三年の秋。今年の文化祭は、去年よりさらにはっちゃけていた。
具体的には、出し物が更に派手になったり。
あるいは、舞台でダンスパフォーマンスをやる団体が現れたり。
「……で、何でお前がダンスの練習してるんだ」
「愚問じゃろ」
「悪かった。そうだよな、参加するからに決まってるよな」
「そうじゃ。分かりきったことを言うな」
「いやそうじゃねえ! 何で文化祭実行委員がダンスやるんだよ!」
そう、ダンスをやる団体というのは、よりにもよって文化祭実行委員会だったのだ。
正直意味が分からなかった。みんな、仕事とクラスの出し物でいっぱいいっぱいだろうに。
「どうせなら、皆で一つ何かを作ろうという話になったんじゃ。というか、お主も聞いておったじゃろ、委員長?」
「聞いてても訳が分からないんですけど?」
「ほぉ、知らん振りで逃げるのか。器が小さいぞ、ハルキ」
「うるせぇ! だいたい何だよあの案山子みたいなポーズ!」
ダンスをやるという話になった時、咲夜は振付を一通り披露した。曰く「オリジナル」とのことだが、どうもセンスがズレているように思う。特に、サビの一番盛り上がる所で取る妙なポーズは、最早シリアスな笑いにしかなりえないんじゃないだろうか。
「案山子とは失礼じゃの。イケてるじゃろ?」
「そうか?」
少なくとも、俺は死んでもゴメンだが。卒業して十年後に見返したら即座に悶絶しそうなタイプのポーズだよあれ。
「ともかく、俺はやらないぞ」
「ハルキはそう言うと思った。安心せい、ダンスは女子だけで行う故」
「ならいいけど……」
胸を撫で下ろす。しかし、即座に気を引き締めた。こういう時の咲夜は大抵、もっとひどい要求を迫ってくるのだ。退路を塞いだうえで。
「その代わり、お主は委員長として冒頭のコメントをよろしく頼む」
「意外とそうでもなかった」
「は?」
「いや、なんでもない」
あまりの普通さに拍子抜けして、思わず声に出してしまった。コメントをするだけでいいというのなら、引き受けても構わないだろう。
「分かったよ、コメントくらいはする」
「最高に面白い掴みを頼むぞ、ハルキ」
ハードルを上げないでくれ。
それから咲夜は、空いた時間にダンスの練習をするようになった。驚くべきことに佐奈が、おまけにルリも練習に参加している。
「なあ。どう見ても文化祭委員じゃないやつまでいないか?」
「あれ、知らない? 一般参加も募集してたよ」
葵からの返答があった。こいつにしたって外部のお助けに過ぎなかったのに、今では委員の中に違和感なく溶け込んで踊っている。
「なあ、あの変なポーズ、恥ずかしくなったりしないか?」
「……変なポーズ? そんなのあったかな。ハルが言ってるのはどのポーズのこと?」
「ほら、サビの途中にある案山子みたいな」
言いつつ、小さく例のポーズを真似てみる。うう、恥ずかしい。流石に葵もこれは恥じるだろう、と思っていた。
のだが、葵はあっけらかんとしていた。
「ああ、それ。恥ずかしいかな? あたしはいいと思うけど」
「そうか…………」
こうも堂々と言われてしまうと、むしろ俺がおかしいんじゃないかという気がしてくる。
……いや、きっと俺と同じ感覚の人間がいるはずだ。そう思って、見慣れた二人に近づいてみる。
「なあ、どうしてお前らも参加してるんだ」
「私はヒメさんに誘われたからですけど」
「姫姉様がやるんだ。参加しないわけないだろ」
佐奈もルリも、特に気負った様子もなく答える。次第に大きくなる不安を打ち消すべく、あの質問をしてみる。
「あのダンス、妙な振り付け多いだろ。恥ずかしかったりするか?」
「おいはるき、姫姉様のセンスがないって言うのか」
「そういう訳では……あるかもしれないような、ないかもしれないような」
「ふん、やっぱりはるきは馬鹿だな。姫姉様の高度な芸術が理解できないなんて、まだまだだ」
相変わらず俺のことは貶されてばかりだが、ルリの答えは大方読んでいた通りだから、それはいい。
「で、佐奈は?」
「私も別に、恥ずかしくないですよ。ちょっと変なポーズがあるかな、とは思いますけど」
変だとは思っても、恥じるほどではないという事か。
妹とさえ共感出来ないとは。どうも、俺の感性が狂っているらしかった。
そんなこんなで迎えた、文化祭当日。体育館には、大勢の人が詰めかけていた。
「えー、文化祭委員は、ダンスの発表を行います。一般生徒も混じって、今日まで練習してきました。その成果を是非ご覧ください」
当たり障りのない紹介を残して、俺は舞台袖に去る。入れ替わるようにして、女性陣が舞台へ上がる。入りきらなかった残りの人たちは舞台の前に並んでいた。
これだけの人数が参加しているという事実が、言いようのない感情を俺に想起させた。
やる気のある人は、沢山いたんだ。練習の時からそれは知っていたはずなのに、本番になると否応なく再確認させられる。
そんな事を考えているうちに、BGMが流れ始めた。不思議なほど振付にマッチした電波ソングっぽい曲に合わせて、みんなが統一感の取れた動きを見せていく。
例の案山子っぽいポーズも、誰一人外すことなく綺麗に決めた。誰もが終始楽しそうに身を躍らせ、観客もまた曲に合わせて身振り手振りで会場を盛り上げる。気付けば俺も、その奇妙な一体感に呑まれて手を打っていた。
異なる価値観を持つ人が沢山いたはずの体育館が。
今、この瞬間だけは。
みんなで揃って、幸せな時間を共有していた。
その中心にいる咲夜に、視線が吸い込まれる。参加者の中でも一際キレのある動きをしているが故に、その姿はよく目立った。何より、曲に合わせて表情を変えるその様は否応なくギャラリーを惹きつける。そう断言できるのは、他でもない俺がその一人だったからだ。
神という特別性を失ってなお、咲夜はみんなを幸せにする力を失くしていなかった。そんなあいつは何よりも尊敬に値する存在だ。
咲夜となら、ずっと幸せが続く気がする。根拠はないが、そんな予感がしていた。
舞台発表の一位は、当然のように文化祭委員のダンスだった。事実、曲が終わってから万雷の喝采は鳴り止むことがなく、進行役が無理矢理に進めることでどうにかプログラムを止めずに済んだほどだった。
そして今は人の輪の外で、後夜祭を眺めている。
「お疲れ。それと、おめでとう」
「ありがとう。ま、妾にかかればこんなものじゃよ」
殊勝な事を言っている。けど、あの発表を見た後に聞くと説得力は段違いだ。
「悪かったな。正直、やる前はそんなにウケないと思ってた」
「構わん。感性は人それぞれじゃしな」
「だからこそ、凄いと思った。あれだけ盛り上げるなんて」
「皆がいたからじゃよ。例え妾一人でやっても、ちっとも盛り上がらんかったじゃろな」
そうは言っても、一緒に発表するメンバーを集めることが出来たのは、こいつの人徳と真剣さ故だろう。本当、咲夜というやつは……。
再び、言葉で表現しがたい感情が胸にわだかまる。それを少しでも伝えるべく、咲夜の身体を抱き寄せた。
「ふふ、ハルキってば大胆」
そう言いつつも、俺の背中に腕が回される。昼間に味わったものとは一味違う、二人だけの幸せを静かに噛み締めた。
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最近ネタがなくなってきました。今回もどうにか捻り出した話なのですが、方向性が迷子になって大変苦労しました。
三話連続同じヒロインというのもちょっと偏りが過ぎるかなと思ってますので、次は別のヒロインで書くことにします。
それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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