梓√ED後の話で、ネタバレあります。
複数の銃声が、海辺の倉庫街に鳴り響く。大規模な薬物密売の現場を強襲するという作戦は、犯人たちの抵抗もあって思うように進んでいなかったようだ。
俺たち、つまりは風紀班の増援が駆けつけた時にも、激しい銃撃戦は続いていた。
「逃がすわけにはいかない。何としてもここで押さえるぞ」
「了解」
主任の声に短く返答して、俺は銃弾飛び交う死地へと迷わず飛び込む。肉体硬化を発動させながら、手近の一人に拳を叩き込んだ。
「ごっ!?」
鳩尾を強か打たれた男が、情けない声と共に沈んだ。しかしその時には、俺の意識は別の場所へ向いている。
「こいつ……同類か!」
敵も気付いた様子だが、構う事はない。最小限の動作で、とにかく効率よく敵の頭数を減らすことだけを考え、動作を最適化する。
俺が縦横無尽に疾駆している間も、銃声は止むことは無い。しかしどれだけ撃ち込まれたところで、硬化した肉体は掠り傷一つ負わないのだ。以前の俺が受けていれば多少の痛みを伴ったであろう攻撃に対しても、もう何も感じなくなった。
扇元樹を『喰った』あの日から、能力の強度は格段に向上している。おかげで戦闘では苦労しないのだが……俺はそれを、どうにも恐ろしく感じ始めていた。
そう。今の俺は、扇元樹に近づいているのではないか――。
「……ふう」
そんな事を考えているうちに、うるさいほど反響していた銃声はぱたりと止んでいた。
意識を切り替え、倒した犯人たちを拘束しようと身を屈めた。
「……ッ!?」
その瞬間、強化された聴覚が異音を捉えた。何かがゆっくりと動くような微弱な音が、上の方から聞こえてくる。
二階に、誰かがいる!
「しまった……!」
振り仰いだ先には、拳銃を構えた男の姿があった。この距離では、能力を使っても間に合わない。
しかし俺が動くより早く、別方向から銃声が二回連続で上がった。男は得物を取り落とし、続けて炸裂したねむり玉によりフラフラと揺れ始め、やがて倒れ伏した。
あらためて耳を澄ましてみるが、何かが蠢く気配はない。
警戒しながら二階に上るが、あいつが最後の一人だったようだ。そしてその一人は、完全に気を失っている。
高低差のある敵をも無力化する、見事な早業。誰がそれをやったのか、確かめるまでもなく俺は分かっていた。
「佑斗くん、お疲れさま」
「お疲れ、梓」
改めて俺は、その射撃の腕前に感服していた。豊富な実戦経験から身に付けたその技術は、多少の訓練といくつかの実践を経た程度の俺に真似できる代物ではない。
同時に、最初に射撃を行うという選択肢が浮かばなかった事にも一抹の悔しさを覚えていた。折角梓に教わったのに、なかなか使うことが出来ない。それを考えると、どうしても歯噛みしてしまう。
「……? 佑斗くん、どうかした?」
「あ、いや、何でもない。どうにか片付いてよかったな、と思っただけだ」
「そうだね。でも、油断しちゃダメだよ。いつもこうなるとは限らないんだからね」
「肝に銘じるよ。……今日はこれで終わりだったか?」
「うん。今日は、現場検証は別の人たちだからね。支部に戻ろう」
その言葉に従って、俺は梓と共に車へ乗り込んだ。
事件の後には当然、報告書というお約束が待っている……そのはずなのだが。
「後は私がやっておくわ。二人は先に帰っていいわよ」
珍しく、美羽がそんなことを言ってきた。
「そんな、悪いよ」
「私は構わないわ。二人には、積もる話もあるでしょう」
そう言って、美羽はチラリとこちらを見てきた。それを追うように、梓までもが俺に視線を向けてくる。……なんだ?
「うん、そうだね。美羽ちゃん……ありがとう」
「ええ。頑張って、布良さん」
二人の間で、何かの合意が交わされたらしい。
「……」
二人揃って、無言で街路を歩く。積もる話もないわけじゃないが、どうやって切り出したものか。
ああでもないこうでもないと考えていると、梓の方から問いかけてきた。
「ねえ、佑斗くん。さっき、何かあった?」
「さっき?」
「うん。現場の制圧が終わってから、佑斗くんの様子が変だから。何かあったのかな、って」
「そうか。梓にはバレてたか」
「当たり前でしょ。だって私は、佑斗くんの……」
そこまで言うと、梓はぴたりと足を止めてこちらに向き直る。
「先生だからね!」
「そこは彼女じゃないんだな」
えっへん、と言わんばかりに胸を張るその姿が可愛らしい。思わず頭を撫でたくなるが、それは堪えた。
その前に、話すことがある。
「……最後の一人が出てきた時、俺は銃を使えなかった。使う、なんて考えも浮かばなかった」
梓は静かに俺の言葉を待っている。今日くらいは、その優しさに甘えてもいいか。
「まだまだだな、俺は。銃を完璧に使いこなす梓には遠く及ばない。それどころか、能力に頼ってばかりだ。それじゃ射撃を習った意味がないな、と感じた」
どうにか俺が内心を吐き出すと、梓は静かに目を伏せた。
「そっか。難しい悩みだね……。でもね、佑斗くん」
諭すように指を立てながら、小さな先生は言葉を続ける。
「銃の扱いが上手になる必要なんて、本当は無いんじゃないかな」
「それは……」
実際の所、それは紛れもない事実だろう。平和な世の中になれば、銃を手に取る理由はない。銃を使う理由があるという事は、争いが消えていない事の証拠でもあるのだ。
「だから大丈夫、無理して私に追いつく必要なんてないんだよ。それに……」
穏やかな微笑みを浮かべながら、梓は優しく告げてくる。
「どんな戦い方でも、佑斗くんは佑斗くんだから。銃を使ってないからって、嫌いになったりしないよ」
そこから先は、口にされずとも分かった。俺だって同じだ。射撃が上手いから梓を好きになったわけじゃない。例え銃を使っていなくたって俺は梓を好きになっていただろうし、仮にこれから梓が銃を置いたって俺の気持ちが変わることは無い。
「……そうだな。俺には俺のやり方があるよな」
銃を疎かにするつもりは無いが、固執する必要はない。ライカンスロープの力と射撃技術、どちらも両立していけばいいんだ。
見失ってはいけない。俺はその力を、何のために使うのか。風紀班の目的は何か。それをちゃんと思い出すのだ。
「いつか、誰も戦う必要がないくらい平和な海上都市にする。その為に、俺に出来ることをまだまだ探してみるよ」
「……大丈夫。佑斗くんなら、きっと上手くいくよ」
「さて、まずは帰って勉強だな」
「うんうん…………って、えーっ!? そこは練習じゃないの!?」
驚いたような声を上げる梓。可愛いので、もう少しからかってみようか。
「だってほら、公務員試験が近いしな」
「それはそうだけど……」
不満そうに口を尖らせる梓の頭をぽんぽんと撫でてみる。すると、抗議の声が更に強くなった。
「あーっ、また子供扱いしてる!」
「ありがとな、梓。おかげで吹っ切れたよ」
「え? あ、うん。どういたしまして」
「……」
「…………」
妙に照れくさくなってきたので、更に頭を撫でてみた。
「ちょっと、ゆーとくん!」
「はは。さ、帰ろうぜ」
返事を待たず、俺は梓の手を引いて歩き出す。最初は戸惑っていた彼女も、次第に大人しくなっていった。
空が白み始めている。次第に明るくなる空を見ていると、明日は今日よりいい日になる気がした。根拠はないが、梓と一緒なら現実になるはずだ。
ふと、背後で囁くような声が聞こえた。何を言っているかは分からなかったが、今の俺は追及する気にならなかった。
「……お祖母ちゃん。私、がんばるよ」
「寮・長・命・令!」って台詞好きです
初めて書くキャラですね。作品自体は一年前にプレイしているんですが、実際に書くまではだいぶ間が空きました。37話も書いているのに、ドラクリで書くのは2本目というのも不思議な話です。
何となく書きたくなったので個別ルートを読み返しつつ書いてみました。何かミスがありそうでハラハラしてます。
今回はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。