※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『ぶらばん!』の雲雀丘由貴と夏祭りに行くだけの話です。
 ネタバレ等はありません。


未知の世界(ぶらばん!/由貴)

「はっ……はっ……」

 まずい。また遅刻してしまった。

 六時集合だったというのに、疲れのあまり昼寝をしたのが間違いだった。どうにか目を覚ませたのが奇跡と言えるかもしれない。時計を見れば、六時を十五分ほど過ぎた所を針は指している。

「流石に愛想尽かして帰ってるかな……」

 かつてもデートに遅刻したことがあったので、これが初犯という訳じゃない。もし帰っていたとしても、俺に責める権利なんてない。

「あっ、いた。良かった……」

 集合場所に探していた相手の顔を見つけた俺。向こうも俺を見つけたようで、目が合う。しかし、その顔は実に不満そうだ。スピードを上げて駆け寄ると、

「遅いですわっ」

 案の定、カミナリが降ってくる。当然の反応なので、俺は平謝りだ。

「ごめん。待たせた」

「まったく、貴方という人は何度も何度も……」

「お詫びになんでもするから。言ってよ」

「……今、『なんでも』と言いまして?」

「え? ああ、言ったけど」

「…………では、覚悟しておいてくださいな」

 何をされるんだろう。そう勿体ぶられるのが一番怖いのだが。

「ほら、早く行きましょう。時間はいくらあっても足りませんから」

「あ、ああ。分かったよ」

 由貴に手を引かれる形で、俺達は人混みの中へと足を進めた。

 

 

「型抜き、焼きそば、金魚すくい…………色々あるんですのね」

 立ち並ぶ屋台を眺めて、由貴はそんなことを言う。

 俺達が来たのは、地元の祭り。休日の夜ということもあってか、通りは人でごった返していた。

「そっか、由貴はこういうの初めてだっけ」

「ええ。こういう文化に、実際に触れる機会など皆無でしたから」

 ……なら、今日を楽しみにしてたはずだよな。つくづく申し訳ない気持ちが湧き上がる。せめて、濃密な時間にしないと。

 なんてことを考えていると、由貴が口を開く。

「その、あれをやってみたいのですが……」

 彼女が指で示すのは、射的の屋台。俺の考えは食い物にばかり向いていたが、それもいいな。

「なら、やってみようか」

 由貴と手を繋いだまま、その屋台へ向かう。

「らっしゃい」

「二人分で」

「千円な」

 財布から千円札を取り出し、厳つい顔の店主に渡す。二人分の弾を受け取り、半分を由貴に渡した。

「使い方、分かる?」

「銃の扱いは習ったことがありますが……コルク銃は初めてですわね」

「なら、俺が先にやるよ」

 弾を一発掴み、銃口にはめ込む。右側面のレバーを引き、狙いを付けて引き金を引く。こうしてコルク銃の使い方を実演してみせた……………………のだが、

「あれっ」

 当たらない。当たっても、倒せない。そうして俺は六発の弾を全てを使い切り――

「がっはっはっは! 残念だったな、兄ちゃん」

 結局、何の成果も得られなかった。格好いいところを見せようとしたのに、これじゃ赤っ恥だ。

「うう……恥ずかしい」

「恥じることはありませんわ」

 気丈にそう告げる由貴。どこか自信を感じさせる笑みを浮かべながら、銃を構えた。その姿は様になっていて、熟練度の違いを感じさせる。

 彼女は言葉もなく、引き金を引いた。当たり前のように駄菓子が吹っ飛んで、棚の後ろへと消えた。その後も由貴は、次々と景品を撃ち落していく。なんと一発も外すことなく、五つの景品を手に入れた。

「おお、すげえな嬢ちゃん! だが、嬢ちゃんでも大当たりは落とせねえだろ」

 まるで挑発するかのように、店主は「大当たり」と書かれた的を指差す。勝負事には真剣な由貴がこれを看過するはずもなく、そちらへ狙いを定めて言い返す。

「絶対に落として見せますわ」

 引き金が引かれ、コルクが飛翔する。果たして――

 

 

「納得できませんわ。何なんですの、あれは!」

 憤懣遣る方ないといった様子で頬を膨らませる由貴。それもそうだろう。彼女の放った弾は、確かに命中した。したのだが、的は落ちるどころか倒れもしなかった。

 俺にとっては予想通りだったが、彼女としては腑に落ちないんだろう。

「ああいう屋台の当たりって、簡単には落ちないようになってるから」

「それは詐欺ではありませんか?」

「俺もそう思うけど、それも含めて祭りなんだよ」

「……そういうものですか。貴方が言うのなら、きっとそうなのでしょう」

 渋々ではあるが、矛を収めてくれた様子。だが機嫌を直すためにも、遊びとは別の方向性にシフトするのが良いかもな。

「そうだ。気分転換に、何か食べないか?」

「ええ、そうしましょう。ですが何を?」

「うーん、そうだな……」

 その時、視界の端に「焼きそば」の文字が映りこんだ。すかさず俺は食べるものを決定し、二人揃って屋台の前に並ぶ。

「えっと、一人前ください」

「三百円だよ」

 小銭を出すのが面倒だな……なんて思っていると、横から由貴の手が伸びる。

「わたくしが払います」

「いやいいよ。俺が払うから」

「ですが――」

「普段、沢山ご馳走になってるからさ。今日はそのお礼だよ」

「…………そういう、事でしたら」

 納得はしてくれたらしい。お礼をするのに遅刻するのか、と指摘されたら何も反論できないが、そこは突っ込まれなくて良かった。その代わりとばかりに、質問が飛んでくる。

「一人前で良いのですか?」

「うん。あんまり食べ過ぎると、他の屋台で食べられなくなるから」

「なるほど」

「へい、お待ち」

「どうも」

 出来上がったばかりの焼きそばを受け取り、その場を離れる。どこか落ち着ける場所を、そう思った所で気付いた。…………箸が一膳しかないことに。

 してやられた、と思う。多分店主が気を利かせてくれたんだろうけど、これは余計なお世話というか……。

「ちょっと待ってて。箸を貰ってくるから」

「……それには、及びません」

 しおらしい声で、そう呟く由貴。意図を探るべく次の言葉を待っていると――

「わたくしは、貴方と同じ箸を使う分には、構いませんから……」

 顔を赤らめながらそう言われると、無碍にするのも申し訳ない気がしてくる。

「分かった、一緒に食べよう」

「はい」

 箸を割って、由貴に手渡す。彼女はそれをおずおずと受け取ると、そばの山を小さく摘まんで口へと運んだ。

「………………どう?」

「美味しいですわね」

「そっか、よかった。正直、口に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしてた」

「そんなことはありませんわ。これはこれで……」

「そっか」

 彼女はこういうジャンクフードを食べることは無いだろうし、新鮮な経験になったようで良かった……なんてことを考えていたら、思いも寄らぬ方向へ事態が進んだ。

「では、貴方も……」

 そう告げると、由貴は再び麺や具材を箸で掴んで、今度は俺の口へと差し出す。

「……え?」

「ほら。口を開けなさい」

「…………あー」

 言われるがまま、口を開ける。予想通り、箸は俺の口へ侵入してきた。食材が全部入りきって口を閉じたところで、ようやく俺の口から箸が離れた。

「んぐ…………美味い」

「ええ、そうでしょう」

「……由貴が食べさせてくれたおかげかな」

「なっ、また貴方はそうやって…………」

 言葉とは裏腹に、満更でも無さそうだ。そんな顔を見ていると、もっと意地悪してみたくなるな。

「今度は俺が食べさせてあげようか?」

「……そう、ですか。では、お言葉に甘えて…………」

 言ったきり、由貴は「待ち」の姿勢に入ってしまう。……あれ? 俺の予想では拒否されるとばかり……。これでは後に引けない。そう考えたら、急に緊張してきたぞ。

 しかも先程のやり取りで、既に耳目を集めてしまっている。ますます退けなくなった。

「……はっ、はい。あーん」

 やるしかない。意を決して、由貴へと箸を近付けた。可愛らしい動作で麺を頬張ると、ゆっくりと咀嚼する。

「…………なるほど。貴方の言葉の意味、分かった気がしますわ」

「そ、そうか」

 改まって言われると、自分の発言がどれだけこっ恥ずかしいものなのか再認識してしまう。

 だがそれでも、食べさせ合うという行為を止めることは無かった。

 

 それからも、俺達は祭りを満喫した。チョコバナナを頬張る由貴の姿にドキリとしたり、金魚すくいで勝負したり、りんご飴を食べるのに難儀したり。楽しい気分の時は時間が早く過ぎ去る、なんて言葉を噛みしめていると――

 遠くの空で、破裂音が連続する。次いで、色とりどりの火の粉が夜空をカラフルに染め上げた。祭りを締めくくる花火が、連続して打ち上げられていた。

「…………綺麗ですわね」

「そうか。……いや、確かにそうかも」

「どういう意味ですの?」

「なんでもないよ」

 見慣れた光景、食べなれた物。それらも、大切な人と一緒に居るだけで全てが特別に感じられる。つくづく恋とは不思議な力だ、と思った。だが流石にこんなことを口に出してしまっては、痛々しいポエマーと変わらなくなる。それは恥ずかしいので、黙っておくことにした。

 怪訝そうな表情の由貴。追及を避けるべく、気掛かりだった案件について触れてみる。

「そういえば、お詫びって何をすればいいんだ?」

「……あれですか。そうですわね…………では、その、目を閉じていただけますか」

「目を? 分かった」

 言われた通り、目を閉じる。するとすぐに、口元に温かく柔らかい感触が。

「んっ……ちゅっ」

 束の間のキス。名残惜しい、なんて感情が去来する。そんな俺の内心を知ってか知らずか、しどろもどろになりながらも由貴は告げた。

「また、来年も……わたくしを、祭りに連れて行きなさい。それが、貴方のすべきお詫びです」

「…………はは」

 これじゃお詫びになっていない。でも、「なんでもする」と言ったのは俺だ。ならば、必ずやらなきゃいけないな。

「分かった。約束だ」

「ええ、約束ですわよ」

 小指を絡める代わりに、もう一度唇を触れ合わせた。

 




 由貴かわいい。アレは反則でしょ…………


 夏祭りに行った時のことを思い出しながら書きました。勿論一人で行きましたよ。ええ、一人で…………。書いてて悲しくなってたのは内緒です。


 初めて『ぶらばん!』のキャラで書きましたね。正直難しかったですが、また書ける時に書けたらいいな。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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