「んっ、んん……」
突然訪れた覚醒。朝かと思い目を擦るが部屋の中は暗く、窓の外に目を向けても見えるのは月に照らされて眠る街並みだけ。有り体に言うなら、夜中に目が覚めたのだ。どうしてこんなことになったんだっけ、と靄のかかった思考を巡らせていると、気付いたことがあった。
「すぅ……すぅ……んん……」
同じベッドで、誰かが寝ている。かつての幼馴染が、今や恋人。未だに信じ難い事だが、目の前で心地良さそうな寝息を立てる葵の姿を見て、これが現実なのだと再確認する。
そうだ。俺は昨晩、葵と濃密な時間を――
「……っ」
思い出したら、何だか妙な気恥ずかしさを覚えた。何度もそういうことはしてきたというのに、冷静に振り返ることなど出来そうもない。
顔から火が出るほどという訳ではないが、それでも頬が火照る。浮かれた熱を冷ますべく、俺は腰を上げた。
「んん……」
背中越しに聞こえる、艶めかしい声。もしかして起こしてしまっただろうか、と思い振り返ってみるがそんなことはなく、今も瞼を閉じて静かに眠っていた。
「よかった」
何がよかったのかは自分でも分からない。だが何故かその姿に安心した俺は、足音を殺しながら台所へと向かった。
水を飲んで熱を冷ました俺は、恐る恐る部屋の扉を開ける。そんな俺の視界に入ったのは、数分前と変わらない葵の姿。
「起きてないみたいだな…………って、これじゃ泥棒みたいだな、俺」
声にならない声で呟く。言葉にすると面白さが後から分かるというものらしく、自分の発言に対する笑いを噛み殺すのに少し難儀した。
そのせいなのか、はたまた先程恥をかいたからなのか、俺の意識は完全な覚醒状態にある。この分では暫く寝られない、そう直感した俺はベッドに腰掛け、何処へともなく視線を彷徨わせた。
窓の外に広がるのは先ほど見た通り、明かりの消えた家々ばかり。それを月光と街灯が照らす、静かで退屈な世界だった。このまま益体もない考えを巡らせるのもいいかもしれないが、どうせなら今しか堪能できないものを味わうべきだろう。
視線を部屋の中へ戻す。吸い込まれるかのように、眠る葵に目が行った。日頃の活気溢れる姿とも、俺の前でだけ見せるしおらしい姿とも違う、完全に無防備な姿。中々見ることのできない新鮮な光景を、言葉もなく見つめていた。
「…………可愛いよな、葵は」
誰が答えるわけでもないのに、つい声が出た。けど、それも仕方ない事だと思う。自分の彼女がすぐ隣で可愛らしく寝ているのだから。恐らくこの光景を見れば誰だってそう口走る事だろう。いや、他の誰に見せるつもりもないが。
とにかく、俺の反応は普通なんだ。うん、普通のはずだ。だからもう少し、この寝顔を堪能していよう。…………俺、何かおかしいな。夜だから浮かれてるのかな?
「すぅ……うーん…………」
「それにしても、気持ちよさそうに寝てるな」
その寝顔を見ていたら、醒めきっていた俺の意識も徐々に闇へと誘われていった。これは中々凶悪な効果を持っている。このままなら、俺もすぐに眠れそうな気がする。
「……そうだ」
どうせもう一度寝るなら、やっておきたいことがある。昨晩はヘトヘトになって、そういう事をする間もなく二人して寝てしまったから。
試してみるのもいいかもしれない。おやすみのキス、というヤツを。
キス。そう考えると緊張してくる。しかし、一度やると決めたからには尻込みなんて出来ない。意を決して体を横たえ、そっと顔を近付ける。抵抗などある筈もなく、俺の唇は葵の頬と触れ合った。
「…………おやすみ」
答えは無い。それでよかった。もし起きていたら、恥ずかしくて合わせる顔がないから。
そしていつの間にか、俺は深い眠りへと落ちた。
「……………………ズルいよ、ハル」
起きてるよ、とは言えなかった。そもそも目を覚ましたのはハルにキスされる直前だったから。きっとあたしが寝てると思ってキスしたんだろうけど……
「こんなことされたら、寝られないよ」
身体が熱くなる。多分、顔は真っ赤になってるよね。
ハルは、どうしてキスなんかしてきたんだろう。質問をしようとしても、当のハルはぐっすり寝てる。これじゃ、聞くに聞けないじゃない。
「もしかして、キスをしたら眠くなる……? いや、流石にそんなこと無いよね」
でも、ひょっとしたら? 現にハルはあれからすぐ寝ちゃったみたいだし。
試してみる価値はある。それに――
「…………キスをしたくなるのも、分かる気がする」
気持ちよさそうに寝てるハルの横顔を見てると、幸せな気分になる。あたしはハルのことが好きだって、何度でも思い知らせてくれる。
そう考えてからは早かった。今度はあたしの顔がハルに近づいて――
「おやすみ、ハル」
ほんの少しのお返しには、不思議な高揚感がついてきて。
それに包まれながら、あたしは眠りに就いた。
「うん……?」
朝の光で目を覚ました俺。すぐさま隣で寝ている葵に目が行き――
「あっ」
その姿は、深夜に俺がした事を思い出させた。深夜テンションとはいえ、俺はなんてことを……!
どうしよう。言い訳しようか。いやでも気付いてない可能性だって…………。
しかし現実とは残酷なもので、すぐに葵も目を覚ました。
「お、おはよう、葵」
昨日したことに対する気恥ずかしさで、挨拶さえも普通に言えなかった。そんな俺に対する葵の反応は――
「う、うん。おはよう、ハル」
明らかに普通じゃなかった。どう考えても動揺している。もしや……いや待て。まだそうと決まったわけじゃない。ボロを出さなければ行けるはずだ。
「すっ、すっかり朝だな。早いとこ飯にしようぜ」
「あたしは着替えとかあるから、先に行ってて」
「分かった」
言葉と共に部屋を出る。こうしている今も、気掛かりなのは一つ。
(…………バレてないよな?)
ハルが部屋を出たのをちゃんと確認して、あたしは胸を撫で下ろす。
「…………バレてないよね?」
ハルの反応は何だか変だった。何かを隠してるような…………もしかして、バレてるのかな。
「そうだったら、どうしよう……」
悶々としているうちに、朝の時間は過ぎ去っていった。でも、こんな時間もたまにはいいかも。そんなことを考えてる自分がいて、それがまた不思議だった。
なんだか歯切れが悪いかな?
彼女がいたことないのでこれでいいんですか分かりません。あとやっぱ葵は難しかったです。忌憚なき感想を貰えると次に繋がるのでよろしくお願いします。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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