何の変哲もない、ただの休日。予定通りに咲夜とデートをする事にしたわけだが、実はどこに行くのかをまだ決めていなかった。予定にあるのは買い物をするという事だけ。
とりあえず話をしないことには始まらないのだが、そう思った時にはあいつは既に家からいなくなっていた。不安になってメールを出してみると、すぐに返信があった。
『――で待つ』
指定されていたのは、いつも行くのとは違う街のショッピングモール。いまいち意図が掴めないが、何を考えているのだろうか。
『分かった』
了解の返事を返す。この時の俺は、後に待ち構える大変な苦労を知る由もなかった。
雲雀とは逆方向の電車に乗り、目的地付近の駅で降りる。改札を出てすぐに、探していた人物を見つけた。
「悪い、待たせたな」
「気にしなくていいよ。妾も今来たところだから!」
「……お前、メールで『待つ』って言ってたじゃないか」
「ノリの悪い奴じゃな。もう少し付き合ってくれてもいいじゃろ」
「悪かったな、ノリの悪い奴で。……それで、ここが?」
「ああ」
俺達の前に聳え立つ、湾曲した白い建物。どうやらこれが、今日の目的地らしい。
「……混んでるな」
「うむ。テレビでよく取り上げられておるからの」
「そうなのか。道理で人が多いわけだ」
家族連れからカップル、老夫婦まで。世代も性別も問わず、様々な人達が同じ建物へ吸い込まれていく。見る限り、人気であるのは間違いないようだ。
「何を見るんだ?」
「色々じゃ。イ・ロ・イ・ロ」
怪しい。非常に怪しい。要・警戒だな。
「ほれ、行くぞ」
「あ、ああ」
手を引かれて、俺達も魔窟へと吸い込まれていった。
「ふむ……なかなか高いんじゃな」
俺達がいるのは、時計専門店。そういえば持っていなかった、と見に来た所まではいいものの、
「六十万円……!?」
俺は、その圧倒的な高価格に卒倒しそうになっていた。見渡す限り五桁、六桁。物によっては七桁にまで達している。とても俺が買えたものじゃないのだが、
「ハールキっ。これ買って?」
「買えるわけないだろ!!」
咲夜は満面の笑みと共に七桁万円の時計を指差す。祖父さんに預かってもらっている貯金を全てつぎ込んだって到底届かないのに。
「冗談じゃよ。そうカリカリするな」
「頼むから俺の心を抉らないでくれ……」
「分かった、分かった。ほら、これとかどうじゃ?」
「ああ、三十万なら……って、んなわけあるかー!!」
「ちっ、引っ掛からぬか」
「逆に俺が買ったらどうする気だ!?」
「そりゃ勿論、後生大事に使わせてもらうぞ」
後生大事に、か。地味に嬉しい言葉を言われると、少し揺らいでしまう。
「うぐっ、それなら……いやいやそんな金はない」
「知っておる。お主の反応が見たかっただけじゃ」
「サラッと俺をオモチャにするんじゃない!!」
「何ならこの店を見ておるのもそれが全てじゃぞ」
「お前最低だな!?」
「最低? まさか、最高の彼女じゃろ?」
「いやまあ……それは、そうなんだけどさ」
「そうか、お主も認めてくれるか。嬉しいぞ、ハルキは最高の彼氏じゃな」
なんなんだ、今日は。さっきから上げられたり落とされたりまた上げられたりで忙しいぞ。
「…………そうなのか?」
「そうじゃぞ、胸を張れ。じゃからこの時計を――」
「絶対に!! 買わないからな!!」
この施設は、北館と南館に分かれているらしい。俺達が入ったのは南館で、北館をぐるりと巡り、また南へ戻ってきた。そして今は、水着専門店にいる。
「ハルキよ、どちらの水着が好みじゃ?」
「俺に聞くな、俺に。お前の好きな方にしろ」
「そうか。ではこの紐と変わらんサイズで行くか」
「それで恥をかくのはお前だからな。俺は知らないぞ」
「何を言っておる? お主が着る水着を選んでおるんじゃぞ」
「はぁ!?」
「ちなみにこの店は女性用水着しか置いておらん。好きなものを選べ」
「選べるか!! 恥かくのは俺じゃねえか!!」
そもそも、何で俺の水着を女性用しか置いてない店で選ぶんだ。おかげで周囲の視線が俺の方へ集中して、実に居心地が悪い。
「ああもう、俺は出てるぞ」
「待て待て、妾が悪かった。謝罪のついでじゃ、妾の水着を選んでくれて構わん。お主がどんなものを選ぼうと、妾はそれを着よう」
「じゃあこの紐で」
即答。冗談半分、意趣返し半分で言ってみたのだが、咲夜は顔を赤らめてしまった。
「変態じゃな、お主…………じゃが、どんなものでも着ると言ったのは妾じゃ。どれほど恥ずかしくとも、お主の為に着てみせるぞ」
そう言うと、咲夜はどう見ても黒い紐でしかないそれをレジへと持って行ってしまう。周囲の視線が更に鋭くなるのが何となくわかった。中には携帯電話を取り出す人まで……え? 俺が悪いのか?
いたたまれない気持ちになったまま、俺は咲夜と並んで店を出た。しかし、あんな紐を纏った咲夜の姿を想像し、それが現実になるのを期待してしまったのもまた事実だった。
「腹減ったな。何か食うか」
「そうじゃな。ではこの五千円のステーキを」
「はいはい、もっとお手頃価格で頼むぞ」
「むっ、ハルキの反応が鈍い」
失礼な奴だな。リアクション芸人じゃないんだぞ、俺は。
「あのな、何度も何度も同じことを繰り返されたら慣れるもんだからな」
「そうか……では、これはどうじゃろ」
何を、と聞くより早く、咲夜は俺の胸に飛びこんできた。そのまま二人の唇が触れ合う。しかも、そこで止まらなかった。
「んんっ…………ちゅっ、ちゅぷ、れるん」
舌同士を絡め合うディープキス。ここまでやるのか…………!?
「ぷはっ! はっ、はっ……いきなり何を」
「はぁ、はぁ……ふふん、やはりまだまだじゃな」
ハンカチで口の周りを拭きながら、悪戯な笑みと共に告げる咲夜。俺も口元を拭ってから反論する。
「あ、当たり前だろ。いきなりキスなんて」
「何を言っておる? キスなんて何度もしたじゃろ。それどころかもっと凄いことも」
「あーあー! 言うな言うな!!」
周りの人に聞こえたらどうするんだ。というか聞こえただろ。
「なんじゃ、何度もやったら慣れる、なんて事はないんじゃな」
「くっ……そうだよ、こればっかりは慣れないんだ」
甘ったるいものを胸に感じながら呟く俺。それを見て咲夜は、天真爛漫な笑みを浮かべた。その笑顔を見ていると、こんな二人の在り方もいいかと思えてくる。願わくば、こんな関係がずっと続くといいな。
「やはり可愛いの、お主は。なあハルキよ、妾はそんな可愛いお主が大好きじゃ。……どれほど時間が経っても、変わらずお主でいてくれ」
奇しくも、咲夜は俺と同じことを考えていたらしかった。
ドットアクスタガチャで咲夜を引きました。
今日は久々にお題が咲夜だったので書いただけです。推しで書かずんば物書きにあらず、ってね。
今日はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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