ED後の話で、ネタバレが多少あります。
「へー、伏見君はこういう趣味もあったんだー、知らなかったー」
どうしてこうなったのか。元を辿れば、寿士に半ば押し付けられる形で受け取った、処分に困るいかがわしい本を発見されてしまったからだ。
「やっ、俺の趣味じゃなくて」
「籐矢さん、嘘はいけませんよ? 去年は真姫奈ちゃんにナース服をプレゼントしてましたし、隠すことはありません」
「そういえばそうだったねー」
ちょくちょく口を挟んでくる沙耶さんのせいで、悠の笑顔がどんどん怖くなっていく。
「あれも寿士が押し付けてきたもので……って沙耶さん、俺これ去年も言いましたよね?」
「あら、そうでしたか?」
俺の指摘にも、どこ吹く風といった様子。去年大目玉を食らったことをこちらは忘れていないというのに。
「とにかく野宮さん、俺にこういう趣味は無いから」
「ふーん、そういう事にしておくね」
絶対信じてないぞこれ。完全な誤解だというのに。
「あっ、俺は部屋に戻るから。何かあったら呼んで」
「逃げましたね」
「逃げるんだー」
背中に刺さる言葉がとても痛かった。
「はぁ……まったく」
溜息が出た。まさか、籐矢がこんな本を持っていたとは。これは浮気対策が必要ね。
そんな事を考えてたら、沙耶さんが思い出したような顔をして聞いてきた。
「そういえば野宮さん、いつまで隠しておくんですか?」
何かを見透かしたような物言い。何に気付かれたのか。
ボロを出さないように、あえてシラを切ってみる。
「え? 何言ってるんですか、沙耶さん。私は何も隠してませんよ」
「あらあら。籐矢さんにも言いましたけど、嘘は良くないですよ?」
「やだなー、嘘なんて。ほら、この話はもうやめましょう。妹さんもいますから」
そう言って、籐矢の部屋に行こうとする。沙耶さんも、一応は納得してくれたらしい。
「そうですね。真姫奈ちゃんには、この話は聞かせたくありませんからね」
ゲームをしていた妹さんが振り返った。コントローラーを放り投げるとこちらへ寄ってくる。
「んや? なになに、何の話? まきなも聞きたーい」
「何でもありませんよ、真姫奈ちゃん」
「えー。まきな、仲間はずれなの?」
「そうではなく、大人の話と言いますか――」
沙耶さんが対応に追われている間に、籐矢の部屋に逃げ込んだ。
「……怒ってる?」
「怒ってはない」
そうは言うが、悠の態度は見るからに不機嫌そうだ。先程の一件をまだ根に持っているのだろうか。
「本の事なら、あれは本当に誤解で」
「いいわよ、別に。籐矢がヘンタイなのは知ってるから」
そう言われても、信頼されているのかされていないのか判断に困る。
「私は、変な…………その、プレイには付き合わないからね」
「や、大丈夫だから」
「ならいいけど」
しかし、彼女の表情は晴れない。何というか、
「疲れてる?」
「……少しだけ」
「何か、飲み物入れてこようか?」
少し間を置いて、返事があった。
「じゃあ、紅茶」
「籐矢さん。お出かけですか?」
部屋を出てすぐに、沙耶さんに声をかけられた。
「いえ、ちょっと台所を借りようかと。いいですか?」
「言ってくれれば、私がやりますよ?」
「大丈夫です。俺がやりたいってだけですから」
そう言って作業を始める。その最中、沙耶さんが含み笑いを浮かべていることに気付いた。
「……なんですか?」
「野宮さんの事、ちゃんと守ってあげるんですよ」
「それは勿論ですけど…………やっぱり、気付いてます?」
「ええ。同じ家で暮らしているのに、気付かないわけありませんよ。お二人、付き合ってるんですよね?」
口振りからしてそうだとは確信していたが、改めて認識すると恥ずかしいな。
「彼女には、まだ支えが必要だと思います。一番近くにいるのは籐矢さんなんですから、その役目を果たしてくださいね」
「はい」
短く答えて、出来た紅茶を運ぶ。扉を開ける直前、背中越しに何か聞こえた。
「ところで籐矢さん、お二人の付き合いは健全なものなんですよね?」
「え? そ、そうですよ」
「……本当ですか?」
怖い沙耶さんが時折放つ黒いオーラが、ありありと見える。あれも魔術だろうか、なんて意味のない事を考えてしまった。
それでも、何とか声を絞り出す。
「ほっ、本当です。あ、紅茶が冷めちゃうんで戻りますね」
返事を聞く前に、さっさと扉を通り抜けた。
「終わった……」
天を仰ぐ悠。彼女としては必死に隠していたつもりなんだろうが、それは徒労だったわけだ。
「いいんじゃない? 家の中では取り繕わなくて良くなった、って考えれば」
俺なりに気遣っての言葉だったが、悠は何故かギロリと睨んでくる。
「あのねえ、妹さんがいる事を忘れてない?」
「……あっ、そういえば」
「はぁ……バカ」
悠が完全に自分を偽らずに済む場所が出来るのは、まだまだ先になりそうだ。
だが、少しずつだが確実に、自分をさらけ出せるようになっている。
悠は前に進んでいる。ならば俺がすべき事は、彼女の歩みをいつだって傍で支える事だ。
「ふぅ、美味しい」
不意に漏れた声は、裏表を感じさせないもので。
その顔には、飾り気のない笑みが浮かんでいた。
悠可愛すぎて爆散しました。
特に、高まった羞恥が怒りに変わってる時のリアクションがたまらなく可愛いかったですね。普段のトーンの低さからくるギャップの強さに惹かれました。
「バーカ!」を多用するのも時代を感じますね。
今回はそういう話ではないんですけど、是非ともそういうシーンも書いてみたいと思いました。
今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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