※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『のーぶる☆わーくす』発売9周年、おめでとうございます。
 灯里√ネタバレ注意です。


聖夜の贈り物(のーぶる☆わーくす/灯里)

 窓の外を見てみると、雪が降り始めていた。

 離別の危機を乗り越えて一息ついた頃には、いつの間にかクリスマスイヴになっていた。

 大慌てで候補を洗い出し、在庫探しに奔走して、どうにかプレゼントする物を手に入れることが出来た。……そこまでは良かったのだが。

「クリスマスパーティー、か……」

 肝心な所を見落としていた。俺の彼女は超が付くほどの一流企業を経営する一族、その令嬢なのだ。当然、社交界においても名が通っている。となれば、パーティーがあればお呼ばれされるわけだ。

 今は兼元グループが内部のゴタゴタで大変な時なので、欠席すれば邪推を招きかねない。そうなれば、正宗グループとの提携に際してマイナスイメージがついてしまう。だが今は、グループのトップである兼元さんが入院中。朱里はまだ経過観察中で退院できていないから、パーティーに参加できる人物は灯里以外いない。

 無論、俺もその事は話を聞いた時に理解できた。理解したし、送り出してさえいる。

 とはいえ――

「腑に落ちないなぁ」

 俺しかいない屋敷で、そっと思いを吐き出す。それはすぐに虚空へ溶け、静寂が世界を包んだ。

 いくら頭では理解していても、腹の底から納得できるとは限らない。仕事として割り切るには、まだ時間がかかりそうだ。この仕事を始める前は、私情を持ち込むことなんて考えられなかったのに。どうやら人の情とは、思っていた以上にウェイトが大きかったようだ。

 だが、こんなことを考えていたって灯里は当分帰ってこないので、

「仕事だ、仕事」

 窓拭きを再開する。今の俺に出来る事は、これしかない。ならば、与えられた仕事をこなすのが当然だろう。

 そうして俺は、一人で屋敷の掃除に明け暮れた。

 

 

 日付が変わろうかという頃、入り口の扉を開く音が聞こえた。

 そちらへ向かうと、ぐったりした様子の灯里の姿が視界に飛び込んできた。

「ただいま…………」

「お帰りなさいませ。お疲れのようですね」

「むー。どうして他人行儀なのかしら?」

「いや、だってほら、源さんいますし」

 そう。こうしている今も、玄関には凄腕のメイドさんが超然と立っているのだ。迂闊な事をすれば、即刻首を刎ねられる。しかも物理的に。

「斬首はワタシの趣味ではありませんので、ご安心ください。せいぜい高圧電流を長時間流す程度です」

「そっちの方がよっぽどおっかねえ! …………というか、何度も聞いても無駄なんでしょうが、どうして俺の心の中を?」

「一流メイドですから」

 いつも通りの答えだった。たびたび思うのだが、一流のメイドになるには読心術が必要なのだろうか?

 そんな事を考えていると、灯里が冷ややかな目で睨んでいることに気付いた。

「何でしょう、お嬢様」

「アナタ、茅明とは普通に話すのね」

「普通って、そんなことないですよ」

 俺にとっての源さんは、灯里の次に普通でいられない相手だ。しかも、その方向性は真逆と言っていい。灯里に対しては愛しさで平常心を保てなくなるが、この人の場合は恐ろしさで平常心を保てなくなる。

 恋慕と畏怖は全く異なるものなのだが、やはり思っているだけでは伝わらなかったようだ。

「俺の普通はこう、もっと砕けてるだろ? ……で、源さんに対しては畏まっている訳です」

「なら、私に対しては普通にしていてよ。私は気にしないわ」

 貴方のお父さんが気にするんです……と言う訳にもいかず視線を彷徨わせていると、源さんが呆れたような素振りを見せた。

「お二人の仲は変わらず良好なようで結構です。ではワタシは、伊角様のお世話に向かいますので」

「あっ、少し待ってもらって構いませんか?」

「……? 構いませんが」

 その返事を聞いて、俺は早足で厨房へ。そして冷蔵庫から小包を二つ手に取ると、すぐに玄関へ戻った。

「これ、俺からのクリスマスプレゼントです。一つは月山さんに渡してくれませんか?」

「かしこまりました。もう一つは伊角様ですね?」

「いえ、源さんに。兼元さんへの贈り物は、また別に用意してますから」

「ワタシに、ですか?」

 源さんはしばし、呆気に取られたような顔をする。だがそれをすぐに引っ込めると、僅かに微笑んだ。

「……そうですね、有難くいただきます」

 それでは、と源さんは頭を下げて去っていった。屋敷には俺と灯里だけが残される。

 そちらの方は、何か納得するような顔を浮かべていた。

「お風呂の準備は出来てるから。早く入って寝た方がいい」

「……そっか、今日はもうクリスマスなのね」

 小さく呟く声が耳に入る。今ここで渡さないという、仲間外れのような扱いをする事に少々胸が痛むが、後のサプライズの為の我慢だ。そう自分に言い聞かせて、胸に溜まる苦いものを無理矢理流し去った。

 

 

 時は流れ、早朝。

「ん、んー」

 眠気と戦いながら、身体を起こす。例えクリスマスだろうが、いつも通りの時間に集合だ。のんびりとはしていられない。

 手早く仕度を済ませ、階下へ降りる。そこには既に、一人のメイドさんの姿があった。

「おはようございます」

「おはようございます。……あの、藤島さん、なんだかそわそわしていますね」

「そうですか?」

 月山さんが、心配そうな顔でこちらを見ていた。そこまで態度に出ていたのかと内心呆れつつ、こう答える。

「……もしかしたら、緊張しているのかもしれません」

「緊張? あっ、そういえば。プレゼント、ありがとうございました。今はお礼の品を持っていませんので、後日お渡ししますね」

「そんな、気にしなくていいですよ」

「そういうわけにはいきません。ちゃんとお返しをご用意させていただきます。……それで、灯里様には何をお贈りしたんですか?」

「…………実は、これからなんですよ」

 

 

 月山さんに事情を説明し、起こす係を代わってもらった。そして俺は今、灯里の部屋の前に立っている。

 コンコン。扉を叩いてみるが、返事はない。

「まだ寝てるのか……?」

 様子を窺うべく、そっと扉を開けてみる。覗き魔みたいだな、なんて思いつつ中を見ると、ベッドですやすやと寝息を立てる灯里の姿があった。

 ほっ、と胸を撫で下ろす。足元のデカい包みをこっそり置くだけの余裕はありそうだ。

 ティーセットを片手に、部屋へ入り込む。それを一度机に置いてから、改めて部屋の外の包みを取ってきた。

「よっ、と」

 起こさないよう慎重に、枕元へそ(・)れ(・)を置く。

「ふう……」

 どうにか起こさずに済んだ。その事に安心した俺は、モーニングティーの準備に移る。

 反応が楽しみだ。

「さてと……お嬢様、朝になりましたよ。起きてください」

「んん……? まだそんな時間じゃないでしょう……?」

「そんな時間なんですよ。起きてください」

 相変わらず朝に弱い。そういう姿を見られたくないからと、しばらく前から俺に起こさせてくれなくなったのだが、この無防備な姿を見れば気持ちは分からなくもない。

「ん、んんっ? ……って、匠!?」

「おはよう、灯里」

「ちょ、ちょっと! どうしてアナタが――」

「灯里宛ての贈り物が届いてたって月山さんから聞いて、代わってもらったんだ」

「贈り物? 何を言って」

 言いかけて、口が止まる。その視線は、枕元に置かれた豪奢な包装をされた何かに釘付けだ。

「え、これって……クリスマスプレゼント、でいいのかしら?」

「いいんじゃないか。気になるなら、俺と月山さんで中身を確認しておくけど」

「ダメよ、私が開けるわ」

 まるで子供みたいな態度を取りながら、包装を丁寧に解いていく灯里。たちまち、その目が煌めきだした。

「ゲーム機よね、これ」

「そうみたいだな。しかも、携帯タイプだ。多分、源さんが持ってるのと同じかな」

「これ、アナタが?」

「さあ? サンタからの贈り物だと思うぞ」

 すっとぼけてみるが、灯里だって気付いてはいるだろう。だがそれでも、彼女はそこを追及するようなことはしなかった。

「そう。……嬉しい。こんな風にプレゼントを貰うのは、いつ以来かしら」

「そっか。何にせよ、ちゃんとサンタからの贈り物を貰えたみたいで良かったよ」

「……ふふ。ええ、そうね」

 そう答えた灯里は、無邪気な笑みを浮かべていた。こうもいい顔をしてくれると、少しは頑張った甲斐もあったというものだな。

「とは言っても、それ単体じゃゲームは出来ないからな。いずれ買いに行かないと」

「知ってるわよ。だから、今度一緒に行きましょう。二人で」

「……それは、デートのお誘いって事でいいのか?」

「相変わらず鈍いわね。それくらい察しなさいよ」

「悪かったよ。それじゃ近いうちに、二人で買いに行こう。どうにかして予定を開けるから」

「期待してるわよ。もしダメそうなら、私に言って。何とかするわ」

 やけに自信満々だ。どこからその根拠が出てくるのかは知るところではないが、それでも彼女の言葉を信じることにした。

 そして俺は、適温までぬるめた香り立つ紅茶を差し出す。灯里はそれを、ゆっくりと受け取った。

「メリークリスマス」

「……うん、メリークリスマス」

 




『のーぶる☆わーくす』こそ、ゆずソフトの最高傑作だと私は思っています。



 あのゲームには語り尽くせないほどの魅力がありますが、その一部でも伝わっているといいなと思います。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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