※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天神乱漫』の山吹葵が、挙動不審な春樹を疑う話。
 ネタバレあります。


挙動不審(天神乱漫/葵)

 最近、なんかハルがよそよそしい。ここ最近、ずっと避けられてる。会話をしてても、曖昧な返事ばかり。一緒に帰ろうとしても、

「悪い、用事があるんだ」

 こればっかり。それでも、一緒にいてはくれるから、不満は無かったんだけど……。

 

 

 でも、今日は特に変だった。

「ねえ、ハル」

「……葵? あー、えっと、悪い。また後でな」

「あっ、ちょっと」

 話さえしてもらえないのは、初めてだった。何というか、ここまでくると、

「怪しい……」

「葵ちゃん? どうかしたの?」

「最近、ハルが怪しいのよ。朋花は何か知らない?」

「ボク? うーん、知らないなあ」

「朋花でも知らないんだ……」

「葵ちゃんは何だと思う?」

「……浮気?」

「えっ、そうなの? 千歳君、浮気してたんだ。許せないね」

「いや、ただの予想だけど……やっぱり知らないんだ。朋花はそういうこと、よく知ってると思ってた」

「そうだね。もしボクがそんな情報を掴んでたら、すぐに号外を作って糾弾するね」

 …………朋花の前じゃ、迂闊にケンカも出来ないのかな。

「それはそれとして、浮気じゃないなら何だろう?」

「それを聞くなら佐奈ちゃんじゃない?」

「だよね。昼休みになったら、佐奈に聞いてくる」

「いってらっしゃーい」

 

 

「千歳君、ここに来て大ピンチだね」

 

 

 そして、昼休み。一個下の学年の教室に行ってみたんだけど……。

「変わったこと? そうですね……」

「ほんの些細な事でもいいの。何かあったら教えて」

「…………最近、兄さんは帰りが遅いんです。それに、ひどく疲れた様子の日もあって」

「疲れた……?」

「はい。『何かあったんですか』って聞いても、『なんでもない』の一点張りで」

「……やっぱり浮気なんじゃ」

「浮気、ですか? 多分ですけど、それは無いと思います」

「…………どうして?」

「だって兄さん、最近――あ、いえいえ、何でもないです。何でもないですよ」

「……なんか、兄弟そろって怪しいわね」

「そんな事ないですって。あっ、ほら。もうすぐ昼休みも終わりますから、葵さんも教室に戻った方がいいと思います」

「うーん、怪しい……けど、しょうがないか。ごめんね佐奈、時間使っちゃって」

「いえいえ」

 釈然としないまま教室を出たけど、疑惑は深まるばかりだった。

 

 

「兄さん、大丈夫かな……?」

 

 

 放課後。今度は聞く相手を変えてみた。

「ねえ、東雲、虎太郎。最近ハルが変なんだけど、何か知らない?」

 最初に答えたのは虎太郎だった。

「知らないよ。僕はあいつのストーカーじゃないんだから」

「そうは言うけど……本当に何も知らないの?」

「だから知らないって。僕、もう帰るよ。こう見えて忙しいんだから」

「あ、うん。呼び止めてごめん」

 虎太郎は、鞄を持って早足で帰っちゃった。残った東雲の方を見てみると、キョトンとした顔をしてた。

「うーん……俺も知らないな。特段、変な所はないし。……もしかして、何かあったのか?」

「実は、最近ハルに避けられてて」

「避けられてる?」

「うん。もしかしたら、ハルが浮気してるんじゃないかって」

「浮気? 千歳が? いやー、それは無いと思うぞ」

「……佐奈も同じこと言ってたけど、本当かな」

「千歳妹も言うなら、本当だろ。最近のあいつを見てると、浮気とは無縁って感じだし」

「…………そうかな?」

「そうだぞ。もう少し、恋人を信用してやってもいいんじゃないか?」

「……」

 信用、か。ハルは、どうなんだろう?

「そういえば、学生会の仕事はいいのか?」

「あっ、そうだ。ごめん東雲、あたしもう行くね」

「おう。頑張れよー」

 いくら気になるとは言っても、仕事を疎かには出来ない。

 急いで学生会室に向かった。

 

 

「なんで僕達が、こんなことしなきゃいけないのさ」

「まあまあ、そう言うなって。……しかし、浮気か。むしろ真逆だっていうのに。大丈夫なのか、あいつは」

 

 

 やる事をまともにこなせたのが奇跡だと思えるくらい、仕事に手が付かなくて。

 いつの間にか、下校時間になっていた。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れる。こんなこと、なかったのにな……。

「帰ろう」

 そう思って立ち上がった時、携帯が震えた。メールが一通。差出人は、朋花。

『校門の前で待ってるね!』

 

 

「それで結局、何もわからなかったんだ?」

「うん」

 二人で帰る道。でも、隣にいるのはハルじゃなくて朋花。

 別に、朋花と帰るのが嫌なわけじゃない。でも、いつもいたはずの人がいないのは、やっぱり寂しい。

「……じゃあこれから、ロビンに寄って行かない?」

「ロビンに?」

 突然の提案に、少しだけ驚いた。ロビンに行くって事は、ハルの家に行くって事でもあるわけで。

 ほんの少しだけ、抵抗感があった。

「うん。相談するならあそこだよ」

「そうかな……」

「それに、千歳君に会えるかもだし」

「……あ、そっか」

 ハルから直接話を聞く、またとないチャンス。そう考えたら、抵抗感は無くなった。むしろ、行きたいという気持ちの方が大きくなる。

「行こう、朋花」

「あっ、葵ちゃん! 待ってよー!」

 無意識のうちに早足気味になってて、気付いたらロビンの前に着いてた。

「すぅー、はぁー」

 一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。大丈夫、大丈夫……。

 意を決して、ドアを開ける。そんなあたしを出迎えたのは――。

「ハッピーバースデー!」

 豪勢な料理を取り囲む親しい人達と、皆が手に持つクラッカーの弾ける音だった。

 

 

 驚きに目を丸くする葵を見ていると、達成感が胸に込み上げてくる。今日という日のために、密かに準備していたのがようやく実を結んだのだ。

 ……いや、正確にはまだだ。とても重要な事が、一つだけ残っている。

「なん、これ、どういうこと」

「はいはい葵ちゃん、入って入って!」

 木賊に押されて、葵は輪の中心へ入ってくる。さてどう説明したものかなと考えていると、そちらも木賊が先にやってくれた。

「今日は葵ちゃんの誕生日でしょ? だから盛大にお祝いをしようって、千歳君が」

「まさか、浮気を怪しまれるとは思ってなかったが。千歳、お前もう少し普通に出来なかったのか?」

「本当だよ。まさかここまでとは僕も思ってなかった。ほんと、ハルってば大根役者だね」

「うるさいな。俺は俳優じゃないんだよ。……って、浮気?」

「お前が挙動不審過ぎて、浮気したと勘違いされてたんだぞ。俺や浅葱がどれだけ必死にカバーしたか」

「そうだったのか……」

「まあまあ、バレてないならいいじゃないですか」

「そうそう。結果オーライだよね、ハル君?」

「何とも雑な締め方だ……」

 口々に言ったところで、葵がようやくまともな言葉を発した。

「あんた達、全員グルだったのね!?」

「そういうことだね! いやー、成功してよかった!」

 木賊の言葉に、あんぐりと口を開ける葵。悪いが、そういうことだ。

「ささ、こっちこっち」

 やたらテンションの高い木賊に導かれるまま、葵は蝋燭の立ったケーキの前へ移動する。

 そこへライターを持った俺が近寄ると、周囲の視線が心配そうなものに変わった。

「大丈夫なんですか、兄さん」

「いきなり爆発なんかしないだろうな」

「嫌だよ、黒焦げになるなんて」

「それはそれで面白い記事になるかも……」

「失礼な奴らだな! 心配ないって」

 もう、不運は無くなったんだから。

 その言葉を飲みこんで、火を点ける。みんなの心配が現実となることは無く、数本の蝋燭に無事火が灯った。

「せーの」

 合図と共に、皆で歌い始める。その間、葵は静かにケーキを見つめていた。

 やがて歌い終わると、視線が葵へ集中する。

「ふぅー……」

 無言の期待に応えて、葵は火を吹き消した。それに端を発して、どんちゃん騒ぎが始まる。

「はいこれ、誕生日おめでとう!」

「葵さん、おめでとうございます」

 木賊と佐奈が、小さめの包みを手渡した。それに続いて庵と虎太郎がプレゼントを渡し、渉さんと祖父さんもプレゼントを贈ったところで、今度は俺に視線が集中した。

「あー……えーっと……その」

「何やってんだよ、千歳。この日の為に準備してきたんだろ?」

「それはそうだけど」

「ほら、早くしなよ、ハル。みんな待ってるんだからさ」

 虎太郎と庵に背を押され、俺は葵の前に躍り出る。いざ目の前にしてみると、なかなか言葉が出てこない。小箱を持つ右手が震えるのがわかった。

 それでも必死に言葉を紡ごうとした時、ありえないものが聞こえた……気がした。

『はるきは意気地なしだな。それでも男なのか』

『ここまで来たら度胸じゃぞ、ハルキ。男を見せんか』

 それは、もういない筈の二人の声。……どうやらあの二人も、俺を見守ってくれているらしい。

 度胸、か。そうだな。ここまで来たら、やるしかない。

「俺の誕生日プレゼントは、これだ」

 そう言って、俺は小箱を葵に差し出し、開いて中身を見せた。

 それを見た葵の目が見開かれた。というか、庵以外は全員驚いているらしい。

「ハル、それって」

「葵。俺と、結婚してほしい」

 そう、中身は指輪。これを手に入れる為に日雇いのバイトをいくつも庵に斡旋してもらっていたのだ。そのせいで葵と過ごす時間が減っていたが、これの為と思えば苦にもならない。

「今すぐに、っていうのは難しいかもしれないけど」

 言葉を切る。泣きそうな顔をしていた葵をしっかりと見据えて、神に誓うつもりで告げた。

「俺は、ずっと隣にいるから。一緒に、幸せになろう」

 堰を切ったように涙を零す葵。それでも、震える声で言葉を返してくれた。

「はい、よろこんで。……ありがと、ハル。あたし、今すっごく幸せだよ」

 周囲から黄色い歓声が上がる。しかし俺はそれに目もくれずに、指輪を葵の左薬指へ嵌めた。

 それと同時に、葵が飛び込んでくる。二人の唇が触れ合って、周囲の歓声が一段と大きくなった。

 人生で忘れられない日が、また増えた。

 




 刺される覚悟を持って書きました。


 割と本気で。どこかにミスがありそうですけども、そこは指摘してくれるとありがたいです。
 最後もう少し書き足そうかとも思ったんですが、ちょっと気力切れを起こしたのでここまでにしました。
 初夜の話とか、書きたいかも?


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。
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