※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天神乱漫』の卯花之佐久夜姫が、ある存在と対面する話です。
 微妙にネタバレあります。


超越存在(天神乱漫/卯花之佐久夜姫、???/???)

 これは、有り得たかもしれない可能性の話。

 

 旅行で訪れた穂織という街は、小京都と呼ぶに相応しい古風な建物が並ぶ土地だった。

 その中でも一際評判の良い『田心屋』という店に、俺と卯ノ花は足を運んでみたのだが。

「……何してるんだろうな、あれは」

 卯ノ花から見て、後ろ側。店の奥の方に、変な奴がいる。パフェに向けて指を突っ込んだかと思えば、それを虚空に突き出しているのだ。

 卯ノ花も振り向いて、その光景を見る。

「見えない誰かと会話してるのか、あいつは」

「そうか、ハルキには見えんのか」

「お前がそう言うからには、誰かいるんだな……って、誰かいるのか!?」

「信じられんか? ならばよく見ておれ、特に指先じゃ」

 そう言われて、俺は不審な男を注視する。指先にはまたしてもクリームが盛られていて――

「な……」

 不可解な事が起きた。男の指先から、クリームが消えたのだ。男が食べたわけではないし、下に落ちたわけでもないのに。

 俺には、空気に溶けて消えた様にしか見えなかった。

「おい、何だよあれ」

「簡単じゃな。お主の言う通り、見えない誰かがいるんじゃよ」

「……まさか、幽霊か!?」

 つい声を上げてしまう。すると卯ノ花は、窘めるような声で俺に語った。

「おい、『吾輩は幽霊などではない!』だそうじゃが」

「こえーよ! むしろお前は何で意思疎通できるんだ!?」

「それは当然じゃろ。お主、妾を何じゃと思っておる?」

 今の騒ぎで向こうも俺達に気付いたのか、訝しむような視線を送ってきた。

「ふむ、どうせなら挨拶の一つでもしておくか」

 言って、卯ノ花は男のいる席へと歩いていく。そして男の正面、すなわち何もない(ように見える)空間に向けて声を上げた。

 

 

「なるほどの。守護霊、あるいは精霊と呼ぶのが近いか……どちらにせよ、不思議な状態じゃな」

 こちらを見て何かを言っていた女の人が、声をかけてきた。どう対応すればいいのか迷ったが、まずは定石通りに行くことにした。

「あの、どちら様ですか?」

「ああ、そういえば名乗っておらんかったな。妾は卯花之…………こほん、卯ノ花姫。ま、ちょっとした霊感体質でな。気になったので声をかけてみただけじゃ」

 霊感体質。この人――卯ノ花さんの言っている事が本当なら、卯ノ花さんにはムラサメちゃんが見えている事になる。

 しかも、第一声でムラサメちゃんの本質に迫ろうとしていたのを見ると、その霊感は相当強いと見てよさそうだ。

「ムラサメちゃん、この人――」

 言いかけた言葉は、途中で切れた。

 ムラサメちゃんが、目を見開いている。その視線は、卯ノ花さんに注がれていた。

「な、そんなはずが……しかし」

「どうしたの、ムラサメちゃん?」

「ご、ご主人。このお方は」

「ほう。お主、見る目があるようじゃな。それとも本質で理解したか……まあ、どちらでも良いか。じゃが畏まる事は無い、楽にして良いぞ」

 一人称と相まってやたら尊大に聞こえる言葉。だがムラサメちゃんは平身低頭といった様子だ。……はっきり言って、訳が分からない。

「あの、あなたは何者なんですか?」

「じゃから、ただの霊感体質持ちじゃよ。済まんが、この者と二人で話をさせてくれんか。その間のお主の相手は、あそこにいるハルキが務める故」

 突然話が飛んだ。飛ばされた方も困惑している。

「え? いやいや、俺に振るなよ」

「……分かりました」

「納得しちゃうのかよ……」

 そう言いながらも立ち上がろうとする男の人を片手で制し、席を立つ。

 そして俺は、困惑する男性の正面に腰掛けた。

 

 

「さて、お主の名を聞いておらんかったな。とはいえ、あの男が呼んでいた故に知ってはおるが」

「わ、吾輩は、ムラサメと申す者で――」

「畏まるなと言っておろ? もっとフランクで構わん。今風に言うなら、タメ口で良い」

 しかし、そういう訳にもいかない。相手は吾輩よりも遥かに――

「真面目な奴め。お主のような堅物には、命令の方が良いか。……では命ずる、妾と話すときは敬語を使うな。良いな?」

「……神様がそう命じたならば、従うとしよう」

「うむ、良い子じゃな」

 

 

 やばい。この人、ジッと俺を見てる。卯ノ花も雑なネタ振りをするもんだ。

「……」

「…………」

 しばらく沈黙したまま時間が流れていたが、やがて男が口を開いた。

「で、あなた達は何者なんですか?」

「あー、多分同年代だろうしタメ口でいいよ。で、俺は千歳春樹って名前なんだけど」

「分かった。俺は有地将臣……って、そうじゃなくて」

 誤魔化されなかったか。

 さて、どうしよう。馬鹿正直に人間と女神ですなんて答えた日には、めでたく俺も電波系の仲間入りだ。

 一方で、相手も相手で幽霊と対話するような人間だし、少しくらいはいいかなとも思う。

「まっ、普通の人間よりちょっとだけ特別な存在なんだよ、あいつ……卯ノ花は」

「なるほどね。じゃあ千歳は?」

「俺は普通の人間だよ。それは間違いない……はずだ」

 天罰のせいで、普通より運が悪いという点は伏せておこう。話してもややこしくなるだけだ。

「という事は、千歳にはムラサメちゃんが見えてないんだ?」

「そういう事になるな。……というか、ちゃん付け?」

「まあね」

 そう言うと、有地は声を潜めるような格好を取ってこう付け加えた。

「ムラサメちゃん、見た目は完全に小さな女の子だから」

 一般的な幽霊のイメージとはかけ離れた存在。佐奈のような、御霊人の類だろうか?

「なんか、だんだんそのムラサメちゃんって存在が知りたくなってきたぞ」

「そうか。嬉しいようなそうでないような……まあ、俺が知ってる限りで話すよ」

 

 

「そうか、お主もまた人の身から超越存在になったんじゃな」

「という事は、神様も?」

「そうじゃ、妾もかつては人だったんじゃ」

 それを話すと、ムラサメは何かを考え始めた。そしてすぐ、妾の方へ向き直る。

「そうなのか……神様、一つ質問じゃ。人であった頃を思い出す事はあるか?」

「ない。妾は人間だった頃の記憶を持っておらん。覚えておるのは名前だけじゃ」

 何かに悩む者がいる。ならば神様として、これだけは答えておかねばなるまい。

「そして、それで良いと思っておる。今を楽しむ方が大切じゃ。人はどれだけ過去を想おうとも、今を生きる事しかできないんじゃからな。……良いか、ムラサメ。後ろに振り返るのも良いが、お主は今を生きる仲間と共にある、という事を忘れてはならんぞ」

 そう伝えると、表情から暗い所が消えた。助けになっておれば良いんじゃがな。

「それにしても、あやつら意外とあっさり打ち解けたの。お主のご主人とやらは、もう少しピリピリすると踏んでおったが」

「そこがご主人の良い所なのだ。初めて会う者ともすぐに仲を深める、中々出来る事ではない」

「ほーお、随分とあやつに入れ込んでおるようじゃな?」

「ち、違う! 吾輩はただ信頼のできる使い手であると……それを言うならば神様の方こそ、あの男と随分仲が良いように見えるぞ」

「妾が? ハルキと? ふむ……まあ、妾とあやつには少々特殊な関係があるからの。そう見えてもおかしくはないか」

「と、特別……という事はつまり」

「ふふん。お主、今何を考えておった?」

 

 

「なんか、苦労してるんだな、有地は……」

 話を聞いていると、卯ノ花に振り回されやすい俺には共感できるようなエピソードがいくつもあった。

 特に目覚まし。腹に飛び乗られて起こされるとか、死んでもやられたくない。

「まあ、可愛いものじゃないかな、って思うよ。そう言う千歳の方はどうなんだ?」

「俺? そうだなぁ……事ある毎にからかってくる、肉体改造されかける、襲われかける、いつの間にか同居することになってる……まっ、色々だよ」

「……千歳も大概じゃないか?」

「そうかもしれない。やっぱり、女子って強いな」

「本当にな」

 意外な場所で共感を得た。女子に苦労させられているのは俺だけじゃないと分かっただけでも、何だか励みになる気がする。

 

 

「――といった具合にからかうとな、ハルキは面白い反応をするんじゃよ。それがまた、たまらなく楽しいんじゃ」

「なるほど。流石神様、勉強になるのだ」

「うむ、試せ試せ。お主のご主人様も恐らくハルキと似たタイプじゃからな、良い反応が期待できるはずじゃぞ」

「そうなのか……では神様、次は吾輩の番だ」

「……興味深い、是非とも聞かせてもらいたい所じゃな」

 

 

「………………」

「………………」

 背筋を寒いものが通り抜けた。なんだか嫌な予感がする。あいつが絡むと、この予感は大概外れないんだ。

 見れば有地も、顔を青ざめさせている。

「お互い、しばらく気を付けた方がいいかもしれない」

「らしいな。健闘を祈るよ」

 どちらともなく手が差し出され、固く握り交わされた。願わくば、数少ない苦労仲間に幸あらんことを。

 

 

「ありがとうございました」

 という声を背中に受けながら、店を出た。卯ノ花は妙に満足そうだ。

「随分楽しそうだったな」

「うむ。普段はあのような存在と対話することも多くない故な、少々はしゃいでしまったかもしれん」

 そう言う卯ノ花の顔は明るい。うっすらと笑みすら浮かんでいる。

 やがて、訥々と語り出した。

「……あやつはな、五百年もの間、神刀の管理人として役目を果たしておったそうじゃ」

「ああ、らしいな。有地から聞いたよ」

「妾とは大違いじゃな。本来行うべき務めを怠り、神の座を失いかける妾とは」

 自嘲するような言葉に対し、俺は何も口に出せない。

「良い機会じゃった。妾のあるべき姿を見れたようじゃ。感謝するぞ、ハルキよ。妾をここに連れてきてくれて」

「別に……俺は何もしてねえよ」

「照れとるな」

「照れてねえ」

 否定の言葉に対し、卯ノ花は意地の悪そうな笑顔を作った。

「そうか。お主が言うなら、そういう事にしておこう。……さて、妾も頑張らねばな。年端も行かぬ女子が立派に務めを果たしておるんじゃ。神様として、恥ずかしい所は見せられん」

 決意を新たに、卯ノ花は歩き出す。異郷の地で良い出会いをしたのは、俺だけじゃなかったようだ。

 

 

「すっかり遅くなっちゃったね」

 ムラサメちゃんと、並んで歩く。

「うむ。だが、良い時間だった。不思議な出会いもあるものだ」

「それは良かった。……そういえば結局、あの人はどういう存在なの?」

 何気ない質問をすると、ムラサメちゃんは未だ信じられないと言った様子で呟いた。

「……あのお方は、穂織とは別の地を治めておられる土地神様じゃ」

「…………マジで?」

「吾輩も最初は目を疑ったがな、気配は間違いなく神霊のそれだったのだ」

「本物の神様……大丈夫かな。失礼なことしてないよな……罰が当たったらどうしよう!?」

 まさかこの世界を、神様が平然と歩いているなんて。世の中には俺の知らない超常現象がたくさん転がっているらしい。

「心配ないぞ。あの神様は優しい。きっと天罰など下さない……はずだ」

「だといいけど……。というかムラサメちゃん、すっかり仲良くなってる?」

「うむ。優しいお方だから、ご主人の扱いも教えて貰ったぞ。のうはう、というやつじゃな」

「……え゛?」

「楽しみにしておれ、ご主人!」

 優しい神様とやらは、とんでもない爆弾を落としていったようだ。千歳も無事にやっているといいな。

 




 書き分け難し過ぎて毛根が死にました。


 という訳で、「???/???」に入るのは「千恋*万花/ムラサメ」でした。
 卯ノ花とムラサメは似てるところも多くて、気を抜くとごちゃ混ぜになってしまって危なかったです。
 卯ノ花部分は問題なかろうと思うのですが、ネックなのはやはり千恋サイドですね。
 もう一周し直そうかな。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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