なあ祖父さん」
「ワシは知らんぞ」
にべもない。同じ男なら答えてくれるかも、などという狡い考えは通用しなかった。
普段はセクハラだらけのくせに、こういう時に限って紳士っぽく振舞うのは如何なものかと思うのだが、それを指摘したところでどうせ答えてはくれないだろう。
「はるきは馬鹿だな。折角わたるがくれると言っているんだから、それでいいんだぞ」
「お前なあ、少しは裏があるとか考えないのか?」
「はるきと違ってわたるは優しいからな。警戒の必要はない」
「お前の中で俺はどういう位置づけな訳?」
「姫姉様の敵、甲斐性なし、貧乏――」
「分かった、もう言わなくていい」
はあ。どうしておやつ食いながら馬鹿にされなきゃならんのだ。
「あらあら、打ちのめされちゃって…………元気出して、ハル君。はい、追加のうみゃい棒」
「……どうも」
ありがたく貰うことにした。コーンポタージュっぽい味が、傷ついた心を癒していく錯覚に見舞われる。
「…………ついつい頼りたくなるな、渉さんには」
ついボソッと呟いてしまったのだが、聞こえてしまっていたらしい。キラキラと目を輝かせた渉さんが、ずずいっと詰め寄ってくる。
「頼りたくなる? ハル君、本当に?」
「え、ええ。まあ」
「そう? じゃあこれからも頼りにしてくれていいのよ。主に恋愛相談とか、恋愛相談とか、恋愛相談とか!」
「全部恋愛相談じゃないですか!」
「だって、興味あるんだもん。それでそれでハル君、興味ある子はいないの?」
「いませんよ」
「そうなの? ヒメちゃんとかは? すっごく仲がいいじゃない」
「あいつとは何もないです」
「嘘だな。はるき、姫姉様とキスしてた」
「なっ、ルリ、おまっ」
「ちょっとハル君。今の話、詳しく聞かせて?」
「いや、あの」
「ほらほら話して? どうやってキスまでこぎつけたの? 初めてのキスの感想は?」
水を得た魚。今の渉さんを形容するなら、この言葉が相応しいだろう。そう言える程に、渉さんの表情は活き活きとしていた。今すぐここから逃れねば。そう思い辺りを見回すと、入り口に人が突っ立っている。
「ほっほら、お客さんですよ!」
「むー。いいもん、仕事が終わったらたっぷり聞かせてもらうから」
どうにか責め苦を後伸ばしにできて、溜息をつく俺。そんな俺を尻目に、渉さんは屈託のない笑顔で客を出迎えた。
「いらっしゃいませー」
渉さんが攻略できないバグは解消されましたか?
今日はテーマもオチもなく、ただただ日常をなぞっただけの平凡なものになりました。
非攻略ヒロインで攻めるとなると少しばかり準備期間が欲しいので、ワンライでやるとなると難しいですね。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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