咲夜√ED後で、ネタバレあります。
ふと、時計に目がいった。針が差すのは夜の十一時。試験勉強をしていたら、いつの間にか夜も更けていた。
「まっ、こんな所かな」
ノートを畳んで、机のライトを消す。キリの良い所で切り上げようと思ってたのに、意外と長く続いた。良い傾向だ。
月明かりだけが照らす部屋で、今日復習した箇所を反芻する。
「この分なら今回も大丈夫かな」
……なんて油断しないように気を付けなければ。俺がそう思うのと同時に、
「ほほう? 随分余裕じゃな、ハルキ」
なんて声が聞こえてきた。
「っ!?」
驚きのあまり勢いよく振り向くと、そこには見慣れた彼女の顔があった。
「お前か。驚かせるなよ」
「気付かんお主が悪い。言っておくが、お主が勉強を止める前から、妾はこの部屋におったぞ」
「……マジで?」
「大マジじゃ」
そんなに集中していたんだろうか。自覚がない。というか、来たなら言って欲しかった。
「それで、何の用だ?」
「決まっておろ? 夜這いじゃよ。夜・這・い」
「は? 夜這いって、お前」
「静かにせんか」
そう言って、咲夜の手が伸びてくる。その手が俺の口をふさぐより早く、俺は声を上げた。
「待て待て。そういうのは試験期間が終わってからだ」
「何故じゃ。試験前に発散しておいた方が集中できるじゃろ」
「それはそうかもしれないけど……その、何だ。今したら、覚えたこと全部忘れそうだから」
どうにか言葉を紡ぎ出す。我ながら苦しい言い訳だが、咲夜は聞き入れてくれた。
「そうか、それでは仕方ないの。ではプランBに移行するとするか」
「……なんだそりゃ」
「いいからついて来い。妾とオトナなひと時を過ごそう」
そう言って、咲夜は俺の手を引いて部屋の外へ向かう。繋いだ手を握り返しながら、二人して部屋を出た。
「何処へ向かってるんだ?」
「さあ。当ててみよ」
言われて、考えてみる。少なくとも先程俺は行為を明確に拒否しているので、そっち関連の施設ではないと思う。だが日付が変わるくらいの夜中に連れ立って向かう場所など、俺には見当もつかない。
「……分からない」
「そうか、残念じゃな。まあ、もうすぐ着くんじゃが」
その言葉通り、五分もしないうちにこいつの目的地は判明した。
「ただのコンビニかよ」
「そういう事じゃ。それ以外にあるか?」
まさかコンビニなんかじゃないだろうと思っていたら、普通にコンビニだったので拍子抜けしてしまった。だが言われてみれば、それ以外の候補がこの街にある筈もない。
「ほれ、行くぞ。妾はアイスが食べたいんじゃ」
楽しみを抑えきれないのか、少し早足でコンビニへ駆けこむ咲夜。
はぐれないように、その後姿を追った。
「悪いな、奢ってもらって」
「構わん。いつもお主が妾に奢っておるんじゃから、たまには妾にも奢らせんか」
突発的だったので財布を持って来ていない、という事実に気付いたのは会計の直前。
『俺の分はいい』
と商品を戻そうとしたのだが、
『待て、妾が払おう』
という咲夜の好意で、奢ってもらえることになった。そして今は近くの公園。
本当なら俺が払うべきだというのに、余計な出費をさせてしまった。申し訳なさと共に、棒アイスを噛み砕く。途端、舌を刺すような冷気が口いっぱいに広がった。
ゆっくり飲みこんでから、かねてよりの疑問を口にした。
「それで、これのどこがオトナなんだ?」
咲夜は得意げな表情を浮かべていた。
「夜中に家を抜け出して、公園で屯する。これこそオトナじゃろ」
「そうか? むしろ悪ガキのすることのような気が」
「なんじゃと? おかしいの、妾が読んだ本にはそんなことは……」
「お前な、漫画に書いてあることを鵜呑みにするのは良くないぞ。ちゃんと現実を見ろ」
何気なく放った一言だが、咲夜にとっては何か大事だったらしい。噛みしめる様に頷いてから、また口を動かす。
「そう、じゃな。最早予備知識など必要ないんじゃ。この目で見て、聞いて、触れたものから学んでいけば良いんじゃから」
「……そういう事だ」
何を思ったか、正確な所は分からない。だが、何となく予想はついた。神の座を失ったことが絡んでいるに違いない、と。それなら、わざわざ掘り返すのは野暮だろう。
「……食うか? って言っても、これもお前が買ったんだけど」
話題を変える。すると咲夜は、すぐさま食いついた。
「うむ、貰おうかの」
豪快にかぶりついた割には量が控えめだった。意外と減っていない棒アイスを見ていると、咲夜がスプーンを差し出してきた。
「では、お返しじゃ」
周囲を気にしつつ、恐る恐る頬張ってみる。抹茶味だった。
頬の熱さとアイスの冷たさがうまい具合にバランスを取っている――なんて食レポまがいの事を口にしかけてやめた。こんなことを言っていたら、浮かれているのが丸わかりだ。
「うまいな」
「じゃろ。CMを打つだけあるの」
「確かにな」
それから二人で、黙々とアイスを頬張る。分かっちゃいたが、やっぱりハズレだった。
俺が先に完食して、しばらく後に咲夜も食べきった。残ったゴミをゴミ箱へ放り、帰路へ足を向ける。
「帰るか」
「ああ」
どちらともなく言い出して、足を進めた。
「……どうじゃ、息抜きにはなったか?」
道すがら、咲夜が尋ねてくる。今回のこれは、俺を気遣っての事だったようだ。
「ああ。ありがとな」
「いいんじゃよ。お主は根を詰め過ぎる節があるからの、無理させないのが妾の役目じゃ」
「役目、か」
そういえば、咲夜は最初、神様として俺を助けようとしてたんだよな。その為に試練を受けてたというのに、今では人になって俺の隣にいる。不思議なこともあるもんだ。
勿論、嬉しくもある。あの時来てくれたのが咲夜で良かったと、今は思っている。
そんな事を考える自分が照れくさくて黙っていると、咲夜が呼び掛けてきた。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。それより、お前は試験勉強しなくて大丈夫なのか?」
照れ隠しの為の話題転換だったのだが、咲夜の表情が凍り付いた。俺から視線を逸らして、合わせようとしない。
「……もしかして」
「あー……。実はなハルキよ、妾、英語が不得意なようじゃ」
「英語が? 最初の期末では大丈夫だったよな?」
「あの時は神の力があったから、勝手に言葉が浮かんできたんじゃ」
という事は、人である今は、つまり。
「なあハルキよ、もし妾が追試を受ける事になったら――」
「そうならないように勉強するぞ。俺が教えるから」
「嬉しいの。ついでに保健体育も」
「やらないからな!!」
どうやら、夜は長くなりそうだった。
こんな彼女が欲しい。
スランプだったのでだいぶ更新が遅れました。ごめんなさい。
ワンライのお題に推しが来たからどうにか書けましたよ、ええ。
今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。