※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

40 / 46
PSP版『天神乱漫』で一筆。
若葉√ED後の話です。


船出(天神乱漫/市杵宍姫命・卯花之佐久夜姫)

「ふーん……あいつが」

「ええ。ワタシの見立てが正しければ、の話だけれど」

 冬の一番厳しい時期が過ぎ去り、間もなく春になろうという頃。いつも通り花鶏亭に来た俺は、若葉からある話を聞いていた。

 それは、卯ノ花のことについて。

「……何かしたいな」

「あら。浮気かしら?」

「違うわ! どうしてそうなる!?」

「冗談よ、分かっているわ」

 分かっているならツッコませないで欲しい。卯ノ花も若葉も、俺の事をツッコミ役か何かだと思っているんじゃなかろうか。

 それはともかく。

「みんなにも呼び掛けてみるよ。その方が良さそうだ」

「そう? じゃあ、そっちは任せるわ」

 

 

 そして時は流れ、3月31日の午後6時がやってきた。

 

 

「というわけで、千歳くんの進級を祝う会を始めまーす!」

「待て。何で俺なんだよ」

 計画段階では、単なる「進級を祝う会」だったはずだ。なのになぜ俺だけが祝われているのか。これでは俺が成績不良者か何かのようじゃないか。

「だって、ハルがちゃんと生きてるって奇跡だろ」

「奇跡は言い過ぎかも……しれなくもないわね。毎年酷い目に遭ってるじゃない」

 幼馴染二人が揃ってそんな事を言うものだから、過去の事を思い出して泣きたくなってきた。

 すると、不思議そうな顔をした卯ノ花が質問してくる。

「ハルキよ、お主毎年こんな風に祝われておったのか?」

「んなわけ――」

 言いかけた口が、背後から伸びてきた誰かの手で塞がれる。後ろを振り向くと、若葉が首を横に振っていた。

 ……話を合わせろ、という事だろうか。

「あー、うん。形はどうあれ、無事は毎年祝われている気がするな」

「なるほど、よく分かった」

 一年しか一緒にいなかったにもかかわらず、分かられてしまった。というか、卯ノ花が来てから不幸だった時期は4ヶ月だけのはずだが。

「おいはるき、早く食べさせろ。ルリはお腹が減ったぞ」

「気が早いな。ちょっと待ってろ」

 言いつつ立ち上がり、佐奈と蘇芳が忙しなく動き回る厨房へ。正直、佐奈はみんなと一緒にワイワイやってる方が良いのではないかと思ったのだが、そこは佐奈が固辞した。

 結果として、料理担当が二人いてなお厨房はてんやわんやだ。当然、料理ができない俺の入る余地はない。なので俺の仕事は、完成した料理を若葉と一緒に運ぶこと。

「なあ、なんで俺を祝う会なのに俺が働いてるんだろうな」

「それもそうだな。よし、俺も手伝うぞ」

「いや、いいよ。これでも俺は従業員だしな」

 まだ非正規雇用だが、俺は働き続けていた。今ではそれこそが楽しみの一つでもあるので、気にもならない事だ。

「あー、満漢全席もどきになります」

 盆に載せた皿を、回転テーブルに並べていく。誰ともなく箸を伸ばし始め、宴会が始まった。

 

 

「千歳君、コショウを交換してくれるかな?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

「なあ千歳、麻婆豆腐をくれ」

「それならもう出来てる。はい」

「はるき、うみゃい棒を買ってこい」

「分か……っておい! それは俺のやる事じゃないだろ!」

「ごめん、ハル。悪いけど、お冷貰える?」

「了解。……ん」

「そうじゃハルキよ、ドジョウ掬いをやってくれんか」

「やらん!!」

 正直、結構忙しかった。夜のピーク時に比べればマシだが、それでも大概だ。しかも、山ほど料理を運んだせいで俺も腹が減ってきた。

「春樹、休憩する? 構わないわよ」

 ゲンナリしたところに、若葉がそんな声をかけてくれた。是非ともお言葉に甘えたいのだが、

「お前に負担を押し付けるのもな」

「その心配はないわ」

 そう言うと、若葉はみんなの方に向けて宣言した。

「申し訳ないけれど、少し休憩を貰えるかしら。厨房の二人もそろそろ休みたいでしょうし」

 それに反応したのは、厨房の佐奈と蘇芳だった。

「僕はまだまだ大丈夫ですよ」

「私も大丈夫です」

 などと言っているが、二人とも疲労が顔に出ている。それはみんなも分かっていたらしく、

「そうね。ハル達ばかりに働かせるのも良くないし」

「ボクらも食休みにしよう」

 葵と木賊が気を利かせてくれたのもあって、佐奈達が厨房を出ようとする。

「あれ、お前らもう終わりか? 俺はまだまだいけるぞ」

「黙ってろオサレメガネ」

「だいぶ雑だなおい! ……でもすいません」

 とまあ、無事に休憩に入ることは出来たんだけど。

 神様というやつは、俺を苦労から解放してくれるわけではなかった。

「さ、春樹の料理を作ってくるわ。少し待ってて頂戴」

「え? いいのか? 若葉だって疲れてるだろ」

「恋人の料理を作るくらい、どうということは無いわ」

 事も無げに言い切る若葉を止めるだけの気力は、今の俺にない。そのまま若葉が俺のまかないを作る流れになるのだろう。

 だが、この場には佐奈がいる。

「大丈夫ですよ、兄さんのご飯は私が作りますから」

 ……毎度の事ながら、何故そこで対抗するんだ? しかも、この流れになったという事は。

「それには及ばないわ。佐奈の方が疲れているでしょう?」

「いえいえ、若葉さんの方こそ疲れていますよね。そうですよね」

 案の定、二人の間で火花が飛び散り始めた。二人が黒いオーラを纏っているような、そんな錯覚さえ見えてくる。

「お二人が喧嘩を……これは、僕の出番ですね!」

 蘇芳が何やら張り切っているが、正直心配だ。事態がさらに悪化する予感がする。というか、そんな実例が過去にある。

「兄さんの味の好みは、私が一番良く分かってるんです。ですから私が作るべきです」

「ワタシだって、ほぼ毎日まかないを作ってきたのよ。春樹の味の好みはお見通しだわ」

「お二人とも、喧嘩はやめてください! どうしても作りたいというのなら、間をとって僕が作ります!」

「だから間じゃないだろそれ!」

 やっぱりこうなった、と思った時には、俺は既に立ち上がっていた。この場を諫める方法を取るべく、みんなが囲むテーブルへ歩み寄ると。

「……………………」

 こいつら、全部残さず食い切ってるし! いや良いことだけど! 良いことだけど少しは残しておいてほしかった!

「さ、兄さん!」

「春樹」

「春樹さん」

 ずずい、と三人が迫ってきた。その行動が意図するところは、言わずとも分かる。誰か一人を選べ、そういう事なのだろう。

 卯ノ花を筆頭とした、意地の悪いみんなの視線が突き刺さる。究極の選択をする以外に、俺に残された可能性はないようだった。

 

 

 たった一人しか幸せにならない選択を乗り越え、どうにか全員が腹を満たした頃。

 若葉がついに動いた。卯ノ花に歩み寄り、その肩を叩いている。

「ねえ、少し話があるのだけれど。外に出ない?」

「構わぬが、外でせねばならん話なのか?」

「そうね。ワタシ達でしか出来ない内容だわ」

 その物言いで、卯ノ花は何かを察したらしい。鷹揚に頷いて、席を後にする。

「済まぬが、しばし席を外すぞ。妾の事は気にせず楽しんでおれ」

 そして、二人は店を出た。それを確認すると、俺は皆に目配せする。

 声もなく、全員が立ち上がった。

 

 

「それで? 何じゃ、話とは」

「アナタ、今日があの子達と共にいられる最後の日でしょう? だから、お礼をしておこうと思ったのよ」

「……気付いておったか。しかし、礼? 何の」

「春樹を助けてくれたこと」

「その事ならば、本人から礼は言われておるが」

「そう。でも、ワタシからも言っておくわ。ありがとう、卯花之佐久夜姫。アナタのおかげよ。アナタの助けがあったから、ワタシの幸せが…………いいえ、ワタシ達の幸せがあるのだから」

「……そうか。そう言ってもらえると、神らしいことをした甲斐があったというもんじゃの」

「神らしいこと……」

「何じゃ、思う事でもあるのか」

「ええ。ワタシは神なのに、たった一人の幸せを願っている。今の私は神らしくないわ、アナタとは対照的ね」

「そんな事はない。誰かを救いたい、幸せであって欲しい……そう願うのは当たり前の事じゃろ。人でも神でも、それは変わらん。何なら、妾とてハルキには幸せでいて欲しい。そう願っておるよ」

「……ふふ。二人の神から気に入られるなんて、本当にあの子は不思議な人間ね」

「お主もそう思うか。妾も同感じゃ」

「…………あの子と触れ合う度、ワタシの中で何かが変わっていった。誰からも忌み嫌われ、それが当たり前だと諦めるだけのワタシではない。春樹と一緒にいたい。春樹の居場所でありたい」

「ふふん、そうか。そこも、妾も同じじゃ。あやつと会ったからこそ、妾は変われた。あやつのおかげで、神としての責務を思い出せたよ」

「へえ。楽しみね…………ん。ごめんなさい、とりとめもない話だったわね。そろそろ戻りましょうか」

「構わん。有意義な時間じゃったぞ。最後のひと時にする話としてはな」

「あら、まだまだ終わらないわよ」

「何じゃと? それはどういう――」

 

 

 俺が携帯を佐奈に返すのと同時に、扉を開けて二人が戻ってくる。

「な、これは」

 先に声を上げたのは卯ノ花だった。それもそうだろう、店内には「壮行会」と書かれた横断幕が掲げられているのだ。その意味が分からない卯ノ花じゃないはず。

「お前とルリ、今日でいなくなるんだろ。だから、『壮行会』をやることにしたんだ」

 卯ノ花は試験に合格した。だから、また土地神に戻って務めを果たさなければならない。ルリは卯ノ花に付き従っているし、卯ノ花がここを去るなら一緒にいなくなるのが自然だろう。そうとなれば、いつかは二人との別れの日が来る。

 だから、こういう会を開いた。わざわざ進級を祝う会なんて口実まで作って。

 いつかまた会える日を信じているから、送別会という言葉は使わない。新たな仕事に立ち向かう卯ノ花とルリを送り出すなら、やっぱり壮行会が相応しいはずだ。

 ……という所まではみんなには説明していないから、二人は転校するということにしている。急に神様だ何だと言われても信用できないだろうしな。

 なので詳しい事情を知っているのは、俺と若葉、それに佐奈と蘇芳とルリだけ。……ルリには内緒にしておくはずだったのだが、途中でバレたのでうみゃい棒で手を打った。正直、うっかり口を滑らせないか心配だったが――

「ハルキめ、こういう時だけ気を利かせおって……」

 驚きと困惑を隠せない様子の卯ノ花を見るに、どうやら隠し切れたらしかった。

「ヒメちゃん、水臭いよね。転校するなら教えてほしかったな」

「そうそう。ヒメもルリも友達なんだから、何か言ってくれてもいいじゃない」

「……必要な食材の量が減っちゃうのは、何だか悲しいです」

 女子三人が揃ってそんなことを言うので、なんだか空気がしんみりしてきた。俺達がやりたかった壮行会は、そうじゃない。

「もうすぐお別れなんだ、だから今は目一杯楽しもうぜ。絶対に忘れられない時間にしてやる」

「そういうわけで、今からオサレメガネがメガネで一発芸をやってくれるってさ」

「そこで俺に振るな! ……じゃあ、物忘れの激しいおじいさんの物真似やります。えー、メガネはどこだったかな……メガネメガネ……」

 微妙に滑っている庵を放置して、俺は卯ノ花へと向き直った。そこには、やれやれといった様子の、しかし無邪気な笑顔があった。

「『壮行会』か。……そうじゃな、次会った時に話のタネに出来るように、最高の時間にするとしよう」

「ああ」

 そうして、俺達の宴はまだまだ続いた。

 

 

 一発芸大会やデザート争奪戦といった楽しい時間も、過ぎるのは早いもので。

 いつの間にか、もう閉店時間になっていた。

「ヒメ、ルリ、またね。向こうに行っても連絡してよね」

「ヒメちゃんもルリちゃんも、次会ったらまた写真撮らせてね!」

「それじゃ、僕もこれで。また会えるといいね」

「困ったことがあれば、遠慮なく頼ってくれていいぞ」

 皆、再会を信じて疑わない。そしてそれでよかった。強く信じて願えば、きっと叶う。だって、この世界には神様がいるんだから。

「ああ。またいつか、お主らと再び会えるのを楽しみにしておるぞ」

 四人の姿が夜闇へ溶けて、残るのは六人。初めに、眠そうな目を擦るルリに、佐奈が声をかけた。

「ルリちゃん、好き嫌いせず食べるんですよ」

「うー、うみゃい棒があればいい……」

「もう、またそんなこと言って」

 お供え物にうみゃい棒を要求するやつが何処にいると言うのか。ここか。

「ふふ。歓迎会に始まり、壮行会で終わりか。最後の最後まで騒がしかったの」

「不満か?」

「まさか。楽しかったに決まっておろ? お主ららしい、実に退屈せん時間じゃった」

「……そうか。なら良かったよ」

 俺がそこで言葉を切ると、卯ノ花は若葉の方へ顔を向けた。

「ハルキを任せるぞ、市杵宍姫命」

「ええ、勿論よ。ワタシも、新しくなったアナタの働きぶりに期待しているわ。卯花之佐久夜姫」

 どちらからともなく笑みを浮かべる二人。そこには永い時を生きたが故の荘厳さがあって、俺が口を挟むことなんてできなかった。

「蘇芳よ、ハルキも市杵宍姫命も扱いが難しいじゃろうが、気をしっかり持つんじゃぞ。サナは……そうじゃな、しっかりチャンスを窺うんじゃぞ。重要なのはタイミングじゃ」

「はい! 私、兄さんにちゃんと証明して見せます!」

「何をだ!?」

「勿論、兄さんを一番理解しているのは私だという事です!」

「そんなことしなくていい!」

 最後の最後まで爆弾を投げ込むのは勘弁して欲しい。あー、また二人が言い争いを始めてるし。どう収拾付けるんだこれ。

 ……今くらい、いいか。何故かは分からないが、不思議とそう思えた。

 喧騒を無視して、俺は最後の一言を告げる。

「じゃあな、卯ノ花、ルリ」

「さらばじゃ、ハルキ」

「せいぜい長生きするんだな」

 それが引き金となったかのように、店の前に一台のトラックがやってきた。

 誰かが言及するより早く、配達員の格好をした人たちが卯ノ花とルリを荷詰めしていく。

 呆けた俺たちをよそに、卯ノ花とルリを積んだトラックは猛スピードで走り去ってしまった。

 珍妙な光景に、思わずこの一年を思い出してしまう。突然現れたかと思えば、何度も何度も俺を振り回し、そのままドタバタと去っていった。

 嵐のようなやつらだった、素直にそう思う。だが悪い気はしない。自然に笑みが零れてくるほどには楽しい思い出ばかりだった。

「こんなに明るい別れもあるのね。初めてだわ」

「ですね。僕も初めて見ました」

 若葉と蘇芳にとっては珍しいものかもしれない。けど、俺にとってこれは日常の延長だった。だから、ここからまた明日に繋がっていく。

 いつか再会出来る、そんな未来を目指して。

「さ、俺たちも帰るか」

 一抹の寂しさに苛まれながらも、俺は確かに、明日から始まる新たな日常に心を躍らせていた。

 




 私はパーティーには誘われない人です。


 悲しい自己紹介はさておくとして、一か月以上更新を怠って申し訳ないです。
 モチベーションが無くなっておりました。


 久々に上げるのがまたしても天神乱漫で、しかも若葉と言いつつメインはほぼ卯ノ花です。
 書きたかったのは神二柱の会話なので問題はないと思いますが。
 ちなみに二話前の話とは繋がりがありません。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。



 次の更新はいつになるやら
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。